ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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アイドルの友達と友達の友達

 2年Aクラスで主催した交流会は無事に大盛りあがりで終わった。ちょっと騒ぎも起こりかけたとはいえ問題はない。盛り上がりすぎて午後5時を少しだけ過ぎて解散した私たちは成果を確認する。

 

「帆波ちゃんどう? ペアを組めた生徒は何人くらいかな?」

 

「すごい順調だよ。ペアを組めたのは15人。それから検討してもいいって言ってくれる子が20人くらいかな。組んでくれたのは学力Cの中間層でこっちも同じC前後の生徒。検討してもいいって言ってくれた子は殆どが学力に不安がある子みたい。OAAだと学力D以下の子たちだね」

 

「それは良いことだね。新入生の殆どの生徒の連絡先もゲットしたし、収穫はバッチリだ。あーあーすごいすごい。携帯の通知が鳴り止まないよ」

 

 交流会の成果を確認がてらいつものカラオケボックスで私たちはちょっとした打ち上げを行う。帆波ちゃんからの報告を聞きながら私の携帯は鳴りっぱなし。大体が新入生のもので、内容は99%がこれからよろしくお願いしますっていう挨拶の連絡でその半分くらいはペアを組みませんかっていうお誘いも入っている。アイドルと連絡先が交換出来て舞い上がってるのだろう。可愛いね。今年の新入生は学校の仕組みについての説明を既に受けているとはいえ、やっぱりまだ緊張感は少し薄い。年相応に芸能人との絡みに喜んでいるみたいだった。

 

「とはいえ学力D以下の生徒と全員組めるほど僕たちも余裕はない。申し訳ないけど半分くらいはお断りすることになるだろうね」

 

「私たちのクラスで学力B以上の生徒は23人で今日決まった人を除けば18人。全員と組むことは出来ないね」

 

「僕たちも学力D以下の生徒と組んでくれる1年生を見つけないといけないからね。そこは仕方のない部分だよ」

 

 哲也くんと帆波ちゃんの話し合いを耳にしながら私は検討する。一応現時点でもAクラス41人は殆どがペアを決められそうとはいえ、学力D以下の生徒は未だペアを決めれていない。学力Dであれば最低でもB。学力Eであれば学力Aの1年生が必要になる。

 幸いにも私たちのクラスで学力D以下の生徒は6人。交渉しなければならない人数は最低限で済む。

 

「ただ気になるのは組んでもいいと言ってくれる生徒の中に1年Dクラスの生徒が1人もいないことだね」

 

「うん。私もDクラスの子と話したけどペアの話をしたら気まずそうにはぐらかされちゃった。多分だけどDクラス全体の方針だと思う」

 

「ここまではっきりと交渉を拒絶するとなるとね。やっぱりポイントを狙っているのかな。あの交流会の場では言い辛そうにしていたのもそれなら説明がつくね」

 

 そうそう。気になる部分といえばそこ。哲也くんと帆波ちゃんもよく分かってるね。ここまで1年Dクラスの生徒がペアを組むことを拒否しているとなるとそこには何らかの目的が、それもDクラス全体の方針として何かがあると見るのが自然だ。

 そしてそれは哲也くんの言う通り、十中八九プライベートポイントだろう。1年生たちは、おそらく2年生から交渉でそれを期待している。

 だからこそDクラスだけでなく、学力の高い生徒ほど簡単には組みたがらない。少しでも頭が回る生徒がいればすぐに気付けること。この特別試験はリスクの少ない1年生に主導権がある。ペナルティを受けて困るのは2年生の方。だからこそ2年生は1年生に対して譲歩しなければならない。

 

「ふむふむ。どうやら先程の騒ぎを起こしていた生徒は宝泉和臣という名前ですね」

 

「おっ、藍ちゃんちゃんと見てるね。やっぱり彼が1番怪しかった?」

 

「はい。あの体格の良さと粗暴な態度。周囲にいた1年Dクラスの生徒が怯えていたのを見るに、おそらく彼がDクラスのリーダーでしょう。であれば確証はないですが龍園翔のようなクラスになる可能性があると推測します」

 

「ま、そうだろうね。宝泉くんがどんな戦略を使うタイプなのかは分からないけど、少なくともかなり強そうだったし今のところ龍園くんに傾向が似てるのは間違いないかな」

 

 先程からずっと携帯を操作してOAAで生徒の確認をしていたと思われる藍ちゃんが先ほど交流会で騒ぎを起こしかけた生徒を特定する。私は分かっていたからその作業は省いていたとはいえ、あの時に周りの反応を見てすぐに特定するその判断力と頭の回転の速さはさすがの藍ちゃんだ。

 そして実際、1年Dクラスのリーダーはあの宝泉くんという生徒で間違いないだろう。代表としてやってきたもう1人の生徒、七瀬翼ちゃんもちょっと怪しい気がするけどリーダーは多分宝泉くんだね。おそらくは腕っぷしでクラスを支配したと推測する。私から見て宝泉くんはかなり強く見えた。

 それこそパワーなら龍園くんとこのアルベルトくんに匹敵する気がするし、もしかしたら単純な強さなら綾小路くんにも匹敵するんじゃないかと思ってしまう程に。

 まあ綾小路くんが負けるところは想像がつかないとはいえ、龍園くんや私よりも全然強いのは確かだろうね。

 そういう意味じゃ今日私が話しかけた宇都宮くんも似たようなレベルの強さを感じたけど……ま、強さ談義は置いとくとしても宝泉くんがリーダーで何か戦略を考えてるのは間違いない。あの場にやってきたのも確認も兼ねてのことだろう。ただなんか普通に私のファンなだけかもしれないけどね。気配がなんとなくそんな感じがしたし。

 ただそうだとしても戦略を疎かにするような生徒ではない気がするし、1年生の中じゃそこそこ出来る生徒だよね。幸いなのは多分、私たちAクラスが標的じゃないってことかな。暴力勝負に持ち込まれるとめちゃくちゃ面倒そうだし、それは助かる。やっぱり早めに信頼出来る味方を作っておきたいかな。

 

「なのでDクラスはペアを組むにしても交渉が難航しそうだし、学力の高い生徒の割合から考えても後回しにしても構わない。重要なのはAクラスとBクラスとCクラスかな」

 

「ペアを組んでくれた子の割合はCクラスが1番多いけど……」

 

「Bクラスもそこそこいるね。逆にAクラスは学力の低い生徒も少ないのもあって交流会には来てたけどペアを組んでくれる人はいなかったかな」

 

「なるほどねー。それじゃ狙い目はAクラスっちゃAクラスか。あるいはCクラスも良さそう。リーダーとも連絡先を交換したしね」

 

 1年Dクラスを除けば話を通しやすそうなのはCクラス。学力の高い生徒を狙いに行くなら当然Aクラス。その中間がBクラスってところだ。

 2年の中じゃ私の人気と順位を気にしない方針もあってかパートナー探しに一歩も二歩もリードしたとはいえ、最低限学力の低い子を救うために学力BからAの生徒を何名かは確保する必要がある。

 でもやっぱCクラスかなー? 宇都宮くんはあの中じゃ1番与し易い気配を感じたし、私が求める条件にも合致する。まだあんまり理解らないのはBクラスリーダーっぽい八神くんとAクラスの2人。特に1人だけど──

 

「って、さっきからずっと黙ってどうしたの隆二くん。何か気になることでもあるの?」

 

「……ああ……いや、別に大したことじゃない。気にしないでくれ」

 

 と、私が考え事をしている中で隆二くんの様子が少しおかしいことに気づく。さっきからずっと何かを考えてるし、明らかに気になることがある。それも新入生についてだね。交流会が始まる前と後で明らかに様子が違う。

 

「隆二くん」

 

「っ……」

 

「気になることがあるなら言ってみて。多分だけど1年生のことなんだよね?」

 

「それは……」

 

「今は1年生の情報は出来る限り集めたいし、隆二くんが誰を気にしているのかは分からないけど私ならいずれ気付いちゃうよ? どうせなら早めに言ってくれた方が時間の短縮になるから私としては助かるかな」

 

 私の前で隠し事をするのも自由だけど、結局は気付いちゃうのだから隠してもあんまり意味はないよってことを隆二くんに説明する。

 

「まあでも無理にとは言わないけどね。言いたくないことなら言わなくてもいいし」

 

「……いや、話そう。確かに今は1年の情報を可能な限り集めて共有しておくべきだ」

 

 隆二くんは私の話を聞いて話すことに決めたらしい。どうも隠したいというよりは、あまり関わりたくないといった感じだ。

 そこから察するに……。

 

「……もしかして知り合いでもいた?」

 

「……! ああ、そうだ。1年生の中に昔の知り合いがいてな。その人物のことを知っているだけに共有すべきかどうかを躊躇してしまった」

 

「神崎くんの知り合いが? それって中学の同級生とか?」

 

「いや、同じ塾に通っていただけだ。それに……奴とは友達でも何でもない。ただの知り合い……いや、あるいはそれ以下の関係性だ」

 

「意味がよく分かりませんが、それでその人物を詳しく知っていると? 神崎隆二はその生徒の追っかけでもしていたのですか?」

 

「詳しくなんてない。だが近くにいればどういうことをしてきたのか、どういう考えの下どういう言動をするのか。その噂くらいは回ってくるものだ。俺はそれであの男のことを知ったに過ぎない」

 

 隆二くんの言葉を聞いて帆波ちゃんや藍ちゃんが質問を重ねるも要点はあまり掴めていない様子だ。

 ただ理解るのは隆二くんがその人物のことを嫌っている……いや、疎んでいると言うべきかな。親しくせずに距離を置いている。そんな感じを受ける。

 

「ふーん? なるほどなるほど。隆二くんがその人にどんな印象を抱いているのかはなんとなく理解ってきたけど、肝心なことに答えてないね。──その人物の名前は?」

 

「──石上。石上京だ。1年Aクラスに所属している。塾や父の付き合いで知り合っただけの男だ」

 

 私はそれを聞いて内心で期待値を上げる。あの時に生徒会室にやってきたAクラスの代表の1人。

 私も気にはなっていたその人物と隆二くんが昔からの、それも神崎くんの実家の付き合い。政財界の知り合いで隆二くんが疎んでしまうほどの何かがある人物。

 

「これは会ってみるしかないね」

 

 あるいは私が求めている条件を持っているかもしれない。そう思い、私は今日出会った1年Aクラスの生徒の中の1人に連絡を入れることにした。内容は要約すると『石上くんという生徒を紹介してほしい』というもの。

 その連絡をしてから相手から確認してみますという連絡を受けてからその数分後。私はチャットを見て返事を確認する──『明日の昼休みなら良いみたいです』と。

 なるほど。昼休みか。あえて放課後じゃない辺り、長くは時間は取らないってことね。

 私はそれを見て早速予定を入れた。さて、まずはAクラスから、そして隆二くんの気になる相手を確認しに行きますかと。

 

 

 

 

 

 生徒会室は生徒会メンバーなら誰でも使うことが出来る。

 いつもは当然、生徒会長である私の兄や3年生が使うことの多い生徒会室だが、今日は連絡を入れて予約を取っておいた。私はこれでも副会長だし、3年生相手でも兄以外は大体お願いすれば聞いてくれる。

 なので今日は3名──同じく生徒会メンバーである帆波ちゃんと隆二くんを連れてお昼休憩がてら生徒会室を利用し、人を待つことにした。

 

「本当に来るのかな? 神崎くんの話だと無駄なことは嫌いなタイプみたいだけど……」

 

「時間を取ると言ったのなら一応は来るだろう。その後の対応がどうなるかは分からないが」

 

「来ないなら来ないで面白いからどっちでもいいけどねー」

 

 帆波ちゃんはなんとなく心配、隆二くんは少し緊張しつつも毅然としている。

 私は正直なところ楽しみだ。来ると言った以上は来ないと材料を与えるだけだし、ほぼ確実に来るだろう。隆二くんの言うように、その後はどんな感じで対応してくるかは分からないけどね。

 ただそれも含めて楽しみだ。そう思い、生徒会室で待ち続けること数分──生徒会室の扉が静かに叩かれた。

 

「どうぞー」

 

「失礼します」

 

 私が軽く部屋への入室を許可すれば、その人物はゆっくりと扉を開けて生徒会室へと入ってくる。

 ──2度目だけど、背が高いしやっぱりイケメンだね。95点はあげていいかな。

 その人物は確かに石上京。入学して早々にこの場所で出会った相手だが、改めて見ても背が高いし雰囲気がある。身体は鍛えている感じはしないけど、どことなく気配が普通じゃない。

 入学当初の綾小路くんに似ている──とも言い切れないね。綾小路くんはもっとぬぼーっとした感じで目立たない生徒だったけど石上くんはちょっと存在感を感じる。

 ただそれがどこまでのものかは分かりにくい。昨日会った宝泉くんや龍園くんのような荒っぽい感じでは全然ないし、宇都宮くんみたいにはっきりともしていない。

 なので少なくとも私が初見で看破出来ないほどには底知れない相手であることは確かだ。私は更に期待しながら石上くんとの会話をスタートする。

 

「あなたが石上くんだね。初めまして。私は生徒会副会長で2年Aクラスの南雲麗」

 

「存じています南雲先輩。一之瀬先輩に神崎先輩も」

 

「私と麗ちゃんのこと知ってくれてたんだ?」

 

「昨日の交流会に俺も友人たちと参加していましたから。とはいえ南雲先輩と話したのは友人だけで生憎と俺は機会に恵まれませんでしたが」

 

 落ち着いていて礼儀正しい。生徒会室で上級生の先輩3人が待ち構えていたら普通はもっと緊張するものなんだけどね。

 それに礼儀正しくはあるけど隆二くんには言及しない辺り、味方でも敵でもない人間には無関心というのは本当らしい。つまり、隆二くんは無関心。敵でも味方でもないってことだ。私と帆波ちゃんに対しては学校の先輩に対して普通に接しているだけか、あるいはもうそのどっちかなのか。

 

「というか1人で来たんだね? 友達も連れてきて良かったのに」

 

「俺の用事に付き合わせるのも悪いですから。友人たちには先に学食に向かうようお願いしてきました」

 

 この後は友人たちと学食で約束があると暗に告げて更に時間はそれほど取らないことをアピールしてくる。なんというか、独特なペースで話すね。自然体なようでいて、どことなくこちらを窺っているような気がする。私の経験値の中にもいないタイプだ。

 

「それで、用件は何でしょう?」

 

「ちょっと相談したいことがあってね。あ、とりあえず座っていいよ」

 

「ええ。失礼します」

 

 そして座って良いと許可を出せばきちんと私たちの前に座る。時間はあまり取らないけど、しっかりと用件を聞く用意はあるってことかな。長話は好まないタイプみたいだね。

 それじゃ簡潔に言ってあげよう。お友達を待たせるのも悪いし。

 

「それで、用件は?」

 

「ああ、うん。今特別試験が行われてるでしょ? それで私たちも1年生の中で組んでくれる人を探しててさー。1年Aクラスの生徒に助けて貰えないかなーって」

 

「先輩方の学力はA-以上ですよね。助ける必要があるとは思えませんが」

 

 当然OAAだって事前に調べてるよね。普通のことなので特に気にせずスルーする。向こうも理解していながら放り込んできた言葉だ。

 

「私たちはね。確かに必要ないけどさ。クラスの仲間に学力が低い子がいるからそのためにAクラスの生徒に助けてほしいんだよ」

 

「なるほど。用件とはそちらの学力評価が低い生徒と1年Aクラスの学力の高い生徒を組ませることですか」

 

「そうそう! AクラスってAクラスに選ばれるだけあって学力の高い生徒が多いでしょ? 石上くんだって学力Aだしさ!」

 

 私はいつも通り明るく、イメージ良くなるように用件を告げた。石上くんも最初からある程度察していたみたいですぐに理解する。うんうん。頭が良い子との会話はスムーズだね。これなら本当に話は早く終わりそうかな。

 

「もちろんタダじゃないよ? 反対にこっちの学力評価が高い生徒とそっちの学力評価が低い子を組ませてもいいし、プライベートポイントもある程度なら払ってもいい。なんだったら今後も何か困ったことがあったら力になるし、どうかな?」

 

「話は分かりました。ですが何故俺たちAクラスなんです? 他のクラスにも学力の高い生徒はいます。それにそちらはBクラスやCクラスと既にある程度話を付けているはずでは?」

 

 交流会に参加していたのなら全クラスが参加していたことは分かるし、情報収集を怠ってないならDクラスがパートナーを組んでいないこともわかる。自クラスのペアの参加状況も把握していれば消去法でBクラスやCクラスとペアを多く組んでいるのは分かること。おかしなことじゃない。

 

「そりゃある程度はね。でも全員ではないし、学力が高い生徒を集めるならやっぱAクラスがいいでしょ? さっきも言ったように学力の高い生徒が多いんだからさ」

 

「そうでしょうか。先輩のクラスに学力D以下の生徒は数名しかいません。その分の生徒を集めるだけならAクラスに限らず他のクラスの生徒も含めて個別に話を持ちかければいい筈。態々俺を呼び出してまで話すことじゃありません」

 

「それはそうだね。でも総合1位を目指すには出来るだけ学力は高い方がいいでしょ?」

 

「総合1位を目指しているなら昨日の時点で交流会を行って学力がそれほど高くない生徒を囲い込むのは少しおかしくないですか? 1位を目指すのであれば簡単にはパートナーを決めず、学力の高い生徒を可能な限り集めるのが普通の戦略です」

 

 中々に良い指摘をしてくる。どうやら薄々感じてたけどすごい頭が回るみたいだね。

 ただこれくらいならまあ別に、気づいてもおかしくはない。理解の速さは大したものだけどね。

 

「そうしたいのは山々なんだけどさ。実は私たち……去年の特別試験でちょっとだけ金欠になっちゃってね。ポイントを使って生徒を囲い込むだけのポイントがないんだよ。あ、これオフレコでお願いね。他のクラスにバレたら都合が悪いから」

 

「っ……」

 

「……なるほど。確かにそれなら1位を狙うことは難しいかもしれませんね。2年のCクラスは元はAクラスと聞いています。学力は高いし、ポイントも他のクラスの方が現時点では所有しているとなるとマネーゲームになった際に勝ち取ることは出来ない」

 

「そうそう! よく理解ってるね石上くん! だから実は昨日も必死でタダで学力が高い生徒が来てくれないかなーって藁にも縋る気持ちで開いたんだよね。ポイントじゃなくて信頼関係でペアを組めるならそれに越したことはないわけだしさー」

 

 私は石上くんをヨイショしつつ理由を説明した。嘘は言っていない。今のAクラスはそれほどポイントが余っているわけではない。

 まあ最低限マネーゲームを行うだけのポイントは持ってるけど、それでも未だ船上試験のポイントにノータッチな有栖ちゃんのCクラスの方がポイントの総数は上だろう。

 もっともCクラスはCクラスで問題を抱えてるからアレだけど、それでも今回は1位を取りに来るだろうね。有栖ちゃんがんばれー。で、私たちは精一杯頑張ると。

 

「マネーゲームになることは理解っているが勝てない。だから先んじてこうして話を通しに来たと」

 

「そういうことになるね。お願い出来る?」

 

「そうですね。そういうことでしたら力になっても構いません。俺も学力の低いクラスメイトを守るために学力の高い2年生を探していたところですから。交換条件ということでどうですか?」

 

「ほんと!? うわー、ありがとう石上くん! それじゃ時間もないみたいだし具体的な話を詰めよっか!」

 

 意外にも私の頼みを快諾してくれる石上くん。味方には情が厚いとは隆二くんから聞いてたし、そこを付けば普通に組めるみたいだね。頭の中にメモしとかないと。

 そんなわけで石上くんとの具体的な話し合いを行おうと私は機嫌良く応対しようとした。

 

「ええ。その前に質問しても構いませんか?」

 

「うん! 何でも聞いて!」

 

「では2つほど。2年Aクラスのクラスポイントは幾つですか?」

 

「1247だね。もう1つは?」

 

「では聞かせてください。──もしかして、南雲先輩の狙いは2年Bクラスから多数の退学者を出すことではありませんか?

 

 石上くんの質問に部屋の静けさが増したような気がした。隆二くんと帆波ちゃんが虚を突かれて驚いてる。困惑した気配を感じる。

 だが反対に私は、その言葉に言いようのない凄みを感じていた。

 

「ん? どうしてそう思うの?」

 

「いえ、ちょっと計算してみたんです。2年Cクラスが全力で1位を狙いに行った場合、残る学力B以上の生徒の数を」

 

「生徒の数?」

 

「1年全体の学力B以上の数は54人。その中でどういうわけかペアを組むことを禁じているDクラスを引けば43人。そして2年Cクラスの生徒の数は色々あったようで37人。これを引けば残り6人になります」

 

「そうだね。それがどうしたの?」

 

「まずCクラスが全ての学力B以上の生徒を囲い込むことは可能性としては低いとはいえ、もし仮にそうなれば残る学力B以上の生徒の数は南雲先輩のAクラスの学力D以下の生徒の数と同じ。6人になります」

 

 私は内心で心を跳ね上げさせるのを隠す。面白い。すごい。今の会話の中でそこまで可能性に至ってくるとは。

 

「なるほど。それを私が独占しちゃえば、必然的に2年Bクラスが困るわけだ」

 

「2年BクラスはDクラスに次いで学力D以下の人数が多いようですね。それならもし、パートナーを誰とも組むことが出来なかった場合500点に届かない可能性が高い。そうなれば多くの生徒が退学になります」

 

「いやーそれはそうだね。でもそれを実現させるのって難しくない? 結構な数の生徒に頼み込まないとだよ?」

 

「昨日の時点で殆どの生徒の連絡先を手に入れたことで交渉は優位でしょう。それに加えてポイントがあれば可能です。仮に1年生の余った生徒に2年Bクラスとペアを組まなければクラスポイントの800の分の8万プライベートポイント。40人分を支払うと条件を出したとすれば1か月に320万プライベートポイント。先輩のクラスなら十分に支払えます。今はポイントが少なくとも他のクラスに比べて圧倒的にポイントを得ることが出来るのが2年Aクラスです。そういう意味じゃマネーゲームを行ってもBクラスどころかCクラス相手にも優位を取ることは難しくない。狙いを読まれさえしなければ。それも昨日の交流会が目眩ましになっている」

 

 交流会を通じて1年生を相手に信頼関係を築こうとしていると見られる以上、ポイントを使った生徒の獲得に動くとは思いにくい。思っても、それほど大規模なものだと思わない。

 あるいは気付いても気付いた時にはもう遅い。1年生との契約が終われば他の2年生にはどうすることも出来なくなる。ポイントも現状の保有してるポイントだけじゃなく未来のポイントも担保にすればどうにでもなるし、圧倒的なAクラスというブランドがそれだけのポイントを支払えるという信用にも繋がる。

 

「なんなら少し色をつけても支払えるっちゃ支払えるね。でもそこまでやる必要ある?」

 

「さっきも言ったように2年Bクラスは学力D以下の生徒の割合が多い。4、5名退学させればクラスポイントを大きく減らすことになるのではありませんか? ならやる価値はあります。3ヶ月のポイントの支払いで1つのクラスを壊滅に追い込めるんですから」

 

 ──これは只者じゃないね。

 石上くんの少ない情報からの推測。私の考えていたことにこの短い期間で辿り着いてしまったことに素直に驚く。反応に出してはないとはいえ、本当に内心では驚いていた。

 今の話には敢えて出てこなかったが、1年Dクラスがおそらく2年Dクラスに狙いをつけているであろうことも半ば読んでいるように感じられる。1年Dクラスが2年Dクラスとペアを組む前提。そうなった時に余っている生徒の数から逆算して私の戦略の1つを暴き出した。

 退学者を出した時のペナルティのことも既に掴んでいるのか予想したのか。どちらにせよそこもまた優秀だ。

 もしかして綾小路くんレベルだったりするのかな? 

 

「態々俺を呼び出して交渉したのはBクラスに先んじて交渉を行うため。その上で俺たちにも協力させるつもりだったのでは?」

 

「あはは。いやいや、中々面白い戦略を考えるね」

 

「違いましたか。では俺の勘違いですね。申し訳ありません」

 

「謝る必要はないよ。良いこと教えて貰っちゃったしね。なんなら本当にそれやっちゃおうかな? 石上くんはどう思う? もしやるって言ったら協力してくれる?」

 

 2年生の中での争い。龍園くんと私の戦いは既に始まっている。

 だけどやるなら容赦はしないからね。せっかくの特別試験なんだから試しに去年と似たような戦略を取ろうと思ったんだけど……まさか入学したばかりの1年生に読まれるとは。元々上手くいけばくらいの策ではあったけど……さて、どうなるかな。

 

「いえ、お断りさせていただきます。2年生の争いに1年生を巻き込まないでください」

 

「それはそれは。なんかごめんねー。でも今回の特別試験では1年生と関わることは必要不可欠だからさ。ある程度は仕方なくない?」

 

「ええ。ですから最初の提案だけなら構いません。ただし、それ以外の大きな犠牲が出るような企みに1年生を巻き込まないこと。それが条件です」

 

 大きな犠牲。その言葉に隠れた意味は明白だ。

 

「つまり、1年生から退学者を出すような企みをしないこと。そのリスクがある企みに巻き込まないこと。それが条件ってこと?」

 

「はい。お願い出来ますか?」

 

 ははぁ。なるほど。最初からその条件が欲しくてここに来たのね。

 何も私の戦略を読んで暴露したかったわけじゃない。干渉を防ぐために、2年生で1番影響力のある私に話を通したかった。私の影響力はよく理解ってるみたいだし、弁えれば味方にはなれそうだね。

 

「んー……まあ確かに1年生からいたずらに退学者を出そうとは思ってないからそこは良いんだけどさ。ただ今回みたいに学年の垣根を超えた特別試験なんかでは関わることを求められるし、戦略の中には退学者を出すようなこともある。それは学校の方針だからね。そこを禁止されちゃったら戦略の幅が狭まっちゃうんだけどな」

 

「何も2年生や3年生の中で退学者を出すなとは言いません。そこは1年生には関係ない。ただ1年生の中で事が大きくなりすぎるようなことは遠慮してもらえると助かります。それさえ守ってくれるなら、俺個人は南雲先輩と良き関係を築けるよう努力させていただきますよ」

 

 なるほど。面白い言い方だ。1年Aクラスではなく石上くん個人。それも具体的な約束をするのではなく良き関係を築けるように努力すると関係性を深めることを強調した言い回し。

 なんというか、政治家っぽい言い回しだね。隆二くんによると政治の世界に興味あるらしいけどそれも納得というか。

 そう考えると私にそういう申し出をしてくるのも理解らなくもないかな。

 私はその申し出を改めて考える。1年生の競争に関わらない。去年雅兄が綾小路くんと結んだ契約に近いような内容だね。放っといたら1年生を支配しようとしかねないとでも思ったのかな。まあ正解だけど。良い危機察知能力だね。

 確かに私としては1年生に味方が欲しいだけだし、それが石上くんになるなら願ったり叶ったりだ。石上くんの優秀さはこの短い会話でもよく理解出来たしね。私は色々と考慮した上で返事をすることにした。

 

「そうなれば俺も個人的に何かが起きた時に南雲先輩に相談することも出来ます。今回は1年生もこの学校の特殊な環境に慣れていないので力をお貸しすることは出来ませんが、今後に関しては場合によっては協力出来ることもあるかもしれません。……どうですか?」

 

「……そっか。持ちつ持たれつってことだね。それじゃあその条件でいいかな。今日中に学力D以下の子たちに申請するように言っておくからそっちも申請が来たら受けるように言っといてくれる?」

 

「ええ、わかりました。伝えておきます。それでは俺はこれで」

 

 話が終わると雑談もなくすぐに退室しようと席を立つ石上くん。

 それを見た隆二くんが声をかけた。

 

「石上。もう行くつもりか?」

 

「何か他に用件でも?」

 

「いや、用があるわけではない。だが……いや……」

 

 隆二くんは何かを言いかけて躊躇する。やはり石上くんには苦手意識というか、関わり合いになりたくないという思いが消えてないのだろう。

 それでも声をかけたのは参謀としての責務がゆえか。何か危惧や忠告を口にしようとしたか。

 だがその前に石上くんが声をかけた。

 

「……変わりましたね神崎()()

 

「何? 今……何と言った?」

 

「変わりましたね、と言いました。知人の変化が気になっただけですが何かおかしいですか?」

 

「いや……」

 

 言外におかしいと言いたいのだろう。隆二くんは言葉を迷わせる。おそらくだが以前の神崎くんに対する石上くんはもっと冷たいものだったんじゃないだろうか。

 関心も何もなく、敬語すら使っていなかったかもしれない。

 それが変化したのは単に変化が気になったのか、それとも──。

 

「では失礼します南雲先輩。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──うん。またねー石上くん」

 

 そうして石上くんは一礼して去っていった。

 少なくとも関心は持たれてたかな? 

 

「すごい不思議な感じがする子だったね……」

 

「あれが石上だ。そしてどうやら……南雲には無関心ではないらしい」

 

「ま、私だからね。どんな人も私には注目せざるを得ないってわけ」

 

 私は自慢気になる。……とはいえ読みきれない相手ではあったかな。

 最初に1年生を企みに巻き込ませないでくださいって言った割には後からその言葉を翻して今後はそういう協力も出来るかもしれないと匂わせて交渉を呑ませるように譲歩してきた。目的がいまいち読めないけど、印象としては1年生から退学者を出すことを避けたいのと、上級生にかき乱されるのを嫌ってるって感じかな?

 向こうから禁止しておきながら場合によっては協力しても構わないとかね。あくまで自分で場をコントロールしたいのが伝わってきた。

 私は不思議な感覚だった。考えれば考えるほど色んな意図が見えるような気がして面白い。石上くんかー。さっきは内心で良い危機察知能力だって褒めたけど。

 もしかしたら()()()()()()()()()()()()()。なーんて。

 

「ところで石上くんは神崎くんの父親と付き合いのある家の子なんだよね?」

 

「ああ」

 

「ってことは有栖ちゃんとも知り合い?」

 

「ああ。坂柳とも付き合いはあるだろうな。何故そんなことを?」

 

「いや、それなら綾小路くんとも知り合いなのかなって」

 

「綾小路と? いや、それは──」

 

 石上くんが立ち去ったところで私はついでに気になったことを質問してみる。

 それは以前にも聞いた、隆二くんと有栖ちゃんとの接点。有栖ちゃんと綾小路くんの接点の話だ。

 綾小路くんは以前から有栖ちゃんと知り合いだった。それなら石上くんが隆二くんだけでなく有栖ちゃんとも知り合いなら、綾小路くんとも知り合いかもしれない。

 しかも石上くんは綾小路くんを退学させる試験においてここにやってきた代表者の1人。もしかしたら関係あるかもしれないと推理してみたが──。

 

「いや、まさか……あり得るのか?」

 

「どうしたの神崎くん? 神崎くんと石上くんだけじゃなく、坂柳さんとも知り合いって……それになんで綾小路くんが出てくるの?」

 

「綾小路……もしや……」

 

 ──どうやらビンゴみたいだね。

 

「教えて隆二くん。綾小路くんと石上くんを結びつける、隆二くんが気付いたことは何?」

 

 私は改めて問いかける。去年の夏にも聞いたこと。

 帆波ちゃんはその初めて聞いた話に驚いてるけど、後で説明してあげるから待っててね。

 今は隆二くんから答えを聞くのが先だから。

 

「……石上には慕っている大人がいた。俺の父や坂柳の父親とも関わりのある──()()()()()()()()()()()()()()

 

 私はそれを聞いて欠片が1つ埋まるような感覚を得た。

 ……どうやら綾小路くんの理解もまた進みそうだね。




ということで石上くん回でした。次回からは平和に他の1年生と絡みつつ、綾小路くんや龍園、坂柳とか橋本のことを書いていきますのでお楽しみに。

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