ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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中間試験編
女の子に生まれたからには一度は夢見るもの


 この世で最も強い『力』とは何だろう? 

 

 権力。学力。経済力。暴力。色々あるが、その答えは人それぞれ。どの力が有用なのかは時と場合。そしてどんな世界で生きるかによって違う。

 だがこと『社会』という漠然としたその世界の中で、最も有用かつ応用が効き、どんな場所においても役に立つ最強の力と言えば──私は確信を持って答えられる。

 

『──みんな~~! 今日は来てくれてありがとう~~~っ!!』

 

『うおおおおおおお~~~~~~~~~~!!!』

 

 それは──『魅力』であると。

 

 日本の首都。某所にある在京キー局内のスタジオで流れるそのVには記憶に新しい全国ツアー。その最後に行われたライブの映像が流れていた。

 時間はお昼。いわゆるワイドショー。長机にはMCの大物芸人とサブMCの局アナ。コメンテーターには俳優、元スポーツ選手、アーティストなど様々な分野で活躍する芸能人が座っている。

 そんな中に、ゲストとして招かれた私はいた。MCの横。スタジオに何台もあるカメラの中でもメインのカメラに抜かれ、他の角度からも私の顔が抜かれている。

 理由はやはり、私の表情を撮りたいから。国民に発したいからだろう。スタジオで流れるVは私が所属するアイドルグループのライブで、それも私が活動をしばらく休止するため特に注目を集めている。

 ──もしかしたら最後のライブになるかもしれない。

 その懸念もあり、そのライブは私達のグループの最大動員数を記録した。いつもどおり熱狂し、楽しむファンの中には目に涙を浮かべている人すらいる。それを見て、私はこう思った──まあまあかな、と。

 全国ツアーの最後。私の活動休止前の最後のライブとしては十分だろう。各番組への出演でもしっかりと爪痕を残してきた。

 後はこの最後の収録を済ませるだけ──私はその映像を感慨深そうに、そして目をほんのすこしだけ潤ませる表情を作りながら見る。テレビの前の視聴者と目の前のスタッフが欲しい映像をくれてやりながら、短くまとめられたVを見終わるとMCが手元の紙をチラ見して話始めた。話題は当然、私について。

 

「いや~、すごかったですね。ファンの方々もすごい熱狂ぶりで。気持ちが伝わってくるような、と言いますか。(うらら)ちゃんの活動休止前の最後のライブということで……今の心境をお聞かせ願いますか?」

 

「はい。そうですね……やっぱり、私も今改めて見て感動してしまいました。私のためにあれだけのファンが駆けつけてくれて……その、やっぱり嬉しかったですし、ずっと応援してくれたファンの方々には感謝ですね」

 

「いやほんと、ファンの方の気持ちが伝わってきましたね。それで、えー、麗ちゃんは3年間、学業に専念するために活動休止ということですが……」

 

「はい。全寮制の国立校への進学が決まったので。活動を再開するのは3年後になります」

 

 私がそう言うとスタジオから表現された誇張の感嘆の声。本当にすごいと思ってはいるだろうが、わざとらしい。大学ならともかく、高校でどれだけ頭の良い学校に入ったところで世間の人はあまり評価しない。

 

「とのことですが、浜松さんはいかがですか?」

 

「はい、そうですね。やっぱ今の卒業ライブを見てても──」

 

「え? いや、浜松さん、卒業じゃなくて休止なんですよ!」

 

「あっ、そうなんですね」

 

「そうですよ、間違えないでください。休止です休止! 帰ってきますから!」

 

 MCからコメントを振られた大物芸人のコメントとMC、私の掛け合いでスタジオがウケる。私も涙ぐんでいる場合ではない。収録現場でのキラーパス。ノリ良く返して撮れ高を生まなければカットされかねないし流れても変な空気になって評価が落ちるのだ。まあ今のはウケたとはいえ、私の熱狂的なファン……信者からは多少反感を買いそうだが。私じゃなく今のコメントをした芸人が。私はノーダメージ。

 

 ──しかし……あるいは『卒業』となることも私次第では十分にありえること。

 

 芸能界は厳しい。露出が少なければすぐに忘れられる。

 ましてや絶大な人気があったとはいえたった3年活動しただけのアイドルが、3年の活動休止を経ればすぐに世間の人々は関心を別のところへ移すだろう。

 

 ──だがそれでも構わない。

 

 この3年という時間は私が次のステージに進むために必要なのだ。正確には時間ではなくその場所の方であるが。

 だから私はそこへ進学する。希望する進学、就職先にはほぼ100%応えるという名門校──『高度育成高等学校』に。

 

 

 

 

 

 ──バスの中から。既に多くの視線を感じながら、私はその学校へ登校する。

 

 理由は勿論──私が魅力的だからだ。

 可愛いとも美しいとも形容できる整った目鼻顔立ち。知り合いの有名美容師にカットしてもらいセットしたサイドテール。輝かしい色の金髪の髪がふわりと揺れ、そこから漂う自然な甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 背丈は15、6歳の平均より少し高い161cm。赤いブレザーと白いひらひらのスカートを着こなす。スカートから伸びる長い脚と制服の上からでも分かる腰から臀部。太腿から足先までのラインはまるでモデルのようで。

 それでいてグラビアモデルもできるほどに実った大きな胸がブレザーを押し上げている。

 

 ──うん、今日も完璧だね。

 

 手鏡で自分の顔を確認し、リップクリームを塗って自分自身に合格点を出す。相変わらずの可愛さ。100点。私の魅力は今日も周囲を惹きつけてやまない。

 手鏡を仕舞い、私はさりげなく周囲を確認。すでに癖となっている周囲の人間に対しての評価を下す。

 そうして分かるのは──その平均点の高さだ。

 

 私抜きで平均60……いや70点ってとこかな? 顔立ちやスタイルが整っている子が多い。特に女の子。この中で一番可愛くない子でも普通の学校なら1、2を争うレベル。

 

 これはどういうことかな? と思考する。

 容姿において50点を下回るような生徒がほとんどいない。特に女子だ。男子は平凡な者も多く、極端な不細工やデブは存在しない。それでも赤点ギリギリくらいの人もいるが、低くてそれくらいだ。

 だが女子は可愛いと言っていい女の子しかいない。不自然なほどに。

 この学校は容姿も審査基準に入っているのだろうかと思う。不可思議ではあるが、とはいえ不都合はない。むしろ好ましい。

 

 ──見るに堪えない人がいないのはいいことだね。

 

 これから同級生となるであろう人達を見て笑みを浮かべる。1人、目が合った男子にも気分が良かったので笑いかけてあげた。途端に顔を赤くして目を逸らす男子──はい、今のでガチ恋確定。しばらくは私のことが頭から離れないだろう。

 

 声掛けてくるかな? ──まあ、入学初日なら相手をしてやってもいいけど。

 

 ファンを増やすためにサービスしてやるのも吝かではないが、こんな狭くるしいバスの中で握手会を開く気はない。バスが止まると私はさっさと降りて声をかける隙を与えないようにする。

 

 ──ここが高度育成高等学校か……外観は悪くないね。

 

 校門前でこれから通うことになる学校の外観を評価する。国立の名門校というだけあって綺麗にしているしデザイン性も悪くない。

 校内には生活や娯楽に必要なものは大抵揃っているとのことだし、これなら退屈はしないだろう。

 

 ──それで、私のクラスは……1-Bね。

 

 新入生のクラス分け。私の名前を確認して私は割り当てられた教室へと向かう。

 

「あっ」

 

「!」

 

 だがそこで。私の顔を見て声を上げる女子生徒と目が合う。

 クラス分けを見ていたその女の子を見て……私は感心した──90……いや、95点かな。

 風に揺れる長い桃色の髪。ぱっちりとした瞳が可愛らしいその女の子が私を見て驚いた。スタイルも私に匹敵する──その女の子の声に反応し、私も立ち止まると評価を終えた後で声をかける。自然な笑みを浮かべながら。

 

「? 私の顔に何かついてる?」

 

「あっ、そうじゃなくて……えっと、その……う、麗ちゃん?」

 

 わたわたと慌てる女の子のそのよく見る反応に私は笑った。なんてことない。芸能人に遭遇した時の一般人の反応だ。

 そういう時の返し方も心得ている──が、ここは全寮制の学校。周りは同年代ばかりで同級生となる人だらけ。

 なので私の返しはこうだ。ある程度、素を見せる。

 

「──あー、やっぱ気づかれちゃう? 一応髪は切ってきたんだけどねー。それで、そっちは私と同じ新入生?」

 

「あっ、やっぱり……! うわぁ……本当に麗ちゃん──」

 

 と、私の返しに感動したのも束の間。その女の子は再び慌てたように。

 

「! ご、ごめんなさい! いきなり名前で呼んだりして……」

 

 馴れ馴れしく名前で声を掛けてきたことを謝罪してくる。……なるほど。ちゃんとそういう配慮はできる子みたいだね。

 アイドルとはいえ休止中。プライベートで、しかも初対面。そこでファンの意識のまま名前で呼びかけることの失礼を感じたらしい。女の子は私に頭を下げてくる。その対応に私は女の子への評価を上げた。

 

 ──容姿も高得点。中身も擦れてない良い子。気も遣える……これなら()()()

 

 私はにへらと笑みを浮かべる。アイドルとしての笑みじゃない。自然な、私らしい表情で。

 

「あー、いいっていいって。慣れてるしさ。それよりそっちも新入生でしょ? なら名前教えてよ」

 

「あ、はい……一之瀬帆波です!」

 

「硬い硬い。リラックスだよ、帆波ちゃん」

 

「あ……」

 

 私はその女の子──一之瀬帆波と名乗った女の子の肩を掴んで軽く揉む。うん、身体も柔らかい。

 

「私も帆波ちゃんって呼ぶからそっちも名前で呼んでいいよ。敬語もなしで。ほら、なんてたってこれからは同級生だしね!」

 

 私がそう言うとようやく帆波ちゃんも肩の力が抜けたらしい。自然な笑みを返してくれる。

 

「……あはは、ありがと。その、いいのかな?」

 

「勿論。ちょうど友達が欲しかったところだしねー。それに同じクラスみたいだし? 帆波ちゃん、1-Bでしょ?」

 

「! え、なんで分かるの?」

 

「自分の名前見た時にクラスメイトの名前は覚えたからね」

 

 記憶力には自信がある。私以外の39名。それくらいなら問題ない。握手会に来るファンの名前と顔を覚えることに比べたら大したことない。

 後は顔と名前を一致させるだけ。出来れば見るに堪えない人がいなければいいけれど。

 

「すごい……記憶力良いんだね」

 

「まあね。それじゃこれからよろしくねってことで歩きながら話さない?」

 

「あっ、うん!」

 

 私がそう言って教室の方に足を向ければ帆波ちゃんも嬉しそうに笑って横についてくる。早速友達が1人出来て嬉しいという表情。しかもその相手が私なんだからそりゃ嬉しいだろうね。

 私としても嬉しい。これだけ可愛くて優秀っぽい女の子なら私の親友役として十分だ。私1人でも十分とはいえ、私と帆波ちゃんがいれば女の子も男の子も随分群がってくるだろう。

 私の学園生活も早速楽しくなりそうだな。そう思い、私は帆波ちゃんと共に教室へと向かった。

 

 

 

 

 教室へ向かうに連れてやはり人は多くなる。

 その道中ですらやはり視線を感じたが、まあそれは仕方ない。私という存在は嫌でも目立つ。マスク、サングラス、帽子、地味な服──それで隠していても気づかれることがあるくらいだ。隠そうとしても隠しきれない魅力。つくづく私は罪な女だ。

 だから見られることは仕方ない。仕方ないのだが……。

 

「……?」

 

「? どうしたの、麗ちゃん」

 

「……ううん。何でもないよ」

 

 ──違和感を感じる。

 

 見られている。教室へ向かう生徒達や、隣の帆波ちゃんからの視線じゃない。どこからかは分からないが、確実に見られている。

 それも嫌な感じだ。アイドル時代にストーカーやパパラッチに追われている時のそれよりはマシとはいえ、妙な感じだ。

 

 ……この視線については追々確認するとして……それよりもまずはクラスのことだ。

 

 入学式が終わり、それぞれ割り当てられた教室に生徒達が移動する。私と帆波ちゃんもその例に漏れず教室へ向かうと、やはり視線を集めた。

 男女問わず、私と帆波ちゃんが連れ立ってやってきたら誰だって見るだろう。美少女は1人でも最強だが2人いればより強くなれる。私という有名アイドルがいるという事実に、1-Bはざわついた。声を掛けてくる勇気のある者は……いない。やはり近寄り難さを感じているのだろう。私1人だけでなく帆波ちゃんもいるし。「もしかして隣の子もアイドル?」なんて声も聞こえる。

 帆波ちゃんは聞こえているのかいないのか──いや、聞こえてないみたいだ。だが私の方を皆見ていることには気づいていてちょっと困ったような、それでいて自分も同じだったことからなんと言っていいか分からない様子だ。

 このまま帆波ちゃんと会話して仲を深めることも悪くはないが、まずはクラスに私を印象付けなければならない。なので私は自分の席にカバンを置くと、自然に隣の男子に声をかける。

 

「よろしくね」

 

「! ……ああ、よろしく」

 

 声をかけると真面目そうなその男子は少しだけ驚いたようだが、挨拶を返してくれる。というかかなりのイケメンだった。しまったな。もう少し見た目が凡庸な男子に声をかけるべきだった。どれだけ凡庸でも声を掛けていい。優しく気安く接してくれると印象付けたかったのだが、これじゃ私が面食いみたいじゃないか。間違ってないけど。

 まあ声を掛けてしまったのは仕方ない。印象付けるのはこの後でも問題ないだろうし、今は隣のクラスメイトとの親交を深めよう。

 

「神崎隆二だ」

 

 ……と、思ったら向こうから名前を告げてきた。硬くてコミュニケーション能力は高いようには見えないが、礼儀は弁えているのだろう。積極性はないのかもしれないがこちらから声をかければ応じるくらいの能力はあるのだろう。

 それに下心も感じない。ふーん……これなら合格かな。

 私からも名前を、フルネームでしっかりと告げて軽く会話する。名前で呼んで良いかの確認をしてこっちも名前で呼んでいいよと許可を出すが、少し抵抗があるらしく名字で呼ぶことになった。うーん、出来れば名前で呼んでほしいんだけどなぁ。まあ追々でいいか。

 それから何名かのクラスメイトとも会話をする。こちらから声をかけてあげれば嬉しそうに会話に応じてくれた。

 そしてクラスメイトの顔と名前を少しずつ一致させていく。まだ数名ではあるが、会話をしながらも周りのクラスメイトを確認するが、やはり見た目の偏差値が高い。赤点が1人もいないのは驚きだ。

 そしてそれは程なくしてやってきた教師にも言えることで。

 

「新入生のみんな、おはよ~! Bクラス担当の星之宮知恵でーす! これから3年間、あなた達の担任を務めるからよろしくね!」

 

 Bクラスの担任である星之宮先生は私達生徒の前で明るく挨拶した。年齢はおそらく20代後半から30代前半。80点ってところかな。もう少し若ければ後5点はあげてもいい。歳の割には童顔で可愛い女の先生だ。

 そのせいか男子からは喜びの雰囲気が。女子からも明るくて親しみやすそうな先生だと好感を得ているのを感じる。

 

 ──が、そんなことよりも私は星之宮先生が語った学校の説明が気になっていた。そのことを頭の中で羅列する。

 

 ・学生証カードを用い、学園の敷地にある物を購入でき、各種施設を利用することができるということ。

 

 ・ポイントは毎月1日に振り込まれるということ。

 

 ・ポイントは10万ポイントが支給されている。

 

 ・ポイントは卒業後に回収される。

 

 という中々に大判振る舞いな待遇だった。ただの学生でしかないクラスメイトは10万という大金に驚きを隠せないようで色めき立っている。

 

 ──でも私にとっては不満しかない。10万なんてはした金でしかない。

 

 入学した時点で生徒1人1人に10万の価値があると星之宮先生が言ったが、ただの学生が10万の価値なら私はその何十倍の価値がある。この学校は実力で生徒を測ると言っていたが、だとしたらとんだ節穴だね。たった10万ぽっちが私への評価なんて。

 ……ま、学業成績でしか評価出来ない学校なんてそんなものか、と私は周りにバレない程度に嘆息する。

 まあポイントはどうにかして稼げばいい。方法は幾らでもある。星之宮先生も無理やりポイントを奪うようなカツアゲみたいなことはダメだと言っていたが、譲渡は自由だと言っていたしどうにでもなる。

 それも含めてまずは下地作り。シミュレーションゲーム風に言うなら内政をしないとね。私は先生が去った教室で、視界の端で動こうとした帆波ちゃんの機先を制するように言う──帆波ちゃん、リーダーシップあるタイプなんだね。でも悪いけどその役目は私がもらうね。

 

「皆、ちょっといいかな?」

 

 と、私が立ち上がって皆に聞こえるくらいの音量で言えば全員が私に注目する。私を無視する者。教室から出ていく者は1人もいない。ただでさえ国民的アイドル。よしんば私のことを知らない者がいたとしてもこんなに可愛い美少女が話始めたら気になるだろう。耳を傾けない者など存在しないしいてはならない。

 

「これから3年間、同じクラスで過ごすことになる訳だし、自己紹介しない? 仲良くなるきっかけになるだろうし、そうじゃなくても名前を知っとかないと不便なこともあるだろうしさ」

 

 落ち着いた声でそう言う。そのフランクな語り口に驚いた者も多いだろう。メディアというフィルターを通して見る私はどちらかと言うと天真爛漫で明るい──あえて例えるなら先程の星之宮先生のようなタイプだったからだ。

 だがそれは、私が社会という大人の中にいたからだ。中学生という子供も子供。そんな私に大人達は明るくて天真爛漫な偶像を求める。その方がウケが良く、人気が出るからだ。

 だが、同年代の男子女子がひしめき合う『学校』という空間においては、大人びていて落ち着いて接しやすく──頼れる人物というのが何よりも都合がいい。

 後に印象が変わるとしても、少なくとも最初はそう振る舞った方がいいだろう。

 

「……そうだね。私もその意見に賛成かな!」

 

 そしてそんな私の意見を帆波ちゃんが真っ先に同意してくれる。うんうん、良い子だ。自分も同じことを言おうとしていただろうに、そんなことはおくびにも出さない。後でジュースを奢ってやろう。

 私と帆波ちゃんが賛成すれば、他のクラスメイトからも賛成の意を得られる。一部に不満そうな生徒もいたが、かといってこの空気を壊すようなことはしないし出来ないらしい。教室内に残ってこの空気に従った。

 

「それじゃ言い出しっぺの私からね──知ってる人もいると思うけど、私は南雲麗。前まではアイドルなんてやってたけど今は普通の女の子だから気安く声かけてね~。こっちからも声かけるから出来れば仲良くしてね?」

 

 私の自己紹介に、やはり驚いた人も多かったが、それでもすぐに拍手がくる。最後の言葉と同時に茶目っ気ある笑顔。これが効くね。美少女の笑顔×アイドルの素顔の相乗効果は素晴らしいものだ。「後は端からお願いできる?」と廊下側の席に座っていた男子生徒に言えば、頬を少し紅潮させながらも頷いてくれた。

 

「えっと、それじゃ僕は──」

 

 と、後は暗記作業だ。顔と名前を一致させて特徴も覚えていく。何とも言えない生徒ばかりだが、全員が私のファン候補なのだから労力は惜しまない。特筆して印象深いのは帆波ちゃんと先程話した神崎隆二君。後はサッカー部に入る予定らしく運動が得意そうな柴田颯君。後はまあ──

 

「……姫野ユキ、です。趣味はとくにありませんが、仲良くしてほしいです。よろしくお願いします」

 

 ──この子、かな。

 中々面白そうな子を見つけたのを最後に自己紹介を終え、私達Bクラスは入学式へと向かった。

 

 

 

 

 

「せっかくだし、クラスの皆で遊びにいかない? ちょっとした親睦会ってことで」

 

 入学式が終わればHRを得て今日はもう終わり。

 そのため皆、寮へ帰ったりグループを作ってカフェやカラオケなどの娯楽施設へ向かおうとしたりと思い思いに過ごそうとしたところでそういった提案を行う。

 というのも私を誘いたそうにしている人が多かったからだ。あと私の最初の友人となり、当然の如く一緒に行動しようとしていた帆波ちゃんも。

 なので全員を誘って遊びに行った方が手っ取り早いだろうと私は提案した。その意見もすぐに賛成される。1人、2人くらい拒否する意見が出てもいい筈だが、どうにもこのクラスはスれている人も少なければ集団で和気藹々とするのが好きな人が多いらしい。和を大事にする人間が多いとも言える。日本人らしくて結構なことだ。平たく言えば陽キャだらけと言うべきかな。

 そしてその陽キャの中心にいる私の号令でBクラスの面々も移動する。1時間後に指定のお店に集合としたのは入学初日で他の用事がある人のことを形だけ慮ってあげたからだ。時刻はお昼過ぎで時間はあるとはいえ、1時間じゃ何か寮に帰って軽く荷物を整理することも出来やしない。それぞれお昼を食べて集合ってところだ。本当は行きたくない者からすれば「どうせ行くなら1時間後とかじゃなくてすぐにしようぜ……」って感じだろう。

 とはいえ私も一旦寮へ帰って部屋の確認や簡単な入り用の物を買っておきたい。そのために一旦コンビニに寄る。どうやら外と品揃えは同じらしい──が、無料の商品という気になる物も見つける。割引じゃなくて無料? しかも消費期限切れとかそういうものでもない。

 その謎に違和感を感じながらも買い物を終えて外へ向かおうとする。

 

「1年だからって舐めてんじゃねぇ、あぁ!?」

 

 ──と、そこで喧嘩腰な口論が耳に届いてくる。

 

「2年の俺たちに対して随分な口のききようだなぁオイ。ここに荷物置いてんだろ?」

 

 見れば1年生だと赤髪のガタイの良い男子(42点)とその2年生だと思われる3人の男子(平均51点)がなにやら諍いを起こしていた。

 なにやら場所を取っていたとかどうとか。Dクラスだろとかどうとか。聞くに堪えないし見るにも堪えない。ガキの喧嘩だ。

 無視したいところではあるけど入り口に陣取ってるし、人の視線がある。人の目がある状態で無視するのと仲裁に入るの。どっちがいいかを考えたところで、私は前に進み出る。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

「あ?」

 

 礼儀正しく。穏やかな笑みを浮かべて声をかける。赤髪のガラの悪い声に2年生達の目を見開く表情。それらを受けながら、私は善良かつ平和主義な美少女を演じる。年上の先輩相手にも失礼のないように。

 

「2年の先輩方に、同級生の方ですか? 初めまして、私、1年Bクラスの南雲麗と申します。なにやら揉めている様子でしたので声を掛けさせて頂いたのですが……よろしければ何があったのかお聞かせ頂いても?」

 

「あ? なんだよお前。お前には関係ねーだろ」

 

 赤髪の方がなんともまあ、ふざけた返答を返してくる。入り口を塞いでおいてなんという言い草なのだろう。不細工のくせに美少女に楯突くとは良い度胸だ。

 だがそんな内心はおくびにも出さずに私は仲裁を試みる。やんわりと、相手を苛立たせないように、それでいてしっかりとした反論を口にしようと口を開いたところで──

 

「な、南雲……? お前、今南雲って言ったか?」

 

「え?」

 

 2年生の男子からの不可思議な反応に、私はつい呆気にとられる。

 先程まで赤髪に見せていた上から目線で馬鹿にするような感じがなくなり、戸惑いと驚き。そして──その中に恐怖を覗かせていた。

 

「……はい。私の名字は南雲ですが……それが何か?」

 

「っ……い、いや……何でもねぇ……邪魔したな」

 

「あ! おい待ちやがれ! 逃げんのかよ!」

 

 赤髪の言葉にも反応せず、私に再度確認を取るとそそくさとその場を後にする2年生の3人。

 後に残されたのは私と赤髪。そして赤髪の連れと思われる暗そうなイケメン君だけだ。

 

「クソ、何なんだよ」

 

「…………どうやら何事もなかったみたいだね。それじゃ」

 

 私は先程の反応を考えながら、短くそう言ってその場を去る。

 背後から赤髪の声ともう1人の視線を受けながらも反応しない。頭の中は先程の反応のことでいっぱいで、僅かだが苛立ちを覚えていた。名字に反応されることに心当たりはあるが、こうして忌避されることになるとは思わなかった。原因はどう考えても、その心当たりしかない。

 その心当たりに文句を言いに行きたくなるが、まずはクラスメイト達との約束が先だと足を急がせた。

 

 

 

 

 

 ──クラスメイトとの親睦会はつつがなく終了した。

 

 私や帆波ちゃんを中心に、ちょくちょく席替えを挟みながら会話をして軽食を楽しむ。私がMCで帆波ちゃんがサブMCってところかな。話を回しながら、時折皆が聞きたがる私の情報を出してやりながら仲を深めていき、良い時間となったところでお開きとした。

 私以外だと女子との会話に不器用なところを見せていた隆二くんと隠してはいるが帰りたそうにしているユキちゃんが個人的な撮れ高かな。他はまあまあってところで。

 そうして夕飯の買い物をしてから寮へと帰る。この時も帆波ちゃんを含めた何名かの女子と一緒に買物をして帰路についた。

 クラスメイトとの親睦も深めたし、印象付けも出来た。初日としては十分だろう。学校生活は数ヶ月ぶりだが上出来だと言える。

 後はプライベートの時間としてゆっくりしたい──のは山々だが、私は用事があったので荷物を終えて着替えたところで寮の部屋を出て一旦エントランスへ行き上級生の寮へ向かい何名かの上級生に声を掛けて目的の情報を得ると、目的の人物がいる部屋へと向かった。

 

「…………」

 

 男子の階へ行き目的の部屋のインターホンを押す。下手したらこれだけで私にとってはスキャンダルものだが、相手が相手なだけにそれはありえない。

 

「──挨拶が早いな、麗」

 

「……まあねー。久しぶり」

 

 程なくして部屋の戸を開けて中から出てきたのは金髪のイケメンだ。点数は……まあ99点としてやろう。この私に似た目元などは特に評価が高い。

 もっとも内面の点数は何とも言えないが。とはいえ私には関係ない──部屋の中に招き入れてもらい、相変わらず女子ウケしそうな内装を見て「相変わらずやることやってるな」という感想を抱きながらも座るように促されたベッドではなく椅子に腰掛けたところで、改めて互いに目を合わせて挨拶をする。この私以上に傲慢で──

 

「一年ぶりだがまた更に綺麗になったな。活躍も聞いてる。さすがは俺の妹だ」

 

「こっちも入学初日から悪い予感がしてるよ。さすがだねー雅兄」

 

 ──クズな南雲雅という実の兄と……私は1年ぶりに顔を合わせた。




最初は連続で投稿する予定ですのでよろしくお願いします。

氏名:南雲麗
クラス:1年B組
学力:B-
知性:B+
判断力:A
身体能力:B-
協調性:A

面接官のコメント
国民的アイドルグループの不動のセンターとして活躍していた。高いポテンシャルを持ち、アイドル活動で忙しいながらも学業成績も常に一定以上をキープしていた。面接においてもほぼ完璧な受け答えを見せ、人にどう見られるかを熟知していると推察される。総じてAクラス相当の能力を持つが、芸能活動に忙しかったとはいえ3年間の出席日数が常に進級ギリギリであったことを考慮してBクラス配属とする。

担任のメモ
女性から見ても魅力的な美少女でアイドルとして活躍するのも納得な高い能力を持ってる。Bクラスのリーダーとしても申し分ない子だね。

感想、評価、良ければお待ちしております。
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