秋といえばスポーツの秋だ。食欲の秋。芸術の秋など他にも色々あるけど学生にとっての大きな行事として秋には体育祭が開かれがちなので学生ならやっぱスポーツの秋だよねってのはあまり間違ってないだろう。
私達が通う高度育成高等学校とかいう国立のやべー学校も同じだった。
──というわけで遂に体育祭の日がやってきた!
「赤組絶対優勝ー!! 1位取るぞー!!」
「オー!」
幕開けに際し、体育着、ジャージを身に着けた39人の生徒達の前で私はAクラスを鼓舞するために号令をかけた。一流アイドルは盛り上げも当然大得意。私という完全無欠の可愛いリーダーの声にしっかりとレスポンスを返してくれた。
「結構観客もいるねー」
「なんかこっち見てない? 手振ってる人もいるし……もしかして麗ちゃんのファンとか?」
「あはは。まあそういう人もいるかもねー」
全校生徒の入場に際し、グラウンド周辺にいる観客の大人たちがちらほらとこっちを見て手を振っているのはクラスメイトが言うように少なからず私のファンが紛れているからだろう。熱心なファンかどうかはわからないけどファンである可能性がある以上、ファンサービスに手は抜かない。なので笑顔で手を振ってそれに応えながら私は行進していく。頭に赤のハチマキを巻いて袖まくり。体育着姿でも美少女の私の姿を存分に見せつけてあげよう。
──そうして3年Aクラスの藤巻先輩が開幕宣言を行うと開会式も終わってすぐに競技の準備に入った。最初の種目は全員参加の100メートル走だ。
「さてさて、組み合わせはどんなものかな~と」
「組み合わせに恵まれてると良いんだけど……」
最初は1年男子から始まるため、1年女子はテントで待機しながら観戦と応援だ。隣にいる帆波ちゃんと一緒に組み合わせを見ていくと、早速注目の対決だ。
「お、これはまさかの颯くんVS須藤くんだー!」
「いきなり1年男子の頂上決戦って感じだね……」
体育祭の始まりとなる男子1年100メートル走の一組目。そこに並ぶ1年Aクラス最強のランナー柴田颯くんと同じく1年Dクラス最強の須藤健くんの対戦に周囲が少しどよめく。須藤くんの身体能力は合同練習でも散々見てきたし1年の中ではそこそこ有名だ。少し離れた場所にいる1年Dクラス女子や準備のためスタート位置に近い場所にいる男子達も少し緊張していた。
「最初に一位を取って士気を上げていきたいところだねー。なんたって、そのために一組目に配置したんだから」
「練習だと柴田くんの方が勝ってたみたいだけどかなりギリギリだったし結構良い勝負になりそうだね」
「まあねー。でも大丈夫だよ。純粋な走力勝負なら颯くんの方が僅かに速いからね」
帆波ちゃんの言葉に私はそう答える。私の見立てではあるが、タイムの上でも颯くんの方が僅かに速いからね。十中八九勝つ。
私の分析通りに行くか。そしてどっちが最初に1位を取るかの大事な初戦。共に自信と対抗心を見せた表情になった颯くんと須藤くんは合図と共にほぼ同時に飛び出して凄まじい速さで100メートルを駆け抜けていく。他の男子はついていけないようで後方に大きく離されていた。
そして勝利したのは──やはり、私の思った通りで。
「やったー!」
「柴田くん1位だ!」
最初の一組目。1年男子最速勝負はギリギリのところで颯くんに軍配が上がった。
その勝利に周囲のクラスメイトが色めき立つ。遠くで男子も、当人もまたガッツポーズをしていた。
反面須藤くんは悔しそうではあったが、精神的にそこまで揺らぎは見えない。相手が柴田颯という自身も実力を認める相手だからだろう。悔しくはあってもマイナス過ぎる感情は抱かない。
「うんうん。幸先いいね。この調子でどんどん続けー!」
「2組目は渡辺くんと森山くんだね」
「頑張れー!」
1組目が終わればすぐに2組目が始まる。Aクラスの2組目は渡辺くんに森山くん。正直どっちもそんなに速くないが、直前に颯くんが1位を取ったためやる気は上々といった様子だ。女子の応援も効いてるかな? 大勢の中の1人とはいえ麻子ちゃんも応援してるしね。渡辺くんも女子の方を、正確には麻子ちゃんを見ていた。好きな女の子にかっこいいところを見せたい──そんな心の声が聞こえるかのようだ。
だがそれだけで1位を取れたら誰も苦労はしない。Aクラス二組目の結果は4位と6位だ。組み合わせはそこまで悪くなかったけど順当かな。
「うんうん。頑張った頑張った。4位と6位も悪くないよー!」
「次は神崎くんの番だね」
そして次の3組目。代表者はAクラス男子の頼れる参謀。神崎隆二くんが走る番だ。
隆二くんは身体能力も高いし、最近鍛えてもいるから順当に1位を取ってくれるだろう。組み合わせ的にも特に対抗馬となる目立った相手はいない。
──なのでまあ、ここは読み通り順当に1位、と。
「良い感じだね」
「まあねー。とはいえ……ほら、組み合わせは運だから今みたいに頑張ったけどギリギリで負けたりもあるしそもそも体育祭はまだ始まったばかり。油断は出来ないねー」
「そうだね。私達も全力で頑張らなきゃ」
隆二くんが順当に1位を取った後の4組目はAクラスでそこそこ自信のある走者を出したがギリギリのところで負けて2位となる。1位を見込んで出したが、組み合わせは運なのだから相手によってはこういうこともありえるのが普通だ。なので私は極めてフラットにそれを受け止めてみせる。
帆波ちゃんも私の言葉を受けて健全な闘志を露わにしていた。そんな中で5組目、6組目と終わって7組目。
「あ、綾小路くんと平田くんが走るね」
「お、注目だね。それに十勝バタースティックチョコくんもいるし」
「あはは、戸塚くんね……本人の前で言ったらまたツッコまれるよ」
次の走者に綾小路くんと平田くんがいることを帆波ちゃんが教えてくれる。ここは注目だ。まー順当に平田くんが1位を取るだろうとはいえ綾小路くんが動くところは見逃せない。いつも以上に注目して見る。ちなみに戸塚くんは順当に下位を取るだろうからどうでもいい。近くに以前私と戸塚くんのやり取りを見たこずえちゃんがいたのでボケてみたがウケは芳しくないしやっぱり本人が近くにいないとダメかなと頭の中のネタ辞典にバツ印を付けておく。
そして肝心の綾小路くんの順位は……可もなく不可もなくの5位。うーんやっぱりそう簡単には本気を出してくれないね。手加減してるのだけは分かるんだけどこっちが知りたいのは上限なんだよなー。
「1年女子集まってくださーい」
そしてそんなことを考えながら男子組を観戦していると次は女子の出番だとテントに係員の声が響く。
「出番だね。それじゃ行こうか」
「うん」
帆波ちゃんや周囲に声を掛けて係員に従ってみんなでついていく。さーて、麗ちゃん劇場の始まりだ。狙うは当然クラスでの1位と最優秀生徒だね。
1年男子100メートル走が終わると少しして1年女子の100メートル走が始まった。
Dクラスとしての結果は勝ったり負けたりといったところで今のところ特におかしなことは何も起きていない。このまま何事もなく100メートル走が終わるかと思ったその10組目──スタートラインに立つ面々を見てどよめきが走る。堀北に伊吹に南雲。その錚々たるメンバーの中に混ざっていたのは──。
「坂柳……?」
1年女子100メートル走が始まってすぐ。スタートラインに近い位置に集まった時にその異分子はやってきていた。
「──まさか有栖ちゃんが参加するとはねー」
「ふふ、私も少しでも体育祭の空気を味わってみたかったんです」
そう言って私の隣に並ぶ有栖ちゃんはしっかりとジャージを着用しながらも相変わらず杖を持っている。どう考えても走れる訳がないし、参加したところで最下位だ。そもそも参加してくるとは思わなかったためここに集まった時点で皆少し困惑していた。
「バカじゃないの……走れないのに参加するなんて」
「こらこら伊吹ちゃん。そんなこと言っちゃダメだよ。有栖ちゃんにだってちゃんと参加する権利はあるんだから。それに意味がないことでもないしねー」
「……ふん」
小さく呟いた同じ10組目の走者、伊吹澪ちゃんの言葉に反応して窘めると「そんなことは分かってる」と言わんばかりにそっぽを向いた。そして代わりに声を返したのは鈴音ちゃんだ。
「……そうね。失格と最下位じゃ大きく違う。最下位でも得点は貰えるけれど失格では0点。それなら最下位が確定していても出場した方が良いのはそうでしょうけど……」
「そういうことです。私達のクラスは他のクラスよりも1人少ない上、麗さんのクラスに追い抜かれてしまっています。なんとしても勝ってクラスポイントの差を詰めたい状況。しかしここで私まで全競技不参加ともなれば私達が勝つことはより難しくなってしまいます。なので参加を決意致しました」
「よく学校側が許可くれたねー」
「はい。少々困惑なさっていたようですが一応許可は貰えました。ただ、さすがに負担の大きい他の競技への参加は認められませんでしたが……」
「なるほどねー」
確かに、ただ走ればいいし歩いてもいい上に時間も短いものと予想される短距離走はともかく、ハードル走や障害物競走などの明らかに不可能な競技や騎馬戦などの怪我の確率が高い競技などへの参加は学校側としても止めたいところだろう。
それに何よりプログラムの進行を妨げる可能性もある。200メートル走なんかも時間がかかるのでダメ。有栖ちゃんの体育祭に参加したいという意思を汲んで100メートル走や……後は玉入れかな。それだけは参加を許したってところかな。
とはいえちょっと怪しいところはあるけど……ま、今はいいかな。得点を少しでも稼ぎたいって気持ちには嘘はなさそうだし。
「ご理解いただけたようで何より。っと、そろそろ私達の出番ですね」
「そだねー。それじゃ行こっか」
そうして有栖ちゃんが説明を終えたところで私達10組目の出番がやってくる。スタート位置につくまでも時間がかかる有栖ちゃんにやはり係員も困惑気味だ。プログラムの進行のためとはいえ急いでくださいなんて言えないもんね。
なので少しゆっくりとスタートラインに入った有栖ちゃんに合わせる形で私達も走り出す準備をする。有栖ちゃんの参戦というちょっとした事件はあったがそれに意識を割いてもいられないといったところか。鈴音ちゃんに伊吹ちゃんもスタートに集中している。その表情を確認したところで私も集中することにした。2人とも強敵だからね。
──とはいえ負けないけど。
「!」
「ッ!?」
スタートダッシュ。好スタートを切ったと思われる横の2人を置き去りにして加速する。鈴音ちゃんは理解していたようだが伊吹ちゃんの方は驚いていた。情報としては持っていない筈はないが、実際に自分の目で見て理解したことだろう。私は2人よりも速いってことを。
そしてその後の動向は分からない。2人を含めた後続を置き去りにしてトップを取った私はそのまま100メートルを走り抜けていく。当然、後ろの人がどうしてるかなんて分からない。ゴールラインを割って初めて確認する。
「いえーい!! 麗ちゃんイチバーン!!」
「はぁ……はぁ……」
「っ……くそっ!」
着順は私が当然1位。2位は鈴音ちゃんで3位は伊吹ちゃんだったらしい。私に半ば負けることを予想しつつも何とか2位を取れて安堵しつつ息を整える鈴音ちゃんと鈴音ちゃんにも私にも負けて悔しそうに悪態をつく伊吹ちゃんが印象的だった。
そして私が1位を取った上に女子の中でもレベルの高い接戦に周囲は盛り上がる。中には声を掛けてくれる人もいたので私は笑顔で手を振りながらそれに応えた。そしてそのまま2人に何も言わず捌けようとしたところで──未だスタートライン近くにいる有栖ちゃんを発見する。
「…………ま、そうだね」
私は誰にも聞こえない程度の声量で一言呟くとそのまま駆けていくことにした──有栖ちゃんの場所まで。
「なんというか……見てられないよな」
「うへー……俺なら恥ずかしくてやってられないな」
1年女子100メートル走の最後10組目。堀北と伊吹。そして南雲の勝負は南雲が1位を取る結果に終わり、そのハイレベルな熱戦に会場が盛り上がったところだった。
だがその後、未だトラックを走る──ではなく歩いている坂柳の姿を見て観客はいたたまれない気持ちになる。さすがにヤジを飛ばすようなことはないが、間違いなく良い雰囲気ではない。池や山内が呟いたようにナチュラルに晒し者になってしまうような会話も幾つか聞こえる。
とはいえこれもすぐ収まるだろう。一応は競技に参加する意思を見せた頃合い。棄権しても何ら問題ない。ゆえに、これで終わるかと思ったが──。
「お……?」
「なんだ……?」
「……南雲?」
坂柳のもとに駆け寄る1人の女生徒。それは先程一着でゴールラインを抜けた南雲だった。
その姿に会場が困惑する。それを見た係員が少し遅れて注意しようと寄っていったところだ。
「うお! 持ち上げた!」
「お姫様抱っこ!?」
南雲の突然の行動に様々なところで声が上がる。坂柳に近づいて、その身体を持ち上げたその行動はまさしく言ったようにお姫様抱っこと呼ばれるもの。
その行動に観客だけでなく係員や当の坂柳すら困惑している様子だったが、しかしその行動を起こした南雲の方は笑顔で坂柳をゴールライン近くまで運んでいく。100メートル近くをそうやって走り切る間、会場の雰囲気は驚愕から困惑。そして、どこか微笑ましいものを見るものに変化していく。
そして最後、ゴールラインをそのまま通り過ぎるかと思いきや、南雲はゴールライン直前で坂柳を下ろすとそのまま右手を掴み「せーの」とでも言ったのか。そのような仕草を見せながら坂柳と共にゴールする。
その瞬間に起きたのは……ここまでで1番の観客からの拍手だった。
「微笑ましいね」
「ああ。さすがは南雲だな」
平田が言うように確かに微笑ましいものだ。気づけばその空気に流されてDクラスでも自然と拍手が起きる。学内外で知名度のある南雲の友達思いの一面。感動的な、あるいは青春の1シーンとしてそれを見ていた人の記憶に残るような場面だった。
そして少し遅れて係員がやってきて注意を受けているのだろう。舌を出して苦笑気味に頭を掻く南雲の姿を見てAクラスは盛り上がっている。オレもまたそれを見て素直に感心していた。
坂柳の競技への参加。南雲のとにかく目立つ行動。そして反対側、白組のテントでそれらを見てニヤニヤと笑みを浮かべている龍園。それらはこの体育祭がDクラスにとって一筋縄でいかないことを十分予見させるものだった。
1年の100メートル走が終わり、2年、3年と順番に終えれば次の競技はハードル走だ。
とはいえこれもまたAクラスは無難に勝ったり負けたり。トータルでは一応勝利するような形で消化していく。組としても赤組が優勢だ。
「今のところは順調だな」
「そうだねー。さっきのお姫様抱っこも特に問題にならなかったし順調順調」
ハードル走を終えて隣にやってきた隆二くんの言葉に頷きを入れる。個人の順位としても私は当然1位だし隆二くんもしっかり1位を取ってきてくれている。Aクラスの主力の成績は今のところ悪くなかった。
「……急に坂柳を持ち上げたのは何かの作戦か?」
「んーん。別に? あのままだと晒し者だから可哀想だと思ってね。ほら、私って友達思いだし?」
「坂柳から何かアクションはなかったのか?」
「それもなし。それどころか『くす。それではこのまま他の競技も麗さんに運んでもらいましょうか』なんて言ってたよ」
「恐ろしいほど似てるな……それはともかく、もしやまたやる気か?」
「2回目もやるにはちょっとくどいからやらないかなー。というかそもそも有栖ちゃんの競技の出番はあれで最後だろうしやろうとしても出来ないかな。玉入れとかに出てきたとしてもやりようがないし」
あの行動が何か意図があってのものだと思ったのか、隆二くんが問いかけてきたので私は素直に答えてあげる。今の隆二くんならこう言えば多分伝わるだろう。突発的な行動だし友達思いなのも事実だが、計算の上に行われた行動だということが。
「なるほどな。それも1つの戦略……いや、布石、か……」
「そうそう。そういう訳でAクラスの勝利のために次も頑張ってねー」
「……ああ。やれることはやってみせる」
思考を頑張って回しているのだろう。納得したように呟く隆二くんに次の競技も頑張ってねと送り出すと拳を握り、強い表情でそれに答えてくれた。
次の競技は男子だけで行われる棒倒し。女子である私は参加出来ない競技だが……さてさて、どうなるやら。
「お前ら絶対勝つぜ。高円寺のアホがいない分気合い入れろよ」
棒倒しはこの体育祭の競技の中で最も荒っぽい団体戦の競技だ。
AクラスとDクラスの男子が集まる中、苛立ちを隠さずに吠えるのはDクラスの体育祭でのリーダーを務める須藤。
対するAクラスはそんな須藤を見ても空気感を崩さず士気も高い。
「事前の打ち合わせ通り、交互に攻守を入れ替えよう。最初の守備は任せてくれ」
「うん。互いに頑張ろう神崎くん」
「よろしく頼む」
そしてそのAクラスの男子のリーダーは神崎だ。南雲から男子の指揮を任されているのだろう。強い意思を感じる表情で平田と言葉を交わすとAクラスの男子を連れだって棒の周囲に並んでいく。その様子を見る限りやはりAクラスが味方であるのはDクラスにとって心強い。その連携力と士気の高さもあって棒を倒すのは決して簡単なことじゃなさそうだ。たとえそれが龍園率いるCクラスであっても。
対する赤組の攻撃はオレ達Dクラス。須藤という突出した生徒はいるものの連携力ややる気に難ありな集団でその相手はBクラス。男子のリーダー格である葛城や橋本の姿が反対側に見える。
だがどちらかと言うと指揮を取っているのは橋本のようだ。やはりBクラス内での葛城の影響力はかなり落ちているようだな。
「おら! 殺されたいヤツからかかってこいや!」
互いに攻撃陣と守備陣に分かれた後、合図が出ると須藤を先頭にしたDクラスが真っ直ぐにBクラスの守る棒へと向かっていく。後続の士気の低い面々も須藤の勢いには大きく負けるがその背に続いた。
「お前ら続け! 切り開いてやっからよ!」
「ぐっ! さすがに強いな……!」
元AクラスであったBクラスの身体能力。連携力は決して悪いものではないが、さしもの須藤の勢いには苦戦しているようだ。防衛の指揮も取る橋本が須藤の力強さに表情を歪ませる。
須藤はBクラスの生徒の群れをかき分け、そのまま棒に張り付いている生徒を倒そうとするもののそこで須藤に取っ組み合いを仕掛けて止めた生徒がいた。須藤もまたその存在に驚愕する。
「! てめぇ……!」
「任せたぜ! 鬼頭!」
「任せろ。大したことはない」
「んだと!?」
橋本に鬼頭と呼ばれたその生徒は須藤に挑発を送りながら棒と須藤の間に割って入り棒を守るBクラスの生徒を守る。
それでも押され気味とはいえ、須藤を止めるその身体能力は間違いなくBクラスの主力だろう。須藤もまた中々棒に張り付けないことに苛立ちを見せる。
「やべぇぞ健! このままじゃAクラスが!」
「ぐっ……!」
その声に振り返ってみるとAクラスもまたCクラスに激しく攻められているのか僅かだが棒が傾いていた。
Aクラスも頑張って押し留めているようだがCクラスの武闘派の生徒達に押され気味だ。その前に勝負を決めたいところだが肝心の須藤が鬼頭と更に加勢したBクラスの生徒に留められて思うように攻められない。そして再び苛つく須藤に鬼頭は挑発を続ける。
「おまえ達の負けだな」
「あぁ!? うるせえよ。まだ決まってねぇだろ!」
「いいや決まっている。なぜならAクラスはDクラスを陥れようとしているからな」
「あ!? 何を訳分からねぇこと言ってやが──」
突如、鬼頭の口から告げられた不穏な言葉。それに須藤が言葉を返そうとした時、それに被せるようにホイッスルが鳴り響く。
「あー糞が! 何やってんだお前ら! 死ぬ気でいけよ!」
「んなこと言われてもよ……」
勝負が決まったことで須藤の意識は不甲斐ない味方へと向けられる。その間に先程まで須藤と組み合って意味深な言葉を口にしていた鬼頭は他のBクラスの生徒と共に離れていった。オレはそのことが気にかかるも生憎と次はDクラスが守備に周り、Aクラスが攻撃の番。少しの間を置いて再度攻守を入れ替えての競技が始まるが──
「あーイライラするぜ! もう少しだったのによぉ! お前らのせいで全勝逃しちまったじゃねぇか!」
──その勝負はあえなく赤組の敗北。攻撃に回ったAクラスはBクラスが守る棒を後少しというところまで追い詰めていたが、その前にオレ達Dクラスが守る棒がCクラスに倒されて敗北した。そのことに須藤は苛ついて文句をぶつける。龍園から反則技を受けたのも原因だろう。
だがそれでも平田が何とか宥めて揉め事は起こらず、そのまま解散するかに思えたが……。
「ん? なんだ?」
「なんかAクラスとBクラス揉めてないか?」
競技終了後。未だ距離を取ることなく何か言い争うAクラスとBクラスを見て池達が反応する。何があったのかは分からないが問題が起こったようだ。何があったのかとDクラスの生徒もまたそれに近づいていく。Cクラスも同様に。
「ありゃ誰だ?」
「Aクラスの渡辺くんだよ」
そうして近づいていくとAクラスの生徒がBクラスの生徒に何やら糾弾されているようだった。それを神崎を始めとする他の生徒がかばっている。平田が言うにはAクラスの渡辺という生徒らしい。その渡辺を中心とする輪に、平田は近づいていく。
「どうしたの? 神崎くん。一体何が……」
「……平田か。いや、これは──」
「お、平田くんにDクラスも集まってるな。ちょうどいい。これからDクラスにも伝えに行くところだったんだ」
平田の声に神崎が答えようとすると橋本が割って入るように不穏な言葉を口にする。その右手には小さく折り畳んであったのだろう。折り目が幾つもついたプリントサイズの紙があった。それを橋本は平田に手渡す。
「さっきの棒倒しの最中にそっちの渡辺のポケットからこんなものが出てきたんだがどう思う?」
「これって……!」
そしてその紙に目を通した平田が驚きを見せる。その様子に、オレ達もまた覗き見るようにその紙を見るとその内容に驚いた。あまりにも、見覚えのあるものだったからだ。
「え、え? これって……俺達Dクラスの出場表……だよな?」
「なんでAクラスの生徒がこれを持ってんだ?」
「い、いや、違うって! これは……」
池と山内がそれを見て素直な疑問を口にするとAクラスの渡辺はそれを否定しようとする。
だがその言葉を口にする前にタイミングよくその輪に入ってきた男がいた。
「なるほどなるほど……面白いことになってるじゃねぇか」
「りゅ、龍園……」
Cクラスの暴君である龍園の登場により露骨に怯えを見せる渡辺。その前に、神崎が割って入った。
「……何の用だ龍園。それにおまえ達もだ。もう競技は終わった。早く解散しないと係員の注意を受けるぞ」
「そうはいかねえな神崎。おまえらAクラスの悪どい戦略の証拠を見つけちまったんだ。ボロが出た以上、ここでゲロっちまった方が楽になるぜ?」
「何の証拠もない。ただの言いがかりだ。俺達Aクラスが味方であるDクラスを陥れる理由はない」
「だがおまえらのクラスの生徒のポケットからDクラスの出場表の一部が出てきたのは事実だ。おまえらだって見たんだろ? なあ?」
「それは……」
龍園が他のAクラスの生徒に確認するように問いを投げるとAクラスの生徒の一部が目を逸らす。どうやら、Aクラスの渡辺のポケットからDクラスの出場表が出てきたこと自体は事実のようだ。
その様子を見てDクラスの中にも疑念が浮かぶ。須藤が柴田に疑いの目を向けた。
「マジだってのかよ……!」
「違うって! 確かに渡辺のポケットから出てきたのは事実だけどよ! 指摘してきたBクラスがおかしいんだって!」
「指摘してきた……? どういうこと? 柴田くん?」
「ああ。あいつら、競技が終わった後になって渡辺に声掛けたんだ。『さっきポケットから何か落としてたの拾い直したよな? ちょっと見せてみろ』って。それで渡辺がポケットの中を確認したら……」
「Dクラスの出場表が入ってた……ってことだね」
「ああ! おかしいだろ? 競技中に拾い直す訳ないしそもそもDクラスの出場表なんて持っててもなんの意味もないだろ! それなのにBクラスのヤツら、Dクラスを陥れようとしてんだろって……」
柴田の説明で大体の事情を理解する。なるほどな。確かにおかしいところだらけだ。
棒倒しの競技中にポケットから折りたたまれた出場表を落として拾い直す渡辺を確認し、競技後に確認したところそれがDクラスの出場表であったため、Bクラスがそれを糾弾する。一応は筋が通っているとはいえ、冷静に考えてみればそんな訳ないと気付ける者は少なくないだろう。
「うん。大丈夫だよ柴田くん。僕たちはAクラスがそんなことをするなんて思ってない」
「ああ、当然だろ!」
平田もまたこれがBクラスとCクラスが仕込んだ揺さぶりだと気づく。AクラスとDクラスの仲間割れを誘発するための白組の打ってきた手。
だがそれに平田は乗らない。Aクラスの男子生徒も渡辺を疑っている様子もなく渡辺を庇っていた。
そう……これだけなら決定的なものにはならない。
少なくとも何か別のものが見えている人間や、疑念を抱いた人間にしか効かないものだろう。その思考を終え、事態を見守っていると龍園が再度こちらを煽ってきた。
「おめでたい奴らだな。他のクラスから自分のクラスの出場表が出てきたってのに疑いを持たない。どうやらDクラスにはバカしかいねえらしい。そっちの赤髪もサル以下の知能しか持たねえカスだって噂だしな」
「んだとてめぇ! 上等だぶっ殺してやる!」
「だ、ダメだよ須藤くん!」
挑発を受けた須藤が龍園に詰め寄ろうとしたのを平田が抑える。そしてそれを見ると龍園は背を向けて下がっていった。Bクラス、そしてAクラスも同じだ。係員が近づいてくるのを見てこの場に居続けるのは得策ではないと誰もが判断する。
「クク、精々ない頭を使ってそれがどういう意味を持つか……よく考えるんだな」
最後に龍園はそう言葉を残して白組のテントに戻っていく。オレ達もまたその言葉を耳にしながらも赤組のテントに戻っていった。
しばらく書いてない内に原作も進んで登場人物が増えたり色んなことが分かったりでネタが溜まったりプロットが変わったりしてますが一応順調です。次回もまた麗ちゃんが活躍します。お楽しみに。
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