ソラニウタウトキ   作:kaito-18

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私は貝になりたい

 部屋の外に出るのかと思ったが、エイは会議室の壁に向って歩き出すと、ヒマワリの絵が入れられた額縁を持ち上げる。

 額縁で隠されていた壁の一部には、小さなタッチパネルが設置されており、エイが何か操作をすると、音もなく会議室の壁が左右に割れた。

 

「すげー、隠し部屋っすか?」

「いえ、これはエレベーターですよ。スバルさんはこれから、エイさんと共に、地下の配信部屋へ行ってもらいます」

「配信部屋?」

 聞き慣れない言葉に、不安になる。

「行ってみれば分かりますよ。では、エイさんお願いします」

 どうやら矢郷は一緒に来ないらしい。私は恐る恐る、エイに続いてエレベータに乗り込んだ。

 

 エレベーターに設置されているモニターには、3DCGキャラクターのライブ映像が流れている。

「あ、このキャラ知ってるっス」

「トキノソラね。ホログラムライブの0期生で、初めてNEO3DCGを動かした子よ」

「そうなんスか。でも、最近はずっと活動休止しているって聞いたっス。ここにいれば会えるんスか?」

「そうね、会えるかもしれないし、会えないかもしれない」

「なんスかそれ?」

 エイの曖昧な返事が気になったが、質問を続ける前にエレベーターの扉が開いた。

 

 エレベーターの扉から続く廊下はとても長く、突き当りまでは五十メートルはありそうであった。そして長い廊下の左右に、多くの扉が並んでいる。

「すげー、いったい何部屋あるんスか?というか、明らかに地上の建物の面積より広いんっスけど・・・」

 照明も明るいLEDだし、地上の廃墟みたいなビルはなんだったのだと思ってしまう。

 

「部屋の数は五十だったかしら?この会社の技術は、世界でも類を見ないものだから、秘密保持のために、実際の活動や研究、開発はこうして地下施設で全て行われているの」

 私の前を歩きながら、エイが説明してくれる。

 

「まるで秘密結社っスね、もしうっかりこの場所を誰かに話しちゃったら、どうなるっス?」

 冗談半分で聞いたつもりであったが、エイは真剣な表情で振り返った。そして右手に握った鉄の塊を、私のお腹に押し付ける。

 

「え、エイちゃん、冗談っスよね?」

「冗談では済まないのです。スバルさん、この施設の秘密は、世界の在り方を変えてしまうかもしれないほど、重いものなのです。冗談でも、この施設のことを他の人に話してはなりません。もちろん、家族にも。いいですか?」

「はい、忘れました。私は何も見てません」

 無意識に両腕を上げて、私は素の状態で答えた。お腹に押し当てられた鉄塊の重厚感が、決して遊びで使うものではないことがわかったからだ。

 

「いや、忘れられても困るんです、これからここで働いてもらうんですから」

「いや、やっぱりスバルにはアイドルなんて無理っス、ウーバーイーツの配達員になるっス」

「仕方ありません。それじゃあ私は引き金を引くしか・・・」

「やります!スバルは日本一のアイドルになります!」

「まあ、何位でもいいんですけど」

 エイはため息をつくと、鉄塊をジャケットに仕舞い、歩き出した。

 

「さあ、この部屋がスバルさんの配信部屋です。中へどうぞ」

 もしかしたら、連れて行かれたその先は、拷問部屋かもしれない。そんな想像をしていたため、恐る恐る部屋の中を覗く。

 

「右手のドアはシャワールーム、その奥がお手洗いね。食堂に行けば、いつでも無料で食事ができるし、飲み物も飲み放題よ」

 通された部屋は想像と違い、キレイな家具付きのワンルームであった。

 

「すげー、テレビもソファーもパソコンもある。ここで暮らせそうっす」

「メンバーの中には、本当にここで暮らしている人もいるわよ。でもスバルさんには、家族で住める家を会社で用意します」

「本当っスか!?ありがたいっす!スバル、死ぬ気で働くっす!」

 さすがはアイドル事務所!太っ腹!などと思いながら部屋に入ると、部屋の奥に置かれた、大きな楕円形の家具が目についた。銀色の大きな卵、そんな感じのフォルムであり、上部がハッチになっているらしく、今はパカッと開いている。

 

 見慣れない家具に、私の視線は釘付けになった。

「あれはなんスか?卵型ベット?酸素カプセル?」

「あれがNEO3DCGを動かすための装置ですよ」

 エイはそう言うと、テーブルの上に置かれたパソコンのモニターをつけた。

 

「そしてこれが、スバルさんが操ることになるNEO3DCG、しぐれうい教授によって作成された『ホロスタイル 二・五 DUCK』です」

 モニターに映し出されたのは、帽子を被った、小柄なショートヘアーの女の子であった。

 

「かわいいー、スバルはこの姿になって、アイドルとして活動をするんスね?」

「そうです、スバルさんはホログラムライブ二期生の最後の一人として、このホロスタイルで活動してもらいます」

「最期の一人ってことは、もう他に同期の人がいるんスか?」

「はい、二期生の募集は五人。四人の仲間が、すでにホロスタイルで活動を・・・」

 話の途中、エイの携帯電話が鳴りだした。

 

 

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