その判断は森下にとって幾つかの分析の上で為されたものだった。
元AクラスであったBクラスの状況は決して良くはない。
坂柳派と葛城派の対立。
それによるクラス内の不和。
派閥争いによるクラスポイントの低下。
他クラスとの勝負の敗戦によるクラスポイントの低下。
退学者を出したこと。
各クラスのリーダーの能力とその比較。
自身の状況。
自身の興味。
それらの事柄を総合的に分析して判断を下した。
南雲麗から提案された2000万プライベートポイントを使ってのAクラスへの移籍。
それに乗っからない理由は特にないと判断した。
森下藍がAクラスへと移動した理由はただそれだけだ。
ペーパーシャッフルが行われることを生徒会役員として事前に知っていた私にとって、この試験はとても楽なものだった。
何しろ普通にやっても負ける可能性は低い上、負けた時のリスクもそれほどでもない。
おまけにデータが揃っている。過去に行われたペーパーシャッフルでの試験問題だけではない。
試験内容を理解した時に勝ち方も幾つか思いついた。
たとえば真っ当にクラスの学力を底上げし、他クラスからの妨害を完璧に封じて勝利する。
あるいは他のクラスから退学者を出して動揺させた上で総合点を下げて勝利する。
ペーパーシャッフルで勝利するクラスの勝ちパターンはそれほど多くはない。帆波ちゃんのように自クラスの総合点を上げて勝利する。隆二くんのように他クラスの総合点を下げて勝利する。
あるいは他クラスの問題文を入手するか、他クラスが提出した問題文を操作するか。これもまた強い勝ちパターンの1つ。
だけど私はもっと確実な勝ち方を思いついた。
「ペーパーシャッフルはクラスの総合点で勝負する。だったらクラスの人数を増やして総合点を増やしてしまえばいいよね」
「……だからそのために森下を引き入れたと?」
期末試験を終えた直後。私がそう説明してあげれば神崎くんはそう聞き返してくる。思いついてもまず実行しない──いや、そもそも思いつきもしない規格外の戦略。
だけどそれもしょうがない。学校側ですら想定していないものだからね。通例、1年2学期の期末試験として行われるペーパーシャッフルのこの時期にクラスの移動を行った生徒は今までに1人もいない。
そもそも1年時でのクラスを移籍するケースすらないのだ。それもそのはず。個人で2000万ポイントを貯めることは難しい上、仮にどうにかして貯めたとしてもこの時期にその権利を行使することはまずありえないこと。
だけど、だからこそルールの穴を突くことが出来る。
「藍ちゃんが私達のクラスに入ってくれたことで私達は藍ちゃんプラス架空のペアであるクラスの最低総合点の1人の計42名の総合点で争うことになる」
「確かにそれなら……絶対勝てちゃうよね」
「そういうこと。如何に元Aクラスの学力が高かろうが、40人対42人じゃどっちが勝つかは分かりきってるからね」
それに藍ちゃんがBクラスから抜けたことで向こうは最低総合点の2人分で穴埋めすることになり更に総合点が下がる。
そしてただでさえAクラスから陥落して退学者まで出して動揺しているBクラスから更に冷静さを奪うことが出来る。
「でも……そのために2000万もポイントを使ったんだよね?」
「まあそうだね。でもその価値にはこれから気づけるよ」
「それは森下がそれだけ優秀だということか?」
「勿論優秀ではあるけどそれよりもこのタイミングでやることに価値があるからね。……と、それじゃちょっと用事あるから行ってくるね」
「……もしかして呼び出されているのか?」
それくらいは少し考えれば誰でも分かることだ。隆二くんの指摘に私は頷く。
「うん。有栖ちゃんからね。私と藍ちゃんの2人だけで来てほしいってさ。そういう訳だからちょっと行ってくるねー。藍ちゃんは付いてきて」
「分かりました」
そうして私は藍ちゃんを伴って教室を出ていく。……帆波ちゃんはまだまだ言いたいことありそうだったけどね。クラスの了承を得ずに勝手にポイントを使ったこととか色々と。
だけどその感情も成長に必要なもの。私は親友に溜まりつつある不満を感じ取りながらも一旦それを頭の隅に追いやった。有栖ちゃんとのデートが待っている。
私は藍ちゃんを伴って指定された待ち合わせ場所、登下校する通学路や寮から少し離れた公園のベンチに向かう。
季節は冬。12月ということもあって中々に冷える。
「お待ちしてましたよ。麗さん。それと……森下さん」
そんな放課後の冬空の下に、有栖ちゃんはいた。ベンチから立ち上がり、こちらを正面から出迎える。
「あらら、待たせちゃったかな。大丈夫? 寒くない? ホットココアでも買う?」
「お気遣いなく。私が早めに到着してしまっただけですから」
「私はいります。ホットコーヒーください」
「あはは、おっけー」
有栖ちゃんにしか聞いてないのに後ろからそんなことを言ってきた藍ちゃんに笑ってコーヒーを買ってあげる。
そうして私と有栖ちゃんは対峙した。
「どちらも座らないのであれば座ってもよいでしょうか」
「ほんと藍ちゃんはマイペースでブレないねー。いいよ、座っても。有栖ちゃんもいいよね?」
「ええ、お好きにどうぞ」
「では許可を得たので遠慮なく座らせていただきます」
そう言って藍ちゃんは1人でベンチを占領するように真ん中に座るとコーヒーで一服し始める。……なんというかさすがだよね。前々から変な子だとは思ってたしそういうところも気に入ったから勧誘した訳だけどここまでマイペースだといっそ感動する。私がまだ後輩のアイドルの指導をやってた頃ならこのまんまの藍ちゃんを売り出してみたかもしれない。意外と人気が出そうでありだと思う。
なんて、そんな無駄なことを考えるのをやめて私は有栖ちゃんと向き合った。話すことは当然、この私が打った戦略についてのこと。
「それで、いつからです?」
「いつからとはどういう意味かな」
「森下さんに目をつけていたのはいつからでしょうか、という意味ですよ」
勿論そう聞かれてることは分かってるけど一旦はぐらかしてなんて言うのか確かめたくなっちゃうんだよね。私や有栖ちゃん、後は龍園くんとかにありがちな悪癖だ。それを自覚しながらも今度は素直に答える。
「4月くらいだったかな。各クラスの子との交友関係を広めている時に偶然見つけてね。とんでもない変人だと思って面白そうだなって」
「なるほど。それほど前なら気づくことは難しかったですね。ですが森下さんは麗さんが言うように変人だという噂もありましたし、麗さんの趣味をもう少し深掘りしておくべきでしたね。橋本くんのような分かりやすい普通の人ではなく森下さんのような変人が好みだとは」
「私が個性的だという自覚は確かにありますがあまり変人だ変人だと言われるのはちょっと不愉快ですので謝ってください。でないと許しません」
「ごめんね」
「ごめんなさい」
「許しました」
コントかな? シュールなやり取りに私はそれを自覚してしまうも特にツッコミを入れることなく話を続けた。
「これでまたAクラスの勝利だよ有栖ちゃん。そろそろ焦った方がいいんじゃない?」
「麗さんの言う通り、今回の試験はそちらの勝利でしょうね。ですがそのために払った代償も大きいのではありませんか? 率直に申し上げて森下さんに2000万もの価値はありませんし、無用な買い物だったかと」
藍ちゃんを目の前にしてはっきりとそんなことを告げる有栖ちゃんだが、藍ちゃんは特に気にした様子もなくコーヒーを飲んでいた。メンタルが強くていいことだ。
そして私の方は有栖ちゃんの疑問に答えることにする。
「そんな風に人を見下してる有栖ちゃんだからこそ、この手が1番だと思ったんだよね」
「……ほう。それは興味深いですね。是非ともご教授していただけませんか?」
有栖ちゃんは自身が楽しむため、私にネタバラシをしてほしいと興味深そうに尋ねてくる。その内心にダメージを負っている様子はない。今回の負けも負けだとは思っていないのだろう。
なので私はあえてそこに痛みを与えるために頷いて了承し口にした。
「うん。まあそもそもの話なんだけどさ。有栖ちゃんって人を見下せるほど優秀じゃないよね」
「それはそれは。中々面白い見解が聞けそうで楽しみです。その理由はどういったものでしょう?」
「だって有栖ちゃん運動出来ないし身体弱いじゃん」
私は端的に、あっさりとそう口にする。
それは有栖ちゃんを見た時に誰もが1番最初に思うことだ。
当然、それは有栖ちゃん自身が1番理解していること。
「なるほど。確かに身体を動かすことは得意ではありません。その点をもって私が優秀ではないというならそれは否定出来ませんね」
理解していることだからこそ有栖ちゃんもそれを余裕を持って認める。
だがだからといってその自信は一切揺らぎはしない。それを補って余りある能力を持っていると自負しているし、他者にもそれをもって考えを改めさせてきたからだ。
「ですが意外でしたね。麗さんが龍園くんのような思考をお持ちだとは。もう少し思慮深い人だと勝手ながら思ってました」
「さすがに龍園くんほど暴力が絶対だと思ってる訳じゃないよ。ただこれは純粋な事実。現実を口にしてるだけだね。身体にハンデを抱える有栖ちゃんはその点じゃ役立たずも良いところ。だから私にこうして負けることになる」
「どうやら私と麗さんでは勝敗に関する考えに隔たりがあるようですね。とはいえそれに異を唱えることは致しません。最後までお聞きしましょうか。私が敗北したとして、その原因は私の身体的な弱さが原因だと?」
「それも含めた有栖ちゃんの実力が原因だよね」
私はただただ純粋な評価を口にする。
勿論有栖ちゃんの頭の良さは誰もが認めるところで私もまたそれは理解している。今回の期末試験のような体力が関係しないテストであれば特に支障はないし、多少支障をきたすものであってもその頭脳を使って多少のハンデは乗り越えてみせるだろう。
だけどそれは相手が格下であればの話だ。
「たった今けなしちゃったけどさ。実際有栖ちゃんは優秀だしよくやってると思うよ。葛城くんを追い落としてAクラスを掌握した手腕はさすがだし、頭脳戦ともなると私も気が抜けないからね。チェスも上手だし可愛いし、個人的な感情としては好ましいと思ってる」
そう。ただそれだけであれば問題はない。身体的なハンデを負ってようがそれを覆すことは十分に可能だ。有栖ちゃんの実力であれば尚更。
だがそれは人事をつくし、全力を尽くしてこその話だ。
「でもさ。舐めプはいただけないよね舐めプは」
同格や格上相手に舐めプを繰り返すようじゃ不利になるのは当然。
私はそれを優しく教えてあげる。
「察するに手加減しているのが原因、ということでしょうか」
「そりゃそうだよ。特に最初の頃、有栖ちゃんめちゃくちゃ遊んでたよね。有栖ちゃんの実力ならもっと早くクラスを掌握出来ただろうしポイントを落とさずに戦うよう指示も出来たんじゃない?」
元Aクラスによる派閥争いのことを私は持ち出す。
あの争いがあったからこそ、私達元BクラスはAクラスに上がれたといっても過言ではない。もし派閥争いがなくて早々にクラスが1つになっていれば私も多少は苦戦したかもしれないし、今もまだAクラスになれていなかったかもしれない。
勿論私は私の実力に自信はあるが、それでも多少は戦略を変更していただろうしここまで上手く事は運べていなかっただろう。
それを上手く事が運べるようにお膳立てしてくれたのは、他ならぬ有栖ちゃんなのだ。
「さて、どうでしょうか。確かに出来るか出来ないかで言えば出来たかもしれませんね」
「そう。出来たかもしれない。でも有栖ちゃんはしなかった。無人島試験にも干支試験にも、おまけに体育祭にも満足に参加出来ない分際でね」
有栖ちゃんにとっては生まれ持った仕方のないことではあるが、私は非情にもそれを指摘する。
でも有栖ちゃんなら分かってた筈だ。参加出来ないならそれはそれで手の打ちようはあるだろうし、一時的でも葛城くんと手を組んでクラスポイントを守る道もあった筈だ。
だが葛城くんを失脚させるためにむしろ積極的に敗北するように仕向けた。その程度のポイント差なら簡単に巻き返せるとそう自信を持って。
「……なるほど。話が見えてきましたね。要するに、身体的なハンデを負っているのに手加減していた。だからこそ容赦なくそこを突いて勝利を収めた。麗さんが仰りたいのはそういうことですね」
「クラスの感情を無視してポイントを落としたことで結果的に有栖ちゃんのクラスはかなり落ち込んでたよね。夏休みだってのに全然楽しそうにしてなかったし」
「私は楽しんでましたし楽しかったです」
藍ちゃんの茶々は無視して私は有栖ちゃんにその後に起きた更に決定的なことを突きつける。
「そこに来ての司城くんの退学だよ。あれのおかげで有栖ちゃんのクラスは更に落ち込んだ」
「森下さんのマイペースさも羨ましいですが麗さんのそれも見習うべきですね。自分で仕掛けておきながら笑顔でそれが言えるのはよほど顔の皮が厚くないと出来ないことです」
「有栖ちゃんはあの時、司城くんを守ることも出来たのにそうしなかった。リスクヘッジとして1つの手であったことは認めるけどさ。司城くんの退学を阻止してから別の手を打つことだって出来た」
私ならそうする。
クラスから退学者を出すことは、少なくともあの状況じゃ良いことだとは言えない。今後クラスに不利益をもたらす爆弾だとしてもそれを安全に処置することも不可能ではないものだ。
それこそ有栖ちゃんが執着する彼ならスパイを利用する手を使うだろうね。
「だけど有栖ちゃんはそれは選ばなかった。なぜか。それは有栖ちゃんが、クラスメイトに価値を感じてないから」
「そんなことはありませんよ。クラスメイトのことは1人1人、的確に評価させて頂いているつもりです」
「言い方を変えようか。全員、替えが利く駒程度にしか思ってないよね?」
有栖ちゃんが重用している側近の鬼頭くんや橋本くん、神室ちゃんでさえ特別な価値を感じていない。
人として当然あるべきものがないのだ。それを欠陥、弱点と言わずしてなんと言うのか。
「だから誰がいなくなろうとどうだっていい。全部自分の力でどうにか出来ると思ってる。軽視している。おまけに身体が弱くて特定の試験には出てこない」
そして仮にその弱点があったとしても有栖ちゃんが健康体であればあるいはどうにか出来たかもしれない。
無人島試験に干支試験に参加していれば私や龍園くんと渡り合ってまた別の結果を導き出すことも出来たかもしれない。
ありえないもしもの話だ。現実の有栖ちゃんは身体が弱いのだから参加すら出来ない。その上で舐めプまでしてこちらに過剰なハンデを与えてくる。
有栖ちゃんが態々2つの弱点を晒してくれている。そんな状態で私が負ける訳がない。
「後はリードを守っているだけでいいんだよ。有栖ちゃんの弱点によって生じたハンデキャップを使って戦えば常に有利に事を運べるし勝つことも出来る。だからこのタイミングで藍ちゃんを引き抜いた」
「理解しました。だからこそ森下さんをこのタイミングで引き抜けたのですね」
そう。有栖ちゃんの言う通りだ。だからこそ引き抜けた。
そのことを藍ちゃんは認める。事前に私にも語っていたその理由を。
「南雲麗に坂柳有栖。2人の言う通りです。私は現在のクラスの状況に明確な疑問と危機感を持ちました。退学者を出してクラスの士気も低い。ポイントでも大きく差をつけられている上、リーダーの能力においても総合的に南雲麗の方が優秀。分が悪い勝負になることは明白です」
藍ちゃんは高い分析力とその集めた情報から答えを推測出来るだけの能力を持ってる。
だからこそ今のBクラスの状況を客観的に見て判断し、勝ちの目が低いと見るやあっさりと私の提案に乗ってきた。
「だからAクラスへ移動したんですね。その判断を責めるつもりはありませんが……些か早計だったのでは?」
「2000万ものポイントを使っての他クラスへの移籍が出来る機会はそうないだろうと判断したまでです。特にクラスに親しい友人もいませんでしたし、早い段階で移動した方が後腐れもありません」
有栖ちゃんの問いかけにも藍ちゃんは平然と動じることなく答える。
だがその藍ちゃんは一度立ち上がってみせると言葉の後で腰を折った。
「ですが今まで、少なからず静かな日々を過ごさせて頂いたことには感謝してます。坂柳有栖、今までありがとうございました」
「──残念です。もっと早く、こんな面白い人だと気づいていれば私も引き止めるために努力していたかもしれませんね」
「そう口では言うけど実際にはしないんだよね、有栖ちゃんは」
「そんなことはないですよ」
私がそう言うと有栖ちゃんは否定してくるが、その表情の方は否定していない。本当に、心からクラスメイトの損失を惜しく感じるならもっと早く私の打つ手を止められた筈。
「ここまで言えば有栖ちゃんにはもう分かるよね? Bクラスにはもう後がない。黄色信号……いや、もう赤信号かな?」
退学者を出した上で敗北が続いてクラスポイントを大きく減少させた。
その上でAクラスへの移籍を成功させた生徒が出ればどうなるか。
まず間違いなくBクラスの生徒達は不満やストレスを抱えて焦り出す。有栖ちゃんの言うことも聞かずに勝手に動き出す生徒も出始めるだろう。
あるいは葛城派の復権もあるかもしれないし、また新たな生徒が立つかもしれない。橋本くんのように怪しい動きをする生徒も1人や2人じゃなくなるかもしれない。
藍ちゃんに続こうと私に媚びてくる生徒だって出てくるかもしれない。
Bクラスを徹底的に破壊するトリガーを私は引いたのだ。
「……そうですね。多少の面倒が起こることは避けられません」
「その余裕がいつまで持つか見ものだよ有栖ちゃん」
泣き顔の1つでも出来れば見たかったところだけどさすがにそこまで甘くはないよね。
あるいはここで有栖ちゃんが自らの敗北を心から認めて成長するようなことがあればまたそれはそれで面白くはなっただろうが、そうはなってないしまだもう少しは有栖ちゃんの強がりを楽しめるかもしれない。
「ひとつ認識を改めます。麗さん、貴方は私にとって龍園くんとさして変わらないレベルの遊び相手だと思っていました」
「まーたそれかー。私の評価を改めてくれるのはいいけど自分のことを省みることも大事だよ?」
「ですから認識を改めるとそう言いました」
……本当にプライドが高いねー有栖ちゃんは。
私も人のことはあんまり言えないけど有栖ちゃん程ではない。私は『完璧』であるためなら失敗や敗北すらも利用する。
そこが私と有栖ちゃんの違いだ。
「楽しみにしていてください。麗さんが私を少なからず驚かせたように、私も麗さんのことを驚かせてみせましょう」
「あはは、おっけー。楽しみにしてるねー。あ、せっかくだし送っていこうか」
「不要です。今日は1人で帰りたい気分ですから。──それではまた」
有栖ちゃんは以前よりも更に好戦的な笑みを浮かべて優雅に宣戦布告するとその場からゆっくりと立ち去っていく。
全く効いてないと思ってたけど、どうやら多少は効いてるみたいだね。
やられたらやりかえす。それもまたプライドからくるものであり、有栖ちゃんの楽しみでもあるのだろう。私を地につけるために面白い手を打ってくる可能性がまた増えたね。
「坂柳有栖はあまり動揺していないようですね」
「有栖ちゃんは、ね。Bクラスの生徒の方はかなり精神的にキテると思うよ」
葛城くんに続いて有栖ちゃんまで敗北した。
その事実にBクラスの生徒はどこまで耐えられるか。
「それでは今後もBクラスを徹底的に狙うつもりで?」
「うーん……ま、狙わないってことはないけどどうしようかな。私としてはそろそろDクラスにもまたちょっかいかけたいんだよね」
「Dクラスですか。それは一体いかなる理由があってのことなのか、聞かせてもらってもいいですか?」
興味が湧かなければ自分から動いたりしない藍ちゃんだからこそ、それを聞いてくるということは藍ちゃんもDクラスに興味を持っているのだろう。
あるいは興味を持っている私が興味を持つDクラスに興味を持っているか。
ややこしいことこの上ないが、根は悪い子じゃないので後で少なからず情報を開示してあげることにしよう。これから先、藍ちゃんが動くことでAクラスに新たな風を吹き込んでくれるかもしれない。
「それを教える前にまずは打ち上げかな」
「打ち上げとは?」
「期末試験のお疲れ様会。もう店も予約して皆集まってるみたいだからね。当然、藍ちゃんにも参加してもらうよー」
とりあえず今は新しいクラスの仲間を歓迎してあげよう。そのために私は藍ちゃんを連れて予約していた店へと向かおうとした。
「すみませんが今日は見たいテレビがあるので遠慮させてください」
──少し新しすぎるかもしれないな?
空気を読まずに断ってくる藍ちゃんに私は動じることなく言葉を返した。
「そっか。それなら仕方ないね。ちなみに何ていう番組?」
「番組ではなくテレビを見に行くと言った筈ですが。新製品のテレビでも見に行きます」
「……部屋にテレビないの?」
「ありますよ」
「……じゃあなんでテレビ見に行くの? 買い替えかな?」
「見たいテレビがあると言いましたが別にテレビを見に行くことが目的じゃありません」
あっはっは。ちょっと何言ってるかよく分からないなー。
4月に知り合ったとはいえそれ以降はチャットか電話でしか話したことがないからこうして直接顔を合わせて話すと中々に変人さが増したように感じる。
だが私は変人相手でも上手くコミュニケーションを取ることが出来るからね。なので問題はない。
「なるほどね。それじゃ私もついて行っていい?」
「冗談です。私がこれから行くのは新たなクラスの打ち上げなのでついて来てもどこで集まっているか分からない以上、迷子になるのがオチでしょうね」
「──ふざけてるの?」
「冗談だと言いましたので、はい」
いや、はいじゃないが。
別に本気でイラッとした訳じゃないがあまりの変人ぶりにこっちもバラエティ番組モードになって言い返してしまった。優秀で面白い藍ちゃんだがいつもこうだと私にも変なスイッチが入って普段のコミュニケーションに支障が出そうだね。そこは気をつけないと。
「それじゃ打ち上げ行こっか」
「はい。それにしても切り替えが早いですね南雲麗」
「あっはっは。おまえが言うなー」
どこまでもマイペースな藍ちゃんを連れて予約していた店へと集まる。
Aクラスにまた新たな仲間が増えたことで私の戦略は着々と進んでいる。
「いつ仕掛けるかは悩みどころだけど……そろそろ戦えそうだね」
私は内心で、今回もあまり関わらなかった彼のことを思い浮かべる。
クラスを一度安全圏まで押し上げ、有栖ちゃんにも土をつけた。
そろそろ綾小路くん……次は彼を『理解』する番かもね。
これでペーパーシャッフル編は終了。次回は龍園くんと愉快な仲間たちwith麗ちゃんです。お楽しみに。
クラスポイント推移(ペーパーシャッフル終了時)
南雲クラス(Aクラス):1320
坂柳クラス(Bクラス):624
龍園クラス(Cクラス):342
堀北クラス(Dクラス):254
感想、評価、良ければよろしくお願いします。