ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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冬休み編
冬もアイドルは遊びに仕事と忙しい


 

 冬休みも私にとっては忙しい時期だ。

 アイドル時代は当然、この時期は毎日のように仕事。クリスマスにライブをすることも珍しくもないし、様々なイベントにも出演していた。大晦日に行われる紅白なんかにも出演していたし、正月は正月で特番があったりして忙しかったりする。

 とはいえ生放送を乗り越えれば後は休みであったりしたわけだが、それでも忙しい時期であったことには変わりない。

 それはアイドル活動を休止した今でも同じ。人気者である私は毎日のように予定が入っている。冬休み初日である今日、12月23日でもそれは例外ではなかった。

 

「里中くんは意外と奥手だからね。結構ぐいぐいいってもいいかもねー」

 

「プレゼントにするならこっちの栞とかブックカバーとかがいいかもね。先輩は確か読書好きだったはずだし」

 

「帆波ちゃんは……もう少し時間を置いてじっくり攻めた方がいいんじゃないかな。千尋ちゃん的にもまたフラれたりしたら嫌でしょ?」

 

「もうちょっと大人っぽいコーデの方がニノちゃんには似合うかもね。こっちのコートに差し色で赤のマフラーか手袋辺りかな。ちょっと試着してみようか」

 

 私は沢山の友達の相談に乗って上げていた。

 そう、冬休みの12月23日と言えば、明日にクリスマスイブ。明後日にクリスマスを控える重要な日だ。

 戦の勝敗は戦う前から決している──とまでは言わないが、恋愛絡みで勝負をかけるにあたって事前準備が重要であることは言うまでもないこと。服装から当日の予定。誘う相手の趣味や好き嫌いに至るまで、やるべきことは無数にある。

 しかし全てが恋愛絡みというわけでもないし、普通におしゃれのアドバイスなんかも頼まれつつ友達との時間を私は過ごしていた。大体1時間から2時間刻みでだ。私に相談したいという子が結構沢山いたのでそれに応えるためにはスケジュール調整も止むなきこと。

 冬休みが始まる前から相談は受けていたのだが、それでもまだ予定が山積みな辺り私が如何に人気者かが分かるってものだろう。

 とはいえその相談事も時刻が3時を過ぎる頃には大体終わり、後は普通に友達と遊ぶ時間になっていた。今日のメンバーはAクラスのいつもの仲良しグループ。帆波ちゃんに麻子ちゃん。千尋ちゃんに夢ちゃんだ。

 このグループは特に誰かが好きということもなければ進展もない(千尋ちゃんだけは別だけど)のでクリスマスイブを明日に控えていても割と余裕だった。

 

「んー……ホットココアが染みる~」

 

「あはは、麗ちゃん。朝から大変だったみたいだね」

 

「ちょっと見かけたよ。結構色んな人の相談受けてたみたいだね」

 

 私達はウィンドウショッピングの休憩がてらモール内にあるカフェで一息ついていた。ホットココアを飲みながら疲れを見せている私に帆波ちゃんと夢ちゃんが労ってくれる。

 ちなみに目撃されているのは朝からこの辺りにずっといるから無理ないことだ。逆に目立っていて堂々と行動しているからこそやましいことがないように見えるため都合も良い。

 そんな私に麻子ちゃんが何気なく聞いてくる。

 

「やっぱりそれって……恋愛相談もあったりしたり?」

 

「あー、うん。なくはなかったよ。誰がとは言えないけどねー」

 

 相談事を受けた人間として簡単に相談内容を漏らすようでは私の信頼、ブランドが下がっちゃうからね。曖昧に答えておく。まあ詳しい内容を聞き出すつもりもないだろうけどね。

 

「うん、それは勿論聞かないんだけどさ……やっぱり麗ちゃんってそういう部分でも頼れるんだねって思ってね」

 

「麻子ちゃん、もしかして好きな人でも出来たりした?」

 

「あはは、それは……まだ出来てないかな」

 

 急にそんなことを尋ねてきたのでもしかして好きな人でも出来たのかと思ったけどこの反応を見る限りそうじゃないらしい。まあどっちにしろ麻子ちゃんのことが好きなクラスメイトの渡辺くんにはチャンスはなさそうだけどね。何か大きなきっかけでもないと無理そうだ。

 しかしとなると麻子ちゃんが聞きたいのは……。

 

「じゃあ私の恋愛遍歴でも聞きたいとかかな?」

 

「え、いやー……それは……その……」

 

 図星だったのだろう。私がいきなり言い当ててあげれば誤魔化すように視線を逸しながらも観念した。

 

「……ごめんなさい。ちょっと興味が湧いてきちゃって……」

 

「ん? どうして謝るの?」

 

「それは……なんか聞いちゃいけない質問だったかなって」

 

 苦笑いをしながらそう答える麻子ちゃんに私はそれを笑い飛ばしてあげることにする。こうしてそういった私が隠してることを聞きづらい空気があるのは良いことだが、かといってそれが行き過ぎるのもよくない。友達付き合いにシリアスな雰囲気は必要ないのだ。

 

「あはは! それくらい別にいいのにー。そりゃ気になるよねー」

 

「え、ってことは……」

 

「う、麗ちゃんって誰かと付き合ったことがあるんですか……?」

 

 と、麻子ちゃんの言葉を引き継ぐように尋ねてきたのは千尋ちゃんだ。この中で唯一好きな人がいる(といっても女の子だしおまけに帆波ちゃん)千尋ちゃんは実のところこういう話題が大好きな恋愛百合少女だ。

 だからこそ興味津々なのだろう。皆に隠れて行った相談の時にも聞いてこなかった質問を直球で尋ねてくる。うん、これは期待に応えてあげないとね。私は目を細めて意味深な笑顔を見せる。

 

「さて、どうかなー?」

 

「その感じ、めちゃくちゃ気になるんですけど……!」

 

「や、やっぱり誰かと付き合ったことあるんですか?」

 

「しかもこの感じだともしかしてアイドル時代に……?」

 

 私が意味深に答えれば夢ちゃんが身体を少し乗り出し、千尋ちゃんが顔を近づけてきたし、麻子ちゃんも邪推し始めた。うーん、やっぱり皆こういう話題が大好きだよね。恋愛話というだけでなくゴシップでもあるものだから無理もないけど。

 そういうわけで私がなんと答えてあげようか考えていると帆波ちゃんは軽く、皆を諫めるように言う。

 

「ちょ、ちょっと皆? その話題はこんな人も多い場所で話すには……」

 

「それはそうだけどさー」

 

「帆波ちゃんは気にならない? 麗ちゃんのそういう話」

 

 私のことを慮ってくれたのか、それを止めようとする帆波ちゃんだが夢ちゃんと麻子ちゃんにそう言われると否定することは出来ない。

 

「そりゃ気にはなるけど……」

 

「あはは。帆波ちゃんもやっぱ気になるんだー? じゃあその疑問にお答えしちゃおっかなー」

 

「え……ま、マジ?」

 

 私が軽くそう言えば、周囲に座っていた生徒が聞き耳を立てる気配を感じる。私はすごく目立つからね。そうなるのも無理ないことだ。

 だけどそういった場所だからこそ、私はこう答える。

 

「中学の3年間。私にも恋人がいたんだけどね──ファンのみんなっていう恋人がさ」

 

 笑顔でそう答えてあげれば周囲の空気が弛緩する。そして麻子ちゃん達も気が抜けたように表情を変えた。

 

「結局答える気ないやつじゃん!」

 

「え~ここまで引っ張っておいてそれ~?」

 

「でもやっぱり秘密にするってことはなんかすごい相手……同じグループの女の子と付き合ってたりとか……?」

 

「あはは……なんというか、麗ちゃんらしいね」

 

 やいやいと私を中心に盛り上がるみんな。

 そんな中、苦笑いを浮かべた帆波ちゃんに私は水を向けることにした。

 

「そういうわけで私は恋愛経験豊富なわけだけど……そんな私から見たところ、帆波ちゃんには最近ラブの気配がするんだけどなぁ」

 

「へ……わ、私?」

 

 私がそう言えば帆波ちゃんは目を丸くする。

 そしてみんなも同調してきた。

 

「分かる。帆波ちゃん、最近男子と仲良いよね~」

 

「麗ちゃんのお兄さんとかよく一緒にいるところ見るし……後はDクラスの綾小路くんだっけ? とも仲良いよね」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

「それは……別にそんなことないって。それよりほら、もうすぐ映画始まるよ」

 

「あ、誤魔化した」

 

 話の流れが帆波ちゃんに向いたのを察して帆波ちゃんはもうすぐ始まる映画に向かうように皆を促そうとする。この感じは雅兄の方はともかく、綾小路くんの方は……中々に怪しいね。綾小路くんの名前を出した時にちょっと動揺した気配がするし。

 まあその辺りは考慮の内とはいえこの変化も記憶しておかないとね。席を立った帆波ちゃんに合わせ、私も席を立てば皆も付いてくる。

 カフェを出て次に向かうは映画館だ。なんだかんだ世間と同じで毎月のように新作が何本も出てるから私も結構な頻度でお世話になっている。アイドルとして世間のトレンドは押さえておかないとね。流行りの映画、本、漫画、ドラマ、おしゃれ、趣味は必ずチェックしている。興味の幅が広く、趣味も多い私にとっては苦にはならない。時間だけが最大の敵というだけだ。

 なので今日の予定は後映画を見て感想会しながら皆でご飯を食べて、その後は軽くカラオケにでも行って……って感じで特に不穏なイベントの予定はなかったんだけどね。

 モールの外れにとある人物を見かけてしまったのだからなんともタイミングが良いのか悪いのか。

 

「ごめん。ちょっと忘れ物したから先行っといて」

 

「あ、うん。ならドリンクとポップコーン注文しておこうか? 麗ちゃん食べるよね?」

 

「ありがと。いつものでおねがーい」

 

「オッケー。キャラメルポップコーンとコーラだったよね」

 

「毎度のことながらカロリーの暴力だね……」

 

「なのにあのスタイルなんだからほんとずるい……」

 

 私は皆に先に行くように声を掛けて少し離れる。ちなみにお花摘みと言わないのは付いてくる可能性があるから。

 去り際に私が映画に行く際に必ず注文するものを帆波ちゃんが気を利かせて先に注文すると言ってくれる。麻子ちゃんや夢ちゃんが私の頼むもののカロリーが気になるのかひそひそと羨むことを口にしていたが、私としてはしっかりと他のところで頑張っていれば映画の時に砂糖を取りまくっても問題ないと力説したい。運動をしっかりしてカロリーを消費しつつ普段の食事に気を使っていれば十分健康になれるしスタイルも維持出来る。

 そんなことを考えながらも私は人気のないモールの外れに向かっていく人物の背中を追いかけた。

 そしてその人物にはすぐに追いつく。向こうも追いかけてくるこっちに気づいたのだろう。こちらに振り返るとその鋭い視線でこちらを睨んできた。

 

「俺に何の用だ」

 

「見かけたからせっかくだし声を掛けておこうと思ってね。調子はどう? 龍園くん」

 

 その相手は龍園くん。Cクラス──いや、1月からDクラスになるクラスのリーダーだった生徒だ。

 リーダーだった、というのは周囲の噂から聞こえてくる情報であり、私自身はそう思っていない。正しい情報を握っているからこそ。

 

「良いように見えるか?」

 

「まあ良くはなさそうだよね。怪我してるわけだし」

 

「だったら無駄なことを一々聞いてくるんじゃねえよ」

 

 無駄なことと龍園くんは言う。

 それが意味するところは、向こうも私が知っていることに気づいているということだ。だからこうして確かめに来るやり取りも必要ないだろと。

 でも生憎と私にとっては必要なことなんだよね。

 

「こっ酷くやられたみたいだねー。まさか龍園くんがここまでやられるなんて私としても意外だったよ」

 

「おまえはいつから気づいてやがった」

 

「ん? 綾小路くんのこと? それなら5月くらいかな。私の立てた作戦を見事に防いでくれたからね」

 

「そんなところだろうな」

 

 私に聞いておきながらも龍園くんの中では既に結論が出ていたのだろう。この学校に入学してから1番最初に私が仕掛けた中間試験の偽の過去問の戦略には少なからず龍園くんも関わっている。

 今まで龍園くんや私の立てた戦略を読んできた相手が綾小路くんだと知った今となっては、それも全く不思議ではない。綾小路くんならそれくらいやるだろうという確信を龍園くんは持っている。

 そして私にこうも簡単に口にする辺り、私相手への情報の開示は封じられていない、か。既にバレていると知ってか寛容だね。私が先日の屋上でのことをバラしたらどうするつもりなのか。そのことが気になって私は問いかける。

 

「石崎くんたちに負けたことになったんだっけ。そんなのみんな信じるかなぁ」

 

「おまえがわざと言いふらしたりしなけりゃどうにでもなる話だ」

 

「問題はそこだよねー。私としてはどっちでも──」

 

 いいんだけど、と言おうとしたところで私の顔に雪が飛んでくる。

 それは龍園くんの目眩ましであり初動だ。私がそれを防いで僅かに怯んでる間に肉薄して拳を振るってくる。

 あーもう! 今日はこんなことするつもりじゃなかったのに! 

 私は腹に向かって繰り出される龍園くんの拳を事前の予備動作から予測して防ぐ。痛いからやめてほしい。その次に繰り出される身体への蹴りも後ろに下がって何とか躱す。汚れるからやめてほしい。

 

「あのさぁ……この後私映画なんですけどー!?」

 

「クク。やっぱりおまえも腕に覚えがあるみたいだな麗」

 

 私の抗議を無視して凶暴な笑みを見せる龍園くん。さっきまで全然そんな素振り見せてなかったから油断した。おかげでちょっぴり痛かったし服も雪がかかってちょっと汚れた。まだ完全に降り積もってる訳じゃないからちょっと土が混じってて汚い。

 

「だが綾小路ほどじゃない」

 

「それで何を言うかと思えば……別にそんなこと分かってるし、私は龍園くんたちと違って世界最強の座を目指してるわけでもないから綾小路くんに負けててもなんとも思わないよ?」

 

「暴力だけの話じゃないんだよ。おまえなら暴力だろうと何だろうと地面に這いずらせることは不可能じゃない」

 

「やってもないのによく言えるねー。やってから言ってくれない?」

 

「だったらこのまま大暴れしてやろうか?」

 

「それはやだなぁ……ということで謝るからまた今度にしてくださーい」

 

 さすがにここで仕掛けられるのは色々困る。龍園くんと一対一なんて勝つにしても負けるにしても面倒だし、こんな誰に見られるか分からない場所でやりたくもない。しかもこの後は映画だし色々予定もある。おまけに買ったばかりの私服をこれ以上汚されたくもない。

 

「それで結局、龍園くんは私が負けるって言いたいわけ?」

 

「さぁて、な。おまえ自身はどう思うんだ麗。綾小路の実力を理解しながら、綾小路に勝てると思ってるのか?」

 

「勝てるに決まってるじゃん。私を誰だと思ってるの?」

 

 龍園くんのはぐらかしつつこちらに質問を投げ返す言葉に私は即答する。そう、負けるわけがない。

 たとえ綾小路くんが、あの龍園くんに恐怖を与えた人間であったとしてもそれで勝敗が決するわけじゃない。それはあくまで綾小路くんと龍園くんの戦いの結果であって私には関係のないこと。

 綾小路くんの実力の上限が引き上がったことは確かだが、それでも勝機は十分にある。

 

「そうかよ。だったら精々挑んでみるんだな。俺はおまえが無様にやられる姿を高みから見物させてもらうぜ」

 

「私は負けないけどねー。それよりも、そういう龍園くんはリベンジしたりしないのかな」

 

「それはおまえにか? それとも綾小路にか?」

 

「どっちもだよ。クラスのリーダーとして戦うつもりはもうないの?」

 

 龍園くんの意思を確かめるつもりでそう問いかければ、龍園くんは淀みなく答えた。

 

「興味ねぇな」

 

「本当に? だったら、私がCクラスを貰っても問題ないんだよね?」

 

「好きにしろよ。だが、おまえが俺にちょっかいをかけてくるならその時はおまえを殺ってやる。どんな手を使ってもな」

 

 どうやら龍園くんはクラス同士の争いから手を引くつもりらしい。

 といってもそれを信用出来るかどうかは微妙なところだ。龍園くんの意思は固いように見えるが、それが今後変化してくる可能性は捨てきれないため鵜呑みにするのはよくないね。なにせ昨日の今日だ。また明日になったら綾小路くんも私もぶっ殺すって意気込んでいてもおかしくはない。

 その証拠に、Cクラスに手を出すことは認めても自分に喧嘩を売ってくるなら買うと宣言されてしまったし。牙は全然折れてないみたいね。

 

「ふーん、そっか。それじゃしばらく寂しくなるね。ま、でも気が向いたらまた遊んでもらおうかな。とりあえず明日とか暇だったりしない?」

 

「明日に俺を誘うとは良い度胸だな。おまえはデカいが見た目が良いからな。そっちの勝負なら歓迎してやるよ。その気なら夜に俺の部屋を訪ねてこい」

 

「普通に遊びに誘っただけでその返しとはさすが龍園くんだね」

 

 どうやら龍園くんは巨乳は趣味じゃないらしいが、私が相手なら許容してやるというとんでもない上から目線のセクハラ発言をされてしまった。困ったものだが……それでこそ龍園くんとも言えるし、目くじらは立てないでいてあげよう。

 

「潔い龍園くんに免じてしばらく綾小路くんとのことは黙っていてあげるよ。私にとっても都合良いしね」

 

「そうしろ」

 

 そして私達はどちらともなく歩き出して別れる。話は終わりだ。龍園くんは一線を退いたし、私は私で綾小路くんに挑むという宣言をした。

 出来ることなら龍園くんにはまだまだ戦ってもらいたかったんだけどね。そうして私の糧になってほしかったけど、そうならないなら仕方がない。しばらくはさよなら。龍園くん。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで龍園くんと別れ、帆波ちゃんたちと合流して映画を見てご飯を食べた後はカラオケを楽しんで解散した。冬休み初日ということもあって結構盛り上がったね。

 だけど私の1日はまだ終わってない。夜とはいえまだ8時前なら健全な青少年として許容範囲だろう。中にはオールとかする生徒もいるくらいなのだからこのくらいの時間ならまだまだ可愛い。

 そんなわけで私はカラオケBOXで1人、人を待つことにした。

 チャットで連絡を貰っていたのでその人物に場所を指定して呼び出すこと20分程。カラオケBOXに店員ではない、1人の生徒が姿を現した。

 

「やっほー。哲也くん。冬休み、楽しんでる?」

 

「こんばんは南雲さん。外は冷えるね」

 

 そうしてやってきたのは私たちAクラスに所属する頼れる男子、浜口哲也くんだ。

 相変わらず物腰が柔らかく私と2人きりになるというのに下心1つ感じさせないという男を感じさせない男っぷりはさすがだ。外は結構寒かったのだろう。座って一息ついた哲也くんを私は労うことにする。

 

「それじゃ報告の前に温かい飲み物でも飲む? あ、それとも景気づけに何かアゲアゲな曲でも歌ってあげよっか。何かリクエストある?」

 

「はは、今は大丈夫だよ。南雲さんの歌は元気が出るけど沢山歌って南雲さんも疲れてるだろうしね」

 

 机の上に置いてある複数の空のコップを見て、さっきまでこの場所に帆波ちゃんたちと一緒にいたことを察した哲也くんが私を気遣って遠慮する。その際に私の褒め言葉もセットにする辺り、本当に気が利くね。性格的にはかなりイケメン度高い。顔の方は中性的で私的には若干評価に困るんだけども。

 とはいえ悪い気は当然しないため私は笑顔で応対する。

 

「そう? それじゃ歌は一旦休憩で、最近のクラスの様子でも軽く聞こうかな。何か気づいたことはある?」

 

 私がそう尋ねれば、哲也くんは特に動じることなくいつも通り穏やかに答えてくれた。

 

「うん、そうだね。今のところ──クラスの雰囲気は極めて良好かな」

 

「ちょっとの不満もない?」

 

「僕が見たところ、なくはないけどそれ以上に満足してる印象だね。Aクラスのクラスポイントは現時点で1320ポイント。対するBクラスは624ポイントでその差は倍以上。それ以下のクラスと比べても大きく水をあけているし、みんな南雲さんのおかげだって南雲さんのいないところでも口にしてるくらいだね」

 

 私は哲也くんからの報告──クラスの内情についての報告を聞く。

 これは前々から哲也くんに任せていることだ。クラスの中で、何か不和の兆候や気づいたことがあれば報告してほしいと。

 まあ私が大抵のことは気づけるとはいえそれでも万が一がある。そこで私が見過ごす可能性も一応鑑みて哲也くんを使うことにした。

 というのも哲也くんが結構使えるのだ。協調性があって周りを見る能力も高いし、洞察力もそれなりにある。頭も結構良くて頼りなる存在ということもあって、陰ながらクラスに貢献している生徒の1人。

 帆波ちゃんに隆二くんが参謀。クラスのNo.2だとすれば哲也くんはNo.3のポジションかな。その他大勢の生徒をまとめてくれる役割を担っている。

 側近をしてくれてるけど集団行動が苦手なユキちゃんや能力が高いけど最近入ったばかりの藍ちゃん。後は頼りになるっちゃなるけど脳筋気味で真っ直ぐすぎる颯くんよりも全体的な能力のバランスが良くて困った時に使える万能内政官だ。

 おまけに私のやり方にも理解を示してくれているしね。使わない理由がない。

 

「それは良いことだね。プライベートポイントのことでも不満はない?」

 

「それについてもクラスポイントが増えたことで収入は増えたし、冬休みに入ってからのボーナスとして1万ポイントを配ったこともあって特に不満は出てないよ」

 

 その哲也くんによると、私が見てないところでも特に不満は出ていないらしい。

 なぜプライベートポイントに関する不満を聞くかと言うと、私たちのクラスの戦略の根幹にあるポイント徴収制度が関係している。

 入学当初、クラスの収入の半分のプライベートポイントを私の懐に収めることにした私達のクラスだけど、現在では私が成果を出してクラスポイントも増えるのに合わせてその比率を引き上げている。

 夏休み頃には収入の70%を私に収めている上、私が必要と判断した事柄については運用について一々クラスの了解も取らずとも良いことになっていた。

 つまるところほぼ私が私物化しているわけなので、不満が出てもおかしくないのだがその辺りはさすが私と言うべきか、クラスを勝たせることと私への信頼もあって特に不満は出ていない。私から見てもそうなのだが、哲也くんの方から見てもそうなら問題はないらしい。

 だけどそれでも0というわけではないだろうけどね。その証拠に哲也くんは言う。

 

「ただ、森下さんを引き抜いた時は若干だけど疑問の声も聞こえたかな」

 

「それは前にも聞いたけど今はなくなったでしょ? ちゃんと納得させてあげたし」

 

「2000万ポイントを払ってでもやる価値がある。そのことはみんな勿論理解しているとは思うよ。それをしなくても勝てたんじゃないかって意見もあったけど今では森下さんのことも受け入れているし、納得もしていると思う」

 

 やっぱり、多少気になるポイントがあるとすればそこだよね。

 私の独断で2000万ポイントを使って藍ちゃんの引き抜きを実行したことは、少しだけクラスをざわつかせた。

 とはいえ私がその利点を説明してあげればみんな納得したわけだけど、その不満がくすぶっている可能性もあったからね。一応哲也くんには気にしてもらっていた。

 まあ私が最初に気づいてるんだけどね。不満を覚えてるのは誰なのか。

 

「その意見を誰が言ってたのか当ててあげようか。麻子ちゃんでしょ」

 

「それは……南雲さんは気づいてたのかい?」

 

「仲の良い友達のことならそりゃあね。麻子ちゃんは友達想いだから帆波ちゃんのことを気にかけてちょっと口にしちゃったってところかな。大元の不満は帆波ちゃんとはいえ、帆波ちゃんが和を乱す言動をすることはない。となれば代わりに友達の麻子ちゃんが気にしても無理ないことだよ」

 

 そう。私がああやって独断でみんなのポイントを使ったことに不満を覚えているのは他でもない帆波ちゃんだ。

 だがその帆波ちゃんは、みんなが納得しているなら文句を言ったりしないし、自分が多少不満でも合わせてくれる優しい子。

 その様子を見て麻子ちゃんがほんの僅かに疑問を口にしたってところだろう。私のことも友達とはいえ、帆波ちゃんを困らせたことを少し気にしている。

 

「ペーパーシャッフルの時、私は確かにクラスの指揮を帆波ちゃんと隆二くんに任せた。それが私の勝つための戦略の内だったとしても、そう言った上でクラスを騙すようにしてポイントを使った私に任されたはずの帆波ちゃんがちょっと不満を覚えちゃうのもしょうがないよね」

 

「確かに、一之瀬さんはほんの僅かだけど南雲さんに対抗……とはちょっと違うかな。多分、認められたい気持ちが強いんだと思う。それだけに頼られて裏切られたのはショックだったのかもしれない」

 

「ほほう。哲也くんも中々鋭いねー」

 

 あるいは帆波ちゃんが隠しきれてないか、かな。どっちにしろクラスにとっては良い兆候だ。帆波ちゃんの変化も、哲也くんの洞察力も、どっちにしろクラスにとっては利益でしかない。

 

「ちなみに隆二くんの方はどうかな。何か思うところはある?」

 

「神崎くんは南雲さんに不満なんて全く抱いてないんじゃないかな。それどころか、かなり信頼しているように見えるよ。ペーパーシャッフルでクラスの指揮権を託された時も、南雲さんに影響されてか単独で秘密裏に動いていたみたいだしね」

 

 ペーパーシャッフルが終わった後に隆二くんがどんな動きをしていたかは哲也くんや帆波ちゃんといった中心メンバーには教えてある。帆波ちゃんに内緒で龍園くんと交渉しようとしたことについて、帆波ちゃんは若干の拒否反応を見せてはいたが、それもクラスのためだという隆二くんの言葉を受ければ一応は納得していた。表向きには、だけど。

 

「帆波ちゃんと隆二くんはどっちも大切な参謀とはいえタイプが違うからねー。私の下で共存させるなら問題ないけどどっちかが立てばどっちかが従いそうにない、か」

 

「そういう意味じゃ問題があるとすれば2人の方かな。仲が悪くなったわけじゃないけど少しだけぎくしゃくしているようにも見える。その辺りは南雲さんの方がよく分かっているよね?」

 

「まあね。でもそれで問題ないよ。2人の成長のためだからねー」

 

 参謀とするには優秀な2人とはいえ、参謀のレベルとしてはまだまだ至らない部分がいっぱいある2人だ。私の下で働くだけなら十分でも、今後私の指揮がない場合、アドリブが求められる状況では他のクラスにやり込められてしまう可能性は高い。

 

「南雲さんが理解した上でのことなら僕に異論はないよ。一応、クラスメイトとして気にはかけさせてもらうけどね」

 

「それでいいよ。後は藍ちゃんも気になるかなー。クラスに馴染めてる?」

 

「さすがにAクラスに移籍してまだ一月も経っていないから馴染むのは難しいけど受け入れようという雰囲気は出来ているよ。ちょっと個性的な子だから時間はかかるかもしれないけどね」

 

 そして新たにAクラス入りした藍ちゃんの方はまだまだこれからってところか。哲也くんも声をかけたっぽいし、たまにクラスの女の子から誘われているのも見るけどあの性格だからね。仲良しこよしのAクラスにとっては中々扱いが難しかろうて。

 まあそれでもしばらくは私の近くに置いておけば問題ない。

 

「とりあえずクラスの状況についてはこんなところかなー」

 

「僕としても内側についての報告は以上かな」

 

「じゃあ次は外だね」

 

 そうしてクラス内についての報告が終われば、次は外についての報告だ。

 その辺りは隆二くんに普段は任せていることではあるが、今回は哲也くんにも動いてもらってるので哲也くんからも報告してもらうことにする。クラス外のことということもあって、哲也くんも先程よりも更に真面目な顔つきになった。

 

「もう聞いてるとは思うけど、坂柳さんが一之瀬さんに接触していたみたいだ」

 

「あーそれかー。ま、十中八九懐柔かな。さっきの不満ともきっと絡めてくるね」

 

「それでも一之瀬さんがクラスを裏切るとは思えないけれど、坂柳さんのことだからまた別の手を打ってくるかもしれない。注意しておくべきじゃないかな」

 

 有栖ちゃんが帆波ちゃんに接触していることは他の生徒からも聞いた情報だ。なんでも仲良く遊んでいたらしいが、有栖ちゃんに限ってただ遊んでいた訳はないし、何かあると見ていいだろう。

 あるいは雅兄から聞いたあの情報を使ってくるかもしれないが、雅兄から聞いた情報を私のクラスの帆波ちゃんに使うのかって疑問もある。私が知らないわけないからね。

 もしくは……その手を使ってきた場合、ギリギリまで放置しようと思ってる私のことを読んでのことなのかな。そうだとしたらさすがだけど、どっちにしろどうにでもなるという意味ではあまり良い手じゃないよ有栖ちゃん。

 ただ帆波ちゃんがクラスを裏切らないという部分については若干だが、不安がある。致命的な裏切りはせずとも帆波ちゃんの優しさが私の打つ手を邪魔する可能性はなくはない。

 

「とりあえず帆波ちゃんは要監視かな。といっても目立つから気にかけなくてもどうやったって目には入るけどね」

 

「僕の方でも注意はしておくよ」

 

「お願いねー。それと……頼んでた方はどうなってるかな?」

 

 有栖ちゃんは正直、直近で相手にしなきゃいけない相手じゃないので注意しておくに留める。勿論、兆候を感じたり仕掛けてくるなら相手してあげるけどね。

 後は私が今1番気になってる相手だ。それについての進捗を問うと昨日の今日で早速良い情報を耳にする。

 

「彼の情報だね。それなら偶然聞いた良い情報があるよ」

 

「何?」

 

「明後日のクリスマス。何でもWデートするみたいだね」

 

 へえ、なるほどね。それは確かに中々面白い情報だ。

 もしかしたら利用出来るかもしれないし、良い機会だ。私は哲也くんの情報を耳にしながら携帯を操作してチャットを送る。

 

 その内容は──『明日会えないかな?』という単純なものだった。

 

 ──綾小路くんに対する私からの……デートのお誘いだ。




冬休みという準備編。そういえば友人グループの絡みとかあんま書いてなかったなって思って入れました。そういう訳で次回もお楽しみに。

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