ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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無人島サバイバル編
握手をすると相手のことが理解る


 俺にとって麗は可愛い妹だ。

 歳は俺の1つ下。家族であり兄妹であるから当然物心つくより前から一緒に過ごしてきた。

 俺が蹴落としてきた奴らからすれば信じられないかもしれないが、俺だって別に血も涙もないわけじゃない。

 多少性格が悪い自覚はあるが友人、恋人、家族への情だって当たり前に持ち合わせている。

 その中でも麗は特別だった。小さい時から俺の後ろを追いかけては俺の真似をし、遊んでほしいとせがんでくる。

 それで見た目は昔っから兄の俺から見ても可愛らしく、それでいて勉強やスポーツでも俺に似て優秀。

 そんな妹が可愛くないはずがないし、俺はあいつをいつだって可愛がってきた。

 勉強も教えてやったし、スポーツも一緒になってやった。あいつに嫉妬してイジメようとした女子を脅してやめさせたこともあったな。

 と言ってもそんなことをせずともあいつは自分で乗り越えただろうが、さっきも言ったように俺にだって情はある。妹がくだらない理由でイジメられそうになってたならそれを助けるくらいにはな。

 あるいはこれが弟だったり、優秀じゃなかったりすればこれほど可愛がることはしなかったかもしれないが、たらればの話をしたところで意味はない。

 俺は麗の兄で麗の兄は俺。それだけが現実だ。

 

 ──だが、だからこそ俺は気づかない振りをした。

 

 小学生の頃も。中学生の頃も。

 あいつがアイドルデビューしてからも。

 俺はずっと自分の中の違和感に蓋をして生きてきた。

 もっともそれは高校に入学するまでは本当に無意識だった。

 俺の実力が本物かどうか確かめるために必要な好敵手の存在。

 俺は最初、それを堀北学に求めた。

 そしてそれは間違っていなかったと言える。追いかけ続け、結局は相手には殆どされなかったとはいえ後悔は全くしていない。

 

 だが、あの堀北先輩が実の妹である堀北鈴音と接している姿を見て、俺の中に強烈な違和感が湧き出した。

 

 あの人は、堀北先輩はそっけないように見えて妹である堀北鈴音に向き合っているように見えた。

 それは同じ妹のいる兄としての直感としか言えない。明確な理由を問われても答えられないものだからだ。

 

 そして俺がずっと感じていた違和感──いや、気付かない振りをしていたことを俺は思い出す。

 

 確かに俺はずっと1番だった。人気者だった。

 

 だが俺の後ろをついてくる麗は、才能に溢れていた。

 俺が勉強を教えてやれば、俺よりも早くそれを理解する。

 俺がスポーツで活躍してみせれば、気がつけばそのやり方を理解して俺に追いついている。

 あいつがアイドルになれば瞬く間に俺よりも遥かに人気者になった。

 あらゆる成長が俺よりも早かった。

 

 そう──あいつは天才だった。俺を上回るほどに。

 

 俺が感じていた違和感とは、あいつをずっと庇護対象において好敵手から除外していたこと。

 麗は俺の妹だ。あいつの強いところも、弱いところも俺は理解している。

 あいつは昔から好奇心旺盛で明るく友達が多く、俺とは違って性格も悪くなかった。他者を思いやれる人間だったし、アクティブに見えても意外とインドア派だったり気を使って友人に気を使って我慢したりするような部分もある子供だった。

 だからこそ俺はあいつを庇護下に置き続けた。兄として守ってやろうと思って。

 

 ──だがあいつが強くなった時に気づくべきだったのかもしれない。

 

 あいつにとってショックな出来事があった日。

 以前から優秀だった麗が更に強くなった時も、俺はそれを慮ってより庇護してやろうと思った。

 その時の判断に後悔はない。傷ついた妹を兄としてどうにかしてやりたいと思ったことは事実だし、今もその気持ちがなくなったわけじゃない。

 だが麗は全てを理解して乗り越えて強くなった。

 だからもう抑える必要はない。傷が癒えてなかったのなら今もなお抑えていただろうが、その必要はないと理解った。

 

 ゆえに俺は……俺の実力が本物だと証明するために麗とやり合う。

 本当に麗は俺より上なのか。

 それともやはり麗は俺より下なのか。

 互いに気を使って曖昧にしていたその答えを知る。

 それこそが俺たち兄弟の向き合い方だと、俺たちは互いに理解していた。

 

 

 

 

 

 どんな人間だってやる気のない日はある。

 それは私のようなとっても可愛くて天才アイドル南雲麗ちゃんでもそうだ。

 もっともやる気がないからといって本当に怠惰に過ごすわけじゃない。

 ただ雑用とかそういうやりたくないことをやる気力が比較的ないので、他の人に任せたりしたくなるだけだ。

 一年中精力的に活動している私にはかなり珍しいが、極稀に眠たくなる日はある。

 そういう時、私は遠慮なく周囲に甘えることにしていた。有能でいつも働いてる人間にはこういう時に甘える権利がある。

 それに可愛い私が甘えることは他の人にとってご褒美なのだ。だからむしろ、甘えてあげている。

 つまりお互いにウィンウィンだ。私は甘えられて幸せ。他の人は私に甘えてもらって幸せ。

 これが世界の真理であると私は確信した。

 

「ということで雅兄ーお菓子ー。それと疲れたから桐山先輩マッサージー」

 

「何がということでなのか分からないが、お菓子くらいなら好きにしろ」

 

「……南雲。お前の妹の様子がおかしいがこれは……?」

 

「ああ。たまにこうなる。懐かしいな。家だと数ヶ月に1回こうなって俺や家族をパシらせてたものだが……俺の知る限りこの学校に入ってきてからは初めてだな」

 

「なるほど……確かに珍しい姿だな」

 

「良かったな桐山。それだけおまえにも気を許してるってことだ。おまえが良いなら麗にマッサージしてやるといい」

 

「……遠慮させてもらおう。みだりに女子に触れるべきではないからな」

 

「えー? 桐山先輩かたーい。私が良いって言ってるんだから肩もみくらいしてくれてもいーじゃーん」

 

「諦めろ麗。その代わり客が来るまではソファーで寝ててもいいぞ」

 

「あ、ほんと? それなら遠慮なく……はぁぁぁ……」

 

「まさか本当に寝るとはな……」

 

 私は雅兄の許可を得て生徒会室のソファーで寝転がる。雅兄は隙間時間に雑務を片付けながら慣れた様子で私に視線すら送らないが、私と同じ生徒会副会長で3年生の桐山先輩は困惑気味に私を見ていた。

 確かに珍しい姿ではあるけどね。でもこの程度はなんてことはない。クラスでもたまにだらける時はだらける。

 だがそのだらけも私の評価が下がるほどのものではない。むしろ良い感じにギャップを演出している。だらけと言っても可愛く寝転がるだけだからね。私の寝顔は結構レアだから滅多に見せないとはいえ、絶対に見せないと気を張ってるわけでもない。

 どんな時でも自然体で輝いてるけど親しみやすい。それが私だ。なので気持ちよさそうにソファーに寝転がる私も絵になるし、人気を集める結果になる。

 だから私は遠慮なく甘えられるしだらけることも出来るのだ。可愛いは正義ってね。

 

 ……ただこうやってだらけてられる時間もそんなにないんだけどねー。別にいいけどさ。

 

 というのも雅兄が言うようにこれから生徒会室には客が来る。

 しかもそのアポイントを取って雅兄と話したいと時間を取ってきたのはなんと鈴音ちゃんらしい。

 そのことで私は興味津々だった。寝転がってる姿からそうは見えないかもしれないが、普通に気になってるし何の用事だろうって考えて楽しみにしている。

 鈴音ちゃんは雅兄みたいなタイプは好きそうじゃないし、なんだったら雅兄は堀北先輩のことで因縁もある相手だ。

 生徒会となると私だっているし居心地は良くないだろう。それでも成長した鈴音ちゃんなら無闇に突っかかったりはしないだろうし、ここに来る理由も何かしら意味のあるものなんだろうけど……うーん。さすがの私もちょっと分からない。候補もあるけど絞りきれないかなー。

 なので分からないからこそ楽しみだ。もしかしたら結構予想外なこと言ってくる可能性もあるしね。まだかなー。

 

 そしてソファーで寝転がることしばらく──生徒会室の扉がノックされ開かれる。

 そうして現れたのは鈴音ちゃんと……あれ? 

 

「失礼します」

 

 おおっと。これはまた予想外。まさかの綾小路くんが鈴音ちゃんと一緒にやってきた。

 ってことは綾小路くんの用事? もしくはただの付き添い? それとも2人に関係してくる用事なのかな? 

 生徒会室に入室してきた2人の姿を見て私は新たに考察しながら身体を起こす。だらけたい気分だったけど鈴音ちゃんに加えて綾小路くんまでやって来たから寝てる場合じゃねえって感じだ。

 

「いらっしゃーい鈴音ちゃん。綾小路くんも」

 

「南雲さんもいたのね」

 

「そりゃ副会長の1人だからねー。あ、私のことは気にしないで。雅兄に用事でしょ。ささ、座って座って」

 

「……なら遠慮なく座らせて頂きます」

 

 私はソファーで身体を半分起こしながら、長テーブルの適当な席に座るように促してあげる。敬語なのは私じゃなくて雅兄や桐山先輩に向けてだろう。副会長の私が許してるとはいえ話をする相手は私じゃなくて上級生の雅兄だからね。上下関係の礼儀はしっかり気をつけている。

 

「俺に話があるんだって?」

 

「はい。お時間を頂きありがとうございます」

 

「気にするな。今は割と暇してる時期な上、ちょうど退屈していたところだ。麗も見ての通り暇そうにしてるだろ?」

 

「そのようですね」

 

「暇というかだらけてるだけなんだけどねー。自主的な行動だから忙しいと言えば忙しいよ」

 

 そうして雅兄と鈴音ちゃんの話が始まるが、挨拶代わりに私のことを話題に出すも本当に挨拶代わりというか、私が言葉を返しても誰も反応してくれない。むむ、傷つくなぁ。別に適当言ってるわけじゃないんだけど。だらけることも私のスケジュールのうちってだけで。時間を作ってしっかり休むことが売れっ子アイドルには求められるのだ。

 

「それで俺に話っていうのは? 単に雑談しに来たってわけじゃないんだろ?」

 

「貴重なお時間かと思いますので単刀直入に。私は生徒会入りを希望します」

 

 なーんて、鈴音ちゃんの用事は大したことない──って、え? マジ? 

 私は素直に驚く。雅兄や桐山先輩も驚いていた。いや、そりゃそうなるよね。私だってそうなる。

 

「生徒会入りを希望?」

 

 雅兄の期待へと変わる声を聞きながら私も興味深く鈴音ちゃんを見つめる。

 いやだって鈴音ちゃんは生徒会に入ることには興味ないと思ってたんだけど……どういう心境の変化なのかな? 

 

「それはまたどういう風の吹き回しだ? 素直にイエスと言いたくない気分だ」

 

「つまり歓迎はしていただけないということでしょうか」

 

「そうじゃない。俺は基本的に来るもの拒まずのスタンスだ。生徒会に入りたいって人間がいれば空きが許す限りは入れてやる。志望理由にも興味はない。OAAのためでも、のちの就職のためでも、そこで寝転がっている俺の妹にとお近づきになりたいなんてものでも自由だ」

 

「でもそれで入ってきた人は皆クビにしちゃったけどね」

 

 雅兄は誰でも生徒会に入れると公言してるし私もそれでいいとは思うけどここ1か月は大変だった。新入生で私のことを知って生徒会に入りたがる生徒が多かったからね。

 それで一時期は人も多かったけど結局は使えないとして雅兄が落とした。なので入れはするけどその後の実力次第じゃ降格もありえるよねっていうスタンスだ。

 

「けどな、おまえは特別だ堀北鈴音。生徒会に入る条件を1つだけ付けさせてもらおう」

 

「その条件とは何でしょうか」

 

「どうしてこのタイミングで生徒会入りを希望したのか、その理由を教えてもらおうか」

 

 ま、それはそう。雅兄も気になるよね。私も聞きたいし。

 ただ私としては鈴音ちゃんの志望理由もそうだけど、なんでこの場に綾小路くんまで付いてきてるのかも気になる。

 

「私は兄との確執を抱えていました。その確執を無くすため飛び込んできたのがこの学校です。ですが、入学してからも私と兄の関係が変わることはありませんでした」

 

 例えば……そう。鈴音ちゃんが生徒会入りした理由に綾小路くんが関わっていたとしたら? 

 その理由はおそらく綾小路くんを退学させる1年生に与えられた試験について調べるため。あるいは雅兄の動向を監視するため。

 後は私が理由ってこともありえるし、鈴音ちゃんの成長のためって理由もなくはない。

 

「何一つ成長していなかった私を認めてくれるはずもなかったんです。結局、兄が卒業する間近まで満足に話すこともできない1年間を送りました」

 

 それらの複合した理由がある。そう考えるのが1番自然かな。

 

「それで、和解は出来たのか?」

 

「はい。最後の最後ではありますが和解することが出来ました。そこで初めて兄が学校生活を捧げた生徒会に興味を持つことが出来たんです。随分と遠回りしてしまいましたが、兄が通った道を私も通りたくなったんです」

 

 鈴音ちゃんは真っ直ぐに雅兄を見据えてそう言うけど……まあ嘘は言ってないかな。

 ただ本当のことも言ってない。私の目からはそう見える。生徒会に入る覚悟と動機は固めてきたけど、実際そのきっかけとなったのは本当は堀北先輩じゃないのかな? となると綾小路くんがきっかけなんじゃないかって私は推察するけど……それはそれとして面白いことには変わりない。

 

「兄が通った道か。大層立派な話だな」

 

 雅兄はそう評したけど実際は警戒してる。

 私ほどじゃないとはいえ洞察力はあるからね。雅兄も。だから本当か嘘か分からずにあえて試すようにこう続けた。

 

「それはつまり、いずれは生徒会長になる意思があると思っていいのか?」

 

 雅兄がそう問いかければ、生徒会室の空気が僅かに締まった。

 理由はその問いかけと私の存在。次期生徒会長としてほぼ確実視されている私に、答えによっては喧嘩を売ることになるからだ。

 なので私もあえてそれに乗って鈴音ちゃんを試すように見つめる。隣の綾小路くんにも一瞬視線をあげたけど、相変わらずの真顔だ。ただ私が気にしてることには気付いたかな。それくらいは分かるよ。

 ってことで鈴音ちゃんはどう答えるのか。私はそれを待って……そして聞いた。鈴音ちゃんの決意を。

 

「はい。兄が通った道を通るとお伝えした通り──生徒会長になるつもりです」

 

 曇りない真っ直ぐな意思表明。

 そこには嘘も偽りもないと他ならぬ私の目がそう判断した。

 つまり鈴音ちゃんは本気で私を倒して生徒会長になるつもりなのだ。

 それを理解して私は心に火を付ける。ソファーからゆっくり立ち上がって雅兄の横に、鈴音ちゃんの正面に移動した。

 

「──へぇ? 中々面白いこと言うね鈴音ちゃん。この私を押しのけて生徒会長になるって?」

 

「今言った通りよ。私は生徒会長になる。あなたが相手でも譲るつもりはない」

 

 私の視線を受けても真っ直ぐに見つめ返す鈴音ちゃん。やはりその決意は本物で、私をどこか期待させてくれる。

 

「生徒会長になるつもりか。兄の俺が言うのもなんだが、身内贔屓を抜きにしてもこいつは優秀だ。クラスの上でもOAAでも周囲の評価でもな。そのことを理解してるのか?」

 

 生徒会に1年間。それも1年生の時から副会長として務めている私の評価は生徒会だけでなく生徒や教師からも認められている。

 クラスのリーダーとしてAクラスを維持し続けていることもそうだし、OAAでも私は全校生を含めて総合力が1位。先の試験の結果も受けて学力もA+に上がった。

 それに比べて鈴音ちゃんは劣っていると雅兄は指摘するも、鈴音ちゃんはそれを聞いても揺らぐことはなかった。

 

「現時点での私の実力が南雲さ──南雲麗さんを下回ることは認めます。ですが追いつけないとは思っていません」

 

「なるほど。自己分析は出来てるみたいだね」

 

「分が悪いと認めながらも勝てるつもりでいると?」

 

「もちろんです。彼女は私がAクラスを目指す上で避けては通れない相手ですから。どの道倒すつもりでいました」

 

 生徒会に入る入らないは関係なく、どの道私を乗り越えるつもりでいると。それを聞いて私はなんて返そうかと迷ってしまう。

 その決意を大言壮語だと切り捨てるのは簡単だ。現時点で鈴音ちゃんが私に対して大きく劣っていることは確か。紛れもない現実だ。私にはそうする権利がある。

 だけどこうやって、劣っていると自覚しながらも私に勝つとはっきりと伝えてくれる相手に対し、そこらのファンやアンチと同じように接するのはちょっとだけ失礼だ。

 それも相手はぽっと出の縁もゆかりも無い相手じゃなく、他のクラスとはいえ同級生として1年間見てきた鈴音ちゃんだ。

 

「いいね、鈴音ちゃん。その決意に満ちた視線、確かに受け取ったよ」

 

「南雲さん……ええ。理解してくれたようね」

 

「うん。ばっちりとね。──雅兄。入れてあげようよ」

 

 私は鈴音ちゃんに理解したことを告げると雅兄に生徒会入りを認めるようにお願いする。

 ただ言わずとも雅兄もまたその答えや私たちのやり取りに期待をしていたようですぐに頷いてくれた。

 

「言われずとも認めるつもりだ。いいだろう、生徒会入りを認めてやる」

 

「ありがとうございます」

 

「その自信に満ちた目を見ると堀北先輩を思い出すな。悪いが堀北と呼ぶには抵抗がある。もう何度か呼んでいるかもしれないが今日から改めて鈴音と呼ばせてもらうぜ?」

 

「好きになさってください」

 

 鈴音ちゃんの生徒会入りを雅兄は認め、握手を行う。

 そうして短いやり取りの後に握手が解かれた。私は敢えてその後を譲る。

 

「俺は桐山だ。副会長をしている」

 

「よろしくお願いします」

 

 次に桐山先輩が鈴音ちゃんと挨拶を行った。握手が交わされ、それが解かれる。

 その後で私は前に出た。鈴音ちゃんと、改めて正面から視線を合わせる。そして先に気になったことを口にした。

 

「そういえば会うのは春休み以来かな。髪、切ったんだね? 似合ってるよ」

 

「ええ。交流会では見かけたけど話すのはそれ以来ね。それと髪を切ったのはお互い様のようだけど」

 

「似合ってるでしょ? 私は完全無欠に可愛いからねー」

 

 なんとはなしに世間話のような始まりだった。

 私はいつも通り自信に満ちた振る舞いを見せつけるも、鈴音ちゃんはやはりそれに突っかかったりはしない。むしろそれを見ると受け入れるようにして言葉を放った。

 

「今だから言えるわ。最初にあなたに会った時は警戒していたし、羨ましくもあった。私にないものを全て持っている。だからあなたの一挙手一投足に反応しすぎてしまったわ」

 

「私も最初に見た時は鈴音ちゃんのことは頭でっかちの大したことない女の子だと思ってたかな。からかい甲斐があって面白かったよ」

 

「そう……そう思われるのも仕方ないわね」

 

 鈴音ちゃんは私への印象。そしてそれに付随する自分自身の弱さを認める。

 私には理解る。その弱さを認めることが、成長には必要なことだと。

 そしてそれを鈴音ちゃん自身も理解していることを理解した。ゆえに、その後の発言にも予想がついた。

 

「だけどこれからは改めて挑ませてもらうわ。生徒会の先達として、まずは胸を借りさせてもらう」

 

 そう言って鈴音ちゃんは自分から私に左手を差し出し、握手を求めてきた。

 生徒会の先輩として私に学ぶつもりでいる。

 それでいて、いずれは追い越すつもりでいることが言葉の選択からも理解る。

 その挑戦的な言動が心地いい。以前までのギャップがあるからこそ。以前の原石状態を知ってるからこそ、その成長が眩しく見える。

 まだまだ足りない。開花したとは言えない状態だが、それでもその兆しが見えるからこそ水をあげたくなる。

 

「そっか。なら私もこれからは改めさせてもらおうかな」

 

「あなたの方は何を改めるのかしら」

 

「これからはもっと対等に接して上げようと思ってね」

 

 ようやく私たちと同じ領域、ステージにスタートラインとはいえ立った鈴音ちゃんに敬意を表する。

 私もまた左手を差し出し、それを受け止めてあげる。

 私は思い出す。1年前には私から差し出した右手を鈴音ちゃんが受け止めた時のこと。

 その時に握った感触と今じゃ全然違う。鈴音ちゃんは間違いなく成長していると。

 

「とりあえずこれからはもっと親交を温めようか。まずは私のことを名前呼びしてもらっていい?」

 

「名前で呼び合うような仲ではないでしょう。悪いけど遠慮させてもらうわ」

 

「えー。でも生徒会に入ったんだし、ややこしくない? 私と雅兄が同じ場にいる時はなんて呼ぶの?」

 

「生徒会長と南雲さんで使い分ければ済む話よ」

 

「不便だと思うけどなぁ。ま、いいや。それじゃこれからよろしくね鈴音ちゃん」

 

「──ええ。よろしく南雲さん」

 

 そうして私と鈴音ちゃんは一年越しの握手を行う。

 その様子を雅兄や綾小路くん。桐山先輩もどこか興味深そうに、あるいは不思議な感慨を覚える視線で見ていた。

 

「全く……素直におまえが羨ましいぜ麗」

 

 小さく呟いたその独り言を聞いたのはおそらく私だけだろう。

 雅兄の紛れもない本心から来る言葉。それは私と鈴音ちゃんのやり取りを見て、自分と堀北先輩の不完全な争いを思い出したのか。

 それとも──。

 だけど安心していいよ、雅兄。

 私は理解ってる。約束も違えるつもりはない。

 雅兄がずっと求めていた答え。

 それをこれからちゃんと教えてあげるからさ。




今回から無人島サバイバル編です。まずは準備段階。次回からグループ決めパートに入ります。お楽しみに。

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