それは選抜種目試験が行われる約2週間前。
クラス内投票の結果が出た直後のBクラスで怒号が響き渡った。
「どういうことだ坂柳! なぜ……なぜ戸塚が! 退学するのは裏切り者のはずだろう!」
声の主は葛城であり、彼は結果を知るとすぐに席を立ち上がり、この結果を導いたであろう相手に視線を向ける。
その相手──坂柳は席についたまま薄く笑みを浮かべていた。その姿に動揺は一切見られない。
「ええ。だから裏切り者に退学してもらいました。Aクラスと通じていた裏切り者の戸塚くんにね」
こうなることは計算の内。それを態度だけでなく言葉でも証明する坂柳に葛城は憤りをぶつける。
「バカな……! そんなはずはない! 戸塚は裏切ってなど……」
「裏切ったかどうか。それは戸塚くんが1番よくわかっているはずです。──そうですよね、戸塚くん」
「ち、違う……! 俺は……俺はただ、裏切り者を退学させようと思って……!」
「……戸塚?」
坂柳から質問をぶつけられ、動揺する戸塚を葛城が訝しむ。この1年間、ずっと見てきた戸塚の姿。明らかに後ろめたいことがある。そんな様子が察せられたから。
「Aクラスと通じていたことは否定なさらないんですね」
「そ、それは……」
「……どうなんだ戸塚。答えてくれ」
戸塚の怪しい様子を見て葛城も問いかける。信じたくはない。裏切り者を退学させようという言葉に嘘はないように見えたが、坂柳が言うようにそこで言い淀むのであれば通じていたことを認めたも同然だ。
「……か、葛城さん……俺はただ……葛城さんを退学させようとしてるって聞いて……! そのために称賛票を葛城さんに入れてもらうように頼み込んだだけなんです!」
「俺を退学に……? どういうことだ。そんな話を、一体誰から……?」
「橋本! 橋本に聞いたんです!」
「何だと……」
戸塚の言葉を聞いて視線を今度は橋本へ向ける。
それを受けて橋本は一瞬ぎょっとしたようだが、それでもすぐに気を取り直して釈明を始めた。
「おいおい……急に何を言い出すかと思えば。俺が葛城くんを退学にしようなんて大それたことを画策するはずないだろ?」
「と、とぼけるな! おまえがそんなことを言うから俺は南雲に……!」
「南雲がどうしたと言うんだ……一体何があった? それに、もし仮にそれが本当だったとして何故俺に一言相談しなかった?」
状況が飲み込めない葛城は憤りをどこにぶつければいいのか。困惑の色を強くしながら戸塚を問い詰めるも戸塚は言葉を迷わせるのみで答えようとしない。
「簡単なことです。戸塚くんは葛城くん。あなたと一緒にAクラスに上がるつもりだったんですよ」
「何……?」
しかしその答えは代わりに坂柳が答えた。疑問符を浮かべる葛城に坂柳は懇切丁寧になぜこうなったのかを戸塚の意図も含めて説明する。
「おそらく称賛票1位を狙い、プロテクトポイントを得た葛城くんをそのまま引き抜く。それを叶えた暁には戸塚くんも後に……とそんなところでしょうか。それを画策しながらも戸塚くん。あなたはそれが後ろめたかったのでしょう。葛城くんがそんな話を飲むはずがない。あなたにはそれがわかった。だからこそ葛城くんには相談せず、事がある程度成ってから伝えるつもりだったんでしょう」
戸塚が持ちかけられた話や意図を説明し、それからそうなるに至った自らの策も口にした。
「そして橋本くんが麗さんに仲介を行ったのは事実。その点は少々申し訳ありませんが……ですがそれは、裏切り者を炙り出すためだったんですよ」
「あ、炙り出す? そんなわけ……橋本は確かに……それに俺はただ、葛城さんがこのままBクラスでお前に使われるくらいならって……」
「人は同じ境遇、同じ考えを持つ者には心を開きやすくなる。クラスを裏切ろうとしている橋本くんは裏切り者にとっては心強い同志に見えたでしょうね」
つまり橋本の裏切り行為は坂柳の指示によるフェイク。自らの指示とは口にしてはいないものの誰が聞いても坂柳が画策したようにしか聞こえなかっただろう。
「橋本の裏切りがフェイクだと……? ならばそれはおまえが指示し、そうなるように誘導したんだろう! 何故そんなことをした!?」
「誘導とは人聞きが悪いですが、まあそう勘違いされる部分があったのは認めましょう。ですがこれは先も言った通り、裏切り者を炙り出すためには仕方のないことだったんですよ」
「仕方ないだと? 一体何が仕方がないと言うんだ!」
「麗さんによる他クラスの懐柔、裏切り工作を防ぎ、予防する必要があったんです。そのため橋本くんには
坂柳はここに来て前々から行っていた策のネタバラシを行う。
1年近く前からそれを行っていたという事実。その理由は南雲麗による裏切り工作を防ぐためだったと。
「橋本くんがそれを行ってくれたおかげでクラスを裏切ろうとする人間がおおよそ全て特定出来ました。まあ、森下さんのように周囲との関わりが浅く、それよりも以前に接触していた生徒については阻止出来ませんでしたが。麗さんもさすがの手腕でしたね」
「っ……だが裏切り者が出たのはクラスが負けたことが原因でもある。それにその行動自体がこのクラスの敗北に繋がったんじゃないのか……!」
「あなたと私の派閥争いが多少、状況を悪くしたのは確かでしょうが仮に橋本くんがなにも動かずにいてもどの道、似たような工作をされていたでしょう。それを防ごうと思うなら早々にクラス内を盤石にまとめるか、Aクラスの地位を守り続けるか。幾つか方法はありましたが私の想定よりも葛城さんが手強くて派閥争いが長引いたこと。想定よりも麗さんが手強くてポイントを抜かれてしまったこと。これは私のミスですね」
坂柳は自らの見積もりが想定よりも甘かったことを認め、自らを既に戒めている。
クラスを早々にまとめられず、それゆえに想定よりも手強かった南雲麗に遅れを取ったこと。そのリードを活かされ、南雲麗の工作は実を結んだ。
そのため坂柳としては後手ではあるものの裏切りを予防し、裏切ろうとしている人物をまずは把握すること。その上で見せしめを行い、クラスをまとめる。このクラス内投票において坂柳はAクラスへの嫌がらせだけでなくそれらを行っていた。
「だとしても……何故戸塚を選んだ!? 裏切ろうとしていた生徒は他にもいた筈だろう!」
「裏切り者の中にも優劣が、優先順位があります。どうせ切るなら最も能力の劣っている生徒を選ぶのは当然ではないですか? 戸塚くんをクラスに残したところで何一つメリットはありません」
坂柳はそこで杖をカツンと鳴らす。その上で葛城にではなく、クラスメイトに呼びかけた。
「態々口に出さずとも理解はしているでしょうが、念の為言葉にしておきましょう。クラスを裏切るなら、相応の覚悟を持って行うように。麗さんからAクラスへの移動を打診されたとしてもポイントには限りがありますし、移動するまでに相応に時間もかかるでしょう。それまでの間、このクラスで無事に過ごせるとは思わないことです」
裏切りを防ぐために、坂柳は普段は口にしない脅しを敢えて口にする。
自分を裏切ればどうなるか。その実行力と共に見せれば脅しもただの脅しではなくなる。
「少々似合わないことを言いましたね。ですがたまには恐怖政治というのも悪くはないでしょう。やりすぎると龍園くんみたいになってしまいそうなので出来ればあまりやりたくはありませんが」
坂柳はそう言ってくすりと笑ったが、実際のところ坂柳としてもこうするのが最も手っ取り早く、だからこそ仕方がないという思いもある。
クラスが混乱し、動乱している中でそれを治めようとするなら力を見せつける必要がある。その上で恐怖というのは人を従わせるのに有用な手の1つ。坂柳が使わない理由はなかった。
「……俺にクラスをまとめるために協力してほしいと言った。その言葉は嘘だったのか……」
「嘘? 嘘ではありませんよ。クラスから裏切り者を出さないために一時的に協力してほしい。その言葉に嘘はありません。おかげで裏切ろうとしている生徒を把握出来ましたし、こうして抑制することにも成功致しました」
ご協力ありがとうございます、と坂柳は心から葛城と、それから戸塚にも感謝する。
それに対し、葛城と戸塚もすぐに言葉を返せなかった。項垂れた戸塚を担任の真嶋が連れて行くまで、葛城は黙ってそれを見送り、その上で冷静であるように必死に努めた。ここで騒ぎ立ててもどうにもならない。それどころか他の生徒にも影響がある可能性がある。
そのことを坂柳からも念押しされ、Bクラスの生徒たちは静かに教室を後にする。坂柳の実力と恐ろしさ。それを改めて思い知る結果となる試験だった。
──だが、その中で葛城だけは強い憤りを沸々と沸き上がらせていた。
放課後になり、寮の部屋へと帰り。そうして時間が経つに連れて自らの側近であり、よく支えてくれていた戸塚がいなくなったことへの喪失感を感じ、もっと上手くできたのではないかと後悔を感じる。
だが戸塚が退学になった大きな原因の1つが坂柳であることに変わりはない。
思えば入学当初から坂柳とは反りが合わなかった。性格や価値観、方針の違いなどからそれぞれの派閥を率い、今になって思えば愚かだったクラスの実権を握るための派閥争いを行った。
そう思い──しかしすぐに否と考えを翻す。派閥争いを行ったことが愚かだったのではない。坂柳に負けてしまった、坂柳の台頭を許してしまったのが、この事態に繋がったのだと。
無論、自らの責任も多分にあることに変わりはない。クラスを不利にした理由も、戸塚が退学したことも。責任の一端は自分にもある。それから逃れるつもりはない。
だがそれでも──葛城は坂柳を恨まざるを得なかった。
葛城は怒りを抱える。抱えるしかない。こうなった以上、葛城1人で出来ることはない。
クラスには何人かの裏切り者、あるいは裏切ろうと考えている者がいるような口ぶりだったが、そういった者たちも坂柳の脅しによって動きを封じられただろう。
それにある意味で坂柳が怖さを見せつけたことでBクラスにもまだ巻き返しの期待を持てると感じられた生徒もいることだろう。坂柳の強さは葛城も嫌になるほど知っている。この先、またAクラスに返り咲く未来もあるかもしれない。
だがそれでも、葛城はそのことを喜べない──いや、希望を見出すことが出来なかった。
あるのは坂柳への怒りと戸塚を失った喪失感のみ。しかしそれをどこにも発散することも出来ずに次の日もそのまた次の日も大人しく学校に通い、坂柳の支配するクラスの中で学校生活を送っていく。
ただただ自分を冷静に戒めて──
「──これはこれは。葛城じゃないか。今はBクラスとはいえ元はAクラスの優等生がこんな時間に外を出歩いていいのか?」
「……龍園?」
──そんな日の夜。門限である22時前のことだった。寮の前で悪魔が、龍園が待ち構えていた。
「一体何の用だ」
「ちょっと面貸せよ。ここじゃ誰が来るかわからねぇからな」
「もうすぐ門限だ。おまえの言うようにこんな時間に外をほっつき歩くものではない」
「そんなに時間は取らせねぇよ。いいから付いてきな。おまえにとっても悪い話にはならねぇはずだぜ」
Cクラスのリーダーから降りたはずの龍園がこの場にいて自分に話があるという。それは明らかに怪しい匂いがするものだった。葛城がまだクラスのリーダーの1人であれば。坂柳と協力している最中であれば間違いなくその誘いには乗らなかっただろう。
だが今の自分は。葛城はそれを熟考した上で。
「…………いいだろう。ただし、下らない話をするようならすぐに帰らせてもらうぞ」
「クク、安心しろ。下らないどころかおまえには降って湧いた幸運のような話だろうぜ」
「……一体何だと言うんだ」
訝しみながらも龍園に続いて夜の道を行き、やがて公園に辿り着く。
──そしてそこで龍園から聞いた話が、葛城にとっての転機となる。
龍園からの幾つかの話を経て、葛城はある決断を行うことになった。
坂柳への復讐のために──BクラスからCクラスへ移動するという決断を。
1年時最後の特別試験である選抜種目試験の当日。
龍園翔は特別棟に足を踏み入れていた。
その理由は明白。欠席した金田の代わりに司令塔となり、戦いの場に舞い戻るためだ。
もっとも、それを決めたのは今日のこの日ではない。
綾小路清隆に敗北した日からしばらく、龍園翔はこの学校には未練などないとそう思っていた。いつ学校を去ることになってもおかしくはない。
その心境が僅かにでも変化したのは全学年合同の混合合宿が行われた初日のグループ決めの日。綾小路から持ちかけられたある提案──いや、宣言とも取れる言葉を聞いたからだ。
『南雲麗の敗北。オレと南雲の決着を見届けたくはないか?』
『何だと?』
最初に聞いた時は何を言っているのかとそう思った。まさかそんなことで自分を従わせられるのかと。
だがその言葉を受けて、龍園の中では僅かながらの興味を感じていた。龍園がこの学校にやってきて最初に敗北した相手。南雲麗。
それは綾小路に負けた時のような圧倒的なものではなかったとはいえ、龍園を熱くさせたことは確かだった。綾小路にこっ酷く負けていなければ今頃南雲を相手に楽しくやり合っていただろう。そのもしもはもうないとはいえ、あの南雲麗と綾小路。その戦いがどういう風に決着を迎えるかには興味があった。
もっとも勝負の結果自体は綾小路が勝つと踏んでいるものの、その道筋は龍園には読めない。綾小路が何を考え、南雲麗の手を防ぐか。どうやって勝利するのか。見てみたくないと言えば嘘になる。
『オレの側にいればそれを見ることは叶うだろう』
『ハッ、そのためにホモ臭くおまえのケツに引っ付いてろってか?』
『退屈凌ぎにはなるだろう。なんならそのついでに手伝ってもらいたいこともある』
こちらの軽口も意に介さない綾小路の全てを見据えたような返答。
それが気に入らない。そう思いかけながらも、その圧倒的強者の振る舞いに何かを感じ取る。
それは龍園翔の本能だったのかもしれない。
このまま綾小路の取引に応じれば、何かが変わるかもしれないという予感。同時に、今更再戦を望むかどうか。綾小路に協力するほどに興味を持てるかどうかは未知数だとも思った。
だからこそ、龍園翔は動いた。未知数ならば、学校を去るまでの間、それを確かめてみるのも悪くはないと。
『……いいだろう。だが、後のことについては別で条件を付けさせてもらうぜ。安く使われるのは御免だからな』
『受けてくれるのか?』『あくまでその気になればの話だ。それまでは精々見届けてやるよ。石崎たちと同じグループなのは鬱陶しいがな』
『そこも出来る限り何とかする』
『だったら好きにしろ』
そうして綾小路から南雲が取ろうとしているであろう策と何をこちらに求めているか。それを後に聞き出し、龍園は綾小路と南雲の勝負を見届けた。
その現場を実際に龍園は見たわけではないが、南雲麗が用意した兵隊とかち合うことでおおよその予想はついた。
南雲麗は南雲麗でかなりえげつない手を打ち、綾小路はそれを完璧に防いでみせたのだろう。結果は予想通り。だが内容は想像以上に面白味を感じられた。
それは神崎や2年生の腕自慢の生徒と戦った時から思っていたが、更にこうも思う。──自分ならどうしたか。
自分と綾小路は違う。ならば必然的に南雲が取る手も違ってくるだろう。
その時に自分ならどう防ぐか。どう対抗するか。そんな考えが頭を過る。
そして次にどうやれば綾小路をやれたか。そんなことを自然と考え始めていた。
その変化を龍園翔は不思議に思った。が、すぐに答えは出る。
すなわち、本能が求めている。
綾小路を喰らえ。南雲麗を喰らえ。敗北に屈したまま終わっていいのか?
今までにも龍園翔は何度も敗北してきた。そして、その度に立ち上がって逆襲してきた。
結局最後に立っていたのは自分で、その戦歴があるからこそ中学にして自分は完成し、他に敵はいないと自信を持っていた。
だがそうではない。自分には更に進化があり、挑むことが出来る綾小路という格上がいる。綾小路ほどじゃないが、南雲麗という対等に戦いを楽しめる相手もいた。
結局のところ龍園はそれを求めていた。ゆえに彼はゆっくりと歩を進めて多目的室の方へと歩いていった。
そうして目的の場所の前に差し掛かり、目に入ったのは他のクラスの3人の司令塔である一之瀬に坂柳。そして……Dクラスの軽井沢だ。
「りゅ、龍園……!?」
「龍園くんがなんでここに……?」
「クク、俺がここにやってきたことがそんなに意外か?」
思わず動揺する軽井沢や一之瀬にそう答えながらも、龍園は心の中で別の言葉を浮かべていた。
──綾小路の奴はいねぇ、か。
ひょっとしたら、とそんな期待はあったが外れた形になる。プロテクトポイントを持たないのだからこの場に来ないのは当然。
その上、相手が南雲麗でなく一之瀬であれば態々綾小路が出向く必要もない。そう判断してのことだろう。どうやら自分が出ずともDクラスはAクラスに勝利出来ると考えてるらしい。
あるいは負けたところで自分はどうにでもなると、そう考えてもいるのだろう。そこまで思考を回し、龍園は更に笑みを深めた。己を完膚なきまでに叩きのめした相手はやはり、とんでもない化け物なのだと。
「なるほど──葛城くんが移籍した時点でもしやとは思っていましたが、あなたが代わりの司令塔。そういうことですね龍園くん」
「ああ、いたのか坂柳。小さすぎて気づかなかったぜ」
だがそこで龍園は思考を止め、目の前の相手へ移す。
Cクラスの対戦相手は坂柳が司令塔を務めるBクラス。今は落ち目とはいえ、元はAクラスであり総合的な能力は最も高いクラスだ。そのリーダー、司令塔を務める坂柳も決して油断はできない相手。
──だがそれでも龍園翔は負けるつもりはなかった。
自分に対する絶対の自信。それを持って龍園は坂柳と相対する。
「噂だと手酷く敗北して脱落したと、そう聞いていましたので先日は驚かされました。まだ足掻けるだけの心の余裕があったのかと」
「ああ、その件は助かったぜ。まさかおまえが葛城に追い打ちをかけてくれるなんてな。おかげで葛城を引き抜いて更にBクラスを弱体化させることが出来た。これで麗の奴に引き抜かれた森下に続けて二人目だ。学習しねぇなぁ坂柳。2度も同じ手を食らった気分はどうだ? 聞かせてみろよ」
「想定の範囲内です。葛城くんであれば遅かれ早かれそうなっていた可能性は高いと思っていました。だからこそ戸塚くんを切り捨てる選択を早々に取ることが出来ましたし……ですが思ったよりも早かったのには驚かされましたよ。てっきり一之瀬さんにポイントを条件に称賛票を入れるよう取引を持ちかけたことで生徒を引き抜くだけのポイントは持っていないと思っていましたが、ひょっとして違っていましたか?」
「さてなぁ。どうやって不足分のポイントを得たのやら。ご自慢の頭脳で当ててみろよ」
「ええ、そうさせてもらいます。おかげで試験が終わった後の楽しみが出来ました」
坂柳は龍園にお礼を告げる。1000万ものポイントを一之瀬に支払ったことで龍園が持っていたポイントは残り約1000万ポイント。
その足りない分をどこから捻出したのか。坂柳でもすぐに答えを出すことはできない。
とはいえそれだけのポイントを捻出出来るのは誰なのか。そこから考えていけば答えはすぐにでも絞り込める。
わからないとすればそうなるに至った経緯や取引の内容だが、坂柳であればものの数分もあれば辿り着くかもしれないし、そうでなくちゃ面白くないと龍園は思っていた。
「しかし……そうなってくると少しばかり惜しいですね。答え合わせをしようにも試験の後にはその相手がいなくなってしまうのでは真実は闇の中。知りようがありません」
「だったら安心しろ。おまえのプロテクトポイントを剥がした後でゆっくりと語り聞かせてやるよ。おまえが負けた理由も含めてな」
「それはありえませんが、もしそうなったとしても自分が負けた理由に自分で気づかないような無様を晒すことはありませんので必要ありませんよ。答え合わせについては……そうですね。この後余裕があれば少し考えてみることにしましょう。ですので私の意識を割けるような面白い戦い振りを期待してますよ?」
「抜かせ。勝つのは俺だ。坂柳、おまえが俺たちの中じゃ1番格下だってことを教えてやるよ」
俺たちの中では1番格下──その言葉の意味を坂柳は正確に理解し、龍園もまた坂柳なら言わなくとも伝わる前提で口にした。
俺たちとは、綾小路に挑もうとする3人。龍園に坂柳。それに南雲のこと。
その中で龍園は坂柳を1番格下だと位置づけた。だからこそ手始めに坂柳を叩き潰し、その次に南雲麗。最後に綾小路だと。
「ふふふ……それはまた、中々面白い冗談ですね。私の認識では
「だったら証明してみろよ。悪いがそうは見えねぇんでな」
「言われずともすぐにあなたにも理解出来ますよ。葛城くんも可哀想に。せっかく意を決してクラスを裏切る道を選んだのに、それを唆した張本人が学校を去る羽目になるなんて……と、失礼。まだ確定ではありませんでしたね。是非ともそうならないように頑張ってください」
「クク、負けた時におまえが何を言うのか、今から楽しみにさせてもらうぜ」
「その言葉をそっくりそのままお返しします。今回の試験はくじ運が悪くて面白味があまりないと思っていましたが、あなたが復帰してくれたことで少なくとも退屈はしなさそうですね」
売り言葉に買い言葉。龍園と坂柳の言葉の応酬はそれに割り込めずに黙って見ているだけの一之瀬や軽井沢には剣呑なものに映る。
だが2人にとってはただの挨拶代わりだった。互いに牙を剥き出しにしていることに変わりはないが、本当の勝負はここから。
龍園と坂柳はAクラス担任の星之宮とDクラス担任の茶柱の案内に従って多目的室に足を踏み入れる。
坂柳は負ければプロテクトポイントが剥奪され、龍園は負ければ退学の背水の陣。その勝負の行方はどうなるか。今はまだ、どちらも己の勝利を疑っていなかった。
「えっと……私たちもそろそろ教室に入ろっか?」
「う、うん」
そして一之瀬と軽井沢。AクラスとDクラスの戦いも始まる。
こちらもまた退学とプロテクトポイントを賭けた勝負。それがどう転ぶかは当然、どちらにもまだ理解らなかった。
書いてる内に1話分普通に溜まったのでまずは舌戦パートでした。次回こそAクラス対Dクラスの戦いの模様と坂柳と龍園の戦いの模様をお送りしてそれで決着です。
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