7日間にも渡る無人島の試験も、遂に結果発表の時がやってきた。
先生達は試験の集計中だろう。期限の正午を過ぎても未だ私達の前に姿を現さない。
その間に私は周囲を見渡した。そうしてわかるのは周囲の生徒達が感じている不思議、疑問、困惑の感情だ。
特にAにクラスとDクラスの生徒達はBクラスとCクラスの様子を見てざわついていた。Bクラスの生徒は、男子の大半がその学校指定のジャージを泥で汚し、中には軽い怪我を負っている者がいる。CクラスはCクラスで全員リタイアしていたはずなのに澪ちゃん、石崎くん、アルベルトくんが残っていたことに驚きを隠せないようだ。
そして私としてもこの状況は望んでいたものではないし、一定の評価をしなければならないだろう。龍園くんがリタイアしているし、よくよくDクラスを見てみればなぜか鈴音ちゃんもいない。龍園くんならばあるいはと思っていたけど、やはり龍園くんはその方法を取ってきたみたいだ。指名しなくて正解だったね。
そして問題は鈴音ちゃんの方だ。私はDクラスのリーダーを把握してはいない。そもそもリーダーを当てることよりも別のことに注力していたのもあって今回は無視していた。放置していても勝手に沈む可能性が高かったしね。
それに……何とかしているならそれはそれで見ものだという思いもあった。Dクラスが私の戦略を見抜けたのか、気になって私はDクラスの輪に近寄っていく。そして声をかけた。
「やっほー。洋介くん、須藤くん、綾小路くん」
「あ、南雲さん。おはよう」
「お、おお……南雲」
「……南雲か。おはよう」
私が挨拶をすればDクラスの男子3人。それぞれがらしい挨拶を返してくる。洋介くんはにこやかに。須藤くんはちょっどドギマギして。綾小路くんは相変わらず何考えているかわかりにくい。一見するとただの陰キャのような慣れてない挨拶をしてくるが、それはいい。私は3人の表情を観察しながら質問を繰り出した。
「Dクラスはどうだった? 上手くいった?」
「うん。精一杯やったよ。皆頑張ってくれたと思う」
「ポイント残るといいよね。あ、そういえば鈴音ちゃんは? さっきから姿が見えないけど……」
「何か用事かい? 堀北さんなら昨日の段階でリタイアしたよ」
「えっ!? そうだったんだ! 堀北さんがリタイアするなんて意外!」
洋介くんからの返答に私は驚いてみせる。実際、意外ではある。あの子は何が何でもポイントを残すためにリタイアしなさそうな子だからね。それでもリタイアしたということは……よっぽど酷い体調だったか、あるいは……と。私は隣の綾小路くんの顔を見る。
「綾小路くんは堀北さんがどうしてリタイアしたか知ってる?」
「……いや、どうだろうな……でも体調が悪いみたいだったな。多分それでリタイアしたんだろう」
「ふーん。そうなんだ」
私が質問すると毒にも薬にもならないような普通の解答をしてくる綾小路くん。読めないのでまだ質問してみる。
「あ……そういえば、さ。やっぱDクラスにはリーダーバレちゃってたりする? カード、見られちゃってたしね」
私が苦笑いをして少し気落ちした様子でそう言えば、綾小路くんからは何も読みきれなかった……が、隣の洋介くんからは反応があった。その反応は普通の生徒にしては上出来でレスポンスも早い。
「あはは、それは……そうかもしれないね。でもどうだろう。佐藤さん達の話だと一瞬しか見えなかったから……当たっているかはわからないな」
「それって指名はしたってこと?」
私がそう言えば、綾小路くんは全く顔に出なかった。洋介くんは顔に出さないようにしていたが出ていた。須藤くんは出ていたが、その表情は洋介くんの反応と矛盾する。私は何か答えが返ってくる前に自分から声を出した。
「あ、やっぱ答えなくていいよ。結果を聞けばわかることだしね」
「あ、うん……それはそうだね」
洋介くんの何とも言えない同意の返答を聞くと、私達1年生の前に先生方が現れる。
「そのままリラックスしていて構わない。既に試験は終了している。今は夏休みの一部のようなものだ、つかの間ではあるが自由にしていて構わない」
そんな語り口から始まった真島先生の言葉に、1年生の先程までの喧騒は一瞬にして消え去る。誰もが、試験の結果を気にしていた。
「ではこれより、端的にではあるが特別試験の結果を発表したいと思う」
真島先生の素晴らしい試験だったという総括に続いて、ついにその瞬間が訪れようとしている。生徒達はその発表を見逃さないように耳を澄ます。
「なお結果に関する質問は一切受け付けていない。自分たちで結果を受け止め、分析し次の試験へと活かしてもらいたい」
「だってさ。綾小路くんは何か気になることある?」
「どういう意味だ?」
「試験のことで何かわからないことでもあったかなって。もしあるなら先生の代わりに私が答えてあげてもいいよ?」
結果が出るまでの間、綾小路くんに話しかけ何かを引き出そうとする。この反応は……どっちだ?
全てを理解している無表情か、それとも何も知らない無表情か。その判断が綾小路くんに至ってはつかない。
いや、あるいはそういう反応を見せたとしても見せかけの可能性もある。私程じゃないにしろ、人の機微をこれだけ操作出来るのは普通じゃない。
だからこそ見てみたい。その奥にある本物の感情を。
綾小路くんにもっと面白いことをしてほしい。そう思って、私はその結果が出た瞬間の表情を見逃さないようにじっとその横顔を見続ける。
だが──。
「いや、気になることなんて何もないな」
「ではこれより特別試験の順位を発表する。最下位は──Aクラスの20ポイント」
「っ……何、だと……?」
遂に真島先生の口から順位が発表される。最下位はAクラスだ。そんな結果になるなんて彼らは予想していなかっただろう。Aクラスからはどよめきが聞こえる。葛城くんも絶句しているようだった。
しかし、私はこの時点でその異変の詳細に気づく。
Aクラスが全くポイントを使わず、Bクラスのリーダーを間違え、BクラスとCクラスにリーダーを当てられ、Dクラスのリーダーを当てていた場合、そのポイントは170ポイントになっていなければおかしい。
だがこの結果はDクラスのリーダーを間違え、更にDクラスにリーダーを当てられなければ成立しないもの。つまりDクラスはどこかでAクラスのリーダーの情報を盗み、なおかつ私達と同じようにリーダーを変更していたということになる。ならやっぱりリーダーは……。
「鈴音ちゃんだったかー」
「3位はCクラス50ポイント。2位はDクラス170ポイント」
そして続く結果発表。これもまた計算通りだ。盛り上がってるDクラスや困惑する多くの他のクラスの生徒達は予想外だろうけどね。この結果は龍園くんのリタイアとCクラスがAクラスのリーダーを当て、DクラスもまたAクラスのリーダーを当てたことでなった結果だ。
「そしてBクラスは……220ポイントで1位だ。以上で結果発表を終わる」
その瞬間、Bクラスが喜びで爆発した。
それはおおよそ想定通り……いや、本来ならば400ポイント以上を得ていたのだから当初の計画からはかなりズレが生じている。龍園くんのせいで大損害も良いところだ。腕時計の無断着脱や生徒のリタイア。そして多くの男子生徒の点呼遅れによるペナルティは特に痛かった。これがなければ300ポイントほどは残せてたんだけどな。
それでも1位なのだから大喜びするべきだろう。私もクラスの輪に戻ってそれに参加した方が良いのかもしれない。だが、その前に綾小路くんに言っておくことがあった。向こうもまた
「おめでとう。Bクラスが1位だったな」
「うん。ありがとう綾小路くん。さて、私もBクラスの方に戻ろうかな──あ、1つだけ聞いていい?」
「何だ?」
「もしかして、私との勝負受ける気ない?」
私は何となく、辛うじて感じられた違和感を口にする。
それは躱されている感覚。綾小路くんから、手を抜かれているような気がするという不思議な違和感。
龍園くんは私達Bクラスに仕掛けていた裏でDクラスにも仕掛けていたはず。そして、その結果鈴音ちゃんはリタイアし、それをおそらくだが綾小路くんがその状況を生み出した。
だが一方で、Bクラスの方はノータッチだ。ポイントを見るにリーダーの指名は行わないように洋介くん辺りに進言したみたいだけど、それ以外にこちらに対するアクションは無し。あっても鈴音ちゃんが動くのに合わせて動いているだけだ。
いっそ清々しいほどに無視されているように感じる。そのことに、私は以前よりも更に強い苛立ちというか、焦れったさを感じている。そして若干だが疑い始めている。
本当に綾小路くんは凄い人なのか。堀北先輩が認めるほどの人なのか。
頭が切れることや普通じゃないのは間違いないが、その限界値、実力の程が未だ見えない。なんなら、あえて私のちょっと下の実力を演じているようにも思えてくる。
龍園くんの攻撃を防いでおきながら、私の方には触れないちぐはぐ感。それがどうにも言葉に出来ない気持ち悪さを感じる。それらの気持ちを、疑問として私は綾小路くんに問いかける。
だが……それでも綾小路くんは変わらない。
「……クラス同士の勝負ならオレは大して力になれないな。そういうのは平田や堀北の役目だろう。勿論、オレもクラスにいる以上は求められれば応えるつもりでいる」
「──へぇ、そっか」
つまり、まともに相手をする気はないってことかな?
何というか、楽しいような哀しいような気持ちになる。もしかして掘北先輩に勝負を断られ続ける雅兄もこんな気持ちだったのかな?
「悲しいなぁ。私はこんなにも綾小路くんを熱望してるのに」
「買いかぶりだ。オレは南雲に評価されるような大した人間じゃない」
「そうは見えないって何度言えばわかるのかな」
暖簾に腕押し。何を言っても躱される。
これならCクラスを無視してでも強引に仕掛けにいっても……いや、それは無理か。私にとって今回の勝利は絶対に必要なもの。負ければ信頼が落ちるし、リーダーの座も少しぐらつく。クラスメイトから私への信頼を強めるためには龍園くんに対処する必要があったし、Dクラスに関わってる余裕はそんなになかった。勿論、攻撃されれば応じるつもりでもあったけど。
……いや、もしかして……綾小路くんはそれを読んでた?
Cクラスの、龍園くんの実力を把握していればあるいはそういう状況になりえるかもと予想するのは不可能ではない。2日目、私と龍園くんと鈴音ちゃん、そして綾小路くんと会話している。Cクラスの立てた作戦をその時点で見抜き、龍園くんの実力の概算をある程度予想したのか?
いや、それでも龍園くんが私の戦略を読んでくるかどうかは半々かもしれないが、それでも似たような戦略を取っている以上、気づく可能性は高い。
龍園くん達Cクラスと私達Bクラスの相性は悪い。龍園くんがあの状況で暴力によって仕掛けてくるなら、私は大量のポイントを消費しなければそれを防ぐことが出来ない。
それでも防ぐことが出来れば勝ちだ。しかし、勝っても200ポイント近いポイントを吐き出すことになる。負ければ勿論0。あるいは綾小路くん自身が矢面に立てば、私達を敗北させることも不可能ではなかったはずだ。綾小路くんの強さがどの程度なのかはわからないが、龍園くんのやったように私の前に立ち塞がってしまえばリーダーの変更を防ぐことも出来る……だが、表に出たくないと思われる綾小路くんはそれをしない。言い逃れ出来る余地を残すためにはあの夜の乱闘に参加するにはリスクが高すぎる。最悪、私と龍園くんと綾小路くんの三つ巴になり、勝ち負けはともかく龍園くんにも気づかれる羽目になっていたはずだ。
つまるところ、CクラスがBクラスに攻撃を仕掛けてきた時点で、どっちが勝とうとBクラスは大量のポイントを吐き出す。ならば後はそれを静観していればいい。自身は鈴音ちゃんをリタイアさせ、リーダーを当てられることを防ぎながらそれ以上は触れない。そして、私と龍園くんの実力を見ることも出来る。その情報を得ることが出来た。勝負に参加せず、その上でDクラスにポイントを残し、情報を得て、自らは幾らでも言い逃れ出来るような余地を残しておく。
そしてもっと言えば私と龍園くんを同時に負かしたところで、得られるのはポイントだけではない。私と龍園くんの反撃。Dクラスに対するヘイトも得ることになる。そうなれば、Dクラスにとって不利な状況に陥るのは間違いない。
だがBクラスが1位になれば、そのヘイトは分散されるのだ。その証拠に……。
「よう、麗。待ってたぜ」
試験が終わり、船に乗り込むと左手に包帯を巻いた龍園くんが私のことを待ち構えていた。それを私は笑顔で返す。頭の中は綾小路くんの考察でいっぱいだが、それでも龍園くんも無視することは出来ない。
「やあ龍園くん。随分と痛々しいね、その左手。どうしちゃったの?」
「クク、ちょっとドジを踏んでな。さすがに痛かったぜ。女相手に別の意味でこんなにも疼くのは俺も初めての経験だ」
「それはそれは。光栄だねぇ。龍園くんの初めてを奪えるなんて」
船の甲板で、壁際に追い詰められながら互いに言葉を交わす。龍園くんは私を愉しそうに見下ろし、私もまた龍園くんに流し目を送る。すると龍園くんの怪我した左手が、私の顔の横を、思いきり叩いて。
「──テメェは俺が屈服させる。必ず、どんな手を使ってもな」
「大胆な宣言だね。壁ドンなんて初めてされたよ」
「喜べよ。おまえは元々極上の馳走だったが、もう1つ格上げだ。鈴音に坂柳におまえ。そのフルコースのメインディッシュにしてやる。全員、俺が食い潰す」
「うっわさいて~。女の子独り占め宣言? 少しは他の子に譲ろうとは思わないの?」
「精々首を洗って待ってるんだな」
そう言いたいことだけ言って、龍園くんはその場を後にして船内に戻っていく。それを見ていたBクラスの面々は私に駆けよりながら去っていった龍園くんの背中を見送った。
「宣戦布告か」
「凄い迫力だったね。よっぽど今回の試験で麗ちゃんにやられたことが悔しいのかな」
「悔しいっていうか楽しいって感じだと思うよ」
隆二くんと帆波ちゃんの言葉に答えつつ、私達もまた船内に戻っていく。未だ甲板でDクラスの生徒の輪に、鈴音ちゃんと共にいる綾小路くんが気になったが、今は声を掛けないことにした。まだ考えがまとまってない。Dクラスにちょっかいをかけたいのは山々だが、その戦力は正確に量っておきたい。
もし、綾小路くんが私の想定以上の実力者なら、それに合わせて戦略を組む必要もあるしね。
「それにしても、これで2学期には私達もAクラスだね、麗ちゃん」
「そうだね。もっとも、これからまたポイントを落としたりしなければ、だけど」
クラスメイトの言葉に、私は笑顔で同意しながらも油断しないように言葉をかける。確かに今回の無人島試験で私達はAクラスのポイントを抜いたが、それでもクラスが変わるのは月が変わってからだ。その前にAクラスよりポイントが下になるようなことがあれば、私達はBクラスのままである。それを伝え……。
「……うん。次の試験も油断せず頑張らないとだね」
私は、いつもと違う様子の帆波ちゃんの呟きを拾った。そこに混じった感情は、昨夜のそれを思い出す。
そう──それは昨日の夜のことだ。
龍園くんを何とか振り切り、誰の声も聞こえなくなり、走ること少し。
「う、麗ちゃん!? こずえちゃん!?」
「大丈夫!?」
「はぁ……疲れたけど、うん、私は大丈夫だよ」
無線機で連絡し、Bクラスの女子を集めた桟橋の上で私達はようやく合流する。その時の疲れは1年に1度の長時間特番でやるマラソンより疲れたかもしれない。体力もそうだけど、あんな悪天候の島の中を追いかけられながら走ることなんて普通ないからね。
だがともかくこれでゴールだと、私は驚いた様子の教員に告げた。
「先生。体調不良で意識を失ってるようなので休ませてあげてください。リタイアで構わないので」
「……わかった。すぐに運ぼう」
「それと、彼女はリーダーなのでカードもお返ししますね。新しいリーダーは彼女でお願いします」
私はその場にいた適当な女子を選んでリーダーに任命する。そうしてキーカードを返し、こずえちゃんも教員にお願いしたところで私のミッションは終了。戦略も成功した。
「さ、これでこずえちゃんの心配もいらないし、キャンプに戻ろっか」
私はBクラスの女子を指揮し、キャンプへ急いで戻ることを提案する。早く戻らないと点呼の時間に遅れるからね。出来れば男子も戻ってきてくれると嬉しいが、最悪の場合75ポイントは諦めるしかないと覚悟していた。
「……麗ちゃん」
「ん? どうしたの帆波ちゃん?」
「ん、えっと……その」
そして、そんな時だった。勝ちを確信して一安心する私の前に、少し暗い表情をした帆波ちゃんが出てきて声を掛けてくる。その表情は、どこか迷っているような、そんな表情だ。なので、私はそんな帆波ちゃんに言ってあげた。
「これで私達の勝利は確定だよ、帆波ちゃん。だからほら、そんな顔しないで喜ぼうよ」
「それは……そうだね。でも……」
「でもも何も、皆納得した上で私に従ってくれたんだよ? 隆二くんや男子達、こずえちゃんだってそうなんだから」
私は帆波ちゃんの迷いに気づいている。その葛藤。その悩み。そう考えるに至った大本の悩みまで。
私のやり方に迷いを感じているのを知っている。クラスメイトに負担を強いるようなやり方に。
そして裏で策略を企んでいることも、薄々気づきつつある。
そして私に対し、ある感情を抱き始めている。
でも、友達だから、クラスメイトが喜んでいるから──自分をどうにか納得させて我慢しようとしている。
「だから後でこずえちゃんや頑張ってくれたクラスメイトを皆で労ってあげようよ。ね?」
「……うん。そうしよっか」
帆波ちゃんはそこで笑って私の言葉に賛同してくれる。僅かに嘘の匂いを混ぜた上で。
──その昨夜のことは、私にとっても印象深い。もしかしたら、帆波ちゃんは今ほんの少し苦しんでいるのかもしれない。
でも……大丈夫だよ、と私は帆波ちゃんに内心で言ってあげる。
嘘もつき続ければ本当になる。人は変わろうと思えば変われるんだから。
だから帆波ちゃんが変わってくれるまで、私は待ち続けるよ。
なんたって私達は友達……ううん。親友だもんね。
そうして私は帆波ちゃんと2人で並んで歩き出す。その友情に、ほんの僅かな軋みが入るのを感じ取りながら。
──その無人島試験の詳細を、オレは今まさしく堀北に求められ、口にしているところだった。
正当な理由なくリーダーは変更出来ない。つまり、正当な理由があればリーダーは変更出来る。そのルールを利用し、オレは堀北をリタイアさせ、リーダーを変更することでリーダーを当てられることを回避してみせたと。
だが問題はそこじゃない。そして、堀北の新たな疑問点は他のクラスの動向。矛盾する結果のことだ。
「CクラスとBクラスの動きをオレは警戒していた。実力が未知数の龍園と策略を得意とする南雲。この2人が今回の試験のキーマンだった」
オレはAクラスを除外してBクラスとCクラスのことを説明する。実際、Aクラスは今回の試験で大した脅威ではなかった。ラッキーもあったとはいえ、リーダーを絞れた時点でそこに割く労力はなかった。
「龍園はオレ以上に情報を集め、全てのクラスのリーダーを見抜いていた。そして南雲は反対に、最初から全てのクラスにリーダーを外させることを目的としていた」
「外すことを目的としていた? それは……もしかして、あのスポットを回る作戦のこと?」
「そうだ。正当な理由であればリーダーを変更出来ることに早期に気づいた南雲は、最初からリーダーを変更する前提で戦略を組んだ。予め体調に不安のあるクラスメイトをリーダーに据え、少人数でスポットを回ることでボーナスポイントを稼ぎながら他のクラスへリーダーを悟らせる。そうすることで他のクラスのポイントを削ろうとした」
「っ……だからあんな無謀な作戦を、躊躇なく実行出来たのね……」
堀北の驚愕を帯びた呟きにオレは頷く。リスクがリスクじゃなくなるその戦略はこの試験において強力な戦略の1つだと言っていいが、それでも南雲にとってこの結果は当初予定していたものと違った筈だった。
「ああ。その戦略で南雲はおそらく200ポイント近いボーナスポイントを稼いでいた」
「それは……でも、もしそうならBクラスは殆どポイントを使い切ったことになる。Bクラスのキャンプは見たけどそれほどポイントを浪費している様子はなかったわ」
「それはCクラスへの対策に使ったからだ。龍園もまた南雲の戦略に気づき、リーダーのリタイアを阻止しようと6日目に襲撃をかけた。詳しい詳細はオレにもわからないが、暴力行為、不正行為を使った手で仕掛けたんだろう。その対策に追われた結果、南雲は当初の予定にはない100ポイント以上の損害を受けた」
「それって、互いに暴力を振るったということ?」
「ああ。オレはあの夜、おまえをリタイアさせた後Bクラスのキャンプにこっそり近づき様子を見に行ったが、そこには男子生徒は殆どいなかった。おそらく、Cクラスとの衝突の結果、多くの生徒が返り討ちに遭い、点呼の時間までに帰ることが出来なかったんだろう。そのペナルティだ」
「そんなことが……だからBクラスの生徒は怪我をしていたのね」
そう。それは簡単に予想がつく。リーダーのリタイアを阻止するための方法は、そのリーダー自身を朝の点呼の時間まで誘拐しておくような過激な手段を取るしかない。腕時計を外し、気でも失わせれば出来ないことでもない。無論、成功する確率は低いが、それでも襲撃自体は成功させたのだろう。その後に南雲が男子生徒を使ってリーダーを守りきり、リタイアを成功させた。Aクラスのポイントが減っていることからもそれはわかる。
そしてあの雨の夜の中でBクラスの男子が連携を取るのには無線機や懐中電灯は必須。その購入にもポイントを使い、結果Bクラスは最初にあったポイントをほぼ全て使い切ったのだろう。そして……Cクラスもまた一矢報いることに成功した。
「ああ。それとCクラスもまたリーダーのリタイアを行った。龍園が昼間いなかったこと、龍園の左手の怪我がその証拠だ」
「……CクラスはBクラスの戦略を見抜いた。つまり、自分達もリタイアすることを思いつかない筈がない……」
「そういうことだ。そのためにヤツは自ら怪我を負ってみせた。仮病でのリーダーの変更は試験が成り立たなくなるため認められない可能性が高いからな」
「っ……そこまでして……」
堀北が眉根を寄せる。想像したのかもしれないな。実際、龍園の勝利に対する執念は予想以上だったということだろう。普通は思いついても実行しないからな。
「3クラスがリタイアによってリーダーを変更し、そして全員がそれを察知した結果、Aクラスだけがポイントを大幅に減少させ、他のクラスは程々のポイントで収まった。これがこの試験で起きたことだ」
「……そう。それでDクラスは2位になっていたのね」
「ああ。結果だけ見れば立派だろうな」
オレはそこであえて含みを持たせるような言葉を口にする。次の布石のために。
「だが──この試験で最も弱かったのはおまえだ、堀北」
その言葉を口にした瞬間、堀北が怒気を発したのを感じた。
だが、それでもオレは言わなければならないだろう。この試験で打ちのめされ、無力さを思い知ったこのタイミングでこうして荒療治を行わなければ、この先もDクラスはやられ続けることになる。
葛城が失墜し、坂柳がリーダーになることでまとまるAクラス。南雲がいるBクラスに龍園のいるCクラス。
この3つのクラスを相手に、今のままでは太刀打ちできない。そのためには……早急に強いリーダーがDクラスをまとめなければならない。
少しであれば時間稼ぎは出来る。そのための布石は打った。あるいはオレがこれまで以上に動けば防ぎ切ることも出来るかもしれない。
だが……オレに頼り切るようじゃ、このクラスにも掘北にも未来はない。そんな厳しい判断を、オレは下そうとしていた。
次回から船上試験です。原作と同じようなところや似たところは飛ばしまくってますがご容赦ください。お楽しみに
クラスポイント推移
Aクラス:1024
Bクラス:1120
Cクラス:542
Dクラス:257
感想、評価、よろしくお願いします。