ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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アイドルと孤独な少女の出会い

 須藤がCクラスの男子を殴った件で、相手側から仕掛けた証拠……目撃者を探すことでクラスがまとまったその日の放課後。

 いざ手分けして聞き込みをしようとしたところで、廊下から聞こえてきたその大声に、オレ達は何事かと様子を見に行く。

 そこで見たのは須藤と、須藤が石崎と呼ぶ男……須藤に殴られたCクラスの男子の1人だろう。頬にガーゼを貼っているその生徒が、須藤に対しある言葉をぶつけたところだった。

 

「俺達Cクラスに……嘘の過去問を売りつけやがったんだからな」

 

「え──?」

 

 その石崎の発言に、それを聞いていたDクラスの生徒達はざわつく。嘘の過去問、と聞いて心当たりのない生徒はDクラスにはいない。

 

「は、はぁ!? 何言ってんだてめぇ! デタラメ抜かしてんじゃねぇぞ!」

 

 Dクラスの生徒から真偽を確かめる言葉が出る前に、須藤が石崎に文句を言う。確かに、冷静に考えればそんな訳はないとは思う。

 須藤が騙されたのはDクラス内では周知のもの。須藤が退学になりかけたことも誰もが知っている。だからこそ誰もが須藤がやったとは思わない。そんなことをしても誰も得しないと。

 だが……それを聞いてオレはあの事件の気になる部分を思い出していた。まさか……。

 

「とぼけんのが上手だな須藤。1ヶ月前のことをもう忘れたかよ。お前がうちの女子に過去問をポイントで売りつけたことはもう調べがついてんだ」

 

「っ……! そ、それは……」

 

 思い当たる節があるのだろう。そこで須藤はやや勢いを落とし、声を詰まらせた。

 その反応を見逃さず、Dクラスの生徒から疑惑の声が飛ぶ。

 

「おい、どういうことだよ須藤」

 

「過去問を売ったってマジで言ってんのか?」

 

「ち、違ぇよ! あれは向こうから持ちかけてきたんだ! テストで困ってるから過去問を持ってるなら売ってくれってよ……そ、それにあの過去問が偽物なのは俺も知らなかった! お前らだってそうだろ!」

 

 池と山内の言葉に須藤が焦った様子で答える。その様子はどう見ても怪しく見える。

 だがその言葉はおそらく真実だ。先日の中間試験で櫛田から受け取った過去問を須藤はなくしたと言って誤魔化していたが、おそらくそれは須藤の言うようにCにクラスの女子生徒に渡したのだろう。それなりのポイントを提示され、泣きつかれでもしたのかもしれない。確証はなく想像に過ぎないが、ポイントに困っている須藤がそれに釣られるのは容易に想像出来る。

 

「よくそんな白々しい嘘が吐けるな。過去問を求めてきたのも暴力を振るったのも全部相手が悪いってバカのひとつ覚えみたいによぉ。あの過去問のせいでうちの女子はあやうく退学になるところだったし、俺だってこうして怪我してんだ。罪悪感はねぇのか?」

 

「うるせぇ! 俺はやってねーつってんだろ! いい加減にしやがれ!」

 

「おーおーまた暴力か? この間の時を思い出すぜ。あの時もこんな風に殴られてよ。ありゃ痛かったぜ須藤」

 

「ぐっ……!」

 

 須藤が怒りの形相で石崎の方に進み出るも、石崎のその言葉に堪えて立ち止まる。今のは石崎も狙った訳じゃないだろう。むしろ殴ってくれた方が相手にとっては都合が良かったかもしれないが、逆効果になった。首の皮一枚繋がったというところか。

 だが……それでも危機的状況になったことに変わりはない。

 

「す、須藤くん……過去問をCにクラスに売ったって……嘘だよね?」

 

「っ……ち、違っ……あれは……俺から売りつけた訳じゃ……」

 

 そう、須藤自ら持ちかけたとは考えにくい。あの時の須藤にそんな賢しらなことを考える余裕はなかった。

 だが……この状況。誰が須藤のことを信じられる? 

 

「あ、あれ……? そういや須藤、お前この間、俺達に飯奢ってくれたよな? 臨時収入が入ったとか言ってよ」

 

「ああ、あの時な。須藤がやけに羽振りがよくて……って、あれ? あれってそういうこと?」

 

「ち、違ぇよ。あれは部活の……」

 

 池と山内の何気ない発言にDクラスの疑惑の視線が更に強まる。須藤は何とか言い訳しようとしているがそれも須藤にとっては逆効果だ。

 更に石崎もそこに追撃を仕掛ける。

 

「俺の発言がデタラメだって言うなら今残ってるポイントを見せてみろよ。何だったら学校側に訴えてもいいんだぜ。うちの女子からお前に送ったポイントの履歴が残ってる筈だからな」

 

「そ、それは……」

 

 そこが真実である部分なのだろう。だからこそ、須藤は二の句を継げない。

 須藤を信じたいのだろう。あるいは、信じてる振りをしたいのか櫛田は何も言わない。代わりに池が須藤の近くにやってきた。

 

「なぁ須藤……どうなんだ?」

 

「…………わ、悪い」

 

 須藤は、ポイントを見せなかった。そのことが、クラス内の疑惑がほぼ確信に変わった瞬間である。

 

「だ、だけどよ! 持ちかけてきたのは本当に向こうの方からなんだ! 俺はちょうど過去問を2つ持ってたし、1つなら構わねぇかと思ってよ……た、確かに悪かったが、嘘ついてんのは向こうの方だ!」

 

「おいおい……」

 

「マジかよ……」

 

 池と山内、2人の友人からも引き気味の言葉が返ってくる。その意味は明白だ。

 何しろそれが嘘だろうと本当だろうと、須藤にはやはり落ち度がある。Cクラスに中間試験対策で有効だと思われる過去問をポイント欲しさに売り渡した──須藤の言葉が本当であるならそういうことになる。

 これならばあるいは、嘘の過去問を嘘と分かっていて売りつけていた方が……いや、どちらにせよ駄目か。ならなんでクラスにそれを告げなかったのかという話になってくる。それを言い訳で乗り越えることも不可能ではないが……須藤にそれは思いつかないし、言ったところで須藤の信用の無さを考えると信じてもらえないだろう。

 

「う、うん……私は勿論、信じるよ。須藤くんは何も悪くない。そうだよね、皆?」

 

「お、おう……」

 

「まあ、櫛田ちゃんが言うなら……だけど……」

 

 櫛田が何とか須藤をフォローしようと試みるも、クラス内の反応は悪い。山内と池ですら、その声に張りはなく疑念が渦巻いているように見えた。

 暴力事件と同じ構図。暴力を振るったのは本当だが、仕掛けてきたのは向こうだと訴える須藤。

 偽の過去問を売りつけたのは本当だが、それを持ちかけてきたのは向こうだと訴える須藤。

 2つの事件が連続して起こり、そのどちらも須藤は悪くないと訴える。その現状は、限りなく須藤の信頼を地に落とす。

 

「っ……お、おい……お前ら何だよ、その反応……」

 

 そしてその反応に須藤もまた気づく。

 Dクラスの生徒から向けられる疑いの目。完全なアウェーの状態に陥っていることに。

 元々クラス内からの評価など気にしていないだろうが、さすがの須藤もこの状況には堪えているようだ。動揺し、自らの無実を必死に訴えようとする。

 

「俺は何もやってねぇよ……!」

 

「……勿論、僕は信じるよ。須藤くん」

 

 クラスの中心人物と言える平田もまた須藤の援護に回るが、その程度で須藤への疑念が晴れる筈もない。

 そして何より問題なのは……暴力事件の目撃者を探そうというDクラス内のその空気が薄れているところだ。

 このまま決めていた通り、聞き込みに移ったとしてもそのやる気は今朝の時より格段に落ちるだろう。池や山内ですら何か適当な言い訳で協力に応じないかもしれない。他の生徒、須藤を好ましく思っていない大多数のクラスメイトなら尚更。

 

「さすがだな須藤。クラスメイトからの信用も0かよ」

 

「っ……テメェ……石崎……!」

 

 そしてその疑いをかけられた原因である石崎に、須藤は怒りをぶつける。その手を拳の形にし、今にも殴りかかってしまいそうだ。オレは仕方なく、そこに割って入る用意をする。

 須藤がここで石崎を殴ってしまえばそれこそアウトだ。目撃者多数。疑惑は真実に変わる。止めなければDクラスは更なる窮地に陥ることになる。

 その可能性に気づいたのはオレ以外に櫛田や平田か。オレと同じように須藤に近寄っていく。

 

「はーい、そこまで」

 

 そしてそんな時、1人の女子生徒が場違いな明るい声と共にオレ達よりも早く須藤と石崎の間に割って入ってきた。

 明るい金髪のボブカット。右側の髪をまとめてサイドテールにしたその少女は、以前にも何度か見たことのある生徒だ。身長は女子にしては高めで池よりも大きいように感じる。そしてそのスタイルはいっそ目の毒になるほど。ブレザーを押し上げる大きな胸に、制服の上からでも分かるウエストの細さや白い太腿の眩しさなど非の打ち所がない。顔の造形もあどけなく、可愛いと何度でも言ってしまいそうなほどで、それでいながらどこか同年代とくらべて大人っぽい雰囲気もある。

 そして何よりこの状況で動じていない。以前図書館で一之瀬という生徒と共に喧嘩を止めた時も思ったが、かなり度胸があり落ち着いている。ピリついた空気の中でも動じず変わらない明るさ。ともすれば異質にも思えるその笑顔がそう感じてしまう理由だろう。

 

「麗ちゃん……」

 

 櫛田がその割って入ってきた生徒の名前を口にする。そう、名前は確か南雲麗。Bクラスの生徒だ。優秀なBクラスの中心人物にして元アイドルであると噂で聞いた。

 

「話はちょっとだけ聞いてたけどこんなとこで喧嘩なんてしないしなーい。ほら、笑顔笑顔ー」

 

「っ……や、やめろ南雲……」

 

「な、何すんだ……!」

 

 その南雲という生徒は石崎と須藤の間に割って入ると、2人の頬を両手の人差し指で突っついて笑顔を浮かべさせようとする。本人も口角を上げて、白い歯を見せた完璧な笑顔だ。元アイドルに笑顔で突つかれた石崎も須藤もついドキッとしてしまったのだろう。顔を少し赤くし、照れ隠しのようにその手を振り払って一歩下がる。そしてそれすらお見通しなのだろう。南雲の表情が今度はいたずらっぽい笑みに変わった

 

「石崎くんも須藤くんも照れちゃって~。それで、どうする? どうせ喧嘩するなら3人でゲーセンにでも行かない? 私今日は格ゲーやりたい気分なんだよねー。スト5やろうよスト5」

 

「て、照れてねーよ!」

 

「や、やらねぇよ……」

 

「ザッキンの方が良かった? それともギルティ? 鉄拳かバチャファイでもいいよ?」

 

「そういう問題じゃねーよ!」

 

 南雲の気の抜けるような誘いに石崎のツッコミが炸裂する。格ゲー……格闘ゲームのことだろうが、ゲームが好きなのだろうか。格闘ゲームってそんなに種類があるのか……とちょっと感心してしまう。

 

「そっか。じゃあこんなところで喧嘩はやめて解散しよっか」

 

「……チッ……わかったよ……」

 

 そして改めて喧嘩を止めるように言えば、石崎は素直に引き下がる。怒る須藤にあれだけ挑発していた石崎だが、どうやら南雲を巻き込みたくはない様子だった。

 

「石崎……てめぇ、覚えてろよ! 俺に変な疑いかけやがって! 絶対に俺の無実を──」

 

「どーどー。須藤くんも落ち着きなって。桔梗ちゃんも手伝って」

 

「う、うん! どーどー」

 

「か、かわいい~!」

 

 暴れる馬を抑えるように南雲と櫛田が須藤の前で両手を上げてガードする。その気の抜ける光景。美少女バリアーに背後の池と山内が目をハートにして興奮していた。さすがの須藤もそれを押しのけることは出来ない。落ち着いてようやく怒りを収めてくれた。

 

「ありがとう、南雲さん。仲裁してくれて」

 

「あー洋介くんおひさー。どう? サッカーの調子は?」

 

「はは……調子は、うん、悪くないかな」

 

「よ、洋介、くん……!?」

 

「アイドルに名前呼びされてるなんて……! 平田の野郎!」

 

 喧嘩を止めたことに対して礼を言う平田。どうやら2人はもう既に知り合いのようだ。

 というより、知り合いじゃない方がもしかしたら珍しいのかもしれない。櫛田も以前見かけた時から友達だったようだし、他のDクラスの生徒も南雲が入ってきたことに歓迎し、南雲が手を振れば残っている生徒の大半が手を振り返していたし、知り合いじゃない生徒もまた南雲のことを一方的に知っているのだろう。興味深そうに、あるいは男子などは下心を覗かせる視線を向けていた。……さすがに池と山内ほどではないが。

 

「それでそっちは須藤くんだよね。久しぶり~」

 

「あ? つーかなんで俺の名前……?」

 

「やだなぁ、前に図書館で会ったじゃん。名前は1年生の生徒は大体覚えてるってだけ。だからほら、そっちの2人も覚えてるよ。多分、どっちかが池くんと山内くんでしょ?」

 

「お、俺らの名前まで!? お、俺が池です! 池寛治!」

 

「お、俺は山内春樹! 中学では卓球でインターハイと甲子園で4番でエースで……!」

 

「あはは、よろしくねー池くん、山内くん」

 

 そう言って池と山内に手を差し出し、握手をする南雲。どうやら相当顔が広いだけでなく記憶力も良いらしい。図書室で以前に出会ったことも覚えていたようで、背後にいた池と山内の名前も当ててみせる。

 そしてその2人は握手した右手の手首を大事そうに左手で掴んでいた。少し、いや、大分気持ち悪い表情をしているが、それを見ても南雲の表情に変化はなく自然な笑顔を浮かべている。

 ……まるで櫛田みたいだな。知り合ってもない生徒の名前すら覚えているとか、意欲がなければ出来ないことだろう。それに池や山内にもこの神対応。あるいは櫛田以上のコミュニケーション能力を持っているのかもしれない。

 この分だとオレの名前も知っているだろうなと少しだけ期待しながら名指しされるのを待つ。

 

「それで、そっちの君は……」

 

「…………」

 

「……誰だっけ?」

 

 ……が、期待は裏切られてしまった。その笑顔が逆に苦しい。そして周囲の池や山内がオレをからかうようにニヤニヤと声を掛けてきた。

 

「残念だったな」

 

「まあ頑張れよ。南雲ちゃんに覚えてもらえるようにな」

 

 池と山内も何もしていない筈だが、それでも2人はオレに対して勝ち誇った表情を浮かべていた。ただ名前を知られているというだけでこんなにも男子のテンションを上げられるんだからアイドルってのはすごいな。ちょっと理解は出来ないが。

 

「なーんてね。知ってるよ。綾小路くんでしょ? 地味にかっこいい人がいるって女子が噂してたし、須藤くん達の友達って聞いてるからね。前に見た図書室でも一緒にいたし、多分そうでしょ? どう? あってる?」

 

 ……と思っていたら鋭い推理で名前を当てられる。なるほど、芸能人に知られているというのは少しだけ嬉しいかもしれない。アイドルがどうとかは関係あるかは分からないが。

 

「……あってる」

 

「そっか。綾小路くんもよろしくねー」

 

「ああ。よろしくな、南雲」

 

 笑顔で差し出された手を掴んで握手する。アイドルと握手か……アイドルはよく握手会というのをしてるらしいが、こうして実際に握手してみると確かに妙な感慨を感じなくもない。単純に白くてすべすべだし、美少女の手が心地いいだけかもしれないが。

 だがそれだけではない芸能人のオーラのようなものを感じるといえば感じる。堀北兄が出しているような存在感とはまた違った存在感。そこにいるだけで自然と場が華やぐような雰囲気。男女問わず周囲を惹きつけるその美貌と親しみを感じられる明るい振る舞い。それでいて先程も言ったように場が荒れている時ですら自分のペースを崩さないからか不思議な頼もしさを感じる。総じて、魅力的だと言わざるを得ない。

 それらの魅力に周囲も気づけば南雲の一挙手一投足に注目している……なるほど。これでは池達が舞い上がってしまうのも無理ないか。

 

「それで話の続きなんだけどさ。何でも今トラブってるんだって?」

 

「あ、うん。そのことでちょうど他のクラスに聞き込みに行くところだったんだ。もしかして、もう知っちゃってる?」

 

「聞いてるよー。そっちの須藤くんがCクラスの男子3人を殴って怪我を負わせちゃって、その喧嘩をどちらから仕掛けたかで証言が食い違ってる。だから、Dクラスの方は須藤くんの無実を証明するためにこれから聞き込み……で合ってるかな?」

 

 櫛田の質問に答えた南雲の言葉に池達も驚く。他のクラスの生徒が、こうも早く情報を入手しているというのは中々に衝撃的だ。いっそ、裏を感じてしまうほどに。

 

「私、情報通だからねー」

 

 だが南雲は指でピース。Vサインを作って自らそれを自慢する。どうやって知ったのかと不思議に感じるが、もしかしたら教師から説明があったか、噂を拾ったのかもしれない。ポイントが振り込まれていないことは1年生全体に周知されているし、何かトラブルがあったことも少し考えれば分かる。教師に尋ねれば詳細なことを教えて貰えるかもしれないし、そうでなくとも友達が多ければ噂も拾えるだろう。見たところDクラスにも櫛田を筆頭に友達がそれなりにいるようだしな。

 

「そっか。それなら聞きたいんだけど、麗ちゃん目撃者とか知らない? 先週のことなんだけど、場所は特別棟の3階で──」

 

「残念ながら私は知らないかなー。でもBクラスには知ってる人がいるかもだから聞いてみるねー」

 

 櫛田が詳しい情報を口にしながら尋ねるが、南雲はそれに対して首を振りながらポケットから携帯を取り出して操作する。おそらく友人にも南雲の方から情報を募っているのだろう。友人が多くBクラスの中心人物であればあるいは期待が持てるかもしれない。

 

「まだ放課後になってそんな時間も経ってないし、すぐ返信くると思うけど……あ、来たね。えーと『知らない』『分からない』『そんなことあったんだ』『見てないかなぁごめんね麗ちゃん』などなど……」

 

 だが、その速度。統率力は凄まじかった。

 スマホをスクロールしながら画面を見る南雲はクラスメイトからの返信に目を通しているのだろう。その動作は女子高生らしく淀みない。軽く読み上げながら約1分。それらに目を通した南雲は早くも結論を出す。

 

「ダメっぽいかなー。まだ全員から返ってきてないから分かんないけど、今のところ27人が知らないって言ってるし。後残り12人は部活でもう携帯置いちゃったかな?」

 

「……クラスメイト全員ともう連絡を取ったのか?」

 

「そんな大げさな言い方。クラスのグループチャットに送っただけだって。Dクラスにはないの?」

 

 ない……と思いたい。あったらオレは誘われてないことになるからな。オレとしてはないとしか言えないが……おそらく全体に近いグループチャットはあってもクラス全員が参加してるものはないだろうな。堀北や高円寺がそういったものに参加するとは思えない。

 

「あはは……全体のはないかなぁ。でも確かにあったら便利そうだね」

 

「別に仲良くお話するって訳じゃなくてもクラスの連絡網的な感じでも使えるしおすすめだよー。あ、また返信来た」

 

 櫛田がそう言うなら本当にないのだろう。なくてよかった。

 そして南雲の方は先程から携帯を取り出したまま指を動かしている。どうやらひっきりなしに連絡が来ているようだ。やはり人望も厚いようだった。

 ……もしかしたらBクラスに、いや、南雲に協力してもらえれば目撃者探しは捗るかもしれない。ただ、だからといって頼んでいいかどうかは判断が難しいところで……。

 

「ん~……やっぱ目撃者はそう簡単に見つからないねー」

 

「そっかぁ……Bクラスがダメっぽいなら、次はAクラスか上級生かな? 綾小路くん」

 

「ああ、そうだな。Cクラスには聞き込みは難しいだろうし、その方がいいだろうな」

 

 櫛田の意見に頷きながら、オレは迷う。ここで南雲に声を掛けるのは簡単だが、当然他のクラスに知られるリスクは存在する。さて、どうするか……。

 

「あ、それなら私も協力しようか? 人手欲しいでしょ? 私がいれば百人力だしね!」

 

 と考えていたら南雲の方からそう提案してきた。そして、この流れで言われると中々に断りにくいところだ。池や山内はアイドルとお近づきになるチャンスとか言って賛成するのが目に見えるし、櫛田も南雲を信用しているようだしな。

 

「えーっと……どうしよっか?」

 

「そうだな……」

 

 だがさすがに櫛田も即決は出来ない問題だと分かっているのかもしれない。一応こちらにも意見を聞いてきたので、オレは結論を出そうと声を出そうとするが……。

 

「それには及ばないわ」

 

「っ……堀北!」

 

 そこで背後から、先に帰った筈の堀北の声が飛んでくる。それを見た須藤が嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「お前、やっぱり俺のために手伝って……!」

 

「勘違いしないで。私は教室前でDクラスの生徒とCクラスの生徒が争っていると聞いたから戻ってきただけ。そして……その争っていた生徒とはあなたのことでしょう。須藤くん」

 

「うっ……それは……」

 

「それに過去問がどうというのも耳にしたわ。それは中間試験の時の件であってるかしら? 売ったとかどうとか聞こえたのだけど……もしかして、あなたがなくしたと言っていた櫛田さんの過去問は他の生徒に売りつけたんじゃないでしょうね」

 

「ッ……ち、違うんだ堀北。あれは……あいつらが俺を嵌めるために……!」

 

「だとしてもそれはあなたの落ち度よ。それに、裏切りでもある。大方ポイント欲しさにしたことなのでしょうけど、中間試験の過去問を他のクラスの生徒に売るのは明確な背信行為よ。それを理解している?」

 

「そ、それは……」

 

 堀北はやって来るなり、南雲の登場でうやむやになっていた過去問を売った件を問い詰めて責める。須藤は苦しそうだが、これは自業自得と受け止めて貰うしかない。むしろ、そうでなくては困る。

 

「まぁまぁ。須藤くんだって反省してるみたいだし、その辺にしときなよ」

 

「部外者が口を出さないでくれるかしら。あなたは他のクラスの生徒よね? これは私達のクラスの問題よ。面白半分で首を突っ込まないでもらえるかしら」

 

 そして須藤が責められているのを見て南雲がそれを庇う。相変わらず動じることのない笑顔だが、堀北もまたそれで怯むような性格じゃない。容赦なく刺々しい言葉を南雲に浴びせる。

 

「他のクラスの生徒でも解決に協力したらいけないかな?」

 

「当然でしょう。裏があるようにしか思えないわ」

 

「でもほら、私達だってポイントが振り込まれてないんだから関係者といえば関係者じゃない? 早く解決してくれないと私達BクラスやAクラスだってポイント貰えないんだからさ。これでも部外者だって言うつもりなのかな~?」

 

「それは……確かに、私達の問題で迷惑を掛けているのは認めるけど、それでも信用出来ないわ」

 

 南雲の笑顔の言葉に堀北がやや怯みを見せるが、それでも切り返す。確かに他のクラスの生徒ということで少し抵抗を感じるのも無理はないが、そこまで敵視する必要はないと思う。

 

「そもそもなぜあなたがこの問題について知っているのかしら。この問題の説明があったのは朝のHRよ。噂を拾うにしても早すぎるわ」

 

「担任から普通に聞いたって可能性もあると思うけど……ま、いいや。別に隠すことでもないしね。信用してもらうためにも教えてあげるよ」

 

「何を言ったところで私があなたを信用することは──」

 

「生徒会役員だからね、私」

 

「っ……!」

 

 南雲がその言葉を告げた途端、堀北の表情が一瞬にして強張る。生徒会。それは堀北のウィークポイントとも言える肩書だ。

 

「再来週に行われるこの事件の審議に、私も参加するよう会長から頼まれちゃってさ~。だから予め知ってたんだよねー」

 

「……そう。だとしても……あなたが信用に値する人だという保証はないわ」

 

「え~? この学校の生徒会だよ? この学校で1番優秀だって言われてる生徒会長に認められてるんだから信用してほしいな~」

 

「っ……そう、ね。だけどそれは……」

 

「真相解明に協力したいだけなんだって。私バスケ好きでさ。須藤くんにしても小宮くんや近藤くんにしてもどっちも停学で練習にも大会にも出られないって可哀想だしね」

 

「…………」

 

 変わらない笑顔から繰り出される南雲の言葉の連続に遂に堀北が黙る。思考しているのだろう。協力を要請するかどうか。あるいは、先程の一件も含めて、改めて須藤を突き放すかどうか。

 調査に協力しないと明言した堀北だが、その理由は須藤が問題を理解していないことだろうからな。加えて過去問の件も浮かびあがってきたとなると、堀北の中で須藤の評価は更に下がっているだろう。

 なので掘北からすれば須藤の暴力事件の調査に、自分が参加する理由も、南雲が関わってくる理由もないと突っぱねるのも1つの答えだが……しかしデメリットも大きいだろう。オレは助け舟を出してやることにした。

 

「いいんじゃないか、堀北」

 

「……綾小路くん」

 

 堀北の視線がこちらに向けられる。いつもよりほんの少し弱まったその視線を受けながら、オレは平然と口にした。

 

「堀北が手伝わないなら南雲に手伝ってもらうのは良い代わりになる。南雲は優秀みたいだし、()()()()()()()()この一件を上手いこと解決してくれるんじゃないか?」

 

「っ……!」

 

 オレがそう言った途端、堀北の睨みが強くなりオレを貫く。今の言い方は気に障ったかもしれないな。とはいえこのくらい言わないとお前は手伝ってくれないだろ。

 堀北はオレのその挑発じみた言葉を聞いても、しばらく黙りこくっていたが、遂に結論を出したのだろう。ゆっくりと声を出した。

 

「……いいわ。私も手伝うことにする。それに……あなたの協力も、受け入れることにするわ」

 

「ま、マジかよ堀北!」

 

「堀北さんだけじゃなくて南雲ちゃんも……!?」

 

「なんか何とかなりそうな気がしてきたた……!」

 

 堀北が意見を反転させて須藤のことを手伝い、更に南雲の協力も認めたことで須藤や池達が沸き上がった。須藤にとっても池や山内にとってもこの結果は喜ばしいものだろうな。

 そして南雲もまた、この結果に喜ぶ。その目が僅かに細まった。

 

「……あはは、断られる雰囲気だったからどうしようかと思っちゃったけど結果オーライだね! 私は南雲麗。そっちは?」

 

「……堀北、鈴音よ」

 

「よろしくね、()()()()()

 

「……ええ、よろしく。南雲さん」

 

 南雲から差し出された手を、堀北が応じる。人を惹きつける明るい笑顔を見せる南雲と、人を寄せ付けない冷たい表情のままそれに応じる堀北。

 どこか対照的な2人の握手を、オレもまたどこか冷静な視点で見ていた。




色んな意味で正反対。堀北妹と南雲妹の出会いでした(ついでに綾小路くんとも)

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