無人島2日目の午後5時半を回った頃。私は持ってきたトランシーバーを昨日に引き続き活用していた。
「なるほどなるほど。それじゃ今日は割と調子良かったんだね」
『うん。でも思ったよりは伸びてなくてごめんね』
「全然全然! 報告ありがとねー。哲也くんたちと楽しんで」
『うん。それじゃまた明日』
「また明日ー」
と、互いに別れの挨拶をしてからトランシーバーを操作する。
私の戦略の1つとして私の息がかかった主要グループにはトランシーバーを持たせている。去年の無人島試験でも使ったけど複数人の連携を行うには何よりも情報。素早い連絡が大事だからね。
そしてまずは4日目以降に合流する予定の帆波ちゃんのグループと隆二くんのグループと1日の終わりに連絡を取り合ってる。隆二くんは帆波ちゃんの前に向こうから連絡が来た。
それによると2日目が終わった時点で帆波ちゃんのグループは46点。同じテーブルと判明したグループに手強そうな相手はまだいない。今日は哲也くんのグループが近くにいるため一緒にキャンプして食事を取るとのこと。
隆二くんは33点で同テーブルに3年生の溝江先輩のグループがあって結構手強いとのこと。それでもまあまあ点数を稼いでるので褒めてあげた。まあどんな結果でも一応は労うけどね。
そして私たちのグループだけど午後にクイズで1位を取ってついでに綾小路くんと七瀬ちゃんを軽くからかった後は午後3時の指定エリアでH9になったため普通に到達したけど着順報酬はなしで3点。その後に『英語テスト』の課題が出たためそれにエントリーして鈴音ちゃんが2位を取った。1位は3年生の学力の高い先輩が相手だったから仕方ないね。私が出ても良かったかなとは思ったけど鈴音ちゃんに任せるところは任せないとだしこれくらいなら許容範囲だ。
それから今日はこのままH9でキャンプをすることになったんだけどね。一度G9に行ってからもう一度H9に戻り、テントを張りそれからトランシーバーでの1日の日報を聞く。2日目が終わって私たちの得点は84点。他のグループがどうか分からないけどさすがに上位3グループくらいには入ってるかな? 問題は雅兄のグループと高円寺くんだね。雅兄はともかく、高円寺くんに至ってはぼっちすぎてどこで何をしてるのかもあまり報告が入ってこない。すごい速度で指定エリアを踏んで課題も受け続けてるそうだからさすがに真面目にやってそうだけどね。
「姫野さんって頭良いんだねー。さすがはAクラスって感じ?」
「Aクラスの中だとそこそこだけどね」
「それでも池とかに比べたらかなり頭いいでしょ」
「おまえも大して変わんねーだろ!」
「いやいや、さすがに違うでしょ」
「くっ、うっせーな。今日の飯も用意してんの誰だと思ってんだよ」
「まーそこは感謝してるけどさ」
「……だ、だろ? まあつっても麗ちゃんとかには敵わねーけど……俺だってやる時はやるんだぜ」
「池先輩はアウトドアが得意なんですね」
「ま、まあな! 七瀬ちゃんも遠慮なく食っていいぜ! 今日は大量で余っちまうくらいだからな!」
「なーにデレデレしてんだか。七瀬ちゃんもウザかったらウザいって言っていいからね」
「頼りにはなってるが実際調子に乗ってる時は若干そういうとこあるからな」
「健もうっせーぞ! おまえだって似たようなもんじゃねーか!」
──なーんて、少し離れた場所で賑やかな会話が聞こえてくる。
焚き火を複数のテントで取り囲んでいる。キャンプをしてるのは寛治くんたちのグループに私たちのグループ。それに七瀬ちゃんに綾小路くんという計4グループだ。
クイズの後でせっかくだから一緒にキャンプしないかって誘ってみたんだけどこういうのも悪くない。空気も良い感じだし、寛治くんが今日釣ってきた魚を分けてくれるしね。情報の交換もできるし良いこと尽くめだ。
「綾小路くんの調子はどう? ちゃんと得点稼げてる?」
「単独だからな。正直そこまで大量に得点を稼げてるわけじゃない。クイズも3位にすら入れなかったからな」
「あはは、あれは残念だったね。まあまた今度勉強会も兼ねて遊ぼっか」
「それだけで南雲に勝てるとは思えないけどな」
それはそう。私は近くにいた綾小路くんと適当な会話を行う。綾小路くんに俗世間のことを授業するのは楽しそうだけど時間がかかりそうだ。そもそもあんまり興味がなさそうだからね。興味がない学問を教えるのは難しい。綾小路くんくらいになれば学ぶスピード自体は早そうだけどさ。
「それで? 七瀬ちゃんもなーんか怪しいけどどういう関係? 一目惚れでもされた?」
「目的はよく分からない。オレが適切なルートを選べるから、とは言っていたが」
「七瀬ちゃんは天沢ちゃんや宝泉くんと同じグループだった筈だよね? なんで七瀬ちゃん単独なんだろうね?」
「揉めたとは言っていた」
ふーん。ますます怪しいね。面子からして綾小路くんの退学試験に関係してるし。普通に考えれば綾小路くんを退学させるために3人で何らかの目的を持って動いてると見るべきだ。
ただ宝泉くんは置いておくとして天沢ちゃんはなんか私にも勝負を挑んできてるし。それぞれ単独で動いてる状態では勝ち目も何もない。
ま、仮に3人で動いてようが無理だとは思うけどね。ただこうなってくると……やっぱりあの可能性が高いかな。用心しとこっと。
「お、ユキちゃん。ちょっとこっちおいでー」
「ん……って、綾小路くんまでいるんだ」
私が色々と頭の中で計算してると休みに来たのか焚き火から少し離れてきたユキちゃんが近づいてきたので声をかけて手招きする。それに気づいたユキちゃんが寄ってくるが綾小路くんを見つけて若干嫌そうだった。
「クラスの話し合いならオレは席を外すが」
「ううん。別にただの雑談だからいていいよ。で、ユキちゃんはどう? グループではうまくいってる?」
「はあ……思ったよりは、ね。篠原さんは普通だし、池くんは……まあグループの力にはなってるよ」
ふむふむ。さつきちゃんは思ったよりはウザくなくて接しやすいし、寛治くんは去年の夏休みに関わった時に比べれば成長しててマシになってると。ユキちゃんがこう言うってことは大丈夫そうだね。
「池はアウトドアには強いからな」
「……綾小路くんの言う通りだから生活面は問題ないよ。まあ課題に関しては……ちょっとアレっぽいけど。クイズは良かったけどね」
なるほどなるほど。綾小路くんがいるから言葉を謹んでるけど課題に関して寛治くんはクイズは上手くいったが基本の学力や身体能力系では役立つ感じはしないと。敢えて言葉にはしないけどさつきちゃんも同じかな。そうなってくると得点は心配にはなってくるけど……。
「じゃあユキちゃんは? 何か課題で良い順位取れた?」
「……一応『競争』と『化学テスト』で何とか3位は取れた。それとさっきの『クイズ』での2位。後は着順報酬が1回だけ2位。後は指定エリアを踏んでるだけで全然かな」
なるほどなるほど。ということは基本移動の到着ボーナスで21点。着順報酬で5点。課題で6点。今の得点は32点か。地図上に出た課題は全部確認して覚えてるからね。
そして思ったよりは悪くないね。普通にやってくれれば下位には沈まなそうかな。こうは言ってるけど寛治くんもアウトドア系の課題は取ってくれそうだし、なんだったら上位50%くらいに入ってもおかしくない。普通に生活出来ているだけでも基本移動をこなして得点は稼げるからね。詳しくは聞いてないけど綾小路くんよりも上かな。綾小路くんも頭の中で計算してそうだし指摘してみよ。
「へー、でも結構いいね。綾小路くんよりは稼いでそうだし」
「……そうなの?」
「まあそうだな。今の時点で26点だからオレよりも上だ」
あらら、あっさと得点言ってくれた。なるほどね。まだ本気を出してはないと。
いや、それとも調整中かな? 七瀬ちゃんも一緒にいるし、その気になれば課題で1位を取り続けて得点を稼げると考えると最初のスローペースは戦略の1つの可能性がある。
「……綾小路くんって数学でも満点取って足も速かったしもっと稼げそうなもんだけど」
「数学は得意なんだ。足にも自信はある。ただ取り柄はそんなところだ」
「へー……そうなんだ」
私が綾小路くんの戦略を頭の中で推測してるとユキちゃんからの遠回しな質問。それに対して綾小路くんの白々しい答え。そして更にユキちゃんは私からすごい人だって聞いてるから嘘だと理解した上での適当な返し。うーん、なんて不毛なやり取りだ。逆に面白いまであるね。しばらく黙って聞いてよっかな。
「それじゃ一之瀬さんとは?」
「一之瀬がどうかしたのか?」
「いや……うん。やっぱ無し。忘れてくれる?」
おっと。ここでユキちゃんからの鋭い質問が飛んだけどその質問自体が匂わせみたいになることに気付いたんだろう。自分で質問しといて忘れてと告げていた。あはは、噛み合ってなくて面白いね。帆波ちゃんは綾小路くんに惚れてるからねー。恋愛のこういう質問というか周囲の空気感って普通にバレやすいから。ちょっと鋭い子はすぐに気づく。誰が誰を好きとか誰と誰は付き合ってるみたいな話ね。
それも綾小路くんは例外だけどね。色んな意味で。そこも要観察かな。さて、そろそろ会話に交ざろっか。ユキちゃんの手助けをしてあげよう。
「そういえば綾小路くんは寛治くんとさつきちゃんのあれこれ知ってる? 最近良い雰囲気だよねー」
「ああ。何となくは聞いてる。南雲は前から池の相談に乗ってたんだったか」
「まあね。前から寛治くんとはゲーム友達だしさつきちゃんも春休みに遊んで仲良くなったからさ。友達同士が付き合うなんて良いことだよねー。どっちも気がないわけじゃないし」
「やっぱそうだったんだ」
「私の読みだとこの試験が終わった後くらいに付き合いそうかな。アウトドア活動で活き活きしてる寛治くんは頼りになるし見た目にも補正かかるだろうし。寛治くんからいくと思わせてさつきちゃんからって線もなくはないかな」
ということで恋バナを継続するけどその対象を寛治くんとさつきちゃんの方に切り替えてあげる。私の的確なアドバイスによってBクラスの小宮くんには可哀想なことをしたけどそれはしょうがない。恋愛で勝利できるのは1人だけ。その他大勢は全員負けることが決まっている。だからこそ面白いし興味深いんだけどね。
さて、せっかくだし親友のために私も質問しよう。
「綾小路くんも好きな人いたりする?」
「いや、どうだろうな」
まあそう答えるよね。綾小路くんは軽井沢恵ちゃんと付き合ってるけどそれを隠してるんだから。曖昧に逃げるしかないよね。前にも聞いたことだけどユキちゃんにまで教えたくはないだろうし。
「じゃあ七瀬ちゃんから告白されたら付き合ったりする?」
「難しいな。出来れば付き合う相手は自分が好きな相手がいい」
「ほうほう。綾小路くんは結構一途だねー。それなら好きなタイプは?」
「好きなタイプか……」
私がにやにやしながら下世話な高校生らしい質問をしてみると綾小路くんは少し間を取った。本当に考えているのだろう。実際興味はある。本当は綾小路くんはどんな異性が好きなのか。これから得られる答えとは別に本当の答えは何なんだろうね。異常者の綾小路くんならすっごい変な答えを出しそうだ。少なくとも軽井沢さんのことは全然好きじゃないだろうし。
「そうだな……月並みだが優しい……友達想いな娘がいいかもしれない」
「へぇ~! なるほどなるほど! いいねー!」
「ふーん……」
私とついでにそれを聞いたユキちゃんは綾小路くんの答えを聞いて満足する。ユキちゃんは普通にちょっと興味深そうだ。私の方は適当だけどね。
「すまない。こういう話は慣れてないんだ」
「あはは、気にしなくていいよ。むしろ答えてくれてありがと。楽しかったよ」
綾小路くんがおそらく本音っぽい答えを返してきたので私も笑ってお礼を言う。本当にね。私の求めてる答えをくれてありがたい。なので私はちょっと席を外すねと言って綾小路くんから離れる。そこでポケットに入れていたトランシーバーを改めて取り出した。
「──だってさ。チャンス、ありそうだね?」
『……困るよ麗ちゃん……そんなこと聞かされても。綾小路くんはもう付き合ってるんだし』
と、そうして話す相手は帆波ちゃんだ。実はさっきからずっと送信をONにし続けて会話内容を伝えていた。綾小路くんの好きなタイプもね。
「それはそうなんだけど聞いて損はなかったでしょ。前も言ったけどもしかしたらもあり得るしさ」
『……だとしても、その……今は試験中だし……どっちにしろ駄目だよ』
──だとしても、か。これは中々、思ったよりは揺らいでるね。付き合った相手が学年末試験で負けた恵ちゃんだったり、少しの差で想いを伝えられなかったことや私に後押しさせたことが関係してるかな。
とはいえまだまだ躊躇というか悩みが強そうだけどそれでも悪くない。試験中に帆波ちゃんを揺さぶるのは試験を無事にクリアする観点で言うとデメリットしかないけど、将来のクラスのことや帆波ちゃん自身のことを考えるならこれはこれでいい。
「──もちろん試験には集中した方がいいけどそれはそれとして親友の恋愛も大事だからね。帆波ちゃんは試験と恋、どっちもこなせるでしょ? 帆波ちゃんはプライベートな問題を理由に試験を疎かにするような悪い子じゃないもんね?」
『それは……』
「買いかぶりかな? それとも勿論試験に集中できる?」
私は帆波ちゃんの答えを先回りして尋ねる。するとトランシーバーの向こうからまた息を呑む気配が返ってきた。
『あはは……もう、ほんと意地悪なところがあるよね、麗ちゃんは』
「嫌だった? 嫌ならすぐにやめるよ」
『ううん。その、不思議だけど……麗ちゃんは私のために、私のことを考えてやってくれてることは分かるから。嫌ではないよ。ただ……ちょっと困ってるだけかな』
なるほどね。それは帆波ちゃんの正直な気持ちだろう。帆波ちゃんも中々に鋭い。そう、私は別に帆波ちゃんに嫌がらせをしてるわけじゃない。正真正銘、帆波ちゃんのために行動してる。それが何となく理解るんだろう。マイナスな感情は感じない。自分の気持ちや心が理解らない。定まらなくて困ってるんだろう。やっぱりまだ悩んでるんだね。帆波ちゃんの良い子な部分がまだまだ邪魔してるって感じだ。
ただ──この分だと私になれるのも時間の問題かな。
「ごめんね。恋バナはこれで終わりだよ。後はもう綾小路くんの話はしない。試験に集中しよっか」
『そっか……うん、分かったよ。明日からも一緒に頑張ろうね』
私が微笑と共に謝りながらそう言えば帆波ちゃんも頷いて切り替えようとしてくれる。心にしこりは残り続けるだろうけどね。それで多少の遅れが出る分は私がカバーすればいい。
──ほんと人を好きになるってのは恐ろしいよね。
私は友達の成長の兆しを感じて嬉しく思いつつ明日からの試験に向けて私も切り替えることにした。
無人島試験の3日目。オレは七瀬、そして途中までは南雲たちと共に一緒に移動しつつ指定エリアのH7ではなく一度J9に向かい、それから9時に指定されたJ5に向かい、その道中にあるJ6にあるビーチフラッグスの課題に参加しようとした。
だがその直前で3年生で生徒会副会長の桐山によって男子の参加を締め切られ、参加枠が空いてたのは女子の1枠だけ。それには七瀬が参加することになったのだが……。
「やっほー。綾小路くん、今朝振りだねー」
J6の浜辺。水際で遊んでいたと思われる人影が近づいてきて声を掛けてくる。
その相手は水着姿の南雲だった。赤のビキニタイプの水着でその中々に魅惑的かつ健康的な肢体を包んでいる。
「もしかして綾小路くんもビーチフラッグに参加するの?」
「いや、オレは残念だが参加できなかった」
「あー桐山先輩のせいか。私はギリギリで参加出来たけどあれやらしいよねー。ちょっと綾小路くんの代わりに文句言ってこよっか」
「いや、大丈夫だ。それよりも堀北や須藤たちはいないのか?」
「隣のI6に出た課題をやってる最中だからね。その隣のJ6にビーチフラッグの課題が出たからそっちに行ってるって伝えて単独でエントリーしに来たんだよ」
なるほど。森の中ならともかく浜辺なら別行動しても合流は容易い。距離も近いし一時的に単独で動いても問題ないだろう。こういうところが複数グループの強みだな。着順報酬を考えずにしっかり合流出来るなら単独で課題に挑んでも問題ない。
実際本来複数グループの七瀬も単独で行動しているしな。しかしそうなると……。
「あれ、南雲先輩も参加するんですか」
「おー七瀬ちゃんじゃん。それはこっちのセリフだよ。その水着可愛いねー」
「ありがとうございます。南雲先輩もすごく似合っています」
「ま、それは私だから当然だね。ミスコンだと私の圧勝とはいえ課題はビーチフラッグだし頑張ろうね!」
「はい。昨日は何も出来ず負けてしまいましたが今日は頑張らせていただきます」
やがて課題用に設置されていたテントから着替えを終えた七瀬が出てくる。
そしてその水着はまたしてもビキニタイプのものだった。南雲もそうだが、なぜスクール水着ではなくそっちのタイプを? さすがに疑問になって聞いてみる。
「確かに、その、何というか可愛い水着を選んだんだな。それに理由はあるのか?」
「理由ですか? テレビで見るビーチフラッグスってこういう水着でやってるイメージだったのでスクール水着で参加するのはおかしいのではって。南雲先輩も同じような水着を着ていますし……」
「あはは、大丈夫大丈夫。間違ってないよ七瀬ちゃん。テレビだと定番だしどっちにしろどうせ着るなら可愛い方がいいもんね」
「可愛いのはいいですよね」
……少しツッコミたくはなったが何も言うまい。南雲がそう言うならそうなんだろうということにしておこう。七瀬も可愛い方がいいという理由には同意しているしな。
「そんじゃまずみんなで男子を観戦しよっか。……良かったねー綾小路くん。七瀬ちゃんと南雲麗ちゃん。短い時間とはいえ両手に花なんてさ」
みんなで観戦しようと告げた後、七瀬にも聞こえないようからかうように南雲は囁いてくる。それに特に反応はせずに並んでビーチフラッグスを観戦した。
そして男子の部は桐山が1位を取って終了。次に女子の部が始まる。第一試合は七瀬が全く寄せ付けずに勝利して他の観戦していた女子を驚かせていた。
「ふーん。なるほどね~」
だがそんな中で南雲だけは興味深そうな笑みを浮かべて七瀬を観察していた。
七瀬のOAA上での身体能力は78のB+。対戦相手はC+だったためこの結果は順当なものに見える。
だがオレからはより差が大きいという意味でそうは見えないし南雲もおそらくそう思って七瀬の能力を測っているのだろう。
続く第2、第3試合では別の女子同士。第4試合で南雲の名前が呼ばれる。相手もまた3年生の徳永というB+の身体能力を持つ生徒だったが……。
「あの1年生は中々やるが南雲麗には及ばないだろう」
近くで試合を観戦していた桐山がそう口にするが、それも無理もない。第四試合で南雲は3年生の徳永に大きな差をつけて圧勝。
それもそのはず。南雲の身体能力はOAA上で95のA評価。A+一歩手前の数字であり、女子としては全学年合わせても2番目に高い数値だ。ちなみに1番は3年の鬼龍院。2年ではトップだ。
ゆえに普通に考えれば七瀬に勝機はないだろう。
ただそれでも決勝までは進めるだろうと予想していた通り、七瀬は次の2回戦も勝ち進んだ相手に勝利して決勝に進む。
そして南雲も同様に相手に大差をつけて決勝に進んだ。これで決勝は七瀬対南雲というカードになる。
「やっぱりやるねー七瀬ちゃーん」
「南雲先輩こそお強いですね」
互いに試合の準備のため砂浜に伏せながら互いを評価するが、さて……どうなるか。
南雲は昨年の体育祭で2年女子のトップの伊吹や堀北を優に上回る走力を持つ。その上、反射神経や肉体のポテンシャルに関してはオレも一度体験したことがある。それを考えれば南雲が優位と見るべきだが、七瀬もまた能力は高い。これは見ものだな。
「!」
そしてスタートの合図による銃声が鳴り響く。反射神経──スタートは南雲が先に身体を起こし走り出した。
だがその差は僅か。七瀬もすぐに駆け出す。その走力は南雲と同等に見える。
いや──南雲の方が速いか。その走力を南雲も感じ取ったのか、南雲が加速した。七瀬もそれに反応したが、肉体の純粋な能力で南雲が上回ってるのだろう。七瀬も懸命に走るも追いつけない。
「イエーイ! 麗ちゃんいっちばーん!」
そのまま差が覆ることはなく南雲が1位を取る。その笑顔は眩しいものだ。
ただ、七瀬もかなり速い。OAAで言えばA-やA評価を受けてもおかしくないような速さだった。その違和感は少し感じる。
「流石です。南雲先輩。追いつけませんでした」
「七瀬ちゃんも1年生にしては速かったね。それに……」
勝負が終わった後は互いを讃える。息を乱す七瀬に対して南雲はかなり体力があるのか全く息が乱れていなかった。
そして南雲は七瀬に手を貸しながらも、何を思ったのか視線を下の方に向ける。そして手を伸ばして──
「ひゃっ!?」
──七瀬の太ももを手で掴んだ。それにより七瀬がびっくりして可愛らしい声をあげる。そしてすぐに距離を取った。
「な、南雲先輩? 急に何をするんですか?」
「──うん。やっぱり良い足してるじゃん!」
「良い足してるって……えっと」
恥ずかしがり、少し困った、焦った反応を見せた七瀬に南雲は良い笑顔で七瀬の脚を褒める。その発言はさすがに先の勝負で見せた脚力のことだと思われるが……。
「急にごめんねー。ちょっと気になっただけだから気にしないで」
「……分かりました。それじゃ、先に着替えてきますね」
南雲が軽い謝罪をすると七瀬も受け入れるが、すぐに先に着替えてくると言って距離を取った。明らかに避けている。
そして反対に南雲の方はこっちに近づいてくるとオレに告げた。
「七瀬ちゃん、
「おめでとう。さすがに速かったな」
「どっちにしろね。やっぱり心配はいらなかったかな」
南雲は主語を口にせずにそんなことをオレに教えてくる。どうやら自分の中で納得がいったらしい。
「それじゃ私も着替えてくるね。向こうに雅兄がいるだろうから気をつけて。どうせちょっかいかけてくるよ」
南雲はそれだけ言うと着替え用のテントへ向かっていった。南雲が向けた指先を見れば確かに浅瀬に南雲雅の姿が見えたし、桐山の姿も近くにある。南雲は既に話したのだろうか。分からないが、オレは南雲と入れ替わるように戻ってきた七瀬と合流すると南雲雅とやり取りを行い、それからまた午後の指定エリアに向かうことにした。
──だがまさか3日目が終わり、4日目の早朝にあんな事件が起きるとはな。
……一先ず、連絡を取る必要があるな。
オレはその事件の報告を見届けてからやるべきことをまとめる。まずは南雲と堀北たちのグループとコンタクトを取る必要があるだろう──Dクラスの池とAクラスの姫野が何者かの襲撃……いや、事故でリタイアしたことをな。
無人島試験3日目を終えて私はリザルトを改めて頭の中で振り返る。
朝、綾小路くんや七瀬ちゃんの2人に、ユキちゃんのグループらと一緒にキャンプをし、みんなで和やかに朝食を食べてストレッチした後、私たちは最初の指定エリアI8に向かい、到着ボーナスの3点をゲット。それからは綾小路くんらとは別れた。午前9時に次の指定エリアでJ7が出たためすぐにそこに向かって同じく到着ボーナス3点に着順報酬の3位をゲットして3点。
その後に北のI6に出た2人参加の課題が出たためそちらに向かっている最中、同じくJ6でもビーチフラッグスの課題が出たため一旦鈴音ちゃんと須藤くんと別れた。浜辺に向かうと3年生の桐山先輩を中心としたグループがあったので軽く挨拶しつつビーチフラッグスに参加し、その後にやってきた綾小路くんに私の水着姿を見せつけ、七瀬ちゃんと競い合ったけど私の方が速かったので見事1位を獲得。報酬の水と6点をゲットした。
課題後は鈴音ちゃんと須藤くんと合流。課題で3点をゲットしたことを伝えられ、軽く昼食を携帯食で済ませてるとちょうど午後1時。次の指定エリアがJ6の浜辺のすぐ隣のI6だったためダッシュ。着順報酬1位を運良くゲットして10点と3点を獲得した。
で、移動がすぐに終わったため今度は課題を求めて北西に移動。次の指定エリアがランダムになることが分かってるため、課題を優先して『物理テスト』の課題に挑み、そこで鈴音ちゃんが1位を取ったので5点と報酬をゲット。
そして次の午後3時に指定エリアが告知されたけど──
「D2。ランダムだから覚悟してたけどやっぱ遠いね。ここはスルーかな」
「スルーするの? E3とF4の山間の道を通れば時間内に何とか辿り着けなくもなさそうだけれど……」
「まあ頑張ればいけないこともないかもね。でもここの地形はまだ分かってないし無理は禁物だよ。体力も温存したいしね」
「確かにここまで結構飛ばしてきたもんな。体力的にはまだまだいけるっちゃいけるけどよ」
「そ。だからここらで一旦休み。何せ本番は明日の朝だからね。ゆっくりD2の方に課題を探しながら進もうか」
「……そうね。異存はないわ」
というやり取りがあってD2の指定エリアはスルー前提でゆっくり進む。地形を確認しながら移動し、道中D4の北側で『肺活量測定』という面白い私のためにあるような課題が出たためそっちに参加。得られる得点が15と高いが1位にしか報酬がなく、肺活量という自分がどれくらいの能力を持っているか分かりにくい課題だったためか余裕を持って参加できた。
そしてそれで1位を取って15点獲得。その時点で午後5時直前だったためD2の指定エリアはやっぱりスルーしてその日は次の日の指定エリアに先にたどり着くことを避けるためにE4の山の麓ギリギリの森の中でキャンプを張って休んだ。
キャンプを張って夕飯を食べた後はトランシーバーで主だったグループの成績を確認。帆波ちゃんのグループは3日目が終わって73点。隆二くんは47点。私たちはここまでで135点だ。
つまり仮にこの時点で大グループを作った場合、得点が平均化されるが、3で割るわけではなく2回のグループ合流となるため82点となる。
実際は明日の得点も関わってくるため多少増える見込みだ。合流までもう少し稼げたら美味しいけどここは無理はしなくても構わない。重要なのは4日目の午前7時。そこから解放されるグループ人数の最大数を増やす報酬の課題を確実に取ることだ。『増員』の特殊カードを使った7人グループを作るためには1位を1回に3位を1回か2位を2回取る必要があるからね。
そのためには明日は若干無理をしてでも取る。そのことは事前に帆波ちゃんや隆二くんたち。そしてもちろん鈴音ちゃんや主だった生徒にも共有してあるし、それ以外の生徒でもこの課題は最優先で取るように伝えていた。他の学年やクラスに取られるくらいなら取った方がいい。上位を狙う以外でも下位グループを救うことにも使えるからね。
なので3日目は早めに休んで体力を温存し──4日目の朝を迎えた。
「それじゃ行くよ。指定エリアがどこであっても目的の課題を取りに行くからね。全力疾走で」
「理解しているわ」
「おう。体力は有り余ってるから大丈夫だ」
3日目に早めに休んだし元々体力はあるグループだから問題はなさそうだね。なので私たちは午前7時直後にタブレットを確認した。指定エリアよりも先に課題を確認していく。するとC4に課題が出た。内容は『リフティング』。エントリー1人。60分以内。30分間でのリフティング回数を競う。報酬1位5点、2位3点、3位1点。更にグループ人数の拡大を1位から──
「C4の課題の場所に来てね!」
「あ、おい!」
「ちょっと!」
「転けて怪我しないようにゆっくり来ていいよー!」
──そこまで素早く確認した時点で私は走り出す。参加人数が1人と分かった時点で他の2人を待つ必要はない。課題の場所は合流には最適。単独行動を躊躇う理由はない。背後から須藤くんと鈴音ちゃんの声が聞こえたけどそれも待たない。すぐに追いかけてくるだろうしね。
ただ追いつけるかな? 私は2人のことを考えずに足場の悪い森の中を素早く進んでいく。するとどんどん2人の気配は遠ざかっていった。これは別に私の脚力がめちゃくちゃ速いってわけじゃない。もちろん速いは速いけど須藤くんと比べて速いかと言うとそういうわけではない。幾ら私でも現役バリバリで運動能力が同年代トップクラスの須藤くんに脚力や筋肉で勝てはしない。
だけどそれは平坦な地形の話。この無人島の地形は複雑で普通に進むだけでも足場に気をつけないといけないしコケたら当然痛いし怪我もするかもだしロスする。体力も消耗する。無理して厳しい道を進むのは賢い選択じゃない。
ただそれも自身の運動能力と身のこなし。そして適切なルート選択次第だ。
私は体幹、バランス感覚にも自身があるし山や森の歩き方は以前、番組で山の達人やら元自衛官の方とかに教えてもらって学んだし、同様にパルクールも習得している。パルクールはどんな環境であっても自由に移動ができる技法だ。動画で見るような派手な動きも見応えはあるけどその本質はあくまで移動に対して最適な身のこなしを取るということ。ルートの選択も含めて森の中を走るのに私は全く問題はない。
後は課題地点のC4の池の近くまでの距離にして900メートルほどを走りきれるだけの体力があれば何の問題もない。スタミナにはかなり自信がある。そこまで厳しいルートでもないし森の中とはいえ10分もあればおそらくたどり着けるだろう。課題の参加は十分可能な範囲。そう判断して私は走った。
すると予定通り10分経たずして課題の地点に辿り着く。
「真嶋せんせー! エントリー希望でーす!」
「南雲か。早かったな」
「走ってきましたからねー」
C4の池の近くではCクラス担任の真嶋先生が待っていた。近くにはサッカーボールが複数。見たところまだ人はそんなに集まっていない。
ただ知ってる3年生の生徒がいたので挨拶をして課題の参加枠が埋まるのを休みながら待つ。さすがに森の中を結構な速度で走ってきたからちょっとは体力を消耗したかな。ただそれでも全然問題ないけどね。
「ん?」
そしてそれから待つこと数分。やって来た3年生の先輩が1人、私のことを見てすぐに引き返していった。この反応はひょっとしなくても……。
「──へえ、おまえもこの課題に挑むのか、麗」
3年生の先輩が引き返してから1分も経たない内に雅兄とそのグループがやってくる。なるほどね。雅兄も人数枠を拡大するためにここに来ちゃったか。
「やっほー雅兄。他の先輩方も」
「グループの最大人数の拡大。それが解放されてすぐにその課題にエントリーするとは運が良いな」
「そりゃ早ければ早い方が得だしね。運が良かったのは確かだけど」
「もう少し遅れてればこの課題は潰していたからな。鈴音に須藤だったか。おまえ以外のグループメンバーがいないところを見るに課題を確認してすぐに走ってきたようだな」
そう言って不敵に笑う雅兄の周囲にはどんどん3年生の他のグループが集まってくる。その中には桐山先輩もいたし3年生の主力生徒たちばかりだ。全てを潰すことはできないとはいえグループ枠の拡大は出来る限り雅兄も回収していくつもりなんだろう。
それくらいの戦略は当たり前に気づくことのためそのことを一々指摘はしない。代わりに確認してあげる。
「それで、雅兄もこの課題に参加するの?」
「……ああ、そうだな」
「雅?」
私がそう質問すると雅兄はほんの僅かに怯み、笑みを消す。その様子に隣にいたなずなちゃ先輩が訝しむ。雅兄のその感じは珍しいだろう。リフティング。サッカーは雅兄の得意スポーツだ。小学生の時からやっていたし、高校でも2年の夏までは部活にも参加していた。生徒会に入ってから部活にはほぼ参加していないとはいえその実力を私はよく知っている。うちのクラスでサッカー部の颯くんやDクラスの洋介くんと比べても上。
私が小学生の時にも雅兄に最初はサッカーを教えてもらった。それだけに、雅兄が躊躇う理由はどこにもない。
「いいぜ。俺も課題に参加する。そしておまえと競ってやるよ麗」
雅兄は数秒の間を取った後に再び不敵な笑みを浮かべて課題に参加することを私に表明する。真嶋先生に希望を伝えてエントリーを済ませるとすぐに他の3年生にも指示を出して参加枠を全て埋めてしまった。
「私以外全員3年生かー。こりゃ1位を勝ち取るのは大変そうだね」
「1位を取ればグループ枠を拡大して6人の大グループを作ることができる。2位や3位でもグループ人数を増やすことは出来るとはいえ有利になるのは間違いない」
「そうだね。どのみち7人グループは結成するけど大グループの結成は早ければ早い方がいい」
この課題でグループ枠を拡大してから他のグループと合流すれば少なくとも今日の午後からは指定エリアを踏んでの到着ボーナスで6点か7点は手に入る。3人で行動していた時の倍の得点が移動を続けるだけで手に入るのだ。
そしてその差は上位を狙うグループにとっては重要。高円寺くんみたいな存在には関係ないとはいえ、私と雅兄の争いには関わってくる。
すなわち──この課題に勝った方が追いかけられる側になるだろう。
それにはデメリットも存在するがメリットの方が大きい。2位でも2人増やせるため許容範囲だけど得点のことも1位を取るに越したことはない。
「ではこれより『リフティング』の課題を始める。時間は30分。回数の多い順に報酬が与えられる」
参加人数が埋まったため課題が始まることを真嶋先生が通達する。参加するのは6人。なお確実に計測するために専用のスタッフが数人付く。真嶋先生も手動のカウンターを手にして私の方を見た。どうやら私の計測は先生がやってくれるみたいだね。ちょっとだけ安心だ。
だけどそんな中、雅兄は真嶋先生に質問を投げかけた。
「真嶋先生。質問いいですか? ボールが意図しない方向に転がって別の生徒やボールに当たってリフティングが失敗した場合はどうなりますか?」
「……相手の身体に自身の身体やボールをぶつけるなどの意図的な妨害は認められない。だが
どのようなことが起きてもリフティングが失敗した場合、記録はそこまでとなる。そして意図的に妨害を行った者にはペナルティを与える」
「なるほど。ありがとうございます」
なるほど。意図的じゃないようならオッケーってことで意図的でも多少のペナルティを受けるだけで済むってことね。
「回数でまだ良かったぜ。まずないとは思ってたがリフティングしてる時間の勝負になるとおまえのでかい胸を使われて勝負にならなかったからな」
「うっわード酷いセクハラ。兄じゃなきゃ訴えてるところだね」
「意図的な妨害も禁止されてる。まあいい勝負をしようぜ」
そんな白々しいことを告げて雅兄は距離を取る。無駄にセクハラもされたけど実際ボールを胸に乗せるだけなら簡単なんだよねー。胸が大きい女の子にだけ許された裏技も今回はあんまり意味はないと。
まあでもそんなことをする必要はない。私は普通にやるだけだ。ちゃんと学んだ方法でね。
そして数秒後。真嶋先生の合図で『リフティング』の課題がスタートし、参加者は一斉にリフティングを始めた。
私もまた同じようにリフティングを始める。リフティングはボールの中心を捉えるのがコツだ。ボールを回転させると意図しない浮き方をしてしまう可能性もあるため出来るだけ避ける。そしてあまり力を入れずに柔軟に。回数を稼ぐためにボールはあまり浮かせず、テンポ良く蹴り続けて回数を稼ぐ。
ただ慣れていないものがやってすぐに出来ることじゃない。足でボールをコントロールするというのはそれだけ難しい。普通の人は数回やれれば御の字だろう。
だけど私も含めて雅兄やそれ以外の参加者も中々脱落しない。雅兄は言わずもがなサッカーをやっていたからだけど、他もサッカー経験者や身体能力の高い生徒で占められてるからね。数回数十回程度じゃボールを落とすことはない。
「っと」
だけどまあ意図的なら話は別だ。参加者の1人が、ボールを少し前方に飛ばしすぎて追いつくために走る羽目になる。すると無理な体勢でボールを蹴ることになり、ボールは意図しない方向に飛ぶ──たとえば私の方にね。
ただどうしても意図的じゃないように見せかけるにはコントロールは上手くいかない。私の少し横にずれてボールは転がっていった。一応飛んできた時のために用意はしてたから問題はないんだけどさ。
しかしこの分だと全員に失敗する時はこっちの方に飛ばせって雅兄から指示が出てるんだろう。偶然を装いはするけど意図的と判断されても良いって感じでね。真嶋先生も私の方にボールが飛んできたことで少し顔が険しくなるが意図的だと絶対に立証できるような飛び方ではなかったし、接触はしてないのでスルーするしかない。
「やるな。サッカーは久し振りのはずだろ?」
「雅兄こそ3年に上がってから全然やってないはずなのに上手いねー」
「俺は今までの蓄積があるからな。それに遊びだがたまに友人と遊んだり部活に顔を出したりはしてる」
互いにリフティングを続けながら軽く雅兄とやり取りを行う。さすがに相手の回数は数えてないから分からないけど回数は互角くらいかな。
他の参加者は私と雅兄ほど上手くはないためリフティング自体は続いていても回数は稼げていない。これは早くも私と雅兄の一騎打ちかな。初めから理解っていたことではあるけど。
「うっ」
「おっと」
「おい! 何をしている!?」
「す、すみません! 足が滑って思わず……」
「そうは見えなかった。今のは意図的な妨害とみなす。よってペナルティを与える」
と、リフティングを大人しく続けてると今度はまた別の3年生が私の方にボールを蹴ってきた。私はそれを横にズレて回避する。ボールがぶつかることもリフティングが失敗することはなかったが見かねた真嶋先生がボールを蹴った3年生に注意し、タブレットを操作した。へーこれは面白いね。課題での不正は即リタイアってわけでもないらしい。そもそも不正できる課題も少なそうだけど。多分だけど得点が引かれたりしたかな。得点が下がるとそれはそれで退学に近づくことになるから重いっちゃ重いけど。
でもどうせ妨害に使う生徒の得点はそもそもそれ用に調整されたものだろうし雅兄には痛くも痒くもないだろうね。
「人の妹を妨害しようとするとは嫌な奴がいたもんだ。悪かったな。後で俺が言い聞かせておく」
「白々しい謝罪をどうもありがとーございますお優しいおにいさまー」
その妨害行動を指示しながら白々しすぎる謝罪を行ってきた雅兄に私は棒読みでお礼を返す。さっすがは雅兄。なんでもやってくるなー。その気になれば不正だって気にしないし手駒の数が多い上に人の動かし方も上手だ。
ただこれで2人脱落して残りは4人。妨害という手が使えるのも後2回だ。
そして私の予想通り、その後も偶発的を装って妨害は飛んできたけどそれにも限界がある。躱すことは難しいことじゃないからね。
問題があるとすればその回避のロスで若干回数では負けてそうってところかな?
ただそれでも私に出来ることは回数をひたすら稼ぎ続けること。時間はまだ20分以上ある。回数を稼ぐために私はリフティングをただただ続ける。
──そしてそれからまた更に10分以上が経過した。残りは7分くらいかな。いつの間にか鈴音ちゃんと須藤くんも辿り着いて観戦している。
「本当に覚えがいいな、お前は」
ボールに視線を落としながら雅兄は私に話しかけてくる。私もまた同じように視線はボールに集中しながら会話に応えた。
「私もサッカーはやってたんだからそりゃあね」
「おまえを最初にサッカーに誘ったのは俺だったな」
「最初は全然出来なかったけどね」
「本当に最初だけだがな。俺がリフティングを見せてやるとお前は次の日には同じようにボールを自在に操っていた」
「良いお手本が近くにあったから覚えやすかったよ」
そうだったね。小さい頃、スポーツ万能な雅兄に誘われてサッカーも含めて色んなことをやったし、その多くを雅兄を先生として学ばせてもらった。
「そう……昔からおまえは優秀だった。俺も大概なんでも器用にこなすと言われていたし実際何でもこなしたが……おまえの学習速度の速さは俺以上だった」
雅兄はそこで初めて私に対して、その能力が上であることを認める。今までは雅兄は自分の方が上だというスタンスを崩してこなかった。
だけどそれを見てこなかったのだろう。雅兄自身のプライドや問題。そして私自身の問題。それらの要素が向き合うことを難しくさせてしまった。
「俺はおまえと競うことはしてこなかったが……一度やると決めた以上、容赦はしない。どんな手を使おうが俺は勝つ。そして俺の方が上だということを証明する」
雅兄は自分自身に言い聞かせるようにその決意を口にする。あえて曖昧にしていた答えを得ようとしている。
本当に自分は優秀な存在なのか。
それとも敵がいなかっただけの裸の王様だったのか。
雅兄は私や綾小路くんといった相手に対して挑むことで答えを知ろうとしていた。
それに対して思うところはある。家族としての情もある。
だが何よりも私自身のために、あくまでも目的のために私は雅兄の挑戦を受けてあげることを決めた。
そしてそう決めた以上は雅兄と同じで容赦はしない。慈悲も与えない。そんなことをしても雅兄のためにはならない。
「リフティングでは俺が勝つだろうがこんなものはただのお遊びだ。元より俺が優位の勝負。これで勝ったところで証明にはならないからな」
「それはどうだろうね?」
「何だと?」
だから私はふと笑って雅兄に問い返す。
確かにリフティングはお遊びだけど、雅兄の中の私はこんなお遊びですら雅兄を上回る存在だった。少なくとも昔は。
ならそのファンが求めている偶像に私はなるだけだ。最強のアイドルとしてね。
「真嶋先生。ちゃんと計測しててくださいねー」
「む、計測はもちろん正確に行っている。心配する必要はない」
そっかそっか。ならもうちょっと速くやろっか。
残り5分。追いつくには十分な時間と判断して私はリフティングの体勢を変える。ボールをきちんと浮かせたまま、私は地面に背中を付けてボールを蹴る。そして足裏でボールを蹴ってリフティングを続けた。
「なっ……」
「雅兄も動画とかで見たことあるよね。プロとかがこういう感じでやってる動画。ああいうのも私結構好きなんだよねー」
私が体勢を変えてリフティングを行い始めたことに雅兄は驚く。周囲もどよめいていた。
寝転がって足裏を使ってリフティングを行う。こういった曲芸は当然だが難易度も高い。
だけど足裏のリフティングは素早く回数を稼ぐのに最適だ。肩なんかも悪くないけど一応足で行うことにした。事前に真嶋先生に聞いたけど足を使うようにって言われたからね。
そしてこのやり方は以前、実際にプロがやってるところを見てちょっとコツを教えてもらった。番組内でちょっと聞いただけだけど私には十分。後は動画でも見ながらちょっとやってみるだけ。そう……こういう小手先の技術は大得意だからね。
もはや雅兄に余裕はない。懸命にリフティングを続ける。私と血を分けた兄というだけあって30分間ひたすらリフティングを続けられるだけさすがだよね。
「そこまでだ」
だけど勝つのは私。
それが多くの人が求める南雲麗ちゃんだから。
「1位は……南雲麗」
カウントを見比べて順位を真嶋先生が発表する。1位は私で2位は雅兄。3位は別の3年生の生徒だった。
「んっ……さすがに疲れたー!」
ふぅ、と息を吐いて私は地面に倒れて伸びをする。こういう正直な振る舞いも私は絵になる。誰もが私に注目して1位を取った私を尊敬や畏怖の籠もった視線で見つめるのだ。
「うおー! やったな南雲!」
「驚いた……あなた、そういうことも出来るのね」
「昔興味が出て練習したことがあったからねー。いえーい」
「まさか雅が負けるなんて……」
観戦していた須藤くんや鈴音ちゃんが近寄って私のことを称えてくれたのでVサインで応えておく。
3年生は雅兄が負けたことに驚愕していた。なずなちゃ先輩も純粋に驚いてる。
そして雅兄は……地面に転がったボールを無視して下を向いていた。
その心境を私は理解する。兄妹だからね。雅兄のことも私はよく理解っている。
「そうか……やっぱそうだったか」
「雅?」
雅兄は息をつき、何か納得したように今度は視線を上に向ける。そして遠くを見つめていた。
だけどそれも少しの間。声をかけるなずなちゃ先輩や3年生を無視し、雅兄は地面に背中をつける私の方に歩いてくる。そして視線を私に向けて静かに話しかけてきた。
「やっぱりおまえは優秀だな、麗」
「雅兄。今回は私の勝ちだね」
「ああ。ただのお遊びだと思っていたが……負けてみると存外くるものがあるな」
「雅兄がそうなってるのはただリフティングで負けたことだけじゃないでしょ?」
私は雅兄の内面を理解してそう指摘する。雅兄はそれを聞いて鼻を鳴らした。
「おまえは基本可愛い妹だがそういう部分は可愛くないな。俺のことを俺以上に理解してやがる」
「雅兄だって私のことは理解ってるでしょ?」
「他の有象無象よりはな。だが、おまえほどじゃない」
可愛くないと言われて反論したくもなるがそう言いたくなる気持ちは理解るのであえてそこは言及しない。雅兄は私の実力をしっかり理解してくれてる。リフティングというお遊びでしかない競い合いでそれを改めて思い知ってしまった。
「だが試験ではまだおまえが勝ったわけじゃない」
「そうだね。ここで勝っても有利なのは多分雅兄の方だよ」
3年生全体を支配している雅兄と私じゃ手駒の数は違う。この課題で勝っても後半戦で勝てると決まったわけじゃない。雅兄はまだ負けを認めてはいない。
「1つ聞くが綾小路や高円寺もおまえと同じくらい強いのか?」
「それは他人に答えを求めた質問じゃないよね。だから答えないでおくよ」
「はっ……本当に可愛くない妹だ」
雅兄はそこで吐き捨てるように言うと背を向けて歩き出す。それを追いかけるようの他の3年生も付いていくが、雅兄のそっけない態度はまだしばらく変わらなそうだった。
「さて、これでグループ人数は6人まで解放できたし帆波ちゃんや隆二くんたちと合流しての大グループ結成を目指そうか」
「指定エリアはどうするのかしら。次もまた無視すればペナルティで得点が引かれることになるわ」
「一応踏めたら踏むけどそれよりもグループの結成の方が大事だからそっち最優先だね」
「柴田んとこと合流か……得点ペースまだ上がりそうだな」
リフティングの課題が終わって午前8時頃。私たちは指定エリアのE1に向かうことはせずに小休止を兼ねた作戦会議を行っていた。
現時点での私たちの得点は140点。ランキングで見ると得点は1位だったけど2位に雅兄のグループ。3位に桐山先輩のグループがある。高円寺くんの名前も入ってた。
ただこれから一時的に下がるけどね。大グループを組んで得点の平均化を行うからさ。
昨日の時点で帆波ちゃんたちの位置はD6。隆二くんはF8にキャンプを張ったらしい。
となるとD5の池の辺りで合流するかかな。もしくは次の指定エリアとか課題次第。とにかく一度連絡を取って確認した方がいいね。もしかしたらどっちかもグループ人数の最大数を増やすことに成功してるかもだし。それだとまた面白い手も取れないこともない。
──それから私は帆波ちゃんたちに連絡を取り、帆波ちゃんたちの指定エリアだったB6地点の砂浜で合流を目指すことにした。隆二くんには若干負担をかけるけどまあ問題ないだろう。
そして道中少し寄り道して課題で1位を取って6点を得たが、指定エリアを3回スルーすることは決まってるので1点喪失して145点。それからB6の浜辺で帆波ちゃんや隆二くんを待つことにしたが、先に帆波ちゃんたちが先に待っていた。
「麗ちゃーん! こっちこっちー!」
「お待たせー! トランシーバーでも伝えたけどグループ人数、無事増やしたよ―!」
「俺たちも1位取って増やしたぜ。これで7人グループが組めるな」
「7人……相当な大所帯ですね。今のうちに自分の分のお肉と松ぼっくりは確保しておくとしましょう」
「藍ちゃんは食べ物隠さないでねー。松ぼっくりは好きにすればいいけど……まさかとは思うけどずっとこんな感じ?」
「あはは……でも結構面白くて疲れてる時も楽しいよ」
いや、私や帆波ちゃんはともかく普通は疲れてる時に藍ちゃんの突拍子もない行動に付き合わされたらイラッときそうなものだけど……颯くんも苦笑いで済んでるし問題はなさそうだね。Aクラスが良い子ばっかりで助かった。でもここからは須藤くん……は良いとしても鈴音ちゃんもいるからちょっとは自重──
「堀北鈴音。ちょっと奇声をあげてみませんか?」
「……あなた何を言っているの?」
「まあ聞いてください。俗説ですが夏と海。そして女子高生という組み合わせは普段は隠された本性を明らかにするそうです」
「……開放的になって普段よりも活発になりやすい、ということかしら」
「その通りです。そして私たちはこれからグループを組み一緒に行動することになります。ですが互いに違うクラス。特に仲良くもない者同士での行動には一抹の不安があることは否定できないですよね?」
「まあ……そうね。だけどそれと奇声をあげることに何の関係があるのか全く理解出来ないわ」
「親しくなるには互いに秘密を共有したりするのが良いそうです。つまり、堀北鈴音が普段は絶対にしないであろう夏の海で奇声をあげるという行動。それを私がこっそり目撃することで親密度を深めようという意図があります」
「……南雲さんや一之瀬さんたちも聞いていると思うのだけど」
「同じグループなので問題ありません。さあ、奇声を」
「……他の生徒も砂浜にちらほら見えるのだけど」
「他人が奇声をあげようと興味は持たないでしょうから問題ありません。さあ、奇声を」
「……そもそも私が一方的に奇声をあげても私はあなたと仲良くなれたとは思わないわ。その理屈だとあなたも同じように奇声をあげないといけないと思うのだけど」
「それは違います。私は遺憾ながら奇声をあげても不思議ではないキャラをしている……と何故か他人に思われていますから」
「そこは客観視出来てんだな……」
「客観視ではないですが周囲の評価はこの柴田颯のように知っています。知的かつユーモアに満ちた私が奇声をあげたところで渾身のギャグを披露したと思われるだけでしょう。なのでこの役目は堀北鈴音にしか務まりません。さあ、奇声を」
「──あげないわよ」
「でしたら無難に握手ならどうでしょう?」
「それなら構わないわ。ようやく理解できる提案が──」
「そして代わりに私が渾身の一発ギャグを披露します。堀北鈴音はここまでのようにツッコミを入れてください。同じ舞台に立てば友達を通り越して相方です。その様をグループの皆に見てもらうことで契約といきましょう。コンビ名はひらがなで『ほりきた』でどうでしょう。美味しいふりかけみたいで売れそうですね」
「──南雲さん。提案なのだけど一之瀬さんのグループを加えるのはやめてもらえないかしら。コミュニケーション能力に著しく不安を感じるわ」
うん、自重出来ないね。諦めよう。さすがは藍ちゃん。鈴音ちゃんにすらペースを崩さない。雰囲気だけは似てるのに……雰囲気だけは。
「冗談です。私と似た雰囲気を持つ堀北鈴音がグループに入るということで同じクールビューティとして並んでみたかっただけなので。すごく絵になると思いませんか?」
「頭痛がしてきたわ……」
はいはい。藍ちゃんそろそろセーブしてねー。慣れてない人にいきなり藍ちゃんの変人ムーブは刺激が強いから。でも能力は結構高いから諦めてね、鈴音ちゃん。
「麗ちゃん、どうするの? 先にグループを組んでおく?」
「いや隆二くんを待つよ。せっかくだしこのままここでお昼ご飯にしよっか。ちょっとした親睦会だね」
「それはいいね。堀北さんに須藤くんもそれでいいかな?」
「ええ、構わないけど私は森下さんとは別行動させてもらっていいかしら」
「俺も構わないぜ」
「よっし須藤。それなら一緒に釣り行こうぜー」
「おう、いいぜ柴田。こう見えて俺は初日でも釣りで……」
帆波ちゃんにこのままグループを組んでおくかと問われたので隆二くんを待つと伝えてそのままここで昼食を取ることにする。課題も近くにはないからね。休憩と息抜きを取るのも大事だ。
そして須藤くんは颯くんに誘われて釣りに向かった。体育祭で同じ組で練習した時から地味に互いを評価しあってるからね。ノリ的にも体育会系で合うだろう。
「それじゃ私たちはこのまま水着でも着て遊ぼっか?」
「え、麗ちゃん水着持ってるの?」
「4着だけね。一着は元々私が買ったもので後の3着は課題の報酬で水着セットがあったから貰っといたんだよ」
「そんな報酬もあるんだね……わかった、少しだけならいいよ。堀北さんはどうする?」
「遠慮するわ」
「それなら堀北鈴音は私と砂のアートを作るとしましょう。私の芸術魂が疼きます」
「一瞬だけど初めて南雲さんと一緒に遊びたいと思ったわ。いえ、どっちも遠慮させてもらうけど」
「それじゃ遊ばなくてもいいから水着着る?」
「仕方ないですね。気は進みませんがグループの親睦を深めるため南雲麗の提案に乗りましょう」
「それはどちらかと言えば私の台詞よ。あなたはノリノリだったじゃない……!」
とうとう鈴音ちゃんのツッコミにキレが入り始めた。さすがは藍ちゃんだ。残りの無人島生活も楽しくなりそうだなー。
ということで隆二くんを待つ間、浜辺で遊びつつ小休止。結局鈴音ちゃんは水着を着なかったけど一応私たちに合わせて浜辺で昼食の用意を始めた。私たちも普通に手伝ってね。うんうん、こういうのもいいよねー。
そして待つことしばらく。ちょうど正午前になったところで浜辺に隆二くんの姿も見えた。
「すまない。待たせた」
「隆二くん、ちょうどいいところに! ご飯出来てるよー!」
「……さすがは南雲。楽しそうだな」
「よう神崎! お前もこれ食えよ! 結構いけるぜ!」
「須藤も元気そうだな。どうやらグループ同士、不和が起こることはなさそうだ」
「あはは、まあそうだね」
鈴音ちゃんと藍ちゃんはちょっと不安だけどね。でも問題はないと帆波ちゃんと一緒に隆二くんに頷く。隆二くんはここまで単独で行動していただけあってそれなりに絞られているようだったがそれでもバテている様子がないのは去年の夏からの肉体改造のおかげだろう。OAAでの身体能力はA-だったけどこの試験でAに上がったりするかな。
私が隆二くんの能力を改めて評価しつつ隆二くんにもお昼ご飯を振る舞い、それから報告。これから大グループを組むにあたって私の考えをみんなに話した。
「なら早速グループを組むか?」
「組むよー。でも誘うのはまず私から隆二くん。そして最後は帆波ちゃんからにしてね」
「え、どうして?」
「テーブル的にね。帆波ちゃんの方がライバル少なそうで楽そうだから」
私はこの4日間で集めた情報からそう指示を出す。説明をしてからね。
「無人島の指定エリアに関係する12テーブルはこの腕時計で管理される。グループを合流する際には引き入れたい側からメインリンクを起動させ、合流したいグループはペアリンクを起動させて合流する。この仕組みから考えるにグループが合流した場合、テーブルに関してはメインリンク側、引き入れた側に統一されるだろうからね」
船で特別試験の説明を受けた際にこれに関してはすぐに思いついた。地味だけど同テーブルに強力なライバルがいないテーブルに移動するのはグループ合流を行う際にちょっとだけ有利になる。
「隆二くんは同じテーブルに1年生の主力グループがいたんだよね?」
「ああ。おかげで着順報酬や課題に関して何度か先を越されてしまった」
「そう。まあそもそも隆二くんから引き入れられないけどね。そして私たちのテーブルには3年生の先輩でちょっぴり手強いグループもあった」
というか桐山先輩なんだけどね。雅兄と一緒に行動してるからあんまり行動が被ることはなかったけど情報では間違いない。
私はポケットのトランシーバーを撫でながら更に続ける。
「だけど帆波ちゃんのグループは特に目立ったライバルもいないみたいだし、おまけに午前9時の指定エリアもB5。確か今日の最初はランダム指定のB7だったんだよね?」
「うん。グループ枠拡大の課題を取るためにスルーしちゃったけどね」
「なるほど。では次の指定エリアはこの近辺に出ることになる。無駄な体力の消耗を避けられますね」
「そういうこと。だから結構余裕あったんだよねー」
「……一応ここで遊び呆ける論理的な理由はあったのね」
「っぱさすがは南雲だよなー」
ま、そういうことだ。別に遊ぶ必要もなかったけどどうせ待つなら。そしてどうせ次の移動はすぐ近くに出るから多少は緩んだって構わない。頑張るのはこの後からでいいからね。ガス抜きのタイミングをしっかり考えるのもリーダーとしての務めだ。
「だからその順番でグループ組むよー」
「理解した。なら頼む」
「オッケー。メインリンク起動ー」
まずは私から隆二くんを誘う。私たちの得点は145点で隆二くんは74点だ。
機能を起動してから腕時計を10秒ほど合わせればリンク完了の合図が鳴り響く。タブレットを確認してみれば隆二くんが追加され、得点は110点と表示されていた。平均化としか言われてないからさすがに小数点切り上げだね。
「それじゃ帆波ちゃん」
「うん、準備出来てるよ」
4人グループになってるとはいえ『増員』カードを須藤くんが所持してるため実質3人グループ。なので帆波ちゃんのグループに普通に入ることができる。
そうして同じように、しかし今度はペアリンクをこっちが起動して腕時計をくっつけてみれば同じ用に音が出た。そしてタブレットを確認。こっちは110点。帆波ちゃんは93点。平均化して102点となった
これで晴れて7人の大グループが結成。指定エリアを踏むだけで7点が手に入るというかなりのアドバンテージを得た。
「これで後は得点を稼ぐだけだな」
「そうだね。みんな頼りにしてるよー」
「みんな頑張ろうね」
「おう! 頑張ろうぜ柴田!」
「ああ、須藤! 体力系は俺たちに任せてくれ!」
「お笑い系は私と堀北鈴音に任せてください」
「もし仮にそんな課題が出たとしても絶対出ないわ」
いやー実際出たら迷うところだけどね。
ただ能力的にはこれがAクラスとDクラスのやれる限りの最強グループだろう。綾小路くんや高円寺くんを除けばね。須藤くんに颯くんの身体能力の2学年トップの2人。藍ちゃんは学力が高めで意外性◯。隆二くんは体力もかなりあるし勉強もできる。帆波ちゃんは学力の学年トップクラスで体力はそこそこだけど足を引っ張らない程度はあるし、鈴音ちゃんは勉強に運動もトップクラス。
そして最強のアイドルでリーダーの私。これなら大抵の課題で表彰台を取ることができる。不安があるとすれば大人数で移動することによる着順報酬が取れないことだけどそこは捨ててもいい。元より運の要素も高いし、人数を増やせばそこのデメリットはどうしたって出る。それよりもメリットの方が大きいから問題ない。
「それじゃ出発しようか。もう指定エリア出るよー」
その後、午後1時の指定エリアを確認。場所はB4。推測通り指定エリアは帆波ちゃんのテーブルに切り替わった。
私たちはすぐに移動を開始して着順報酬2位で5点。最初だしこれは運が良かった。そして到着ボーナスの7点ゲット。これだけで12点得られて114点となった。
そこからはしばらく課題を回り、午後3時には指定エリアのA5に移動してまた7点をゲット。そして再び周辺の課題に挑む。
結果、基本移動で14点。着順報酬で5点。課題を全部合わせて20点を得た私たちの得点は141点。4日目終了時点でのランキングは1位で僅かだけど雅兄のグループを上回ってる。
……だけど問題は明日、そして明後日からなんだよなー。明日は課題を頑張らないとね。
夕食を終えて思い思いに過ごしてるみんなから少し離れて考えをまとめる。GPS機能が解放される明後日からは色々と本格化しそうなのが今の懸念事項だ。
だが次の日──私はその報告を耳にすることになる。
「ユキちゃんと寛治くんがリタイアした?」
『ああ。その件で少し話したい。今時間はあるか?』
「……分かった。ちょっと話そっか」
トランシーバー越しに綾小路くんの声を聞いて私は目を細める。……事故じゃない、か。仕掛けてきたのかな?
私は綾小路くんからの話を聞きながらある存在を思う。とりあえず、2年生は退学させないし友達を傷つけた人は許さないかな。
今回はここまで。こっからは物騒なことが多いのでお楽しみに。
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