最初に試験の説明が行われるのは18時。その40分後には、Bクラスの生徒全員に試験の内容を共有させていた。
「いやぁ……麗ちゃん、やっぱすごいね。あのメールが来てすぐにこんなこと思いつくなんてさ」
「別に大したことないよ帆波ちゃん。共有するのに最適な方法を選んだだけだしね」
Bクラスの神崎くん達のグループの私室を使わせてもらい、私達Bクラスの首脳陣はその試験結果の共有を行っていた。メンバーは私、帆波ちゃん、隆二くん、ユキちゃんのいつものメンバーに加え、柴田颯くんと浜口哲也くん。何でこの2人を加えたかというと単純に身体能力トップの颯くんといつものメンバー以外で頭が回りそうなのが哲也くんだからだ。後単純に人手が多くしてみてちょっと人材育成というか、ちょっと意識向上を図ってみた。私に頼りにされてると思えばちょっとは頑張ってくれるかもねって。まあ期待の現れだ。頑張ってほしいところ。
そしてそのメンバーでベッドの上に置かれた携帯は、最初に試験の説明を受けた『卯』グループ。『兎』グループと書かれたグループに選ばれた帆波ちゃんの携帯だ。そこから聞こえるのは、とても綺麗ではっきりとした聞きやすい茶柱先生の声。
『以上を踏まえた上で今回の試験の説明は完了する。ここまで聞いて何か質問は──』
「確かに、これなら助かりますね。クラス全員に則座に共有出来ますし、自分達で何度も聴き直してルールを再確認することが出来ます」
そう言ったのは哲也くんだ。相変わらず男子なのに中性的な顔立ちをしていて男性感があまりない。
そんな哲也くんが眼鏡越しに見る携帯の画面には音声ファイルの再生中の画面が映っている。その内容は試験の説明。私が帆波ちゃん達に指示し、胸元に録音機能を使って忍ばせていたものだ。それを聞いて、颯くんは感心したように声を出す。
「うへぇ……なるほどな。でも録音なんてしていいのか?」
「携帯をマナーモードにするか電源を切れとはメールに書かれてたけど、録音モードにするなともボイスレコーダーを持ち込むなとも書かれてなかったよ。そもそもどうせどのクラスもすぐにチャットやら直接話したりで誰かに共有するんだから別に録音くらいでうるさく言われる訳ないんだよね」
「なるほどな……いやでも先生の説明を録音しようなんて普通思うか? なんつーか……さすがだよな南雲は」
「まあそれほどでもないけどねー。電話で直接聞いた方が早く把握は出来るけど、共有しやすいのは記録に残った音声か文章だしそこまでは必要ないかなって」
颯くんの素直な褒め言葉を受け取って涼しい顔を浮かべる。実際大したことだと思ってないし、この程度で褒められるのは相手が龍園くんとかだとバカにされてるようにしか感じないけど脳筋の颯くんなら素直に受け取れるから悪い気はしない。褒め言葉だって誰が言うかに依るってことだ。そうして気持ちよくなっていると、隆二くんもまた口を開く。また褒めてくれるのかなと期待すると。
「一応文章でもまとめておく。文字で見た方が理解も捗るだろうからな」
……せっせと自分に出来ることをこなしていた。うーん。良いことなんだけどね。いやまあ隆二くんはいいか。バカじゃないし。こんなことで褒められまくってもだし。
「それにしても……なんか面倒くさい試験だね」
「うん。確かにこれはかなり難しいかも」
そして試験の内容をこの場にいる面々が理解するとユキちゃんが端的に表しそれに帆波ちゃんが好意的解釈をしつつ同意する。帆波ちゃんはユキちゃんが仲良しこよしするの好きじゃないの知らないからね。それもあってユキちゃんは今猫かぶりモードだ。
だが、確かにちょっと無人島の試験よりも更に毛色の違う試験かもね。私は改めてこの試験のルールを頭の中で整理する。
・この試験では全クラスを混合し、振り分けられた12のグループ。干支グループに振り分けられた上で行われる。
・グループには1人だけ『優待者』が存在し、明日の午前8時に学校側から全ての生徒に一斉にメールが送られ自分が『優待者』か否かが判明する。
・試験の日程は明日から4日後の午前9時までで、それぞれのグループで集まっての1時間の話し合いを1日に2度行う。途中に完全自由日があるため話し合いは全部で6回。
・試験の回答は試験終了後の午後9時30分から午後10時までの間。自分の携帯電話でのみ回答することが出来る。また『優待者』に回答権はない。他のグループに対する回答権もない。
──とまあこれがまず基本ルールだ。そしてこの試験の勝敗と結果を決めるパターンは4つ存在する。それもまた整理した。
・結果1:『優待者』とその所属クラス以外の全員の回答が正解していた場合、『優待者』に100万プライベートポイント。それ以外の全員に50万プライベートポイントが支給される。
・結果2:1人でも未回答や不正解がいた場合、『優待者』のみ50万プライベートポイントが支給される。
・結果3:試験終了前に『優待者』及び『優待者』の所属するクラス以外の誰かが回答し、それが正解だった場合。『優待者』を見抜いたクラスに50クラスポイント。その生徒に50万プライベートポイント。『優待者』を見抜かれたクラスに-50クラスポイント。
・結果4:試験終了前に『優待者』及び『優待者』の所属するクラス以外の誰かが回答し、それが誤りだった場合。間違えたクラスに-50クラスポイント。『優待者』に50万プライベートポイント。その所属クラスに50クラスポイント。
・そして試験結果は各グループの結果とポイントの増減のみを発表し、『優待者』やその個人の回答は発表しない。
……と、こんな感じかな。私はそれをまとめて平たく口にする。
「先生も言ってたけど、早い話が特殊なルールの人狼ゲームをしろってことだね」
「うげっ、マジかよ。俺人狼苦手なんだよな~」
「要はこの話し合いの時間の中で『優待者』を見つける。あるいは隠し通す試験ですね。人を脅したり他人の携帯を盗むなどの強引な手段も禁止されてますし、今回はどのクラスも正攻法で挑むしかなさそうです。シンキングとはよく言ったものですね」
おっと脳筋颯くん。早くも自信がなさそうだ。やる気はありそうなんだけどね。こういう頭脳ゲームは中々厳しいかな。逆に自信がありそうというか、役に立てそうだと自負し始めてるのは哲也くんかな。ルールの理解も早い。とはいえその解釈をちょっと間違ってるかな。ただすぐに訂正することはせずにちょっと私抜きでの話し合いを見守ることにする。私が口を出さなかったらどんなことを話し合い、どんな戦略を思いつくのかちょっと興味があるからね。無人島試験を経てどういう意識の変化が起きてるのかちょっと見せてもらおう。私は次に口を開いた帆波ちゃんに目線を向けた。
「うん。そうだね。話し合いの中で上手く情報を引き出す方法を考えるのが重要かも。『優待者』は学校が厳正に調整してるって話だし、優待者の偏りはなさそうかな。そこから法則を導き出せればいいけどそれはさすがに難しそうだしね」
「……なら……そうだな。たとえば携帯を交換するか、偽装を施して『優待者』を誤認させればいい。SIMカードを交換すれば携帯の入れ替えも行える可能性がある。メールのコピー、複製が禁じられていても携帯に偽証は禁じられていないからな」
「あっ、それいいかも! 早速試してみよっか!」
おっと。帆波ちゃんは中々いいとこをついてるね。そして注目すべきは隆二くん。私がまず真っ先に思いついた手段……というか私が取りそうな手段を思いついたね。偽の過去問やらリーダーの変更による偽証などそういう戦略を見てきたからかな? 影響を受けてるのを感じるね。
そしてSIMカードの変更をその場で試し始める。すると携帯は見事使えなくなった。それはそう。ただここから一工夫。ポイントを支払うことでSIMロックを解除! それで見事携帯を入れ替えることが出来る。これで電話番号すら偽装出来る。罠の1つとしてはそれなりの1手だ。ちなみにポイントでSIMロックの解除を提案したのは帆波ちゃんが早かった。うんうん。2人とも優秀だね。私は嬉しいよ。
「すげぇな神崎。一之瀬も。俺なんて何も思いつかないぜ」
そして安定の颯くん。うん。やっぱ帰らせようかな。学力は平均的なんだけどなぁ……でもいるだけで帆波ちゃんと同じで地味に雰囲気がよくなるムードメーカーだからいる意味はある。仕方ない。置いておいてあげよう。置くだけで場の空気が上がる置物と考えれば悪くない。普通の活躍はその身体能力が発揮出来るような試験までおあずけかな。
「……南雲はどう考える?」
そしてしばらく色々な話し合いが行われたところで、隆二くんが気になったのか私にそう尋ねてくる。周りも皆私に注目した。Bクラスを勝利に導いたリーダー。私に対する信頼が更に高まっているのを感じる。
「うーん、そうだねー」
これなら無人島の時よりも更に私の命令をちゃんと聞いてくれるだろう。私は携帯の画面を見てからちょっと考える。思いついた戦略は幾つかあるけど……うーん、どれが1番いいかなぁ。さっさと終わらせるか長引かせるか。
「それじゃあ教えてあげるよ。私の思いついたBクラスを勝たせる戦略をね」
まあまだ時間はある。今日1日、明日の朝まで考える時間はあるからね。それまではちょっと判断を保留させてもらうことにし、私は同じグループの3人と共に説明会へと向かうことにした。
無人島試験に続いて新たな特別試験の告知が学校側から行われた。
オレは自分のグループの説明会に参加した後、少し時間を置いて堀北と平田が説明会のある2階に向かうのについていった。
「他のクラスは……もう動いてるみたいね」
「うん。そうみたいだね」
だがその足取りはあまり軽くない。堀北は2階にいる他のクラスの生徒達の動きを見て眉間に皺を寄せていた。隣の平田が同意する中、それには答えずに他の生徒の動きをじっと見つめて何かを考え込んでいる。オレにはその行動を行うに至った堀北の心理が手に取るようにわかった。
……焦ってるんだろうな。
だがそれでも今はまだ静観することを決めている。今の堀北に足りないものを埋めるのに、オレの関与は必要ない。
だからオレはいつも通り、平凡な生徒を演じてただ掘北の後ろについて回る。他のクラスの生徒が集まるその場所に、堀北はゆっくりと歩みを進めた。
「……20時40分組か?」
そして最初に声を掛けてきたのはAクラスの葛城だった。
堀北達が近づくまでは壁に寄り掛かり、腕を組んで険しい表情を浮かべてきた男が堀北達を見るなり近寄って声を掛けてくる。
「……そうだとしたら? もしかして、あなたもそうなのかしら」
その声は、以前対峙した時よりも更に低く重い。堀北が応じるように声を返せば、睨むとまではいかないがそれでも鋭い目でこちらを見下ろしてきた。
「そうだ。君とは明日から、同じグループとして協力し合うことになる。だが、申し訳ないが友好的に接することは出来ないだろう。それを予め通達しておく」
最初から敵対心をはっきりと覗かせた様子で葛城が言う。普通の生徒ならこれだけでも気圧されそうな圧力を感じるが、堀北は怯むことはなかった。
「最初からそんなに敵視されるとは思わなかったわ。もしかして私達が何かしたかしら?」
「それも無論ある。だが、わかっている筈だ。先日とは違い、俺達Aクラスに余裕はない。相手が最下位のDクラスであろうと倒すべき敵として全力で叩く必要がある」
「……そう。同情しておくわ。私も、あなたの立場だったとしたらとても平静を保っていられるとは思えないから」
「……ああ、そうだろうな。誰であっても、この事態は無視することは出来ないだろう。由々しき事態だ」
葛城の余裕の無さからくる他のクラスの敵視。それを理解し、慮った堀北に葛城は同意する。おそらく、こういった状況になりさえしなければ葛城はDクラスに対し、そこまで敵視することはなかっただろう。
だがその葛城の言う由々しき事態が葛城から余裕を奪った。葛城の周りにいるAクラスの生徒達も、どこかピリピリしているというか、どことなくこの試験にかける意気込みのようなものを感じるし、他にも疑念や、一部からは滲むような苛立ちを感じる。
そしてその負の気配の対象は……この場にいる他のクラスの人間というより葛城に向けられていると言っていい。その空気は重苦しく、堀北や平田も含めた他のクラスの生徒もどこか緊張して言葉を発しない。
「お。もう結構集まってるねー」
「……南雲」
だがその空気を完全に無視し、明るい声と雰囲気で払拭する存在がその場に現れる。
他の生徒達の注目を集め、男子は特に目を奪われていた。その生徒、南雲は集まっている面々を確認するように見渡しながら、軽い足取りで葛城と堀北のいる場に近づいてきた。背後には1人の知らない女子生徒とBクラスのサブリーダーでもある神崎もいた。
「やぁやぁ鈴音ちゃん、洋介くんに綾小路くん。それと葛城くんも。なんか雰囲気暗いけどどうしたー? 話聞こうか?」
「……そうだな。なら聞いてもらうとしよう。南雲。俺たちAクラスはこのまま終わるつもりはない。必ず今ある序列を守り通してみせるつもりだ」
まるで友達に対する世間話のように軽い調子で話しかけてくる南雲に、葛城は合わせることなくその重い声を直接ぶつける。それでも南雲は変わらない。自然な笑顔のまま頭に疑問符を浮かべてみせる。
「んー? ごめん。聞き間違いかな? なんかAクラスって聞こえたけど違うくない? ……『俺たちBクラス』──の間違いでしょ?」
「間違ってはいない。クラスの入れ替わりは月毎。つまり9月になってから行われる。現時点で俺たちAクラスがBクラスにポイントで負けていようと、9月までにまた上回ればAクラスのままだ」
そう。葛城やAクラスの生徒に余裕がない理由。
それは現時点でBクラスのポイントがAクラスを上回っているからに他ならない。
無人島試験で1位を取ったBクラスに対し、最下位となったのはAクラス。その結果によって、早くもクラス同士の入れ替わりが起こった。
だが、正確には葛城の言うことの方が正しい。まだ正式にクラスの入れ替わりが起こっていない以上、AクラスはまだAクラスのままだ。現時点で負けていようと今回の試験で覆せる……いや、元に戻れる可能性は十分にあるだろう。そして、そうしてみせると葛城はBクラスに宣戦布告した。
だがそんな決意も南雲は笑って受け止めてみせる。
「あはは。なになに葛城くん。ちょっと気合い入りすぎじゃない? そりゃ頑張るのは良いことだけどさ。もっと肩の力抜こうよ。どの道私には勝てないんだし、気を張るだけ損でしょ?」
「勿論Bクラスは強敵だと認識している。君の優秀さもしっかりと理解しているつもりだが、それでも勝てない相手だとは思っていない。総合的な実力はAクラスの方が上だと俺は信じている」
「総合的な実力がAクラスの方が上ならなんで無人島では負けたのかなぁ? 私わかんないんだけどちょっと教えてくれない? 優秀な葛城くんなら自分達がなんで負けたのかしっかり理解してるんだよね?」
「……確かに、無人島の試験において失態……いや、失策があったことを認めよう。お前達の立てた戦略を、俺が読みきれなかったのも事実。だが、実力とは何も1回の勝負の結果で決まるものではない。それをこの試験で証明する」
「その1回の勝負で実力の差を理解出来てないから勝てないって言ってるんだよ」
南雲の圧倒的な自信を思わせる発言。鋭くなった視線と共にぶつけられる言葉に葛城は一瞬怯む。だがさすがと言うべきかすぐ切り替えした。
「なら南雲。おまえは俺たちの実力を完璧に把握してるとでも言うのか?」
「いや、それは無理かなー。だってAクラス、想定以上に弱かったんだもん。もしかしたらもっと弱い可能性もあるし、さすがの私でもそこまでは読みきれないかなー」
南雲と葛城の舌戦。毅然と返す葛城に一見和やかな様子だが皮肉を織り交ぜた言動で挑発する南雲。そしてそのペースは、どちらかと言うと南雲の方が握っている。
「クク。何だ。随分楽しそうじゃねえか」
「……龍園か」
そしてそこに更に現れた男に、誰もが注目する。まさかこの男も同じグループなのかと。その気になる疑問を南雲が明るい声で聞いてくれた。
「おー、龍園くん。もしかしなくても一緒のグループかな?」
「嬉しいことにな。まさかこんなにも早く再戦出来ると思わなかったぜ麗」
龍園は背後に生徒を3人連れてきて、そして同じグループと思われる南雲や葛城、堀北といった生徒達をニヤニヤとした表情で見渡す。
「何だ。Dクラスの鈴音とAクラスの葛城も……いや、違ったな。元Aクラスの葛城までいるじゃねえか。随分と愉快な顔ぶれになったもんだ」
2人を見てバカにするように笑う龍園。それに対し、葛城も堀北も目を細める。2人とも南雲に対するのと同じでかなり警戒しているようだった。
「どうだ? せっかくだし無人島でのピエロ同士、仲良く見世物でもしてみろよ。題目は美女と野獣でどうだ?」
「……言ってくれるな」
「気安く名前で呼ばないでと言わなかった? それに、私達Dクラスはあなたには負けてない。ピエロ扱いするのは勝手だけど自分を振り返ってみたらどう?」
「本当に自覚がないなら大したもんだな鈴音。いや、それとも自覚がある上で言ってんのか? だとしたら面の下は屈辱塗れだろうな。想像するだけで興奮してくるぜ」
「あなたが何を言っているのか私にはわからないわ」
龍園の疑いの言葉を掘北は間髪入れずに切り返すが……それにしてもピエロ、か。どうやら龍園は既に怪しんでいる。いや、裏に誰かがいると確信しているようだな。無人島試験で龍園が取った戦略とその動き、結果からある程度実力は予想出来ていたつもりだったが、その評価を上げざるを得ない。こちらも龍園の警戒の対象に入らないよう気をつける必要がある。
「クク。まあいい。おまえも葛城もついでに相手してやるよ。麗の前の前菜としてな」
「負けた身でよくそんな大口が叩けるわね。それにそんな風に驕っていると足元をすくわれるわよ?」
「何もわかってない奴が随分と強気だな。お前と葛城。あの無人島で何が起きていたかもわかってないお前らじゃ俺には勝てねえよ」
「ならばそう思っているといい」
堀北と葛城の返しに、龍園は面白そうに鼻を鳴らす。
「クク、雑魚は何で自分が雑魚なのか理解出来てないみたいだな。笑えるぜ。なあ麗」
「うんうん。皆仲が良さそうで何よりだね!」
どこがだ、とつい心の中でツッコんでしまう。どう見ても一触即発の状況だった。そして、そんな他の生徒が萎縮して口を挟めない空間に、1人の男も乱入してくる。
「龍園」
「あ? 何だ神崎。雑魚がしゃしゃり出てくるなよ。お前はいつも通り麗のケツにでも張り付いてろ」
「こらーケツ言うなー」
「悪いがそういう訳にはいかないな」
Bクラスの神崎。南雲の後ろで黙って成り行きを見守っていた男が、龍園に対してその鋭い目つきで睨んでみせる。それを龍園はやはり嘲笑った。途中の麗のジト目のツッコミは無視されていた。
「そういや無人島では傑作だったな。Bクラスの実力はどんなもんかと期待してたが、蓋を開けてみれば麗以外はただの木偶の坊だ。なあ、そうだろ麗。こんな足手まとい共を率いなきゃならねえとはお前も大変だな」
「こらこら。私の大切な仲間を侮辱しないでくれる?」
「ククク。演技が上手だな。心の中じゃお前も思ってるんだろ? なにせこの雑魚共がもう少し
「こーら。だからやめなって」
龍園は神崎との距離を詰め、至近距離で不敵な笑みを浮かべながらBクラスの生徒をこき下ろす。それにしても、出来れば、か。やはり予想していたがCクラスは相当強引な手を使ったようだな。
そして神崎もまたBクラスの生徒として南雲の命令を受けて役割を任されたのだろう。しかし、それは南雲の満足の行く結果ではなかったと見るべきだな。南雲は否定しているが庇っているだけで、その事実自体は否定出来ない。
「……ああ。お前の言う通りだな、龍園」
「あ?」
だが……どうやら神崎の方は自分で理解しているようだ。自分達が南雲の足を引っ張ってしまったことを。それを認め、その上で口にする。
「あの試験で俺は……いや、俺たちは南雲の足を引っ張った。だが、今後はそうはならない。俺たちのことを隙だと考えているなら手痛い目に遭うぞ」
「ほう? 面白えこと言うじゃねえか。おまえに何が出来るってんだ?」
「必要なら何でも、だ」
龍園の睨みに真正面から睨み返す神崎。無論劣勢、劣っているのは明らかだがそれでも引くことはない。そう決意しているような目だった。
そしてその神崎を龍園は値踏みしているようだった。その言葉がどこまで本気か、それを考え、しかし確かめようがないと判断したのだろう。口を開く。
「……クク。それが本気なら面白いがな。だが生憎と今のところはハッタリにしか聞こえねえなあ神崎」
「悪いが本気だ。やれることは全部やる。次は躊躇することはない」
「デカい口を叩くだけならタダだな」
そう言って龍園は神崎から離れて、そのまま背を向ける。
「時間だ。行くぞ」
龍園がCクラスの生徒にそう命じると、粛々と怯えた様子で龍園に付き従う。1人の女子生徒だけはそういう素振りもなかったが、今は特に気にならない。それを見て南雲が肩をすくめる。
「龍園くんにしてはあっさりめな絡みだったねー。もうちょっと楽しめるかと思ったんだけどな」
「……すまない南雲。少し熱くなった」
「あーいいよいいよ。むしろ嬉しかったしね~。それじゃ2人とも行こっか」
「ああ」
南雲が神崎の肩を叩きながら前に出ると、そのまま神崎ともう1人の女子を連れてBクラスもまた去っていく。その際に、こちらにも手を振ってきた。
「じゃあねー暫定AクラスとDクラスさん。試験が始まったらまたいっぱい話そうね」
「そうだな。こちらとしても話し合いは望むところだ」
そうして南雲の言葉に答えた後、葛城もまたAクラスの生徒2名を引き連れて去っていく。
そして最後に残ったのはDクラスだ。そこに、もう1人の生徒もやってくる。
「お待たせ……ってあれ? 皆集まってどうしたの?」
「ああ、うん……ちょっとね。櫛田さんも同じ20時40分組?」
「組? うん、よくわからないけどその時間に集まるようにってメールは来たよ」
Dクラスの最後の1人である櫛田がやって来る。これでようやくグループが揃ったか。
「……私達も行きましょう」
「あ、うん。そうだね」
そして掘北が、話を始めようとする平田と櫛田に声を掛け、一緒に行くように促す。それを観察しつつ、オレは3人に別れを告げ、その背中を見て言葉を残す。
「どこまでやれるかわからないが頑張るんだな」
その上から目線とも言える言葉を拾った者は誰もいない。あのメンバーを相手にどこまでやれるかはわからないが、どう転ぼうとそれはクラスのためになりえる。
だからオレは気にかけることもなくその場と後にした。──そして、その翌日。改めて確認した堀北達のグループ。辰、『竜』グループのメンバーは……。
Aクラス・葛城康平 西川亮子 橋本正義 的場信二
Bクラス・安藤紗代 神崎隆二 南雲麗
Cクラス・小田拓海 椎名ひより 園田正志 龍園翔
Dクラス・櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音
各クラスの中心人物が揃う……死のグループだった。
ややこしい試験の始まりです。次回は堀北パートも(多分)あるよ。お楽しみに。
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