ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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アイドルとその他大勢の秘密の会話

 夏というのはアイドルと相性が良い。

 夏の日差しに照らされる眩しい笑顔。水際で戯れるアイドルの姿ほど見れるものはない。

 だけど紫外線は肌にあんまり良くないし日本の夏は蒸し暑いので汗をかく。なのでそういうケアは大変だ。私が日課でやってるトレーニングだって日中やるにはあまり適していない。さすがに完全に汗をかかないというのは不可能だからね。

 なので運動をするなら早朝か夜。もしくは屋内がおすすめだね。なので最近の私の日常はこんな感じ。

 

「おはよー! 鈴音ちゃん! 今日も頑張ろうね!」

 

「……あなた本当に体力あるわね。合宿の時も思ったけれど」

 

「スタミナは私の長所ランキング第5位くらいだからね」

 

「そう……まあ素直にあなたの総合力の高さは認めるわ」

 

「お、鈴音ちゃんも素直になってきたねー。他の長所も教えてあげようか? 第1位は当然この可愛さとして──」

 

「先に行くわ」

 

「っておーい」

 

 ……と、朝は鈴音ちゃんを誘ってランニング。次の特別試験で一緒のグループを組むことになったので私から誘った。それですごい渋ってはいたけど体力は大事だよって説得したら渋々付き合ってくれたんだよね。

 まあ無人島試験まで一ヶ月を切ってるわけだからその間トレーニングしたところで意味あるのって思うかも知れないけどやらないよりはいい。それに鈴音ちゃんの正確な体力ゲージも把握できるから一応意味はある。須藤くんとか小野寺ちゃんも一度別で誘って確認したし、行動する上でみんなの体力状況の把握は大事なんだよね。

 

 次の無人島試験においてAクラスの生徒はほぼほぼグループを組み終えた。きちんとした役割のある生徒はこっちが指定しつつ今回組むDクラスの生徒との混合グループもある。中にはBクラスやCクラスの生徒と組む子もいるけど完全な役割がない生徒とかに関しては特にこっちから指定もしていない。各生徒の自由意思に任せる形だ。今回の試験はどちらかというと人を陥れる試験じゃなくて自分たちで頑張って成績を上げるタイプの特別試験だからね。他のクラスも上位を狙うグループ以外は自由にやらせてるのでそこは空気を合わせてやってる。

 

 そしてグループ決めが終わったなら後はそれなりに時間ができる。なので放課後の予定はまた色々だ。たとえば──

 

「やっほー。宇都宮くん。調子はどう?」

 

「南雲先輩。調子は……そこそこです」

 

「そっかそっか。グループ決めは順調そう? 他学年だからあんまり込み入ったことは言わなくていいけど頑張ってる?」

 

「はい。一応進展はあります。それとこの間はありがとうございました。南雲先輩のおかげで波多野も退学にならずに済みました」

 

「その件は気にしなくていいよ。生徒会の一員としてやるべきことをやっただけ。それと困ってる後輩を助けたかっただけだからねー」

 

 ある日のカラオケボックスでは1年生のグループと2年生の私の友達を集めて遊んでる最中。隣に座った1年Cクラスの宇都宮くんとやり取りを行う。あまり慣れないなりに敬語をしっかり使ってお礼を言ってくるのはこの間の一件──1年生の特別試験で起きた事件を私が未然に防ぎ、宇都宮くんと同じCクラスの波多野くんが退学にならずに済んだこと。

 不正に手を出そうとしてたみたいだったけどその話が中々に謎めいたものなんだよね。宇都宮くんが波多野くんに話を聞いたみたいだけどDクラスの生徒が怪しいってことしか分からなかった。私も宇都宮くんから又聞きで、宇都宮くんの考察や感情も混じえながら聞いたけど確かに1年Dクラス……あの宝泉くんがリーダーをやってるクラスだね。が怪しいと思われても仕方のないような内容ではあった。

 

 ただ……正直なところ本当にDクラスかどうかは微妙なところだけどね。あえてまだ宇都宮くんにここでは言わないけどさ。どうやら宇都宮くんは宝泉くんをかなり敵視してるみたいだし。

 

「まークラスメイトが嵌められたかもしれないって思ったら熱くなるのも理解るけど程々にねー。今期の生徒会は割と寛容だけどそれでもやり過ぎた暴力事件はさすがに処罰せざるを得ないからね」

 

「……分かっています。自分から手を出すことはない……しません。向こうから仕掛けてきた場合はその限りではありませんが」

 

 と、強い言葉を言う宇都宮くんの声色や表情からは断固とした姿勢と自信が伺える。仮に宝泉くんがいきなり喧嘩を売ってきても返り討ちにしてやると言わんばかりだ。

 宝泉くんもかなり化物みたいだけど宇都宮くんもそれに匹敵するくらいヤバいみたいだからね。どこで学んできたかは分からないけど強さはある程度理解した。どちらも龍園くんよりもかなり上っぽいし、なんだったら綾小路くんに匹敵……するかどうかは戦わせてみないと分からないけど少なくとも一蹴されるほどではないと思う。その能力を上手に活かすためにも良い関係を築いておかないとね。

 

「そうだね。正当防衛なら多少強引な展開も──」

 

「南雲先輩。あまり宇都宮くんを唆さないでくれます?」

 

「おっと。これはこれは椿ちゃん。唆すなんて人聞きが悪い」

 

 宇都宮くんのやる気を肯定してあげようと言葉を作っていると宇都宮くんを挟んで反対側に椿桜子ちゃんが座ってきた。1年Cクラスの隠れたブレーンだね。クラス内では目立った存在じゃないみたいだけど宇都宮くんを通じてクラスを地味に支えてる。ちょっと綾小路くんみたいなポジションしてて面白い。

 

「椿。南雲先輩にあまり失礼な発言は……」

 

「宇都宮くんがこの間の一件で南雲先輩に感謝するのは分かるけどそれでクラスの内情まで話しちゃわないかどうか心配してるだけだよ。特に次の試験は学年が違ったら敵。色々と協力してくれてる南雲先輩やそのお兄さんだって競争相手なんだから」

 

「だが……」

 

 おっと。相変わらず椿ちゃんは警戒心が強いというかガードが硬いね。うんうん、それでこそだよね。頭の良い可愛い娘を見てると嬉しくなる。色んな意味でやりがいがあってさ。

 

「大丈夫だよ宇都宮くん。椿ちゃんの言ってることは正しいからね。協力できるとこはしても同じクラス以外は基本は敵。この学校の根幹を理解してる椿ちゃんは優秀だしわざわざこうして進言してくれてるのも優しいんだから。大事にしなよ?」

 

「……はい。ですが次の試験は──」

 

「ストップ。それ以上はここでは言わないで」

 

「っ……すまない」

 

 宇都宮くんの発言を椿ちゃんがぴしゃりと注意して止める。それを聞いた宇都宮くんは少し失言しかけたような感じで謝罪したがそれも正しい。目の前に他学年の私もいるし、誰が聞いててそれを誰に漏らすか分からないもんね。既に勝負は始まってるわけだしさ。

 

「まー今日は普通に遊ぶだけだから野暮ったい話は無しにしようよ。──よーし私歌っちゃうぞー。十八番いきまーす! あ、もし良かったら次どっちかデュエットしようよ」

 

「すみません。俺は、歌があまり得意ではないので」

 

「私も南雲先輩と比べたら下手だろうし遠慮します」

 

 ってなわけでそんなつれない2人と共に遊んだり色々と話し合ったりもした。1年生の状況は聞いてるけどまあ結構大変みたいだね。宝泉くんだったり他の生徒のせいでさ。宝泉くんも宝泉くんなりに色々と考えてはいるみたいだけど他の生徒には理解されてないみたいだね。

 

 ──そしてそれ以外の1年生で言うと……。

 

「こんばんは石上くん」

 

『こんばんは南雲先輩』

 

 また別の日の夜。寮の部屋で私は1年Aクラスの石上くんとパソコン越しの通話を行っていた。互いにカメラを起動し、ちょっとしたお遊びをしながらの会談だ。私と石上くんは表ではあんまり会っていない。

 もちろん大多数の友人の1人として1年Aクラスの子達と一緒に遊んだことは何回かあったけどこんなふうに一対一では会話しない。それが意味するのは石上くんが私との繋がりを隠したいってことだ。私と良い関係を築くよう努力するって発言は嘘ではないみたいだね。味方になりたいというよりは味方に引き入れたいって意思をなんとなく感じる。雑談にも意外と付き合ってくれるしね。

 

 でもまあ──話す時は常に何かしらの意図や問題、用件がある。今日も将棋のネット対局をしながら私は石上くんと話す。将棋の腕前は私の方が強いように感じるけどどうかなー。

 

「最近暑くなってきたねー。もうすぐ夏休みだけど石上くんは予定ある? プールとか行かない? 結構楽しいよー」

 

「学校施設内にレジャープールがあるのは聞いていますし友人と行く予定です。正確な予定はまだ分かりませんが」

 

「その前に色々あるもんねー。1年Aクラスは結構順調って聞いてるよ」

 

「はい。ただ特別試験で1年Dクラスの生徒が1人退学になってしまいました。残念です」

 

「あーその件ね。宝泉くんがちょっと荒れてたんだって?」

 

「ええ。不正に手を染めたという話でしたが。南雲先輩はどう思いますか?」

 

「うーん。退学ってなると重いよね。まああの宝泉くんならリスクも理解した上でそういう手を取ることも想像しやすいけど……ちょっと想像しやすすぎるよねー」

 

「なるほど。確かにそうかもしれません。何にせよ無人島ではより注意する必要がありそうですね。俺たちもいつまでもAクラスでいられるとは限りません。試験の結果によってはBクラスに追い抜かれることもあり得ますから」

 

「石上くんが陣頭指揮取ってるの?」

 

「意見はさせてもらっていますが指揮というほどでは。それに無人島試験は体力がおそらく求められるでしょう。身体能力に自信のない俺はあまり活躍できそうにありません」

 

「そうとは限らないんじゃない? 石上くんは頭も良いしきっと活躍できる場もあると思うけど。今回の試験は協力も大事だし他の人に手伝ってもらったら?」

 

「協力出来る部分はもちろん協力するつもりです。ただ先輩方に……特に南雲先輩に勝つのは難しそうですね」

 

「それはどっちのことかな?」

 

「どちらもです。ただお兄さんの方は相当強引な手を好むようですがそちらは大丈夫ですか?」

 

「大丈夫大丈夫。雅兄のやり方は私が1番よく分かってるし。向こうも同じではあるけど……ま、なんとかなるんじゃないかな。私にも頼れる味方はたくさんいるからね。──相手が雅兄だろうと1年生だろうと敵になるなら容赦はしないよ」

 

 石上くんとの世間話の中で私はそう宣言しておく。どちらかというと自分への宣誓として。

 そしてこの発言も含めて意味はある。石上くんとしても私としても、次の無人島試験での方針は既に決めてあるとはいえちょっと相談することはあったからね。石上くんは僅かに目を細めた上で応えた。

 

「──理解しました。ではよろしくお願いします」

 

「オッケー。あ、そうだ石上くん」

 

「? なんですか?」

 

 返事をしてくれた石上くんにもう一つ告げる。

 

「──もし石上くんの要望に応えたら綾小路くんについて石上くんが知ってることを教えてくれるかな?」

 

「…………さて、どうでしょう。綾小路、という名前の生徒の心当たりはありませんが……そうですね。もし応えていただけるなら自分も出来る範囲で努力させていただきます」

 

「そっかそっか。ま、今はそれでいいかな。それじゃ次も頑張ろうねー」

 

「はい。それと詰みです。参りました」

 

 なるほどね、と。さすがに石上くんも気づいてることに気づいてるか。まあ昔の知り合いの神崎くんがこっちにいるからね。調べ上げたことを理解してくれてる。それと45手詰めを読み切ってサレンダーはやりすぎじゃない? こっちを信用してくれてるのは良いけどさ。

 

 後やっぱり石上くんとの会話はいつも試されている感じがして面白いよね。ほんと頼もしい味方だ。敵にするとやりにくそうだし1年生も大変だね。誰が石上くんにとって敵判定されてるかは知らないけどさ。

 

 ──と、まあ私ほどの人気者になると秘密の会話もいっぱいあるんだよね。そうそう、ついこの間も久し振りに偶然通りがかった月城理事長代理に話しかけられた。

 

「おや南雲さん。こんなところで奇遇ですね」

 

「あはは、月城理事長代理お久しぶりです。理事長代理もこういうお店来るんですね」

 

「理事長とはいえ私も敷地内で過ごすことが多い身ですから。おお、そうだ。少し生徒の意見も聞きたいところだったんです。せっかくなので同席しても?」

 

「この後予定があるので少しならいいですよ」

 

「それほど時間は取らせませんので安心してください。それでは失礼しますよ」

 

 そんな偶然を装って行きつけのカフェに入店してきた月城理事長代理は私の目の前の席に腰掛ける。休日の、それも朝でなおかつ店内の奥の方の席だったから人目はない。

 とはいえ私はアイドルだから目撃されたら噂も立てられそうでリスクはあるんだけどね。それを承知してか月城理事長代理も立ち回りを気をつけてる印象だ。顔面が仮面過ぎて読み取れることは少ないけどね。

 

「どうです。学校生活は順調でしょうか?」

 

「あはは、楽しんでますよー。この学校特有の部分に関しては色々と大変ですけどね」

 

「南雲さんはAクラスでOAAでも飛び抜けたトップに位置していますしそこに関しても順調かと思いましたがね」

 

「トップにはトップなりの苦労もあるんです。理事長代理ならお理解りになるのでは?」

 

「いやいや私の学生時代など南雲さんに比べれば地味なものでしたよ。南雲さんと比べて友人もあまり多くありませんでした」

 

 へぇーあんまり興味ないなぁ。だってこの人大嘘つきだし。本当か嘘か分からないしどっちでもいいという意味でもね。あまり真面目に受け取らなくて良さそうかな。

 

「先生方や敷地内の大人とも挨拶を交わしているところも見かけますし、南雲さんは本当に人気者ですね」

 

「人気になれるほど魅力がないとアイドルなんてできてませんからね」

 

「ふむ。良い返答ですね。なるほど。やはり南雲さんは他の生徒と比べても大人ですね」

 

 ……面倒だなぁ。牽制してきてるのか、それとも何か別の意図があるのか。ある程度気づいてるのは確かっぽいけど何が狙いかな? 

 

「特に担任の星乃宮先生と仲が良いようで」

 

「そりゃ担任ですから。それを言ったら生徒の中だと理事長代理とこんなに話すのも私くらいじゃないですか?」

 

「いえ私は生徒とは適切な距離を保っているつもりですよ。それより真嶋先生や茶柱先生とはどうですか? あの2人は星乃宮先生と同期のようですよ。しかもこの学校出身の」

 

「それは知ってますよ。でも他の先生方はそれなりですかね。やっぱり星乃宮先生が一番仲は良いかもしれません」

 

「そうですか。でも程々にお願いしますよ。でないと私も処罰せざるを得ませんので」

 

 ……うわーそっちか。でもま、そうだよね。この人なら薄々気づくだろうなとは思ってた。

 まあ気づかれようが私は最悪裁かれないようにしてるから別に良いんだけどさ。知恵ちゃん先生は裁かれちゃうかもだけどね。でも知恵ちゃん先生はペナルティ覚悟でやる人だからしょうがないよね。

 

「もっともそれで責任が生じるのは大人だけとなるのは無論理解していますよ。ああ、ですからこのことを誰かに告発しようとは思っていませんのでご安心ください。ただそうですね。星乃宮先生がいなくなるとそれはそれで困るでしょう。ですので1つだけ、星乃宮先生と同じように私からのお願いを聞いていただけませんか」

 

「聞けるものであれば聞きますよ。以前のと同じくね」

 

 本題はそれか。知恵ちゃん先生を脅しに使って私に何かをさせようとしてきてる。

 まあ別に知恵ちゃん先生がいなくなろうと大勢に影響はでないとはいえ……便利なのは違いないし可哀想だしなぁ。それと面倒が起こるのも確か。なので一応は応えてあげようかと姿勢を見せてみる。すると月城理事長代理は変わらず柔和な笑みで答えた。

 

「内容は次の特別試験の最中に教えます。あなたの不利益になるようなことではないので信用していいですよ。──と、こう言ってもあなたは私のような大人を完全に信用することはないでしょう」

 

「ははぁ、ありがとうございます。私のことをある程度はちゃんと理解してくれているようで」

 

「ですのでこうしましょう。私からも報酬を与えます」

 

「報酬ですか」

 

「交換条件と言い換えても構いません。これでも私は南雲さんをかなり評価しているんです。そんな大人のあなたを確実に動かすためにも私に何かしてほしいこと、頼みたいことがあれば請け負わせていただきますよ」

 

 またまた内心が読めない胡散臭い表情で月城理事長代理はそう言う。

 ……でもまあ交換条件か。それならなくはないかな。何を要求してくるかにもよるしそもそもそのお願いを聞くか分からないけど。

 

「それじゃ1ついいですか?」

 

 私はそのお願いの内容を口にする。すると月城理事長代理がほんの少しだけ感心したように表情を変えた。

 

「なるほど。さすがは南雲さん。既にある程度の予想はついていましたか」

 

「その発言は答え合わせと解釈してもいいですかね?」

 

「それはさすがに言えません。ですが……そうですか。面白い。大人の私としてはここは困ったものだと頭を抱えて対応を考えるべきところなのですが、一応は味方かつ相互利益を握り合う仲ですし純粋に喜んでおきましょう」

 

「対応、ですか」

 

「ええ。ですのでお好きにどうぞ。誰をどう扱おうが私はどうもしません。お願いについてもお任せください」

 

「ああでも私はまだ聞くと言ったわけではないですよ。内容が分からないうちは安請け合いできません」

 

「もちろんそれで構いません。ですがおそらく受けて頂けるかと」

 

 そう言うと月城理事長代理は席から立ち上がる。用事はこれで終わりみたいだね。

 

「それでは良い学校生活を」

 

「はい。理事長代理もまた」

 

「ええ、また機会があれば」

 

 そうして月城理事長代理は頼んだコーヒーの分の会計を済ませて店を出ていく。相変わらず表情というか心が読めない。私の洞察力、人を見る目を持ってしても真意を悟らせないのは素直に感服する。私も同じ能力持ちだしね。

 

 ただ……そう。一つだけ言えることがあるとすれば……月城理事長代理も私に何かを求めてる。依頼とかそういう部分とは別の深いところで。そんな気はした。

 

 

 

 

 

 7月も中旬。一学期の修業式が来週に控えた平日の放課後。

 私の準備もすっかり終えてグループ決めも決まってない人もほぼいなくなったので私は日々の交友関係の維持のために今日も遊び歩く予定だった。

 

「南雲せんぱぁい。ちょっときいてますぅ~? 南雲せんぱーい」

 

 ……と思ってたんだけどね。可愛い後輩が1人、ケヤキモールに向かう私に声を掛けてきたので時間を作ることに決めた。

 

「聞いてるよー。天沢ちゃんがクラスじゃ友達が少ないぼっちなんだって?」

 

「うわぁ聞いてない上に酷いこと言いますね。確かに友達はあんまりいませんけどぼっちじゃないですよ。あえて1人でいるっていうか。孤立じゃなくて孤高って感じ?」

 

「その回答もテンプレだよねー。ま、確かに陰キャっぽくはないけどさ」

 

 私の斜め後ろから歩調を合わせて好き勝手に話しかけてくる天沢一夏ちゃんに私は適当に答える。1年Aクラスの生徒でビジュアル力は高く90点は固いけど性格はちょっとアレ。陽キャタイプのコミュ障だね。ノンデリというかあえて人の神経を逆撫でさせることを楽しんでる。それが天沢ちゃんなんだと私はプロファイルしてる。

 

「そういう南雲先輩は本当の友達が多いですよね~。あたしも見習いたいなぁ」

 

「ならまずは協調性を学ぼうね」

 

「う~ん、あたしって人に合わせるの苦手なんですよね。南雲先輩は生徒全員ともうお友達になっちゃいました?」

 

「全員ではないよ。特に1年生はまだ友人って言えるほど関わってない人もそれなりにいるし」

 

 友人って括りだと正直なところ9割方はそうだけど理解完了した相手となるとさすがにもっと少ないね。

 それに高円寺くんとか普通に嫌いな生徒もいるし、単純に関わりが薄い生徒……天沢ちゃんみたいな生徒もいる。

 

「あたしたちはもう友達ですよねー?」

 

「さーてどうかな。私と友達になりたいならもうちょっと態度を改めるべきかな?」

 

「あはは、嫌でーす。あ、でも友人になったら色々使われちゃいそうだよね。南雲先輩って1年生も結構誑かしてるみたいだし。Cクラスの生徒とか仲良いですよね~」

 

 小悪魔振った生意気な態度を取ってくる天沢ちゃんは、見た目だけは良い。私よりも劣るとはいえこういううざったいムーブをしながらも絵になる感じは褒めてあげてもいい。

 ただその言動は要反省を求めるところだ。まあ心の広い私はこんなことで怒ったりはしないんだけどね。ただ私のことを好きな人たちに比べれば優先度は下がってしまう。

 

「仲良くさせてもらってるよ。そういう天沢ちゃんは仲良くしてる人はいないの? 本当にぼっち?」

 

「どうですかねー。一応次の試験ではDクラスの宝泉くんとか七瀬ちゃんと組む予定ですけど特別仲良くするつもりはないからやっぱりまだ1人を楽しむことになるかな~」

 

 まるで彼氏のことのようにいう天沢ちゃん。まあ彼氏も作ろうと思えばいつでも作れそうだね。なんだったら友達より楽に作れるんじゃないかな。ビジュアルだけは良いから盛りの男子高校生はすぐ釣れるだろうし。

 

「そっかそっか。まあ1人も楽しいよね」

 

「あ……でも前の試験で関わった綾小路先輩とかとは結構仲良くさせてもらってるかも? この間もお部屋に上がらせてもらいましたし」

 

 そして私が更に適当に答えると今度は綾小路くんの話題を出してきた。

 ただそれも私の反応を楽しもうとしてる感じだ。その話自体は裏は取れてるしなんてことのないことだけど無駄に反応すると鬱陶しそうだからその手には乗らずに敢えてにこやかに答える。ちょっとだけ月城理事長代理っぽいかもしれない。

 

「へぇーいいじゃん。部屋でゲームでもした?」

 

「えっちなこともしました……って言ったらどう思います?」

 

 蠱惑的な意味深の笑み。それを作って発言する天沢ちゃんに私はにこやかなままだ。実際どうとも思わないけどね。ただ言ってあげる。

 

「綾小路くんってかっこいいもんね。それでどう? 良かった?」

 

「やーめた」

 

 私があえて話に乗って嘘の感想を求めてあげると天沢ちゃんはいきなり話を放り投げた。その表情はちょっとだけつまらなそう。

 

「どうしたの?」

 

「どうしたも何もせっかく色々と絡んでいって面白い反応が出ないか試してたのに南雲先輩、全然乗ってくれないんだもん」

 

「そう? 普通に話してあげてると思うけどなぁ」

 

「アイドルモードってやつ? さすがに何考えてるか分からないし、やっぱこの程度じゃ駄目かぁ」

 

 そう言って天沢ちゃんは私の目の前に移動。そして見上げてくるようにして真っ直ぐに私の目を見つめてくる。

 

「あたし、先輩の素の表情が見たいなぁ」

 

「結構見せてるよ? まあ天沢ちゃんには理解んないかもだけどさ」

 

「そうじゃなくてこう……もっと怒ったり泣いたり悔しがったりみたいな。その余裕さが崩れるところが見たいなぁって思ってるんですよね」

 

「中々性格悪いこと言うね天沢ちゃん。じゃあゲームでもする? 天沢ちゃんが勝ったら普通に悔しがるよ?」

 

「あ、そういうオタク系は全然触れてきてないんでナシで。その代わりに別のことで勝負しません? 次の特別試験の順位とか」

 

 天沢ちゃんもそれが本題だね。一々回りくどいなぁ。最初から理解ってるからさっさと言ってくれれば良かったのに。

 

「別にいいけど勝てないんじゃない?」

 

「うっわ、すっごい自信。そんなの分からないじゃないですか。あたしのグループもまあまあ能力は高いですよ?」

 

 自信が高いのはどっちだか。そんな勝負を持ちかけてくる時点で理解りきってる。

 

「それに南雲先輩がどういう手を取るかは大体読めちゃってるし」

 

「そうなの? 面白いこと言うね?」

 

 天沢ちゃんの発言に私はそこで初めて天沢ちゃんとのやり取りの中でちょっとだけ面白くなる。私の手が読めるって豪語してるんだもん。そりゃ笑っちゃうよね。

 

「あたしの自信が正しいって証明してあげますからそれで勝負しませんか?」

 

「だから別にいいよ。元々そういう場だし」

 

「分かってるのに先輩ってば惚けちゃって。そういう場だからこそ勝負を面白くするリスクを賭け合いませんかって誘ってるんですよぉ」

 

 もちろん理解ってる。無人島試験は元より他学年同士。グループ同士で競い合うものだ。ただの宣戦布告ってだけじゃないのは何となく読んでた。天沢ちゃんの性格的に。

 なので今度はこっちから言ってあげよう。要するに罰ゲームが欲しいわけだ。それじゃあ……。

 

「負けたらポイントでも支払う? 負けた時のリスクは重すぎない方がいいよね?」

 

「あたしは何でもいいですよ? 今後入ってくるポイントを全部差し出すとか言いなりの奴隷になるとかそれこそ退学でも何でも」

 

「そんなリスクの高い賭けなんてしたら可哀想じゃん。天沢ちゃんや1年Aクラスがさ」

 

「あたしが退学することでクラスに皺寄せがいくことまで心配してくれてるなんて先輩って優し~。でも確かに退学はやりすぎですよね。なら負けたら退学以外で相手の言うことを何でも1つ聞くってのはどうですか?」

 

 何でも、ねぇ。そういう罰ゲームは結局何でもって言いながら常識の範囲内でしかできないんだからあんまり好きじゃないんだけどね。エンタメとしてなら面白いけどガチな約束としては微妙なところだ。

 

「何でもだと自由すぎるからもっと具体的にしようか」

 

「え~。あたし南雲先輩のこと自由にしたぁい。一日抱き枕とかになってもらったら楽しめそうなのにぃ」

 

「ま、それくらいの願いなら何でもでもいいけどねー。ただ求めてることがあるなら普通に口にした方が良いんじゃない? その方が約束をしっかり履行させられるんだから」

 

「それもそっかぁ。じゃ無難に一緒に写真でも取らせてもらおっかな」

 

「そんなことでいいの?」

 

「ただし先輩には恥ずかしい格好をしてもらう……ということでどうですか? 罰ゲームにはちょうどいいと思いますけど」

 

 天沢ちゃんからの意外な提案を耳にして私は考える。確かに罰ゲームとしてはちょうどいいものだ。

 だけど天沢ちゃんの性格とか趣向的にこの提案は……ま、どうせただの嫌がらせ何だろうけどさ。とはいえ断る理由は特にないかな。

 

「いいよ。それじゃ私が勝ったら天沢ちゃんには態度を改めてもらおうかな」

 

「いいですよ~。それと、それだけじゃまだ面白みはないんで負けた方は勝った方に毎月入ってくるポイントの3割を支払うとかどうです?」

 

 と、今度は今度で普通に負けたらリスクのある罰を提案してきたので私は表情を変えないまま少しだけ考える。正直なところ、雅兄や綾小路くん相手ならともかくこの試験で他のグループ相手に負けはないと思っている。

 それは天沢ちゃんにも分かっていると思ってたけど……そんな賭けを持ち出してくるくらいだから本当に私の知らない秘策でも思い浮かんだのかな? 純粋に興味はある。何かあれば面白いんだけど……まあどっちにしろ受けてあげようか。純粋に損でしかないその提案を持ち出してきたことも含めて試してみようか。

 

「やっぱり言うことを聞かせる権にしよっか。負けた方は勝った方の言うことを1つだけ聞くってことで。常識の範囲内でね」

 

「いいですよ。ならそれで勝負しましょうね。──ってことであたしの用事は終わったのでもう帰りまーす。さよならー」

 

 互いにその件を了承すると天沢ちゃんは不敵な笑みを見せながら踵を返して私の隣を通って寮の方へ向かっていった。結局それが言いたかっただけ、か。色々と気になる部分は残ってるけど……まあいいか。それよりも先にだ。

 

「綾小路くんは今の話、どう思う?」

 

 ここからは陰になっている部分のベンチに座っていた綾小路くんに私は声をかけた。

 

 

 

 

 

「いつから聞いてたの?」

 

「途中からだ。賭けの話は聞いた。それと、オレがいたのは……」

 

「どうせ天沢ちゃんがやったんでしょ? 理解ってるから言わなくていいよ」

 

「……ああ。天沢に呼び出された。意図は分からないが」

 

 天沢に呼び出され、指定の場所で待つことしばらく。オレは天沢と南雲の話を耳にすることになった。

 それは明らかに天沢が仕組んだものであることは明らかだが、だとすれば意図が分からない。以前の件でも思ったが天沢が頭が回る生徒であることは分かったがこれがホワイトルーム生であるのならオレに正体を知らせるようなもの。そうじゃなくても不可解な行動だ。

 

「だがさすがだな。一応気配は消していたつもりだったんだが」

 

「私ってめちゃくちゃ人の視線に敏感だから。なんか理解っちゃうんだよね」

 

 アイドルだから人に注目されることは慣れている、ということだろう。無論、アイドルだから、ではなく南雲だから、の部分が大きいだろうが。

 

「それで、天沢ちゃんとは何かあったの?」

 

「いや、別に何もない。ただ以前の試験で須藤が世話になったからな。それで関わるようになっただけだ」

 

「ふーん。それだけじゃなさそうな気配はするんだけどなぁ」

 

 南雲の洞察力は下手すればオレ並みか、人間の経験値の分だけオレ以上かもしれない。その南雲が天沢には何かあると睨んでいるし、そこはオレも同意見だ。

 もっともオレにとってはそれがホワイトルーム生であるかどうかが重要であり、そこが分からない以上は何とも言えないが。単に興味を持たれただけの可能性だってある。

 そして興味という意味では南雲も天沢から絡まれているように見えるが……。

 

「オレの方からも聞いていいか?」

 

「いいよー。なんでも聞いて、綾小路先生」

 

「先生はやめてくれ。……天沢との勝負も含めて今回南雲はどういう風に戦うつもりだ?」

 

「全力で勝つつもりだよ。純粋に私の強みを使ってね」

 

 南雲は爛々とした瞳でそうオレに笑顔で答える。そこから読み取れるのは圧倒的な自信。今回の試験において南雲は試験の内容がまだ全生徒に伝わっていない段階から勝利までの道筋を付けているように感じられる。

 しかしだ。無人島試験は1年の時もそうだったが学校側も全てを把握できるわけではない。少なからず南雲にも不利な要素がある。そういう意味では付け入る隙はあるはずだが……。

 

「綾小路くんの言いたいことは何となく理解るよ」

 

 そしてそんなオレの思考を読んだのか、南雲の目がすっと細められる。笑顔は変わっていないが、目が笑っていない。そんな風に感じさせる気配。

 ただ南雲の場合はこうやって見せているのか、虚と実を判別することが出来ない。本物を作り上げることが出来る南雲がそうするということは、オレに対するまた別の意図があるのか……。

 

「でもまあ見ててよ。そして証明してあげる。──綾小路くんを超えることが出来るのは私だけだってことをね」

 

 薄い笑みでそう告げる南雲から感じるのはオレへの尊敬の念とそれに付随する視線──オレのことを理解しようとするもの。

 

「今はまだ自分自身の成長と経験。そして綾小路くんの情報を集める段階だからやる気はないけどそれが終わって自信がついたらまた挑ませてもらおうと思ってるからさ。それまでは良い友達として程よい距離感で学ばせてもらうよ。綾小路先生」

 

「……オレから教えられることはあまりなさそうに見えるが」

 

 無論、南雲の知らないこと。まだ未発達の部分など教えられることはあるだろうが、そういうことじゃない。他の生徒にやるようなオレから導き、道を示す。誘導するような行動を南雲相手には取る必要はないだろう。南雲は自分のことをきちんと理解している。

 南雲の言うようにあえて教師としての視点で見るとすれば、南雲ほど手のかからない生徒はいない。放置していても勝手に成長する。自己の客観視と分析が出来ているから次に何が必要か。自分の何が駄目だったのかも理解して反省し、それを改善する。

 そしてそのためにもオレという存在を学ぼうとしているのだろう。南雲の今までの対人経験にいなかったオレという人間をデータに加えようとしている。

 

 もしそれが成功し、オレという人間を理解できたのなら南雲は確かにオレを超えることになるのだろう。

 

 オレ自身も自分というものを完全に理解出来てるわけではない。

 だから南雲に理解されるのも悪くないと純粋に思った。

 

「綾小路くんは生き様とか環境がすごそうだからね。見ているだけで学べることは沢山あるよ」

 

「……そうか。なら見せてくれ。南雲麗という人間がどう成長したのかをな」

 

「ひゅー。いいねいいね。そういう素っぽい部分、かなり痺れるよ綾小路くん。実はめちゃくちゃ上から目線で俺様気質というかさ。性格や性根だけそれだとただの最低クズ人間だけど能力値の高い綾小路くんが言うとカッコよく見えるしいいかも」

 

「……そういうものなのか」

 

「そういうものだよ。好き嫌いが分かれそうではあるけどね。でも少なくとも今の綾小路くんの方が魅力はある。97点はあるね」

 

 こと魅力という部分において他の追随を許さない南雲がオレのことをそう評価する。点数基準はよく分からないが、かなりの高評価であることは分かった。

 

「っと、長話が過ぎちゃったかな。次の予定までの時間が迫ってるしそろそろ行くね。無人島ではクラス同士同盟だし、一緒に頑張ろうねー!」

 

「ああ。オレも生き残れるように努力させてもらう」

 

 自分の携帯の時刻を見て南雲は小走りでオレと別れる。

 そうして去っていく南雲の後ろ姿を見てオレは先程の勝負の話を改めて考えた。

 ……もし仮に天沢がホワイトルーム生だったとしても……少なくとも、試験においては南雲が有利だろうな。

 今回の試験。まだ全容が把握出来ていないとはいえ、これだけ大人数が関わる試験となるとオレでも南雲に勝利するのは中々に難易度が高いだろう。

 ただ試験以外の部分も見た時に懸念できる要素もある。オレはそのことを思いながらも南雲には伝えず自分のことに思考を移した。




今回はここまで。長くなって無人島上陸出来なかったけど次はもう無人島ですのでお楽しみに。

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