ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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一般黒髪ロング美少女はその式を知らない

「はい。それじゃ配るよー」

 

 南雲さんがカードを配っていく。私の手元にも順番に集まっていくトランプのカードを見ながら、私はこの想定の斜め上すぎる展開に頭を悩ませていた。

 南雲さんは一体どういうつもりでこのババ抜きを始めたのか。

 ただ遊びたかったなんてそんな訳がない。洞察力を証明するというが、ババ抜きなんかでそれが分かる筈もない。ババ抜きは運の要素が圧倒的に強いゲームだ。相手の表情や様子を窺うなんてことは言うほど簡単なことじゃない。当然だが誰もが隠す。ババが手元にあるのかどうかも悟らせる筈がない。

 

「上がりです」

 

「おー的場くんいいね。おめでと~」

 

 だからこそ南雲さんの自信に私は半信半疑だった。最初の上がりはAクラスの的場くん。

 手番は時計回り。座っている場所からAクラス、Cクラス、Dクラス、Bクラスと回っていく。

 

「はい。どうぞ掘北さん」

 

 的場くんが上がった後、Cクラスへと手番が回り、そして平田くんがカードを引き、その平田くんが引いた後に櫛田さん。櫛田さんの次に私。櫛田さんが自然な様子で差し出してくるカードを私は引く。手元に同じカードはない。外れた。手元のカードをBクラスの南雲さんへと向ける。

 

「鈴音ちゃん運悪いねー。今のところ1番カード多いよ? 大丈夫?」

 

「……問題ないわ」

 

「そっかー。お、あっがりー」

 

 南雲さんのからかうような言葉にそう返したものの、特にこれといった手立てがある訳でもない。南雲さんが私の手からカードを引く。そして上がりだ。全員もうカードの枚数が少ない。皆次々とカードを引いて上がっていき、そしてあっさりと決着がつく。

 

「ビリは園田くんだね。それじゃ次のカード配りおねがーい」

 

「あ、ああ」

 

 直前で私が上がり、負けたのはCクラスの園田くんという男子生徒だ。だが、それを見てもやはり私にはわからない。

 

「こんな茶番を続ける気? 全然有意義に感じないのだけど」

 

「まあまあ。1回だけじゃ何も分かんないでしょ? とりあえず続けようよ」

 

 私の抗議も意に介さず強引に南雲さんは次のゲームの開始を宣言する。2回戦。配られていくカードを見たところで、私は顔に出すことなくそのカードに視線を向ける。ジョーカーが私の手元にあった。

 

「園田くん、次は頑張ってね。応援してるよ~?」

 

「……お、おう。次は頑張る」

 

 南雲さんがビリだった園田くんに声を掛けると、園田くんは分かりやすく顔を赤くして頷いていた。どうやらCクラスの男子も南雲さんのファンであるらしい。そういう生徒はDクラスにもいるしおそらく全クラスにいるだろう。アイドルの何がいいのか私には分からないが、客観的に容姿に優れていることは分かるため、多くの男子を虜にするのに違和感はない。

 そんなどうでもいいことに思考を割きながらもゲームは続く。他の人が次々と上がっていく中、私は取り残されていった。その理由は分かる。手元にあるジョーカーのせいだ。

 

「うーん。これかなぁ。お、やった。これで上がりだね」

 

「……私の負けよ」

 

 そして南雲さんがジョーカーを私の手から引かないからだ。ずっと私の手元にあったジョーカーを南雲さんは回避し続けた。最後に上がったのが南雲さんなため、南雲さんはその勝利で私にニヤニヤとした表情を向けてくる。

 

「もしかして鈴音ちゃんがずっとジョーカー持ってた?」

 

「さて、どうかしらね」

 

「なるほどなるほど。ずっと持ってたんだね。それは運がお悪いことで」

 

 なんてことのないようにそう言う南雲さん。だが、その言葉は当たっていた。私はその言葉に不可解を感じる。ただの当てずっぽうか、それとも……。

 

「それじゃ3回戦~。鈴音ちゃんがカードを配ってね」

 

「……わかったわ」

 

 遺憾ながら、ビリがカードを配るというルールなためカードを配っていく。

 そうして3回戦が始まる。

 だけどその3回戦でも、私はジョーカーを引いてしまった。

 

「……残ってしまいましたか。一騎打ちですね」

 

「……そうね」

 

 最後に残ったのは私とCクラスの椎名さんだった。椎名さんがカードを引いてジョーカーでなければ私の負け。ジョーカーなら私にチャンスが回ってくる。

 

「おっと。これは見ものだね~。ひよりちゃん頑張ってー。鈴音ちゃん表情に出やすいから読めるよー」

 

「……そうですね。頑張って当ててみます」

 

 どうやら南雲さんは椎名さんを応援……いえ、私が負けることを願っているみたいだ。

 とはいえ南雲さんの言うように私が表情に出すことはない。ポーカーフェイスを貫く。椎名さんは南雲さんのアドバイスを受けて、私の顔をじっと見つめてきた。椎名さんの指が2枚のカードを行ったり来たりさせる。そして掴み取ったのは……。

 

「上がり、ですね」

 

 ジョーカーではないカード。つまり、私の敗北だった。

 その結果に私はやはり疑問を感じる。

 

「これで鈴音ちゃんの2連続負けだね。罰ゲームに柿ピー買ってきて」

 

「そんなルールはないわ」

 

「えー。じゃあコアラのマーチでいいよ」

 

「その前に部屋を出たら失格になるだろ……」

 

 橋本くんの言う通りだった。冗談だとしても随分低レベルだと私は冷たい視線を南雲さんに向けるも、特に気にしている様子はない。

 

「何か食べながらやりたかったんだけどなー。次の会議では皆お菓子持参しよっか。300円以内ねー」

 

「……ふざけているの?」

 

「ふざけてないって。今ので大体分かったからさ」

 

「何がわかったというの?」

 

「とりあえず、鈴音ちゃんは優待者じゃないよね?」

 

 おふざけからの突然の核心を突く質問。その緩急に再び緊張が走ったが、それを聞いたところで動揺する筈もない。これくらいは予想出来る範疇だからだ。私は白を切る。

 

「どうかしら。でも優待者じゃない可能性の方が高いのは確かね。優待者はこの中に1人しかいないのだし」

 

「でもDクラスの中に優待者はいるんじゃない?」

 

 その言葉に、私の心臓が跳ねる。声は出さなかった。表情にも出さないように努める。

 何しろその言葉は当たっていたから。だから、声を出さないといけない。無言で居続けると怪しまれると思い、自然に言葉を返す。

 

「……さあ。それもどうかしらね」

 

「うんうん。鈴音ちゃんはわかりやすくて助かるなー。顔に書いてあるよ。『その通りです』ってね」

 

 南雲さんはにこにこと笑顔を浮かべながらそれを確信しているかのように頷く。私はそれに言葉を返さなかったが、代わりに別の人が声を返した。Aクラスの橋本くんだ。

 

「へぇ。それじゃ南雲は、平田か櫛田さんが優待者だと思う訳だ」

 

「そういうことになるね」

 

「そうか。なあ聞いたか葛城くん。これで2分の1だ。大分絞り込めたな」

 

「……悪いが、南雲の証言を鵜呑みにする訳にはいかない。優待者を外させるための罠にしか見えんな」

 

 橋本くんの言葉を受け、一瞬Dクラスの方を見た葛城くんだったが、すぐに視線を外して信用出来ないと告げる。そう、そんな訳がない。私達はともかく、周りからすればこれは誘導して優待者を外させようとする仕掛けにしか見えない。橋本くんもおそらく冗談だろうと、そう思う。

 

「いやいや。私は結果1を目指してるんだからそんなことしないって」

 

「その言葉も信用ならない」

 

「だってほら、考えてみなよ。こうしてとりあえず2択に絞っておけば、簡単に裏切ることは出来ないでしょ? 2択といっても外したら痛いし、確信が持てないと回答を送る訳にはいかない。でも2択にしておけば最後の回答の時間にどっちかに入れてくれるでしょ?」

 

「……それはDクラスに優待者がいるということを前提にした話だ」

 

「私の言葉が信用できないかな? でも信じておいた方がいいよ? 私に嘘や誤魔化しは通用しない。優待者かそうじゃないかなんてちょっと観察してればわかるんだから」

 

 だけどその考えを南雲さんは否定した。絶対の自信を持って葛城くんの言葉を否定する。

 それを聞いて私は、その自信がどこから来るのかと疑問に思う。見れば分かるなんてふざけた答えを鵜呑みにする訳にはいかない。ならば、優待者を見抜けると豪語するその自信には何かきっとからくりがある筈。

 あるいはただのハッタリなのかもしれない。だけど妙に不穏なものを感じざるを得ない。今までの南雲さんを知っていると、これもまた何かの罠への布石なのかと考えてしまう。私が考え込む中、そこで言葉が飛ぶ。このトランプが始まってからずっと黙っていた彼が口を開いた。

 

「クク……随分と踊らされてるじゃねえかおまえら」

 

「踊らされてるって……どういうことかな、龍園くん」

 

 足を組んで私達の様子をずっと観察していた龍園くんが私達をバカにするようなニュアンスで発言する。平田くんがその言葉の意味を尋ねると龍園くんは南雲さんに視線を向けた。そして考えを口にする。

 

「本当に優待者かどうかわかるってんならさっさと報告しちまえばいいだけの話だ。なのにそれをしないってことはまだ絞り込む段階までは進んでないってことなんだよ。この試験で無意味に結果を遅らせるメリットはないからな」

 

「ふーん?」

 

 龍園くんが口火を切ると、南雲さんもまた意味深な視線を龍園くんに向けた。再び2人の言い合いが始まる。

 

「龍園くんは、私が何か企んでるって思わないのかな?」

 

「ああ。勿論思ってるぜ。おまえがこんな無意味なことをする筈がない。なら、ここまでの行動、言葉にも全て意味がある筈なのさ。だから優待者が見抜いてるかはともかく全グループで結果1を目指すための布石っていうのもあながち嘘じゃないかもな」

 

「嘘じゃないんだけどなー」

 

「どうだかな。おまえのやり方は嘘だったり本当だったりする。なんにせよ、信用するのはバカがすることだ」

 

「でも約束は守るよ? なんならこの場で約束しよっか? 私達Bクラスは1人も裏切り者を出すことはしませんって。はい、約束しまーす」

 

「その言葉も嘘かもしれねえな」

 

 徹頭徹尾南雲さんを疑い続ける龍園くんに、信用していいと言い続ける南雲さん。このやり取りに口を挟むべきかどうか──そう悩んだところで、1時間が経過したという船内アナウンスが流れた。これで1回目のグループディスカッションは終了となる。それを聞いて南雲さんが皆に尋ねた。

 

「これで一応終わりだけど……どうしよっか。まだ続ける? 私達はどっちでもいいけど」

 

「必要ねえな。行くぞ、おまえら」

 

「は、はい」

 

 だが龍園くんはさっさと立ち上がって部屋を出ていってしまう。その際に私に視線を向けてやはりと言うべきかバカにするようにニヤッと笑ったが、すぐに前を向いて部屋を出ていってしまう。最後に1番後方からついていっていた椎名さんが頭を下げた。

 

「龍園くんが失礼しました」

 

 それではまた、とそう言って椎名さんもまた去っていく。次に立ち上がったのはAクラスだ。そして続いてBクラスも。

 

「あー皆帰っちゃうんだ。このまま居酒屋で二次会とかどうかなって思ったんだけどな」

 

「学生の身で居酒屋は感心しないぞ、南雲」

 

「冗談に決まってるじゃん。ランチでもご一緒してあげようかと思ったけど龍園くんも帰っちゃったし、皆そんな気分じゃなさそうだね」

 

「ああ。悪いがそんな余裕はない」

 

「そっかー。それじゃ仕方ない。ご飯は私達だけで行こっかな。ってことで撤収~」

 

 Aクラスが去り、Bクラスもまた部屋を出ていく。どうやら延長する気はないらしい。なら私達もまたここに居続ける意味はない。そう思い立ち上がった。

 

「鈴音ちゃーん」

 

「……何かしら?」

 

 そこで南雲さんが話しかけてくる。相変わらず馴れ馴れしいが、それでも櫛田さんのように踏み込んでくるようなことはしない。

 ただ一言だけを残してきた。

 

「勝敗は戦う前に決まっている」

 

「……何?」

 

「孫氏の兵法だよ。鈴音ちゃんに教えてあげようと思ってね」

 

「……余計なお世話よ。それくらい知っているわ」

 

「知ってるのと実践出来るかはまた別物だよ。じゃあね」

 

 そう言って南雲さんもまたBクラスの2人を連れて去っていく。

 私はその言葉の意味を頭の中で思い出しながらしばらくその場に立ち止まってしまっていた。

 

 

 

 

 

 12のグループに分かれて話し合う船上試験の4日間は、オレにとってあっという間に過ぎていった。

 何故なら試験のために動くよりも、それ以外のことについて動く時間の方が多かったから。

 

「猿グループに続いて牛グループまで裏切り者が出たみたいね……1つは高円寺くんのせいだけれど」

 

「……そうだな」

 

 堀北からは一応、毎日報告のような形で試験についての経過を聞いていた。高円寺が1日目に早々に試験から解放されるために学校に回答を送信し、頭を痛めたのも束の間、2日目には牛グループもまた裏切り者が出て試験が終了する。

 牛グループといえば池、須藤、佐倉などがいるグループだったが、話を聞いても何も得られなかった。それも仕方ない。この試験では誰が裏切ったかわからないようになっている。仮に自分のクラスの中に裏切り者がいたとしても分かる筈がない。気にしてもしょうがないため、オレはオレなりに『手駒』を作るために動いた。

 その駒として選ぶことにしたのが、軽井沢恵。Dクラスの女子のリーダーであり素質と隙を感じたオレは軽井沢に白羽の矢を立て、表向きは幸村や博士と共に試験に取り組む姿勢を見せつつ、軽井沢に絡むCクラスの真鍋達を利用して軽井沢の闇を暴き、軽井沢を協力者とすることに成功した。

 オレがこの4日間でやったことは、ほぼそれだけだ。試験期間中は軽井沢を協力者に引き込むことと軽井沢に協力してもらって行ったこと。それ以外に何もしていない。

 だからこそ、オレはこの試験がどういう結末で終わるかにさして興味はなかった。どう転ぼうが、それはそれでクラスの利益になるだろう。

 クラスをひとつにまとめるための協力者を手に入れた。これがオレの求める最低限の成果。これ以上の成果が得られるかどうかは、運にも左右される。堀北がどう動くか。他のクラスがどう動くか。生徒それぞれが何を選ぶか。それによって得られるものがある。その結果次第でクラスの状況もあるいは知ることが出来る。

 

 ──その成果がわかる試験4日目。その夜に、オレは軽井沢や掘北、須藤らといつものカフェで集まり、試験の結果が出るのを待っていた。

 

「……珍しい組み合わせね」

 

 オレと軽井沢だけが座っているのを見て堀北が訝しむ。それに軽井沢が答えた。

 

「平田くんも後から来るから」

 

「……そう」

 

 平田が来てないことを残念に思っている訳ではないだろう。試験の結果を確認するに当たって平田は必要かもしれないが、それは後からでも出来るし、何より今更動いたところで結果が変わる訳でもない。

 堀北は素直に席についた。その横に須藤も座る。須藤は堀北から邪険にされていたが、須藤は話を聞くつもりみたいだった。

 

「それより、犬グループと馬グループでも裏切り者が出たみたいね。あなた達の兎グループに続いて」

 

「ああ、うん。でも良かったんじゃない? 裏切り者が出たのってそんくらいでしょ? ならもし負けててもそんなにポイントも動かないじゃん」

 

「……そうね。それは、そうなのだけど……」

 

 無人島の試験で堀北が尽力した結果、堀北は多少はDクラスから信用を得ている。軽井沢がこういう風に普通に話していても違和感はない。

 だが問題は堀北の方が。堀北は何かを疑問を抱いているのか、ずっと険しい顔をしている。気になった訳ではないがオレが尋ねてみることにした。

 

「どうかしたのか?」

 

「……ええ。ちょっと腑に落ちないのよ。結局、どこのクラスもさほど動きが見えなかったから。Aクラスも結果3を求めるという割には裏切り者はそれほど出ていないし、BクラスやCクラスも……」

 

「何も怪しいところはなかったのか?」

 

「いえ、怪しさしか感じなかった。けれど、Cクラスが協力を呼び掛けてきたこと以外に動きはなかった。グループの集まりでも結局何もなかったわ」

 

 堀北は首を振り、特に何も起こらなかったというこの試験についての感想を述べる。6つのグループの裏切りがあったとはいえ、好戦的なBクラスにCクラス。そして攻撃に移ってきたAクラスと当初は激しい戦いが始まると予想されていただけに、この結果は少し大人しすぎると堀北は感じたようだ。

 

「一応裏切り者が出たって連絡はなかったけどね」

 

「……そう。それなら馬グループの優待者が見抜かれているかどうかね。後は残りのグループに私達の優待者がいなければいいけれど」

 

「それと高円寺の野郎もじゃねぇか?」

 

「そうね。高円寺くんが裏切った分のマイナスを考えると痛いけれど……考えても仕方ないわね」

 

 軽井沢が平田の代わりに情報を伝えると堀北は優待者が見抜かれていないかどうかだけを祈る。Dクラスに裏切り者は高円寺以外にいないとなると、つまり結果3を勝ち取れる可能性は極めて低く、クラスポイントを得られる可能性は優待者が見抜かれていない結果4しかない。つまり、他のクラスにかかっているのだと、そう考えていると遂に人がやってきた。

 

「やっぱりここにいたか」

 

「やっほー。お邪魔していいかな?」

 

「っ……龍園……! それに、南雲……」

 

 やって来たのは平田ではなく、龍園に南雲。CクラスとBクラスのリーダーが並んでやってきたことに、須藤は複雑そうにその名を呼ぶ。その呼び掛けに南雲は手を振って挨拶したが、龍園は答えない。椅子を引いてドカっと堀北の隣に腰掛ける。南雲もまた椅子を引いてこちらは須藤の隣に座った。

 

「せっかくだから全員で結果を楽しもうと思ってな。分かりやすいところにいてくれて助かったぜ」

 

「葛城くんも呼んだんだけどねー。断られちゃった」

 

 どうやら一緒に来たのは南雲の提案らしい。各クラスのリーダーに声を掛けるとは南雲らしいが、それを受ける龍園も龍園だ。もしかしたら競ってはいても相性は悪くないのかもしれないな。そんないつもの調子の2人を見て堀北は眉を僅かに立てる。掘北とこの2人の相性は良くない。

 

「……随分と余裕そうね。それほど結果に自信があるのかしら?」

 

「そうでなきゃ態々出向いたりはしない」

 

「鈴音ちゃんは自信ある? 私はバリバリにあるんだけどどうかな?」

 

「そう言う割には大人しい結果ね。あなた達はどちらも優待者を見抜けると大口を叩いてたみたいだけれど。もしかして負け犬の遠吠えでも聴かせに来てくれたのかしら」

 

 もしそうならもっと裏切り者を出して他のクラスのポイントを削っている筈。

 堀北がそう考えるのも無理はない。堀北が得ているここまでの情報では、そう思ってしまうのは自然なことだ。

 

「クク……おめでたい奴だな鈴音。自分がずっと遊ばれていたとも知らずによ」

 

 堀北のすまし顔が面白くてたまらないというように龍園は笑う。

 堀北はその言葉の意味が汲み取れずに眉根を寄せて問い返した。

 

「……どういう意味かしら?」

 

「言葉通りの意味さ。必死に俺たちに一泡吹かせようと鳴いてる姿はかわいかったぜ。南雲に遊ばれてるとも知らずに渡り合ってると勘違いした貴重なおまえを見られたんだ。手を引いて正解だったかもな」

 

「……手を引いた?」

 

 龍園のその言葉が気になり呟くも答えは返ってこない。先に南雲が反応した。

 

「あはは。やだなぁ龍園くん。私にそんなつもりはないって。せっかくだし、鈴音ちゃんやDクラスにも花を持たせてあげようと思ってね。だから()()()()()()()()()。……というか、龍園くんもそうだよ? なんか勝ち誇ってるけど、私達が優しくなかったら負けてたんだから勘違いしないでほしいね」

 

「おまえに同じ言葉を返してやるよ麗。俺が慈悲深くなきゃおまえと鈴音は仲良く沈んでた。お前らの()()を受けて妥協してやった俺に感謝するんだな」

 

 目の前で行われる南雲と龍園の言い合いだが、堀北達には2人が何を言っているのか分からないだろう。

 だがついていけないながらも不穏なものを感じたのか堀北は少し動揺した様子で口を開いた。

 

「待って……あなた達、何の話をしているの? 持ちかけたとか提案とか……まさか、あなた達……」

 

「焦るなよ鈴音。答えはすぐにわかる。それに知ったところでおまえらは大喜びするはずだぜ。咽び泣きながら感謝するかもなぁ?」

 

「信用出来ないかもだけど本当だよ? 本当に感謝してくれると思うから安心してオールオッケー! ほら、一緒に結果見よ!」

 

「何を……」

 

 ニヤついた様子の龍園。それと友達に対するように親しげに携帯を取り出しながら言う南雲。

 そして午後11時を迎え、俺たちの携帯に一斉にメールが届く。その結果を、オレは半ば知りながらも確認した。

 

 子(鼠)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする

 丑(牛)──裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 寅(虎)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする

 卯(兎)──裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 辰(竜)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする

 巳(蛇)──優待者の存在が守り通されたため結果2とする

 午(馬)──裏切り者の正解により結果3とする

 未(羊)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする

 申(猿)──裏切り者の正解により結果3とする

 酉(鳥)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする

 戌(犬)──裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 亥(猪)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする

 

 Aクラス……マイナス100cl プラス750万pr

 Bクラス……プラス50cl   プラス900万pr

 Cクラス……プラス50cl   プラス900万pr

 Dクラス……変動なし      プラス850万pr

 

「これって……」

 

 その結果を見て呆然とする堀北達。

 だがそれは失意というよりは困惑の意味が強い。

 何しろ半分以上のグループが結果1。つまり、優待者の存在を察知させながらも誰も裏切り者を出さないという平和的な結果で終わっているからだ。

 

「良かったな鈴音。これで俺たち全員大金持ちだ。最高の結果だろ? 祝杯でもあげるか?」

 

「イエーイ! これで皆勝ち組だね! パーティする? 七面鳥頼んじゃう?」

 

 龍園がパンパンと軽く手を叩き、南雲も飛び上がって喜びを見せる。

 だが掘北達はまだ驚愕から立ち上がれない。確かに、この結果だけを見れば喜んでもいいかもしれない。Aクラスだけはクラスポイントを100も削られているが、それ以外はクラスポイントが下がらず、大量のポイントを得る結果に終わっている。

 だが……Dクラスにとっては危険な意味を孕む結果だ。

 堀北達はまだ気づいていないがオレにとってはこうならない方が良かったくらいだ。何しろこの結果は、クラスがバラバラであることを意味している。そのことをオレが憂う中、堀北を見下ろしていた龍園はそこで南雲に視線を移した。

 

「クク。殆どの奴はこの平和すぎる結果に喜んでるだろうな。だが……俺としちゃ少し気になることもある。随分と調整が上手いようだな?」

 

 調整。そんな言葉で訝しむ龍園にオレもまた意味を理解する。南雲の表情をそれとなく窺うが、相変わらず自然な笑顔であまり読めない。ただその言葉はほぼ認めたようなものだった。

 

「いやー運が良いのか悪いのかって感じだよねー。まさかこんなに裏切り者が出るとは思わなかったし」

 

「……まあいい。今回は俺としても収穫はあった。これで手打ちにしてやるが……次こそはぶち殺してやるから覚悟するんだな。おまえもだ鈴音。次はおまえを徹底的に破壊する。そしておまえの裏にいる誰かに伝えとくんだな──おまえも逃がすつもりはないってよ」

 

「オッケー。待ってるねー!」

 

 物騒な言葉を最後に言い残し、龍園は興味を失ったようにその場から去っていく。南雲はその背に手を振っていたが、龍園の背中が見えなくなると改めてこちらに向き直った。

 

「さーて。私もこれからBクラス……じゃなくてAクラスかな。で軽く祝杯でもあげるからお暇させてもらうよ。それか、本当に来る? 来るなら歓迎させてもらうけど」

 

「……遠慮、するわ」

 

「ふーん、そっか。残念だけどしょうがないね。それじゃあばいばーい、鈴音ちゃん。軽井沢さんに須藤くん。綾小路くんも」

 

 難しい顔をしながら結果について考える堀北に、南雲はあっさりとその場を後にする。特に絡むこともなくいなくなった2人だが、堀北の予想外という表情を見て十分に満足したのかもしれない。

 

「えっと……よく分かんないけどこの結果なら十分……じゃない?」

 

「……ええ、そうね……結果だけ見るなら、だけど」

 

 軽井沢が空気を明るくしようと声を掛けるも、堀北は難しい顔をしたままだ。

 

「問題はなぜこうなったかわからないことよ……BクラスにCクラスはどうやら何か取引していたみたいだけれど……だとしても、なんでこんな結果を作ることが出来たのか……」

 

 確かに。仮にBクラスとCクラスが手を組んでいたとしてもこの結果を作ることは出来ない。

 結果1に導くためには他のクラスも誘導する必要がある。2クラスで優待者の情報を共有し、法則を解明したところで結果1に導くのは指南の業。

 確実を期すなら3クラスでも足りない。全てのクラスの協力が必要だろう。

 

「え? これって、堀北さんの計算の内でしょ?」

 

「……え?」

 

 突然の軽井沢の言葉に、堀北は完全に不意を突かれて小さな声を出した。だが、軽井沢はなおも続ける。

 

「またまた~。もう他のクラスの人も行っちゃったし、演技しなくていいって」

 

「何を……あなたは何を言っているの?」

 

「だから惚けなくていいって。さっき試験終了前に、私にメールしてくれたじゃん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして完全に堀北の思考が止まる。

 軽井沢のその話は堀北にとって寝耳に水どころの話ではない。全く身に覚えのない話だろう。

 

「お、おい。その話マジかよ。ならやったじゃねーか! プライベートポイントだけでもこんなに手に入ったんならよ!」

 

「うん。堀北さん、クラスのこと考えてそうしたんだって。法則見つけたのはギリギリだったから結果3は無理だったけど結果1ならポイントも手に入るしその方がいいかもって」

 

「え、ええ……それは……」

 

 軽井沢だけでなく須藤からも祝福の言葉が送られ、堀北は言葉を上手く口に出来ない。きっと今、掘北は混乱状態だろう。須藤は堀北のことを信じて素直に喜んでいるし、軽井沢もその理由の一端を知りながらも何故こうなったのかまでは分かっていない。

 だが……オレだけは知っている。

 その全てのやり取り。ここに至るまでの詳しい道筋まではオレも知らない。

 だが、そのおおよそは結果からも予測出来る。

 何より……その切っ掛けを作ったのはオレだから。

 だからオレは後でその式の予測も含めた大体の内容を堀北に教えてやることにした。この試験の中で、どんな思惑が動いていて、何故この結果になったのか。その理由を、オレもまた改めて整理することにした。




この試験って内容を詳しく先に書くと結果が予想出来る感じになっちゃうので、先に結果の話を書いてから内容に移った方が面白い気がする。ってことで次回は試験中にどんなことがあったかです。お楽しみに。

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