女の子は群れる生き物
明けましておめでとうを略した挨拶がチャット履歴にまだ幾つも残っている1月の初旬。三学期が始まってすぐに私達、高度育成高等学校の生徒は全員で学校を離れていた。
幾つもの大型バスに乗って向かうのは全学年合同の特別試験が行われる山中の宿泊施設だ。その詳細を私は知っているため、他の大勢の生徒と違って心を作れている。
ネタバレすると私は生徒会の副会長、生徒会の一員としてこの試験──混合合宿の詳細を予め知り得ているため、既に打つべき戦略も決まっているし、そのために必要な下拵えもほぼ終わっているのだ。
生徒会役員にだけ許された情報のアドバンテージを、1年生で唯一このクラスだけが有している。その恩恵を受けているクラスメイトたちは皆、思い思いにバスの中を楽しそうに過ごしていた。
席は名前順で男女に割り振られているため、私の隣にはニノちゃんこと二宮唯ちゃんが座っているが、ニノちゃんも持参した本を読んで移動時間を有意義に使っていた。
私とお喋りしたりトランプなんかで遊ぶという選択肢を取らないのは主導権が私側にあるからだろう。私が携帯でチャットを打っているのを見てニノちゃんは声を掛けることを遠慮した形だ。
その心遣いを有り難く頂戴し、私はチャットで連絡を取り合うことに集中した。
なにしろ連絡している相手は1人ではないのだ。グループチャットでもない。個別に連絡を取る必要のある相手に、私は文字を打ち込み終えていく。
その内容としては、どれも協力を要請するもの。
『約束通りちゃんと動いてくれるよね?』
『分かってる。でもこっちの約束も忘れないでほしい』
『おっけー。それじゃ現地ではよろしくねー』
最新の、たった今終えたやり取りの画面からホーム画面に戻ると私は携帯をポケットに仕舞う。
そのタイミングでちょうど知恵ちゃん先生がみんなに声をかけた。
「はいはーい。みんなちょっと静かにしてくれる? これから特別試験についての概要と詳しい説明を行うから」
教師からの言葉。それも特別試験の説明を聞けば当然、誰もがお喋りや各々やっていることをやめて聞く姿勢を取る。戦いを1年続けてきてみんなも慣れてきているね。
そして私も本来ならここで知恵ちゃん先生の説明をよく聞いて戦略を考えなければならないのだが、そのステップは今回必要ない。一応説明も聞くしクラスメイトの反応なんかも様子を見るけど、ルールは全て私の頭の中に入っている。その詳細はこんなところだ。
・男女別、学年別で話し合いを行い、6つの小グループを作る。
・グループは最低で2クラス以上の混合でなければならない。
・小グループでそれぞれ『責任者』を1人決める。
・1週間の合宿をその小グループで過ごすことになる。
・小グループを決めた後は2年、3年の小グループと合流して6つの大グループを作る。
・合宿中の行動と課題の結果で算出される大グループ毎の平均点で順位を決め、それが試験の結果となる。
・報酬は1位の大グループにプライベートポイント1万ポイントとクラスポイントを3ポイント。2位には5000プライベートポイントと1クラスポイント。3位には3000プライベートポイントを生徒1人1人に与える。
・ペナルティは4位の大グループにプライベートポイントをマイナス5000ポイント。5位にマイナス1万プライベートポイントにマイナス3クラスポイント。6位にマイナス2万プライベートポイントにマイナス5クラスポイントを生徒1人1人が失う。
・報酬はクラス構成が3クラスであれば報酬は2倍。4クラス構成であれば3倍になる他、小グループの人数/10をかける(10人であれば1.0倍。15人であれば1.5倍。9人であれば0.9倍)。
・更に小グループ責任者がいるクラスの報酬は四捨五入した後に2倍になる。
・大グループの順位が最下位となり、なおかつ学校側の決めたボーダーラインを下回った小グループの責任者は退学する。
・責任者が退学した場合、同じ小グループ内でボーダーを下回った一因だと認められる生徒を連帯責任として退学にすることが出来る。
・退学者を出した場合、1人につきクラスポイントをマイナス100ポイント。
──とまあ、こんなところかな。
頭の中のルールと知恵ちゃん先生の説明に間違いがないことを確認しながらクラスメイトの様子を見ると、みんなも少し困惑、緊張気味だ。
これまでの特別試験の中でも一際面倒な上に難解な試験だからね。それもしょうがないが、皆が1番気になるのは退学のペナルティだろう。
如何にAクラスが他のクラスに大きく水をあけているとはいえ、退学してしまったら元も子もないからね。そのことを心配しているのだろう。
「麗ちゃん」
そしてその筆頭が、知恵ちゃん先生の説明が終わるなり、マイクを受け取って私に声を掛けに来た帆波ちゃんだろう。仲間思いの帆波ちゃんは退学者を出したくはないだろうし、出来ればこの試験も何事もなく終わってほしいと思ってるはずだ。
実際、帆波ちゃんタイプの人はこの試験において真面目に取り組む以外の選択肢を持てない。どんなグループになろうとも小グループ内で協力し、ボーダーラインを下回らないようにしつつ上位に入れる可能性を高められるように懸命に頑張るだけ。
到着まで1時間もないバス車内で取れる戦略、企みというのは限られているのだ。
もっともそれも、事前に知っていればそうとは限らない。
「さて、それじゃ今回も麗ちゃんがみんなにAクラスを勝たせつつ何事もなく試験を終えられるような戦略を伝授しちゃうよー」
私は帆波ちゃんからマイクを受け取るなり、いつもの調子でそう告げる。みんなの緊張が少し解れ、安心したような空気を感じられた。みんな私のことを強く信頼している証拠だ。
そんなみんなの期待に応えてあげるのがリーダーとしての使命だからね。私は表向きのちゃんとした勝てる戦略をみんなに披露してあげることにした。
バスの中で全学年合同の特別試験についての説明を受けて約一時間後。
私達女子は本棟に向かった男子と別れ、分棟の体育館に集められることになった。
この試験において男子との接触は限られている。そのため男子は男子。女子は女子で試験に挑む必要がある。
だから今回、私──堀北鈴音にかかる責任は重い。
普段はクラスを取り纏めている平田くんや、陰ながら動いてくれる綾小路くんもいない。あるいは私の言うことをある程度聞いてくれるようになった須藤くんでさえも。
バスの中のチャットで多少のアドバイスは貰ったものの、それが活かせるとも限らない。綾小路くんでさえ、情報が限られた今の段階で他クラスの戦略を全て見通すのは無理がある。
だからこそ臨機応変に判断して対応しなければならない。
「それじゃみんな、バスの中で各自説明を受けているとは思うから改めての説明は省かせてもらうね。これから各学年毎に小グループを作る時間を設けるからちゃんと話し合って小グループを6つ作ってちょうだい。大グループを作る時間が午後8時からだからそれまでにね。それと、グループ決めで揉めたりしても先生たちは一切仲裁に入らないし学校側も関与しないから。それを理解した上で自由にしてちょうだい。それじゃ学校側からの説明は以上よ」
全学年の女子が集まった場でAクラスの担任である星之宮先生がそう告げる。並んでいる教師はみんな女性であるため私たちの担任である茶柱先生もまた数人の教師たちの中にいるが、当然なにも関わることはない。
ここからは生徒たちの時間だ。
近くのCクラスの女子たち。私を含めた20名で、この試験をどう乗り越えるか、私は思考を巡らせる。
仲の良い者で分けるか。あるいは能力で分けるべきか。幾つか私なりの考えはバスの中で出来上がっている。
だけどこの試験は、自クラスだけでなく他クラスの影響も強く受ける試験だ。
「はいはーい。みんなちゅうも~く!」
だから彼女がこうして動き出すのは必然なのだろう。
手を2回叩いた上でよく通る声でみんなに呼びかけたのはAクラスのリーダーである南雲さんだった。
その隣には参謀の一之瀬さん。背後にはAクラスの女子たちが集まっている。彼女たちは言うまでもなく1番の強敵だ。独走を続けるAクラス。そのリーダーが女子にはいる。
もし彼女が男子であれば少しは楽を出来たかもしれないが、そんなことを考えても仕方がない。なので私は心を決めて南雲さんの言動に意識を向けることにした。
「先生から通達があった通り、これから小グループを決めるわけだけど、小グループは最低でも1人は他のクラスから招き入れないと作れない。だからこれから全クラスで集まって話し合いを行いたいと思うんだけどどうかな? クラスの方針なんかもそれぞれあるかもだけど1度みんなで聞いてから擦り合わせを行った方が上手くいくと思うんだよね」
南雲さんは親しみやすい笑顔でそんな提案をしてくる。場の主導権を握りながらも、決して自分勝手じゃない。こちらにも選択の余地を与える提案に、私は背後を確認する。クラスの女子のリーダーを託されたとはいえ、クラスの意見を確認せずに動けるほど私はまだ信頼を獲得出来てない。そのための確認だったが、南雲さんの提案は特に断るほどのことじゃない。むしろ必要不可欠なものと知ってか、特に異論はなさそうだった。
なので私はその提案に真っ先に返答する。一歩前に出て南雲さんとの距離を詰めながら。
「いいと思うわ。Cクラスとしても、話し合いには賛成よ」
「Dクラスも賛成です。別々のクラス同士、話し合いをしなければグループ決めは進みませんから」
私が発言するとその直後にDクラスの……たしか、椎名さんもまたクラスに確認を取った上でそう発言する。
龍園くんがリーダーの座を降りたことは聞いているけど、仮にそうじゃなかったとしてもこの場においてはあまり関係はないわね。今戦うべきは椎名さん。そう定義付けておく。
「鈴音ちゃんに椎名ちゃんもありがとねー。有栖ちゃんはどうする?」
「そうですね。話し合いをすること自体は避けられませんし、当然賛成致しますが……」
「何か問題でもあるのかな?」
「はい。私たちBクラスが中心となるグループに、南雲さん。あなたが率いるAクラスの生徒が入ることを私は認めません」
そして、強敵がもう1人。
Bクラスのリーダーである坂柳さんが、話し合いに賛成しながらもAクラスの生徒を合流させることを認めないと口にして場はざわつく。
「ふーん。有栖ちゃんは4クラス合同の恩恵を捨てるんだ。攻撃好きの有栖ちゃんらしくない戦略だね」
「能力の低い生徒やクラスの和を乱しかねない生徒を招き入れる必要はないと判断したまでです。特に南雲さん。あなたは信用なりませんからね」
「もしかしてまだ藍ちゃんのこと根に持ってる? なんなら藍ちゃん貸し出してあげよっか? どうかな藍ちゃん」
「南雲麗がそう判断するのであれば私は構いませんがあまり良い結果にはならないかと。裏切り者である私がBクラスが多く集まるグループに配属されれば針のむしろとなることは容易に想像出来ます」
どうやら坂柳さんは南雲さんを信用していないため、Aクラスの生徒を拒否するらしい。
だけどそれはつまり、南雲さんの言うように4クラス合同の恩恵を捨てることになる。
そのメリットを捨ててまでAクラスの生徒を拒否するメリットが果たしてあるのだろうか。私は少し考えてみるも、現時点で答えは見えてこない。
仮に南雲さんがその生徒に命じて小グループの足を引っ張ったところで良いことはないからだ。意図的な妨害をしてボーダーラインを下回った場合、責任者でなくとも道連れで退学してしまう以上、その手段は使えないだろう。
あるいは情報が漏れることを危惧している? ──いや、Aクラスの生徒の混入を阻止したとしても大して意味はない。そもそも気をつければいいだけの話。
やはり理由は分からないが、その間にも話し合いは続く。坂柳さんは続けてこう口にした。
「森下さんの件も森下さん個人も特にどうとも思っていません。ただ、森下さんであろうと他のAクラスの誰かであろうとBクラスの和を乱す可能性は高いと見ています」
「ふんふん。なるほどねー。それじゃまあ、別にいいよ。こっちとしても3クラス構成の報酬でも十分だし、そこまで言われちゃしょうがないね」
坂柳さんの拒否に肩をすくめて南雲さんは受け入れる姿勢を見せた。
正直なところ、AクラスとBクラスの対立は私たちにとってはありがたい。3クラス構成と4クラス構成では1位を取った時の報酬が大きく変わってくる。AクラスとBクラスの両方が4クラス混合を諦めるのであれば、私たちCクラスにとっても大きなチャンスだった。
だけど事はそう単純じゃない。南雲さんの受け入れる姿勢を見て坂柳さんは少し間を置いてから意外そうに口にする。
「まさかそうあっさりと私の提案を受けてくださるとは思いませんでした。南雲さんならてっきり、あの手この手で私に交渉を仕掛けて4クラス混合を認めさせるのではと」
「だって私たちはそんなに困らないしね。なんだったら有栖ちゃんがしたように拒否したっていいんだから。他のクラスの報酬も小さく出来るわけだし」
南雲さんの言うことは確かなこと。独走するAクラスとしてはそれほど大きなポイントを得ることを目指さずともいい。この試験を無事に乗り越えられるならある程度の妥協は許容範囲だろう。仮に最大報酬の336クラスポイント……いや、男女両方で1位を取っての672ポイントを取ってもなおAクラスにはまだ追いつけないだけの差がある。
だからこそここはリスクを取ってでも下位クラスは最大報酬を狙うべきだ。
それが正しかったのだろうか、坂柳さんは小さく息を吐いた上で微笑みを南雲さんに向けた。
「やはり麗さんにはこのような誤魔化しは通じませんね。であれば正直に申しましょう。私達Bクラスが集まる小グループに、私はAクラスから……一之瀬さんを加えて頂けるよう希望します」
「へ?」
坂柳さんの自らの言葉を翻しての希望に、誰よりもまず困惑したのは当人である一之瀬さんだった。
そのため疑問もまた真っ先に一之瀬さんからになった。
「えっと……なんで私なのかな、坂柳さん」
「なんで、とは不思議なことを言いますね。一之瀬さん、あなたはAクラスの参謀で優秀な生徒です。その人柄も信用がおける。Bクラス中心のグループに交ざったところであなたなら和を乱すことも足を引っ張ることもしないでしょう。違いますか?」
「それは……確かに、もしそうなったら和を乱すことはしないけど……」
「で、あれば私が一之瀬さんを求める理由もお分かりになるはずです。Bクラス中心の小グループが1位を取ることを目指すにあたってあなたは必要な戦力。だからこうやってお誘いをしています」
「えっと……」
坂柳さんの誘いに一之瀬さんが困ったように苦笑いを浮かべる。そんな表情を浮かべてしまうのも仕方のないことだ。敵のクラスが、自クラスを勝たせるために自分が欲しいと言われても中々素直に頷けないだろう。
とはいえ坂柳さんの言葉も真っ当な論理だ。他クラスとの混成グループで試験に望む以上、他クラスから優秀な生徒や人格に問題のない生徒を引き入れられるならそれに越したことはない。
私でも誰か1人、他のクラスから自分のグループに招き入れることを自由に選べるとするなら一之瀬さんを選ぶ。だからこそ坂柳さんの言葉自体に不思議はないけれど、その提案自体は疑問なものだ。
「そんなこと言われても承諾するわけないよ有栖ちゃん。帆波ちゃんはウチの主戦力なんだから。敵チームからスタメン寄越せって言われて素直に渡すと思うのかな?」
「無論、タダとは申しません。そちらもBクラスから必要な生徒を誰か1人、自由にグループに引き抜いてくれて構いませんよ。神室さんでも誰でも、私以外であればお好きに選んでください」
「神室ちゃんは確かに優秀だけどそれでも帆波ちゃんとは釣り合わないなぁ。そんなふざけた条件なら断らせてもらうよ」
「なら追加の条件としてプライベートポイントをお支払いしましょう。10万プライベートポイントほどで如何です?」
その交渉はまるで野球やサッカーのプロスポーツチームなどで行われるものに似ていた。
トレードに加えて追加のプライベートポイントを支払うという契約を聞いて、そこで初めて南雲さんの目が僅かに変わったような気がした。笑顔も表情も然程変わっていないが、どこか雰囲気のようなものが伝わってくる。
あるいはそれは、南雲さんが坂柳さんの真意を見抜こうとしている部分から伝わってくるのかもしれない。僅かな間を置いた南雲さんは坂柳さんに言葉を返す。
「それじゃあまだ安いかな。帆波ちゃんが抜けたことで1位を取れなかったことを考えるとその5倍……50万は出してもらわないと」
「さすがにそれは欲張りすぎというものですよ麗さん。こちらも優秀な生徒を差し出すと言っているんです。であれば精々その差額は20万ほどが妥当では?」
「20万程度なら帆波ちゃんを残して回収した方がいいんだよねー。でも有栖ちゃんに免じて40万にまけてあげるよ」
「仮に私たちの作る小グループが4クラス混同の15人グループだったとして、1位を取った場合の一之瀬さんが得るプライベートポイントは9万。クラスポイントも14ポイントも貰える計算になります。それでも十分補填になるでしょう。せめて25万で如何です?」
「それって有栖ちゃんのグループが1位を取れなかったらなんの意味もないよね? 35万」
「それはそちらも同じこと。一之瀬さんがいたからといって確実に1位を取れるという保証はない。30万で」
坂柳さんの南雲さんに対する一之瀬さんの値切り交渉に私達は口を挟めない。黙って成り行きを見守ることしか出来なかった。
「30万かー。ま、いいかな。それでもまだ安いくらいだけど友達の有栖ちゃんに免じてこの辺で勘弁してあげるよ。約束を違えた時は……有栖ちゃんなら言わなくても分かってるよね?」
「勿論です。この場にいる皆さんが証人。言い逃れはまず不可能ですから」
「分かってるならいいかな。それじゃ了承してあげるよ」
「交渉成立ですね。では誰でも好きな方を持っていってください」
「オッケー。それじゃ帆波ちゃんは向こうね、神室ちゃん、こっちおいでー」
「行ってらっしゃい神室さん。一之瀬さんはこちらへ」
「あはは……わかった。そういうことなら」
「はぁ……別にいいけど」
そうして南雲さんが折れることで交渉は成立する。坂柳さんに引き抜かれた一之瀬さんと南雲さんに選ばれた神室さんの2人は若干困惑と呆れ気味だったが、互いに互いのリーダーを信頼しているのか納得して互いの位置を交代する。
何とも奇妙ではあったものの、その交渉は1つ私に学びを与えてくれた。生徒同士のトレードやプライベートポイントを用いての交渉は確かに1つの手だ。
もっとも、自クラスからの信頼と潤沢なポイントがあってこそのやり方であるため私にはまだ用いることは出来ないもの。
やはり私にはまだまだ足りないものは多い。そう思いながらも負けるわけにはいかない。自らの今後の課題を頭の隅にしっかりと書き留めた上で私は発言した。
「いいかしら。今の話を聞いていると4クラスでの混合グループ……各クラスから1人ずつ出し合っての15人グループをそれぞれ作ることに異論はないのよね?」
「ええ。私たちはそれで構いません」
「Aクラスもそれでいいかなー。その方が単純に得だしね」
「そう。Dクラスはどうかしら」
「はい。私たちも4クラス混合グループをそれぞれ作ることには賛成です。ただ……」
話を進めようと各クラスの代表者に確認を取る。AクラスとBクラスは問題ないようだったけれど、問題はDクラス。椎名さんのクラスだった。椎名さんは少し、背後のDクラスの女子たちに僅かに視線を送るとそれをすぐに戻して発言する。
「他のクラスが中心のグループに行っても構わない。そういった生徒を選別するのに少々苦労することは否めません。私はまだお二方のようにクラスメイトから十分な信頼を得てこの場に立っているわけではありませんから」
椎名さんの発言は私にも刺さるものだった。
南雲さんや坂柳さんのようにクラスメイトから信頼を得ていて生徒を納得させられるのであればある程度自由に生徒を振り分けることだって出来るだろうが、私達にはそれは出来ない。クラスの仲間と相談して決める必要があった。場合によっては、前提として話している最大報酬を得られるグループを作れないかもしれない。
「そうね。その点は私も同意見よ。私としても、クラスメイトとの話し合いの時間を希望するつもりだった。誰と誰が組みたくない。誰と組んでも構わない。多くの生徒が混合するグループを作るにはそういった意思の確認が必要不可欠よ」
「なるほどね。そういうことなら構わないよ。確かに必要なことだしね」
「私としても構いません。時間はたっぷりとあります。どうぞ納得するまで話し合ってください」
「ありがとうございます。それでは少し確認してきます」
他のクラスに確認を取った上で私は背後に振り返る。椎名さんはDクラスに。南雲さんや坂柳さんも、必要あるかどうかは分からないが一時それぞれのクラスメイトに確認を取った。
「皆も聞いていた通り、今の話の流れとしてはまず各クラスが中心の15人グループを作る流れよ」
「それって……つまりどういうことになるわけ?」
軽井沢さんの試験を把握していないかのような質問にも私は丁寧に答える。認識を共有することは集団において必要なことだと今の私は理解していた。
「まず12人のまとまりを作る。そこにそれぞれのクラスから1人ずつ迎え入れて最大報酬を取りに行くクラスを作ることになるわ。これで1位を取れれば茶柱先生が言ったようにクラスポイントは336ポイント。プライベートポイントは108万も得ることが出来る」
「もしそうなれば一気にBクラスに昇格出来ちゃうね」
そう。櫛田さんの言う通り、1位を取れれば得られるものは大きい。
その分リスクも存在するが、それはどのクラスも同じ。
とはいえそのグループ分けを実現するためには幾つもの障害を乗り越えなければならない。
「……なんかそれってちょっと抵抗あるっていうか……ポイントを得られるのは嬉しいけど、1人で他クラスのグループに交じるのって無理じゃない? 1週間も一緒に過ごすんでしょ? 私、絶対嫌なんだけど」
そう。実現するにはまずそれを乗り越えなければならない。
軽井沢さんが言うように、他のクラスが中心のグループに行くのは抵抗がある生徒が殆どだろう。見れば軽井沢さんの発言に頷いて同意する生徒は何人もいた。
あるいはAクラスの一之瀬さんやBクラスの神室さんのようにそれが苦じゃないか、納得出来る生徒がいるのであれば話は早いが、そのハードルはそれなりに高い。1人になる生徒を3人も選ばなければならないからだ。
選べないから他のクラスに4クラス合同を、あるいは人数を緩和してくれと頼むことも1つの手ではあるけれど、他のクラスの報酬を減らすことになる上、どちらにしても他のクラス中心のグループに入ることは変わらない。
つまりどちらにせよ擦り合わせを行う必要がある。私は皆に質問した。
「そうね。軽井沢さんの言う通り負担になることは確か。簡単には決められないでしょうけどそれでも一応聞いておく。それを承知の上で他のクラスに合流しても構わないと思う生徒は名乗り上げてちょうだい」
皆を見渡して問いかける。すると、私のすぐ横から声が上がった。
「私は構わないよ堀北さん」
「……櫛田さん」
櫛田さんからの笑顔での言葉に、私は素直に受け取ることが出来ない。私個人の意思として、出来れば櫛田さんを他のクラス中心の小グループに合流させたくはないから。
あるいは私が一緒に組むのであれば合流しても構わないけれど、それもまた難しい提案であることは明らかだ。
迷った末に私は一旦頷いておくことにした。
「……確かに。あなたなら他のクラスの生徒が多いグループでも上手くやっていけるでしょうね」
「うんっ。だから私には遠慮しないでいいよ。他のクラスにも友達は多いし楽しくやっていける自信あるから」
「そうね……なら後2人。1人になってもいい人はいない?」
理想は3人。櫛田さん以外の生徒であれば望ましいが、簡単ではないだろう。
その証拠に次に声が上がった生徒は1人ではなかった。
「1人は嫌だけど2人なら別にいいけど?」
「長谷部さん。そう、あなたは佐倉さんとのグループを希望するのね」
「むしろ私の希望はそれだけ。それ以外だったらどこでもいいから。それだけ呑んでくれるなら堀北さんの言うことに従うよ。ね、愛里」
「う、うん……私も、1人は抵抗あるかな……」
長谷部さんと佐倉さんの2人は互いに同じグループであることを希望してきた。
それは当然の動き。綾小路くんのグループの女子2人は他の友人が少ないため、Cクラスで態々固まる必要もないし、逆に言えば他のクラスが中心のグループに行っても問題のない生徒。
だけどその条件として2人は必ず組ませること。それだけが希望であれば、私としてもその希望は受け入れたいものね。
後はドライな判断として佐倉さんの能力がそれほど高くないことも上げられる。あまり表立って言いたくはないけれど、能力の低い生徒を他のクラスが中心の小グループに押し付けることはこの状況で各クラスが行える数少ない『攻撃』だ。南雲さんと坂柳さんのやったような交渉による能力の高い生徒同士のトレードは言わば例外的なもの。成立させるには難しいものであることは明らか。
「なら……そうね。2人が同じグループに組めるように努力させてもらう。残った少人数のグループか……あるいは他のクラスが中心のグループに2人で合流出来ないか交渉する必要があるわね……」
「お願いね。ほんと、それ以上は望まないからさ」
「うん……お願い、します」
「善処するわ」
確実なことは言えないが了承すれば2人は下がっていった。
2人を他のクラスのグループに送る場合は、条件としてこちらも同じクラスの数を下げる必要があるだろうが、もしそうなったら仕方がないことね。
そして、そうなれば2人組という提案も出来なくはない。そのため、私はそれを口にしようとした。
「というか堀北さんさ。先にCクラスが中心のグループ決めちゃわない? そっちの方が手っ取り早いと思うんだけど」
「軽井沢さん。それは、自然にあぶれた生徒を他の小グループに入れてもらうということ?」
「だってその方が楽じゃない? 櫛田さんに長谷部さんのグループが決まってるなら後は1人か2人選ぶだけでしょ? どうせ名乗り出るなんて無理だし、こっちで選んじゃった方が早いと思うけど」
軽井沢さんの提案は、ある種残酷だが手っ取り早い方法でもあった。
確かに名乗り出る生徒がいないのなら、お願いして行ってもらう方法を必然的に取る必要があるだろう。
あるいは最大報酬を得ることを諦めて妥協するか、だ。それを思えば1度他のクラスに確認を取った方がいいかもしれない。2人や3人であればまた話も変わってくる。
「それと絶対に組みたくない子もいるからそれは拒否させてよね。特にDクラスは嫌いな子いっぱいいるからさ」
「それは……」
だが続く言葉に私は迷う。
好き嫌いの問題は一見幼稚に見えて重要なものだ。1週間の共同生活を送る以上、仲が悪い生徒や合わない生徒と一緒に過ごすことはそれだけ精神的な負担となる。
試験の成績にだって影響が出るだろう。それを思えば、単純に突っぱねていい問題ではない。
だがかといってそれをどこまで許すか、というのも難しい問題。軽井沢さんのようにDクラスに嫌いな人がいっぱいいるから、という理由を持ち出せばそれだけ小グループの調整は難しくなる。
「まあ1人になっても良い生徒がいれば楽だけどね。みーちゃんとかどう?」
「え……私、ですか……?」
「南雲さんか坂柳さん……一之瀬さんがいるグループなら仲間はずれにもされないだろうし別にいいんじゃない?」
「それは……そうだけど……」
……どちらにせよやっぱり他クラスとの話し合いが必要かもしれないわね。
軽井沢さんが王さんに1人になるように呼びかけているのを見て思う。他のクラスでもこういった問題は噴出していると考える。ならそれぞれの希望を聞いた上で適切な組み合わせを考えて作るしかない。
学校側の指定した異常に長い時間指定もこういった問題を想定してのことだろう。それだけグループ決めには時間がかかると、それを予測した設定となっている。
なので私は1度他のクラスに声を掛けに行こうとした。
だが背後からの言葉で足を止めることになる。
「軽井沢さん。今のはちょっと……酷いんじゃない?」
「え?」
軽井沢さんにそんな注意の言葉を投げかけたのを聞いて私は振り向いて確認する。その相手は軽井沢さんとも仲の良い生徒、松下さんだった。
「幾らみーちゃんが言い返してこないからってそうやって1人にしようとするのはちょっとどうかと思う」
「あー……えっと、そうだね。それは、ごめん。確かにちょっと言い過ぎたかも……みーちゃんもごめんね?」
「あ、えっと……はい。大丈夫です」
その注意を受けて一瞬面食らった様子の軽井沢さんだったが、松下さんの注意は正論でもある。それを受けて気まずそうにしながらもそれを認めて王さんに謝った。王さんも、松下さんからの珍しい注意に戸惑いながらも軽井沢さんの謝罪を受け止める。
それでこの問題は解決。私もそう思った。
「……ううん。この際だから言わせてもらうけど軽井沢さんってさ。自分勝手じゃない?」
「ちょ、ちょっと松下さん……」
松下さんからの厳しい言葉と普段とは違う雰囲気を感じ取って仲の良い篠原さんや佐藤さんから声がかかる。
だけども松下さんは絶えず軽井沢さんに視線を合わせ続けた。そして軽井沢さんもそれに呼応する。
「何よ……自分勝手って、急に何言い出すわけ?」
「普段からの振る舞い、言動の話だよ。今のみーちゃんへの発言もそうだし、軽井沢さんって基本自分のことしか考えてないっていうか、友達や他人への配慮が足りてないよね」
「だからみーちゃんには謝ったじゃない! それともなに? 私が松下さんに何かした?」
「色々してるよね。入学直後は井の頭さんや色んな人にポイントを無心したり、櫛田さんに水をかけたりさ。後は他のクラスとも揉めたり問題起こしてるって聞いたよ。割り込みされたとかぶつかったけど謝らないとか色々さ」
「それは……別に松下さんには関係ないでしょ!」
軽井沢さんの大きな声が響く。他のクラスにも聞こえてしまいそうな、いや、おそらく騒いでいるのは分かる声量だった。
その不穏な雰囲気を感じ取って櫛田さんや2人と仲の良い生徒が間に入ろうとする。私も踵を返した。
「あの、松下さん。私はその……もう気にしてないから許してあげて? 確かに水をかけられたりもしたけど、軽井沢さんにはちゃんと謝ってもらってクリーニング代も弁償してもらったから……」
「櫛田さんのことだけなら私もここまで言わない。でも、他にも沢山問題を起こしてるなら言わないわけにはいかないよ」
「だから、あんたには関係ないでしょ!」
再度の軽井沢さんの大声。しかし、それを聞いても松下さんは怯まなかった。
「関係あるよ。そういう自分勝手な言動がクラスに迷惑をかけてるって気づかない?」
「迷惑なんて、そんなの……!」
「無人島でも勝手だったしさ。細かいところを挙げればキリがないよ。Aクラスを目指していくんなら、そういうところを正していかないと駄目だと思う」
「っ……だからそれは……」
今までの言動についてを指摘されて少なからずその自覚があるのだろう。軽井沢さんの気勢が衰えていく。
それを見て私は割って入ることにした。
「松下さん。ちょっといいかしら」
「……堀北さん」
私が声をかければ松下さんはこちらに視線を向ける。どうやら十分に冷静なようだった。軽井沢さんに怒りを見せたように思えたが、それにしては冷静すぎる気もする。
だけれど元々松下さんは同級生の中でも大人っぽい印象の生徒。だからこそ、話は通じると私は言葉で彼女を落ち着かせるように言う。
「確かにあなたの言うことは間違ってない。軽井沢さんにも改めるべき部分は少なからずあると思うわ。だけど、この場でそれを指摘して大きく騒ぎ立てるのはクラスの利益にならない」
「もちろん分かってる。でも、私は我慢出来なかった。Aクラスを目指すならこういう細かい部分から正していかなきゃならないし、大きなポイントが動く特別試験なら尚更でしょ? だから私は言うことにしたの」
松下さんからの反論を受けて私は考えようとした。
だけどそれよりも先に松下さんの続く言葉を受け止めることになる。
「堀北さん」
「……何かしら」
「今問題になってるのは誰を他のクラスの小グループに行かせるか。そうだよね?」
「……そうよ。そのために話し合いを行わなければならない。あなたの言い分も理解出来るけれど、だからこそここは少し抑えてほしい」
松下さんが何を言いたいのか、私には計りかねていた。
「だったら1つ、思いついた提案があるんだけどいいかな?」
だからこそそうして松下さんに提案があると言われ、安易に問い返す。
「……提案?」
「うん。私と軽井沢さんを、その1人にすればいい」
「っ、それは……」
その提案を耳にして、私は言葉に詰まる。
だけれどそれ以上に困惑したのは軽井沢さんだろう。一瞬の思考停止の後、起動した軽井沢さんが声を大きくする。
「は、はぁ!? 何言ってるのよ、そんなの嫌に決まって……」
「嫌とは言わせないよ。だって軽井沢さんはクラスの和を乱して迷惑をかけるかもしれないし」
「そんなん松下さんだってそうでしょ! あたしに文句付けて騒いでるじゃない!」
「うん。だから私も他のクラスに行く1人になるよ。これなら平等でしょ?」
松下さんがそう言うと軽井沢さんが言葉を失う。
急転直下。突然、1人になる候補に祭り上げられたことで軽井沢さんは事態を飲み込めていない。
だから私が言葉を返した。冷静に、その意味を思考しながら口にする。
「……つまり、互いにクラスの和を乱した責任を取るということ?」
「その方が効率的だって思いついただけ。責任を取るなんて大げさなことまで考えてないよ」
松下さんはそう言うが、それがどこまで本当なのか私には分からない。
だけれど一定の利を感じる提案であることは確かだ。私はそれを認めてしまいながら松下さんの続く言葉を聞く。
「このクラスが1位を取るためのグループに、こうして問題を起こした私や軽井沢さんは足手まといでしょ?」
「それは……」
「それにさ。逆に考えてみれば問題を起こすなら他のクラスの足を引っ張れるんじゃないかな。まあ明らかに足を引っ張っちゃったりしたら道連れにされちゃうかもだから出来ないけど……それでも多少の影響はあると思う」
松下さんの提案を理解する。私たちのクラスが1位を取るために、これは効率的な手だと。
能力の低い生徒や人格に問題のある生徒を他のクラスが中心のグループに送り込むことが出来れば、確かに試験結果に多少の影響があるだろう。ボーダーラインを下回らないように注意しなければならないとはいえ、おそらくそうはならない。南雲さんや坂柳さんがそんな下手を打つとは思えなかった。
唯一Dクラスだけはどうなるか不透明だが、それでもよっぽどのことがなければ学校側の指定したボーダーを下回ることはないと見ていた。
ならその提案も悪くはないかもしれない。他のクラスに送る2人を選ぶことが出来るのだから。
これに加えて櫛田さんか……あるいは他の誰かを選べれば、最高効率のグループは完成する。
後は余った生徒で小グループを2つ作るだけだ。
「そんなの……私は……」
「……どうかな? 我ながら咄嗟に思いついたにしては悪くない提案だと思うけど」
「……どうするの? 堀北さん……」
櫛田さんからの声を受け、私は考える。
正直なところ、それを受けても構わないという私も存在した。軽井沢さんは能力においてそれほど優秀というわけではない。
クラスをまとめる力は確かでも、今回の特別試験で求められる内容で力を発揮出来るかは微妙なところだ。
そしてそのクラスをまとめる力についても、こうして松下さんが異議を唱えた以上は影響が懸念される。
あるいは松下さんだけを飛ばして軽井沢さんを残すという分け方もあるが、それもまたクラスに不和を残すかもしれない。
一旦2人を分けてしまった方が安全であり安心でもある。そんな思考が私の頭を埋めていく。その後で和解を提案した方がいい。
その時には2人とも多少は頭が冷えていることに期待して。
私は考え、そして答えを出そうとした。クラスが1位を取るためにどうすればいいか、リーダーとして決断しなければならない。
「ちょっとちょっと~? なんか揉めてるみたいだけど大丈夫?」
そんな時だった。
私たちCクラスが揉めているのを見て南雲さんが様子を窺うように声を掛けてくる。
当然、対立する軽井沢さんと松下さんのことも見た。そしてその空気を察してくる。
「察するに、グループ分けで揉めてたりする? 互いに組みたくないとか、そんな感じ?」
「……あなたには関係のないことよ南雲さん。私たちのクラスの問題は私たちで解決する。話し合いが終わったら声を掛けに行くから離れてくれるかしら」
「そりゃそうなんだけどあんな大声を聞いたらねー。生徒会の副会長として仲裁しないわけにはいかないというか。なんだったら解決策でも提示してあげよっか?」
「不要よ。心遣いはありがたいけれど私たちはそれを必要としてないわ」
あまり弱みを見せたくないため、南雲さんの提案を冷たく拒否する。
だけれど南雲さんはそれでも引き下がらなかった。そして構わず発言する。
「必要としてない、ねぇ……でもさ、今回の試験じゃ他のクラスの生徒とも組む必要があるわけじゃない? しかも4クラス混合で組むことにしたわけで当然Cクラスの生徒と私達Aクラスの生徒も同じグループになる。だったらさ、揉め事は解決しとかないと私たちにとっても困るんだよねー」
「それは……そうね。否定はしない。だけどそれでも必要ないことよ」
南雲さんが正論を振りかざしてきても私は突っぱねる。それでも南雲さんを介入させるのは……なんとなく嫌な予感がしたからだ。
「ふーん? まあ鈴音ちゃんがそう言うなら引いてもいいんだけど……それじゃ用件だけ口にしようかな。私達Aクラスや有栖ちゃんのBクラス。それとDクラスも自分たちのクラス中心の小グループを構成する12人と他のクラスの小グループに入る3人を決めたからさ。その擦り合わせがしたいんだけど」
「……そう。それなら……そうね。一旦その擦り合わせをしましょうか」
南雲さんからそう通達され、私はそれを受けることを選ぶ。いつまでもクラスの中で悩んでいるわけにもいかない。
その擦り合わせの中で軽井沢さんと松下さんの件も結論を出す。自クラスだけの状況で決めれるものでもないからだ。
だから私は南雲さんと共に4つのクラスの集まりの中心に歩んだが、そこで南雲さんがふと立ち止まる。
「ああ、それと残る2つの小グループ……10人で作る小グループの方だけどさ。そっちのことについても話したいんだけどどうかな?」
「もちろんそれは構わないわ」
深く考えることなく了承する。それは当然、回避出来ない話し合うべきものだから。
「そう? だったらCクラスから希望する生徒がいるんだけど言ってもいい?」
「……それは10人の小グループの方? それとも15人の小グループにいれる1人の話かしら」
「10人の方だよ。こっちは必然的に余り物になっちゃうからさ。どうせならクラスの問題児や孤立気味の生徒を集めて作っちゃおうと思ってね」
「それは……上手くいくとは思えないけれど」
南雲さんの言葉に素直な感想を口にした。
各クラス中心の小グループがそれぞれ1位を目指すのであれば、必然的に余り物で出来た上位を狙えないグループは出来上がってしまう。
ただ上手くいかせることが目的ではないため、強く否定は出来なかった。退学者を出さない程度に上手くいかせる必要はあるが、上位を狙わせるほどの戦力を集中することも出来ない。
「まあね。でも退学する生徒は出させないようにするから安心して。方法はちゃんと考えてるから」
「あなたが言うと信用ないのだけれど一応聞いても構わないかしら」
「うん。簡単なことだよ。私がそのグループに入る」
南雲さんからの提案。それを耳にして、私は言葉を発するのが遅れる。
それはありえないと思っていた提案だ。
Aクラスが中心の小グループが1位を狙うにあたって、南雲さんは絶対に必要な生徒であるはず。
それは能力的にもリーダーとしてもだ。総合的な実力で南雲さんを凌ぐ生徒は他にいないし、Aクラスの主柱。絶対的なリーダーとして君臨する南雲さんの不在は小グループに大きな影響を及ぼす。
「南雲さん……あなた、本気?」
「本気って何が? 私はいつでも本気だよ。この合宿を成功させるためには誰とでも打ち解けられる上に能力の高い私が少数のグループを率いた方がいいと思ってね」
私からの問いかけにも南雲さんは笑顔で答える。その笑顔は一之瀬さんと相違ないように見える。友人思いの優しい生徒にしか見えない。
だが南雲さんのこれまでやってきたことを思い返せば、それを素直に信じていいか迷ってしまう。私じゃ南雲さんが何を考えているかは読み取れない。
「私が率いるんだから一応希望しておこうと思ってね。一応各クラスから孤立してる生徒とか問題のありそうな生徒でも引き取ろうと思ってたんだけど……さっきのを見る限りだと、松下さんと軽井沢さんがいいかなってね」
「……あなた、何を考えているの?」
悩んだ末に私が出来たのは、ストレートに問いかけることだけだった。当然、それで答えが分かるはずはない。
「鈴音ちゃんは私をいつも腹黒にしたがるね。その気持ちも分からなくはないけど、私は各クラスのことを考えた上で結論を出しただけだよ。上位を取れないであろうグループで退学者を出さないためにはこうした方がいいってね」
「それだとAクラスがトップを取る可能性が低くなるわ。あなたならそれも分かってるはず」
「分かった上での判断ってことだよ。それに、私や帆波ちゃんがいなくてもAクラスは1位を取るよ。私は仲間の結束力と能力を信じてるからねー」
そうやって仲間への信頼を語る南雲さん。
だけどその言葉の真偽は分からない。本当にそう考えているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
結局のところ今ある材料で推理するしかないけれど、考えても分からなければ怪しむことしか出来ない。
「お待たせ有栖ちゃん。ひよりちゃん。鈴音ちゃん連れてきたよ」
私が思考に沈んでいる間に、南雲さんは小声での会話をやめて坂柳さんと椎名さんに声をかける。
そして再びクラス同士の話し合いが始まった。
「お待ちしていました。それと、何やら大声が聞こえましたが……大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。気にしないで」
椎名さんからの問いかけに平然と答える。さすがにこの距離じゃ聞こえてしまうし、他のクラスにも何やら揉めているところはバレてしまっているようね。
なんなら2年生や3年生にも気づかれてしまったかもしれない。
「どうやらCクラスは時間がかかっていたようですね。それと、先程何やら立ち止まって小声で会話していたようですが……もしや悪巧みですか?」
「そんなことしてないって。それより調整を始めよっか」
「……ええ。始めましょう」
私は未だ結論が出ないままに話し合いに参加する。
だけど薄々と感じたことがある。
もしかしたらこの試験の1番の山場は、このグループ決めかもしれないと。
長かったので分割した。グループ決めが1番長いし見どころがある展開になりそう。
ってことで混合合宿編の始まりです。別名はVS南雲麗前編。
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