ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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アイドルと2回目の無人島伝説の始まり

 アイドルはコミュ強じゃなきゃ務まらない。

 いやまあ必ずしも陽キャである必要はないが、少なくとも対人恐怖症には務まらないし、人と接するのが得意な子じゃないと成功するのが難しい職種だ。

 何しろ人前で歌って踊る必要はあるし、握手会やチェキ会。成功すれば多数のメディアに出て業界人や他のタレント、著名人と関わることになる。

 そもそもアイドルも社会人。いわば大人の社会の中にある1つのポジションだ。

 そしてアイドルは笑顔を振りまき、人を魅せることがお仕事。なので人見知りなんてしてる場合じゃないし初対面の人にだってキラキラしたアイドルとしての姿を見せなきゃいけないわけだ。それが演技だとしてもね。いや、私の場合は演技じゃないんだけど。

 

 つまりトップアイドルの南雲麗ちゃんは陽キャ中の陽キャでコミュ強である。

 今日その日に出会った人ともすぐに打ち解けるし、少し過ごせば友人になる。知らない人とグループを組むのもなんのその。集団を取りまとめることもお茶の子さいさい。老若男女問わず適したコミュニケーションを取ることができる。

 

「ん~どれも美味しいねぇ。さすがは豪華客船サン・ヴィーナス号ってところかな。どうかな、みんなは楽しめてる?」

 

「楽しめているかはともかく……去年乗った船よりかなり大きい船なのは間違いないみたいだけど」

 

「日本籍の船では3番目に大きいみたいだね。1番大きいのと2番目に大きいのは乗ったことあったけどこれはなかったから私も新鮮な気分だよ」

 

「そう。どうでもいい自慢話ね」

 

 7月19日。一学期の修業式を終えてすぐ。私たち高度育成高等学校の生徒は全員で専用のバスに乗り込み、港からこの豪華客船に乗り込んでいた。

 各自に一応部屋を割り当てられつつも、荷物を置いたらすぐに食事を取るように言われたので1年生に続いて私たち2年生も昼食会場で食事を取り始めた。

 そしてクラス毎に取るとかそんな決まりもなかったので私はいつもと違う面子──鈴音ちゃんと須藤くんという同じグループの2人を誘って食事を取っていた。

 

「なあ、鈴音……これどんな風に食えばいいんだ?」

 

「普通にナイフとフォークで切り分けて食べれば大丈夫よ」

 

「そ、そうか。マナーとかそういうのは……」

 

 そして同じ席の鈴音ちゃんは涼しい顔をして食事を取っているが、須藤くんは緊張しているのか私と同じメニューを取ってきたせいで地味に四苦八苦している。今食べようとしてるのは鴨肉のコンフィだね。フレンチの定番メニューだけどなんかフライドチキンみたいに飛び出してるちっちゃい骨を掴むべきか迷ってた。なので私は安心させるように笑みを向ける。

 

「マナーとか気にしなくて大丈夫だよ。別に格式ばった食事の席じゃないんだからさ。なんだったらガブッといっちゃえ!」

 

「お、おう」

 

 私がそう言ってあげれば須藤くんもその通りにガブッと食いついた。その姿を見て鈴音ちゃんが若干呆れているが、まあまあいいじゃん。これからこの3人で仲良く試験に挑むことになるんだからさ。

 

 そう、この3人はこれから行われる無人島での特別試験。それに挑むことになる3人だ。

 なのでこれから行われる説明会の前から一緒に行動することにしようと私が誘った。グループとして、クラスとしての作戦。戦略もあるからね。

 なので私は1つ、尋ねておく。先程鈴音ちゃんから伝えられたことについて改めて。

 

「それで、高円寺くんが動くかもしれないってのはどういうことかな?」

 

「……彼の方から取引を持ちかけてきたのよ。この特別試験で1位か、私たちが1位を取った場合の2位。そのどちらかの結果を持ち帰ってくるという取引をね」

 

「それは中々驚きだね」

 

 Dクラスの高円寺くんは私の嫌いな唯我独尊我儘ハイスペックお坊ちゃんだけど能力的には2年生でも……いや、この学校でもトップと言ってもいい。

 ただその能力をクラスのために発揮することはないため、今まではむしろクラスの足を引っ張っていた印象だけど……なるほど。ここで動いてきたか。なんでそんな取引を持ちかけてきたのかは気になるところだけどね。

 

「今回の試験はリタイアすれば退学が確定しちゃうからね。高円寺くんもどうせ試験に臨むことになるならある程度力を発揮してもいいという判断だろうけど……それだけじゃないよね?」

 

「っ……悪いけど同じグループで同盟を組んだとしてもそれは話せないわ。クラスの内情の話だもの」

 

「ま、そうだね。取引の内容までは言わなくていいよ。むしろそのことを話してくれただけありがたいかな」

 

 私の質問に対して僅かに眉根を寄せた鈴音ちゃんだけどクラスの内情は話せないってことなので私はそれに納得しておく。まあ別にいい。ぶっちゃけ大体予想はつくし。高円寺くんの求めることは自由とかそういう類のもの。次の特別試験での自由を認めるとか……なんだったら今後の扱いに関して、クラスのリーダーとして認められてる鈴音ちゃんに要求したんじゃないかな。

 だとすればこの試験で1位か2位を取るという条件も納得のいくものだし。Dクラスとしては高円寺くんが確実に1位を取り、私たちのグループが2位か1位。そして高円寺くんが2位というパターンで表彰台に上がれば得られるクラスポイントは400以上。一気にBクラスに上がることができる。

 

「ただ順位を調整するのに高円寺くんを当てにするのはちょっと不安かな」

 

「そうね。その点は私も同意見よ。だから当初の予定通りに2つのグループで表彰台を狙いに行く。その方針は変えないということでいいかしら」

 

「もちろん。そのためにグループも調整したんだからね」

 

 食事を摂り終えて口元を吹きながら私は鈴音ちゃんの確認に頷く。クラスとしての戦略、方針は鈴音ちゃんと綿密に話し合って決めたことだ。

 あえて今ここで話すことじゃないけど互いに、そして関係している生徒は理解している。須藤くんも唾を呑み込んでいた。責任は重大だからね。顔つきもちゃんと覚悟している。うんうん、良い感じのプレッシャーを持って臨めているようで何よりだ。

 

「っと。もう説明会だね。鈴音ちゃん、須藤くん、行こっか」

 

「ええ」

 

「お、おう」

 

 そうしてしばらく待ち時間を楽しんでいると1年生の説明会が終わったっぽいので私たちも入れ替わるように説明会の会場である映画館に入る。私と鈴音ちゃんが並んで歩いていると絵になるし注目度がすごいよね。周囲からの視線を感じる。須藤くんは私たちの後ろから付いてきていた。

 

 ただ映画館で適当な席につくと更に人が集まってくる。私たちの周囲にやってくるのは今回の試験におけるAクラスやDクラスの中心メンバーだ。

 

「やっほー。堀北さんたち」

 

「こうやって並ぶとやっぱすごいメンバーだよなー。これはさすがにいける気がしてきたぜ。須藤や平田もいるしな」

 

 と、そんな風に挨拶しつつやってきたのはまず帆波ちゃん、颯くん、藍ちゃんの3人グループ。Aクラスの主力を集めたグループが席につくとそれと同じくやってきたDクラス中心のグループも挨拶を返してくる。

 

「はは、柴田くんに南雲さんたちも今回はよろしくね」

 

「よ、よろしくー」

 

「よろしくお願いします」

 

 こっちは洋介くん、小野寺ちゃん、松下ちゃんの3人グループ。鈴音ちゃんや洋介くんとも話し合って作ったDクラスの主力メンバーであり、今回の試験において2位か3位を狙うために作ったグループだ。

 洋介くんは学力、運動能力共に隙がないし協調性もリーダーシップもあるグループの要。そこに運動能力だと2学年の女子トップクラスを誇る水泳部の小野寺かや乃ちゃん(私たちを前にして須藤くんと同じで緊張してるのかちょっと気まずそう)を加え、学力も運動能力も平均値は高く、思考力も高い松下千秋ちゃん(普通にしてるように見えるけど私を見て若干緊張してる)を加えた。

 まあ候補として学力の高い幸村くんや王ちゃんを加えることも考えたんだけど今回の試験は無人島ってことで体力がどうしたって優先される。平均程度ならともかく、運動能力が低すぎる子は今回は少し難しいかなってことで没にしてもらった。

 ちなみに桔梗ちゃんは今回はNG。能力はそこそこだけど協調性を活かすなら別のグループでいいし、不安要素もあったからね。他のグループにいってもらった。

 それと他にも──

 

「おや、説明会が始まるようですよ南雲麗。どうします? かぶりついて聞きますか?」

 

「普通に聞くよ。一応言っておくと前の席に足をかけたりポップコーンを買ってこようとしたりしないでね」

 

「私はそんなバッドマナーなことしませんよ」

 

 ……と、隣に座った藍ちゃんから説明会が始まると声をかけられたため、思考を中断して説明に集中する。スクリーン前に立って説明を始めるのはCクラス担任の真嶋先生だ。

 

「ではこれより無人島における特別試験のルールを説明したいと思う」

 

 さーて、この瞬間はいつもドキドキだ。みんな息を呑むように静かになる。たまらない緊張感だね。私は1つずつ説明される特別試験のルールを思考する。

 

 ・まず試験期間は明日からの2周間。それぞれ事前に確定したグループで試験に臨む。

 

 ・続行不可能と判断された怪我や体調不良。そして重大な違反行為は即リタイアして順位が確定してしまう。

 

 ・順位が下位5グループに入ってしまうとそのグループは全員退学。退学を取り消すにはグループ人数で600万プライベートポイントを頭割りして支払う必要がある。

 

 ……ということなのでまず大前提にあるのはリタイアを避けることだ。つまり無人島では自分たちでしっかりと行動する必要がある。無理な動きをして怪我をしたり、川の水を飲んで体調不良になったりしてリタイアになれば単独ならその時点で試験は終了。2人以上のグループでも不利になることは避けられない。

 まあでもそれは基本だ。それくらい避けられないと表彰台は狙えない。だから次からの説明の方が私たちにとっては重要。

 

「各グループには順位を決めるための『得点』を集める戦いを行ってもらう」

 

 真嶋先生の説明と共にスクリーンに表示されるルールは簡潔だ。

 

 ──無人島特別試験概要

 

 ・全グループで2週間、得点を集め競い合うサバイバル試験

 ・期間中、リタイアによりグループ全員が離脱した場合はその時点でグループは失格(集めた得点は全て無効となり、その時点で順位が確定する)

 

 うんうん、ここまではさっきの説明にあった通りだ。なのであまり思考を割く必要はない。

 問題は次……得点の集め方だ。真嶋先生はその集め方をしっかりと説明してくれる。それを簡潔にまとめると──

 

 ・無人島は全部で100のマスに分けられていて一日に4回、決まった時間毎に指定エリアが告知される。

 

 ・その指定エリアに向かうことで『基本移動』の得点が得られ、到着すれば到着ボーナスとして全員に1点。着順報酬として1位に10点。2位に5点。3位に3点が得られる。

 

 ・ゴール時間は午前7時~9時、午前9時~11時、午後1時~3時、午後3時~5時。

 

 ・指定エリアには法則があり、1日の内3回は前後左右2マス斜め1マスの範囲内に限定されるが1日に1回は全マスからランダムに指定される。ただしランダム指定が2度続けて起こることはない。

 

 ・指定エリア告知の段階で既に到着していた場合も到着ボーナスは得られるが着順報酬は無効となる。

 

 ・3回連続で指定エリア到着をスルーするとペナルティとして回数に応じた得点が引かれる。ただし一度でもスルーを止めると累積値は0に戻る。

 

 ふむふむ。まあこれは納得だよね。無人島で体力を求められることは誰だって予想できるだろう。

 ただこのルールは否が応でも体力を使うことになる。スタート地点から一切動かないなんてことは普通は出来ないようになっているわけだ。そうなれば得点を得られないどころかマイナスされてしまう。それを続けていればあっという間に下位になって退学まっしぐら。どれだけ体力がなかろうと最低限指定エリアには向かって得点を得ないと話にならない。

 

 でもこれだけだとただの体力試験だし体力のある生徒を集めればそれだけで勝てる試験になってしまう。だから得点を得るための他の方法も重要なんだけど、その前に知恵ちゃん先生が持ってきた腕時計について説明があるみたいだ。

 

「明日の試験開始から試験終了時まで、生徒にはこの腕時計を着けてもらう」

 

 真嶋先生からそう伝えられる。一緒にタブレットも渡されるみたいだけどそれは後で説明するみたいだね。で、腕時計の説明はまたまとめてみると──

 

 ・腕時計は身に付けた生徒の体温や心拍数、血圧、血中酸素や睡眠時間、ストレスレベルなどを測る機能がついていて学校側が常時モニタリングできるようになっている。

 

 ・何らかの項目が一定のラインを超えると警告アラートが鳴る。警告アラートは5秒で鳴り止み、10分後に再度警告アラートが鳴る。3度目は緊急アラートになりスタート地点でメディカルチェックを受けなければならない。緊急アラートは手動で止める必要があり、5分間停止されなかった場合は教職員と医療班がGPSを元に駆けつける。

 

 ・腕時計の取り外しには特別な工具が必要で強引に外したりすれば得点を得る機能がストップする。物理的な破損をした場合や事故で異常が出た場合も機能はストップ。スタート地点で交換対応を行う。

 

 ・腕時計毎に12通りのテーブルが設定されていてテーブル毎に指定エリアの順序は異なる。

 

 なるほどね。この腕時計は実際重要だ。得点を得られなくなってしまうし、GPS機能があるということはそれがない場合は学校側も位置の特定が出来ないということでもある。

 だけど今回の試験における穴はこの腕時計の部分かな。まあ、それはあえて言う必要もないので黙っておく。それと地味にテーブルの存在も重要だ。つまるところライバルは同じテーブルに設定されたグループってことになるからね。この辺りは試験が始まってから出来るだけ早く突き止めていきたい。

 

「次に得点を得る方法の2つ目を説明する。それは無人島の至る所に設置される『課題』をこなすことで得点を得るというものだ」

 

 お、きたね。2つ目の方法。真嶋先生の説明と共にスクリーンがまた切り替わる。それもまとめると──

 

 ・課題は午前7時から午後5時までの間に全エリアに出現し、同じエリアに複数の課題が出ることもある。

 

 ・課題の場所や情報はタブレットで確認することができる。課題には腕時計とタブレットを介して現地に到着して受付の教職員やスタッフに参加希望を伝えることでエントリーする決まりになっている。

 

 ・課題の内容は学力4割、身体能力3割、その他3割に分類されていて同じ内容の課題も出現する。

 

 課題の説明。そしてスクリーンには例題も表示される。例えばこんな感じで。

 

 課題・『数学テスト』 分類・学力

 参加条件・課題出現から60分以内のエントリー

 参加人数・1人(グループ内からは1人のみエントリー可能)10人が登録した時点で締め切り

 勝利条件・指定時間内に集まった生徒たちで点数を競う(テスト内容は学年毎に異なるが難易度は同程度に調整される)

 報酬・1位5点 2位3点 3位1点 更に入賞者には1日分の食料が与えられる

 

 ……といった具合だね。他にも身体能力に分類される砲丸投げの例題やその他に分類される釣りの例題が表示されている。3人グループでエントリー可能だったり報酬として景品がもらえたり、1位の得点が15点と大きいものだったり色々あるね。

 

 つまり身体能力だけじゃない様々な能力が求められるってことだ。そして、私みたいな何でもできる完璧なアイドルみたいな生徒はそうそういるものじゃない。だからこそ人数が多い方が有利である。先に説明された到着ボーナスや基本移動のルールも人数が多い方が有利に設定されている。

 そしてそれを更に拡張されるルールが──

 

「4日目から、この課題の報酬の中に『グループ人数の最大数を解放』するものも行われる」

 

 来たね。1位を取れば3人の解放。2位は2人。3位は1人。グループ人数を増やす場合は引き入れたいグループ側から腕時計のメインリンクを起動させて合流したいグループはペアリングを起動させて腕時計を接触ね。10秒かかってキャンセルも可能、と……それで大グループが結成される。グループ人数の最大数を拡張する課題はそれほど多くはない。合流が発生した場合は所持している得点を平均化してリスタートすることになる。

 

 私はそれらを改めて頭の中にまとめる。ここは最重要だ。なにせ私たちのグループこそそれを狙っているからね。帆波ちゃん、颯くん、藍ちゃんのグループは私たちのグループに合流するために作られたグループでもある。

 更に言うと私たちは『増員』の特殊カードを持っている。なので最大7人の大グループを作るつもりだ。7人になれば基本移動で指定エリアに到着する度7点が手に入る。移動を繰り返すだけでも他のグループには追いつけない差が出てくるわけだね。

 

 まあただ上位を狙うグループはこれは当たり前に狙ってくるかな。高円寺くんとか綾小路くんみたいな規格外じゃないと単独で上位を狙うのは難しいからね。

 

「それでは次に、月城理事長代理よりご挨拶を賜りたいと思います」

 

 おっと。そんな風に思考を回していると今度は理事長代理のありがたいお話だ。内容は一応しっかり聞くけど、まあ性的なトラブルに関しては退学させるし悪質なものは警察も呼ぶよっていう当たり前のことを言ってくれる。まあそれはね。当然すぎる。これについては心配せずともやる馬鹿はいないだろうね。

 ただ理事長代理は生徒同士のいざこざはある程度認めるらしい。偶発的なものだけ、と念押ししてたけどこれはまあ色々あるんだろうね。何を企んでいるか気になることもあるけど一旦それは頭の隅に置いておく。無人島で使用できる買い物と必要ポイントについての説明が始まったからね。

 

「個人に与えられるポイントは基本5000ポイント。それらを使いおまえたちにはある一覧から自由に購入し利用してもらう。なお先行カードを持っている生徒には更に+2500ポイントが与えられる」

 

 その説明と共に前から厚いマニュアルが回ってきたので私は早速それを確認。購入は明日の朝6時までに受け付けてるし、ポイントを残しておいて試験中にスタート地点の港での追加購入もできると。ただしその時は最初の2倍の値段ね。まあ残しておく意味はあんまりなさそうかな。

 

 加えてスタート地点では無料でトイレやシャワー室も利用できるし、その場で飲むのに限り水もある。ふむふむ、スタート地点近くに指定エリアが設定されることがあればそれもありっちゃありか。水浴びはしたいしねー。

 

 それと歯ブラシにシャツに下着。簡易トイレに虫除けスプレーと日焼け止め、生理用品なんかも無償配布、と。これも乙女にはありがたいね。虫刺されや紫外線対策はしっかりしておかないと。

 

 そうして説明を見ながらマニュアルも確認する。使用できるのは1人5000ポイントだけど私はあんまり気にしていない。必要なものは他のグループに購入してもらう予定だからだ。

 たとえば浜口哲也くんのグループには3人全員に追加カードを渡した上でサポートに回ってもらう予定だ。この説明が終わった後にまた集まって何が必要かと話し合うことになっている。例えばバーベキュー用のコンロなんかはそれなりの値段はするけど集めればなんてことはないし、どこかのグループが持っているのを使う分には持ち運びも必要ない。

 つまるところ私たちのグループは最低限必要なものだけで構わない。無人島内を移動し続けるには荷物はできるだけ軽い方が良いに決まってるからね。

 

 その後には全員に配布されるタブレットについても説明されるが、これもまた重要。無人島の地図が閲覧できて指定エリアや自分の現在位置もリアルタイムで確認できる。課題の位置や情報も見れる。

 

 そしてそれだけではなく試験4日目から12日終了まで上位と下位10組のグループメンバーと得点も確認できるようになる。

 おまけに6日目以降は全生徒の現在地を閲覧可能になるGPSサーチ機能も解禁されると。ただ機能を使うことに1得点消費ね。

 他にも学校側からのお知らせが届いたりもするので充電は切らさないようにしないとね。スタート地点や特定の場所で充電できるのと購入できるモバイルバッテリーで充電するかって感じかな。

 と、そこまでで無人島試験の説明は終了。真嶋先生からバックパックと商品のサンプルがあるからそれをチェックする時間がこれから夜の12時まで行われることが通達され、学校側からの説明が終了した。

 

 そして多くの生徒は商品を確認するために集まっていったが、私はまず全員と会話することに。商品は逃げないし焦ることはないからね。

 

「課題は学力の比重が多めなんだ……これなら確かに運動能力だけが大事ってわけでもないね」

 

「普通に人数が多い方が有利じゃね?」

 

「それは事前に告知されていました。柴田颯は説明の際に耳に穴が空いていたのですか?」

 

「いや耳に穴は空いてるだろ……」

 

 帆波ちゃんの話に颯くんや藍ちゃんが端的な指摘をする。藍ちゃんのいつものムーブはいつも通りなので特にツッコミを入れない。代わりに鈴音ちゃんに話しかける。

 

「でも体力勝負になることには間違いないからね。私の言う通りにしておいて正解だったでしょ?」

 

「その点は素直にあなたの慧眼を認めておくわ。それで、4日目に大グループの結成を目指すということで構わないわよね?」

 

「うん。私たちと帆波ちゃんのグループ。それと隆二くんでね」

 

「──ああ。最初は任せてくれ。確実にスタートダッシュを決めてみせる」

 

 そこでもう1人、私の後ろの席にいた隆二くんが頼もしく頷きを返してくる。

 そう、隆二くんは今回単独グループだ。ただし、『増員カード』を用いた7人目として私たちに合流する役目を担っている。

 もっとも『増員』自体は須藤くんが持ってるんだけどね。単独の人に持たすのはちょっとリスクがあるから。

 そしてそのためにまず重要なのはグループ人数の最大化の課題を確実にクリアすること。7人グループは最低2回はクリアしないといけないからね。そこは全力で他の子達にもバックアップしてもらう予定だ。トランシーバーの購入はやっぱり必須だね。哲也くんにも改めて伝えておかないと。

 加えて得点の平均化という問題があるため単独の隆二くんは4日目まではそれなりに得点を集めておいてもらう。本腰を入れるのはその4日目からとはいえ、その差は地味に大きいからね。同じような手を使ってくるを相手にするに当たっては。

 

「ただこのルールだと洋介くんたちのグループが2位か3位を狙うのは中々に厳しそうかなー。どうする? やっぱりAクラスの生徒と合流してみる?」

 

「そうだね……どうしようか堀北さん」

 

「……確かに大グループを作るにしてもどのグループを合流させるべきかは悩ましい問題ね。櫛田さんのグループはお世辞にも上位を狙えるとは言い難いし……」

 

 私はDクラスに向けてどうするかと提案してみる。当初の予定だと私たちAクラスとDクラスの混合グループが1位を狙い、あわよくばもう1つのグループで2位か3位を狙う予定ではあったがDクラスの生徒の能力は中々に尖ったものが多いため難しいところだね。

 ただこうなってくると綾小路くんや、そして高円寺くんに期待したくなるだろう。鈴音ちゃんもそれを考えているはずだ。本当に高円寺くんが全力で動くならば確かに1位か2位は取れるかもしれない。洋介くんたちも最大限努力はするだろうけど他のクラスや3年、1年の上位を狙うグループと戦って上回れるかというと厳しいかもしれない。幾ら私のバックアップがあったとしてもね。

 

 たとえば2年でいうと龍園くんと葛城くんのグループとか有栖ちゃん、真澄ちゃん、真田くんの3人グループとかも上位を狙ってくるだろうしね。BクラスやCクラスは単独とはいえしっかりクラスの主力を集めてるから油断はできない。

 

「……一応、上位に狙うようには動く。その上で万が一、下位に沈んだグループが出た場合の救済として大グループの結成は待つのが無難かしら」

 

「うん、それは僕も賛成だ。堀北さんたちが上位を取れたとしてもクラスから退学者が出てしまったら意味がないからね」

 

 鈴音ちゃんが考えた上で出した答えに洋介くんも頷く。まあそれがいいかもね。元々厳しい戦いだと予想はしていたから鈴音ちゃんもそこまで悩まずには済んだかな。なんだかんだ高円寺くんの存在を勘定に入れ始めている。

 

 ただ私としては『試練』のカードを持ってる私たちのグループが1位を取った方が得だし……高円寺くんに負けるわけにはいかないかな。大量のプライベートポイントやプロテクトポイントも貰えることだしね。

 

 私たちが1位を狙うにあたって帆波ちゃんたちには『追加』のカードを持たせてるし、多くの生徒には『便乗』のカードを私たちに使わせることで大量のプライベートポイントを得ようとしている。

 まあ他にも3人ほど同じような手を使ってる人がいるからそこまで『便乗』カードは集まらなかったとはいえそれなりの数にはなった。もし私たちが1位を取ればかなりの収入が私たちに入ってくることになる。

 

「南雲さん」

 

「ああ、哲也くん。予定通りサポート班はある程度は哲也くんに任せるからよろしくねー」

 

「うん。そのために購入する物品の相談をしたいんだけどいいかな?」

 

「もちろん。それじゃあそろそろ私たちも確認にいこっか。鈴音ちゃんたちもいい?」

 

「ええ、問題ないわ」

 

 と、話し合っていると哲也くんが他のグループのメンバーである安藤紗代ちゃんや南方こずえちゃん。他にも何人かが集まってくる。

 哲也くんのグループともう1つのグループは無人島での食料を担当するグループだからね。相談に来るのは当然だ。この場では一旦、この物品を担当する子達だけが集まってくる。まあ後でAクラス全体でも改めて相談するんだけどね。

 たとえばAクラスの中でも帆波ちゃんや隆二くんたちについで能力が高い子。二宮唯ちゃんとか初川舞峰ちゃんみたいな子達のグループには普通に得点を稼いでもらいつつ下位に沈んだ生徒がいれば合流して救済する役目を担ってるしね。

 

 そもそもクラス全体で私たちが1位になるために一丸になっている。Dクラスの方はそこまでまとまって明確な役割があるわけじゃないみたいだけどね。多少は意見したけどクラスが違うからね。そこまで無理はさせられない。

 

「やっぱコンロはいいよねー。それと浄水器も私たちは飲まないにしても水不足になったグループが出た時のために念の為買いで。それとトランシーバーも幾つか買っといて哲也くん。──鈴音ちゃん、テントは2人用でいいよね? 須藤くんは1人用買っといてて。それと持ち運ぶ水は須藤くんに持ってもらおうと思ってるけど大丈夫かな?」

 

「ああ、1人用テントに水だな。任せてくれ」

 

「2人用……まあ仕方ないわね」

 

「その方がポイント浮くからねー。後はモバイルバッテリーは必須で懐中電灯やライターもさすがにいるね。後は最低限の食器とお鍋かな。料理は私も出来るし鈴音ちゃんもいけるよね?」

 

「ええ。あと必要そうなのは……」

 

「お、水着もあるじゃん! 鈴音ちゃん買う? それで暇な時とか遊ぼうよ」

 

「遊ばないわ。どう考えても必要ないでしょ。何を考えているの?」

 

「えー息抜きも大事だと思うけどなー。ポイントちょっと余りそうだし。須藤くんだって少しくらい息抜きしたいよね?」

 

「み、水着か……ま、まあそうだな。ちょっとくらいなら遊んだっていいんじゃねぇか?」

 

「バカなこと言わないで。水着を買うくらいなら食料や水を買い足しておくのが無難よ」

 

「えーじゃあポータブル将棋セットとかトランプはどうする? 夜とか暇だと思うしこれくらいならいいんじゃない? ポイントもそんなに高くないしさ。帆波ちゃんはどう? 合流したらこれで遊べるしね」

 

「あはは……まあそれくらいなら全然良いんだけど……」

 

「はぁ……もういいわ。好きにして。ただしそれ以外は携帯食料に当てるわよ。食料をサポートしてくれると言っても指定エリアによっては絶対に合流出来るとは限らないのだから食料や水はあればあるだけいいわ」

 

「ま、それはそうだね。それじゃある程度決まったら行こっか。他にも色々確認したいし」

 

 ため息を吐いた鈴音ちゃんに同意しつつ物品を確認し終えた私たちはその場を後にする。そろそろ3年生が説明を受ける番だからね。

 

 と、そう思っていたら。

 

「よう、麗。随分と楽しそうだな」

 

「あ、雅兄じゃん。やっほー。先輩方もこんにちはー」

 

 私たちと入れ替わるようにやってきた3年生の集団の中に、雅兄がいた。なずなちゃ先輩や桐山先輩もいる。見知った顔がかなり多いので私は笑顔で挨拶をすると向こうも挨拶を返してくれた──が、そこに少しだけぎこちなさを感じるのは私と雅兄が勝負することになるのを理解ってるからだろう。

 

「鈴音と組んだのか」

 

「……おはようございます。生徒会長」

 

「麗は人使いが荒い。おまえも注意した方がいいぜ」

 

「そんなことありませーん。仲間には優しいしちゃんと労るんだから。それを言うなら雅兄の方がヤバいじゃん」

 

「まあな。それは否定できないところだ」

 

 和やかな会話を私と雅兄は行う。鈴音ちゃんは冷静に生徒会の後輩として挨拶を行っていたがその軽口には応じなかった。

 

「それにしても面白いな。俺の妹と堀北先輩の妹が組んで試験に挑むなんてな」

 

 ただ雅兄はそこで私たちを改めて見て本当に面白そうに、まるで待ち望んでいた時が来たとも言わんばかりに期待を表情に表す。その不敵な笑みを、私たちに向けてきた。

 

「──が、誰が相手だろうとどんなグループだろうと俺には敵わないぜ」

 

「それはどうだろうね? 私も結構準備はしてきたし、私たちのグループもかなりの精鋭だと思うけど」

 

「おまえの手は読めてる。おまえの能力の高さも俺が誰よりも知ってる。だから覚悟しておくんだな」

 

「誰よりも? それは間違いじゃないかな。──私のことを誰よりも理解しているのは私自身だよ」

 

 そう、だから私が雅兄よりも──上であることは私自身がよく理解している。

 そしてきっとそれは雅兄も。幼い頃から薄々と感じながらも背けていた私の実力に対し、向き合って試そうとしている。

 本当に自分は強いのか。裸の王様ではないのかという疑問を。

 

「ふっ……なら楽しみにしてるぜ」

 

「うん。楽しみにしといてよ」

 

 ──雅兄の求めてるものを私が与えてあげるからさ。

 

 私の返答を聞いてふっと笑った雅兄はそのまま映画館に向かう。

 私と雅兄のやり取りには他の誰もが口を挟むことはなかった。

 明日からの特別試験。敵は多いけど……試験においてはやっぱり雅兄が最大の障害だろうね、と私は気を引き締め直した。




今回は飛ばすと違和感がある必要な説明会なのであっさりめで。次も割とすぐに更新します。

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