「・・・はい、ちょうど配信部屋に・・・はい、しかし、まだ何の説明も・・・」
電話の内容は、どうやら私にも関係のあることらしい。通話をしながら、エイがときおりこちらに視線を向ける。
「分かりました、すぐに現場へ向かってもらいます」
通話を終え、エイが私の正面に向き合った。
「スバルさん、さっそくで申し訳ないのですが、お仕事です」
「え、でもスバル、この装置の使い方がぜんぜん分からないっスよ?」
モニターに映る女の子を操作するという事はわかるのだが、どうやって動かしていいのかがさっぱりわからない。
「大丈夫、操作は簡単です。ホロスタイルとリンクすれば、後は普段どおり体を動かすだけですから。まずはパソコンのメールを見て下さい。スバルさんの向かう場所が送られてきています」
言われるまま、ツールバーにあるメールソフトのアイコンをクリックする。画面が切り替わり、先程の女の子の映像は消え、一般的なメールフォルダーが表示された。
未読の一件を開くと、URLのような記号が並んでいる。
「そのコードをクリックして、転送ボタンを押して下さい。自動で配信装置に情報が転送されます」
転送ボタンを押すと、先程の酸素カプセルのような装置から、甲高い音が鳴った。
「これで、スバルさんが配信装置に入れば、ホロスタイルは指定の場所へ瞬時に出現できます」
「すげー!じゃあ、後はこのカプセルの中に入ればいいんすね?」
「はい、全裸で」
「うん、全裸で!全裸で?」
「そう、全裸で。スバルさんはホロスタイルと全ての感覚を共有します。その為に、服を着ているとリンクするのに邪魔になるのですよ」
本気かよ、いくら私が能天気キャラを演じているからって、こんな得体の知れない装置に裸で入るんて、ハードル高えよ・・・
「これもお仕事です。スバルさん」
エイの表情は真剣であった。
そうだ、私は働いてお金を稼がなきゃいけないんだ。装置に入ってしまえば、誰に見られるわけでもないし、裸になるくらい、どうってことはない。
覚悟を決めて、制服のジャケットを脱ぎ、ブラウスのボタンを外す。ブラジャーを外そうとしたところで、私はいったん手を止めた。
「あの、エイちゃん・・・」
「どうしました?」
「少し向こうを向いていてもらえないっスか?そんなにじっくり見られると、恥ずかしいっス」
「これもお仕事です」
そんなわけねえだろ!と思ったが、真剣な表情を崩さないエイにつっ込めず、意を決して一気に残りの衣服を脱いだ。
「こ、これでいいっスか?」
「はい、体をひねりながら、大切な部分を手で隠して恥じらう姿、悪くない」
エイが親指を立て、Goodだと評価した。
「おっさんかよ!じゃあ、もうこの装置の中に入るっス。どんな装置なのか分からないけど、スッ裸でここに立っているよりはましっス」
エイの視線から逃げるように、私は楕円形のカプセルの中に入り込んだ。カプセル内は白いクッションで覆われている。とても柔らかく、ふれた箇所が体に張り付くように変形するが、肌触りはさらさらしていた。
小麦粉をまぶしたスライムといった感じの触感である。
「右側の側面に赤く光っているボタンがありますね?スバルさんが生身の肉体で行う操作は、そのボタンを押すだけです。ボタンを押すと、上部のハッチが閉まり、そこからは全て自動でホロスタイルとリンクされます。視覚だけでなく、全身でVRゲームをする感じだと思って下さい」
「リンクを終了させる時はどうしたらいいっす?」
「基本的に、ホロスタイルとリンクしていられる上限時間は三時間です。それを過ぎると、自動でリンクは解除されて、スバルさんの意識は肉体に戻ります。もし、それ以前にリンクを解除する場合は、ホロスタイルの乳首を両方同時につねって下さい」
「他の方法はなかったのかよ!」
しかし、そんな部分まで再現されているのか、すげえな、NEO3DCG。
「では、覚悟が出来たらボタンを押して下さい」
「え?覚悟も何も、けっきょく何処に何をしに行くのか、わからないんっスけど」
メールには謎のアルファベットが並んでいただけで、仕事の内容は何も記載されていなかった。
「ああ、次のメールに日本語で、行先と行動指示が書いてあったのに、読まなかったんですね。まあ、行けば分かりますよ、たぶん死んだりはしませんから」
たぶんなのか・・・デビュー直後に死ぬ可能性を秘めたアイドル活動って、ありえるのか?というか、契約書も書いてないし、給料も分からないし、なんのガイダンスも受けていない。色々と頭に浮かんだが、考えるのが面倒になった私は、ボタンを押した。
「行ってくるっス」
「はーい、行ってらっし・・・・」
エイの気楽な返事を途中で遮り、カプセルの上部ハッチは閉じられた。