人狼たちは、いともたやすくあやめに切られていく。そして、地面に倒れるとまもなく、小さな宝石に姿を変えた。
「おーきれいっスなあ」
戦闘において私の出る幕はなさそうなので、私は落ちた宝石を拾い集める。
「よーし、全部倒したぞ!」
二十メートルほど先で、あやめがこちらを向き、刀を振っている。
「相変わらず強いっスなあ、ほら、宝石」
「ありがとー、でも、余はバックもポケットもないから、スバルが持っていてくれ」
あやめにそう言われて、私はバックの小物入れに、宝石をしまった。
しかし、これはなんの宝石なのだろうか?きれいではあるが、子供の頃に買っていたお菓子のおまけのような、安っぽい感じがするのだが。
見知らぬ冬山で、謎の洞窟で、ホロスタイルとリンクしたあやめとモンスター退治をする。
私はようやく、この状況がどういうものなのかを理解した。
「運営の仕業っすね。ホログラムライブの技術で、新しいアトラクションでも思いついて、私たちで実験してるっス」
おそらく、あやめもグルなのであろう。私のことを忘れたふりして、役になりきっているのか。
「おーい、スバルー早く先に行くぞー!」
「はいはい、いま行くっスよー」
会社の仕組んだことであれば、危険はないのであろう、先程のモンスターも、おそらくはNEO3DCGの技術を応用したものだったのだ。
一通りのイベントをこなせば、エイが姿を現して、概要を説明するのであろう。もしかしたら、この様子がどこかで撮影されているかもしれないから、言動には気をつけないとならない。
「なあ、あやめ。このダンジョンとやらは、何階まであるんだ?」
角を光らせながら、意気揚々と歩くあやめには、実に楽しそうだ。
「さあ?見つかったのは最近だから、よく分からん。他の冒険者も、まだ10階までしか到達していないらしい」
「10階!?」
あまりの深さに、私は驚いた。アトラクションにしては、凝り過ぎだろう。この地下1階をすでに30分くらい歩いているのだが。
「お、あったぞ、階段だ」
私としては、地上へ続く階段を期待したが、やはり現れたのは地下へ続く階段であった。
「なあ、あやめ、本当に地下へ進むっスか?エイちゃんは何階まで行けばいいか、言ってなかった?」
もう、いい加減に種明かしをしてくれてもいいだろうと、私はあやめに詰め寄った。
「もちろん、最深部までいくぞ。エイって、サポーターのエイのことか?行けるとこまで行ってこいって言いていたぞ」
「はあ、そうっスか……」
果たしてこの撮影は何時まで続くのだろうか。私はため息をつきながら、腕時計を見る。
「……止まってるっス」
高校の入学祝いに買ってもらった、Gショックは、デジタルの表記が13時30分15秒から、動かなくなっていた。
女子高生がつけるような時計ではないが、武骨なデザインと頑丈さに惹かれた。両親はもっと女の子らしいものを選ぶように言っていたが、壊してしまっては元も子もないと、両親を説得して買ってもらったのだ。
ハンマーで叩いても壊れないと言われる時計が、動きを止めている。デジタル表記が消えていないのだから、電池切れではないのだろう。
「あれー?故障っスかねぇ。どこかにぶつけた記憶もないのに」
私は時計から目を離し、あやめの後に続いて階段を降りた。
地下二階も、一階と同じ様な作りであり、私たちは順調にダンジョンを攻略していった。
もちろん、途中で様々なモンスターに襲われた。
大きな一つ目のカエル
怪しい鱗粉をまき散らす蛾
棍棒をもった太ったおっさん
口から火を吹く犬
そして、
「ファイアーボール!」
たった今、あやめが手から生み出した炎の玉で牛の頭をしたマッチョを撃退した。
「なんか、技名が変わってないっスか?この前は『鬼火』とか言ってたような」
「ん?なんのことだ?余の速攻魔法は、凄いだろ?」
「え?うん。すごいすごい」
適当な会話をしつつ、確認されている最下層であるという十階に到着した。
(これ、下って来たって分、まさか登って帰るなんてことないよな?ちゃんとエレベーターとかあるよな?)
時計が壊れてしまったたため、何時間歩いていたのかわからないが、もう一歩も歩きたくなかった。
モンスターを倒す事で手に入る宝石もたくさんあると重いので、あやめに隠れてほぼ全部捨ててしまっている。
「なんか、この階は霧が濃いっすなあ」
「うむ、ここには階層主がいるからな、あの扉の向こうだ」
霧の向こうに目を凝らすと、うっすらと扉が見える。
「本当だ、こんな所に扉まで作るなんて、さすがホログラムライブ、凝ってるっスなあ」
雰囲気のある洞窟で、CGのモンスターを倒しながら、宝石を集めるアトラクション。これは結構楽しいかもしれない。
(うーん、問題はロケーションすなあ。春になっても、都心から離れたこんな山奥にお客さん来るっスかねえ)
ホログラムライブの一員として、新しい事業はぜひ成功して欲しい。
そんな事を考えつつ、私はあやめが開いた扉に、続いた入った。