ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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アイドルだって男と遊ぶことはある

 目の前にいる南雲雅という男は私、南雲(うらら)の実の兄だ。

 見た目は当然私に似ている。その切れ長の目などは特に。

 そして性格は……さて、どう言ったらいいか。少し複雑である。

 女の子を物のように扱うし、すっごい傲慢だしヤリ○ンクソ野郎であることは確かだ。

 とはいえまあ、それだけという訳でもない。兄妹仲は……普通かな。男の兄弟というだけで毛嫌いするのと比べれば私達は普通に話もするし出かけることもあれば一緒に遊ぶことも普通にある。

 私がアイドルを始めてからはあまり時間は取れなかったが、とはいえ女癖が悪いことは知っていたし雅兄もそれを隠すことはない。それどころかアイドルや友達を紹介してほしいと堂々と言ってくることもあるくらいだ。

 

「……雅兄さー」

 

「何だ?」

 

 なのでまあ、兄の部屋に入って最初に思うことは……

 

「消臭しすぎ。()()

 

 はっきりと嫌な顔を浮かべてそう口にする。

 すると雅兄は苦笑した。その反応は、雅兄にしてはちょっと困っている。まさか妹にそのことを指摘されるとは思わなかったのだろう。何とか笑っているがちょっとバツが悪そうだった。

 

「……ハハ、そうか? これでもかなり気をつけてるんだがな」

 

「無臭の消臭スプレーにしても分かる人には分かるよ。というかさっきまでなんかしてたでしょ」

 

「……あー、悪いな」

 

 そこまで言えば雅兄は素直に謝罪の言葉をくれる。

 ま、急に押しかけたこっちが悪いと言えば悪いのだが……入学式の日に昼か夕方頃からそういうことをするってのはどうなのかと私はじとーっとした目で雅兄を責めるように見る。

 だがそれもすぐ消した。代わりに軽く息を入れて出してもらったお茶を口に含んでから、

 

「まあ時間がもうちょっと経てば完全に分からなくなるだろうけどさ。……それで、学校で恐れられてる原因ってもしかしてそれなの?」

 

「……恐れられてるだと? 何かあったのか?」

 

「昼頃にコンビニの前で2年生の男子3人と新入生の不良が揉めてたから仲裁に入ったら名前名乗っただけで怖がって逃げていったんだけど」

 

「……ほう?」

 

 私がそう苦情を口にすれば、雅兄は笑みを浮かべながらもその目をすっと薄くした。兄妹である私にはそれが何を意味するか分かる。怒るまではいかないが、気を害した。ちょっとイラッとしたなと。

 

「……2年か。そいつらの名前は分かるか?」

 

「さぁ? 不細工ばっかりだったし興味ない。1人は70点いかないくらいの見た目はしてたけど3人ともなんか荒っぽい不良みたいな連中だったし。国立の名門校だっていうのにあんなのもいるんだねー」

 

 私は純粋な感想を口にしながら今日友達になったBクラスの人達からのチャットを受けてそれを返し始める。早くも全員と交換したため初日から返信が忙しい。特に男子。わかりやすい。さすがに露骨なのはなかったがこんなすぐにチャットを送ってくる辺り私に興味津々だ。

 そしてそんな私の姿を見て雅兄はふっと笑う。雅兄もまた携帯を取り出してどこかに連絡を入れる。フリック入力での操作を終えてすぐに携帯を置いて私の言葉に答えた

 

「この学校は面白いところだからな。それこそ日本中から選ばれた生徒達が集まってくる。お前の見た不良っぽい連中も、何かしらの得意分野があるんだろうさ」

 

「ふーん……そうは見えなかったけどね」

 

 あんなバカそうで不細工なダメ人間まで望んだところに進学、就職出来るんだからこの国の未来は明るくない。この国が斜陽を突き進んでいるのも納得だ。

 だが……通っている生徒がどんなダメ人間だとしても私には関係ない。

 

「ま、別にいいけどね。私は私の夢のために入っただけで他の生徒がどんだけ見るに堪えない不細工だったとしてもさ。……アイドル活動がなくなった分退屈しないといいけど」

 

 私は懸念を口にする。今までは全く暇がないくらいに忙しかったし、一応は充実していた。

 だから学業に専念したくらいでその退屈が埋められるとは思わない。学年トップでも目指すのもいいが、そのくらいは時間を使いさえすればどうにでもなるだろうし面白みもあまりない。

 だから退屈だろうと。ある意味、女らしい共感を求めて私は雅兄にそう口にした。

 

「安心しろ。そうはならない」

 

「……は?」

 

 だが返ってきた言葉は否定のものだった。

 私は表ならあまり出さない単音の声で疑問を表しつつ、雅兄に向かって眉をひそめる。

 

「……それってどういう意味?」

 

「さてな。そんな予感がするってだけだ。お前は日本中に顔と名前を知られるほどの有名人だ。何かトラブルに巻き込まれる可能性も高そうだろ?」

 

「……意味が分からないんだけど」

 

 先程の確信を持ったような言葉と合わない『予感』という言葉に私は訝しむ。

 一体どういう意味なのか。

 ……よく分からないが、まさか他の疑問と何か関係があるのだろうか。

 

「……そういや最初の質問に答えてもらってないんだけど。雅兄が恐れられてる理由って女癖が悪いからなの?」

 

「悪いがそれは答えられないな」

 

「!」

 

 ここで私は何気なく、最初の質問を再度、改めてはっきりと言葉にしたが返ってきた答えは『答えられない』というもの。

 それもまた不可解だった。答えたくないという表情ではない。あえて答えないという表情でもない。

 そして理由が分からないという感じでもなかった。それが意味するところは……。

 

「話はここまでだな」

 

「!」

 

 雅兄はそこで立ち上がり、玄関までの道を導くように廊下の横で私を待つ。

 私が疑問を示す余裕は与えられない。有無を言わさないといった様子で。

 

「お前の苦情については理解したよ。それについて謝ってやりたい気持ちもあるし説明してやりたいとも思うが……それを話すのは()()()が来てからだ」

 

「……どういうこと?」

 

「なに、ただの兄から妹に対する餞別だ。お前ならそんなものなくても問題ないだろうがな」

 

「…………」

 

 私は思考を回し、答えを模索しながらも立ち上がる。少なくとも、この場ですぐ答えは出せそうにないし、一旦は部屋から出ていく他ない。

 

「……じゃあ帰るけど、最後にひとつ聞いていい?」

 

「ああ。いいだろう。何だ?」

 

 だが、この場で思考を回した結果、浮かんだ疑問をもうひとつだけぶつけることにした。それは、

 

「……今日、朝に担任の先生から学校についての説明を受けたんだけど……その説明に()()()()()()()()()

 

 曖昧な、しかし意味のある質問をこの学校の先輩である雅兄にぶつけてやる。凡人であれば、それに答えたところで何も分からないであろう質問。その意図を理解しているのかいないのか。雅兄は笑みを崩さないままにこう答えた。

 

「ああ、()()()()()()()()()()()

 

「……ありがと。それだけ聞ければ十分だよ」

 

 私はその答えを聞くと雅兄に礼を言って部屋を後にした。去り際の雅兄の「楽しめよ」という言葉が妙に耳に残った。

 

 

 

 

 

 登校2日目。

 朝早くに登校し、校内を一通り観察し、色々と調べた後で他の生徒達と同じように教室へ向かう。

 

「あ、おはよう麗ちゃん!」

 

「麗ちゃんおはよー!」

 

「昨日は楽しかったなー」

 

 教室へ入ると沢山の挨拶。それに笑顔で返しながら自分の席へと向かい……そしてチラッと上を見て思う──あれってやっぱ監視カメラだよねーと。

 

「隆二くんもおはよー」

 

「南雲か。おはよう」

 

 自分の席について鞄を置くと、そのまま隣の席の隆二くんにも挨拶をする。出来れば名前で呼んでほしんだけどなー。その方が仲良し感が出るし。

 それにそのうち兄と知り合いになった時のことを考えるとそっちの方がいいだろうしね──っと。他の子達が会話に参加してくる前に誘っとかないと。

 

「ねぇねぇ隆二くん、知り合って2日目の早朝からいきなりすぎで悪いんだけどお願い聞いてくれない?」

 

「? 何だ? それは……まあ構わない。お願いの内容にもよるが」

 

 最初っから断るようなことはしないらしいが、私みたいな最高の美少女からのお願いに「内容による」としっかり予防線を張ってくる辺り隆二くんはしっかりしてる。下心もない良い人だ。だからこそ、頼みがいがあるよね。

 

「ちょっと男の子の力を借りたくてねー。放課後の買い物に付き合ってほしいんだよね」

 

「買い物?」

 

「うん。ちょっと電気屋で加湿器と炊飯器でも買おうと思ってね。それで……ほら、やっぱ重いからさ。部屋まで運んでほしいなって」

 

 私が明確にどういう頼みなのかをはっきりと口にする。女の子らしくぶりっ子ぶるのもいいが、そういうのは女ウケは悪いからね。それにこういうタイプにも通用しにくいし。あけすけに頼んだ方が印象も悪くならない。

 そして隆二くんはそれを聞いて少し考えるように顎に手を当てる。そしてややあって、結論を出したのか頷いてくれた。

 

「まあそれくらいなら構わない」

 

「ほんと?」

 

「言われてみれば俺も必要なものがあることを思い出したからな。気にしないでいい」

 

 快く頼みを受け入れてくれる隆二君。実際に1人暮らしをするにあたって必要なものでも思い出したのだろう。

 学校が用意してくれた家具や電化製品は最低限のものは揃ってるが、意外とないものもあって買っておいた方が良い物も多い。電子レンジや電気ケトルはあるくせに炊飯器がない辺り自炊する人に対する風当たりが強い気がする。

 他にもノートパソコンはあるがテレビはない。DVDプレイヤーはない。女子の味方である加湿器もない。

 あるいは入学時から10万ポイントという大金を与えるのもそういった生活に必要なものを揃えるための初期費用としても込みで考えられているのかもしれない。高品質のものを選んで買いさえしなければ足りるだろうしね。そうじゃなきゃもし私の考えが当たっていた時に来月以降の生徒は可哀想なことになる。

 

「ありがとねー。お礼に今日のお昼でも奢るよ」

 

「ただの荷物持ちにそこまで気を使わなくてもいい」

 

「そう? じゃあジュース一本でいいかな?」

 

「……まあそのくらいならありがたく受け取ろう」

 

 ……ま、なんにせよどうなってもいいように今のうちに準備しとかないとね。はー考えることも動くことも多くて大変。早くファンを沢山作って楽したいなー。

 

 

 

 

 

 入学2日目にして早くも私という元国民的アイドルが入学してきたという情報は……広まってはいないようだった。

 同じ中学からの友達という同地区内にありがちであろう関係が少ないからだろう。クラスを飛び越えた友達はまだ少ないため、Bクラスを飛び越えて他のクラスに噂が届いてはいないっぽい。

 だがまあ時間の問題だろう。他のクラスとも仲良くなって連絡先を交換して……あるいは私のことを目撃して……全クラスに知れ渡るには1週間から2週間程度もあれば十分か。

 逆に言えば入学2日目の今はまだめちゃくちゃ目立ちはしない。まあ見られればバレるし私のことを知らないとしてもめちゃくちゃ可愛い子がいるってことである程度目立つのは致し方ないことだ。いやー可愛すぎるって罪。

 ……ただ容姿の平均点が結構高いから普通の学校よりは目立たないかもしれないけどね。まあそれならそれで結局動きやすいのには変わりないから別にいいけど。私より可愛い女の子もいないだろうし。

 

「ねえ帆波ちゃん」

 

「ん? なにかな麗ちゃん」

 

 放課後のショッピングモール。私の隣に立つBクラスで2番目の美少女(1番は当然私)である帆波ちゃんに、私は質問する。

 ……関係ないことだがこの買物にもクラスの半分以上が来ていた。昨日はほぼ全員が遊びに出ていたし、今日になって生活に必要なものを買い揃えたいという生徒が多くいた。さすがにテレビから何から全部買うような金遣いの荒い者はいないようだが。皆買っても1万から2万というところか。初期費用としてはまあ許容範囲内だろう。

 ちなみに残り半分は部活動だ。ついさっき。5時から部活動説明会があって1年生のほとんどが集まってそれを聞いた。なので今の時間は少し遅い。遊ぶ余裕はあまりなく買い物をしてすぐにお開きになるだろう。

 そこでも気になることは少しあったが……ともかくBクラスの半分くらいの生徒は部活動の入部届を出しに行ったり、見学しに行ってるらしい。積極的でいいことだ。

 ちなみに隣の帆波ちゃんもどうやら気になる部活があるらしいが……今日のところは私達に付き合うみたいでついてきた。今は私が勧めた小さめでお手頃価格の加湿器を手に取っている。部屋にエアコンがあるからいいという帆波ちゃんはちょっぴりそういうものに疎いみたいだ。加湿器なんてどれくらいあってもいいものだというのに。一台だけじゃ、ましてやエアコンの備え付きの機能程度じゃ足りない。保湿は大事。今は良くても将来はどうなるか分からないんだから気にしておくに越したことはない。

 

「他のクラスの友達できた? 私はまだなんだよねー」

 

「あー私もまだだよー。私も仲良くなりたいとは思ってるけどまだ2日目だしね」

 

 コミュ力の高く容姿も良い帆波ちゃんがまだということは新入生のほぼ全員が他のクラスに対して繋がりは持っていないということだろう。出来れば早めに他のクラスの生徒達とも仲良くなっておきたいところだ。私も帆波ちゃんと一緒で、全員と仲良くなりたいからね。

 

 

 

 

 

 入学2日目にして女子と2人で帰宅することになるとは神崎隆二は思いもしなかった。

 

「ほんと助かるよ隆二くん。私1人だったら筋肉痛になってたかもね」

 

「……気にするな。これくらいはなんてことない」

 

「あはは、隆二くんはそれなりに力ありそうだよね。私も鍛えてるけどさすがに男の子には敵わなそうかな?」

 

 しかもその女子が、元アイドルという経歴を持つ少女であればさすがの神崎もどういう巡り合せだと少々困惑してしまう。

 南雲麗というその少女は神崎の隣の席になった元国民的アイドルグループのセンターで、あまりそういったものに興味のない神崎ですら何度も見たことのある程度には知名度のある人物だった。

 そんなテレビの中の人物とどういう会話をしたらいいか少し悩んだが、思ったより話しやすい。テレビの中で見たような明るくて天真爛漫な振る舞いは鳴りを潜め、同年代の女子と比べても落ち着いた所作と振る舞いを見せていた。

 曰くそれが素らしい。それでいて明るさも失っておらず自然にクラスメイトとも仲良くしている。

 入学2日目にして一之瀬と並んでクラスの中心人物。ムードメーカーとして君臨しているのだからさすがの一言だ。

 神崎としても話していて嫌な気はしない。積極的に、しかも女子とコミュニケーションを取るのを不得手だと自覚しているが、それに合わせてか南雲は先程の女子たちとの会話よりも更に落ち着いた自然なトーンで会話を繋いでくれる。

 

「それにしても学園も太っ腹だよね。ひとりにつき10万ポイントも渡して大丈夫なのかな。隆二くんはどう思う?」

 

「……この学校は政府主導の国立高だからな。それだけこの学校が重要なのだろう。少なくない予算をこの学校に回しているんだろうな」

 

 話すのはこの学校のことだ。そして、その話題は神崎にとっても話しやすい。

 神崎としても気になっていたことだからだ。入学した生徒に月10万ポイントという大金は全校生徒。1年という期間で考えればちょっとした予算となる。

 政財界というものを同年代と比べてよく知る神崎にとって、それはほんの少し疑問だった。

 確かに国家予算。文部科学省の全体の予算からすれば問題ないのかもしれないが、それにしてもそれだけの予算を注ぎ込む価値がこの学校にあるのか? と疑問に思わずにはいられない。

 特に名門校とはいえ、入学しただけの生徒に月10万ポイントも与えるのは甘やかしすぎだと思ってしまう。

 この10万ポイントという大金を使って毎日遊び呆けるようになるのが容易に想像出来た。それとも、ここに入学出来るだけの生徒は自分のように弁えた生徒ばかりなのだろうか。入学してまだ2日目の神崎には分からない。

 だがそれでもこの2日で見たところ……みんな普通の学生に思えたが。

 

「やっぱそう? 前に番組で会った政治家の先生も教育は大事だって熱弁してたし、そうだとしたらそれだけ私達は期待されてるんだね」

 

「……そうだな」

 

 だが少なくとも隣にいるこの少女は普通の生徒ではないだろうな、と神崎は思う。

 アイドルと言えばもう少し姦しいのを想像していたが、彼女と会話してその想像が少しだけ覆された。

 まだ知り合って2日目で判断が早いかもしれないが、その短い会話の中でも教養を感じるし、この学園に入学できただけで勉学の成績も悪くないのだろう。リーダーシップも感じられるし、社交性は神崎の何倍もある。

 

「あ、そういえば隆二くんは何か入りたい部活とかある?」

 

「いや、特には。そういう南雲はどうなんだ?」

 

「んー、私も部活はいいかなぁ……ただ生徒会長はすごかったし興味あるけどね」

 

「……成る程な、確かに。他の上級生の先輩方と比べても貫禄が違ったな」

 

 なんてことのない会話をしながら帰路につき、寮へと到着する。エレベーターに乗り込み、自分の部屋の階ではなく女子の部屋の階へ。上階のボタンを南雲が押す。

 

「部屋まで上がっていいのか?」

 

「あー……まあ私は気にしないけど隆二君は気になるかな? 嫌だったらエレベーター降りたところで置いてってもいいよ」

 

「……いや、南雲がいいなら部屋まで運ぼう。ここまで来たなら変わらない」

 

「ん、ありがとね。今度こそご飯でも奢る? それともジュースのがいい?」

 

「いや、別にジュースを特別欲している訳じゃないんだが……」

 

「そう? 水とかお茶の方がよかった?」

 

「いや、そういう意味でもないんだが……」

 

「あはは! ごめんね。冗談だよ冗談」

 

 南雲の気遣いに構わないと返し、続く戯れの言葉を面白みもなく返してしまいながらも、南雲の部屋の前につく。

 ……女子の部屋に上がり込むのは初めてだが、荷物を置くだけだ。南雲も気にしないと言った以上、特に思うところはないしむしろ互いに気にしないのが気遣いというものだろう。

 

「はい、それじゃ上がってー」

 

「……ああ、邪魔させてもらう」

 

 玄関を開け、部屋へと入室する。そうして荷物を置いて、すぐに暇させてもらおうとしたが──そこで南雲から待ったが入った。

 

「あー待った待った。お茶くらい出すから上がってってよ」

 

「む……だがさすがに中までお邪魔するのは……」

 

「いいからいいから。荷物運ばせてすぐさよならバイバイじゃ味気ないでしょ?」

 

「しかし……」

 

「私の顔を立てると思ってさ。ね? ダメかな?」

 

 ここに来て初めて南雲が女性らしさとも言うべきか、ウインクをして強めに頼んでくる。

 だがそれでもまだあざとさまでは感じない。それとも慣れているからこその自然さなのだろうか。

 そして、顔を立ててほしいとまで言われれば弱い。本当に他意はないのだろう。ここまで頼みはしたが、断ればすぐに引き下がってくれるに違いない。まさかテレビで見るようなドッキリを仕掛けている訳はないだろうし、入ったところで特に問題もないだろう。

 

「……分かった。その、少しだけお邪魔させてもらう」

 

「あはは、ありがと。それじゃこっち」

 

 軽い礼と共に先導する南雲の後についていく。中は……特に女子らしいとも感じない。

 だが考えてみればここは寮の部屋でまだ入学して2日目だ。内装を整える時間などほとんどない。新入生は男子だろうと女子だろうと同じ内装に決まっていた。

 

「お茶とりんごジュースがあるけどどっちがいい? あ、紅茶もあるよ。レトルトだけど」

 

「……お茶で構わない」

 

 だからか、神崎としてもそれほど気にすることなくそのささやかなもてなしを受けることが出来た。紅茶を貰おうか一瞬だけ迷ったが、さすがにそこまで手間をかけさせるのは気が引ける。

 同年代の女子とこんな時間まで、相手の部屋で一緒にいるなど初めての経験だが、意識することもない。

 

「緑茶とウーロン茶とほうじ茶と玄米茶とジャスミン茶があるけどどれがいい?」

 

「…………ほうじ茶で頼む」

 

「お、渋いね。私もそれにしよーっと」

 

 一瞬、「なぜお茶の種類がそんなにあるんだ?」とツッコミを入れてしまいそうになったが、間を取って何とかその言葉を飲み込む。いや、別に言っても構わなかったのだが、つい自重してしまった。

 

「お待たせ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 丸テーブルにコップを2つ置くと、南雲もまたこちらの目の前に座る。座布団に腰掛けないかと促されたが、さすがにそれは気が引けると断った。

 そうしてお茶を一口飲んだところで、南雲は先程までのように口火を切った。

 

「荷物、ここまで運んできてくれてありがとね。おかげで助かったよ」

 

「ああ、気にしなくて良い。俺の方も有意義な時間だったからな」

 

 神崎もまた幾つか必要なものを買い足した。とはいえ南雲のような大きなものでなく片手の袋に収まる程度であるため、今も神崎の傍らには荷物が置いてある。

 そしてその答えを聞いて「それなら良かった」と自然な笑顔を浮かべる南雲は本当に人が良いのだろう。同じクラスで彼女の友人である一之瀬もそうだが、ムードメーカーとして人に慕われるのがよく分かる。自分には足りていないものだからこそ、分かるし尊敬出来た。

 今まで女子は何となくどう話せばいいかわからず敬遠していたが、彼女や一之瀬なら良い友人関係が築けるだろうし、そうありたいと思う。

 そして今日のこの時間も友人として良い1日を過ごせたと思う。こうして部屋にお邪魔したのも、今は遠慮があるがそのうち自然な日常のひとコマに組み込まれていくのかもしれない。

 

「いやー、結構買い物しちゃったからね──」

 

 だからこうした何気ないやり取りもそのうち良い思い出となるのだろうと、自然にそう思えた。

 神崎はその南雲の発言に対し、たまには気の利いた返しが出来ないかと思考を回したところで──

 

「──来月も10万ポイント貰えるとは限らないのにさ」

 

「──何?」

 

 ──その予想だにしていなかった言葉が耳に届き……神崎は思考を止める。

 

 そしてその彼女との対面こそが神崎隆二にとっての、この高度育成高等学校での始まりの日だった。

 




麗ちゃんのプロフィール

(公式)身長161cm B96(G)・W57・H88
(真実)身長161cm B100(I)・W59・H88

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