ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

65 / 96
選抜種目試験編
バラエティ番組でもアイドルは活躍する


 残念なことに世界には嘘が蔓延っている。

 それは私がいた芸能界でもそう。芸能人は本名を隠して芸名で出たり、メディアの前では自分のキャラを前面に押し出していく。個性を強調したり、盛ったり、演技してみたり。ドラマや映画なんかは当然演技だし、バラエティ番組なんかでは企画を成り立たせるために演者がそれぞれ台本を大元の基本としてその枠組の中で視聴者を楽しませるために展開を繰り広げていく。もちろんガチっぽいドッキリなんかもあるし、反対に全てを承知の上で演者に演技を強いるヤラセ──なんかも程度はかなり低くなったが全くないわけじゃない。

 まあ演者の負担やバレた時のリスクがあるからヤラセなんかはほとんどなくなったけどね。私なんかはもちろん提示されたら断ってたけど、正直なところヤラセが完全に悪かと言われれば難しいところだ。大なり小なり演技を行ってる以上はそれも完璧に本当かと言われれば嘘になる。かといって完全に嘘をついてるかと言われるとこれもまた難しい。ほとんどの演者は嘘をついてるというよりかは自分の中にある一面を誇張したりしてるだけで完全な嘘というわけではないのだ。リアクション芸人が熱さとか痛みに大げさにリアクションを取るのも、本当に熱くもあるし、痛くもある。ただそれを我慢せずに感情に乗せて表現する……ってのが私が芸人さんを見て学んだことかな? おかげで私もそういうリアクションはなんだかんだ好評だった。そうして画面の前の視聴者が楽しんでくれるなら嘘も方便。ヤラセも程度次第。完全なヤラセは良くないけど暗にドッキリを気づかせる程度ならまあ許容範囲って感じかな。

 

 まーでもスポーツ企画ものとか対決系でのヤラセは嫌かな。私も。勝負の中で騙し合いをするならともかく、最初から勝ち負けが決まってる勝負ほど面白くないものはない。

 だから私の場合、そういうのは全部ガチでやって勝っているので結構色んな記録を持ってたりする。そんな完璧超人系アイドルが私──南雲麗ちゃんってわけ。

 

 ──まあそれはさておき、今は3月8日の月曜日。朝のホームルームの時間だ。

 

 先週はクラス内投票なんてふざけた試験があって大変だったね。そんな訳なので他のクラスでは結構空気が重くなってそうだが、私が率いるAクラスでは退学者を1人も出すことなく終わったので空気はそこまで重くはない。精々、様子を伺うような、ちょっと気にしているようなそんな空気を多くの生徒から感じるだけだ。

 もっとも人気者に野次馬や注目は付き物。クラスの中心でありリーダーでもある私のことを気にするだけなら普段とそれほど変わりはないのだが、生憎と今注目してるのは私だけでなくもう1人……一之瀬帆波ちゃんのことも気にしている。

 それが意味するところは、先日行われたクラス内投票における私と帆波ちゃんの方針の違いによる対立を、クラスメイトたちも気にかけているのだろう。

 まあ実際は私と帆波ちゃんがなんで対立してるかって詳しい内容はクラスの人達のほとんどがわかってないんだけどね。わかってるのは、退学者を出す戦略を取ろうとした私と退学者を出さない意見を口にした帆波ちゃんとで意見が対立し、色々あって帆波ちゃんの案が採用されて退学者を出さないことになったというだけ。

 帆波ちゃんは多分皆に心配をかけたくなかったし、クラス内で大きく揉めるような──それこそ以前のBクラスみたいにクラス内で対立するようなことを嫌ったのだろう。あくまで私たち2人の問題ということで詳細な事の経緯は隆二くんとかユキちゃん、哲也くんみたいな一部の人間しか知らないことだ。わかるのは帆波ちゃんが私に対して不満をぶつけたことくらいのもの。そうなるに至った経緯や真相は知らない。

 

 ……とまあそんなわけで皆が気を使ってるんだけど、どっちかっていうと帆波ちゃんを気遣ってる人が多いのは先日流されたある噂が原因だろうね。帆波ちゃんが犯罪者だってやつ。

 クラス内投票が告知されて2日経った朝に寮のポストに入っていた紙に書かれたその噂に一時はAクラスはざわついた。団結は揺るがなかったけど他クラスの妨害だとか根も葉もないただの噂。誹謗中傷でしかないって感じでね。クラスの皆も憤慨してたなー。

 

 ただそれが真実だってことを私は知ってたし、それが誰から流れていてどういう目的を持っていたかもおおよその見当はついている。隆二くんたちには先日教えたんだけどね。鍋パしながら。

 

『──俺たちAクラスのポイントを確実に削るため、か』

 

『そうそう。大体そんな感じかなー。──お、良い感じに煮えてるね~。これで完成かな』

 

 隆二くんの納得する声が室内に響く。隆二くんの部屋で鍋を囲んでいたのは私に哲也くん。ユキちゃんと藍ちゃん。帆波ちゃんを除くAクラスの中心人物だ。

 私は鍋の蓋を取ってお玉と小皿で味を確認しつつ皆にお鍋を振る舞う。ただ集まって話をするだけでは芸がないのでいつも頑張ってくれてる皆に私からのサービスだった。なので存分に感謝して味わって欲しいが、話の内容が内容だけに鍋に完全集中とはいかないらしい。疑問が私の方へ飛んでくる。

 

『一之瀬さんの噂を流すことがなんでAクラスのポイントを削ることに繋がるわけ?』

 

『そりゃ帆波ちゃんだからね。自分が犯罪者だなんて噂を流されたらどうすると思う? ポイントを払わなきゃ確実にクラスの誰かが退学になる試験で私は退学者を出す方針。でも帆波ちゃんはクラスから退学者を出したくないってことは?』

 

『それは……』

 

『なるほどね。自らが退学者に立候補する。そうして自分を犠牲にしてクラスの皆を守る、か。確かに一之瀬さんならそういった行動に出てもおかしくないね』

 

 私からの試すような質問にユキちゃんが言葉を迷わせる中、察しの良い哲也くんが代わりに答えた。私は満足して頷く。

 

『哲也くんピンポンピンポーン! 正解! お肉獲得~!』

 

『ありがとう。でも、そうなってくると一之瀬さん……いや、坂柳さんは南雲さんが退学者を出そうとしていることを掴んでいたことになるね』

 

『帆波ちゃんから度々相談も受けてるし、察してもおかしくないよね。それに、真実はどうであれ帆波ちゃんにそれをさせるってだけでかなり意味のあることだし』

 

『どういうことだい?』

 

 哲也くんからのパス。一度帆波ちゃんの名前を出そうとしてやめたことを見るに哲也くんも気付いたのだろう。有栖ちゃんが流した帆波ちゃんの噂。犯罪者であるという言葉がある程度真実である可能性に。

 帆波ちゃんがその噂を流されてクラスを守るだけでなく、クラスの足を引っ張ってしまうことを危惧して退学者に名乗り出ようとするなら、それはある程度真実が含まれているからこそだと考えるのはごく自然なことだ。

 だけど哲也くんからすると憶測に過ぎないし、帆波ちゃんのことも考えて安易に犯罪者なのが真実かもしれないって言葉を出すことをやめた。──ま、真実なんだけどね。聞いてるから知ってる。

 ただこの時点で真実を教えるのも良くないので哲也くんからのパスに答えることにしよう。帆波ちゃんにそれを行わせる意味だったね。

 

『有栖ちゃんたちBクラスや他のクラスにしてみれば、Aクラスには適当な退学者を出させるよりもその膨大なポイントを少しでも減らしてもらった方が都合が良いからね』

 

『それはそうだろうな。Aクラスが2000万以上のプライベートポイントを保有している限り、以前のような引き抜きが行われるリスクを常に考える必要がある』

 

『隆二くんも正解。他クラスへの称賛票を集めても退学者を左右することはできない。他クラスの任意の生徒を退学させようと思うなら諜報活動は必須。だけど他のクラス内に協力者を作ることはただでさえ難しいし、私が率いる皆仲良し団結力ピカイチなAクラスに行うのは至難の業』

 

『それを一之瀬を使うことで実現したということか……』

 

『まあ批判票の操作だね。ただこの場合は実際に帆波ちゃんに批判票が集まっても集まらなくてもいい』

 

 帆波ちゃんが実際に批判票が集まっても集まらなくてもどっちでもいいのだ。その理由を説明する。

 

『帆波ちゃんが名乗り出た時点で私は対応を迫られる。クラスの皆は帆波ちゃんに退学してほしくないし、私ももちろん嫌。そうなると他に退学者を選ぶ必要があるけどそうなるとクラス内に不和が生まれるし、退学者を出さない方向に舵を切るように皆からもお願いされちゃうからね。私がそれを聞くかどうかは別として』

 

『それでも退学者を出すと宣言すれば、ある程度の求心力の低下は避けられないってことだね』

 

『はい正解。そして本当に帆波ちゃんに批判票が集まるようなら私はポイントによる救済をしなくちゃならないし、しなくてもそれはそれ。帆波ちゃんのような優秀な生徒をAクラスから消せるってことで万々歳。どっちに転んでもオイシイんだよね』

 

 優秀な生徒を取るかポイントを取るか。

 そしてどちらを選ばずとも最低限、より話をこじれさせてAクラス内の和を乱せる。なんだったら帆波ちゃんを弱体化させることも叶う。どう転んでも損はしない良い戦略だ。私は結構好き。やられたらそりゃ対処は面倒だけどね。

 

『ならどうするつもりだ? 一之瀬が立候補を行えば自動的にその流れに乗ることになる。そうなれば坂柳の思う壺だ』

 

『それはそうなんだけどね。でも考え方を変えると都合が良いから流れに乗ってあげようかと思ってるよ』

 

『え、乗っちゃうの? てっきりあんたのことだから防ぐと思ってたんだけど……』

 

 ユキちゃんの驚いた表情が向けられる。まあそう思うのも無理はないかもだけどね。私にも色々と変化はあるからそれに対応して動いていかないといけないんだよ。

 

『だって元々似たようなことしようとしてたしね。退学するリスクはチラつかせるけど、実際は退学者出さないつもりだったし』

 

『は、はぁ?』

 

『それは……』

 

『……どういうことだ?』

 

 私に慣れてるはずの3人がそれぞれ小さく驚きを見せる。うんうん、皆良い顔だね。正直ネタバラシはギリギリが良かったけど、こうなったら仕方ない。ここにいる人くらいには教えてあげようかなって。

 

『私はこの試験の意義を、考えさせることと捉えた。自分が退学するかもしれない恐怖に仲の良いクラスメイトが退学してしまうかもしれない不安。退学者が出ることで今後のクラス同士の競争に影響が出るかもしれない懸念。明確な危機を与えられたことで誰もが思考することを迫られる』

 

 私の考えを皆に話す。もっとも、この試験はあの月城理事長代理が半ば強制的に実施した試験で私も正直ふざけた試験だとは思ってるけど現実として実施が決定した以上はこの苦難も自らの糧としてしっかり吸収する必要がある。ふざけた試験だからと真面目に取り組まないのはただの現実逃避でしかない。理不尽に襲われてもそれをどう乗り越えるか利用するか回避するか。それができる者だけが人間的成長を得ることができる。

 

『そんな成長の糧をさ。──はい、ポイントで救済するからこのクラスからは退学者は出ませんし考える必要もありません! ばんざーい! ……ってな感じで済ましちゃったらもったいないじゃん。せっかく学校側が与えてくれた試練なんだからちゃんと成長できるように動いた方が得だって、そうは思わない?』

 

『……意図は理解した。試練、か。そう言われれば納得だ』

 

『実際こうして伝えられたことで安心してる自分もいるのは確かだね』

 

 隆二くんは私の考えに現在のクラスの雰囲気。クラスメイトのことを想像したのだろう。すぐに頷きを返してくれるし、哲也くんもまた思慮深く理解を示してくれた。

 

『だが大丈夫なのか? 退学者を出さないならポイントを支払うことになる。そうなれば他クラスから引き抜きを行うためのポイントが足りなくならないか?』

 

『ポイントは貯められるし余裕もあるから大丈夫だよ。数を減らさないなら減らさないで有用な戦略は幾らでもあるからさ』

 

『……わかった。その判断を信じよう』

 

 隆二くんはクラスの勝利のために不要な生徒を切り捨てることを選びたかったのかもしれないが、それでも私の判断を疑わずに付いていくことを決め、鍋の肉に取り掛かり始めた。そう言えば結構筋肉付いてきたよね。見た目がゴツくなってるわけじゃないけどわかる。うんうん、これならボディガードとしても期待できそうかな。

 そして私の真意を聞いてユキちゃんなんかは困惑してるが、それでも理解はしただろう。その上で浮かんだ疑問を舌に乗せる。

 

『……でもさ。なら一之瀬さんのことも……?』

 

『お、ユキちゃん正解! そうそう、帆波ちゃんについても同じだよ』

 

 私は菜箸で鍋の具材を掴みながら告げる。帆波ちゃんについての方針を。

 

『私は帆波ちゃんに成長してほしい。だからこそ、これからも“試練”を与えるつもりだよ。今のままじゃ乗り越えられない程度の試練をね』

 

 だから皆も協力してね、と私は協力をお願いした。クラスのためにも帆波ちゃんのためにもね。私は帆波ちゃんに期待してるのだと。

 

『藍ちゃんもいいよね? さっきから黙って食べてるけど。いや、いいんだけどね』

 

『もちろん全面的に南雲麗に従いますよ。ところでお肉と豆腐と白菜の追加はありますか? それとしめは卵雑炊でお願いします』

 

『追加はあるけどしめはうどんだよ。理由は私がうどん派だからね』

 

『断固反対します。鍋のしめは雑炊で。このことで私が譲ることはありませんよ』

 

『いや全然従ってないじゃん』

 

 ──と、試験期間中はこんなことがあった。結局しめは雑炊にしてあげた。

 

 

 

 

 

 そういうことで少し長くなったが、私はその時のことを頭の中で振り返りながら教壇で知恵ちゃん先生が説明した1年度の最後の特別試験。選抜種目試験の内容を頭の中でまとめた。

 

 ・各クラスが10種目を選択する。

 

 ・10種目は同じ種目を選ぶことが出来ず、なおかつ参加人数も別々にしなければならない。(人数は最少人数1人で最大は20人。交代を含めて20人を越えてはならず、10人を超える種目は最大2つまでしか登録できない)

 

 ・マイナーな種目、複雑な種目、ルールの制限は不可で基本ルールを逸脱する改変もできない。

 

 ・学校内の施設は基本使用可能。

 

 ・時間のかかりすぎる種目も不可。時間制限のない種目も場合によっては採用できない。

 

 ・各生徒が参加できる種目は1つまでだが、クラスメイト全員が参加した場合は2つ目に参加できる。

 

 ・対戦するクラスを決め、10種目を確定したら後にルールも含めてそれを発表する。

 

 ・更に試験当日には10種目の中から各クラスが予め決めていた本命の5種目を対戦クラスと合わせ、合計10種目を確定する。

 

 ・その中からランダムで7種目が選ばれ対決を行う。

 

 ・種目の勝敗毎に負けたクラスから勝ったクラスに30クラスポイントが移動する。

 

 ・対決に勝利したクラスはクラスポイント100を得る。

 

 ──とまあ基本ルールはこんなところだ。ものすっごいバラエティな試験。つまりはメジャーで公平で時間内に終わるものであれば大体なんでもありの対決。正直聞いててバラエティ番組にありそうな試験だなって思った。学力テストにスポーツに娯楽。それぞれのクラスが勝てると思う種目を選び、ブラフも交えつつ戦う中々楽しそうな試験だね。それに下位クラスにも十分に勝ち目がある。普通の学力テストならDクラスやCクラスがBクラスやAクラスに勝つのは難しいけど、この試験であれば学力などが関係ない種目を選ぶことによってそれはパスできる。

 もちろん相手のクラスはその弱点を突くために学力テストを種目に入れてくる可能性は高いし、そうなると後は当日にどの種目が選ばれるかの運の要素も大きい試験となっている。うん、やっぱ面白い試験だね。

 

 ただ当然この学校の試験だけあってリスクはある。これがバラエティ番組なら精々負けたクラスは電流を流されたり苦いものや辛いものを口にしたりハリセンで叩かれるくらいで済むけどこの学校の場合は増減するポイントもそれなりに大きいし、更には退学のリスクもある。そのリスクを負うのがこの試験において最も重要なポジションとも言える『司令塔』だ。それも頭の中でまとめておく。

 

 ・各クラスからそれぞれ『司令塔』となる生徒を1人選ぶ。

 

 ・司令塔は全ての種目に関与することが可能で、どのように関与するかは種目を選んだ各クラスが制定することができる。

 

 ・クラスが勝利した場合、司令塔はプライベートポイントを得るが、敗北した場合は退学となる。

 

 と、そういうわけだ。司令塔はそれぞれ種目毎に臨機応変な対応を求められる。学力テストなら代わりに問題に答えることができるかもしれないし、スポーツならまさしく監督で交代メンバーやそのタイミングを決めたりすることができるだろう。中には司令塔の関与で勝敗を左右することもあるかもしれない。

 そうなってくると当然司令塔はクラスの中で優秀な人物がやるべきなんだけど、ところがどっこい。そう単純な話ではない。勝てればそれでいいけど、もし負けたら退学してしまう。つまりはその優秀な生徒が退学してしまうかもしれないわけだ。なので司令塔選びはこれまた悩ましいんだけど……そのリスクを回避する手段こそ先のクラス内投票で与えられたプロテクトポイントとなる。

 

 つまり司令塔になる生徒はプロテクトポイントを持った生徒か、退学のリスクを承知の上で優秀な生徒を送り込むかになる。

 ただ優秀な生徒がプロテクトポイントを得ていた場合は何も悩まなくていい。勝てる可能性が純粋に高く、負けてもポイントを失うだけで退学は回避できる。

 だからこそ私の率いるAクラスは悩まなくていい。プロテクトポイントを持ってるのは私でここまでAクラスを率いてきたリーダーも私。いつも通り私に任せていればどうにかなる。クラス内の空気もそんな感じだ。皆、私が司令塔を務めていつも通り勝利に導いてくれるものと期待している。

 

「──帆波ちゃん」

 

「! 麗ちゃん……」

 

「どうする? この内容だとリスクも大きいけど……やっぱりやめとく? 帆波ちゃんが決めていいよ」

 

 ──が、今回は残念ながらそうはいかない。

 

 放課後の話し合いの最中。私は帆波ちゃんに声をかけて改めて確認を行う。本当にいいの? と。今ならまだ引き下がることも私は全然許す。その場合は色々と予定を変更する必要があるけど、それはそれで面白そうだし全然構わない。

 だけど帆波ちゃんは僅かに逡巡し、胸の前でぐっと手を握り込む。覚悟の表れってところかな。真剣な表情で私を真っ直ぐみて頷き。

 

「……うん。大丈夫。このクラスなら勝てるって私は信じてるし……何より、私が勝利に導いてみせるから」

 

「──そっか。なら好きにしていいよ。私はちゃんとクラスの一生徒として協力させてもらうからさ」

 

「うん、ありがと。正直なところ麗ちゃんが司令塔じゃないのも勝因が高いと思ってる要素の1つだからね」

 

「それはそうだろうね。それじゃ、後は頑張って。隆二くんもいいね?」

 

「……ああ。俺もまた関与はしない。一生徒として一之瀬の采配に従い、クラスの勝利のため努力させてもらおう」

 

「ありがとう。不安かもしれないけど任せて。絶対に勝ってみせるから」

 

 続いて隆二くんにも確認を取る。隆二くんは険しい表情ではあるものの帆波ちゃんに向けてしっかり宣言を行う。帆波ちゃんも隆二くんに礼を言って、その上でクラスメイトの方に向き直った。

 

「えっと……何の話?」

 

「司令塔じゃないって言ってたけど……」

 

「いやいや……それはないんじゃ……」

 

 クラスの皆はざわつく中、帆波ちゃんは深呼吸をし、落ち着いた様子でクラスメイトを見渡す。仲良しこよしのAクラス。帆波ちゃんが変わらず守りたいと思うクラスの皆の表情を確認した上で、帆波ちゃんは今回の試験の布陣を説明するのだ。

 

「皆、聞いてたと思うけど今回の試験……私は司令塔としてクラスを率いて戦おうと思うの」

 

「え……?」

 

「一之瀬さんが……?」

 

 その宣言を改めて聞いたことでクラス内のざわつきが更に大きくなる。静かなのは予めそれを耳にしていた私や隆二くんなどの一部の面々だけ。

 

「いやいや、ちょっと待てよ一之瀬! 司令塔って……もし負けたら退学になっちまうんだぜ?」

 

「もちろん。それはわかってるよ」

 

「わかってるならいつも通り南雲に任せた方がいいだろ? その方が勝率も高いだろうし……皆もそう思うよな?」

 

「そ、そうだよ! 麗ちゃんに任せたほうがいいと思う!」

 

 最初に異論を発したのは柴田颯くんだ。颯くんは帆波ちゃんのことが好きだし、もちろん友達としても仲間としても大事に思ってる。だから帆波ちゃんが司令塔を務めることをすぐに納得出来なかったし、続く白波千尋ちゃんも同じだ。この2人は特に帆波ちゃんを大事に想ってるからね。そりゃ認められない。

 だけど私に任せた方がいいって発言は今の帆波ちゃんにはあんまりよろしくない。私に任せすぎないためにこうやって前に出てきている今の帆波ちゃんにはね。

 

「心配してくれてありがとね。柴田くん、千尋ちゃんも。だけど麗ちゃんと相談してもう決めたことなんだ」

 

「い、いやでもよ……」

 

「そんな……」

 

 はっきりと帆波ちゃんがそう言えば2人も二の句を継げない。

 簡単に認めるわけにはいかないが、クラスのリーダーである私とその参謀である帆波ちゃんとの間で決まったこと。これに異を唱えようと思うならそれなりの度胸としっかりとしたロジックがいる。

 私が司令塔を務めた方が勝率が高い。今までの実績からそう言うのは簡単だけど、当の私が司令塔を帆波ちゃんに任せると決めてる以上は説き伏せるのは容易ではない。

 もう1人のサブリーダーである隆二くんは腕を組んだまま目を瞑って押し黙っているし、それに続く突出した生徒である哲也くんや他の生徒も何も言わない。なら言葉を続けるのは帆波ちゃんになる。

 

「それに私が司令塔になった方が勝率は高くなる。私はそう考えてるよ」

 

「……もしかしてさっき話してた麗ちゃんが司令塔じゃないっていう?」

 

 さっきの話から推測した網倉麻子ちゃんがそう尋ねた。帆波ちゃんは頷く。

 

「そうだね。司令塔は全種目に関与できるみたいだけど、それでも重要なのは個々の実力と種目に参加する人同士の連携になると思う」

 

「相手クラスが発表した10種目の中から本命の5種目を推測、調()()()()()()()重要だろうな。それが分かれば対応する手間が少なくなる」

 

「……うん。それもそうだと()思うよ。ただ、だとしても何が来ても大丈夫なように備えておくことが重要だと思う。推測はもちろんするけどそれでも絶対じゃないしね」

 

 席に座ったまま隆二くんが一生徒として意見し、帆波ちゃんはそれに答えるがその言葉選びには含みが多分に含まれていた。

 推測だけでなく調査という言葉を使った隆二くんは暗に対戦クラスの内偵を行い、本命の5種目を暴き出すことを提案しているし、そうだとは思うと戦略上の有利を認めつつも裏工作を行いたくない帆波ちゃんは推測することのみに言及して何が来ても対応できるように備えると自身の戦略を発表した。

 それによる隆二くんのアクションはない。あくまで一生徒としての意見であり、試験を率いるリーダーにそれを拒否された以上は物申さないという姿勢を見せている。この辺は私からも言っておいた。勝手に隆二くんが動いて勝利したところで意味がない。帆波ちゃんは帆波ちゃんの力で試験に挑んでもらいたい。

 

「だから何が来てもほとんど対応できるし、絶対に負けないような種目が幾つもある麗ちゃんが種目に参加できるのはかなり勝率を上げることになると思う」

 

「あー……それは確かにあるよな」

 

「勉強でも運動でもクラスで1番だしね」

 

「南雲麗の多才さは学年全体で見ても並ぶ者はほぼいないと思われますし、勝率が上がるという根拠にも頷けますね」

 

「いやーそれほどでもないけどねー」

 

 渡辺紀仁くんや小橋夢ちゃん。そして森下藍ちゃんがそれぞれ私の万能さを称賛する。うんうん、当然過ぎるし慣れまくってるけど気分は良い。とりあえず自慢気に胸でも張っておこう。ついでに胸の大きさもトップだ! 

 ……ただ藍ちゃんがほぼいないってのは少しだけむっとした。まあ事実だからいいんだけどさ。綾小路くんとか高円寺くんの総合値は私以上だろうし。

 だけど条件さえ守れば娯楽なんかも認められる今回の試験においてはその2人相手でも絶対に負けないこともできる。クラスの勝ち負けは別として、種目によっては彼らも対応できないだろう。

 そういう意味じゃ私の総合力は2人よりも上かもしれないね。私って本当になんでもできるからさ。頭の良い人たちがくだらないと切り捨てるような遊びも含めて。

 

「一之瀬さんと南雲さんがしっかりと戦略を考えた上でそうすると決めたのなら異論はないよ」

 

「ありがとう浜口くん」

 

「ただ1つ質問なんだけど対戦相手はどのクラスにするつもりだい?」

 

 その皆が気になっている純粋な質問を哲也くんが代表して帆波ちゃんに伝える。

 帆波ちゃんが司令塔を務めることにまだ若干の不満や不安を抱えている人はいるようだけど既に場の空気は如何に勝利するかという戦略的な部分に移行していた。今まで勝利してきたAクラスの自負からだろうか。リスクを考えながらも勝てると信じている。

 まあ実際、この試験内容なら普通にやれば高い確率で勝てると思う。Aクラスの総合力は高いし、連携も十分。突出した能力についても私がカバーできることを考えると相手からすれば結構嫌だろう。

 

 ──ただまあ、帆波ちゃん。気をつけた方が良いよ。

 

「そうだね。対戦相手は……もしくじ運が良ければだけど──」

 

 今の一学年──いや、この学校を取り巻く状況は混沌。複雑怪奇。

 思惑が動きすぎて私でも有利な立ち位置をキープするのに苦労するくらいなんだから。

 

「──Dクラスを選ぼうと思ってる」

 

 そしてそんな帆波ちゃんは対戦相手にDクラスを選んだ。以前とは違い、出来れば戦いたくないと私情を踏まえて選ぶのではなくクラスのために確実に勝てると思うクラスを選ぶ。

 果たしてこれが吉と出るか凶と出るか……それは帆波ちゃんの手腕次第だ。

 てなわけで頑張ってね、帆波ちゃん。私はちゃんと一生徒として全力を出すからさ。完璧超人アイドルの麗ちゃんという鬼札を持ってる以上、負けたら結構落ち込むことになっちゃうよ? 

 

 

 

 

 

 ──1年生の最後の特別試験。選抜種目試験を行うことが通知され、Dクラスでは紆余曲折の末に恵が司令塔になることが決まって少し。

 

『ごめん清隆。対決相手Aクラスになっちゃった』

 

 ──そんな連絡を対戦クラス決めの日に恵から受け取り、プロテクトポイントを持たず、それゆえに司令塔にも選ばれるわけのないオレは一生徒としていつものグループと過ごしたり、堀北や恵の相談相手になったり、恵にホワイトデーのお返しをしたりと普通の生徒らしい生活を送れている。

 

 だがそのホワイトデーの翌日だった。対戦相手のAクラスの10種目がDクラスにも通知され、オレは教室で堀北の口からそれを耳にした。

 

 ・『将棋』 必要人数1人 持ち時間1時間(切れ負け)

 ルール 通常の将棋ルールに準ずる。相入玉の際は持将棋で勝敗を決める

 司令塔 任意のタイミングで持ち時間を使い、最大30分間指示を出すことができる

 

 ・『カラオケ』必要人数2人 時間1時間

 ルール カラオケAIによる採点機能を用い交互に選曲した曲を歌って2人の合計点数が高い方が勝利となる。引き分けの場合はどちらか片方がもう1度、別の曲を選んで歌う。それでも引き分けの場合はくじで勝敗を決める

 司令塔 一度だけ採点を無効にし、選曲からやりなおすことが出来る

 

 ・『ゲーム』必要人数3人 時間1時間

 ルール eスポーツゲームタイトルの中から学校側がランダムにソフトを1つを選び、それによる1対1の対戦を3回行う

 司令塔 一度だけ勝負を無効にし、対戦をやりなおすことができる

 

 ・『クイズ』必要人数4人 時間20分

 ルール 学校側の用意した5つのジャンル「スポーツ」「芸能」「アニメ&ゲーム」「歴史」「科学」の中からランダムに20問が出題され、その得点数で競う

 司令塔 予め1問だけジャンルを指定できる

 

 ・『フットサル』必要人数5人 時間制限20分(10分2回)

 ルール 通常のフットサルのルールに準ずる

 司令塔 任意のタイミングでメンバーを2人まで入れ替えてもいい

 

 ・『バレーボール』必要人数6人 時間制限10点先取3セット

 ルール 通常のバレーボールのルールに準ずる

 司令塔 任意のタイミングでメンバーを2人まで入れ替えてもいい

 

 ・『国語テスト』必要人数8人 時間50分

 ルール 1年度における学習範囲内の問題集を解き合計点で競う

 司令塔 1問だけ代わりに答えることが出来る

 

 ・『化学テスト』必要人数9人 時間50分

 ルール 1年度における学習範囲内の問題集を解き合計点で競う

 司令塔 1問だけ代わりに答えることが出来る

 

 ・『数学テスト』必要人数19人 時間50分

 ルール 1年度における学習範囲内の問題集を解き合計点で競う

 司令塔 1問だけ代わりに答えることが出来る

 

 ・『ドッジボール』必要人数20人 時間制限10分2セット

 ルール 通常のドッジボールルールに準ずる。1勝1敗の場合はサドンデス

 司令塔 任意のタイミングでアウトになった選手を1人コートに戻すことができる

 

 その種目の内容を見てクラス内がどよめく。

 やはりAクラスは一筋縄ではいかない。そんな予感がする10種目にDクラスは早速話し合いを行うことになった。




選抜種目試験編の開幕です。麗ちゃんが強い試験です。ちなAクラスの種目内容は結構前から決まってたけどゲームはタイトルによるしゲームって時点でマイナーでは……? ってずっと悩んでた。でも月城理事長代理なら「昨今はeスポーツの発展も目覚ましいものがあり、日本はそれにおいて遅れを取って――」とか綾小路くんを退学させるためあーだこーだ言って認めてくれそうな気がしたのでということで認めました。まあ引き分け率高いチェスよりは勝敗がはっきりつくから……ってことで組み合わせは
(南雲クラス)AクラスVS(堀北クラス)Dクラス
(坂柳クラス)BクラスVS(龍園クラス)Cクラス

となりましたのでお楽しみに。

感想、評価、良ければよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。