ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

17 / 96
無人島試験編
無人島ロケは鉄板


 アイドルという職業が最も映える季節。それはいつだろう。

 ある人は春だと答える。春は出会いの季節。制服。桜。温暖な気候は確かにアイドルが映える。

 ある人は秋だと答える。秋はスポーツ。食欲。読書。紅葉。様々な要素がありどれを取っても美味しい。まさに、アイドルにうってつけの季節だ。

 ある人は冬だと答える。冬は雪や氷が綺麗でロマンチック。クリスマスにお正月にバレンタイン。イベントが目白押しでアイドルと一緒に過ごしたいと思う人は多い筈だ。

 だが、やはり最も多いのはこの季節だろう──夏。

 海に山。薄着。照りつける太陽に真っ白な砂浜。バケーションの季節であり、女の子は開放的になると信じられている。

 そして何よりも……水着。そう、アイドルの水着を見たくない男などこの世に存在しない。

 

「そうは思わないかな? 龍園くん」

 

「目の保養になるのは認めてやるよ」

 

 真っ青な空の下。真っ青な海の上。豪華客船の甲板で、ワイルドな男の人とパラソルの下。水着で彼を悩殺しちゃうかも? 

 ──なーんて、アホなことを考えてみる。確かに、見た目だけならそこまで悪くないけどそれでも絶世の美少女である私とは釣り合わないし、そもそも2人ともお付きのアルベルトくんと神崎くんを連れてきているからデートでも何でもない。これはただの、ちょっとした会談だ。

 

「それで、用件は何だ?」

 

「前に話した用件だよ。一時的に協力関係を結ぶ件。もしかしたら延長したいって言い出さないかなと思って確認に来たんだけど……どうかな?」

 

 私は早速用件を切り出す。辺りに人は……いないこともないけど距離は離れてるしCクラスとBクラスの生徒である程度人払いをしてるので他のクラスに聞かれる心配は一応排除してる。……まあ聞かれたところでって感じだけども。

 私がトロピカルなドリンクをストローでちゅーちゅー吸って返答を待ってみると、龍園くんから則座に返答が来た。

 

「協力? 何だ、クラス同士一緒に仲良く遊びたいとでも言うつもりか?」

 

「またまたぁ。気づいてるくせに。十中八九、この2週間の旅行で学校側から何らかのイベントが起きるのは何となく想像がついてるでしょ?」

 

「クク、まあな」

 

 私がそう言えば、龍園くんは悪どい笑いを浮かべる。──そう。私達1年生は、今学校側が主催した2週間の旅行に強制的に参加していた。

 豪華客船を丸々使っての2週間の船旅。及び、常夏の島でのバカンスだ。勿論遊び放題で、客船にあるプールやレストランやシアター、高級スパなど各種施設は無料で使えるし、島についてからもペンションで快適な休暇を楽しむことが出来るとのこと。

 それは今のところ確かに有言実行されているが……学生の旅行にしてはあまりにも贅沢なこの旅行。何か裏や意図だらけしか感じないこの学校では、何かが行われると考えるのが一部の人間の考え方だ。

 なので島につくまでのこの時間も有効的に使う必要がある。備えておくに越したことはないからね。数少ない裏が読めているであろう龍園くんにこうして話しかけに来たのもそんな理由からだ。有栖ちゃんはこの旅行は残念ながら欠席だし、消去法で。何も考えてない生徒に話したところでしょうがないからね。

 

「それでお前は、何かが行われた時のためにこうして裏工作に励んでるって訳か。ご苦労なことだな」

 

「裏工作というか……優しさかな?」

 

「あ?」

 

 私が本音を口にしてあげれば、龍園くんは意味を量りそこねたようで怖い声で言外に「どういう意味だ?」と問うてくる。まあ分からないならしょうがない。なので私は親切に答えてあげた。

 

「せっかく協力関係にあったクラスなのに、容赦なく潰しちゃったら可哀想じゃん。だから一応、今回も組んであげよっか? って律儀に聞きにきただけだよ」

 

「──言うじゃねぇか」

 

 瞬間、龍園くんの圧力が増す。暴力的な気配。その不穏すぎる空気にアルベルトくんがやはり怯え、横にいた神崎くんも僅かに硬くなったように見えた。さすがとしか言いようがないね。龍園くんのこの人を怯えさせる能力には私も感心せざるを得ない。私じゃどうしたって可愛すぎて中和されちゃうしね。

 

「Dクラスの雑魚1人すら潰せなかった分際で俺に勝てると思ってんのか?」

 

「それはそっちも同じでしょ? 偽の監視カメラに騙されて訴えを取り下げるなんて下の教育がなってないんじゃないかな? せっかく肉付けして手伝ってあげたのにさ」

 

「手を貸してやったのは俺も同じだ」

 

 笑顔を浮かべ、こちらを睨んでくる龍園くんと見つめ合う。夏なのに空気が冷え冷えだ。いっそ涼しくていいかもね。

 

「……あの1件で手打ちにしてやったのはお前のやり方を見極めるためだ。それが終わった以上、今は手を組む必要はねぇな」

 

「あのくらいで全部見破られたと思われるのは心外だなぁ……でもいいよ。そういうことなら今回は普通にやり合おっか。私としてもそろそろ見える成果を上げたいところだからね」

 

「クク、築き上げた信頼が地に落ちないよう精々頑張るんだな」

 

 交渉は決裂。なので互いに宣戦布告だ。今回、どんなことが行われるとしても最大の敵は龍園くん率いるCクラスで向こうもまた私達を1番の脅威として見定めているだろう。

 ──だが一方で、お互いに気になるクラスが1つある。それはDクラス。私の仕掛けも龍園くんの仕掛けも、Dクラスには潰されてしまった。

 だからそういう意味じゃ、今回でDクラスを改めて見極める必要があると考えている。龍園くんは鈴音ちゃん。そして私は綾小路くんを。

 綾小路くんのことは龍園くんに教えてないし、まあ精々見極めを頑張ってもらおう。私は私で仕掛けるだけ。それを思い、席を立つ。

 

「あ、でも内容によっては普通に組むかもしれないからその時はよろしくねー」

 

「ハッ……いいだろう。その時は友好の証にお前で遊ばせて貰いたいもんだな」

 

「残念。その程度じゃ釣り合わないよ」

 

 龍園くんの下品な冗談に普通に返しつつ「じゃあねー」と後ろ向きに手を振って別れる。やっぱり口では挑発しながらも交渉や手を組む余地を残している辺り龍園くん抜け目ないというか色々考えているみたいだ。この時点だと何も分からないから断言したところで損しかないしね。まあそれでも手を組むって言うなら乗ってあげるのも吝かではなかったけど龍園くんも龍園くんで成果を求めてるみたいだし。王様は互いに大変だね。

 

「さて。着替えて準備しようか。お昼には島につくみたいだし」

 

「ああ。……それにしても学校側は島で何をさせるつもりだ?」

 

 甲板から部屋への道を行きながら、隆二くんと会話する。私の予想にすぎない考えを確定事項のように話してくる辺り、隆二くんもその可能性が高いと踏んでいるのだろうし、私への信頼もあるんだろう。その信頼には応えてあげないとね。

 

「分かんないけど島でわざわざ学力試験させるとも思えないし、テレビ番組的なノリかもよ?」

 

「テレビ番組的なノリ……?」

 

「無人島で1ヶ月0ポイント生活! みたいな」

 

「さすがにそれは……ありえないだろう。ただの学生がサバイバルをしてそれほどの長い期間無事に過ごすことが出来るとは思えない。体調不良や怪我人で学校の責任問題になるだろう」

 

「そうかなー。私は意外とありだと思うけどね。楽しそうだし」

 

「楽しいか……?」

 

 私のふざけた予想に「ありえない」と返してくれる隆二くん。実際どうなんだろうね。島ってのが怪しいし、工夫すれば無理とも言い切れないからその可能性を捨て去ることは出来ない。島に行くからには島でしか出来ないことをやる筈だし──と、そんなことを考えながら移動していると見知った顔を見つけたので声をかける。

 

「あ、伊吹ちゃん。やっほー」

 

「…………」

 

 Cクラスの伊吹澪ちゃん。ショートカットと綺麗な足が素敵な見た目80点超えの女の子が私を見るなり、嫌な表情を浮かべる。近寄っても逃げはしないが、相手をするつもりもないようでそっぽを向いていた。

 

「こんなところで何してんの?」

 

「……別に。あんたには関係ないでしょ」

 

「関係なくたって教えてくれたってよくない?」

 

「……それじゃ」

 

 私が絡みにいくと一応返事はしてくれたが、すぐにその場から離れていく。その去っていく後ろ姿。姿勢は綺麗で体幹も素晴らしい。やっぱり何かやってるのかな。気になる。Cクラスの女子の中じゃ伊吹ちゃんが龍園くんの側近っぽいし、多分何かしら秀でた部分があると思うんだけど……この通り中々相手にしてくれない。それを見て、隆二くんは端的に呟いた。

 

「逃げられたな」

 

「残念。今日こそはお近づきになりたかったのに」

 

「1年の中で南雲を避ける生徒はただでさえ珍しいが……その中でも伊吹のそれは徹底しているな」

 

「多分龍園くんの指示じゃない? バレるまでは極力実力を隠すように動いてるんだと思うよ。あるいはうちのユキちゃんみたいに情報収集中とか」

 

「……なるほどな。南雲はとにかく目立つ。一緒にいては満足に諜報活動に励めないということか」

 

「それほどでもないかなー」

 

 実際今もかなりの視線が私に向けられている。男子からすれば目を離せないだろうな。アイドル時代の私はあんまり脱ぐことはなかったし、生アイドルの生の水着姿を脳内フォルダに保存しているんだろう。結構なことだね。

 まあ中にはそれだけでなく、純粋に他クラスのリーダーとして注目している目もあるだろう。Aクラスの生徒なんかはそんな感じだ。何しろすぐ下に差し迫ったライバルクラスのリーダーだからね。警戒するに越したことはない。

 

「それじゃ一旦別れよっか。着替えてくるから甲板に集合ね。帆波ちゃんや他の皆にも声掛けといて」

 

「わかった」

 

 だが今は伊吹ちゃんの1人に構ってる暇もないし、準備をしておこう。客室に近づいてきたところで隆二くんと別れて着替えに戻る。

 

「あ、麗ちゃん!」

 

「もしかしてそろそろ集合? 神崎くんから連絡来たよ」

 

「まあもうちょっとは大丈夫だと思うけどねー。でもそろそろ遊びはお開きにした方がいいかも」

 

「りょうかーい」

 

 部屋に戻ると、同室の安藤紗代ちゃんと南方こずえちゃんがちょうどシャワーを浴びて着替え終わったところなのだろう。学校指定のジャージ姿でそこにいた。生徒の部屋は4人で1部屋だから私とこの2人は同室で残り1人はユキちゃんだ。

 ちなみに紗代ちゃんとこずえちゃんはどっちも運動が得意な生徒で、特に紗代ちゃんの方はバレー部に所属してるBクラスの女子の運動能力最上位の生徒だ。身長も高いし、ジャンプ力も高い。ついでに胸も大きい。学力もそこそこ。Bクラス全体に言えることだけどアベレージが高くて基本優秀ではあるんだよね。まあこずえちゃんの方はあんま頭良くないけど。それでも運動能力が高いから良い。使い道は幾らでもあるからね。

 

 ──と、そんな訳で私もさっさと着替えて準備しておく。隆二くん達と合流しようと部屋を出たところで船内にアナウンスが流れてきた。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

「──あ、隆二くん? 今の聞こえた? 私達も景色見るから先に場所取りお願いね」

 

『わかった』

 

 アナウンスを聞くと、すぐに隆二くんに連絡を入れて場所取りの指示を出しておく。早めに行動、早めの指示。念のための行動だ。こういうところで差が出るからね。

 私は一緒にいた紗代ちゃんとこずえちゃんを連れ立って船の甲板に出ていく。そこまで遠くはない。数十秒程度。それだけの時間をかけてデッキにつけば、既にそこには大勢の群衆が集まっていた。私はその中から隆二くんを見つけると手を挙げて呼びかける。

 

「場所取れた?」

 

「一之瀬達が陣取っている。あっちだ」

 

「いいね。それじゃ皆で島の景色でも見よっか」

 

「どんな島なんだろ?」

 

「ね。楽しみ」

 

 何とも呑気なことを言う紗代ちゃんとこずえちゃんを連れて隆二くんについていく。Bクラスの集まりである集団に近づけば、皆が道を空けてくれた。そうして労せずして船の端。ベストポジションに辿り着く。するとそこで待っていた帆波ちゃんが声を掛けてくれた。

 

「麗ちゃん! こっちこっち!」

 

「場所取りありがとね、帆波ちゃん」

 

「ううん。全然。それよりほら、もう島が見えてきたよ」

 

 やはり持つべきものは優秀な友達とこちらの指示にしっかり従ってくれる友達だ。にこやかにお礼を言いつつ、私は帆波ちゃんの指差す先──その目的の島を肉眼で捉える。さーて、意義ある景色ってのはどういうものかな? 

 

「あれ、すぐに桟橋に降りないんだ?」

 

「ん~?」

 

 帆波ちゃんの疑問に私も訝しみながら島の外観を眺める。……これはやっぱりただの休暇じゃないっぽいなー。予想してたけど、普通に遊ばせてくれるならそれはそれで楽出来たんだけどね。私は帆波ちゃんと隆二くんに声を掛ける。

 

「2人とも出来るだけこの景色を覚えといてね。地形とか何があるかとか。携帯で方角も見ながら」

 

「……うん。わかった」

 

「了解した」

 

 さすがに2人もちょっと違和感を感じたのだろう。島を周回する速度。景色を見せるにしても速すぎるし、意味深すぎる。

 その間に私は島の情報を思い出し改めてインプットしておく。島の面積が約0.5k㎡で最高標高が230m。大体千葉にある有名遊園地と同じ敷地面積だが、森や山ということを考えると想像以上に広く感じるだろうね。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え──』

 

 そして島の景色を堪能させてくれた後、そんなアナウンスが再び流れる。なーんだ。これならまだ水着のままでも良かったね。失敗した。ちょっと石橋を叩きすぎたかな。

 とはいえ特に問題はない。私は学校からの指示に従うようにクラスに号令をかける。別に言わなくても皆良い子だから従うだろうけど、こういうのは常に意識してリーダーとしての姿勢を見せることも重要。私の言う事を自然と聞くようになるし、いざという時に素早い行動が取れる。一糸乱れぬ統率とはこういう細かなところから出来上がるものだ。

 と、そうして着替えて戻れば次は上陸。Aクラスの生徒から順番に上陸するようで、教師達による荷物検査が行われる。……にしても厳重だねー。保安検査場かな? いやさすがにそこまで厳重じゃないけど、身体検査が無駄にちゃんとしている。なーんか不自然なんだよなぁ。

 

「次。Bクラスの生徒──」

 

 そしてAクラスが全員上陸すれば次はBクラスの番。お行儀よく並んで順番に上陸していく。それもまた地味に時間がかかったが、Bクラスってこともあって順番はすぐに来た。

 

「茶柱先生に知恵ちゃん先生。変なとこ触らないでくださいねー」

 

「変なところってどこかな~? もしかして……ここに私物とか~隠してたりして~?」

 

「きゃーやめてーお代官様ー」

 

「やめろバカ。さっさと検査を済ませろ。後が詰まっている」

 

 女子の身体検査を担当する知恵ちゃん先生と茶柱先生に冗談を言えば、知恵ちゃん先生はノッてくれた。しかし茶柱先生に怒られる。そして検査だ。さすがに胸の谷間までは調べられない……と思っていたらさり気なく茶柱先生に触られた。ここならもしかしたら何か持ち込めるかも? と考えはしたけど実行しなくて良かったね。

 

「やっぱ……何かあるのかな?」

 

「あるだろうね。覚悟しておいた方がいいよ」

 

「うん」

 

 私の次に検査を終えた帆波ちゃんも怪しむように言う。砂浜でテントや長机、パソコンなどを用意している作業員もいるし、これは明らかにただの遊びではない。

 周りの観察をしながらCクラス、Dクラスと降りてくる生徒達も確認する。どうやら欠席者は有栖ちゃん以外はいないらしい。当然か。こんな南の島でのバカンスを欠席する生徒なんて普通はいない。

 そしてしばらくすればAクラスの担任の真島先生が1年生の前に出てきた。話すのはまず有栖ちゃんの病欠のことと前置き。硬い表情を浮かべる先生たちを見ているとその緊張感が伝わってきた。

 

「では、これより──本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

「ああ。やっぱり」

 

 その真島先生の発言に多くの生徒がどよめく。Bクラスの生徒も例外じゃない。ほぼ全てのクラスから驚きがきた。相変わらずこの学校は生徒へのサプライズが大好きみたいだ。多分だけどこうして不意打ちで冷静さを失わせるのも狙いの1つかもしれない。

 

「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了となる。君たちはこれからの1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる。なお、この特別試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的、かつ現実的なものであることを最初に言っておく」

 

「まさか南雲の言った通りになるとはな……」

 

「ほらね。だから言ったじゃん。島といえば鉄板なんだって。数字も取れるし」

 

 まあこれはロケでもなんでもないけどね、と少なからず驚き困惑気味の隆二くんに言葉を返す。それにしても無人島サバイバルかー。さすがの私もそこまで過酷なロケはしたことない。だってほら、中学生だったし。出たかったけどコンプライアンスが許してくれなかった。

 

「無人島で生活って……船じゃなくて、この島で寝泊まりするってことですか?」

 

「そうだ。試験中の乗船は正当な理由無く認められてはいない。この島での生活は眠る場所から食事の用意まで、その全てを君たち自身で考える必要がある。スタート時点で、クラス毎にテントを2つ。懐中電灯を2つ。マッチを1箱支給する。それから日焼け止めは制限なく、歯ブラシに関しては各自1つずつ配布することとする。特例として女子の場合に限り生理用品は無制限で許可している。各自担任の先生に願い出るように。以上だ」

 

「あ、やったね帆波ちゃん。日焼け止め制限なしだってさ」

 

「あはは……そうだね。それは嬉しいけど、でも……」

 

 私が呑気にそんなことを口にするも帆波ちゃんは難しい表情を浮かべてる。まあ気持ちはわかるよ。確かにサバイバルするのにそれだけじゃ心許ないしね。ただ、健康には配慮されてるように感じる。これなら案外平気そうだ。

 そしてその間にDクラスの池くんから文句が飛ぶ。アニメや漫画じゃないんだからありえないというお言葉に、真島先生や茶柱先生から厳しいマジレス。ただの学生で無価値なお前らの言う事なんて価値なんてないし一流企業のやり方を否定出来るだけの根拠も権利もないって話だ。

 ま、私はアイドルだから無価値じゃないけどね? なんて言ってみてもいいけど話を混ぜっ返すだけなのでさすがに言わない。真島先生の言いたいことはそういうことじゃないからね。意味のない反論をしても心象が悪くなるだけで何の得もないのだ。そもそも私も真島先生の言う事はその通りだと思うし。

 

「隆二くんの会社はこういう研修やってる?」

 

「親の会社での話ならうちはやってはいない、が……そういう話なら聞いたことはある」

 

「え、神崎くんのお家って社長さんなの? すごい!」

 

「親がすごいだけだ。それに社長といっても大したものじゃない」

 

 私が何となく尋ねたことを拾って帆波ちゃんが感心する。大したことはないって言うけどぶっちゃけ大したところだけどね。私は前に詳しく聞いたから分かるけど。卒業したらCM出演させてねって言ったら困惑していた。

 それから先生は他のクラスからの正論で反論した生徒には一応認めつつ、しかし批判が出るものではないと告げた。

 

「だが安心していい。これが過酷な生活を強いるものであったなら批判が出るのも無理のない話だが、特別試験と言ってもそれほど深く考える必要はない。今からの1週間、君たちは海で泳ぐのもバーベキューをするのもいいだろう。時にはキャンプファイアーでもして友人同士で語り合うのも悪くない。この特別試験のテーマは『自由』だ」

 

「自由、ね」

 

 自由なんて綺麗な言葉には大抵裏があるんだよなー。創作では鉄板だ。自由と言いながらそう簡単に自由にさせてくれない悩ましいルールでもあるんだろう。自由には責任が伴う。現実の社会でもそれは同じだ。

 

「この無人島における特別試験では大前提として、まず各クラスに試験専用のポイントを300支給することが決まっている。このポイントを上手く使うことで1週間の特別試験を旅行のように楽しむことが可能だ。そのためのマニュアルも用意している」

 

「アイドル黄金伝説! 無人島1週間クラスで300ポイント生活! ってことだね」

 

「その300ポイント内でやりくりするってことかな?」

 

「おそらくはそうだろうな。だが……それだけでは到底試験とは呼べない。真島先生の説明はまだ終わっていないし、まだ何かあるはずだ」

 

 私のふざけた発言は流されて真面目な予想が行われる。まあその隆二くんの意見には同感だけど。多分まだ色々あるね。これじゃ試験でも何でもないし。

 なんて、思っていたらその予想通り。マニュアルに載っているあらゆるものをポイントで買えることを説明した後にこの試験の根幹が明らかになる。

 

「この特別試験終了時には、各クラスに残っているポイント、その全てをクラスポイントに加算した上で、夏休み明けに反映する」

 

 その言葉に衝撃が走る。映画ならここが1番大事なシーンになりそう。なんて戯れ言は置いといて、なるほどね。確かにこういう試験ならまた新たな実力をテスト出来る。学力の低いCクラスやDクラスにも十分勝機があるね。

 

「つまり、仮に1ポイントも使わなければ夏休み明けには300ポイントが入って……」

 

「一気にAクラスに昇格もありえるってこと……?」

 

 そんな言葉がクラスメイトから呟かれる。まあそういうことなんだけども、まだこれだけじゃそれは難しいね。早くマニュアルを見せてほしいかな。とりあえずそれを見ながら考えたい。

 

「マニュアルは1冊ずつクラスに配布する。紛失などの際には再発行も可能だが、ポイントを消費するので大切に保管するように。また、今回の旅行を欠席した者はAクラスの生徒だ。特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいるクラスにはマイナス30ポイントのペナルティを与える決まりになっている。そのためAクラスは270ポイントからのスタートとする」

 

 あらら。有栖ちゃんマイナス30ポイント。中々手厳しいことで。

 それにしてもリタイアでマイナス30かー。他のクラスの生徒を10人リタイアさせればそれだけでポイントを0に出来るけど、さすがにそう安々とそんな戦略は取れないようになってるだろうね。

 その後は全員が身につける腕時計の説明が知恵ちゃん先生からされる。ここからは各クラスの担任が説明するとのこと。腕時計は、外したらペナルティ。完全防水で体温や脈拍、人の動きを探知するセンサーもあり、GPSも備わってる優れもの。万が一の時の緊急連絡装置でもあるらしい。何か起こったら押せってことだね。さすがにクマやトラが放し飼いにされてることはないと思うけど、これから危ない龍園くんは放し飼いにされることだし、いざとなったら通報出来る。まあ向こうもそれは承知の上でやる時はやってくるだろうけど。

 

「知恵ちゃんせんせー。マニュアル見せてー」

 

「ええ。勿論よ南雲さん。最後のページにマイナス査定の項目が載ってるからよーく見ておいてね」

 

「言われずとも見ますよ」

 

 早速私がマニュアルを受け取る。クラスからも異論は出ない。まずリーダーである私が確認だ。という訳で私達に協力的な知恵ちゃん先生は最後のページを見ておくようにアドバイスをくれたので、その通りに途中のページは一旦無視してそこを読む。整理すると。

 

 ・体調を崩したり大怪我をして続行出来ないと判断された生徒はマイナス30ポイントでリタイア。

 

 ・環境を汚染してるのがバレたらマイナス20ポイント。

 

 ・毎日午前8時と午後8時の点呼に遅れたら1人につきマイナス5ポイント。

 

 ・他クラスへの暴力、略奪、器物破損がバレたらそのクラスは失格で罰則を犯した生徒のプライベートポイントは全て没収される。

 

 まあなんとも当然のルールばかりだ。さすがにこの程度の穴は塞いでくるよね。大抵はバレなきゃ問題ないとも言えるけど、バレた時の罰則はそこそこだ。まあ大体理解した。その上で聞くべきことを聞いておく。

 

「先生。ポイントは0から下に変動しますか?」

 

「しないわ。マイナスになることはないわよ」

 

 はいはい。なるほどね。マイナスになることはないと。

 私はマニュアルを見て今度は購入可能な物のリストを確認していく。食料もあれば娯楽品もあるし、サバイバルに必要なものも必要じゃないものも大体揃ってる感じだ。

 その間にも知恵ちゃん先生の説明は続く。拠点を決める必要があることや、トイレについての説明もある。うんうん。ま、トイレは買おうかな。というか必要なものは惜しみなく買っていくつもりだ。無駄なものは買わないけど、トイレは無駄なものに該当しない。調達出来るものでもないし、ないと士気も下がるからね。たった20ポイントなら安いものだ──と、そう思った理由は知恵ちゃん先生が説明した追加ルールを聞いたからだ。

 

 ま、簡単に言えば島の各所に設置されているスポットを8時間に1度占有出来てその度にボーナスポイントが1ポイント手に入る。このボーナスポイントは試験終了後に使えるもので試験中に使えるものじゃないってことだ。

 後はスポットの占有には専用のキーカード。リーダーとなった人物が使用することが出来、リーダー以外は使用出来ないし、正当な理由なくリーダーを変更することは出来ない。他のクラスが占有してるスポットを許可なく使用すれば50ポイントのペナルティ。占有したポイントは自由に使用可能……と、まあこんなところだね。

 そして、このリーダーは7日目の最終日の点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられ、的中させれば1つのクラスにつき50ポイント獲得。言い当てられればマイナス50ポイント。更に外してもマイナス50ポイントで、更に集めたボーナスポイントは全部没収だ。

 

「……なるほどな。スポットの安易な占有に走れば、リーダーを言い当てられる可能性が高まる。多くのスポットを占有することは難しいということか……」

 

「他のクラスも同じだろうね。これは我慢比べになりそう」

 

 隆二くんと帆波ちゃんがそんなことを口にすれば、他のBクラスの生徒達も難しそうな顔をしている。まあ、防御が有利というのは間違ってない。攻めるのは大分リスキーだし、スポットを求めて走り回るクラスは出ないだろう。

 

「わかった? リーダーが決まったら先生に報告してね。リーダーの名前が入ったキーカードを即支給するわ。制限時間は今日の点呼までだから注意して。ここまでで、何か質問はある?」

 

 知恵ちゃん先生の説明は過不足ないものだ。聞きたいことも聞いたし、私は特にない。他のクラスメイトからも質問は出ない。

 

「それじゃ私はサエちゃんの様子でも見に行こうかな。南雲さん、後はよろしくね~」

 

「はーい」

 

 そう言ってDクラスの元へ忍び寄っていく知恵ちゃん先生。同級生らしいけど随分と仲がいいよね。茶柱先生の方はちょっと嫌そうだけど。

 

「南雲。どうする?」

 

「まずはリーダーよりもベースキャンプを決めるべきだと思うけど、どうする? 麗ちゃん」

 

 そして先生がいなくなれば作戦会議のお時間だ。隆二くんと帆波ちゃん。2人の参謀が声を掛けてくる。帆波ちゃんの意見はまあ当然だね。他のクラスが動き出す前にさっさとスポットを確保しておきたいし。うん、よしそうしよう。

 

「そうだね。それじゃあまずリーダーから決めようかな。はい、女子集まってー。男子は一旦離れて」

 

「え……?」

 

「南雲。それはどういう……」

 

「いいからいいから。私を信頼して任せて。颯くん。ひとっ走りしてすぐに知恵ちゃん先生呼んできて。言葉通り即支給してもらうから」

 

「お、おう。わかった」

 

 さすがの私の指示。帆波ちゃんの具申とは反対の司令にさすがのBクラスの皆もちょっと困惑する。でも指示には従ってくれる。私の指示の意味を理解するより前に、男子は離れて女子が集まる。他のクラスに声は届かない。これならリーダーを決めても簡単にバレることはないね。

 

「麗ちゃん。リーダーをすぐに決めるってどういうこと?」

 

「そのまんまの意味だよ帆波ちゃん。後で男子にも説明するけど、私達は基本戦略としてスポット集めに走り回る。だからさっさとリーダーを決めて他のクラスに先を越されないようにしようと思ってね」

 

 私が帆波ちゃんの質問にそう答えれば、女子から驚きの反応が返ってくる。代表して、ユキちゃんが疑問を呈してきた。

 

「……それって大分危なくない? リーダーを言い当てられたらそれだけで50ポイントマイナスで他のクラスに50ポイントでしょ?」

 

「まあね。ただそこは上手くやればいいだけの話だからさ。ってことでリーダーを決めたいと思うんだけど、まず皆に聞きたいんだけど──」

 

 と、私はちょっとした質問を女子にしておく。念のためね。

 すると女子からは困惑。そして微妙な空気が流れ始めた。

 

「えっと……麗ちゃん? その質問はちょっとばかし……答えにくいというか……」

 

「まあそうだろうけどね。でもそのために男子を外したんだから答えてくれない? 私の戦略のためにも必要な質問だからさ」

 

「こ、これが……?」

 

「一体何をするつもり?」

 

「まーまー。いいから答えてよ。恥ずかしいなら私にだけ耳打ちしていいからさ」

 

 帆波ちゃんもユキちゃんもそれ以外の女子も困惑する中、とりあえず女子から答えを聞き出す。ふむふむ……あーなるほどね。おーけーおーけー。そうなんだね。

 でも迷うところだなぁ……まあでもいざとなれば手はないこともないし、ここはさっさと決めておこうかな。

 

「決めた。リーダーはこずえちゃんにお願いするよ」

 

「え、ええっ!? 私~!?」

 

 運動が得意でお団子が可愛い南方こずえちゃんにリーダーはお願いしよう。体力もあるし一緒に動くには最適だ。運が良かったね。

 

「えっと……どういうことかな?」

 

「後で説明するよ。それより早く行動しないとね。今は1秒を争うし。──ってことで男子しゅうご~う!」

 

 私が大声で招集をかければ、男子が集まってくる。そしてちょうど柴田くんが知恵ちゃん先生を連れて戻ってきた。

 

「話し合いは終わったのか?」

 

「まあね。ってことでお疲れ様颯くん。知恵ちゃん先生。リーダーが決まりました」

 

「おう……」

 

「いやいや早すぎっ! せっかくサエちゃんにちょっかいかけにいったのにとんぼ返りしちゃったじゃない!」

 

「すみませーん。という訳でキーカード下さーい」

 

 知恵ちゃん先生に付き合ってる暇もないので無視して話を進めると知恵ちゃん先生も息をついてすぐに切り替えてくれた。協力的な先生を持って私達は幸せだね。

 

「いいわ。それで、リーダーは誰なの? やっぱり南雲さん?」

 

「こずえちゃんです。カードお願いします」

 

「は、はい。私です」

 

「南方こずえさんね。わかったわ。ちょっと待っててね」

 

 私がこずえちゃんを少し前に出すようにして言えば、知恵ちゃん先生はすぐに作業員が集まるテントの方に小走りで向かっていった。そして、すぐに帰ってくる。本当に早いね。これで遅かったら文句言おうと思ってたけど安心した。

 

「はい。これがキーカード。なくさないようにね」

 

「わ、わかりました」

 

 こずえちゃんはおそるおそるそれを受け取る。突然の大役に不安そうだね。ごめんだけど勝たせてあげるから許してね。

 

「はい。それじゃすぐに動こうか。3人1組で森に入って探索。スポットを見つけたらここに戻ってきて報告して。隆二くんと運動能力に不安のある子はここに残って待機してもらっていいかな?」

 

「ああ、わかった」

 

 まずは探索だ。何をするにしてもね。私はてきぱきと指示を出していく。初動の遅れは戦略が崩壊しかねないからね。迅速にしよう。

 

「分け方は帆波ちゃんに任せるけど迅速にお願い。いい?」

 

「オッケーだよ。とりあえず、話は後だね」

 

「任せたよ。私達は先に行くから。こずえちゃん、ついて来て」

 

「う、うん」

 

 不安そうなこずえちゃんだが、大人しく従ってくれる。まあ色々話したいことはあるけど帆波ちゃんの言う通り話し合いは後だ。まずはベースキャンプを探して集まってから。

 

「皆不安だと思うけど大丈夫。皆が力を合わせれば必ずAクラスになれる。私はそう信じてるよ」

 

 去り際に、私はそう言っておく。士気もちゃんと適宜上げないとね。効率が変わってくるし──ということで初めての無人島ロケ! 行ってみますか!




前回と前々回を掘北鈴音ちゃん追加で地味に修正したんで良かった見てみてね。ということで今回からは無人島試験編です。お楽しみに。

感想、評価、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。