ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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一般高校生と善人美少女の立ち上がり

 

 Aクラスの10種目が発表された直後の話し合いで皆が気になったのは思ったよりもバラエティに富んだ10種目であったからだ。

 

「カラオケにゲームにクイズって……なんか思ったより遊びの種目も多くね?」

 

「スポーツも3種目も入ってるな。てっきり学力テストで固めてくると思っていたんだが……」

 

「それでいて学力テストも抜け目なく必要人数を多めにして入れてきているわ。求められる能力の違う種目がバランス良く選ばれてる。さすがはAクラスといったところね」

 

 Aクラスの強みはその能力のアベレージの高さと連携力。

 その観点から見ると学力テストはDクラスより大きく勝るのは言うまでもなく、スポーツにおいてもフットサルにバレーボールにドッジボールとどれも連携が求められる種目だ。

 その上で将棋にカラオケ。ゲームとクイズという池が言うように遊びとも言えるような種目も入っているが、種目として選んだのは遊びやお巫山戯なはずはなく当然勝ちを見込めるからこそ入れてきたのだろう。

 

「でもよ。カラオケやゲームってどうなんだ? 普通にこっちにもワンチャンありそうじゃね?」

 

「確かに。私カラオケなら結構行けるかも?」

 

「俺もゲームならいけるぜ! 外村とか本郷も結構行けるよな?」

 

「まあ……」

 

「でもタイトルがランダムってのは微妙じゃないか?」

 

 池の発言を発端に男子はゲームならいける。女子はカラオケなら少しは自信があるという会話が幾つか行われる。

 実際、それらの種目は勉強やスポーツよりも取っつきやすく上位クラス相手でも勝利が見込めるように思える。

 だけどそれはAクラスにいる生徒のことを考えると厳しいかもしれない。そのことを堀北が指摘した。

 

「ゲームについてはともかく、カラオケで勝つのはかなり難しいと思うわ。向こうには南雲さんという歌のプロがいるのだし」

 

「あっ、そっか……!」

 

 思わず失念していたという反応を見せた篠原。カラオケという自分でも出来そうな種目が出てきたことで上がったテンションが即座に盛り下がる。

 

「そういえば今回の司令塔は南雲さんじゃなくて一之瀬さんだったっけ……そりゃ無理よね。あたしもカラオケはちょっと行けるかもって思ったけど南雲さんの歌はかなりヤバいし」

 

「参考までに聞きたいのだけどカラオケの最高点数を教えてもらえるかしら。それと南雲さんの点数を知ってる人がいればそれも教えて」

 

「えーっと……大体80点台後半とか90点ちょいくらいかな」

 

「南雲さんとカラオケに行ったことはあるけど点数機能を付けてやったことはないからちょっと……でも噂だと100点が当たり前って聞いたことあるかも」

 

「ならやはりカラオケで勝ちを拾うのは厳しいでしょうね……人数は2人とはいえ南雲さんが出てきて確実に100点を取ってくるなら仮に相手のもう1人が90点だったとしてもこっちはどちらも95点以上を取る必要がある」

 

「ならカラオケは捨てるのか?」

 

「いいえ。それでも点数によっては勝ち目がないとは言えない。一応、後で全員のカラオケでの最高点数を教えてちょうだい」

 

「あー、それじゃあたしがまとめておこっか?」

 

「ええ、お願い軽井沢さん」

 

 堀北はカラオケでの最高点数を恵に教えておくようにと皆に伝える。恵が司令塔になることが決まってから堀北は恵に付きっきりで戦略を教え込んでいる。この種目が得意なのは誰と誰で、仮に捨てる場合や無難な人選をする場合はこの生徒が良いなどの生徒の選択に関することで、Aクラスの10種目が発表されたことでこれから更に堀北と共に詰めることになるだろう。司令塔に選ばれてから頭がパンクすると弱音を毎日のように吐いて少し荒れてはいたが、ホワイトデーでお返しをして頑張ってくれと応援したおかげか少しはやる気を出してくれているようだ。

 ただ幾ら堀北が戦略を考え、恵が努力したとしても生徒の能力を変えられるわけじゃない。特に南雲麗。今回司令塔ではなく一生徒として出てくる南雲はこの上なく厄介な生徒だった。

 

「そういやカラオケで麗ちゃんの話になって思い出したんだけどよ。麗ちゃんてゲームもめちゃくちゃ上手かったよな……?」

 

「将棋もなんかテレビでやってなかったっけ? ほら、南雲さんが冠の色んなことに挑戦していくやつ」

 

「あー……そういや見たことあるなそれ……プロ棋士と対局して勝ったって記事にもなってなかったか?」

 

「東大生とか出てくるクイズ番組とかでも優勝してたよね……」

 

「スポーツもかなり出来るだろ。前にバスケで1on1やったことあるが……正直かなり動けてたからな」

 

「そもそも麗ちゃんに苦手な種目ってあるのか……?」

 

 池の言葉を皮切りに波瑠加や明人。愛里や須藤からも南雲の能力についての情報がもたらされる。

 そして最後に池の言葉で締められるが……それだけ聞いても南雲がどれだけ才能に溢れた生徒なのかがよく分かる。負けるイメージがあまり湧かない。Dクラスで言うなら高円寺に近いだろう。

 もっとも能力の高さは高円寺の方が上に思えるが、統率力や洞察力。コミニケーション能力といった部分まで含めるとそうとも限らない。競う種目によっては南雲が勝利することもありえるかもしれない。

 ただそうなってくるとDクラスとしては悩ましい。Dクラスの種目は『タイピング技能』『バスケットボール』『英語』『弓道』『水泳』『テニス』『卓球』『サッカー』『ピアノ』『じゃんけん』となっているが、その種目を得意とする生徒を出しても南雲が出てくればそれだけでひっくり返される可能性は全然ある。

 おまけに向こうの司令塔は南雲には劣るとはいえ総合的に能力の高い一之瀬でこちらは能力としては平均的な恵だ。普通に戦えばDクラスが勝利できる確率は……10%から20%ってところか。

 相手が一之瀬なら真正面から試験に臨んでくるため、策略などを行ってくる可能性はまずない。それは良いとしても、1つ自分を乗り越えた一之瀬が手強いことに変わりない。

 

「……とりあえず各種目の経験者の把握から始めましょう。南雲さんは確かに脅威だけどそれでも競技に参加出来るのは1回。多くても2回よ。勝敗に関われるのもそれだけなのだから必要以上に恐れる必要はないわ」

 

 堀北がそう締めくくって士気をある程度取り戻す。

 Dクラスは平田のことや、今は大人しいとはいえ櫛田や松下の問題もある。それらの問題をクリアしなければこの試験は厳しいものとなるだろう。オレも少しは準備しておくか。

 

 

 

 

 私はこの学校にやってきて本当に良かったと思ってる。

 その理由は幾つかあるけれど、1番は周りに恵まれたことだ。

 学校の門をくぐって最初に出会った相手を見て驚いた。その相手はテレビで見ていたアイドル──南雲麗ちゃんだったから。

 思ったよりも気さくでノリも良くて頼もしい。そんな相手と友達になり、配属されたBクラスでも沢山の仲間を得た。

 学校の仕組みを知らされてからは驚いたし、麗ちゃんの皆をまとめる力。頭のキレは本当にすごくてあっという間にクラスをAクラスまで押し上げた。

 ただその戦略にはちょっとだけモヤモヤするところもあったけど……それでも麗ちゃんやクラスの仲間を信じてここまでやってきた。生徒会にも少し遅れて所属し、生徒会長を務める麗ちゃんのお兄さんでもある南雲雅生徒会長にもお世話になった。麗ちゃんの能力の高さは当然、南雲先輩も認めるところで麗ちゃんはすぐにもう1人の先輩と共に副会長に任命された。

 そしてそんな誰もが認める親友を間近で見ていて、私はすごく憧れた。私もこんな風になりたい。認められたい。自分に恥ずかしくない自分で在りたい。

 

 そう……そう思ったからこそ、黙ってはいられなかった。

 

 クラス内投票という特別試験。クラスから1人はほぼ確実に退学者が出てしまうその試験において、麗ちゃんがクラスから退学者を出すと告げてきた時、私は反対した。

 Aクラスは2000万以上のプライベートポイントを保有している。それを使えば退学は取り消せる。

 それなのに麗ちゃんは能力の低い生徒をリストラすると無慈悲に告げた。そしてそれに神崎くんや浜口くん。他の子たちも賛同した。

 もちろんクラスの総意であるならそれは仕方がないのかもしれない。もしかしたらこれは私のワガママなのかもしれない。麗ちゃんがそうすると言ったのならクラスの皆は不安に思いながらも従うかもしれない。

 だけど、それでも私はクラスから誰かが欠けることを認められなかったし、退学者を出さない方がこの先の試験を乗り越える上で力になると信じていた。

 それに私は麗ちゃんの親友で、彼女を支える役目でもある。私なんかがサブリーダーとしてクラスをまとめるのは少し荷が重いかもしれないと思った時もあったけど麗ちゃんやクラスの皆がそれを認めてくれた。

 だからその役目を全うする。私は麗ちゃんの条件通り、1000万ポイントをどこからか調達して退学者を出さないよう動くことにした。麗ちゃんのやり方を変えてもらうには試験の後でいい。浜口くんにそう言われたし、冷静になって考えてみればそうするのが筋だと自分でも思ったからだ。

 

『聞いたぜ帆波。困っているそうだな? 良ければ力になってやろうか?』

 

 最初に力を貸すと言ってくれたのは南雲生徒会長だった。

 1年生で行われている試験のことを聞きつけ、退学者を出さないために必要な1000万ポイントを貸してやってもいいと言われた。

 ただしその条件は彼と付き合うこと。そんな風に言われて動揺しなかったと言えば嘘になる。私と先輩とじゃ全然釣り合ってないし、むしろポイントを払ってお願いするような立場のはずだ。

 だけど先輩はその条件でいいと言ってくれたし、とてもありがたい申し出でもあった。

 

 ただ……そのやり方はきっと正しくはない。

 

 それでも仲間を守るためなら仕方ないのかもしれない。そんな迷いがふとした時に何度も頭の中で駆け巡った。他の方法も模索するも1000万ものポイントを調達する方法なんて思いつかない。

 

『南雲生徒会長に協力を持ちかけられたんじゃないかと思ったんだが』

 

 だからこそ、彼に……綾小路くんから声を掛けられた時は驚いた。

 放課後に寮の前でばったり出くわしてその流れで綾小路くんに何気なく試験のことについて相談した時のことだ。元々綾小路くんとは一学期に須藤くんが暴力事件の冤罪をかけられた時に知り合って話すようになった。夏休みには一緒に遊んだこともあったし、口数はそれほど多いわけじゃないけど不思議と話しやすい……そんな人。

 そしてそんな綾小路くんは朝比奈先輩から私に南雲生徒会長が付きつけた条件を聞いていて、それで心配して声をかけてくれたみたいだった。正直心配してくれて嬉しかったし、やっぱり綾小路くんは凄い人なんじゃないかとも思った。麗ちゃんも気にかけてるみたいだし、体育祭では堀北元生徒会長と南雲生徒会長を上回る足の速さも見せていたし。

 だけどそんな綾小路くんでもこの取引が正しいものかは分からないし、仮に分かっても私の迷いが晴れることはないと思う。

 結局は自分で決めるしかない。綾小路くんと話したことで余計にそう思い、私は南雲生徒会長の申し出を受ける覚悟を決めようとした。

 

 ──だけどその数日後。夜も遅い時間に再び綾小路くんから連絡があった。

 

 メールの内容を見て驚いた。中には連絡の理由とその簡単なあらましが書いてあったから。

 私はそれを見て綾小路くんの部屋に向かった。そしてそこで待っていたのは綾小路くんだけではなくて。

 

『よう一之瀬。こんな時間に男2人がいる部屋にやってくるなんてな。良い度胸じゃねぇか』

 

『……こんばんは龍園くん。あはは……なんというか、本当に居るなんてね。綾小路くんの冗談なんじゃないかってちょっとだけ疑っちゃったよ』

 

 その相手はCクラスのリーダーだったはずの龍園くん。

 噂では既にリーダーをやめて大人しくしてるはずの彼が、綾小路くんの部屋で私を待ち構えていた。そのことに少しだけ身体が強張って愛想笑いを浮かべちゃったけど今回は大丈夫。綾小路くんもいるし、それに今回は協力を持ちかけてきた相手だったから。

 

『リーダーはやめたんじゃなかったの?』

 

『クク、さてなぁ。俺が今もCクラスを支配するリーダーかどうか。それが取引に関係あるのか?』

 

『……そうだね。ごめん。でもさすがに気になっちゃって。元々半信半疑ではあったけどさ。まさか龍園くんが声を掛けてくるなんてさ。それに綾小路くんとは……』

 

『こいつにはただの仲介役を任せただけだ。お前と妙に仲が良いって聞いたもんでな。こいつからの呼び出しならお前も真面目に受け取る可能性も高いだろ? 実際、こうして夜中にも部屋までやってくるくらいだしなぁ?』

 

『もう、そんなんじゃないって。確かに仲は良いと思うけどね。……それで、取引ってのはもしかして称賛票とポイントの交換条件かな?』

 

『ああ。Aクラスが持つ称賛票の半分を俺に寄越せ。代わりに俺がお前が麗から持ちかけられた1000万ポイントを用立ててやるよ』

 

 この場にやってきた時点である程度予想はしてたけど龍園くんが持ちかけてきたのはやっぱりそういう取引だった。

 退学を回避するために必要な他のクラスからの称賛票。龍園くんはリーダーを降りたことでクラス内の不満もあって退学候補になっているらしいからそれを回避するために必要なのだろう。

 それを思うと龍園くんがリーダーの座を降りたのは本当かもしれないとも思う。もしまだクラスをまとめていたならこんなことをする必要はないからだ。

 でもだとしたらどうして隠れた取引とはいえこの場にやってきたのか。退学を回避するためだけの行動なのか、それともまだなにかを企んでいるのか。相手が龍園くんなだけに色々と考えてしまう。

 ただそれも取引とは関係のないことだ。

 

『そのことも知ってるんだね……綾小路くんから聞いた?』

 

『さてな。もしかしたらお前のクラスに俺に情報を与えたスパイがいるのかもしれねぇぜ?』

 

『答えるつもりはないってことだね。綾小路くんは……ううん。それも今は関係ないね。わかった。いいよ、称賛票については私が麗ちゃんに確認して言っておく』

 

『そう簡単に決めちまっていいのか? 罠の可能性だってあるんだぜ?』

 

『本当に罠をかけるつもりならそんな風に確認はしない……ってのは龍園くんに限ってはわからないけどね。どの道私には選択肢はないよ。仲間を守るためだし、龍園くんにだって退学してほしいわけじゃないしね』

 

『クク、とことんお人好しだな。だがおまえとしてもポイントで身体を売るよりは遥かにマシだろう。しかも相手が腹黒い生徒会長サマだしなぁ』

 

 龍園くんからの下品な言葉には少し気分を悪くするけど、そう罵られても仕方ないことでもある。だからそれには反応せずに代わりの言葉を紡いだ。

 

『それにしても龍園くんがポイントをそんなにも貯め込んでたなんてね。Bクラスからの毎月のポイントと……後は船上試験の時に得たポイントを丸々持ってたのかな』

 

『ま、そんなところだ。別に2000万払って退学を阻止してやっても良かったんだが安く済ますのに越したことはないからな』

 

『うん、おかげで私としても助かるよ。なら念の為書面に残しておいてもいいかな?』

 

『それなら既に用意してある。俺のサインは済ませてあるからさっさと読んでサインしな』

 

 龍園くんから渡された1枚の紙を受け取り、そこに書かれた内容を一応しっかりと読み込む。龍園くんが相手なら幾ら警戒してもしたりないってことはない。

 ただこの場合は杞憂だったようで書類に難しい言い回しや穴はなかった。私が1000万ポイントを受け取り、代わりにAクラスの称賛票の半分に当たる20票を龍園翔に投票する。仮にこの書類がどうにかなっても立会人として綾小路くんもいるし、問題はないだろう。

 

『これで取引成立だ。それと言うまでもねぇがここでの取引は他言無用だ』

 

『うん、もちろん。龍園くんに、綾小路くんもありがとね』

 

『オレはあくまで仲介しただけなんだけどな』

 

『それでもありがとう。おかげで仲間を守れるからね』

 

『クク、せっかくならこのままこいつの部屋で遊んでいくかよ』

 

『ちょっとだけ楽しそうだけど遠慮しておこうかな。今日はもう夜も遅いしね』

 

 そんな経緯で私は龍園くんと綾小路くんに別れを告げ、ポイントの振り込みを確認して部屋に戻った。……正直龍園くんと綾小路くんにどんな関係性があるのかはちょっと気になったし、龍園くんがまたリーダーに戻ったのかどうかも気になったけど向こうも私の噂については突っ込んで来なかったし、取引を受けてくれた誠意としてそれは私の心の中に秘めておくことにした。

 

 ──そうして私は次の日にすぐに麗ちゃんにそのことを伝えた。その上で批判票は念の為私に集めるようにクラスの皆にも言ってそれで同意を得た。とはいえ批判票は別の人に集めることにはなったけど。私だと他のクラスからの称賛票が来てしまう可能性もあるから。それはありがたかったけど少しだけ申し訳ない。万が一の時は私が退学する。そんな覚悟を持っていたから。

 

 

 

 

 

 クラス内投票は無事に2000万ポイントを支払うことで退学を回避することができた。その陰で他のクラスでは退学者を出していて、Dクラスからは山内くん。Cクラスからは時任くん。そしてBクラスからは葛城くんの側近だった戸塚くんが退学してしまうことになり、私は寂しさを感じたけどそれもしょうがなかった。全員を助けることはできない。

 

 ただそうして試験が終わった時、私は思った。もしかしたら麗ちゃんは最初からこうするつもりだったんじゃないかと。

 龍園くんが言っていた。安く済ませるに越したことはない。それは麗ちゃんも同じで2000万を払って退学を取り消すことは出来るけど、どうせなら安く済ませるためにどこからかポイントを調達してくる。その役目を私に任せて、私を試していたんじゃないかと、そんなことをふと思った。もしそうなら麗ちゃんは最初から退学者を出すつもりはなかったことになる。

 

 だけど、それは麗ちゃん自身が否定した。

 

『いや? もし集められなかったら普通に誰か1人を選んでたよ? 安く済ませられるならその方がいいしね』

 

 試験直後。私が直接問い質した際に麗ちゃんはそう言った。安く済ませられるなら。つまりは私を試していたのは事実で、その上でもし私が期待に応えられないのであれば誰かがクラスからいなくなっていたことになる。

 それを聞いて私はやっぱりそのやり方は間違っていると思った。麗ちゃんが個人でクラスから徴収したポイントの使い方を、クラスメイトの生死を左右するようなやり方は正さないといけない。

 勿論ここまでクラスが躍進したのは麗ちゃんのおかげでクラスのリーダーは麗ちゃんを措いて他にはいない。だからリーダーの座から下ろすことも考えていないし、私が取って代わろうなんて気は更々ない。

 だけどやり方をほんの少しだけ変えてほしかった。そのために、私は麗ちゃんにそのやり方は認められないと宣言した。

 その上で麗ちゃんは拒否し、だけどチャンスをくれた。次の試験でそれを証明する。私のやり方で試験に勝てるのか。

 もし勝てたら私の提言を聞いてこれからはクラスの仲間を優先し、退学者が出てしまう試験の際はそのリスクを回避することに全力を注ぐ。

 だけど負けた場合はその限りじゃない。私もそれに従う。意見を言うことをやめる必要はないし、これまでと変わることはないとは言われた。

 でもこれは私の中の問題だ。私自身を納得させるためのもの。麗ちゃんの親友として相応しいかどうか……自分自身の価値を証明するためのものだ。

 

 だから今回の試験で負けたクラスの司令塔は退学というリスクを伝えられても私の意思は変わることはなかった。

 

 退学はしたくない。そうは思うけど、もし負けたら退学しても仕方ないなとも思う。クラスの皆はやめたほうがいいと言ってくれたけど、私は私で流れ始めている噂に、クラスの足を引っ張っている自覚があったから。

 

 ──その噂は私が犯罪者であるということ。クラス内投票の途中で流れ始めた……紛れもない事実に関する噂だった。

 

 中学の時に私が妹のために万引きを行ったという話。それを明かしたのは南雲生徒会長だけだが、誰が明かしたかというのはこの際どうでもいいし、そうなっても仕方のないこと。私が罪を犯したのは変えようがない真実だからだ。

 だからそれを理由に責められたら私は否定できない。恥ずかしいとも思う。Aクラスのサブリーダーとして相応しくない。

 ましてや麗ちゃんは今は休業中とはいえアイドルだ。万引きをした事実のある私と一緒にいることで騒ぎ立てられる……そんな可能性だってないとは言いきれない。それでAクラスの皆や麗ちゃんに迷惑をかけるくらいなら……ここで学校を去ってしまうのも1つの手だと思う。

 でもここで私がもしクラスを勝利に導けるなら……1度待ってもいいかもしれない。その時は麗ちゃんやクラスの皆にも私がしたことを告白してもいいかもしれない。麗ちゃんのことだから既に知っている可能性もあるかもしれないけど、そんなことを考えた。

 

 ただ噂は日増しに広がっていって私の心を蝕んだ。罪を犯した私が一時的とはいえクラスをまとめていることに罪悪感と違和感を感じる。

 それでもクラスに迷惑をかけるわけにはいかないと踏ん張った。クラスの勝利のために集中した。

 

「少しいいか? 良かったら返事をしてくれ」

 

 ただそんな時に声をかけてくれたのは、またしても綾小路くんだった。

 Aクラスが勝利するための種目選び。相手が持ってくるであろう種目への対策。それらを理由に友達との関わりを避けて放課後はすぐに家に帰り、それでは飽き足らずそれを理由に学校を1日休んだ時のことだ。

 玄関前に現れた綾小路くんはインターホン越しにそう言ってきた。私が学校を休んだことを聞いて心配してきてくれたのだろう。

 そうやって声をかけてくれた人は他にもいたけれどそれらは断っていた。戦略を考えるから。ほんの少し調子が悪いだけだから心配しないで。そんな言葉で自分を誤魔化した。

 だけど綾小路くんにはひょっとしたらお見通しだったのかもしれない。断りの連絡は入れてなかったけど、私を心配した綾小路くんはその日だけでなく次の日も私の許を訪ねてきた。

 次の日は学校を休まなかったけどそれでも少ししんどくて放課後になるとすぐに家に逃げ帰るように閉じこもった。心配はかけられないし、麗ちゃんにああ言った以上はクラスのために全力を尽くす必要がある。だから改めて情報を整理しながら試験に集中して忘れようと思った。……それでもふとした時に頭を過る自分の罪に、心が押し潰されそうになった。

 そんな私に声をかけにきた綾小路くんに、最初は敵情視察なのかなと思ったけどそういうわけではないことはすぐにわかった。彼は純粋に私を気にかけてくれただけ。

 そんな綾小路くんの訪問が数日は続いた頃、私は苦しくなった。

 そうやって訪ねてきてくれることも申し訳ない。今回は対決する敵とはいえ綾小路くんも大事な友達。試験に集中してほしいとそう思った。

 ただそれでも嬉しく感じている自分もいて。だからか私は綾小路くんに理由を尋ねた。どうして私のことを気にかけてくれるのかと。

 

「オレはおまえが犯した罪がなんであるか知ってるんだ」

 

 綾小路くんはそう言った。それゆえに私がそのことを打ち明けてくれるのを待っていると、そう告げた上で。

 

「一之瀬は多分、自分の悩みを他人に打ち明けるのが苦手なんだろう。他人は救えても自分を救えない。そんなタイプだ」

 

 綾小路くんの言葉は的を得ていた。他人は救えてもって部分は過大評価かもしれないけど他人に打ち明けるのが苦手ってのは当たっている。

 

「どうする一之瀬。今はおまえの正念場だぞ」

 

 そう、今が私の正念場。私がクラスの一員として、麗ちゃんの隣に立っていられるか。そのやり方を正すという役目を全う出来るかの正念場だ。

 私は罪を犯しているし、少し噂を流された程度で弱ってしまう情けない人間だ。

 それでも私はいいのか。

 

「すべての人間には許される権利がある」

 

 綾小路くんの淡々とした優しい言葉を聞いて、気がつけば私は罪を告白していた。

 扉の前で私は涙を流した。綾小路くんはそれに相槌すら打たない。だけどそれでも聞いてくれる気が、受け入れてくれる気がした。

 だから私はそこで初めて自分自身の罪と弱さに向き合えた。綾小路くんが黙ってそこから去り、私も一晩経った次の日に覚悟を決めて罪をクラスの皆にも伝えることにした。

 私の告白を聞いた皆は驚いていたけど……それでも皆もまた受け入れてくれた。

 

「大丈夫だよ帆波ちゃん」

 

「麗ちゃん……」

 

「自分の弱さを認めることが成長の第一歩。ここで皆の前で告白したことで帆波ちゃんはまた1つ成長できた」

 

「でも私は……その、麗ちゃんのやり方を否定して……」

 

「それとこれとは全く別の話だよ。意見が別れても私と帆波ちゃんが親友であることには変わりないんだから。友達が成長してくれたこと。私はそれを嬉しく思うかな」

 

「……ありがとう」

 

「とりあえず試験のことは別としてスキャンダルについては対応しておかないとね。大丈夫大丈夫! 私こういうのには慣れてるからさ。火消ししとくね」

 

 そして麗ちゃんもまた私を受け止めてくれた。

 方針の違いで揉めたことは別。麗ちゃんも私のことを心配してその後のフォローに動くことを決定した。

 

 ──実際、その数日後には噂の流布は止まり、安易な誹謗中傷は行わないようにと学校側から通達があった。

 

 きっと麗ちゃんが動いてくれたおかげだろう。学校側に訴えかけたのか、どうやったのかは詳しくは聞いてないけど、もしかしたらまた裏取引のような何かを行ったのかもしれない。

 それを思うとやっぱり麗ちゃんは友達想いだと思う。酷い手を使う時はあってもクラスのことや友達のこともしっかり考えている。その判断は別々のものだ。

 もしかしたらこういう部分が麗ちゃんの大人っぽいところなのかもしれない。血も涙もないわけじゃ決してないけれど、組織を運営する上で利益を第一に考えた選択を行う。

 やっぱりワガママを言ってるのは私かもしれない。

 だけどやり方が少し酷いと思うことには変わりない。

 だったらやっぱりクラスの一員として、何より友達として意見を言うことには変わりない。

 

 そう思い、私は試験に臨むことにした。相手はDクラス。最下位のクラスではあるけれどその中には学年でトップクラスの学力を持つ堀北さんや幸村くんのような生徒や身体能力に秀でた須藤くんのような生徒もいて、アベレージは高くないけれど尖った能力を持つ生徒が多い侮れないクラスだ。司令塔は軽井沢さんで、彼女もプロテクトポイントを持ってるから選ばれたにしてもクラスの頭脳である堀北さんからしっかりと戦略を伝えられてくるだろう。

 だから手加減はしないしできない。大丈夫。Aクラスなら……このクラスならきっと勝てる。

 

 そうして試験当日──BクラスとCクラスの間で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、当日になってCクラスの司令塔として龍園くんがやってくるという先の出来事に繋がるびっくりなことが続いたけれど、私の相手はあくまでDクラス。司令塔としてやってきた軽井沢さんとの対決に集中することにした。

 

 だけど──。

 

()()()()()()()()。種目はまだ残っていますが、これにて特別試験の勝利確定です」

 

 私はモニターに映し出された結果を見て愕然とする。万全で挑んだはずの特別試験。Aクラスの皆なら十分に勝てると自信を持って勝負に臨んだ。

 だが勝敗は決してしまった。試験の監督をしているCクラスの坂上先生の無慈悲な通告を耳にする。

 

「なんか勝っちゃった……」

 

 そして相手の司令塔であるDクラスの軽井沢さんの気の抜けそうな言葉が耳に届くも、私は目の前が真っ暗になったような心地だった。

 クラスの敗北。それは司令塔の退学を意味している。

 無論、ポイントを支払えば退学は取り消せはするが──それにはプライベートポイントだけでなく300ものクラスポイントも必要とする。どちらを選んでもクラスの足を引っ張っることに変わりはない。

 どうして。なぜ──私は負けた理由を振り返る。

 だけどその理由が幾つもあって、正確には分からない。何か裏で策略が動いていたという予感はあっても、それを解明することは、少なくともこの場では難しく私は自分の敗北と甘さを潔く認めることしか出来なかった。

 

 ──これが、麗ちゃんだったら……。

 

 心の中で、もし、と思う。

 だけど親友はこの場にはおらず、答えてもくれない。過ぎ去った時を戻すことはできなかった。




なぜこうなったのか。次回はBクラスとCクラスの視点とAクラスとDクラスの戦いの内容を書いていくのでお楽しみに。軽井沢と一之瀬の最初の因縁はここだったかもしれない。

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