アイドルは人の視線に敏感だ。
そうでなくても私ほど美少女で学校でも目立った活躍をしていて、おまけに生徒会の副会長なんてしていれば嫌でも人目につく。嫌じゃないけど。
……ただそれでもストーカーやパパラッチはごめんなんだよなぁ。
放課後。私はクラスのみんなに改めて指示を念押ししつつ1人で教室を後にした。
いつもなら友人である帆波ちゃんを筆頭に誰かしらと一緒に行動するし、隆二くんやユキちゃんみたいな側近も付けてない。同級生、先輩、後輩含め放課後の誘いは全て断っている。学校一の人気者である私には珍しい正真正銘の1人──
「てーてれれー。てれれー。ててーてーてててててー。てれれれれー」
……なんかまた特殊な追っかけが私の真後ろにぴったりと付いてきてた。
これはストーカーやパパラッチとかではなく、多分だけどRPGの仲間のつもりなんだろう。私はいつも通り対応する。変人の藍ちゃんに対して。
「藍ちゃんどうしたの? 私の真後ろでセルフBGMなんで流してさ」
「いえ、大したことではないのでお気になさらず。南雲麗は行きたい場所へ自由に向かってください」
「気になるよ? 気持ちは嬉しいけど今は仲間は求めてないかな」
「なるほど。でも残念です。誰かとすれ違わないと私は離れることはありませんので諦めてください」
仲間じゃなくて貧乏神の方だったか……。
私は自分の思い違いを内心で整えつつどうしようかと考える。1人で行こうと思ってはいたけど──
「というのは冗談で特別試験に向けての話し合いを行うのであれば付いていってもいいですか?」
と、思っていたらそのタイミングで藍ちゃんから本当の理由を伝えられお願いされる。クラスの中心メンバーにはこれから話し合いするってことは伝えてあるからね。
もっとも付いてこなくてもいいとも伝えてはあるんだけども。それだけにどうして付いて来たいのか気になって私は質問してみた。
「理由を教えてくれる?」
「話し合い相手はDクラスと聞いたので少し興味があります」
「Dクラスに興味? 好きな人でもいるの?」
「好きな人はいませんが興味のある人はいます。それは南雲麗にとっても同じでは?」
「ふぅん。その心は?」
「最近話題の綾小路清隆もいますし学年末試験ではDクラスに敗北しました。そもそも去年から南雲麗はDクラスを特に気にかけているようですし、私としても一度取り憑いて反応を見てみたいと」
「悪霊の意見をどうもありがとう」
「仲間を悪霊と呼ぶなんてさすがは南雲麗。高度育成高等学校の魔王と呼ばれるだけはありますね」
「自分から振ったよね?」
魔王だなんて心外な。まあ藍ちゃんの言うことだからまともに取り合う必要はないけどせめて女王と言ってほしい。女王もちょっと違うけどさ。
それに綾小路くんが気になるのもしょうがない。先の試験では数学で満点を取ったりして目立ってるしOAA上でも躍進してる。藍ちゃんの言うように学年末試験でも負けたし、その話題のDクラスとの会談ともなれば思うところもあるよね。
「ま、いいや。それなら付いてきていいよ」
「てれれれれー。森下藍が仲間になりました。ではこのまま真後ろを付いていきます」
「余計に目立つから普通に隣を歩いてね」
さて、藍ちゃんとのふざけたやり取りを終えたところで私は藍ちゃんを伴って私がよく使ってる和食のお店に向かう。そこが待ち合わせ場所だ。
秘密の話し合いにはカラオケボックスもよく使うけど少人数ならこっちも使う。個室もあるし食事もできる。関係を深めたい相手を誘うのにはもってこいの場所だ。値段もカラオケボックスと比べればお高めだけどそれだけに人が来にくいという利点もある。放課後すぐに訪れるには適してないように感じるけど軽めの和菓子とお茶のセットなんかもあるし雰囲気も良くてお気に入りの店だ。
その店に入って先に個室で待つ。お客様を迎えるなら先に着いておかないとね、と待つこと5分。
「やあやあ、いらっしゃい鈴音ちゃん」
「南雲さん。そっちは……確か森下さんだったかしら。元坂柳さんのクラスの」
「はい。裏切り者の森下藍です。Aクラスのユダと呼んでください」
「それだとまたウチを裏切るみたいじゃん」
「冗談です。ユダは男性ですからね」
「そういう問題だったかー」
と、鈴音ちゃんたちがやって来たので軽く挨拶をする。藍ちゃんの不思議ちゃんっぷりがいきなり炸裂したことで鈴音ちゃんは怪訝な表情になったけど諦めてほしい。藍ちゃんはこういう子だからね。
それと一緒に着いてきてる綾小路くんもほんの少しだけ藍ちゃんのキャラに驚いてる気がした。そういえばまだ関わったことはないのかな。ならある意味で収穫はありそうだね、と私は綾小路くんにも声をかけておく。
「綾小路くんもやっほー。久し振りー」
「ああ。しばらく振りだな」
「この間の数学のテストはすごかったねー。あれどうしたの? 実力隠してた感じ?」
「色々と事情があるんだ。数学の実力を隠していたことは仲間と話し合って決めたことだ」
なーんてこの間の数学のことをちょっとつついてみるとそんなどうしようもない答えが返ってくる。仲間と話し合って云々はともかく、数学の実力を隠していただけ、なんて答えは私じゃなくても信じないだろう。その証拠に隣の藍ちゃんが口を開いた。
「数学の実力だけ隠していた。どうやら中々不可解な人物のようですね、綾小路清隆は」
不可解、というか不思議ちゃん度で言うなら藍ちゃんに言われたくはないと思うけどそこはツッコミを入れずに聞いてみる。綾小路くんも何となく同じことを思ってそうだ。
「数学だけ今までできないように見せていた、というのはどういう意図があっての行動ですか?」
「……悪いがそれは話せない。仲間を裏切ることになるからな」
「ほうほう。クラスの戦略、作戦に基づいての行動だったと」
「だとしたらなにかおかしいかしら? 森下さん」
おっと、綾小路くんのことを突っ込まれてここで鈴音ちゃんがインターセプトしてきた。ってことは鈴音ちゃんも事情を知ってそうだね。隠してた実力じゃなくて、数学のテストで満点を取ったその事情の方を。
「おかしいというか不思議ですね。綾小路清隆が数学の天才だったとしてそれを一年間隠し通す意味もあえてここで実力を発揮する意味もよく分かりません」
「意図が分からないなら結構なことよ。クラスとしての戦略なのだから」
「そう、戦略にしては意義があまり見出だせないのが不思議なんですよね。なので戦略というよりは綾小路清隆が言ったように何らかの事情があったのだと推察するか、綾小路清隆がクラスに非協力的なムーブをすることを癖とするとんでもない変人だったか……」
「一応言っておくがそんな特殊な癖はない」
「ほう? ですが性癖というものは往々にして人に話すものではありませんし、それだけ特殊な癖なのだとしたらはいそうですと素直に認めることはできないでしょう。綾小路清隆の癖の話はここだけの話にしておきます」
どうやら藍ちゃんの中で綾小路くんは特殊性癖の持ち主になってしまったみたいだ。可哀想に。綾小路くんも表情はあまり動いてないが雰囲気から少し嫌そうというか微妙な雰囲気を醸し出してるのが私にはわかる。
ただ冗談みたいな話だけどある意味で間違ってもないかもしれない。あえてクラスに非協力的なムーブをする、という意味ではね。目的のためにはそういうことも辞さないのが綾小路くんだ。一年で綾小路くんの理解もそれなりに進んでるからね。今回の数学の件も……うーん、鈴音ちゃんはなにか知ってそう、というか反応的に関わってそうだし、本題とは関係ないけど藍ちゃんに乗っかってもう少しだけ突っ込んでみようかな。例えば、そう──
「鈴音ちゃんとなにか約束でもした? 数学のテストで実力を出す……いや、出したくなるような条件でも出されたのかな?」
「いい加減にしてくれる? あなたが私を呼び出した用件は綾小路くんのことを聞くためかしら? だとしたらこれ以上ここにいる意味はないのだけれど」
「あはは、ごめんごめん。ちょっと気になっちゃってね。もうこれ以上はしないから許してよ。藍ちゃんもいいよね?」
「はい。綾小路清隆は特殊性癖の持ち主だとSNSでつぶやいておきます」
「ここだけの話じゃ……いや、事実と反する投稿を行うのはやめてくれ」
私がちょっと具体的な質問を投げかけると鈴音ちゃんが交渉を終わらせようとしてきたので笑って軽く謝る。綾小路くんのことが気になるのはみんな同じだからね。ある程度質問するのは自然なことだからやってみたけどこれくらいでいいかな。鈴音ちゃんの反応で大体分かったし。隠すの大分上手くなってるけど今のは図星だね。
つまり綾小路くんが数学のテストで満点を取ったのは鈴音ちゃんとの約束、交渉、それらによる因果の結果というわけだ。まあそれだけ分かってれば十分かな。
「ということで席についてよ。あ、なんでも好きなもの頼んでいいよ。今日は全部私が奢らせてもらうね」
「結構よ。これくらい自分で払えるわ」
「まあまあ、そう言わずに。これくらいだからこそ奢らせてよ」
「……そう。ならほうじ茶をいただくわ」
「オッケー。綾小路くんは?」
「堀北と同じほうじ茶で構わない」
「二人とも通だねー。それじゃ藍ちゃん注文お願い。藍ちゃんも好きなもの頼んでいいよ」
「分かりました。──すみません。ほうじ茶3つに国産和牛すき焼き御膳を。デザートはこの季節の果物の羊羹で」
「ごめん、やっぱ食事は後にしてくれるかな?」
話し合いの場で1人すき焼きをばくばく食う藍ちゃんという嫌な光景を予見したのでそれを阻止するために一声かけておく。すると藍ちゃんもさすがにTPOを弁えたのか羊羹と緑茶だけにしてくれた。お茶菓子くらいなら別にいいだろう。さて、ようやく話し合いが始められる。
「それじゃ飲み物も行き渡ったことだし話し合いを始めよっか」
「……何を話し合うつもりかしら」
「分かってるでしょ? それとも分かってて言ってるのかな? 夏休みの特別試験。そのグループ決めについてだよ」
どうやら鈴音ちゃんも私に呼び出された時点で戦う用意をしてきてるというか、こうやって少し遅れてやってきたりあえてそんな風に言うこともこちらへの牽制だろう。こっちは別に用事なんてないと態度で表してきてるわけだ。
それを意図してやって来ていることに鈴音ちゃんの成長を感じる。うんうん、それでこそだよね。
「おかしなことを言うのね。次の特別試験はクラス単独でグループを決めた方が大きなポイントを得ることができる。他のクラスと協力するのはそのポイントを捨て去るような行為よ」
「まあね。クラス単独で表彰台に立てば得られるポイントは大きい。でも単独で表彰台に立つのは難しいと思わない?」
「トップを走るあなた達Aクラスがポイントを分散しても問題ないと考えるのは理解できるけれど他のクラスはそうじゃない。確かに難易度が高いことは認めるけれどだからといって他のクラスと組むことはできないわ」
ふむふむ、現状をしっかり理解できているね。鈴音ちゃんの言うことに私は内心で頷く。鈴音ちゃんの言うことは正しい。私たちAクラスはポイントでトップ。龍園くんのBクラスともポイント差は500も開いている。あえてハイリスクハイリターンを狙わずとも良い立場なのに対し、他のクラスはそうじゃない。大きくポイントを得られるこの試験はリスクを取るべきなのだと鈴音ちゃんは考えている。うんうん。これで当然の認識を持っていることを確認できた。なので次の段階に進む。
「ま、そうだね。だけどそれでも私は鈴音ちゃんと組んで表彰台を狙っていきたいと思ってるんだよ」
「悪いけれど現状、そうするメリットがないわ。それに龍園くんほどじゃないけどあまり貴方のことは信用できない」
「そう、だからこそ鈴音ちゃんに対して信頼してもらうために、こっちからも誠意を見せようと思ってね」
「……誠意?」
「うん。だからあえて順序を逆にして交換条件を口にするね。──私たちAクラスと組んでくれるなら、桔梗ちゃんの秘密については公言しないしそれを利用することもしないと誓うよ」
私がそう言えば鈴音ちゃんは目を見開いて驚いてくれた。そのことをここで持ち出されるとは思ってもいなかったのだろう。それでこそ交換条件として出した甲斐があるよね。
ちなみに綾小路くんの表情は相変わらず動いていない。でもさすがにちょっとは驚いてくれてるかな? 何となく探られているような気がする。藍ちゃんは羊羹にパクつきながらも一度言葉を挟んできた。
「櫛田桔梗の秘密ですか。何かあるとは聞いてはいますが、もしかして彼女も特殊な癖をお持ちで?」
「藍ちゃんシャラップ。──さて、どうかな? この条件はまず悪くないでしょ?」
「……どういうつもり? あれだけ出し渋っていた櫛田さんの件をここで出してくるなんて……」
「混合合宿の時だったよね。確かにあの時は鈴音ちゃんの出した条件を突っぱねた私だけど、今回はそれを差し出してもいいと思ってる」
そう、それくらい私は次の特別試験を重要視しているわけだ。
そのことを分かってもらうために。そして交渉の成功確率を上げるために、あえて私はその条件を最初に伝えた。その上で私は鈴音ちゃんに順序立てて説明していく。
「まずいいかな? 次の特別試験はクラス同士だけじゃなく学年の垣根を超えて戦うことになる。そのことは当然理解してるよね?」
「……ええ。もちろんそれは分かっているわ」
「うん。なら雅兄率いる3年生が圧倒的に有利だってことも当然理解ってるよね。──試験が通達されてからすぐに3年生が他の学年の生徒をそれとなく監視していることだしさ」
私がそう伝えてあげれば鈴音ちゃんも思い至ることがあったのか思案顔になり、綾小路くんも何となく得心がいったようだった。
そう、雅兄は3年生の支配を完了している。そのため照準を他学年に、主に私たちの世代に狙いを定めているわけだね。そのために生徒に命令を出して私とか鈴音ちゃん。綾小路くんだったりも含めて2年生の主だった人物をストーカーしてるわけだ。
「……3年生はそれだけまとまって動いてくるということかしら」
「当然ね。雅兄は同学年にもう敵がいない。だから今の楽しみは他学年、主に私たちを相手にして楽しもうとしてる」
「なるほど。南雲雅も中々に特殊な癖をお持ちのようですね」
藍ちゃんの言う通り、雅兄の特殊性癖の是非はともかくそのおかげで私たち2年生や1年生にとっては次の特別試験は厳しい戦いを強いられることになる。
退学を避けるだけならどうにでもなるにせよ、表彰台に上がろうと思うのなら幾つも面倒な障害があるのだ。
だからこそ1クラスだけじゃなく、できるだけ多くのクラスと手を組む必要がある。
そのためより懐柔しやすく、勝率も高いDクラスと手を組むのが今回は最優先なのだ。そのために私は鈴音ちゃんに説明する。
「理解るよね? 確かに単独で1位を取ることが出来ればクラスポイントを大きく詰めることはできる。でもそれは難しい。なら2クラスで組めば勝率は格段に上がる」
「……もちろん、それは分かっているわ。だけど仮に組んだところで3位以上を確実に取れるとは言い切れない」
「100%ではないかもね。でも90%くらいかな。私と鈴音ちゃん率いるDクラスが組めるなら表彰台を私たちで独占することも出来ると思ってるよ」
「中々の大言壮語ね。そこまで言うからには明確な戦略があると思っていいのかしら。まだルールが全て開示されたわけじゃないのに大きく出たわね」
「ある程度はね。それで調整がうまくいったならDクラスの方が旨味があるようにしてあげるよ。例えば1位はAクラスとDクラスの混合グループ。2位と3位はDクラスのグループって具合にね」
もしそうなればDクラスはクラスポイントにして450ものポイントを得ることが出来る。そうなれば一気にBクラスに昇格。私たちAクラスとの差も150は詰まる計算になる。
「もちろん現時点では取らぬ狸の皮算用に聞こえるかもだけどね。でももし本当にそうなるなら良い提案だと思わない?」
「……そうね。それが実現出来るなら私たちにとって大きなメリットがある。でもその達成には貴方が言うように障害は多い。3年生もそうだけど1年生、それに当然他のクラスも黙ってはいないわ」
「龍園くんに有栖ちゃんも今回は単独で挑むんじゃないかな。まあ2クラスが組んでもそれはそれで良いんだけどね。1年生は調査中だけどそこまで大きな脅威にならないとは思っているよ」
私の考えだけど正直なことを鈴音ちゃんに伝える。1年生はクラスとしては手強くはない。何人か気になる相手はいるけれどそっちはまあ別で対処すればいい。
「龍園くんは葛城くんを引き抜いたこともあって単独で表彰台を狙える戦力もあるし、有栖ちゃんもまあ同じかな。ただDクラスが躍進してくれれば有栖ちゃんのCクラスにはトドメになりかねないし、良いと思わない? 完全に脱落するクラスが出てくれば今後の戦いも少しは楽になりそうだしさ」
「……それはともかく、まだ具体的な方策を聞いていないわ。仮にAクラスとDクラスが組むとしてどうするつもり?」
「まず私と鈴音ちゃんは同じグループで挑もうかと思ってるよ。表彰台を狙いつつクラス全体の指示出しね。1位を狙うなら大グループを組みたいところだし、そのためにそれなりの戦力を集めたいね」
無人島試験では1位にはクラスポイントだけでなく1人につき106万プライベートポイントにプロテクトポイントも付与される。これ自体もかなり報酬として美味しいし、便乗カードや追加カードを使って報酬を上げれば更に美味しいね。
「2位と3位を狙うグループも一つ作りたいところかな。うちの帆波ちゃんや隆二くん。そっちなら洋介くんや桔梗ちゃんとか能力の高い生徒を集めたいね。後は他の生徒には高順位を狙うためのサポートに回ってもらおうと思ってるよ」
「サポートに回すのは良いけれど下位に沈んでしまった時はどうするつもり? 表彰台に上がれたとしても私たちのクラスから退学者が出るようなことになれば全く意味がないどころかマイナスなのは分かっているわよね?」
「もちろん。だからそのための保険としてAクラスからポイントを出させてもらうよ。サポートするグループにはトレードで半減カードを持たせた上でね」
とはいえ半減カードを全員に持たせても300万は必要となる。その出費はさすがに痛いので全力で回避させてもらうけどね。そして、それ自体はそんなに難しくはない。
「もっとも3年生も同じ手を使ってくるだろうしそっちが下位に沈むことを考えると回避は難しくないと考えてるけどね。ただ念の為、もしそうなっても問題ないように手は打たせてもらう。そこは信頼してほしいかな。なんだったら契約書も交わすしね」
「……そこまでして私たちと……いえ、私たちと組むことで勝率が上がると本気で思っているのね」
「おかしいかな? Dクラスはポテンシャルの高い尖った生徒も多いし、無人島試験はうってつけじゃない? 鈴音ちゃんも手を組んでもいいと思えるくらいにはリーダーとして信頼してるし。それに──」
若干訝しみながら言った鈴音ちゃんの言葉に笑顔で応えてあげる。それも本心ではある。実際に鈴音ちゃんはかなり成長してるし、Dクラスも見どころの多い生徒がたくさん。今回手を組んで躍進させれば、回り回って私の利になる。
ただ今回の試験に限って言うならば、期待しているのは鈴音ちゃんたちだけじゃない。私はその隣にも目を向ける。
「なんだったら綾小路くんにも大いに期待してるんだよね」
「……オレに?」
「うん。あわよくば表彰台に上がってくれないかなーって。そしたら調整も楽でしょ? Dクラスが得するわけだし、クラスの不利益になることを望む特殊な癖の持ち主じゃない綾小路くんにとっても良いと思わない?」
相変わらず無害な生徒を演じる綾小路くんにも水を向ける。私から見たらさすがに白々しいことこの上ないけど、それでもその鉄面皮の中を全て見通すことはできない。私ですらこうなのが実力を証明している。綾小路くんが本気を出せば単独でも1位を取っても不思議じゃない。
「確かにそうだが、前提としてオレが上位を取れるとは限らない」
「だったら取れるなら取ってもいい。または取れるなら全力を出すことも可能性としてあり得る……そういう認識でいいかな?」
「……ああ、そうだな。もちろん試験には全力で臨むつもりだ」
私がちょっと変わった言い回しでそう尋ねれば、綾小路くんはテンプレの肯定の回答を返してきた。なるほどなるほど。それだけ聞ければ十分かな。
「だが今のところオレは誰かとグループを組むつもりはない。上位を取れる確率は低いだろう」
「それでも取れると思ったら取るんでしょ? なら大丈夫だよ。それと試練のカード私か鈴音ちゃんにトレードでくれない? 特殊カード以外なら好きなカードあげるよ。それに加えて50万でどうかな?」
綾小路くんは誰かと組むことはなく単独で動く。ちょっと一緒に組んでみたい気持ちはあったのでそこは残念だけどそれはそれでいい。
なので切り替えて綾小路くんの持っている試練のカードをちょうだいとお願いしてみる。すると綾小路くんから返事がくる前に鈴音ちゃんから横槍が入った。
「……少し待ってくれるかしら。まだ組むと決めたわけじゃないわ」
「っと、ごめんごめん。まだ返事を聞いてなかったね。でもどうかな? この時点でも結構破格だと思うんだけど」
「ええ。貴方が、少なくともおためごかしではなく本気で私たちDクラスと組もうと提案してきていることは分かったわ」
鈴音ちゃんはそう言いながらも考えている。Aクラスと手を組むということ。それによるリスクリターンの計算を頑張ってるんだろうね。若干の抵抗があるのはそれこそ相手がAクラスだから。それと私が相手だからってところかな。ならもう一押しだね。
「鈴音ちゃん。私があえて最初に桔梗ちゃんのことを条件として持ち出した意味、今なら理解るでしょ?」
「……それは」
「そう。色々話して最後の一押しでそれを口にすれば脅しの側面が強くなっちゃうよね? 組まないならどうなっても知らないよって。まあ後から口にしようがその一面が消えることはないと理解してるけど……後に残しておけばそのカードを切らないことだって私にはできた。それを理解した上で返答をお願いね」
桔梗ちゃんの秘密を公言しない。以前に鈴音ちゃんが求めていた条件をあえて最初から交渉のテーブルに乗せたこと。それが私なりの誠意だ。それを使えばDクラスをめちゃくちゃにすることができると鈴音ちゃんには理解っているだろう。だからこそ、私にそれを握られている現状をどうにかしようとしていた。
だが今私と手を組めば待ち望んでいたそれが手に入る。他にもメリットが多数。これで受けないというならばそれらを捨て去るだけの別の戦略が必要だ。単独でAクラスや他のクラス、他の学年を出し抜き、桔梗ちゃんの問題も解決するという超戦略が求められる。
そしてそれを導き出せない以上、鈴音ちゃんは天秤をこちらに傾けざるを得ない。
「……わかったわ。南雲さん、あなた達と……Aクラスと組ませてもらう」
「──ありがと。心強いよ」
「ただグループに関してや細かい部分は詰めさせてもらうわ。あなたがそう言ったように。それで構わないわね?」
最後の抵抗として鈴音ちゃんは私にそう告げてきた。うんうん、それでこそ鈴音ちゃんだね。成長してくれて嬉しいよ。本当にね。そうじゃないと組む相手としても不足だし。
「もちろんいいよ。この後もまた少しずつ詰めていこっか。──ということで綾小路くん、さっきのトレードの話だけどどうかな?」
「ああ。構わない。ただ金額は70万。それと半減のカードをくれると助かる」
「オッケー。ポイントはすぐに振り込むよ。カードは調整するから少し待っててねー」
そうして綾小路くんとの交渉も無事成功。私たちのクラスは試練のカードを更にゲットすることに成功した。
まあこの試練のカードはDクラスとの混合グループで使うことに決まってるんだけどね。だとしても美味しいことに変わりはない。
「それじゃ今回はよろしくね、鈴音ちゃん。1位を取るために2人で頑張ろう!」
「ええ、よろしく」
私は鈴音ちゃんが生徒会入りした時のように再び握手を行う。そしてクールな表情の鈴音ちゃんに対し、私は笑顔で告げた。
「──とりあえず鈴音ちゃんはスタミナに不安があるから明日から朝はランニングね。5時に寮の前に集合で」
「は?」
──ってことでまずは1位を取るために少しでも鈴音ちゃんのスタミナを底上げしておこう。無人島試験は体力が一番重要だからね。スタミナお化けの私に付いてこれるように少しでも体力トレーニングをしておかないとね。
そうして私のグループは調整の結果──私、鈴音ちゃん、須藤くんの3人となった。
ってことで地味に更新再開の時期が訪れました。次回から早速無人島です。お楽しみに。
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