Aクラスの雰囲気は極めて良好だった。
勿論、そうなるようにしっかりと調整したのだからそれは当然のこと。
入学当初からリーダーとしてクラスを取り纏め、クラス間の争いにおいても勝利し、BクラスからAクラスに昇格した。
その上、先日行われた体育祭でも見事、力を合わせて学年1位を取ったのだからそりゃこの空気にもなる。
「はーい、Aクラスの皆~おっはよ~!」
中間テストの結果発表の時間。私達の担任の知恵ちゃん先生がやってきてもそれは変わらない。皆、自信に満ち溢れているね。特に今回の中間試験は特にレベルの高いものでもなければ特殊なルールや他クラスへの仕掛け仕掛けられなんてこともなかったから間違いなく赤点を取って退学なんて生徒は1人もいないのだろう。知恵ちゃん先生のご機嫌な様子からもそれは表れてる。この学校の教師としてはどうかと思うけどね。よっぽどAクラスで居続けていることが嬉しいのだろう。二学期が始まってからの知恵ちゃん先生は大体いつもこんな感じだ。
「今回も赤点を取った生徒は誰もいませんでした~! みんなよく頑張ったわね~! ぱちぱちぱち~」
そうして緊張感のないまま知恵ちゃん先生によって試験結果が張り出される。この学校においては当然、順位に点数も全て公開されるから普通は学力を隠すことなんて出来ない。つまり、それは貴重な皆のデータだ。私はそれをしっかりと目を通して記憶し、前回の点数と比較していく。平均点は前回より大幅に上昇。元々アベレージが高いクラスなことに加え、今回の中間試験での難易度の低さ。そして体育祭での報酬で得点を選んだ何人かの点数が上がっていることが関係してるね。大活躍だった颯くんなんかは特に順位が上がってる。
そして上位で言うなら帆波ちゃんや浜口哲也くんに二宮唯ちゃん。それに隆二くんなんかもいるね。特に伸びてるのは隆二くんかな。後は帆波ちゃんも、元々高い点を取ってたがそれでも多少伸ばしてきてるのはさすがと言える。
中間層で言うと私が直接勉強を見てあげた子達が何人か上がってる。ユキちゃんなんかも順位が4つ程上がってるし悪くないね。私もちゃんと1位だし割と良い結果だ。
とはいえ中には点数が伸び悩んでいる生徒もいるため、その生徒のことはしっかりと記憶して後に対応してあげないとね。
「流石だな。また1位か」
「まあねー。私ってば天才ですから。でも隆二くんも結構良い順位だしよかったじゃん」
「ああ。順位が上がったのは素直に喜ぶべきだな」
と、隣からそんなことを口にする隆二くんの表情はそれほど明るくはない。目指すべきところはまだ上だとでも言いたげな感じ。うんうん、悪くないね。
「全体的に学力も上がってるし、これなら次の試験も何とかなるかなー?」
「……そうだな。結果は出してみせる」
「うん、頑張ってね」
他人事のように私はそう告げてみせると隆二くんは反対に当事者であることを強く意識して頷いた。
その力強い意思を秘めた瞳を見ながらも、私は他のところにもちらっと目を向ける。強い意思と自覚を持っているのは隆二くん1人じゃないから。
「──そんな訳で期末テストは来週行われる小テストの結果を基にしたペアを組んで挑んでもらうからねー」
私が視線を別の子──帆波ちゃんに向けている間にも知恵ちゃん先生からの説明は続く。
その内容は2学期の最後に行われる期末試験における内容のものだ。簡単に列記すると。
・小テストの結果を基に作られる2人1組のペアによって挑む。
・ペア合計で60点以下を取ったペアは退学。
・ペア合計で総合点のボーダーラインに届かなかった生徒も退学。
・試験科目は8教科各100点満点の各教科50問。
と、ここまでがまず1つの課題で退学がかかってくるいつもの要素にペアという一蓮托生になるちょっとした要素が追加されたもの。最初は少し戸惑うだろうけどアベレージの高いこのクラスならどうにでもなる課題だ。
なので問題があるとすれば……次のもう1つの課題。
「それともう一つの課題はあなた達自身に問題を作ってもらって他のクラスに割り当てる『攻撃』と、同じようにどこかのクラスが作った問題を迎え撃つ『防衛』。どっちも自分のクラスの総合点と相手のクラスの総合点を比べて競ってもらうことになるわ。そして勝ったクラスは負けたクラスからクラスポイントを50ポイント得ることができます」
知恵ちゃん先生によるそのもう一つの課題の説明が行われれば緊張感の空気が濃くなる。他のクラスとクラスポイントと退学をかけて競い合う争い。そんなものはほぼ特別試験と変わらないからね。学校側における認識としては普通の試験なんだけど生徒からすればその違いはあまり関係ない。
つまりこれもまた、しっかりとした戦略と対応が求められる試験なのだ。
「ちなみに他のクラスと狙いが被った場合は代表者によるクジ引きを行って決めることになるからしっかり話し合った上で決めてね。──そういう訳で期末試験における説明はおしまい! 後は南雲さんお願いね」
そして説明が終われば知恵ちゃん先生はいつも通り私にウインクした上で頼み込んでくる。それが意味するところは信頼だ。「私のためにもAクラスを勝たせてね!」といったところかな。
それを理解すると私は少し意地悪がしたくなって笑顔で知恵ちゃん先生に答える。
「あー、そうですね。でも今回の仕切りは私じゃないのでそっちにお願いしてくださーい」
「うんうん! 今回も南雲さんが……って、あれ? 今回は南雲さんじゃ……」
「え……そうなのか?」
私が軽い調子でそう言えば知恵ちゃん先生だけじゃなくクラスメイトからも困惑した反応が返ってくる。
まあここまでずっと私が導いてきたのだからそれも当然だろうね。私としても皆を勝たせてあげたいのは山々なんだけど……最終的な勝利のためにはこういう回り道も必要だ。
「今回の仕切りは──帆波ちゃんと隆二くん。2人に任せるからさ。皆も2人の言うことを聞くように! わかったー?」
「う、麗ちゃんは指揮を取らないの?」
「1人の生徒として出来ることはするけどクラスの方針を決めたり指示出しすることはないかなー。そこは2人にお願いしてるから。ね? 2人とも」
麻子ちゃんからの質問に答えて2人にそう確認するように尋ねると2人もまた頷いて立ち上がった。
「──うん。任された以上、全力でクラスのために頑張るから。みんなも……その、私じゃ不安かもしれないけどついてきてくれないかな?」
「そ、そんなの当たり前だよ!」
しっかりと意思を強くしながらもどこか不安さを隠し持っている帆波ちゃんの言葉に千尋ちゃんが咄嗟に声を大にして答える。他のクラスメイトも同様で、私が導かないという困惑はありつつも帆波ちゃんにもしっかりと信頼を置いているようだ。
そしてもう1人も同様だ。帆波ちゃんに続いて隆二くんが口を開く。
「俺も任された以上は全力でこのクラスを勝たせると誓う」
言葉数は短くともそこに込められた強さはきっと誰もが感じ取っただろう。二学期が明けてから特にギラギラした雰囲気を持つようになった隆二くんの変化を皆も感じ取ってる筈。皆もその思いを受け取って頷く。
私達Aクラスの結束力は他のどのクラスよりも強い──その強みがしっかりと表れていた。
少なくとも今この時まではね。
「早速だけどこのままクラス全体での話し合いを行いたいんだけど皆いいかな?」
「小テストのペア分けの法則と、クラスとしての方針について今のうちに決めておきたい」
「おう勿論いいぜ。皆もいいよな?」
「ええ、それは勿論構いませんが、クラスとしての方針というのはつまり、どのクラスを『攻撃』するか。ということかな?」
「そういうことだ」
私から仕切りを任された2人のサブリーダーが話し合いを提案すると颯くんや哲也くんから頷きが、哲也くんからは更に問いかけも返ってきた。隆二くんがそれに頷くとクラスメイトも理解が早い。どのクラスを狙うべきかという問題に取り組もうと頭を悩ませ始めた。
だがその問題にとっくに答えを出している2人はそれぞれ口に出す。互いにクラスを見渡しながら。
「一応、私なりの答えは出てるんだけど聞いてくれるかな。私は──Bクラスを狙うべきだと思う」
しっかりとした強い言葉でそう言い切れば帆波ちゃんを信頼する皆もその考えに理解を示そうとする。つまり、帆波ちゃんが言うくらいだからそれにメリットがあるのだろうという信頼を基にした同調。
「Bクラスかー……でもBクラスって頭めちゃくちゃいいよな? 大丈夫なのか?」
「学力についてはそれほど差はないと踏んでるよ。クラスポイントで差をつけるためにもここはBクラスと競った方が良いと思う」
颯くんの質問に帆波ちゃんが自分の考えを話す。
そしてその考えもまた正しいね。AクラスとBクラスのポイント差は現在500ポイント近くあるけどこの試験で勝てば更に差は離れて盤石に限りなく近いポイント差になる。
Bクラスのリーダーが有栖ちゃんであることを考えて今のうちに差を離しておきたいんだろうね。帆波ちゃんは。後は……そう。あのクラスとは戦いたくないって感じかな?
「なるほど。強敵ではあるけど今のうちに差を広げておきたいって考えだね。うん、良いと思うよ」
「私もいいと思います」
「確かにそれもアリかー……俺とかの学力じゃちょい不安だけど皆で頑張ればきっと勝てるよな」
そして帆波ちゃんの考えを皆もある程度は理解して賛同を集める。このまま対抗馬がいなければクラスは帆波ちゃんの意見でまとまってただろうね。
だが現実はそうはいかない。
「待ってほしい。俺の意見としては少し……いや、かなり違ってくる」
隆二くんがその流れを止めるように声を出せば、皆も耳を傾けた。私が2人に任せると言った以上、皆も今回のリーダーは帆波ちゃんと隆二くんの2人だと認識している。
だからこそ帆波ちゃんだけが発言力を持つ訳では当然ない。隆二くんの意見もまた、帆波ちゃんと並ぶものとして選択肢に挙げられる。
「違うって、神崎は別のクラスを狙うべきってことか?」
「ああ。俺としてはDクラスを狙うことを提案したい」
Dクラス、と聞いて皆もまた考え始める。私達Aクラスの認識として、Dクラスというのは、はっきり言ってしまえば脅威に値しない。敵としての意識が薄いクラスだ。
それもそのはず。Aクラスである私達とDクラスのポイント差は1000近く離れてるし、能力面においてもアベレージはこちらが圧倒的だ。
おまけにリーダーの並びとしても私に有栖ちゃんに龍園くんという強力なリーダーがいる3クラスと違ってDクラスは劣るという見方は強い。鈴音ちゃんにしても洋介くんにしてもね。私達に並ぶとは誰も思っていない。
ま、人の良いAクラスの生徒はそんなはっきりとしたことは言わないだろうけど、この僅かに弛緩した空気がそれを証明している。完全に舐めているのだ。だからこそ、良くも悪くもその意見は受け入れられる。
「確かに、学力で最も劣るDクラスであれば勝ちは拾いやすい。そういうことだね神崎くん」
「ああ。Dクラスであれば勝ちは容易いだろう。態々Bクラスを狙って苦戦する必要はないと俺は思う」
哲也くんの言葉に隆二くんが答えれば同調する呟きが幾つか耳に届く。学力で劣るDクラスを狙って確実にポイントを得る、というのは楽だし負けるリスクも殆どない。ポイントで他クラスに大きく水をあけるAクラスにしてみればBクラスを一々狙う必要もないというのも正解の一つ。葛城くんなんかが好みそうな選択肢だね。反対に帆波ちゃんの考えは有栖ちゃんが好みそうなそれだ。
もっとも、それぞれその選択を取った根底にあるものは全く異なるものなんだけどね。
とはいえ構図としては似たようなもの。隆二くんのDクラスを狙うべきという意見に帆波ちゃんは待ったをかける。
「でもDクラスだからといって確実に勝てるとは限らないよ神崎くん。Dクラスにも堀北さんや平田くんみたいな勉強が得意な人もいる。後は……高円寺くんみたいな読めない人も」
今、高円寺くんの名を上げたところで一瞬、綾小路くんのことが頭に過ぎったかな? ちょっとした間と交友関係から私はそれを推理してみせるも声には出さない。大人しくにこにこしながら2人の話し合いを見守ることにした。帆波ちゃんの言葉に今度は隆二くんが反論する。
「それは違う。確かにDクラスにも一部勉強が出来る生徒はいるだろう。だが今回のテストはあくまでクラスの総合点で競い合うものだ。平均点を競い合う勝負となればDクラス相手に負けることはほぼありえない。違うか一之瀬」
「違わないけどそれでもリスクを取ってでもBクラスを狙って差を広げるべきだと思う。それに……脅威的なクラスを狙って勝ちを拾うって意味ならDクラスよりもCクラスを狙うべきだよ。龍園くんとの差を広げられるチャンスでもあると思う。どうしてもBクラス狙いに同意出来ないならCクラス狙いにするってのはどうかな?」
隆二くんの反論に帆波ちゃんは理解を示しながらも自分の意見を通したい。それでいながら譲歩としてCクラスを狙う提案を持ってくる。うんうん、和を重んじる帆波ちゃんらしいね。
だけど多分、隆二くんとしては賛同できないかな? すぐに否定が返ってきた。
「Cクラスを相手にするにはリスクが大きい。龍園が相手となれば裏を取り合う勝負となるだろう。Dクラスよりも遥かに脅威的なクラスであることは疑う余地もないが……だとするならやはりその提案は賛同出来ない。ならDクラスを狙った方が楽に勝ちを拾える」
隆二くんは隆二くんで私からDクラスの不穏な動き……綾小路くんのことを聞いてるのもあって少し迷いはしたもののそれでもDクラスの方が勝ちやすいと踏んでるみたいだ。ま、それも当然だけどね。
しかしやはり帆波ちゃんは引き下がらない。
「神崎くんの意見もよくわかるよ。でも私としては強いクラスと早めに戦って差を広げておきたい。それも今後のリスクを避けることになるんじゃないかな」
「差を広げるなら少なくとも攻撃はDクラスを狙うべきだ。どのみちBかCが俺達を狙ってくる可能性も捨てきれない以上、Dクラスからポイントを奪っておけば防衛で負けた時の保険にもなる。勝てば差は大きくなるし負けても差は少なく済む。BとCが競い合うことになればCが勝つことでのBクラスのポイント減少も狙えるだろう」
「それも勿論否定しないけど可能性の話で言うならBクラスに勝てる可能性が高いクラスは私達Aクラスしかないよ。DやCクラスじゃさすがにテストでの勝負は分が悪いと思う。だからBクラスとの差を広げられる確実な選択肢はやっぱり私達がBクラスを狙うことだよ」
うーん、なるほどなるほど。ま、どっちも理解は出来るかな。
ただちょっと隆二くんに分があるかなって感じだ。確かにBクラスに勝てるクラスは学力的に私達くらいだろうけど別にそこまでしてBクラス落とす必要ある? っていう疑問もあるからね。Dクラス狙った方が確実に勝てるでしょっていう隆二くんの意見は安全策なだけあってあまり隙がない。
それに帆波ちゃんはDクラスを出来れば狙いたくないっていう感情的な部分があるからね。勿論それは上手く後付け理論武装してるけどそれでも感情的な部分が僅かな綻びになってるのも事実。なので理論としてちょっと弱くなってるのは否めないよね。
ただ……どうかな。クラス内での人望で言うなら帆波ちゃんの方が上だからね。このまま多数決になったらどうなるか。私は興味がある。人望としては帆波ちゃんが。意見としては隆二くんに分がある訳だけど……。
「なるほど……2人の意見はわかったよ。どうやら2人とも方針は異なるもので平行線になってきたし、それなら多数決を行うのはどうかな? それなら公平に決められる」
そして話し合いが平行線で行き詰まってきたところに哲也くんが間を取り持つようにそう提案してくれる。こちらをちらっと見てきたのは私の意図を量りかねているからだろう。やっぱり哲也くんは中々に思慮深いね。クラス全体のこともよく見てて気遣いも出来て頭も回るから中々に良い役割を持ってくれる。
もしかしたらこの対立が私の意図したものだって気づいてくれるかな? そうだったらいいけどね。成長してるってことだし。
「私はいいよ。皆がどっちを選ぶかも聞いておきたいかな」
「うん。神崎くんもそれでいいかな?」
「……わかった。それで構わない」
そうして私が考えを巡らせている間に多数決を行うことに帆波ちゃんも隆二くんも頷いてみせる。そのタイミングで私は立ち上がって前に立つことにした。
「それじゃ私が責任を持って見届けるよ。帆波ちゃんか隆二くん。名前を呼ぶからどっちの意見に賛同するかみんな挙手お願いねー」
「それは構いませんが……南雲さんは参加しないのかな?」
「私が抜けた方が半々にならずに済むでしょ? それに私がどっちかの方針に賛同しちゃったらそっちに人が流れちゃいそうだし公平性を重んじてね」
そう言えば哲也くんも皆も納得してくれる。後は多数決を行うのみだけど……さーて。どうなるか見ものだね。
「それじゃ行くよー。まず隆二くんの意見に賛成の人ー」
そう言って挙手の数を数える。その数を一瞬で確認して勝負の結果を悟りながらも私は一応続けて言葉にする。
「オッケー。それじゃ次は帆波ちゃんの意見に賛成の人ー」
そしてその挙手が終われば……結果が決まる。
少なくともクラスの方針としてどっちが採用されるかどうか。その答えが出た。
「あ、堀北さん。ちょっといいかな?」
「……一之瀬さん?」
それはある日の放課後。
期末試験におけるペアが決まり、更には対戦相手のクラスが決まった後。予定していた勉強会を行おうとしていた時のことだった。図書室に向かおうとDクラスに偶然通りがかったAクラスの生徒達。その1番前に立つ一之瀬さんに声を掛けられた。
「あなた達もこれから勉強?」
「うん。そっちもみたいだね。それで、ちょうど会ったついでに提案があるんだけどいいかな?」
「提案? それはもしかして勉強会のお誘いかしら」
一之瀬さんからの提案に私は頭の中で思いついていた予想を口にすれば一瞬、目を丸くする。
「よく分かったね。もしかしてそっちも同じこと考えてた?」
「そうね。
そう。私達の指名がCクラス。そしてCクラスの指名がDクラスで他のクラスと指名が被らなかった結果、AクラスやBクラスとは争わないことになった。
AやBに狙われれば厳しい勝負になると思っていただけにそうなったのはありがたいことね。そして、こんな風に勉強会で協力することも出来る。
ただ勿論デメリットもあるからそこには注意しないといけない。特に、Aクラスはあの南雲さんがリーダーを務めるクラス。一筋縄ではいかない戦略をまた打っている可能性がある。
「よかった。なら受けてもらえると思っていいのかな」
「……ええ、そうね。受けても構わないけれど……1つだけ出来れば聞かせてくれないかしら。この誘いは南雲さんの提案?」
私は気になって少し聞いてみる。勿論、答えてもらえない可能性の方が高いけれど少しでも何か聞ければいいとそう思って。
すると一之瀬さんは少しだけ苦笑いをした。
「あはは……やっぱり警戒しちゃうよね」
「答えづらいのなら答えなくても構わないわ。それでも勉強会の申し出は受けるつもりだから」
「答えづらい……訳じゃないんだけどね。えっと、答えさせてもらうと勉強会のお誘いは私の提案……というか今回は麗ちゃんは殆ど関わってないんだ」
「関わってない? それはどういう意味かしら」
気になることを聞いたら更に気になる答えが返ってきたのでそのまま尋ねる。
南雲さんは言わずもがなAクラスの絶対的なリーダーだ。それが関わってないというのはどういうことなのか。
その答えをあっさりと一之瀬さんは教えてくれた。
「今回の試験は私ともう1人、神崎くんの2人で仕切ることになったんだ」
「それは……」
試験の仕切りを一之瀬さんと神崎くん。2人のサブリーダー的存在に任せているという一之瀬さんの情報に私は言葉を迷わせる。
リーダーとしてクラスの仲間に試験の差配の一部を任せることは別におかしなことじゃない。学力テストであれば学力の高い生徒に。体育祭であれば運動神経の良い生徒……私達のクラスで言うなら須藤くんに体育祭のリーダー役をお願いしたようにその方がクラスが回ると思うならその判断も悪いことじゃない。
だけど南雲さんは学力も運動神経も学年トップクラスだ。一之瀬さんに神崎くんも当然Aクラスの参謀役を務めるだけあって優秀だけど、それでも南雲さんには劣る。戦略や方針も南雲さんが立てた方がクラスとしても動きやすい筈。
つまり……あえてそうした理由が必ずある筈。
もう南雲さんのやることを軽視したりはしない。彼女は相当なキレ者だ。彼女がDクラスを実は嵌めるために裏で手を回している可能性も考慮しなければならないし、もしそうだとしたら警戒してこちらも手を打つ必要がある。
とはいえ勉強会の誘いは一之瀬さんのもの。そこに南雲さんが参加したとしても出来ることは限られている筈。そこまで考えた上で私は声を出した。だから一之瀬さんは苦笑して答えることを躊躇したのだと。
「なるほどね。あなたが答えることを躊躇した理由が分かったわ」
「にゃはは……その、堀北さんは特に麗ちゃんのこと警戒してるみたいだからさ。これを言っても信じてもらえないどころか警戒させちゃうかもなーと思ってね」
気まずそうに笑いながら一之瀬さんは言う。どうやらこっちが警戒してるのはお見通しみたいね。
だがその南雲さんを弁護するように一之瀬さんは続ける。
「でも麗ちゃんが私達に仕切りを任せたのは本当だよ。麗ちゃんは約束を破る人じゃないからそこは信用してほしい。私としてもDクラスを陥れる気はない。約束するよ」
「……そう、ね。確かにあなたのことは信用出来るわ。そのあなたが言うなら南雲さんのことも信用出来るかもしれない」
この場はこう言っておくのが得策ね。一之瀬さんが信用出来ることも南雲さんを信用出来るかもしれないことも嘘じゃないけどそれでも警戒を緩める相手ではないことは明らかだ。
常にその可能性だけは頭に入れておく。その上で手を組むのならば南雲さんも一之瀬さんも頼りになる相手には違いない。
「ありがとう堀北さん。それじゃあ……」
「ええ。勉強会の提案、喜んで受けさせてもらうわ」
そうして安心した様子の一之瀬さんと握手を交わす。
これをDクラスが上のクラスに上がるためのきっかけにしてみせる。その決意を固めて、私は再度Aクラスと手を組むことにした。
ペーパーシャッフル編は5話か6話くらいで終わる予定。次回もお楽しみに。
感想、評価、良ければお待ちしてます。