まつりの言っていることは、なんとなくでしかわからなかったが、どうやらホロスタイルは成長していくらしい。
「よーし!そろそろ余もいくぞ!」
アキの戦いを見ていて血が騒いだのか、アヤメが背中に差していた二本の刀を抜いて、丘を飛び降りる。そしてやはり人間とは思えない速さで、笑い声を上げながら、アキが戦う海岸へ走って行った。
「ど、どうするっス?スバルも行った方が良いっスか?」
「うーんスバルは戦闘向きじゃなさそうだから、止めておいた方がいいんじゃない?」
シオンがあくびをしながらだるそうに言った。
(先輩に戦わせておいて、なんて態度だ!)と思ったが、自分が行くことを否定してくれたので、黙っておこう。
「でも、少しは仕事しなきゃね」
そう言うと、シオンは右手の人差し指を立て、空に向けてくるくると回し始めた。
「我が唱える暗黒の魔法、我に降り注ぐ暗黒の雨、我を苛む暗黒の歴史、全てを切り裂き道を開け、紫電よ!」
シオンが唱える呪文と共に、回している指の上空に、光る六芒星が描かれていく。
『メイジ オブ ヴァイオレット』
指を振り下ろすと同時に、海岸に稲妻が幾筋か流れた。それを受けたイントゥルーダーは瞬時に姿を消す。
刀を振り回しているアヤメにも直撃したように見えたが、気のせいだろうか。
「すげー、シオン!おめえやるじゃねえか!」
「当然よ、二十体はやったかしら。もうお役御免よね」
そう言うとシオンは、草むらに横になって、腕枕で観戦の体制に入った。
「よーし、まつりちゃんもがんばるぞー」
いつの間にか両手にボンボンを持ったまつりが、声を上げて踊りだす。
「フレーフレーアキちゃん!フレッフレッ、あやめ!フレッフレッ、スバルー!」
何故か一緒に私のことも応援してくれている。
次第に、まつりが持つボンボンから光る粒が放たれ始めた。
その一部は海岸で戦うアキとあやめの元へ向かい、一部は私の体に纏わり付いてくる。
「な、なんスかこれ?」
光りの粒はだんだんと、私のホロスタイルの中に溶け込んでいく。
「まつり先輩の能力は、他のホロスタイルを強化してくれるのよ。バフ系の能力ね」
シオンはどこからか取り出した煎餅をバリバリと食べながら、説明してくれた。
「確かに、栄養ドリンクを飲んだ後みたいに、体が温まって、元気になってきたっス。というか、なんていうか、ムラムラ?するような・・・変な気持ちに・・・」
「ああ、まつりちゃん、けっこうアレだから。邪念も混じるのよ」
「全然爽やかじゃねぇ!」
あの清楚な見た目で、なんてもの人に注ぎやがる。
しかし、体が元気になっていることは間違いない。
「よ、よし。せっかくまつり先輩に応援してもらってるし、スバルも・・・」
恐怖心が無くなったわけではないが、私はみんなの役に少しでも立とうと、覚悟を決めた。
戦場に向かうため、丘の端に向って歩き出すと、体育座りをして戦いを観戦しているアクアが目に留まる。
いた!ここにも役に立たなそうなのが!
活躍している人達の中で、一人だけ役に立てないのはいたたまれなさ過ぎるが、二人なら慰め合うことが出来る。
覚悟を決めて敵陣に切り込むつもりであったが、仲間を見付けたことでその覚悟はあっさり霧散した。私はアクアの横に並び、膝を抱えて一緒に体育座りをする。
「いい天気っスなあ」
隣に座ったものの、話す話題が見つからなかったので、取り敢えず天気の話を始めた。
「そ、そうだね・・・でも、ちょっと寒いね・・・」
季節はもうすぐ夏になるのに、海からはひんやりとした風が吹きつける。さすがは北海道だ。
「スバルちゃんは、どうして・・・演者になった、の?」
天気の話題の後は何を話そうかと、必死に考えていた私は、アクアの方から話題を振ってきたことに、少し驚いた。
「スバルは、家が火事で燃えてしまったっス。だから働いて、収入を得ないといけないっスから」
返事はない、聞こえなかったのかと思い、アクアの方を向くと、アクアもこちらを見ていた。
「ごめんなさい・・・」
突然、謝罪を口にするアクア。
「いや、何で謝るっスか。気になったことを聞いただけじゃないっスか」
「・・・大変、だったんだね。ごめんなさい、私、コミュ障で、何て言ったらいいか、分からなくて」
そう言うと、アクアは膝に顔を埋めてしまった。これはかなりの重症だ。
「いや、気にしなくて大丈夫っすよ!家は燃えたけど、怪我人はいないし、こうしてホログラムライブに入れて、仕事も仲間も出来たんっスから!」
「・・・明るいんだね、スバルちゃんは」
陽キャだ。
そう言ってアクアは、顔を上げて控えめに微笑んだ。
「アクアはどうして、ホログラムライブに入ったんスか?」
「コミュ障を、治したくて・・・学校の、保健室の先生にね、相談したら、アイドルになって、沢山の人の前で、歌ったり、踊ったり、すれば、陽キャになれるって」
たぶん、その先生は偽装したエイちゃんだな。私はすぐに思い当たった。コミュ障の人にいきなりアイドルになれなんて荒療治、普通の校医はしないだろう。
「そっかあ、大丈夫っス、アクアはすでにスバルとちゃんと話せてるっスよ、自信を持つっス」
私の言葉にアクアは目を輝かせていた。こんなに可憐な少女であれば、庇護欲を刺激されたファンを大量に獲得できるのであろう。