そうか、これだけ寒いのだから、あやめが壊れてしまっても仕方のないことなのだ。きっと皆とはぐれて、心細い思いもしたのであろう。
童心に帰って、冒険しょうとすることで、自我を保とうとしているのだと、私は判断した。
「ところで、お主はどこのファミリアのものだ?」
「え?ファミリア?」
聞き慣れない言葉に、私は顔をしかめた。
「そうじゃ。余はヤゴーファミリアの一員じゃが」
「ヤゴーファミリア?ま、まあそれなら、私もヤゴーファミリアだと思うっスけど」
矢郷が経営する会社で働いているんだから、まあ、そうなんだろう。
「やや、お主もヤゴー神のファミリーなのか?会ったことないと思うのだが」
「なあ、あやめ、いい加減このコントは止めにしようぜ。早く皆を探して、宿に帰ろうよ」
だんだんと不安が募ってきた私は、あやめの手を握り、来た道を引き返そうとした。
「よし!ならば同じヤゴーファミリア同士、一緒にダンジョンの攻略に行くぞ!」
そう言うと、あやめは私の手を握り返し、尋常ではない力で私を引っ張って、雪を弾き飛ばしながら走り出した。
「おおおおおおお!」
「ぎゃあああああ!」
物理法則を無視した速さで、あやめは雪の道を進む。ホロスタイルであればなんてことはないのであろうが、生身の私には、拷問に等しい行動であった。
「よし、ついたぞ!」
あやめが突然立ち止まると、目の前の岩山に大きな穴が開いている場所に私たちは辿り着いていた。
「ん?大丈夫か?」
あやめに引くずられ、軟体動物のようにへろへろになってしまった私は、なんとか地面から這い上がった。
「大丈夫なはずねえっス。なんすか?この穴・・・」
さきほどあやめがダンジョンうんぬんかんぬん言っていたので、間違いなくろくでもない穴なのだろうが。
「ここは最近発見された『氷結の奈落』と呼ばれるダンジョンじゃ」
「なんすかそれ?ただの洞穴に見えるっすけど。でも、雪や寒さはしのげるっすかね。ここで救助を待つっスかね」
洞穴に入ると、中は想像以上に奥が深く、あやめはためらいもなく洞穴の奥へ歩いていく。
「あーるこーあるーこー私は元気―」
「ちょっと、あやめ!そんな奥まで行く必要ないっスよ!入り口付近で救助を待つっス!」
「救助?助けなんてこないぞ?ダンジョンに入ったからには、自分の力で生き延びるのだ」
もう、だめだ。
うなだれる私の手をひき、あやめは洞窟の中へどんどん進んで行く。
「あったぞ、階段だ!」
まさかと思ったが、あやめが指をさす薄暗い空間に、地下へ続く階段が現れた。
「ほんとだ、ここは防空壕かなんかだったんすかね」
少なくとも、人の手で作られたであろう階段があるということは、ここが何者も寄せ付けない秘境ではないことに、私は安心した。
「でも、まさか、あの階段を降りるつもりっスか?」
答えは分かっていたが、私はあやめに聞いてみた。
「もちょろんだぞ、その為にきたんだから」
あやめはさっそうと階段に向けて歩き出した。
「まつっス!明かりも無いのに洞窟の地下なんて、歩けたものじゃないっスよ」
私の言葉に、あやめは「おお、そうじゃ」と呟くと、額に生えているツノを擦った。
するとあやめのツノから光が発せられ、辺りが急に明るくなった。まるで二つの提灯をぶるさげているようであった。
「これで大丈夫だぞ、余はちょっと眩しいがな」
目の前のツノが光っているのだから、眩しくて当然だろう。
「おまえ、本当になんでもありだな・・・」
私はため息をつくと、あやめに手をひかれて階段を降りた。
まあ、これだけ非常識な仲間がいれば、何が起きても大丈夫なのではないかと思いながら。
階段を下ると、広い空間に出た。まるでホテルのエントランスのようで、中心はには大きく、底が見えないほど深い穴が開いている。
その穴を中心として、四方の壁に大きな穴が開いており、他の場所へつながっているようであった。
「よし、どの穴からいくか?」
「うーん、どこか旅館に続く穴がないっスかね。不思議とここは寒くないし、このまま旅館に帰れたら最高っス」
とはいっても、自分が来た方向も分からないので、一番近い近い穴に入っていく事に決めた。
もはや現実的な解決は諦め、私はこの状況を前提に、助かる術を探ろうと考えたのだ。
そして、すぐに後悔した。
「おい、あやめ。二足歩行の狼が立ちふさがっているが、どういうことだ?それもたくさん」
洞穴に入ってすぐ、目の前に異形な動物が現れた。ホログラムライブに入って、非日常的な経験をしていなければ、正気を失うほど驚いていただろうが、今となっては(まあ、なんか、こんなのもいるよな)と思うだけであった。
「何って、モンスターだぞ!倒すと宝石を落とすから、それを集めるのだ!」
そう言ってあやめは刀を抜くと、狼の群れへと突撃していった。