アイドルと選挙は関連性がある
選挙と言えば殆どの人が政治家を選出する国政選挙や地方選挙を思い浮かべるだろう。
だがその選挙はアイドルにとっても近しいものだ。某アイドルグループのような総選挙。人気投票などは実質センターや主力メンバーを決めるための選挙みたいなものだし、私が所属していたグループでも人気投票という名の選挙は存在したし、なんなら同じ会社の他のグループと争う人気投票もあった。
そのため私にとって選挙とは切っても切れないもの。自らの人気を確認し、大衆に示す試験のようなものでもあるため結構重要なものなのだ。
私がなぜ今、この時にこんなことを考えているかと言うとそれに参加する可能性が少し前にあったからだ。そのことを私の目の前にいる女の子は指摘してくる。
「選挙に参加しなかったのはどうしてですか?」
「いやぁ、さすがにね。1年の内から生徒会長ってのは荷が重いでしょ」
場所はケヤキモール内にある雰囲気の良い和食のお店。
教職員や敷地内で働く大人が夕食を楽しんだり、あるいは少しポイントに余裕のある生徒がデートや内密の話を行いながらちょっと羽振りの良い食事を取る時の選択肢の1つに入れるお店だ。個室が幾つかある他、少ないながらもカウンターもある。
そんな店に私は2人でデートに来ていた。目の前にいるBクラスのリーダーを務めるロリっ子──坂柳有栖ちゃんと。
「一般論ではそうでしょうが麗さんなら問題ないのでは?」
「まあね。でもほら、わかってるでしょ? 2年の支配者様と争うのはちょっとねー」
「麗さんのお兄さんですね。確かに、選挙戦を争うとなれば如何に元アイドルの麗さんと言えども敗北は必至ですか」
有栖ちゃんはそんなあえて癪に障る言い方で私をからかってくる。相変わらず可愛いメスガキだ。
私はデザートとして出てきた羊羹をじっくりと味わってから飲み込み、全く気にしていないように言い返す。
「いやいやいや。そりゃ勝とうと思えば勝てなくもないけどね。だけどそのためにはもう結構本気で立ち回って戦わなきゃならないからさ。そこまでして生徒会長取りに行ってもしょうがないでしょ。どうせ1年後には私にお鉢が回ってくるしね」
「順当に行けば間違いなく麗さんでしょうね」
「順当に行かなくても私だろうねー。まあ、有栖ちゃんが生徒会に入ってくれるんならちょっとは面白い勝負になりそうだけど」
「ふふ。お誘いは嬉しいですが生憎とそのつもりはありません」
「ちぇっ。ダメかー。結構ありだと思うんだけどなー」
雅兄が生徒会長になって生徒会も新体制に移行したが、先の堀北学先輩の方針もあって1年の生徒会役員はめちゃんこ少ない。具体的には私と帆波ちゃん。そして私が誘ったもう1人の3人だけだ。
なので雅兄の方針らしく、優秀な1年生の生徒から何人か生徒会に誘おうかとも思ってるんだけど……さすがに有栖ちゃんはなかったか。足のこともあってこき使うには気を使わせるだろうしね。それはしょうがない。
なら他に良い生徒はいないかなーと私は頭の中の名簿を思い出していると有栖ちゃんから提案があった。
「新しい人員が欲しいなら葛城くんなどはいかがです?」
「本人が断りそうなんだよねー。それに、悪くはないけどもうちょっと個性的なメンバーが欲しいかなぁ」
葛城くんは確かに小中と生徒会をやってきた実績もあるし本人も一度は生徒会に入りたいと希望を出していた。
だが新体制になってから生徒会の門を叩いていないことを見るにもうその気はないのだろう。なので私としても入る気がないなら別に良い。入るなら歓迎するけどさ。個人的には葛城くんのやるようなポジションはもういるので他の駒が欲しいところなのだ。
とまあ私がそう考えていると有栖ちゃんがくすりと笑う。私の考えでも見透かしているのだろうか。実際に見透かせているかは分からないけどね。からかい混じりに口を開いてくる。
「くす。葛城くんは副会長のお眼鏡に適いませんでしたか?」
「そんなことないよ。葛城くんは優秀だし貰えるもんなら貰うけどさ。そもそも飼い主に上げる気がないじゃない」
「ええ。葛城くんも今や私の駒の1つ。今のところ手放す気はありませんね」
「さいですか」
と言いながらも特に惜しい駒とも思っていないのだろう。切り捨てる時はあっさり切り捨ててしまう。そんな上位者としての余裕を有栖ちゃんは見せつけている。
私はそれを見ながらお茶を一口飲んで落ち着く。そうしながらちょっと前のことを思い出した。
──あれは生徒会の選挙が終わり、雅兄が生徒会長に決まった後のことだった。
『おめでとー雅兄!』
『おめでとうございます南雲先輩』
生徒会室に私達新しい生徒会のメンバーが全員集合し、その結果を祝っていた。
その中心にいるのは当然、新しい生徒会長となった雅兄だ。
『ああ。ありがとうな。帆波に麗も』
雅兄は私達1年生や同学年の生徒会メンバーに祝われ上機嫌だった。
そんな中でささやかながら打ち上げの予定が決まっていたのだが……そんな時、雅兄はその集まりの締めとして新体制には必要不可欠な決め事を突然発表した。
『これから生徒会の役職を決めることにする。もっとも、事前に伝えていたのもいるだろうが改めてな。こういうのは形式が大事だろう』
と、雅兄がそう言うと先程まで騒いでいたのがどこへやら。静まって緊張感を漂わせる生徒会のメンバー。生徒会の人事というのはそれほどの大事であり、実のところ生徒の評価やクラスポイントにも影響を及ぼすほどの重大な要素なのだ。
生徒会に所属するだけでも様々な特権を得られるこの学校でも、上の役職──それこそ生徒会長にもなればクラス間の闘争を有利にするための様々な特権と情報を得ることが出来る。
その上だ。生徒会長によって任命される人事ということにも意味がある。
つまるところこの人事は完全実力主義の方針を掲げる新たな生徒会長、南雲雅がどれだけその生徒を評価しているのかということにも繋がってくる。
だからこそ隣の帆波ちゃんや2年生の殆どのメンバーが緊張していた。普通なら書記か、良くて秘書。あるいは万が一副会長にでも選ばれれば名実共に生徒会の、南雲雅政権のNo.2ということになる。その期待を、まずないとはいえ殆どの生徒が持ち合わせていた。
『これから名前を呼んでいくぞ。まず──』
そんな中、雅兄は1人ずつ名前を呼んでいく。順番に。おおよその2年生の生徒や。
『一之瀬帆波。それと──』
『は、はい!』
1年生の生徒会役員の2人も書記に選ばれた。
といっても殆どは書記になるのだが。逆に言うと、まだ名前を呼ばれていない者はそれ以上に評価されていることになる。
『次に秘書──』
次々に名前が呼ばれていく。まるで特別試験の結果発表みたいだ。
そんな感想を抱きながら待っているとすぐに最後の役職になった。
『最後は副会長だが──』
そう。副会長。その役職に誰を選んだか。雅兄はあっさりと口にする。
『1人は麗。おまえだ』
『あ、はーい。おけまるおけまる~』
緊張感がすごかったので私はあえていつもの調子で少しちょけながら返事をする。
だが周囲の反応は中々にざわっとした。誰も騒いだ訳でも声を出した訳でもないが、感情としては「まさか」とか「やっぱり」といった感じかな。
だけどそんな反応になるのも無理はない。何しろ1年生でいきなり生徒会の副会長というのはこの学校においても珍しい事例だ。
それこそ1年生で生徒会長になった堀北先輩や去年の雅兄みたいなもの。それくらい優秀であるという証。
『南雲。少し待ってほしい』
だからこそ異論が出るのも当然ではあった。雅兄に待ったを掛けたその声の持ち主に誰もが注目する。雅兄もそう来ることが分かっていたのか薄い笑みで応じる。
『どうした桐山。俺が決めた人事に何か異論でもあるのか?』
『ああ。おおよそは納得に足るものだから異論はない。だが、まだ1年のおまえの妹を副会長に任命するのは少しばかり性急だと俺は思う』
その相手は2年Bクラスの先輩である桐山生叶先輩。
2年生でかつてAクラスのリーダーとして雅兄に挑んだが破れてBクラスに降格してしまった生徒で、雅兄とはそんなに仲が良くない相手だ。見立てでは堀北先輩派なので今は雅兄に従ってはいても内心はきっと嫌々なのだろう。
そんな桐山先輩の言葉に雅兄は毅然とした態度を貫く。笑ってはいても決定は覆させないといった様子だ。
『1年だから早すぎると?』
『ああ。副会長や……いや、おまえの妹であれば来年には生徒会長になるのはほぼ当確と言ってもいいだろう。それだけに焦らずとも良い筈だ』
『だからこそ早めに上の役職に付けておいた方がいいだろ? 今の内に俺の隣で生徒会長としての手腕を学んでおけばこいつが会長になった時の役に立つ』
桐山先輩の伝統というか、保守的な意見に雅兄は来年のことを考えながらも自身の方針であることを口にする。
『それに、実力に学年は関係ない。この生徒会を運営するにあたっての俺の方針は理解しているはずだ。実力があるならより上の地位を与えるのは生徒会長として当然のことだ。おまえも当然分かっているものと思っていたがな。違ったか?』
『……理解はしている。だが、それでも異論が出ることは避けられないはずだ。身内贔屓だと揶揄されてはおまえの妹のためにならない』
『麗のここまでの実績を見てもそう言えるヤツがいるならむしろ面白いんだがな。実際はいないだろう。麗が生徒会に入ってから身内贔屓で生徒会に入ったなんて口にしたヤツがこれまでにいたか? どうなんだ麗』
『そりゃまあいないね。でもほら桐山先輩も私のこと思って言ってくれてるんですよね? 私の実力自体は疑ってないみたいですし』
雅兄に問いかけられたので私は答えつつ桐山先輩をフォローする。実際、本気でこの人事が覆るとも、私が副会長に相応しくないとも思ってないはずだ。なんというか……桐山先輩のこれはポーズに見えるんだよね。雅兄に反抗してますよっていう態度を示しているだけというか。
その証拠に答えは決まっていた。
『勿論だ。おまえの実力は疑ってない』
『だったら問題ないだろ。それに安心しろ。もう1人の副会長はおまえだ桐山。麗が副会長だからといって実力のあるおまえに落ちてもらうなんて不条理なことはしないさ。これまで通り、麗と一緒に俺を支えてくれればいい』
『そうですよ桐山先輩! これからW副会長! 技の1号、力の2号ってことで一緒に力を合わせて頑張りましょう!』
雅兄と私が揃って桐山先輩に笑顔でそう言えば桐山先輩も納得するしかない。少し間を置いて頷いてみせる。
『……わかった。おまえ達が納得しているなら異論はない』
『そうか。それなら生徒会の人事はこれで終了だな。一応、桐山のように異論があるなら受け付けるが……』
桐山先輩が納得した後、雅兄は周りを見渡しながらそう言うも何か発言しようとする生徒はいない。そもそも2年の中でも生徒会のメンバーというのは雅兄に染まっている側近の集まりであり、桐山先輩のように真っ向から反抗することはあまりないものだ。側近だからこそ物申すこともあるが、それでも雅兄の判断に信頼を置いている。
そしてこれまでの生徒会の活動や交流を通じて私の実力もおおよそ理解しているであろうこともあって異論など出よう筈もなかった。
『異論はないようだな。ならこれで打ち上げも終わりだ。明日からは皆、この伝統ある実力主義の生徒会の一員としてより自覚を持って望んでほしい』
そう言って雅兄は打ち上げを締める。皆はそれぞれ後片付けをすると生徒会室を出て帰路についていく。
私達1年生もまた生徒会室を出ていった。私と帆波ちゃん。
そしてもう1人と一緒に。
『先に行っててくれ。鍵を職員室に返してくる』
『あ、私も一緒に行こうか?』
『いや、俺が1番新入りだからな。一之瀬と南雲は先に帰ってくれて構わない』
『そう? それじゃ……お願いしようかな』
『オッケー。それじゃまた明日ね
『ああ。よろしく頼む』
そうして新たな生徒会は発足し、私は副会長になった。
いやほんと、1年にして生徒会副会長っていうのはかなりのニュースというか、学年全体にも周知されているし、元々高かった私の知名度に更に箔が付いたって感じだ。
──そんな訳でそのお祝いを兼ねて有栖ちゃんからご飯に誘われたのが10月中旬の今日だ。
シンプルなお祝いの言葉を送られ、食事を終え、軽く雑談もとい煽りあいも行いつつ楽しく和やかに時間は進んだ。支払いは有栖ちゃん持ちだ。別に私が払ってあげてもよかったんだけどね。有栖ちゃんは比較的金欠気味だろうし。
そうして2人で寮へと帰る途中で、有栖ちゃんは別れ際に本題を口にしてきた。
「それでは麗さん。次の試験では負けませんので覚悟しておいてくださいね」
そんなはっきりとした宣戦布告を口にしてくる。中々に自信たっぷりで可愛らしいね。自分が負けることなど微塵も考えてないって顔だ。
私はそれを受けて──たってやりたいのは山々なのだが……生憎とそうはいかないんだよね。
「あー……そうだね。楽しみにしてるよ」
「……? 何やら歯切れが悪いようですが、食べ過ぎでお腹でも痛めましたか?」
「いやいや、そうじゃなくてさ。なんていうか……次の試験は私の活躍の機会はあんまりないかなーってね」
「それは一体どういう意味ですか?」
「つまりねー」
私はどういう意味か計りかねるという様子の有栖ちゃんに以前から決めていた今回の試験での方針を口にした。
「次の試験は帆波ちゃんと隆二くんの2人に采配を任せようと思ってるんだよねー」
有栖ちゃんの表情が変わる。それを目にしながら私はこれがAクラスのためになることを確信していた。
ペーパーシャッフル編の主役は一之瀬と神崎です。麗ちゃんが副会長になりました。
感想、評価、良ければお待ちしております。