──それは赤組が話し合いを行っている頃。
白組に分けられた1年BクラスとCクラスの間でもちょっとしたやり取りが行われていた。
「よう坂柳」
「こんにちは龍園くん。来ると思っていましたよ」
1年Bクラスが集まっているその場所の中心。特別に用意された椅子に腰掛ける坂柳有栖の下にニヤニヤとした笑みを浮かべてやって来たのは龍園翔だった。
背後にCクラスの生徒をぞろぞろと引き連れてやって来た龍園は坂柳の前まで来ると口を開く。
「聞いたぜ。Bクラスに落ちたばかりじゃなく退学者まで出したそうじゃねえか。入学当初は圧倒的だったAクラスも落ちたもんだな」
「司城くんのことは私としても残念に思います。無人島試験では葛城くんがこっ酷くやられたみたいですね。それに龍園くんも酷い怪我をされたとか」
真っ先にクラスが落ちたことと退学者を出したことを攻撃する龍園に対し、坂柳は薄く微笑みながら退学した司城のことのみに反応し後は流す。
そして自分は関係ないと言うように葛城の名前を出しながら今度は龍園の左手に巻かれた包帯を見て口元に手を当てた。
「なるほど、痛々しいですね。傷の経過はどうですか? 体育祭に支障がなければ良いのですが……」
「抜かせ。俺の怪我の状態がどうであろうとおまえ以上の役立たずは存在しないんだよ坂柳。まさか他のクラスとくらべて2人分の差があるお前らBクラスと組まなきゃならないとはな」
「ふふ、確かに。その点に関してはご迷惑をおかけすることになりますね。ですが1つ訂正させてください。確かに競技に参加出来ない部分に関して言えば私はお荷物でしょう。本来得られるはずだった得点が得られないのですからそれは認めざるを得ません。ですがその一点を以てして役立たずと表現するのは誇張が過ぎますね」
役立たずという表現が気に食わなかったのか坂柳が笑みを絶やさないままに噛みつく。
とはいえそう威圧されてすぐ黙るような相手ではないことは明らかだった。
「そんなことは言われずとも分かってんだよ。その上でお前らBクラスと組むメリットはどのクラスよりも薄いって突きつけてやってるだけだ。お前らと組むくらいならまだDクラスの方がマシだったぜ」
「随分な言われようですね。つまりこちらと組む気はないと、そう捉えて頂いてもよろしいですか?」
「俺とおまえじゃ互いに信用ならないのは明白だからな。だったら最初から敵のつもりでやる方が面倒がなくて済む」
坂柳の頭脳の有用性は龍園としても認めるところだ。
だがその上で組まないことを選ぶ龍園。Bクラスを率いる坂柳を見下ろして彼は笑う。
「もっとも、おまえが頭下げて頼むってんなら考えなくもないがな」
「ふふ。そうですか。そういうことなら諦めるしかないようですね」
頭を下げるつもりはないと暗に告げる坂柳。それを確認すると龍園は坂柳に背を向けた。
しかしその背に坂柳は続けて声をかける。
「しかしそれでも同じ陣営にいるのは確かなこと。同じ白組としてささやかながら応援させて頂きますので互いに頑張りましょう」
「精々最下位に沈まないよう足掻くんだな」
坂柳の友好的に思える言葉とそれを突っぱねるような龍園の捨て台詞。
それをもってBクラスとCクラスの話し合いは終わった。
「そんな感じで話し合いにもならなかったって感じかな」
「なるほどねー」
赤組での話し合いが終わった後。私は帆波ちゃんから白組の様子はどうだったかを聞いていた。
私が相槌を打つと隣の隆二くんも頷く。そして素直な所感を述べた。
「BクラスとCクラスは個々で戦うつもり、か」
「うん。私もそんな感じに見えたかな。龍園くんはいつも通りって感じだったけど坂柳さんも友好的には見えなかったかな」
実際にその会話を聞いていた帆波ちゃんもどうやら同じ感想を抱いたらしい。
そしてそれは半ば予想していたことでもある。
「龍園くんと坂柳さん、相性悪そうだしね……でも私たちからすれば朗報かな。龍園くんと坂柳さんが手を組んで戦う方が怖いもんね」
「だが個々で戦っても手強いことに変わりはない。どちらも手が読みにくい相手だからな」
「そうだね。そこは気をつけないと」
帆波ちゃんと隆二くんの会話に内心で頷きを入れる。確かに龍園くんと有栖ちゃんが手を組まないことは朗報だが、それはそれとして警戒は必要だろうね。2人の言う事は正しいことだ。
ただその会話を鵜呑みにするのも良くないとは思う。私はそれを口にした。
「うんうん。確かに警戒は必要だね。2人が個々で動く場合もそうだし、2人が組んでいた場合のことも考えとかなきゃ」
「2人が組むだと?」
「龍園くんと坂柳さんが、裏では協力関係を結ぶかもってことかな?」
帆波ちゃんの確信を持った疑問に私は頷く。そしてその理由を説明した。
「協力した方が圧倒的にやりやすい今回の体育祭で協力を拒むってことは何かしらの勝つ手段があるか、何か別の狙いがあるって見ておいた方がいいね。個々で戦うと見せかけてる可能性も捨てきれないかなー」
「それは……もしそうだとしたらすごく厄介かも」
「ああ。2クラスが協力すれば大掛かりな手を打つことだって出来るだろう」
「そうそう。だから色々と対策は打っておかないとね。主に防御用の対策を」
帆波ちゃんも隆二くんも頭の回転が早いので私が一言喋ればすぐに理解をしてくれる。龍園くんと有栖ちゃんが同じ陣営にいるのに舐めてかかることは出来ないからね。
真っ当に見てもCクラスは身体能力の高い生徒が多いし、Bクラスも他のクラスと比べて2人分の差があるとはいえ能力自体はウチと一緒でアベレージは高めだ。
後クラスの意思を統一出来ているという面も大きい。Bクラスは葛城くんがまだギリギリ派閥として残っているとはいえ辛うじて息をしてるってだけだし、そもそも有栖ちゃんみたいに不和を起こすような人でもない。
とはいえそれでもやりようはあるけど……あんまり汚い手を使っても効果が薄いからやらなくてもいい。やるなら一番ダメージが大きい時にやるべきだからね。今回は真っ当に。やり方をまた変えて挑むことにする。
「帆波ちゃん。Dクラスとの打ち合わせは任せたよ」
「うん。平田くんと今調整してる。来週のホームルームには一緒に顔合わせして練習出来そうだよ」
「オッケー。それでいいよ。颯くんや紗代ちゃんにも軽く伝えといてね」
「了解」
同じ赤組であるDクラスとの渉外担当に任命した帆波ちゃんはどうやらスムーズに仕事をこなしているようだ。まあ洋介くんと帆波ちゃんの交渉が難航するとは思えない。私も無茶な要求をしてる訳でもないし、合同練習の擦り合せは問題なさそうだ。
そういう訳で私たちAクラスは相変わらず順調そのもの。問題は何もないが……あるとすればやっぱDクラスのことだよね。
「南雲。龍園と坂柳の対策はDクラスとも共有するのか?」
そしてそのことが気になったのだろう。隆二くんが質問してくる。
私たちの足を引っ張る可能性があるDクラスをどこまで引き上げてやるか。考えることがあるとすればそこだろう。放置すれば防諜も防衛もガバガバなDクラスでは攻撃されて容易に沈むことは想像出来る。
だからこそ私たちがその対策を教えてやることである程度それは防げるが、同じ陣営とはいえ別クラスにそこまでしてやる意味はあるのかどうかだ。表情を見る限り隆二くんとしては反対で帆波ちゃんは多分賛成寄りといったところかな。それを読み取ったところで私は答える。
「共有はしないけど導いては上げるつもりだよ」
「導く? どういう意味だ?」
「同じ陣営として力を出せるように協力はするってことだね」
「それって……」
意味を理解しかねる2人に私は真意を教えた。悪どいところは何1つない平和的なやり方を。
私としてもやりやすいんだよね。ぶっちゃけこういうのが1番得意だから。
週に1度ある2時間のホームルーム。
その最初の1時間を能力を測ることに務め、その次の1時間はグラウンドに出て練習することになった。
ただその練習は、同じ赤組のAクラスと合同で行うことになっていた。
クラスで1度多数決を取り、賛成に決まった後は平田と一之瀬で打ち合わせを行ったらしく、これからも何度か相談していくつもりだと平田自身から聞いていた。
「よろしくね。南雲さん」
「こっちこそよろしくねー」
グラウンドに集合してきたDクラスとAクラスが集まり、その代表である平田と南雲が笑顔で握手を交わす。
「Dクラスの皆も合同練習の提案を受け入れてくれてありがとね。普段は違うクラス同士で交友にも制限があるけど今回は味方として仲良く楽しくやろうねー」
「うん! こちらこそ仲良くしようね!」
櫛田が代表するように歓迎すればDクラスの面々も歓迎するように空気が和らぐ。
そのタイミングで南雲は手を叩き、続けて皆に告げた。
「それじゃ最初の100メートル走──の前にまず準備運動かな! はい皆ペアを組んでー!」
まるで体育教師のように準備運動からやるように告げる南雲に、Aクラスが自然と従うとそれを見ていたDクラスも少し遅れてペアを組み始めた。中にはAクラスの生徒がDクラスの生徒に声を掛けてペアに誘うこともあって、自然とそういう空気が形成される。
「まったく……なんで他のクラスと練習なんて……」
「まだ言っているのか?」
「当たり前よ。そもそも私は納得していないわ」
「多数決で決まったことだから仕方ないだろ」
そしてオレのペアは近づいてきた堀北で、準備運動を行い始めるなり、愚痴を呟き始める。
Aクラスと合同練習を行うことが堀北は気に入らないようだった。それを決める時もかなり反対していたからな。そうなるのも仕方ないが……とはいえクラスで決まったことにいつまでも文句を言っていても仕方ない。
文句を言う堀北を軽く宥めながらも準備運動が終われば、100メートル走の練習及びちょっとした対決が始まる。
「オラァ! 行くぞ!」
「こっちも負けないぜー!」
DクラスとAクラスが同時に並んで走る中、一番目立っていたのはやはり須藤だった。
だがそれと同じくらい存在感を放っているのはAクラスの柴田だ。夏休みのプールでも確か非凡な運動能力を見せていた生徒だが、その運動能力は須藤と互角に近いのかもしれない。
「よっしゃ! 1着ー!」
「チッ! マジかよ……!」
そう思うのも100メートル走の結果で須藤が柴田に敗北したからだ。かなり際どく、殆ど差はなかったとはいえ純粋な走力は柴田が上らしい。
見たところパワーなんかは須藤の方が上そうだが、Dクラスで敵なしの運動能力を誇る須藤がギリギリとはいえ負けたのはDクラスにとってはちょっとした驚きをもたらす。
「あっぶねー! 須藤、おまえやるなぁ。さすがの快速柴田様も危なかったぜ!」
「お前もな! だけど次は負けねぇ! もう一度勝負しろ!」
だが須藤の方は悔しいは悔しいだろうが、そこまで気にしてはいなさそうだった。血気盛んに柴田に勝負を申し込んでいるし、柴田の方も悪い気はしていないのかそれを受け入れている。
そうして再び走り始める須藤や柴田。そして他の生徒たちも観察する。どうやらAクラスの方は平均よりも上の能力の生徒が多いようでDクラスの方が負け越しているようだった。
それでも平田や櫛田。小野寺といった生徒はしっかりと結果を出している辺り、さすがとも言える。Aクラスも一之瀬や神崎といったクラスの中枢に近い生徒は運動の方もこなせるようで無難に1位を取っていた。
ちなみにオレの方はと言うと可もなく不可もない無難な結果で終えている。速い相手には負けて3位程度。
その際もこっちを見てくる南雲の視線が気になったが、他の生徒に向けるのと同じ自然なそれでしかない。特に絡んでくることもなかったため走り終えて休憩を取る。
そして最後の組となったのだが……走っていないのは堀北だけとなっていた。それを見かねて南雲は明るく声を掛ける。
「鈴音ちゃーん。次鈴音ちゃんの番だよ。一緒に走ろ?」
「……あなた何を企んでいるの?」
「んー? 企む?」
「……いえ、何でもないわ。さっさと済ませましょう」
そして掘北はついそんなことを口に出した。
それは堀北が他のクラスの戦略を考えていた……その答えが出ずに息詰まっているからこそ出た言葉だろう。堀北からすれば南雲はこの上なく信用出来ない生徒。『裏』のやり方を使う生徒としてかなり警戒している筈だ。
そして確かにその警戒は正しいが、オレとしては南雲のやり方は『裏』ばかり扱う訳ではないとこの合同練習の様子を見て思い始めていた。
堀北がそれにどこまで気づけるか分からないが、気づけないようなら助言してやればいいだろうと思い、オレは別のことに目を向ける。
もう1つ気になること。それは南雲の運動能力だからだ。オレは堀北との軽いやり取りを終え、スタートラインに立つ南雲と掘北を見る。
「お、おい綾小路。麗ちゃんが走るぜ」
「弾むおっぱい見ようぜおっぱい!」
「……お前らな……」
そしてそれに注目するのはオレだけでなく、池たちも別の理由から注目していた。そのブレ無さに呆れを通り越していっそ感心してしまいそうになる。
「そういや麗ちゃんって運動得意なんだっけ?」
「確かクラスでもトップだって聞いたような……」
「マジか。麗ちゃんってほんと何でも出来るんだな。おい健。堀北と麗ちゃん、どっちが勝つと思う?」
「ん……いや、どうだろうな。堀北もやるが南雲はすげぇ奴だからな……だがいい勝負になるのは間違いねーだろうな」
須藤の見立てでは良い勝負となるらしい。他のDクラスの生徒たちは池や山内も含めて南雲の身体能力を把握していないようで堀北とどっちが速いのだろうかと好奇心を覗かせていた。
そして南雲の代わりに一之瀬がスタートの合図を出すと、堀北と南雲が好スタートを切る。
だがその加速は南雲の方が速かった。
「うおっ!? 麗ちゃん速ぇ!?」
「ていうか2人とも、俺より速くね?」
山内の言うように、堀北と南雲は下手な男子よりも速いのが見ただけで分かる。
だがそれでも勝っているのは南雲の方だった。堀北よりも速く、徐々に差を広げていっている。
堀北も何とか食らいついているようだが、ゴールする頃には身体2つ分程の差が出来ていた。
「イエーイ! 1着ー!」
「っ……あなた、陸上か何か運動でもやっていたの?」
「あはは、別にそんなことないけどねー。ただ運動は得意ってだけだよ。鈴音ちゃんもかなり速かったね!」
「……そう」
そして走り終わればテンション高く南雲が堀北に絡んでいくが、堀北は素っ気ない返事をして南雲から離れていく。
平気そうにしているがさすがに悔しかったのだろう。その表情は僅かに険しかった。
そうして体育祭に向けての練習が続く日々。
その中でオレはあることに気づいて、堀北に声を掛けた。
「何か用かしら」
「ちょっとな。最初の合同練習からこれでもう3回目だが、南雲のことはどう思う?」
視線を南雲の方に向けながら尋ねると堀北もまたそちらを見た。視線の先では南雲がDクラスの生徒に対し笑顔で何か話しかけている。おそらくは助言か何かだろう。それを見て堀北は言った。
「悔しいけれど、運動能力は私よりも上ね。おそらく女子としては1年生の中でもトップクラスじゃないかしら」
「そうだな。それはその通りだろう」
「彼女が同じ赤組であることはDクラスにとってまだ救いね。信用は出来ないけれどAクラスと組めたのは悪くないかもしれない」
運動能力の高さというはっきりと分かる長所を見て、堀北は悔しくもその能力を認める。
確かにAクラスを敵に回さなくて済むことはDクラスにとっても有利になる。そういう意味で堀北の言葉は間違ってはいないが、それではまだ足りていないのも確かだ。
「確かに南雲の身体能力は同じ赤組であるオレ達にとっても有利であることは否定しないがオレが指摘したい部分はそこじゃない」
「……ならなんだと言うの?」
「自分で考えられないか? 南雲の優れている部分。この合同練習での南雲を見ていて高い身体能力以外に気づいたことはないのか?」
オレの皮肉じみた言い方に多少イラッとしたのだろう。堀北の顔が険しくなったがそれでも堀北は顎に手を当てて考える。そして答えを口にした。
「……人をまとめる力は高い……とは思うわ。Aクラスの動きには淀みがない。Aクラスの人間に優秀な人が多いことを差し引いても私達のクラスでは見られるようなクラス内の不和が全く見られない」
「そうだな。南雲の人をまとめ導く力は高い。ならその力はどこから来ている? 南雲が人をまとめられるのはなぜだ?」
堀北の回答から更に一歩踏み込んだことをオレは問いかける。堀北に自覚を促すために。
「……実績とそれに伴う信頼を積み重ねているからじゃないかしら。彼女はこの短い期間でBクラスをAクラスに上げてみせた。Aクラスの人からしたら彼女の指示に従っていればこの先も問題ないと思わされるでしょうね」
「そうだな、南雲はクラスから信頼を集めている。そしてそれは人望があると言い換えることも出来るだろう」
「……私には人望がないと言いたいの?」
「事実だろ。お前も自覚しているはずだ」
そう指摘すると堀北が歯噛みするような苦い顔になる。オレはそれを横目で見ながらもグラウンドにいる南雲に視線を戻した。
今、南雲はAクラスの生徒に競技のアドバイスを送っているところだった。二人三脚の練習をしているようでペアを組むであろう2人に向けて笑顔で話をしている。そしてそれに応える2人もまた笑っていた。
「……そうね。それは自覚してる。なら、あなたは私にも南雲さんと同じことをしろと言うの?」
「全く同じことをしろとまでは言ってない。だが、真似出来るところは参考にするべきなんじゃないか?」
「回りくどく皮肉を言うのはやめてくれないかしら? ……じゃあ聞くけど具体的にどういう部分を参考にすべきだと言うの?」
堀北は自分の問題点を自覚し始めているが、それでもまだ足りていない。プライドが邪魔をしているし、心の底ではまた完全に認めきれていない。
あるいは南雲への対抗心がそれを躊躇させているのかもしれないが、その南雲こそ今の堀北に必要な優秀な教材だ。
「たとえばそうだな……南雲はお前と違って圧倒的に視野が広い」
「またイラッとさせてくれるわね……それは前にあなたが言った考え方のことかしら」
「それは言うまでもないことだが南雲の場合はその一歩先を行く。人をよく見ていると言うべきか」
「人をよく見ている……? クラスメイトをよく監視しているということ?」
嫌味のような言い方だが言い得て妙だと思う。監視、か。確かにそうかもしれない。
「この合同練習で南雲はAクラス全体を統率している。練習指示を行い、時に競技のアドバイスを行い、Dクラスとの協調にも手を抜かない」
「それが何? それだけなら平田くんや櫛田さんもやっていることよ」
「ああ。だが、平田や櫛田には人の嫌がることまでは強要出来ないし集団の和を優先するあまりに決断を先延ばしにしたりそれを周囲に委ねることも多い。決断力のあるリーダーとは言い切れないな」
「それは……確かに、私もそう思うけれど……つまりそれは南雲さんの持つ協調性は彼らとは違うということ?」
「ああ。オレが思う南雲の注目するべき部分は言うならば……その『社会性』。あるいは『バランス感覚』と言うべきか」
それが南雲の人をまとめる力に繋がる大きな要素の一つだとオレは考える。
もちろん、その総合的な能力の高さや容姿の端麗さ。アイドルをやっていたことも含めた『魅力』もまたそれに通ずるものだ。
だが出る杭は打たれるという言葉があるように、優れた資質を持つ人間は時に社会で排斥される。妬みや嫉み。あるいは単純な利益による対立。南雲ほどの能力を持つ人間であれば歓迎されるばかりでなく都合が悪い存在だとそれを叩き潰そうとする人間もいたはずだ。
だが南雲麗はアイドルとして活動した中学の3年間で日本中で顔を知られるようなトップアイドルまで昇りつめた。学校のような未熟な子供たちばかりがいる箱庭ではなく、大人も含めた大勢の人間が跋扈する社会においてだ。その実績はどうしても軽視出来ないもの。龍園や坂柳にもない南雲だけが持つ経験値だ。
「南雲は集団の中で自分がどう見られているか。そして自分の言動によって人がどう感じるかを理解しているんだろう。決断力のあるリーダーである一面を見せる一方で、クラスメイトに寄り添い仲間を大切にする一面を見せてそれを相殺する。それらが南雲の持つリーダーとしての『魅力』に繋がっているのかもな」
「……分からないわね。仮にそれが南雲さんの魅力だとして、私にどう参考にしろと言うの?」
「社会性という部分においてお前は大きく劣っているだろ」
「それは……」
堀北が口ごもる。堀北にとってそれはかなり痛い部分だろう。
何しろ堀北がDクラスに振り分けられた大きな要因だからだ。春に茶柱先生から指摘されたこともまだ記憶に新しいし、最近になって少なからずそれを自覚し始めている堀北にとっては尚更。
……まあオレもあまり強くは言えない部分ではあるが。それでもこの先クラスを率いらんとする堀北にとって必要不可欠な要素であることは言うまでもない。
「まあ龍園のようなリーダーになりたいと言うなら必ずしも必要な能力とは言い切れないけどな」
「悪い冗談ね……彼のようになるくらいなら退学する方がマシなくらいよ」
「そう。お前は挑発的な言動を繰り返し、人を見下す龍園に悪い感情を抱いている。それと同じことだ。龍園はそれを理解した上でそんなことは関係ないと好きに振る舞っているだろう。当然、そのデメリットも理解している」
そして理解した上でそれすらも戦略に組み込んでくる。信用されないなら信用されないなりの戦い方があるし、信用を積み重ねた上での戦い方も当然存在する。
だが能力はないよりはあった方が良いのも当然のことだ。
「勿論、だからといって南雲のようになる必要はない。勝利に必要な要素は幾つでも存在する。とはいえお前に今1番足りていないのが集団で生きる力。集団を扱う力であることに変わりないが」
「そんなこと……わかっているわ」
「わかっているなら今ここに1人でいるわけがないと思うけどな」
「っ……それは二人三脚のことを言っているの?」
体育祭の練習が始まってからずっと揉めている堀北の二人三脚の問題。そのフラストレーションもあるのだろう。堀北の声色に棘が混ざる。
それを聞いてオレは幾つか言い返し、堀北にまた理解を促すことを決める。
──そしてふと見た先では誰と組んでも好タイムを叩き出す南雲の姿があった。
誰と組んでもタイムがいまいち伸びない堀北とは大違いだ。ある種、その差が南雲と堀北の能力の差でもある。
どちらも集団の中で目立つのは同じだが、南雲のそれは自身が目立ち輝きながらも集団を牽引するものであるのに対し、堀北は未だ集団の中で孤立して不和を生み出している。
この状態で体育祭を乗り切れるのか。先日、Bクラスの練習にしっかりと体操着を着用して現れていた坂柳や未だ姿をほとんど見せないCクラスの龍園のこともある。
そして何よりクラス内の裏切り者の存在。その解決が為されない限り──Dクラスに勝ち目はないだろう。オレはその思いを確かにし、来るべき日のために準備を行うことにした。
お久しぶりです。少し余裕が出来たので投稿。
プロットは出来たのでまたぼちぼち投稿していきたいなって。
感想、評価、良ければお待ちしております。