アイドルは新たなステージに進む
アイドルに必要なのは何も歌唱力やダンスの上手さ、ビジュアルだけではない。
もちろん最低限ビジュアルが必要なのは言うまでもないだろう。人を惹きつけるのに最も重要なのは外面。人の第一印象は外見でほぼ決まってしまうと言われている。最近の研究だと視覚情報が影響を及ぼすのは55%と言われているが、どちらにせよ半分以上の印象が見た目で決まってしまうわけだ。
つまり人が人を好きになる理由は外見が最も大きいことになる。内面については二の次。まずは人にかっこいい、可愛いといわれるような容姿を持っているか否かでアイドルになれるかは決まるのだ。
そして私の外見は完璧である。
整った可愛らしい顔立ちも綺麗な金髪の髪も肌荒れ1つない白くてすべすべな肌も女性として魅力的なスタイルも何もかもが揃っている。男性が100人いれば全員が私に惹きつけられるし、女性も100人いれば全員が私に憧れる。外見の第一印象だけでほぼ確実に好感を持たれる外見を持っている。
そしてだからこそ内面やそれ以外の部分が重要になってくるのだ。
俗に性格ブスというものがある。外見が可愛くても性悪だったりする女性が主に言われる悪口だ。
あるいは可愛くても学力も低くて常識も知らないおバカちゃん。天然とかおバカキャラとかそんな言葉で片付けられるが、もしそういう人たちに外見が伴ってなければきっと悲惨なことになるだろう。
事実として芸能界という場所で生き残るのは外見だけでは難しい。
可愛くて綺麗なだけなら幾らでもいる。私のような飛び抜けて可愛い天使みたいな女の子でも、私とタイプが違ったりほんの僅かに劣るだけでちゃんと可愛い女性は沢山いた。そんな顔面偏差値が高い世界では可愛いだけでは生き残れない。
生き残るにはそこから更にトークだったり何か人に自慢出来る特技だったりのプラスαが必要だ。それはあればあるだけいい。芸能の世界は演者を消費していく。飽きられれば見向きもされない。
つまり常に新しいことに挑戦し、新しい自分を見せて、大衆を惹きつける必要がある。
ゆえに私は勉強も運動も疎かにしなかったし、様々なことを学び、吸収してやろうとちゃんと努力した。
幸いにも私の学習能力は高い。自分でも天才だと思う。だからちゃんと学べばちゃんと習得出来る。
しかしそれでも私はまだまだ10代半ばの小娘であるため、実のところ完璧にはほど遠い。
トップアイドルとして完成したと思われる私だが、私はまだまだ上に行きたいと思っている。この程度では足りないし、私の目標にもおそらく届かない。
だからこそ最強アイドルである私──南雲麗はアイドル活動を休業し、この政府が運営するこの学校、『高度育成高等学校』へと進学した。
最初は世間から隠れつつ自主的に色々と勉強していこうと思ってたが、この学校は想定よりも特殊な学校であり、クラス同士での競い合いを行っている。
卒業時のどんな進学先も就職先も思いのままという特典を得られるのはAクラスのみ。それ以外のクラスに恩恵は与えられない。
そのため生徒たちは必死に学校から与えられた試練に挑み、学校のルールに従って競い合ってるのだ。
そして、私はこの1年で入学当初に配属されたBクラスをリーダーとして率い、Aクラスまで昇りつめた。
その過程では色んなことがあったし、全てが想定通りにうまくいったわけではない。時には敗北を経験することもあった。
しかし、だからこそやりがいがある。
私は私の目的のため。私の成長のためにこの学校をAクラスで卒業すると決めたし、その過程も大事にしていくつもりだ。
なんたってせっかくの学校生活。楽しまないと損だからね。青春を謳歌することもきっと私の糧になる。私はそう思っている。
──そして今日は高度育成高等学校の最初の授業の日。
春休みが終わって次の日には始業式。その次の日は入学式。
そして土日を挟んで月曜の今日が、2年生としての日々の幕開け。
大規模に改修された校舎。教室。黒板がなくなり、教科書がタブレットになって支給され、色んな部分がデジタル化された。IT化の波を感じる。元々学校敷地内では日本円の代わりにプライベートポイントというものを使っているし、そのためにスマホをよく使っていたのだからこれくらいはさっさとしてほしかったけどここに来て政府もようやく重い腰を上げたらしい。きっと予算がなかったんだろうね。知らんけど。
ということで今日も私は大勢の人の視線を集めながら登校し、新しくなった教室の席に座る。去年まで使っていた教室ではなく別の階の2年生の教室であり、改修されたこともあってとても綺麗な内装。監視カメラも相変わらずで、私の可愛い姿をきちんと記録していることだろう。人の視線や映されてることに私は敏感だ。ドッキリなんかもすぐに気付いてしまう。
「おっはよー!」
「あ、麗ちゃん。おはよう」
「千尋ちゃんおはよー。今日も可愛いねー」
「ありがと……麗ちゃんも可愛いよ」
「まあ私はいつでも可愛いからねー。麻子ちゃんおはよー。今日もポニテが似合ってるよー」
「麗ちゃんおはよう。麗ちゃんの方こそやっぱ短い髪似合ってるね」
「ふふん。そうでしょ? あ、渡辺くんおはよー。後ろ、寝癖ついてるよー」
「おはよーって……うえっ、マジ!? ちょ、ちょっと直してくる」
「ホームルームももうすぐ始まるし、手鏡貸してあげるからここで直すといいよ。はいこれ。あ、颯くんおはよー。朝練おつかれー。喉渇いてるならお茶飲む? 未開封だからもらっていいよ」
「マジ? サンキュー南雲! ちょうどダッシュで買いに行こうと思ってたんだよなー。あ、ポイント出した方がいいか?」
「これくらい別にいいよ。颯くんは部活頑張ってるからねー。今日は特別に奢りってことで」
そして教室に入るなり、私はクラスメイト1人1人と挨拶を交わす。なんなら私を見ると皆挨拶してくる。それくらい私は人気者。クラスのリーダーだし、友達もめちゃくちゃ多い。よく同じグループで一緒に遊ぶ小柄なレズっ子の白波千尋ちゃんとか普通に癖もなく可愛い同じグループの網倉麻子ちゃんとかその麻子ちゃんに好意を抱いているお調子者の渡辺紀仁くんとかサッカー部に所属しているAクラスきっての運動能力の持ち主の柴田颯くんとか。
他にも愉快な仲間たちが沢山。それぞれが私と声を交わす。
しかし皆が皆、私と常にお喋りするってわけにはいかないし、私としてもさすがにそれはしんどいので必要以上に干渉はしない。
それぞれが仲の良い友達とかグループで過ごしてもらうのが1番居心地がいいだろうからね。
そうなると私は私のグループで話すのが良いんだけど、その前にちゃんと私の1番の親友や頼れる参謀にも声をかけておかないとね。
「おはよー、帆波ちゃん」
「麗ちゃん、おはよー。今日も朝から元気だねー」
「体調管理もアイドルの仕事の内だからね。帆波ちゃんの方も……うん。大丈夫そうだね」
「うん。心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」
クラスの中で目を引くピンク色の長い髪の美少女を視界に捉えて私は挨拶をする。その相手は一之瀬帆波ちゃん。
私がこの学校にやってきて最初に出来た友達で親友。Aクラスのサブリーダーであり、私が副会長を務める生徒会仲間でもある。とっても仲間想いな良い子で私の次に可愛い美少女だ。
そんな帆波ちゃんはこの間まで色々あったのだが、さすがに時間も経っているし、誰かに励まされたりしたおかげか可愛い笑顔を見せてくれた。うん。少なくとも平常時は本当に大丈夫そうだね。後は特別試験とか特殊な状況の時にどうなるかかな。
そんな帆波ちゃんは私に謝罪した後、席に近づいてきたもう1人にも声をかけた。その相手は男子であり、もう1人のクラスのサブリーダー的ポジションにつく生徒。
「神崎くんもごめんね」
「俺に謝らなくてもいい。あの敗北はクラス全体の責任だ。おまえが責任を感じるのも無理はないが、おまえが立ち直ってくれない方がクラスとしても損失は大きい。……無論、仲間として心配なのもあるがな」
「あはは、そうだね。うん、ありがとう。これから挽回してみせるから」
「うんうん。その意気だよ帆波ちゃん。隆二くんも良いツンデレだね! ナイスぅ」
「……クラスの仲間として当然のことを言っただけだ」
私の茶化した言葉に少しだけ呆れと照れがほんの少しだけ混じった反応を返してくるそのクール系のイケメンくんは神崎隆二くん。
リーダーである私を側で、あるいは裏から支えるAクラスの参謀の1人。主に裏工作なんかを任せたりするし、後は去年の夏頃から身体を鍛えているので少しずつ強くなってくれている期待のボディガードだ。成長度合いで言うなら今のところAクラスで1番かもしれない。私に影響を受けたのが大きいね。
「一之瀬帆波が敗北のショックから立ち直った。これが本当ならこのクラスは更に盤石になりますね」
「……藍ちゃん? 何してるの?」
「新しい机の感触を確かめています。良い感じのひんやり感で眠るのにちょうど良さそうですね。後数分もすれば寝られそうです」
「──絶対寝ないでね? 特に授業中は」
「寝ませんよ。授業中に睡眠を取ってクラスポイントを下げるような愚を私は犯しません。寝る時はちゃんと中庭のベンチを使って寝ます」
「そこはちゃんとベッドで寝ないのか……」
「あはは……相変わらず、個性的だね。森下さんは」
そしてまた1人声をかけてきたのは新しくなった机に顔をくっつけて感触を確かめているというおさげの美少女。森下藍ちゃんだ。
藍ちゃんは入学当初はAクラス──つまり、現在Cクラスの坂柳有栖ちゃんがリーダーを務めるクラスから2000万ポイントを使って引き抜いた優秀な子。
そして見ての通りの変人で、いつも変わった言動が絶えない子だ。帆波ちゃんと隆二くんも呆れている。これで結構頭は回るから使える子なんだけどね。だからこそ引き抜いたわけだし、性格の部分も愉快だからまあ悪くはない。
これが私の愉快な仲間たちだが、他にも少し離れた席でイヤホンを付けて自分の時間を楽しんでいる私の側近の姫野ユキちゃんとか、バランスが良い能力で頼れる皆の眼鏡くん、浜口哲也くんとかもいる。
他にも何人か突出した生徒はいるけど、一応私がよく戦略を事前に説明したりするのはこの5人かな。今年もこのメンバーで学校からの無理難題に応えていこうと思う。全然無理でもないけどね。
「はーい。2年Aクラスの皆おっはよー! ホームルーム始めるわよー!」
と、今度はチャイムが鳴ってから少ししてからやってくるのはこのクラスの担任を務めているゆるふわ残念系保険医の星之宮知恵ちゃん先生だ。
親しみやすくお茶目でノリが軽いため生徒からは人気が高い。アラサーだけど可愛いしね。たまに二日酔いで明らかに朝から苦しそうな時とかあるけど、まあ許容範囲だと思う。
だけどさすがに今日は前日にお酒を飲んできたりしてないっぽいね。むしろ2年の始まりをAクラスで迎えられてすごく嬉しそうだ。
まあ正確にはAクラスであることも嬉しいけど、ある人物が所属するクラスがAクラスでないのが嬉しいんだろうけどね。そこはまあ今はいいだろう。理解りきってることなので別段深く考えずに知恵ちゃん先生の進行に従う。
「今日からは本格的に新年度の学校生活を始めていくけど、まずはやってもらいたいことがあるのね。皆、携帯を出してこれから言うアプリをダウンロードしてみて。アプリの名前はOver All Ability。通称『OAA』よ」
知恵ちゃん先生の説明に従い、Aクラスの41名全員が正確にその作業を行う。私も予め生徒会として少しは関わっているので知っているが、そのことを一々口にしたりはしない。黙って説明に従い、OAAを携帯にインストールし、初期セットアップを行ってアカウントを作成。学生証を読み取ればすぐに終わりだ。ちなみに学生証の写真写りも私は完璧。よくある写真写りが悪いということはなく、とっても可愛い私の顔が映し出されている。
「はい。これで皆アカウントが出来たわね。これであなたたちだけじゃなく、全学年全クラスが同じ作業を終えたはずだから全生徒の個人データが見られるはずよ。試しに2年Aクラスの項目をタップして自分の名前を探してタップしてみて」
アプリの使い方を知恵ちゃん先生は説明する。まずは自分のデータを見ろって言われたけど……私は敢えて別の人のデータを見てみることにした。ユキちゃんでいいかな。平均的だろうしね。どれどれ~?
2-A 姫野 ユキ (ひめの ゆき)
1年時成績
学力B(70)
身体能力C+(57)
機転思考力B-(61)
社会貢献性B-(61)
総合力B-(62)
「何これ……なんか成績? が出てきたんだけど……」
自分の能力値を見たユキちゃんのそんな呟きが耳に届く。他のクラスメイトもほぼ全員が似たような反応だ。
そんな中でユキちゃんの能力評価は……ふむふむ。思ったよりは上だね。ちょうど真ん中ぐらいかと思ってたけど総合力はクラスの中で真ん中より上。上位より下ぐらい。私がよく勉強を見てあげたおかげか学力も結構向上してる。
とその前に各項目がどのように評価されてるかだけど、簡単に言えば学力は1年間を通しての筆記試験の点数などから算出。
身体能力は体育の授業の評価と部活動での活躍度。身体を動かす特別試験の評価などから算出。
機転思考力は友達の多さとその立ち位置でのコミュニケーション能力に機転応用が利くかどうか。社会での適応力などから算出。
社会貢献性は授業態度だったり遅刻欠席の数だったりルールを遵守してるかどうかだったりモラルやマナーが守れてるかだったり発言力やその正確さだったり生徒会に所属して学校に貢献しているかだったりと色々な部分でのその人の見え方とかから算出。
そして総合力はその4つの能力値から算出。求め方は(学力+身体能力+機転思考力+社会貢献性×0.5)÷350×100に四捨五入。つまり社会貢献性だけ半分の平均で計算されるってことだね。
私としては機転思考力が中々面白いと思う。純粋な友達の多さとか知人の広さも考慮されるけどそれだけじゃなくてその生徒が過ごしている社会の中での立ち回りや機転が利くかどうかで評価される。コミュ強なだけじゃなくて社会適応力を評価されるってのが深いところだ。例えばうちのクラスで私を除いて機転思考力が高い生徒をソートして見てみるとそこには藍ちゃんの名前がある。
2-A 森下 藍 (もりした あい)
1年時成績
学力A-(83)
身体能力C+(59)
機転思考力A-(84)
社会貢献性B(70)
総合力B(75)
「妥当な評価ですね」
「え……? 私より森下さんの方が社会貢献性が高いってマジ……?」
自分のデータを見て冷静にそれが順当だと受け止める藍ちゃんに気になって調べたユキちゃんがショックを受けている。まあ……藍ちゃんの普段の言動をよく見てると常識的かって言われると疑問なのは分かるけどね。
だがそういうことだ。ユキちゃんは社会貢献性が高いことに驚いてるけど、真の意味で驚くべきは機転思考力の高さ。学年全体で見ても上位に来るだけでなく、この仲良しAクラスの中でも他のクラスから引き抜いてきて友達がそれほど多くはない藍ちゃんがこの中で私を除けば最も機転思考力を評価されているという事実。
つまりは機転が利く。社会での立ち回りが上手だと評価されているのだが、よく考えてみればそれも納得が出来るもの。藍ちゃんは一学年全体で見て、最初のクラス移動者。年度末に龍園くん率いる現在のBクラスに移籍した葛城くんよりも早期に移動した生徒であり、つまりは2つのクラスに所属していたことがある。その中で移籍しながらも独自の立ち位置で発言を行っている藍ちゃんはそれだけ機転思考力があると学校側に高く評価されたのだろう。友人の多さだけが全てじゃない。他クラスを見てみれば龍園くんなんかも友達って意味では皆無だろうに機転思考力は77もある。あれはあれで社会適応力があるということだ。どう考えても反社会的な適応力だけど。機転が利くというか頭が回るのは言うまでもないしね。学年末試験の成績も考慮されたかな。
とまあ機転思考力についての考察を行ったところでそろそろうちのクラスの頼れるサブリーダーの2人のステータスでも見てみようかな。総合力で上からソートすれば2番目と3番目にいるから分かりやすくて助かるね。
2-A 一之瀬 帆波 (いちのせ ほなみ)
1年時成績
学力A(91)
身体能力C+(58)
機転思考力B(75)
社会貢献性A+(97)
総合力B+(78)
2-A 神崎 隆二 (かんざき りゅうじ)
1年時成績
学力A-(81)
身体能力A-(82)
機転思考力B(66)
社会貢献性A-(81)
総合力B+(77)
おおー! すごいすごい! 良い能力だね!
帆波ちゃんは学力がA評価でかなり勉強を頑張ったのはわかる。身体能力はご愛嬌というか体力はあっても球技とか競技になるとちょっとアレなので残当。機転思考力は友達が多い帆波ちゃんらしいし、社会貢献性はほんとすごい。まあめちゃくちゃ常識的だし真面目だし発言も正確だし生徒会に所属してるしそりゃこの数値にもなる。総合力も学年全体で見ても上位だし、総じて納得だ。帆波ちゃんならもっと上を目指せると思うけど現時点でこれなら十分及第点だね。
そして隆二くんの方もかなり伸びてる。A-評価が3つ。学力は元々それなりに高かったから分かるけど身体能力の伸びがすごいと思う。颯くんの身体能力が86で私を除いて2番目の身体能力の評価な上、社会貢献性も生徒会に入ったおかげか良い感じに評価されてる。機転思考力は少し低めだけどね。それでもかなり良い評価だ。
「学校側の評価に納得出来ない人もいるだろうけどそういう人は頑張って評価を上げられるようテストとか部活とか特別試験で頑張ってアピールするのが先生良いと思うな。それがAクラスの地位を守り抜くことにも繋がるはずよ」
説明が終わるとそんな風に知恵ちゃん先生は締めくくる。要約すると「成績上げて特別試験で負けないようにしてAクラスの地位を何としても死守しなさい」と言ったところかな。まあそこまで必死ではないかもだけどね。今のところAクラスは盤石だし。
そして1時間目のホームルームが終わって休み時間に入ると、当然話題は今導入されたばかりのOAAのことになる。自分の成績とか誰が高いとか低いとか。友達同士で比べてみるのも面白いだろう。
もっとも自分の成績が学校側から低く評価されているのは死活問題であるため単に面白がるだけではいられないけどね。クラスの皆もどことなくざわついてるし浮ついてる。評価が高い生徒の数値を見てきっと感心してるのだろう。
「やっぱり麗ちゃんはすごいね」
「ああ。さすがは南雲だな」
「んー、それほどでもあるかなー?」
ということで私の席に集まってきた帆波ちゃんや隆二くん。他の生徒のチヤホヤしてくる視線を受けて私は自慢気に胸を張る。私の成績はこのクラスでも1番。そして学年全体でも1番だし、なんだったら学校全体でも同率トップだからねー。具体的には。
2-A 南雲 麗 (なぐも うらら)
1年時成績
学力A(92)
身体能力A(95)
機転思考力A+(99)
社会貢献性A+(97)
総合力A+(96)
わーお。なんだこの人権チートキャラ。ゲームだったら最強キャラランキングぶっちぎりの1位だね。そりゃ皆私に注目するわけだ。
「でも私的には学力がちょっと伸び悩んだかな。入学して最初の成績が良くなかったからそこが影響してそうだし、身体能力ももうちょっとアピールしてれば部活に入ってなくてもA+はいけたかな」
「いや、十分でしょ……これで満足しないってあんたヤバくない?」
「そりゃ全ステータスカンスト目指してるからね。今年の目標はそれにしようかな?」
「南雲さんならその目標も達成出来るかもね」
私が冗談めかして言うとユキちゃんは若干引いてたし、哲也くんは素直にそれが出来そうだと言ってくれた。
まあ実際冗談じゃない。私はもっと上を目指してるからね。上限が100だから機転思考力と社会貢献性は余裕でいけそう。問題は学力と身体能力かな。学力で100となると大学レベルの問題を解くことも余裕で求められるし、身体能力に関しても部活に入らずに100を取るとなると体育祭とか身体を動かす特別試験でめちゃくちゃ大活躍してアピールしまくるしかない。
なので実際は難しいかもしれないけど一応上は目指さないとね。私の今年の目標は『新しい自分』だけどこういう数値的な目標があっても悪くない。
そして続く2時間目ではまた知恵ちゃん先生がやってきて当然あの話の説明を始めた。
「今回の特別試験は1年生と2年生でパートナーを組んで行う筆記試験よ」
なーんて、知恵ちゃん先生は相変わらず皆を困惑させるようなことを口にする。
正確には皆を困惑させているのは学校側なんだけどね。ただOAAも含めて今年の試験は生徒会の改革の影響もあるから私たちのせいでもある。
今度行われる全学年合同の特別試験。これはその前哨戦でもあり、生徒たちにそれを慣れさせるためのものでもあるのだ。
「簡単に言えば1年生の時に行ったペーパーシャッフルみたいなものよ。2年生は1年生の中から誰でも好きな人とパートナーを組んでその総合点で競ってもらうわ」
と、試験内容はざっくり言えばそういうこと。ペーパーシャッフルみたいなものだね。
「つまりはこのOAAの活用と1年生との信頼関係を築くコミュニケーション能力が問われるってことだね」
そうそう。哲也くんが簡潔に要点を口にしてくれる。この試験の肝はそこで、OAAで全ての生徒の能力を開示されたことと、入学したばかりの新入生とペアを組む必要性からコミュニケーションを行わなければならないことだ。
1年生だって成績がかかってる以上は当然、学力が高いものと組んで上の順位を目指したいし、知らない上級生とペアを組むのはそれがなくとも緊張する。それを解きほぐして上手く交渉したり、仲良くなってペアを組んでもらったりする必要があるわけだ。
そして試験の内容だが、簡単にまとめると──。
・テストは全部で5科目。1科目100点満点の合計500点満点。
・学年毎のクラスの勝敗はそれぞれのクラス全員の点数とそのパートナー全員の点数からなる平均点で決まる。
・平均点が高い順からクラスポイントを得られる。1位が50ポイント。2位が30ポイント。3位が10ポイント。4位が0ポイント。
・更に個人の勝敗として上位5組のペアには各10万プライベートポイント。上位3割のペアには1万プライベートポイントが支給される。
・合計点数が500点以下の場合、2年生は退学。1年生はプライベートポイントの振り込みが3ヶ月間行われない。
・意図的に問題を間違えたり、点数を下げたと判断された場合は学年に関係なく退学。低い点数を取るように第三者が要求してもその生徒は退学。
・パートナーはOAAを使って希望の生徒に1日に1度だけ申請することが可能で、受諾されなければ24時にリセット。相手が申請を承諾した場合はパートナーが確定して以降は解除出来ないが、退学や大病などの止むを得ないトラブルの場合は可。パートナーが確定したら翌日の朝8時に一斉にOAAで情報が開示されて申請を受け付けられない。だけど誰とパートナーを組んだのかは表示されない。
・特別試験が行われる日までにパートナーを組めなかった場合、当日朝8時にランダムで決定するが総合点から5%分の点数を引くペナルティが与えられる。
──と、そんなところかな。後は1年生は余ってもその点数を2倍にして試験に臨めるけど同じく総合点から5%点数を引かれたりもする。2年生にはあんまり関係ないことだけどね。
そんなこんなで知恵ちゃん先生からの特別試験の説明が終わると再び休み時間。
すると当然、全員が教室から出ることなく私に注目する。帆波ちゃんに隆二くんも私に意見を聞こうとやってきた。私はリーダーとしてそれに応えてあげる。
「南雲。どうするつもりだ?」
「やっぱり、1位を取るつもり、かな」
その問いかけを聞いただけでも両者の心情がよく分かる。隆二くんは1位を取りに行くことは当然として、そのためにどういった戦略を取るのかを聞いている。
帆波ちゃんは私が1位を狙いに行くものと予想しながらも、どちらかと言うと退学者を出さないように。それでいて信頼関係を構築するような戦略を取りたいと思っている。だけど先の学年末の特別試験の負い目から、それを言い出せない。
正直なところ、私の方針は決まっているのだがこうやって聞かれると私の答えは置いといて皆の意見が聞きたくなってくる。なので、私は民主主義で決められたリーダーらしく意見を尋ねることにした。
「そうだねー。2人はどうしたいと思ってるの?」
「そうだな……試験の性質上、学力の高い生徒は争奪戦になるだろう。他のクラスに先んじて交渉を行うのがいいと思う。具体的には……プライベートポイントを使った交渉、になるだろうか」
「私は麗ちゃんに従うつもり。だけど一個だけ言わせてもらえるなら、万が一にも退学者を出さないように学力に自信のない子たちを優先的にサポートするのが良いと思う」
「俺もそれには同意する。退学者を出してしまうのは避けたい、が……学力の高い生徒同士で組むことで1位を取りに行く。それを目指すならやはり他のクラスよりも多くの学力の高い生徒を確保するべきだろうな」
「なるほどなるほど。哲也くんはどう思うかな?」
「僕も概ね同意だね。このクラスの学力なら平均点1位を取ることは十分可能だと思う。だけど1つだけ言うなら、早期にパートナーを決めてしまうよりも様子を見た方がいいんじゃないかな。学力の高い生徒は1年生にとっても貴重だし、場合によっては交渉で使えることもあると思う」
「学力の低い生徒と組んでもらえるように交渉することもあるよね。確かに安易に決めない方がいいかな。他のクラスに取られないように契約を結べればOAA上では決定してなくても事実上ペアを決定したことにはなるしね」
隆二くんの意見に帆波ちゃんの意見。それに補足して哲也くんの意見を聞いて、帆波ちゃんからも具体的な方策の1つも提示してもらう。
やっぱ1年間特別試験に臨んできただけあって、この辺りの思考、戦略については成長が見られる。頭が回る生徒はこの試験にどうやって勝利するか。どうやって乗り越えるか。クラス全体の利益のことを考えているし、そうでない生徒もクラスのためにやれることをしようと受け入れる覚悟だ。
「少しいいですか。ぶっちゃけてしまうと1位報酬のクラスポイント50はそこまで大きいものではありません。他クラスにしてみれば少しでも差を縮めたいところでしょうが、Aクラスにとってははした金のようなものです。なので他クラスの妨害工作に気をつけながら退学者を出さないように安全策に徹するのが良いかと」
「あんた……本当にぶっちゃけたね……」
「はい。なのでぶっちゃけると予め確認を取りましたが、何か問題が?」
「こっちが頷く暇もなく話し続けてた気がするんだけど?」
「姫野ユキは不服ですか。ならぶっちゃけた発言は撤回します。その上で、もう1度ぶっちゃけた発言をする許可をいただきたいのですが構いませんか?」
「いや、うん……やっぱいい……もう言っちゃってるし……」
「そうですか。では私のぶっちゃけた発言は許可されたということで」
そして話し合いの中で突然、結構な意見を放り込んできたのは藍ちゃんだ。相変わらず不思議系すぎてユキちゃんが頭痛を感じている様子だが、その発言自体は否定するべきものでもない。ぶっちゃけぶっちゃけ言ってるのはよく分かんないけどぶっちゃけね。私も同じ考えだから。
「1位を目指さないと? 確かに50のクラスポイントはそこまで大きいものではないが、軽視出来るものでもない。取れるものは取りに行くべきだろう」
「やはり神崎隆二が反対ですか。一之瀬帆波の方はどうですか?」
「私は……そうだね。その方針もありだとは思うかな」
「本気か? クラスポイントだけでなくプライベートポイントも少ないながらも得られる。俺はやはり更にポイントを取りに行くべきだと思うが……」
意見としては帆波ちゃんは藍ちゃんの意見に賛成し、隆二くんはそれでも1位を取るべきだと主張。哲也くんは中立で見てるし、他の生徒も思うところはそれぞれあるだろうけど成り行きに従う感じかな。
となればそろそろここでリーダーである私の出番だ。私は満を持して発言する。
「まあまあ。隆二くんの意見も分かるよ」
「南雲? そう言うってことはもしや……」
「うん。私の方針は最初から決まってる。今回はパス。上位を狙うよりも退学者を出さない方向で舵を切ろうかなって」
私がそう言えばクラスメイトも意外そうで意外じゃないと言うような、安心した表情を見せた。私がある程度リスクを取った戦略を時に取るのは皆も理解ってる。だけど同時にクラスを大事にしてくれると信頼しているため、今回は仲間を守る方向で行くのかと少しほっとした様子だ。
「いいの? 正直言うと私も麗ちゃんなら1位を取りに行くのかなって思ってたんだけど。もちろん、クラスメイトも守ってくれるとは思ってたけど」
「ぶっちゃけ私はどっちもあるかと。ぶっちゃけ一挙両得を狙うと思ってました」
「まあ私もぶっちゃけそれも悪くはないって思ってたんだけどね。新入生も浮ついてるだろうし、1位を目指しつつ退学者を出さないのも難しくはないんだけどさ」
ぶっちゃけちゃんとやれば退学者が出ないようになってる仕組みの試験なのでどっちも取ることは出来る。
だけど私としては他のことも気がかりなので、退学者を出さないことと、もう1つの方針。その2つの目標のために1位は二の次にすることにした。
「ただし退学者を出さないってだけじゃなくてね。せっかく入学ホヤホヤの新入生。可愛い後輩たちとコミュニケーションを取る良い機会を学校側が与えてくれたことだし、私たちは新入生の中から信頼出来る生徒やクラス。それらを見極めた上で、仲良くすることを目指そっか」
つまりは信頼関係の構築であり、信頼出来る生徒の炙り出し。
味方を増やして次に備える。そのために、今回の試験を使う。
「さ、そうと決まれば新入生の歓迎会でもやろっか。私たちがどこの誰よりも信頼出来る先輩だってことを後輩に教えてあげないとね!」
私は手を叩いてクラスの皆に号令を行う。具体的に方針を決めてあげればそれを指示する帆波ちゃんは率先して動いてくれたし、納得した隆二くんもしっかりと私の補佐に回ってくれた。
他の生徒だってそう。Aクラスの生徒は皆、私をリーダーとして信頼して疑うことなく動いてくれている。
「麻子ちゃん。こっち、任せちゃってもいい?」
「……あ、うん。帆波ちゃんは許可取りに行ってくれるんだよね。それじゃ私は準備の方を手伝うね」
「うん、お願いね」
まあ中にはちょっとだけ疑問を持っている
私として問題なのは夏休み頃に控えている実の兄との勝負と、1年生が入学してすぐにその兄や月城理事長代理と一緒に立ち会った、ある特別試験のこと。
1年生の中で各クラス2人──実際には6人に説明されたその特別試験。
──その試験の内容は『綾小路清隆を退学させること』
退学させた者に2000万プライベートポイント。つまりはAクラスに移動するだけの権利を与えられるその試験の説明を聞いていたのは6名の生徒だ。
1年Aクラス──石上京
1年Aクラス──高橋修
1年Bクラス──八神拓也
1年Cクラス──宇都宮陸
1年Dクラス──宝泉和臣
1年Dクラス──七瀬翼
各クラスの代表者1名から2名。1名のところは同じクラスの生徒1名にその詳細を話すことが認められている。
つまりは各クラス2名の生徒が綾小路くんを退学させることで得られる莫大な報酬のことを知っている。
あるいは月城理事長代理がどうしても綾小路くんを退学させたい以上はそれ以外の生徒や敷地内の大人にもそのための刺客を放ってる可能性もあるね。
となるとだ。やはり私はそれを阻止しなければならない。
綾小路くんは私を成長させてくれる先生のような人。退学してもらったら困る。綾小路くんなら大丈夫だろうという信頼はあるけど、万が一がないとも限らない。月城理事長代理という学校の権力者が動いている以上、どんな理不尽で退学まで追い込まれるか分からないからね。
そしてそれを抜きにしても1年生の中にも私のファンになってくれる人がいた方が今後もやりやすい。
だからこそ私はまず、1年生と接触することにした。
「やっぱりこの子にしようかな。
私はOAAでそれぞれの生徒を確認した上で1人の生徒を選び、狙いを定める。アイドルとしての魅力の見せ所だね。
2年生編の開幕です。OAAは1年時の展開が変わればそれに合わせて変わっていくよねってことでちょっとずつ変えていってます。次回は遂に1年生の登場です。
この中に1人、麗ちゃんのファンがいる――かもしれない。
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