あらためて、私は自分がいる場所を見渡すと、どうやら海岸近くの小高い丘にいるらしい。
辺りに民家はなく、見えるのは海岸線と、広い道路、そして道路に沿うように建てられた電柱ぐらいであった。
アイドルが活動するには、あまりに寂しい場所である。
「アキ先輩、スバル達はこんなところで、いったい何をするっスか?」
一緒に座って海を眺めるアキに、私は訪ねた。まつり、あやめ、シオン、アクアは、退屈過ぎたのか、鬼ごっこを始めて、声を上げながら走りまわっている。
あやめがずっと鬼というルールらしく、四人で一人を追い回し続けるという、一見いじめのような状況だが、本人は楽しいらしく、誰よりも声を上げてはしゃいでいる。
「あら、スバルちゃん、指令書を読んでこなかったの?」
「はい、よく見ないで来てしまったス、実はここがどこかも分かっていないっス」
もう十分以上、海を見ているが、人どころか、車すら一台も通らない。本当にここは現実世界に存在する場所なのか、不安になってきた。
「ここは羅臼町よ、世界遺産に認定された、北海道の知床半島の近く」
「北海道!?東京からそんな離れた場所に来ていたんスか」
どうりで見渡す限りに大自然が広がるわけであった。
「でも、こんな所でアイドル活動って、何をするっス?」
「もうすぐここにお客さんが現れるのよ。それも、結構な数らしいわ」
アキの言うことを疑うわけではないが、本当にこの寂しい場所に人が大挙して押しかけてくるのだろうか。まあ、人がきたとしても、私はまだ歌も踊りも何もできないのだが。
「あ、見て、お客さんが来たよー」
丘の端っこに立ち、海を指さして、まつりが大声を上げる。
「え、本当に来たんスか?まさか船で?」
皆がまつりの周りに集まり、海の方に目を向ける。そこには船は見当たらないが、確かに人影が出来始めている。
「え、なんすか?足から順に人の姿が浮かび上がってきてるっス!」
「あれが敵のNEO3DCG、『イントゥルーダー』よ」
「敵!?ホログラムライブには敵がいるんスか?」
想像もしなかった展開に、私は自分でもわかるほど動揺した。
「ホログラムライブの敵というか、世界を侵略しようする悪の組織かな。私達は、このホロスタイルで、敵のイントゥルーダーをやっつけるの!」
まつりが片手、片足を上げて、ポーズを決めながら言った。
いやいや、そんな可愛く言われても、バトル展開なんて聞いてないって。
「矢郷が言ってなかった?地球を守るって」
・・・言ってた。でも、まさか本当に悪の組織から地球を守るなんて思いもしなかった。渋谷のゴミを拾う程度だと思っていたのに・・・・
話をしているうちに、イントゥルーダーは次々と海岸に現れ、すでに百人はいるのではないかという数になっている。
「いったいどこからあんなに湧いてくるっすか?」
「スバルちゃんも同じような感じで現れたんだよ。NEO3DCGは特別な電波が届く範囲でしか具現化できないから、きっとどこかに敵の船か、飛行船がいるはずなんだ。私達は日本国内ならどこでも範囲内なんだけど」
「さて、おしゃべりはその辺にして、そろそろ出揃ったみたいだから、行くわよ。基本的には私がやるから、二期生は出来る範囲で頑張って」
そう言うと、アキは十メートルはある丘から飛び降りた。そして地面に難なく着地すると、高速道路を走る車のような速さで、敵のいる海岸へ向けて走り出した。
「え、戦うって、本当に肉弾戦をするっスか!?相手はメタルギアソリッド並みのフル装備をしているっスよ!」
敵の見た目は明らかな軍人であり、全員が銃を肩に下げている。そんな集団相手に、アイドルが肉弾戦を挑むなんて、常軌を逸している。
「大丈夫、アキちゃんはムキ・ロゼと呼ばれるほど、力が強いんだよ」
確かに、こんな高い所から飛び降りて、何事もなく着地していたし、走る速さも普通の人間からはかけ離れている。
「アキちゃんのホロスタイルは、拳で鉄板を貫いちゃうんだから!」
ホロスタイルは常識や物理法則を無視できると聞いていたが、もはやただの超人製造機のように思えてきた。
まつりと話している間に、敵に正面から切り込んだアキは、舞うように美しく、敵を殴り、蹴り、吹き飛ばしていく。不意を突かれた敵は、フレンドファイアを恐れて折角の銃器を使用できずに、防戦一方である。
「すげー、敵が紙切れのように吹き飛んでいくっス」
アキの攻撃を受けたイントゥルーダーは、倒れ込んで数秒のうちに姿を消した。
「NEO3DCGは一定以上の負荷や衝撃を受けると、演者とのリンクが切れて姿を消すの。スバルちゃんも気を付けてね」
「一定以上の衝撃って、どれくらいっすか?」
「うーん、私はまだ経験したことないけど、普通の人間が死んじゃうくらいの衝撃?」
ぜってー受けたくねえ・・・
「ホロスタイルが感じた痛みって、本体にも伝わるんスよね?」
「そうだよ、さっきスバルちゃんがアヤメちゃんの『鬼火』で熱がってたみたいに。でも本体が怪我するわけではないから、大丈夫だよ。
それに、ホロスタイルが強くなっていけば、ホロスタイルが受けたダメージも緩和されて本体に伝わるから、本体が感じる痛みも小さくなるんだよ」