ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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スキンヘッドはハゲであってハゲじゃない

 

 森の中は思ったよりも手入れされていて、思ったよりも歩きにくいというのが最初の感想だ。

 学校が管理する島だからこそ危険な植物とか、移動を阻害しすぎるものはないように感じるが、かといって歩きやすい平坦な道という程でもない。巨大な木の根っこなどの自然の障害物があって真っ直ぐ進むには難しい感じだ。

 とはいえある程度の体力があれば無理ってほどでもない。後ろを見れば、私のペースにきちんとついてきてるこずえちゃんがいた。

 

「麗ちゃん、すごいサクサク進むね……もしかして、慣れてる?」

 

「無人島経験はないけど自然の中を進むようなロケは何度も経験してるからねー。それにガイドさんの歩き方とか見てアドバイスも聞いてたから慣れちゃった」

 

「へぇ~、アイドルってやっぱすごいんだね……」

 

 こずえちゃんから尊敬の眼差しを感じる。でも、アイドルが皆こうだと思われたら困る。そんな訳ない。普通のアイドルは山なんて嫌いな人が多いし、自然の中をサクサク進める人は稀だ。こんなこと出来るのは完全無欠のアイドルである私くらい。そこんとこは間違えないでほしい。

 まあ本当はもっと簡単に進める道があるんだけど、あんまり早く鉢合わせすると困るし、ちょっとだけ遠回りして目的の場所に向かった。

 

「あれ? 波の音?」

 

「海が近いからねー。ここからは崖際を進むから足元気をつけて」

 

「う、うん」

 

 森から海が見える崖側に出て進む。一応こずえちゃんがこけて落ちないように見張りながら。この段階で大怪我されちゃあ困っちゃうしね。

 そんな訳でそこからは記憶を頼りに最短ルートを進めば、見えにくい場所にハシゴを発見。ここから目的の場所はすぐ近く。いつ誰と鉢合わせてもおかしくないし、さっさと行こう。

 

「こずえちゃん。ここ降りるよ」

 

「うわぁ……こんなとこ降りて大丈夫?」

 

「問題ないよ。学校側が管理してる場所だからね。ほら」

 

 ハシゴを降りて少し進めば小さな小屋を発見。なんだか事件の匂いを感じるね。サスペンスならここは犯人が使ってるヤバい場所だ。

 

「本当になんかあった……最初から気づいてたの?」

 

「船の周回の時に見えてたから気づいてる人は気づいてると思うよ。ほら、入って」

 

 室内はまあまあ。ボロ小屋ではないが豪華って訳でもない。釣り竿とかあったりするし、占有出来ればそこそこ便利なスポットだ──ってことでその機械と思わしきものを発見。

 

「こずえちゃん。キーカード出してこれに通して」

 

「うん。ここをベースにするの?」

 

「そんなわけあるかーい。ま、ここはちょっとした嫌がらせだよ。ほら、通して通して」

 

「よく分かんないけど……オッケー」

 

 フランクなこずえちゃんの天然ボケに軽くツッコミを入れながらキーカードをさっさと通させる。通したら8:00:00と表示され1秒ずつ表示が変わっていった。カウントダウン開始。これで8時間はここは私達のものだ。

 

「これでボーナスポイント1ゲットだねー」

 

「これで1かぁ。大変そうだね……」

 

「へーきへーき。塵も積もれば大和撫子ってね~。それじゃ行こっか」

 

「えっ? もう?」

 

「早めに行かないとチャンスを逃しちゃうからねー」

 

 スポットを占有した後はすぐに小屋を出る。そうして再び崖際を進み、ハシゴを昇って上へ。

 そうして今度はまた真っ直ぐ進んでいき次の目的地へ。──もうそろそろかな? 私とこずえちゃんは森の中を進み、そうして目的の場所とそこに辿り着いた目的の相手を見つけると、あえて普通に物音を立てて彼らの前に姿を現す。

 

「──やぁやぁ葛城くん」

 

「っ! ……南雲か」

 

 洞窟の前にいたその大柄でスキンヘッドの男子生徒は私ほどじゃないがとても目立つ。こうして面と向かって話すのは久しぶりだ。

 彼はAクラスを二分する2人のリーダーの内の1人。葛城派のリーダーである葛城康平くん。私とは、まあ、一応リーダー同士ってことで何回か接触したことはある。友達ってほど近づけなかったけど知り合いではある。関係はそこまで悪くはないかな? 

 

「ちょ、ちょっと麗ちゃん……!」

 

「か、葛城さん! Bクラスの奴らが……!」

 

 私が躊躇なく前に出たことで茂みからこずえちゃんが慌てて出てくる。そして……葛城くんの側近とは名ばかりの舎弟Aの……。

 

「奇遇だねぇ。それにそっちは確か……えーと、誰だっけ?」

 

「と、戸塚だ! 戸塚弥彦! 前に名乗っただろ南雲麗!」

 

「あーそうそう思い出したよ。ありがとね。十勝平野くん」

 

「戸塚だ! 十勝平野は……あれだろ! 何でしたっけ葛城さん!」

 

「……北海道東部にある台地性の平野だ。日本にある平野の中では3番目の面積を持つ北海道一の畑作地帯として知られている」

 

「それだ! さすがです葛城さん!」

 

「葛城ペディア助かるー」

 

 そうそう戸塚くんね。常に葛城くんの近くにいる可笑しな人だ。からかうと面白い反応をしてくれるし、からかわなくても愉快な人。将来は是非、芸人を目指してほしい。才能あると思うんだよね。

 

「違う! ふざけたことを言うのはやめろ南雲!」

 

「またまたぁ。自分も乗ってたくせに」

 

「ぐっ……」

 

 いやほんとからかい甲斐がある。なんで戸塚くんはAクラスになれたんだろうね? 正直不思議でならない。こう見えて意外な才能を持ってるのかな? 今のところお笑いの才能しか感じられないけど。

 

「……戸塚をからかうのはやめてくれ、南雲」

 

「オッケー。お互いそんな暇もないだろうしね。……ってことで、どうするの?」

 

「……どうするとは?」

 

「いやいやいや……洞窟のスポット、取りに来たんでしょ? さすがAクラス。迷いのない素早い判断だね」

 

「…………」

 

 私が目を細めてそう言えば、葛城くんは腕を組んで黙りこくった。まあ、彼にとってこの状況は望んだものじゃないだろうね。私と同じで最初にここを狙ってきたんだろうし。

 ──ま、私の方はそんな優秀な他クラスのリーダーを狙いに来たんだけどね。でも、そっかー。葛城くんが釣れたかー。それじゃあ逃げた方がいいかな? 

 

「ああ、いいよいいよ。言わなくても。洞窟のスポットはそちらに譲ってあげるからさ。そっちが先に着いてたみたいだしね」

 

「……スポットの使用権利はリーダーがキーカードを通すことで得られる。誰もまだ占有していない状況であれば早いもの勝ちというのはそうだろうが、リーダーがいなければ話にならない。だからこそ、俺達にその権利はない。譲って貰わずに結構だ」

 

 長ったらしいが要約すると、『俺たちはリーダーじゃないよ!』ってことだ。この場にいるAクラスの生徒は葛城くんと戸塚くんだけ。スポットに一直線に向かってくる辺り、普通に考えればこの2人のどちらかがリーダーってところかな。まあ慎重な葛城くんのことだから有名人である葛城くんがリーダーってことはないとは思うんだけど断定は出来ない。裏をかいてくる可能性もあるからね。まあ8割くらいは戸塚くんだとは思うけど……どうだろうねー。他の生徒だって可能性もある。

 

「まあそう言わずに。私達は別のスポットでも探すからさ。リーダーがいないならここで待ってればいいんじゃない?」

 

「……そうか。なら……そうさせてもらおう」

 

「はいはーい。行こ、こずえちゃん」

 

「あ、うん……」

 

 若干気まずそうな空気が流れるも無視してその場を後にする。葛城くんは、その場から動く気配がない。というより、動けないって感じかな? 

 本当はさっさと洞窟のスポット占有して他のスポットも回りたいだろうけど私が近くにいる状況じゃ迂闊に確認しにいったところでスポット占有出来ない。かといって洞窟のスポットも占有出来ないし、私達が来た崖の方向も確認しに行きたいけどそれもまだ出来ない。あるいは戸塚くんを向かわせることもありえるけど占有なんて出来る訳ない。そもそも私達が占有してるんだけどね。

 あるいは、向こうももう占有してて明け渡そうとしてるのはこっちを陥れるための罠……とかね。

 どちらにせよ慎重派な葛城くんはAクラスの皆と一緒に行動することを決めたんだろう。私達が去った後に合流しに行くか、ここで待って合流するかは分からないけどね。そうなれば安全にスポットの占有も出来るし、確認も出来る。リーダーを絞らせないためには何もする訳にはいかない。それを選んだということだ。こっちは大抵絞れた気もするけどね。

 まあただそのおかげで私達のリーダーは2択に絞られちゃったな。残念。これは失態かなー。Aクラスに50ポイント献上は痛いねー。

 

「えっと……麗ちゃん?」

 

「んー? なにー?」

 

「もしかしてさっきのあの小屋……見られたら私達のどっちかがリーダーだってバレちゃうんじゃ……?」

 

「そうかもねー。まあでも大丈夫だよ。二分の一だしね。へーきへーきぃ」

 

「え~……大丈夫かなぁ……」

 

 こずえちゃんは不安そうだけど問題ない。どうせ当てれっこないし、普通にポイントが減る分にはその分稼げばいいからねー。リーダーさえ当てられなきゃ問題ないのだ。さて、後何箇所か回ってから戻りますか。

 

 

 

 

 

 それからこずえちゃんを連れて2箇所のスポットを占有したところで、一度砂浜に戻ってから皆と合流した。

 隆二くん達と一緒に案内に来てくれた生徒について行くと、分かりやすい大木の根本の先を進んでいった先に、木に囲まれた井戸があった。そこには端末装置と、周囲にBクラスの生徒達がいた。

 

「あ、来た! こっちこっち!」

 

 私達がやってきたことを見て帆波ちゃんが手を振ってくれる。他の生徒達も私とこずえちゃんが帰ってきたことに反応して集まってくる。

 

「おー井戸かぁ。いい場所見つけたね」

 

「うん。ここなら確かめる必要はあるけどもし大丈夫なら水の心配はなくなるからいいと思ってね。一応、他にも候補はあるけどここほど条件は良くなさそうかなって思ったんだけど……どうしよっか?」

 

 おー順調だね。スポットを見つけてくれるのはありがたい。探索の手間が省けるからね。それと井戸ってのもいい。帆波ちゃんの言うように水が汚染されてたりしなければ水の心配はしなくてよくなる。水はどれだけあってもいいからねー。

 でもまあ一応他のスポットの情報も聞いておく。だけどまあ、やっぱここがいいかな。

 

「やっぱここにしよっか。それじゃ皆集まって壁になってー」

 

 というわけでスポット占有のお時間だ。ちゃんと隠しておかないとねってことで壁になってもらい、こずえちゃんにキーカードを通して貰う。これでここも私達の物だ。

 

「それじゃここを我々のベースキャンプとする! ってことで誰か知恵ちゃん先生に伝えにいって。その間に買い物と班分けするよー。帆波ちゃん達もマニュアルは読んだ? 良さそうなものある?」

 

「うん。見てみたけど、とりあえず仮設トイレは必要だと思うんだけどどうかな?」

 

「はい採用。他には?」

 

「後はウォーターシャワーかな。井戸の水は水質はともかく水量だけは結構あるのを確認出来たからタンクに水を入れてガス缶を使えばお湯が作れるみたい」

 

 クラスの皆に意見を予め聞いていたらしく、そういったアウトドアマニアしか知らないような便利アイテムの情報も帆波ちゃんはまとめていた。さすが、やっぱこういう仕事は帆波ちゃんに任せるに限るね。

 

「へぇ、いいね。じゃあそれも採用かな。他には?」

 

「他には──」

 

 買い物もてきぱきと。だらだらやってもしょうがないからね。そして迷わない。いらないだろうと思うものは予め除外してるみたいだからこっちは採用するだけで済むから楽だね。まあ数とか色々、相談することもあるけど私としてはそこまでポイントをケチるつもりもないからよっぽど変なものじゃなければ採用するつもりだ。なので何を買うかはスムーズに決まっていく。特に異論はないけど、まあただ追加で買うものは買わせてもらおう。

 

「じゃあ今言ったものと、連絡用の無線機を……4つでいいかな」

 

「無線機?」

 

「何に使うの?」

 

「各班との迅速な連絡、報告用かな。それじゃ次は班分けしよっか」

 

 無線機を何に使うのかと質問してくる子達に簡潔に答えてあげる。この島はそれなりに広いからね。私がその場にいない時に何か起こったら困るし、リアルタイムの指示が必要な時の念のためのものだ。無駄になる可能性もない訳ではないけど必要な時に買うんじゃ遅いからね。

 

「まず帆波ちゃんは生活班のリーダーね。主にベースキャンプ周辺で食料の調達や調理など。Bクラスが1週間ここで生活するにあたって必要なことは全部やってもらうよ。その中でどう振り分けるかは帆波ちゃんに任せるね」

 

「生活班かぁ……ってことは残りはどんな風に分けるの? スポットを回る班があるのはわかるけど……」

 

 帆波ちゃんにはとりあえず生活班。生活基盤を作ることに始まり全部やってもらうにあたって大体の生徒はこの班だね。主に女子や体力が低めの子を中心にこの班を担当してもらう。後、アウトドアが得意な子もここかな。色んなサバイバル知識でクラスを助けてもらおう。節約出来るならそれに越したことはないからね。と、私は帆波ちゃんの質問に答えて次の班の説明をする。

 

「次は遊撃班だね。主に他のクラスの偵察と妨害。スポット占有のサポートなんかを行ってもらう班だね。班長は隆二くんに任せるよ」

 

「ぼ、妨害?」

 

「ちょ、ちょっと麗ちゃん。偵察とスポット占有のサポートは分かるけど……妨害って?」

 

 私の不穏な言葉に反応し、クラスメイトや帆波ちゃんから声が上がる。皆心配性だね。別に龍園くんじゃないんだからそこまで過激な手は取らないよ。取るとしてもこうしてちょっとずつ慣らして抵抗感をなくしてからじゃないと。ってことで納得のいくように笑って説明してあげる。

 

「あはは、妨害っていっても他のクラスを尾行したり話しかけて足止めしたり、占有時間が過ぎそうなスポットやまだ取れてないスポットに先回りして私達が到着するまで守ってもらったりとかそれくらいのことだよ。別に禁止事項を破る訳じゃないって」

 

「なるほどな」

 

「なんだ、そういうことかよ。てっきりもっと酷いことでもするのかと思ってびっくりしたぜ」

 

 私がそう説明すれば隆二くんや颯くんが頷き、クラスメイトも得心がいったというように頷く。もっと酷いことね。言ったらやってくれるのかなってちょっと気になったけどまだ少し早いから言わない。こういうのは段階を踏んでいかないと。

 ただそれでも帆波ちゃんは若干渋い顔をしていた。

 

「うーん……ちょっと気が進まないけど……」

 

「多分他のクラスもこれくらいのことはやるんじゃないかな。ってことで隆二くんよろしくねー」

 

「……ああ。役目は理解した。任せてもらおう」

 

 班長に任命した隆二くんに無線機を1つ渡す。この班は主に運動能力が高い生徒や男子かな。私達ほどじゃないけど結構移動したり体力を使うし、精神的にもタフじゃないといけない。それにいざという時は結構荒っぽいこともするかもしれないしね。隆二くんと男子ならまあ大丈夫でしょう。隆二くんも理解した表情をしている。心配はいらなそうだね。

 

「で、3つ目はスポット獲得班ね。メンバーは私、こずえちゃん、紗代ちゃん、颯くん」

 

「俺もかよっ!」

 

「あ、あたしも?」

 

「まあ私はわかってたけど……」

 

 そして私と一緒にスポット獲得に走り回る班はこの4人。身長が高く体力も私に次いであるバレー部の安藤紗代ちゃんに、Bクラス随一の運動能力の持ち主である柴田颯くん。リーダーのこずえちゃんに、そして指揮役の私。この4人で島中を走り回ることになる。

 

「4人、か。何か理由はあるのか?」

 

「まあ一応リーダー隠しにね、隆二くん。後は運動能力が高い人じゃないとついてこれないから紗代ちゃんと颯くんを選んだって感じかな。そんな訳で私達4人は毎日島中を走り回る1週間になるから覚悟してねー」

 

「ま、マジかよ……」

 

「うわぁ、大変そー……」

 

「あはは……すっごい体力と筋肉つきそう……まあ合宿だと思えば……」

 

 さすがの体力自慢のメンバーも1週間この自然の島で走り回ると聞けばちょっぴり尻込みしていた。とはいえ私の見立てだと問題ないと思うけどね。島の面積はそれほど広くないし、8時間もあれば回りきれる。問題があるとすれば時間調整だけどそこは臨機応変に。どうせ他のクラスはスポット占有に走り回ることなんてしないだろうしね。

 

「と、こんな感じかな。スポット見つけた人はまず近場のスポットまで案内してくれる?」

 

「りょうかーい」

 

「俺たちも早速偵察に動いていいのか?」

 

「隆二くん達はまずスポット探しに出かけてもらおうかな。場所の把握とそこからルート選定。後は地図作りが先決かな」

 

 私はマニュアルに載っている地図のページを破って自分が把握した部分は書き足していく。そんな詳細な地図じゃなくても問題ない。そもそも面積自体はそんな広くもないし、方角と大体の場所があれば把握出来る。それに毎日歩いていれば嫌でも慣れるだろうし

 

「理解した。なら早速動こう」

 

「お願いね。帆波ちゃん達は食材集めとテント設営をお願い。間に合わないなら今日のところはご飯買ってもいいから」

 

「オッケー。任されたよ」

 

「うん。お願い。それで、最後の1つは……ユキちゃん。はい」

 

「え?」

 

 そして最後だ。ユキちゃんを1人だけ名指しし、無線機を渡す。ユキちゃんは当たり前だが困惑していた。そんな何がなんだか分からないといった様子のユキちゃんの肩をポンと叩き、笑顔で任命する。

 

「ユキちゃんは基本待ち伏せね。船の近くで誰かリタイアする人がいないか見張っておいて。毎日約7時間勤務だけどユキちゃんなら出来るよ。頑張ってね!」

 

「……マジで言ってる?」

 

「マジで言ってる。1年生の名前と顔は覚えてるでしょ? 紙あげるからリタイアした生徒は1人残さず記入して毎日提出ね」

 

「…………はぁ」

 

 ユキちゃんは文句を言わなかった。ため息ひとつとげんなりした顔の抗議は受けたけど言わなきゃ分かんないからね。さあ皆頑張っていこう。

 

 

 

 

 

 そうして早速私達Bのクラスは動き始めた。やっぱ団結力って大事だよね。私達のクラス以上に行動が早いクラスはないだろう。特にアクシデントもないし、順調すぎて怖いくらいだ。

 ……だけどもまあ、早速動いているのは私達だけじゃないようで。

 

「もしもーし。どうしたの?」

 

『あ、麗ちゃん? ちょっと相談があるんだけど……今大丈夫?』

 

「大丈夫だよ。何かな?」

 

 スポット獲得班を率いて出発し、しばらくしたところで無線機が鳴ったのでそれに出ると帆波ちゃんの声が聞こえた。無線機越しだから分かりにくいけど、ちょっと悩ましい事態が発生したみたいだ。一体なんだろう? 

 

『その、Cクラスの金田くんをベースキャンプの近くにいるところを発見したんだけど、どうも様子がおかしくて……話を聞いてみたら龍園くんとポイントの使い方で揉めて追い出されたって……それでちょっと独断で偵察を出してみたんだけど、どうもCクラスはポイントを全部使って遊んでるみたい』

 

「……へぇ?」

 

 帆波ちゃんからその話を聞いて私は興味が湧く。なんか面白そうなことしてるね。私は自分の記憶の引き出しからその生徒の情報を取り出す。

 金田くんといえば眼鏡のおかっぱ頭で見た目35点くらいの男子生徒だ。能力としてはそこそこ学力は高かったはず。情報としてはそれくらいかな。その生徒が、龍園くんとポイントの使い方で揉めた、ねぇ……ポイントを全部使って遊んでるという話が本当ならそりゃ反感も出るだろう。この試験でポイントを節約せずにポイントを全部使って遊ぼうというのはバカの考えだ。大多数の生徒はこの試験を如何にポイントを消費せずに1週間を乗り切れるかを考え、試験に臨もうとしている。帆波ちゃんでさえそれは例外ではない。

 

 ──だけど龍園くんがそんな大多数の生徒と同じなわけがない。

 

 それにバカでもない。龍園くんは優秀だ。常に相手を出し抜き、罠に嵌めようと隙を窺っているし、隙がなければ作ろうとする。

 そうして龍園くんの優秀さを前提に考えてみれば、狙いは読めてくる。それを思えば、この後帆波ちゃんが提案してくるであろうそれを受けるのはリスクがある。

 

『それで……ちょっと、私達でも相談してみたんだけど、そういう事情なら受け入れてあげようって話になったんだ。金田くんは顔も怪我してるし、このまま放置することなんて出来ないって』

 

「……なるほどね」

 

 予想通り、帆波ちゃんがそんなことを提案してくる。ちょっぴり声が重いのは私にお伺いを立てなきゃならないからだろう。それでも強い意思を声色から感じるし、やっぱ帆波ちゃんのお人好しは筋金入りだね。そして中間管理職も大変だ。私相手に説得しなきゃならないんだから。私はあえて続きを口にせず、帆波ちゃんの言葉を聞く。

 

『勿論端末には不用意に近づかないように約束してもらったし、私達のお手伝いをしてもらうことも納得してもらった』

 

「ふーん……勝手に約束したんだ?」

 

『勿論、麗ちゃんの許可が取れるまでは受け入れられるかはわからないって言ってあるよ。でも……私は受け入れてあげたいって思うんだ。困った時はお互い様だしね』

 

 なおもそんな優しいことを言ってくる。きっとベースキャンプに残ってるBクラスの子達もそんな帆波ちゃんの綺麗な言葉に絆されちゃったんだろうな。その光景が容易に想像出来る。

 私としてはその優しさだけの考えは邪魔だと思うけど。

 

『金田くんが生活するに必要な食料は私達が頑張って調達してみせるよ。だから……』

 

「うん。そういうことなら仕方ないね。いいよ。受け入れてあげて」

 

 ──が、私はその提案を快諾してあげる。あっさり許可が出ると思わなかったのだろう。帆波ちゃんが驚いた息遣いが聞こえた。

 

『えっと、ありがとう麗ちゃん』

 

「いいよいいよ。困った時は助け合わないとね」

 

『麗ちゃん……うん、そうだよね』

 

 そこでようやく帆波ちゃんも笑顔を浮かべた気がした。帆波ちゃんは私が結構ドライでリアリストな面があると思ってるから断られると思ってたんだろうけど、優しさを見せてくれたことで嬉しそうだ。そして事実、これは優しさではある。追い出されたなら受け入れてあげないと。人として当然の行動だよね。

 ただ帆波ちゃんとは違うのは……私はそれを利用することが出来るってことかな。

 

「こっちはさっき7つ目のスポットを発見したところだからさ。もうちょっと探索したら今日のところは帰るよ。多分7時くらいになるかな」

 

『あ、うん! こっちは寝床は作れたし、食材も野菜とか果物を見つけたよ。魚も少しだけど採れたみたい』

 

「おー楽しみー! 帆波ちゃんの腕によりをかけた美味しい手料理、楽しみにしてるね~」

 

『あはは。そんな大したもの作れないけどそう言われたら頑張るしかないかな』

 

「お風呂も沸かしといてねー。それじゃあね。愛してるよ帆波ちゃん」

 

『私も愛してるよ。……なんて冗談は置いといて、お風呂はないけどシャワーの準備しとくねっ。それじゃ』

 

 新婚夫婦みたいなやり取りをして無線を切る。もうちょっと恥ずかしがってくれると思ったけど普通に返されたね。帆波ちゃんも慣れてきたみたいだ。からかい甲斐がないなぁ。

 

「はい。それじゃ探索さいかーい。付いてきてー」

 

「はーい」

 

「ふぅ……さすがに疲れてきたね」

 

「なんか普通に走るのとは違って普段使ってない筋肉が鍛えられてる気がするな!」

 

 手を叩いて探索再開の号令を出せば休憩をしていたこずえちゃん、紗代ちゃん、颯くんの3人が動き出す。うん、体力にはまだ余裕がありそうだね。これなら明日以降も問題ないだろう。疲労は蓄積するだろうけどトレーニングだと思って我慢してもらうしかないね。

 ……それにしても龍園くんは面白そうなことしてるなぁ。明日くらいにちょっと様子を見に行ってみようかな? この分だと少し余裕が出来そうだし。ついでにDクラスとAクラスもどっかのタイミングで様子を探りに行きたいところだ。他のクラスがどんな戦略を打ってるのか気になるしね。

 

 ──ま、どんな手を打たれようと勝つのは私だけどね。どうせ皆私の狙いには気づけないし、気づいたところで()()()()()()()()。悪いけど、今回は楽に勝たせてもらうよ。

 

 

 

 

 

無人島で1週間のサバイバルという誰もが予想していなかった特別試験が始まり、オレは佐倉と共に森の中に入り、(高円寺もいたが見失った)2人である場面に遭遇した。

 

「あ、綾小路くん……アレって……スポット、なのかな?」

 

「さて、どうだろうな」

 

山の一部に空いた洞窟を2人で発見し、その場でじっと待つ。いや、待つしかなかった。

オレ達が洞窟の確認に向かおうとした瞬間、洞窟の中から1人の男がやってきてその場に佇む。時間にして1、2分ほど。それからもう1人の男が洞窟から出てきて声を掛ける。だが、その時にまた別の方向からも声が聞こえた。こちらは女の声。

 

「――やぁやぁ葛城くん」

 

「っ! ……南雲か」

 

葛城、とスキンヘッドの男子生徒に向けてオレ達がいる方向とは反対の茂みから堂々と出てきたのはBクラスのリーダーである南雲麗だった。その後ろから、もう1人の女子生徒も慌てて出てくる。おそらくそちらもBクラスの生徒だろう。

 

「ちょ、ちょっと麗ちゃん……!」

 

「か、葛城さん! Bクラスの奴らが……!」

 

互いに対面し、警戒する。南雲達もまた舗装された道ではなく少し遠回りでこの場所にやってきたのだろう。葛城と呼ばれた生徒は南雲の声が聞こえた時点でさっと素早くキーカードをポケットに隠した。南雲はそれに気づいた様子はなく、2人の男子生徒に笑顔で声をかける。

 

「奇遇だねぇ。それにそっちは確か……えーと、誰だっけ?」

 

「と、戸塚だ! 戸塚弥彦! 前に名乗っただろ南雲麗!」

 

「あーそうそう思い出したよ。ありがとね。十勝平野くん」

 

「戸塚だ! 十勝平野は……あれだろ! 何でしたっけ葛城さん!」

 

「……北海道東部にある台地性の平野だ。日本にある平野の中では3番目の面積を持つ北海道一の畑作地帯として知られている」

 

「それだ! さすがです葛城さん!」

 

「葛城ペディア助かるー」

 

……と、一触即発の事態かと思われたが妙に気の抜ける会話が行われる。ちなみに十勝平野はアイヌ語でトカプチと呼ばれていたことが名前の由来で、食料自給率は1100%を超えるらしい。豊かな自然を楽しめる観光スポットとして有名だ。オレもいつかは行ってみたいものだ。

 

「違う! ふざけたことを言うのはやめろ南雲!」

 

「またまたぁ。自分も乗ってたくせに」

 

「ぐっ……」

 

南雲にからかわれたとわかった戸塚と呼ばれる生徒が顔を赤くする。どうやら南雲はそういった人をからかうのが好きらしい。そういえばオレもからかわれたな……。

 

「……戸塚をからかうのはやめてくれ、南雲」

 

「オッケー。お互いそんな暇もないだろうしね。……ってことで、どうするの?」

 

「……どうするとは?」

 

「いやいやいや……洞窟のスポット、取りに来たんでしょ? さすがAクラス。迷いのない素早い判断だね」

 

「…………」

 

しかし南雲のその発言が弛緩した空気を再びピリッとさせる。葛城はそれを指摘されて言葉を返さない。黙って腕を組んでいる。対応に迷っているのかもしれないな。そして、そんな膠着した状況を動かしたのもやはり南雲の方だ。

 

「ああ、いいよいいよ。言わなくても。洞窟のスポットはそちらに譲ってあげるからさ。そっちが先に着いてたみたいだしね」

 

「……スポットの使用権利はリーダーがキーカードを通すことで得られる。誰もまだ占有していない状況であれば早いもの勝ちというのはそうだろうが、リーダーがいなければ話にならない。だからこそ、俺達にその権利はない。譲って貰わずに結構だ」

 

葛城は洞窟のスポットを取っていないように話す……が、先程キーカードを持っていたこと。洞窟の中から出てきたことを考えるとリーダーは葛城で洞窟のスポットは既に押さえられていると見るべきだろう。そして、そのことに南雲は気づいていないようだ。やがて自分から歩き始める。

 

「まあそう言わずに。私達は別のスポットでも探すからさ。リーダーがいないならここで待ってればいいんじゃない?」

 

「……そうか。なら……そうさせてもらおう」

 

「はいはーい。行こ、こずえちゃん」

 

「あ、うん……」

 

やがて南雲は自分からそう言い出し、こずえと呼ばれるBクラスの女子生徒を伴ってその場を離れる。一瞬こちらに来られたらマズいと判断を迫られたが、こちらではなく逆側に歩いていったため危機一髪といったところだ。

そうしてまた少し時間が経つ。2分ほどといったところか。葛城はしばらくそこでじっとしていたが、やがて離れていったことを確認すると側にいた戸塚に指示を出した。

 

「戸塚。崖の下の確認に行ってくれ」

 

「了解です! 葛城さんはどうするんですか?」

 

「俺は一度クラスの方に戻る。このまま少数で動くのはリスクがあると判断した。戸塚も確認を終えたら一度戻ってきてくれ」

 

「わかりました!」

 

そう言って戸塚は南雲が最初にやってきた方向へ迷いなく進む。葛城も舗装された道を迷いなく戻っていった。そこからまた2分ほど待ったところで、オレ達はようやく声を出す。強い力で押さえつけてしまったからか、佐倉が息を整えたところで今見た光景を口に出す。

 

「今のって麗ちゃんとAクラスの生徒……だよね?」

 

「ああ」

 

「も、もしかしてさっきの人が……リーダーってこと……?」

 

「そうだろうな」

 

一応洞窟の中も確認してみたが、やはりキーカードを通した形跡があった。そうなると、先程キーカードを持っていた葛城がリーダーということになる。

そして、南雲もまた怪しい。戸塚という生徒が確認に向かった場所。それを考えるとそちらもおそらく……。

 

「どど、どうしよう。凄い秘密、知っちゃったね……!」

 

「後でオレの方から平田に報告しておくよ」

 

戸塚や葛城がすぐに戻ってこないとも限らない。佐倉に安心させるようそう言い、オレ達は足早にその場を後にした。

 




他のクラスの視点も徐々に増やしていきたい。次回もお楽しみに。

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