それからしばらく、私とアクアはたわいのない会話をした。学校のこと、好きな漫画のこと、苦手な食べ物のこと。ときには空を見つめ、ときには海を眺めながら、二人で語り合った。
それはまるで、青春の一ページ。
乙女だけに許された、甘酸っぱい時間。
そして、海岸では、変わらずに繰り広げられる死闘。
(早く倒してくんねえかな・・・)
必死に仕事をしている人達を見ながら、雑談に興じるという罪悪に、だんだん耐え切れなくなってきた。
「そうだ、そろそろ、お仕事・・・しなきゃ」
アクアはそう言うと、立ち上がった。
「え、アクア、戦うの?」
「うん、アキ先輩と、あやめちゃんに、任せっぱなしだし・・・」
「あ、危ないから止めとけって、一緒にここで応援してようぜ、二人はきっと大丈夫だよ」
もしかしたら、アクアはシオンみたいに、強力な魔法が使えたりするのかも知れない。そうだとしたら、役立たずは自分だけになってしまう。
「大丈夫、だよ。見ててスバルちゃん、あてぃし、がんばる!」
「まって!置いてかないで!あてぃし―!」
私の叫びも虚しく、アクアは急に自信に満ちた振舞で、両手を広げた。
「戦って!クルー達!」
敵のイントゥルーダーが出現したときのように、手を広げたアクアの周辺から濃紫色をした猫が大量に発生し、一斉に海岸へ向かって駆け出した。
「な、なんスか、あの猫の大軍は?」
「あれはアクアちゃんのファンの思いが具現化した姿ね。ホロスタイルには、自分を応援してくれるファンの思いを力に換えて、戦うことも出来るの」
いい汗かいた、といった感じで、まつりが私の隣に腰を下ろした。
「デビューしてまだ数か月だけど、アクアちゃんには大きいお友達が沢山いるんだよ」
なるほど、それなら自分の身を危険にさらす事なく戦える。自分でも出来そうだ。
「でも、スバルちゃんはまだなんの活動もしていないから、ファンもいないんだよね」
確かに、やっぱり戦えないのは私だけだった。
アクアの召喚したクルー達は、集団でイントゥルーダーに襲い掛かり、懸命に噛みついたり引搔いたりしていた。少なくとも、敵の足止めにはなっている。
敵の数はすでに三分の一以下になっていた。もはや挽回することは不可能と悟ったのか、残りのイントゥルーダーも、自主的に姿を消しはじめる。
逃げ遅れた最後の一体を、あやめが袈裟懸けに切り伏せたところで、私達の勝利が確定した。
「すげー、百体以上いた相手を、本当に倒してしまったス。みんな強過ぎっス」
「そりゃあ、私達のホロスタイルは、ワンオーダーの特注品だからね、あんな量産型のNEO3DCGなんか、ぼっこぼこよ」
そういえば、私達はそれぞれ個性を持った姿をしているのに、相手のイントゥルーダーはみんな同じ見た目をしていた。
「じゃあ、スバルのこのホロスタイルも、特注品なんスね」
「そうよ、たしかスバルちゃんのはし、しぐれうい先生の作品よね。すっごく優秀な学者さんらしいから、きっとすっごい力を秘めているわ。デザインも可愛いし」
まつりにそう言われ、私は申し訳ない気持ちになった。折角の素晴らしい作品なのに、何も活躍することが出来なかった。
「大丈夫、始めはみんなそうなんだから。次から頑張っていこう」
私の表情から何を考えているのか推測したのか、まつりが優しくフォローしてくれる。
「そうよ、私なんて、初仕事に四時間も寝坊していったんだから。到着したら終わってたわ」
「あてぃし、初めてのときは、一言も、話さなかった・・・」
ようやく起き上がったシオンも、そしてアクアも小さな声で、私を励まそうとしてくれる。
「あったけーな、ホログラムライブ。スバルもこれから、努力するっス!」
私がこれからの活動に情熱を燃やした所で、戦いを終えたアキとあやめが戻ってきた。
「疲れたわー、早く戻って、お風呂に入りたい。そして勝利の美酒に酔いたいわ」
「お疲れアキちゃん、かっこよかったよ!」
「いやー、余中で雷に打たれて大変だった!敵もなかなかやりおる」
「あんたが油断するからよ」
「シオンちゃんが、撃った、んだよ・・・」
「海で刀をふりまわしてたら、雷に打たれるなんて必然よ」
そのまましばらくのあいだ、勝利の余韻に浸り、皆でたわいもない話をした。
みんなの実際の姿も、年齢も知らない不思議な集まりだけど、とても和気あいあいとして、楽しい時間だった。
「風も冷たくなってきたし、そろそろ戻りましょうか、スバルちゃんは、リンクの解き方は知っているの?」
アキに聞かれて、私は少し動揺しながら頷いた。
「なんでこんな方法なんすかねえ、普段そんなところさわらないのに」
「えー、私は、毎日さわってるよ」
「マジっスか、まつり先輩」
「常識よね」
アキ先輩まで。女性は普通、自分のそこを日々さわるものなのだろうか。
他の人にも確認しようと周りを見ると、アクアと目が合った。
「な、なに、かな?」
「アクア・・・さわるんか?」
「え!?さ、さわ・・・る、よ?」
嘘だろ!清純そうな見た目をしながら、こいつ!
「スバルが自分でできないなら、余がやってあげる!」
突然、私の背後の立ったあやめが、遠慮なく私の胸に手を回した。
「えい!」
「あ!アン!」
不意を突かれ、自分でも想定していなかった高い声を上げてしまった。どうやら他人につままれてもリンクは解けるらしく、私の視界は瞬時に暗くなり、次に見えたのは配信部屋の天井であった。