スポーツ特番にも1人くらいアイドルが欲しい
「Aクラス昇格、おめでとう麗」
「うん。ありがとね雅兄」
それは夏休み最終日。有栖ちゃんが帰ったすぐ後のことだ。
実に3ヶ月ぶりに雅兄は私の部屋にやって来た。生徒会では頻繁に顔を合わせるし、電話やチャットなどで連絡もするが部屋で2人きりというのは久しぶりだ。私も雅兄も人気者すぎて中々時間が取れないからね。
私は開口一番。Aクラス昇格を祝ってきた雅兄に答える。前にも聞いたが、面と向かって祝われるのは初めてだ。正式にAクラスに上がってからそう言いたかったのだろう。
「夏の特別試験と俺が出した宿題の結果。そのどちらでも結果を出した。やはりおまえは優秀だな」
「自覚してるよ。でも完全に想定通りって訳でもないから私の自己評価としては『よく出来ました』ってくらいだね。大変よく出来てはないよ」
「想定通りの結果に終わることは然して重要じゃない。結果が出ているならそれは評価するに値する。ましてや俺の期待通り、Aクラスに上がってみせた。それも他クラスにスパイを作り、退学者を出しながらも信頼は損なわない。俺としては花丸を上げても問題ないと思ってるがな」
「そりゃあ雅兄のやり方としては満足だろうけどさ。私としてはもっと穏便にするつもりだったんだけどねー」
私はベッドで携帯を弄りながら唇を尖らせ、雅兄に対してちょっとした不満をぶつける。
それだけで雅兄は何のことかわかったのだろう。さりとて謝罪するようなこともなく軽く笑ってみせた。
「司城のことか? だがあいつを嵌めることを決めたのはおまえだろう?」
「利用しといてよく言うよね。確かに3年生の先輩と司城くんを繋ぎ合わせたのは私だけどあの段階で退学まで踏み切らせてくれたのは雅兄でしょ? 先輩の弱みを握って3年生のクラスを動かす布石を作るためにさ」
私は先月に起きた一件。1年Aクラス──いや、Bクラスの司城大河くんの退学を引き起こした件を口に出す。
上級生の先輩を使って司城くんを痴漢に仕立て上げて退学にし、有栖ちゃんクラスのクラスポイントを削る。加えて向こうのクラス内にいつでも起爆出来る爆弾を作ろうとした。
ただ当初の計画としてはちょっとだけ違う。上級生を使ってのハニートラップで司城くんを嵌めようとしたのは同じだが、さっさと捨てることを決めたのは割って入ってきた雅兄の方だ。
それを指摘すると雅兄は頷く。その上で言葉を返してきた。
「あいつにはおまえも苛ついていただろ? それに結果的におまえのクラスにとっても得したんだ。むしろ礼を言ってくれてもいいんじゃないか?」
「まあそれはね。だって司城くん、入学当初から私にめちゃくちゃアプローチしてきた癖に他の先輩とも良い感じになってたんだよ? しかも先輩をけしかけて付き合う直前ギリギリまで私のことを狙ってたんだからすっごいムカつくよ」
「なるほど。酷い男だったんだな司城は」
「雅兄が言えることではないけどねー。まあそれはそれとして、私としてはそういう事実も含めてしばらくAクラス内で使える駒として使ってあげようと思ってたんだけど」
「だがおまえを怒らせた男だ。どうせ捨てる気だったんだろ?」
「捨て駒にするのが早いって話だよ。それにあのまま先輩と付き合い続けてれば証拠を使わずとも先輩を経由して何でもしてくれるようになったのに。そしたら痴漢に仕立て上げて司城くん1人を退学にするよりもっと大きなことだって出来たんだから」
私は自分が考えていた戦略を口にする。
私の立てていた当初の計画でも司城くんに対してハニートラップを行うことは決まっていた。そのために使う3年生の先輩も司城くんが好きそうだと見立てていたし、付き合ってしまえばラブラブカップルになることは私にはわかっていた。そのまま先輩を使って司城くんをある程度動かすのも可能となる。
そしてその2人の不純異性交遊の証拠。それを入手出来れば直接司城くんを動かすことも出来るし、万が一先輩の方が司城くんに対して本気になってしまった時も言う事を聞かせられる。その証拠を出されれば2人とも退学になることは避けられないからね。どちらにとってもそれは避けたいことだろうし、それを使って脅せば2人とも私の言いなりだ。
私としてはそうしてしばらく司城くんを有栖ちゃんのクラスの中で使えるスパイ及び爆弾として使いたかったんだけど、そこで横槍を入れてきたのが雅兄だ。
私が仲介として使ってた2年生の生徒から情報を聞いた雅兄は私に指示を出した。司城くんを退学させろと。そして司城くんのハニートラップに使った3年生の先輩。その所有権を弱みと一緒に自分によこせと言ってきた。
それさえ行えば私に対し、条件としてポイントを含め色々なものをくれるという取り引きだ。それを受け、私は悩んだ末にそれを了承し、司城くんを痴漢に仕立て上げて退学させる雅兄のプランを書き上げて行ったが、それは私の理想とはちょっと違う。理想を言うならば司城くんと先輩にはしばらく関係を続けて貰いつつ、私の手駒として動かす方が良かった。
司城くんが言う事を聞かなかったり、先輩が司城くんに対して本気で情を持ってしまい、こちらを裏切ってきた時といざという時の保険として不純異性交遊の証拠を持っているだけで十分で後は幾らでも料理出来る。
それこそ2人を使ってより大きな損害を与えることも視野に入るし、そうならずとも最終的に2人とも私に感謝して喜んで従うことまでありえると。そんな思惑だったが……ま、雅兄と私の考えは似てるようでちょっと違ったってことだ。
つまるところ司城くんの退学は私が引き起こしたことに間違いはない。だが、その意向は雅兄が促してくれた。私は退学させるにしても早すぎると思ったんだけど雅兄の意向とその報酬を考慮した上で決断した。
そして雅兄は私の考えに理解を示しながらも自分の考えの方が正しいと口にする。
「確かにそうなったら面白いけどな。だがそれだと確実性がない。恋心ってのはどう転ぶか読みにくいし、おまえの言うように相手のためなら無茶をする場合だってある。それこそ、弱みを握ってる相手を裏切ることもな。だからこそ本気の恋愛を戦略に組み込むのは難しいと思うぜ」
「私の見立てだとあの2人の相性は相当良かったし、そうなる可能性は十分あったよ。後2、3ヶ月も付き合いが続けば先輩も情が移ってたんじゃないかな。実際、痴漢に仕立て上げる時もちょっと迷ってたみたいだし。それにどうせ退学させるんなら色々やってもらった後からでも良かったかなって。証拠があればいつでも退学させられる訳だしさ」
私がそう言えば雅兄は椅子に背中を預ける。そして少し考えたところで再び言葉を返した。
「おまえの言う事には信頼を置いている。理解はしてやるが、どちらにせよ終わった話だな。あのまま続いていればどうなっていたかはもう分からない。考えても仕方がない話だ。それに、おまえも失敗する可能性も考えたからこそ俺の提案を飲んだんじゃないのか?」
「失敗の可能性っていうか、だって断っても雅兄に強行されちゃったら意味ないじゃん。だから貰えるものは貰っておこうと思ったんだよ。雅兄だってわかってたでしょ? ふざけないでくれる?」
「今のは冗談だ。悪かったからそう怒るなよ。それに俺の提案だっておまえのご機嫌取りのためにやったことなんだぜ? だからこそ俺は坂柳にポイントを貸し付け、その利子分のポイントを回収しておまえに渡そうとしてたんだ。そしてそれがなくとも事前におまえに有利な取り引きを持ちかけて義理も通した。俺なりにおまえのスパイ予備軍を奪ったことによる補填としてな」
「結局失敗しちゃったけどねー。おまけに有栖ちゃんに気づかれるおまけ付きで」
有栖ちゃんからポイントを分捕る話は私も気づいてたけど事前に話してはいない。雅兄が有栖ちゃんに融資を持ちかけたのは雅兄の独断で後から失敗したと聞くまでは知らなかったことだ。
それも含めて上手くいけば私も愚痴を言うことはなかったんだけどね。私としてはこの段階でこんな強引な手を使うつもりはなかったし。やるならやるでもっと重要な時にやった方が良いに決まっている。結果論だが、失敗したことからもそれは明らかだ。
勿論成功しようが失敗しようが雅兄からの補填はあるとはいえ、失敗したせいで若干利益が減ったのは否めない。そのことを口にすれば雅兄が僅かに興味を覗かせた。
「そうだな。坂柳有栖、か。あいつは中々面白い奴だな。まさかおまえが立てた戦略を完全ではないとはいえ当ててくるとは」
「有栖ちゃん面白いでしょ? だから強引に動いたら気づかれるよって言ったのにさ。せっかく有栖ちゃんとBクラスを蹴落とすために長く使えるスパイを養成してたところだったのに。ポイントも奪えないとか私的にはほぼ失敗だよ。雅兄のばーか」
「確かに、坂柳への評価はおまえの方が幾分か正しかったな」
1年の生徒に対する過小評価。そのことを雅兄は認める。私の軽い罵倒も受け流した。まあ私もあまり人のことは言えないんだけど、雅兄は私以上の自信家だからね。基本的に自分以外の全員を自分より下だと見下している。
そんな雅兄が私と違って直接実力を見ていない1年生の実力を下に見積もるのは仕方のないことだと言える。私も見誤っていたのは間違いないけど雅兄の評価よりは高く見積もっていた。
そのことを雅兄は楽しく感じたのだろう。未だ興味の色は消え失せていない。
「坂柳といい龍園といい綾小路といい、今年の1年は面白い奴らが揃ってるみたいだな」
「でしょ? だから私、今は楽しく遊んでるんだからあんまり邪魔しないでよね。そりゃ互いに協力するのは良いけどさ。あくまでも1年生は私の物。そこは履き違えないでよね」
「学年を超えて遊ぶのも面白いが……おいおい。そう睨むなよ。わかってるさ。1年にはしばらく手出ししない。こっちは堀北先輩と遊ぶので忙しいからな。元々それほど興味もないし構ってる余裕もそんなにないんだ」
「ならいいけどねー」
2年生の支配をほぼ終わらせた雅兄は退屈しているんだろう。1年にも興味を示しているようだが、それでも1年が雅兄が求めるほどの実力者かどうかはまだ分からないし、それでも優先するのは堀北先輩だと一時的に手を出さないことを改めて言及する。
今回の一件で手出ししてきたことを突っ込もうかとも思ったが、どうせ3年生との戦いのためだと言うだけだろうしやめておいた。いつまでも文句言っても仕方ないしね。司城くんのことは残念だけど切り替えた。3年生の先輩への弱みはまだ有効だからそれと雅兄から貰った物で納得するしかないね。
私は気持ちを切り替えてベッドから起き上がる。そして少し前に購入したテレビの前に移動した。
「ま、いいや。話は終わりってことで気分転換にゲームでもしよっかな」
「またゲームか。おまえは昔からゲームが好きだったが変わってないみたいだな」
「他の趣味もそうだけど中学の時は殆ど出来なかったからその反動でまた色々やってるんだよ。雅兄もやる?」
「少しならやっても構わないが……何をやるつもりだ?」
「雅兄がやるなら対戦ゲームがいいよね。久しぶりにスマ○ラでもしよっか。雅兄のことボコボコにしちゃおっと」
「悪くはないな。だがその態度は良くない。俺のピ○チュウに勝てるとでも思ってるのか?」
「私のク○パ様は最強だよ。雅兄のピ○チュウなんて噛み殺してあげるから」
「抜かせ。感電死させてやるよ」
互いにノリよく物騒な言葉を使ってコントローラーを持つ。雅兄はそんなにゲームをする方ではないがそれでも強いからね。油断は出来ない。しかも慣れてるゲームだし。慣れてない奴ならどうせ私が勝つからつまんないからあえて選ばなかった。
そうしてゲームを始める。小学生の頃を思い出すね。雅兄はどちらかと言うとアウトドア派だったとはいえそれでも私や友人に付き合ってそれなりに遊ぶこともあった。
それを思い出しながらいい勝負をすることしばらく。雑談の中で雅兄がふと思い出したように言った。
「そういや次のイベントではまた面白いことになりそうだな」
「イベント? あー、もしかして雅兄が前に言ってたやつ?」
「ああ。おそらく近いうちに詳しいルールの説明が行われる。例年通りなら9月に入ってすぐにでも伝えられる筈だからな」
「へー。なら楽しめそうだね」
私は雅兄の言葉に頷きを入れつつ、前に言っていた雅兄の言葉も思い出した。
二学期が始まってすぐにでも行われる学校のイベント──体育祭のことを。
「はーい! 皆ちゅうもーく! 午後のホームルームは1か月後に行われる体育祭の説明をしまーす! 体育祭に向けて体育の時間が増えた新しい時間割と体育祭の資料を配るから皆後ろに回してね!」
「星之宮先生、テンション高いねー」
「私たちがAクラスに上がったから機嫌が良いんだろうね」
「それにしても午後までずっと続いてるのは異常だと思うが……」
夏休みが明けて最初の1日。その日の午後は2時間丸々ホームルームの時間だった。
夏休み前や夏休み中の特別試験で出会った時よりも遥かにテンションの高い知恵ちゃん先生がプリントを配りながら説明を始める。体育祭という言葉を聞いても私達の間に驚きはそれほどない。普通の学校でも定番の行事だからね。
ただざわついてはいる。普通の学校ではないこの学校に通っている私たちにとって特別試験の記憶はついこの間のこと。だからこそ皆気になっている。おそらく普通の体育祭ではないことを誰もが感じ取っていた。
そしてそれは私も同じ。普通の体育祭な訳がないからね。配られてきたプリントをさっさと読み進めていく。やっぱり色々と普通ではないようだね。知恵ちゃん先生は特別試験とは言わなかったから扱いとしては普通の学力試験に近いものだけどその内容は大きく異なる。実質特別試験みたいなものだ。クラスポイントも増減するしね。
ただ何よりも面白いと思ったのはその方式だ。隣の隆二くん含め、プリントに書かれていることを確認した子達が更に驚きを見せた。私は左手で頬杖を突いたまま、楽しさを感じてそのことを口に出す。
「全学年を2つの組に分けて勝負する。私たちAクラスは赤組でDクラスと味方かぁ」
「そしてBクラスとCクラスが白組で敵、か。それも全学年同じ組分けのようだな」
私の発言を隣の隆二くんが補足してくれる。つまり3年のAクラスとDクラス。2年のAクラスとDクラスも赤組で私たちの味方で3年と2年のBクラスとCクラスも白組で私たちの敵ということだ。
そして簡単にルールを頭の中でまとめてみる。
・赤組(AクラスとDクラス)と白組(BクラスとCクラス)で争うことになる。
・全員参加競技の点数配分は1位15点、2位12点、3位10点、4位8点。5位以下は1点ずつ下がっていく。団体戦の場合は勝利した組に500点が与えられる。
・推薦参加競技の点数配分は1位50点、2位30点、3位15点、4位10点。5位以下は2点ずつ下がっていく。なお最終競技のリレーは3倍の点数になる。
・赤組対白組の対決において全学年の総合点で負けた組は全学年等しくクラスポイントが100引かれる。
・学年別の順位で1位のクラスはクラスポイントがプラス50。2位のクラスは変動なし。3位のクラスはマイナス50。4位のクラスはマイナス100。
・個人競技で1位を取った生徒には5000プライベートポイントの贈与か他人に付与が出来ない筆記試験で3点分を貰える。2位の生徒には3000プライベートポイントか試験の点数2点分。3位の生徒には1000プライベートポイントか点数1点分。最下位になった生徒にはマイナス1000プライベートポイント。もしポイントが1000未満なら試験の点数が1点引かれる。
・各競技のルールを破った生徒は失格。悪質な者は退場にする場合もある。それまでに得た点数の剥奪もありえる。
・全競技でもっとも高得点を得た生徒には最優秀生徒として10万プライベートポイントを得る。
・学年別でもっとも得点を得た生徒3名には1万プライベートポイントを得る。
・全競技の終了後に学年内での点数下位10名にペナルティ付与。
──と、全体の大まかなルールはこんなところかな。ふむふむ。なるほどねー。
まあ口にはしないけど……個人競技の報酬はもうちょっと欲しかったなってのが正直な感想だ。筆記試験の点数はともかくプライベートポイントは桁を1つ増やしてほしいと思ってしまうのはもう2000万以上のポイントを持ってるからだろうか。クラスでの協議の結果、船上試験でクラスが得たポイントは全部回収したし、毎月に徴収するポイントも一旦全回収してから私が与える方式に変更したし、ポイントには多少余裕がある。
というか1年生全体が船上試験で得たポイントのせいで金銭感覚が麻痺してるかもしれない。財政状況はどのクラスも悪くない。Bクラスはポイントを徴収はしてないが各自で貯め込んでいるようだし、Cクラスはきっちりと徴収して私と同じで全体の資金として運用するつもりだろう。Dクラスはまあ……羽振りが良くなるんじゃないかな。
ただお小遣いにはなるし、運動神経が良い生徒にとっては結構稼げることは間違いない。クラス全体で換算するならそこそこ貰えるし、そもそもこのルールからして手を抜いて良いことなんて何一つないから全力で高得点を狙ってクラスと自分の所属する組を勝たせる必要がある。仮に組で負けて学年で最下位になるとそれだけでマイナス200クラスポイントだしそれはちょっと嫌だね。
「星之宮先生。下位10名に与えられるペナルティってありますけど1年生の場合はどうなるんですか?」
「1年生の場合は次回の筆記試験における点数を10点減点ね。下位10名の発表とどんな風に減点されるかは筆記試験が近くなったらまた通達することになってるわ」
私が黙ったまま色々と思考を巡らせていると帆波ちゃんが気になっていたことを質問して知恵ちゃん先生が答えてくれる。大多数の生徒が気になる質問は帆波ちゃんとか他のクラスメイトが埋めてくれるから楽だね。
そして更にペナルティが伝えられるが……まあこれも問題ないかな。幸いにも私達のクラスの学力は元Aクラスである有栖ちゃんのクラスに匹敵するほど高い上、そもそも身体能力に関するアベレージもそれなりに高いから下位10名になるのはよっぽど運が悪くなきゃ大丈夫だろう。数名ありえなくもない生徒もいるけどそういう子は学力も高いし、最悪取ってもどうにかなる。
後は推薦競技は特定の生徒が複数出ても問題ないことや各競技にどの生徒が参加するかはクラス毎に配られる参加表に記入して担任に提出することや競技に参加する生徒の代役を立てる場合には10万プライベートポイントを払わなければならないとか様々なルールが皆の質問と知恵ちゃん先生の答えによって共有される。
「質問はもうないかな? それじゃ先生は退出するけど、次の時間は第一体育館で他の学年と他のクラスとの顔合わせになるから遅れずに集合してね。後の時間は皆で話し合いでも何でもしてもいいから。それじゃ後は任せるわねー!」
そして説明が終わったところで知恵ちゃん先生は軽くスキップしながら教室から出ていく。その際に私たちに──主に私を見てグッとサムズアップしてきたので軽く手を振って上げた。本当に機嫌良いね。特に私に対する信頼感というか可愛がりが凄まじい。夏休み中にも生徒会の仕事の関係で学校に出向いた時に何度か会ったけど満面の笑みで距離を詰めてきたし。
Aクラスになれたことがそんなに嬉しいとなるとやっぱ教師の評価もクラスによって変わりそうだよね。あるいはまた別の関係かな。昔っからの知り合いっぽい茶柱先生に絡みに行く時の反応を見るに何かありそうだし。
ただまあそれはいいや。知恵ちゃん先生が去っていったので私は席を立つ。するとクラス中の視線が私に向いた。騒ぎかけた教室が静まり返る。皆が自然と私の号令を待っている良い空気だ。私がこのAクラスのリーダーであり皆の指導者であることに何の疑いもない。私は満足して知恵ちゃん先生の代わりに教壇に向かった。
「話し合いだよね、麗ちゃん。手伝うよ」
「ありがとう帆波ちゃん」
私が教壇に立つと帆波ちゃんもまた立ち上がり、近寄ってきて手伝いを申し出てくれた。こういう時はいつも書記とか出来ることを率先してやってくれる。
とはいえ今回はそんなにやることないけどね。私としても。私は笑顔で皆の前に立ち、号令をかける。
「それじゃ私たち『Aクラス』が体育祭で勝利するための戦略会議を始めるけど……ぶっちゃけ今回は王道で攻めるから皆もそのつもりでいるように!」
会議の始まり。その号令と共にまず基本方針を告げる。
すると皆が少し驚きつつ私の言葉の意味を考える表情を見せた。そして、その中で真っ先に声をあげたのは隆二くんだ。
「それは、何か特別な奇策や戦略は取らないという意味か?」
「全く取らないとは言わないけど基本はね。この体育祭で小細工したところで勝敗には大して影響は出ない。出ないように出来てるからさ。だからやることと言えば皆しっかりと練習して自分たちの能力を把握し、相手の情報収集を怠らずこちらの情報を漏らさない。その上で競技を勝てるように選択して皆で力と心を1つにして頑張る。これをするだけで勝てるから特別な策という策はないかな」
私のその発言は少なからず驚きを持って受け止められる。無人島試験や船上試験で私がどんな戦略を取ったのかは殆ど皆知ってるからかな。今回もそういった奇手、相手を騙す謀略といったものを私が取ると思っていたのだろうが、私はそれを否定する。
「まあ相手がそういう手段を取ってきた場合の対処法なんかは取るけど今回は極力健全に体育祭を楽しみつつ勝ちに行くつもりだよ。ということでまずこの段階で決めることは参加競技に関する方針かな。得られる得点の多い推薦競技は運動能力が高い人で全部埋めようと思うんだけどどうかな。颯くんに紗代ちゃんはどう思う?」
「え、俺?」
「そりゃあもう。この体育祭は運動能力を競うものだからね。私を除いて運動能力が高い人といったら颯くんと紗代ちゃんでしょ」
「わ、私もかぁ……そりゃ運動には自信あるけど……」
まさか意見を求められると思っていなかったのだろう。柴田颯くんと安藤紗代ちゃんが困惑気味に反応する。言ったように今回の体育祭では運動神経が何よりも重要だからね。その能力が高い人が主力となる訳だし、意見を求めるのは当然のことだ。私は戸惑う2人に優しく声をかける。
「別に戦略を立ててほしい訳じゃないからそんな緊張しなくていいよ。私が聞きたいのは、推薦競技に優先的に参加してもらうけど大丈夫かなっていう確認だね」
「ああ。それなら問題無いぜー」
「なるほどね……それなら私も大丈夫かな」
「うんうん。ありがとう。後は運動部の生徒を中心に隆二くんに帆波ちゃん、こずえちゃん。後は私かな。細かい部分も含めた正式な参加競技は後から練習で能力を測った上で決めるけど基本はこのメンバーで推薦競技を回していくつもりだよ」
異存はないよね? と言外に皆を見渡すと誰からも反対はない。運動が得意な生徒からも苦手な生徒からも賛同が来る。良くも悪くもない生徒からも反対意見はない。個人報酬のポイントや点数は普通の生徒にとって美味しいものではあるけどAクラスはポイントには困ってないからね。
「なら推薦競技の振り分けはそれでいいね」
「あ、麗ちゃん。なら全員参加競技はどうするの?」
「そっちも各自の能力を測った上で私が決めるよ。それから参加表は情報が漏洩しないように私が預かっておいて、幾つかのパターンの中から1つを締め切り直前に提出する。でもまあよっぽどのことがなければ競技まで変えることはしないから皆も安心して練習出来ると思うよ。競技を変える可能性がある人には個別で通達しておくし、変えるのは基本順番だけだから」
帆波ちゃんからの質問にも淀みなく答える。これも特に問題はない。まさか私のクラスに裏切り者がいるとは思えないけどそれでも万が一はあるし、裏切ってなくても情報が漏洩する可能性はある。なので参加表も参加者も私や一部の者だけで共有しておくべきだね。
そしてここまで決まってしまえば後はもうこの段階で決めるべきことはあまりない。
ただ悩みというか、Aクラスにとって不安要素があるとすれば……。
「Dクラスとの共闘に関してはどうするつもりなんだ?」
隆二くんがそんな鋭いことを質問してくる。すると他の生徒も気になっていたのかリラックスした空気が僅かに引き締まる。
そう。気になるとしたらそこだよね。私たちのクラスは統率が取れてるし問題ないにしても1学年の序列最下位のDクラスが味方というのは不安要素の1つではある。もっとも、私としてはそこまでは思わないけどね。一番組めたら楽そうだったのは龍園くんのCクラスで次にDクラスだった。有栖ちゃんのBクラスというハンデだらけのクラス以外ならどこでもいい。
まあそれはそれで面白そうではあったけどね。ただ味方はDクラスで敵は龍園くんと有栖ちゃんに決まってしまった。
ならどうするべきか──私の答えはもう決まっている。私は自然に笑みを浮かべて言った。
「それは勿論──赤組の仲間として一丸となって戦おうと思ってるよ!」
今回から体育祭編です。組分けは原作通りADクラス対BCクラスになりました。中身は違うけど。次回もお楽しみに。
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