無人島試験5日目。
アイドルは友達も知り合いも多い。だからグループを組むなんてお茶の子さいさいだし、グループを取りまとめるのも難しいことじゃない。
昨日から帆波ちゃんと隆二くんのグループと合流して7人のグループを作り行動を始めたが今のところ問題は起きていない。今日の指定エリアは午前7時にB4。午前9時にC3。午後1時にランダム指定のF7で午後3時はF8だった。
ランダム指定のF7は少し遠かったし、みんなの体力を考慮して一旦スルーしたけど他はしっかり踏んで21点。着順ボーナスも一度2位を取って5点をゲット。更に学力系と身体能力系の課題に2つ挑み、学力系は帆波ちゃんと鈴音ちゃんが。身体能力系は須藤くんと颯くんが挑んでどっちも1位を獲得。合わせて11点をゲットした。
つまり合計得点は178点。昨日から解放されたランキングで確認してみれば1位だ。
ちなみに2位は雅兄のグループで160点。3位は高円寺くんの153点。4位は桐山先輩のグループで148点。5位は龍園くんのグループ122点。6位は有栖ちゃんのグループ121点。7位は溝江先輩グループ119点。8位は落合先輩グループ118点。9位は1年生の宇都宮陸くんのグループの103点。10位は洋介くんのグループの100点。
こうしてみると上位10グループは割と予想通りだ。龍園くんと有栖ちゃんがかなり追い上げてきてたり洋介くんたちがなんだかんだ頑張ってたりとみんなの努力が見れて面白い。
しかし問題なのは下位の5グループ。その中にはまだユキちゃんのグループは入っていないが……ユキちゃんと池くんの2人がリタイアしてしまった。
私はそれを5日目の午後。須藤くんと颯くんが課題に挑んでいる最中に耳にした。トランシーバーから哲也くんからの連絡が入り、それを介して綾小路くんから事故のあらましも合わせて。
「なら誰が襲ったかも誰かがいたのかも分からないってことだね」
『篠原先輩がリタイアしたくないための嘘という方向で処理されています』
まだ一緒に行動しているんだろう。七瀬ちゃんの声もトランシーバーからは聞こえる。どうやら七瀬ちゃんも現場にいたみたいだね。
そして綾小路くんと一緒に行動していたということは少なくとも実行犯は七瀬ちゃんじゃないか。
まあ犯人の第一候補は1年生──と簡単に言えたら楽なんだけどね。実際は分からない。今ここで綾小路くんと七瀬ちゃんの状況報告を聞いただけで事件の犯人が分かるなら苦労しないんだよね。
私が持つ情報や現在の背景。状況証拠から考えて生徒Aの可能性が高い、までは言えてもそれ以外の生徒。2年生や3年生の可能性もあるし教師やスタッフの可能性だってあり得る。情報が足りないし、理解が足りてない。
また決めつけて動くのも危険なこと。だから怪しい相手に注意することは出来てもそれ以上はまだ出来ない。
ただ対処は必要。そのために綾小路くんは私に連絡したんだろう。こうやってDクラスリーダーの鈴音ちゃんもいることだしね。
「事件の詳細も気になるけれど……今考えるべきは篠原さんたちのことよ。退学だけは絶対に避ける必要がある」
「そうだね。このまま私たちが1位になってもクラス内から退学者を出したら意味がないわけだし」
綾小路くんに事件の詳細を口にしてもらうために私は近くにいた鈴音ちゃんを呼んで一緒にやり取りを行っていた。
その鈴音ちゃんは顎に手を当てて険しい顔をしてる。どうやら事件のことよりもさつきちゃんたちの退学を避けるために動くこと。そっちを重く見てるようだしそれは全く間違ってない。まず考えるのはそっちだ。私も合わせて思考を回しながら発言する。
「とりあえず洋介くん辺りに連絡を取って合流を目指してもらうべきかな」
「そうね……グループ枠拡大の報酬を得ているかを確認して相談してみるべきね」
洋介くんの順位は10位。中々頑張ってはいるけれど3位以内を入れるかというと事前の推測通り難しいだろう。下位グループの救済のために使うというのは適切な対処だ。
だけどそれだけじゃまだ足りない。起きたことに対する対処は難しくない。重要なのはこれから起きるであろう敵が起こす手に対して対策を取ることだ。
「それで、綾小路くんは他にどういう手を考えてるのかな?」
私がそう言えば綾小路くんは少し間をおいてから七瀬ちゃんに少し距離を取るように告げた。2年生の戦略の話になるからね。それはしょうがない。というか私は七瀬ちゃんも全然信用してないし。是非目の前で顔を拝んで質問してみたいところだ。
ただそれは出来ないので一旦綾小路くんの話を聞く。
『──2年生全体で動く』
「どういうこと?」
『これから先、1年生が2年生を下位に沈めるために動く可能性が高い。それを防ぐためにこちらも手を組んで幾つかのグループを動かす。1年が協力して動くならこちらも同程度の駒を用意する必要があるからな』
「……1年生が、ね。3年生の方は大丈夫なのかしら?」
『そうなったとしても2年が協力しているなら出来る手も多い』
一緒に聞いてる鈴音ちゃんの疑問に答える形で綾小路くんは説明した。なるほどなるほど。やっぱり綾小路くんも1年生がきな臭いって考えてるんだね。
そして退学試験のことも含めて1年生の事情を少なからず知ってる私としてもその考えは一致する。鈴音ちゃんも1年生って部分に異論を挟むことはない。3年生も確かに注意する必要はあるけどそっちは問題ない。
「なるほどねー。なら3年生の方は私に任せてよ。それと龍園くんとの交渉は任せてもらおうかな」
「龍園くん……2年生で協力するというなら確かに彼にも話をつける必要があるけれど……それと坂柳さんも」
「まー向こうにメリットがないから協力してくれるかは交渉次第だね。有栖ちゃんも私が交渉してもいいけどー……綾小路くんに任せた方が上手くいくかな?」
鈴音ちゃんが心配するようにこの作戦を実行するなら話をつけるのは私たちだけじゃなくて龍園くんと有栖ちゃんも必要だ。自クラスの生徒がピンチなわけじゃないからメリットが少ないから協力を取り付けるなら色々とカードが必要ではある。
ただ龍園くんは問題ない。どちらかといえば問題は有栖ちゃんの方だ。有栖ちゃんはちょっと余裕がないかもだからね。交渉するのも出来るけど成功率は綾小路くんの方が高いだろう。
そもそもその方が……まあこれはいいか。綾小路くんに任せよっと。
『そうだな。オレの方から坂柳には話してみる』
「そっか。ならお願いねー。──ああ、そうだ。最後に1ついいかな?」
『なんだ?』
私は最後に1つ、綾小路くんに質問する。ちゃんと笑顔でね。
「ユキちゃんと……寛治くんもかな。2人の怪我の状態も詳しく教えてくれないかな?」
『……分かった』
それだけ聞ければ十分かな。さーて、ここからが大変だ。まずは帆波ちゃんたちにも状況を説明しつつ明日からに備えようかな。
それから帆波ちゃんたちにもユキちゃんたちがリタイアしたため、2年生で協力する方針を伝えた後、5日目は就寝。6日目の早朝からまた動き始めることにした。
だけど6日目からはまた状況が変わる。何しろ……GPSサーチの機能が解放されるからね。
「寛治や篠原の奴……大丈夫かよ……」
「姫野も心配だが……一先ず退学だけは避けられるはずだ」
「GPSサーチで探せば問題ないでしょう。友人を心配するのは分かりますが私たちは試験に集中すべきでしょう。私もツッコミ役候補の姫野ユキのことは心配ですが今は考えすぎないようにします」
「お、おう……まあでもそりゃそうだな。それで順位が下がるようならあいつらも気に病むだろうしな」
私たちの最初の指定エリアであるG8への移動を済ませ、近くにあった課題に向かっている最中にも私たちはユキちゃんたちのことを話題にしている。須藤くんや隆二くんたちも皆心配している。
まあ気になるのも理解出来るけどね。ただそろそろ自分たちの心配もした方がいいかもしれない。課題も──ほら、やっぱりね。
「すみません! 課題の受付を──」
「課題の参加枠は2分ほど前に埋まった。少し遅かったな」
「うわーマジかよ。せっかく来たのになー」
私たちが目的の課題の場所に到着したところで颯くんが課題の受付をしようとしたが、そこにいたスタッフが課題の枠が埋まっていることを通達し、颯くんは残念がる。
「む……これは……」
「どうかしましたか、神崎隆二」
「いや……3年生の先輩方ばかりだと思ってな」
「ほう。神崎隆二は3年生の生徒の顔を全て覚えているのですが?」
「さすがに全員は怪しいが……生徒会に入ってから3年生と関わることも増えたからな」
「なるほど。では一之瀬帆波や南雲麗なら全員覚えていそうですね」
「あ、うん。確かに課題を受けているのは全員3年生の先輩だね」
隆二くんが疑念に感じたのを見かねて藍ちゃんが質問した。その質問に帆波ちゃんが答えるが、その通り。課題を受けているのは3年生ばかり。
それもその人選はよく覚えのあるものだった。その半分はOAAの身体能力B以上の生徒だったし。
「雅兄が手駒を動かしたみたいだね」
「手駒? 生徒会長が動いたというの?」
「そう。3年生全体を動かして上位グループをマークし始めたね。──ほら」
鈴音ちゃんに応えるように私は自身のタブレットを操作し、GPSサーチを行う。得点を1消費することで無人島にいる全生徒の居場所を特定することのできる6日目になってから解放された機能だ。
地図上に幾つもの点が現れる。そうして見えてくる全グループと生徒の位置。それらを読み取ってみると雅兄が手駒を動かしたのが見えてくる。
「私たちの周りに3年生のグループが幾つか見えるね」
「そう。つまり雅兄が私たちが受けようとする課題を先回りして埋めようとしてるんだね」
「……なるほど。現在1位につけている俺たちを追い落とすためか」
「私たちと高円寺くんもかな。他はまだスルーでいいって判断にしてるみたい」
GPSサーチで見えてくるのは私たちの周囲に複数の3年生のグループが集まっていること。
同じように高円寺くんの周囲にも3年生のグループが集まっていること。
そして雅兄の周囲にも同じように3年生のグループが固まってるが、こちらはもっと距離が近い。これは雅兄が課題を独占しつつ確実に1位を取るためのサポートだね。4日目にも見たような感じだ。
「数に物を言わせて……かなり大掛かりな戦略ね。効果的なのは認めるしかないけれど」
「マジかよ……それじゃ課題を受けようとしても先回りされて無駄ってことか?」
「そうとは限らないけどね。課題の参加人数や出現場所。3年生のグループの位置によっては普通に拾えるだろうし」
「今先輩たちが課題に参加してる内に移動するって手もあるね」
そう。帆波ちゃんの言うように、例えば課題を埋めたならその課題に参加してる間、その先輩たちは時間を拘束されることになる。その間に私たちが動けばそれだけ距離は離れるし、仮に私たちが別の課題に挑んでも邪魔することはできない。
もちろん邪魔をしているのは1つや2つのグループ程度じゃないためこれから別の課題の位置に移動して受けれる可能性は低い。そもそも3年生以外も他の2年生や1年生もいる。そもそも課題の競争率は高いからね。
「こうなると指定エリアの移動を確実に行う方がいいかもしれないな」
「課題に参加するために移動すればそれだけ体力を消耗しちゃうってことだね……」
「一之瀬帆波が懸念するように、私や一之瀬帆波は脳筋グリーン柴田颯や脳筋レッド須藤健ら脳筋戦隊ノウキンジャーと違ってそれほど体力があるわけではありませんし」
「脳筋……い、いやまあお前らに比べたらしゃーねぇけどよ」
「あー……悪い須藤。森下はいつもこうなんだよ。悪気はないと思うから許してやってくれ」
「ノノノ、ノノノノウキンジャ~。上げろ、上げろノウキンジャ~」
「テーマソングか……?」
「む……やはり柴田颯ではツッコミがイマイチですね。ここに姫野ユキがいないのが惜しまれます。姫野ユキは叫ぶタイプのツッコミではありませんがあの良い感じのボヤキツッコミは中々出せるものではありません。やはりここは私のシン・相方候補の堀北鈴音にツッコミを入れてもらうしか……」
「これからは何が起きても指摘しないように気をつけるわ。それよりも話を戻しましょう。3年生の妨害行動にどう対策を打つか。それを考えるべきね」
うんうん。鈴音ちゃんも1日で藍ちゃんの扱いに慣れてきたね。確かにその通りだ。藍ちゃんのユーモアで空気も少しほぐれたし、私もそろそろ発言しようか。オープニングテーマをどうもありがとね藍ちゃん。歌詞の上げろの意味は多分バーベルとかそういうものなんだと私は理解してるよ。
「やれることはそんなに多くはないかなー。こっちから雅兄を妨害するとかして得点ペースを下げるとかも出来なくはないけど……まだこっちはそこまでやれる余裕はないからね。私たちで3年生を気合いで振り切るのが今やれることかな」
「南雲麗もノウキンジャーでしたか」
「ピンクならいいよ。実際指定エリアを確実に踏みつつ、取れる課題は取っていく。それが今できる最善策だよ」
藍ちゃんに応えつつ私がわざとらしくやれやれって感じで説明すればみんな渋い顔になる。みんなも考えてるけど良い手が浮かばないんだろうね。それも仕方ない。雅兄の数に物を言わせた戦い方は今回の試験だとシンプルに強い。戦いは数だって言うように純粋な物量差にはどんな名将、猛将でも苦戦させられる。
希望があるとすれば時間が経てばまた状況は変わってくるってところだ。つまりやるべきは籠城。時間稼ぎかな。取れる得点を稼ぎながら粘り続ける。嫌がらせを行ったり、計略もやるけど基本戦略はそれ。
「でも安心していいよみんな。確かに一見厳しく見えるけど何とかするから」
私は自信満々に。何の心配もいらないという笑みで皆を安心させるように言う。すると顔を見合わせながらも僅かにみんなが安心したであろうことを私は読み取り理解した。
「何とかって……どうするつもり?」
「ふふん。私だよ? 普通に動くにしても、私より上手に人を動かすことが出来る人はいない」
「具体的な方策を私は聞いているのだけど」
「これから今まで以上に私の指示に従って動いてくれればいいよ。走ってって言えば走って。休んでって言われたら休む。私に従って集団行動をきちんと取ればそれだけで着実に得点は重ねられるからさ」
今まで通りね。私は鈴音ちゃんにも笑顔でそう言ってあげると鈴音ちゃんがちょっと怯んだ。んー? 私のこの自信にちょっと怪訝さと不気味さ、そして純粋に気圧されたかな? まあでも正解。ここからはちょっと集中しないと。かなり脳のリソースを使うからね。
「悪いけどここからはGPSサーチもちょいちょい使っていくよ。ああ、でもちゃんとプラスにはするから安心して」
そして私は地図を開く。同時にさっきのGPSサーチの結果も頭の中で思い浮かべる。その上で歩きながら課題と人の場所を計算した。
私たちのグループで1番足が遅く、体力もないのは帆波ちゃんか藍ちゃんのどちらか。ただ帆波ちゃんは球技とかスポーツはド下手くそだけど体力自体はジムにも通ってるからOAAで言うところのBくらいはある。藍ちゃんはちょっと不安もあるけど……まあそこは様子を見ながらだ。全員の体力管理も大事だね。ちゃーんとリーダーシップ発揮しないと。
「とりあえず山登り。指定エリアH7に向かうよー」
「……わかったわ。南雲さん、今はあなたの判断を信頼することにする。だけど何かあればその都度口を挟ませてもらうわ」
「もちろん。同じグループなんだからそこは全然遠慮しなくていいよ」
意見を封殺したいわけじゃないので鈴音ちゃんの提案には快く頷く。まあ聞くかどうかは別問題だけどね。大丈夫。ちゃんと納得させてあげるからね。
私は皆を先導して指定エリアに向かう。山登りの時は無理なルートを選択しないように安全に向かう。帆波ちゃんとか地味にドジなところもあるから怪我なんてしちゃったら大変だし。そういうところも可愛くていいんだけどさ。
そして山を越えてH7を踏めば、7点に着順ボーナスも1位。帆波ちゃんのテーブルにしたことでライバルが少ないのが良いことかな。課題を妨害するのは他のテーブルのグループでも出来るけど着順ボーナスを阻止しようとするなら同じテーブルの生徒にやらせるしかない。
もしかしたら私がしたようにこっちのテーブルに合わせるようにして生徒を合流させてくる可能性もあるけどそんなに気にしなくていい。こっちのグループの総合力の方が確実に上だからね。普通に指定エリアを踏み続けるだけでも負担をかけることはできる。
「みんな頑張ったねー。小休止していいよー。課題が出たらそっちに向かうからそのつもりでね」
私は山の上でグループに号令をかけて休ませる。当たり前だけど山登りは通常の移動より体力を消耗する。迂回するよりも時短は出来るにせよ体力消費も考えた上で選択しないといけない。迂回するか突き進むか。普段の移動でも考えていることだ。無人島試験はこういうところも大事だよね。リーダーはそういう部分も試される。
「周囲に3年生の姿はないようだ」
「GPSでも少し離れてるね。まああえて山を登る必要はないし」
辺りを見渡す隆二くんに話しかけられたためタブレットを見ながら答える。実際、課題を阻止するなら私たちを中心にして周囲を衛星のように付いて回るのがいい。H7エリアに入ったけどあえて付いてこないのはその麓で待ちつつ、反対側のグループに連絡を取ってるのかもしれない。
バスケットとかで言うならゾーンディフェンス。自分の担当エリアに入ってきたら、それを阻止する。雅兄か桐山先輩のどちらかがトランシーバーを使って3年生の普段は普通に試験に挑んでるグループに連絡し、こちらが受けるであろう課題に出来るだけ参加するように指示を送ったりする。
私が事前に把握してる3年生の5つのフリーグループがマンツーマンのディフェンスを担当して他の3年生はゾーンディフェンス。そうして2年生や1年生の上位グループを封殺しようとしているのだろう。やっぱり雅兄はかなり本気だね。かなりのリソースを使ってる。
まあだからこそ粘るのが有効なんだけどね。どこまで耐えれるかな。試験の最後まで耐えれるといいけど。
「おっ」
「? どうかしたのか?」
「課題が出た。しかも結構近いし……内容も面白いね」
私が地図とにらめっこしているとぴこんと地図上に課題が出たので確認する。場所はH7の山を少し下ったところ。課題内容はなんと『将棋』だ。学年末試験の種目でも私が採用させた私の得意なゲームの1つ。参加人数は4人で10分切れ負けの一対一のトーナメント。1位には10点と幾つかの報酬から選択。2位には5点と報酬だが、3位と4位には何も与えられない。
山の上で課題内容も渋いし報酬も3位と4位に何もないという渋さ。これに参加しようとする生徒は少ないだろう。3年生のグループとも距離がある。これなら受けれるね。よし、行こうか。
「はーいみんな集合ー! この『将棋』の課題受けに行くからゆっくりでいいからいくよー!」
「わかった」
手を叩いて号令。そして早速歩き出す。
たださっきと比べたら私だけは少し先行。課題に間に合わせるためにひょいひょい移動して向かった。3年生や他の生徒よりも先に辿り着けそうだね。それにほぼ確実に1位を取れそうだ。
まあ懸念点があるとすれば──
「おや、南雲さん、ですか……」
「お、真田くんたちじゃん。真澄ちゃんに鬼頭くんもやっほー!」
「……坂柳。南雲がいる。どうするの?」
私は課題の地点に辿り着く。そして受付を済ませるとそれとほぼ同時に別のグループがやってきた。
それは2年のCクラス。有栖ちゃんのクラスでグループだ。メンバーは有栖ちゃん、真澄ちゃんに真田康生くんという眼鏡で長身の秀才くんのグループでCクラスの主力だ。
それに鬼頭くんが増えてることから4人グループになったんだね。人数を増やしたのかな。
ちなみに有栖ちゃんは今回、半リタイアという形で参加してる。スタート地点から課題に参加することが認められてるわけだね。着順報酬も貰えるが到着ボーナスは有栖ちゃんを除いた分しか貰えない。可哀想に。無人島というフィールドは有栖ちゃんには向いてないね。
『どうも麗さん。お久しぶりですね』
そして真澄ちゃんが私を見てトランシーバーから声を届ける。すると有栖ちゃんが私に挨拶をしてきた。なので私も挨拶を返すことにする。
「久し振りー! 有栖ちゃん! 調子どう? 暑くない? 日射病には注意しなよー?」
『ちゃんと傘の下でこまめな水分補給を行っているので問題ありませんよ。麗さんの方は順調のようで』
「1位だからねー。じゃんじゃん得点を稼がせてもらってるよ」
『Dクラスと組んで表彰台を確実に狙う戦略。有用ですがDクラスをよく説得出来ましたね。また何か弱みでも使ったんですか?』
「普通に交渉しただけだよー。有栖ちゃんこそ龍園くんと組めば良かったのに。そしたら多少はいい勝負出来たかもね」
『単独クラスでも表彰台を狙うことは十分可能ですよ。龍園くんも同じように考えたのでしょう。他のクラスを出し抜く絶好の好機ですからね』
私と有栖ちゃんの会話はいつだって舌戦染みている。でも嫌いじゃない。むしろ楽しい。私も有栖ちゃん。それに龍園くんとかもそうだけどこうやってバチバチしてるのが普段と違って刺激的で楽しいって感覚があるんだよね。
だから貴重な相手ではあるんだけど……悲しいかな。有栖ちゃんはともかく、有栖ちゃんのクラスの方は結構虫の息なんだよね。
Cクラス。そう、もうCクラスだ。
そしてこの無人島試験が終わった時、Dクラスになる。私と鈴音ちゃんのグループが現時点で1位。高円寺くんも上位にいることでリーチがかかってる。
入学当初AクラスだったクラスがDクラスになった時の精神的な負担は凄まじいことになる。元Aクラスなだけあって賢い彼らは見切りをつけたっておかしくない。すなわち──私に下るという道を考えることになる。
そうなれば有栖ちゃんがどれだけ頑張ってもじわじわと追い詰められる。有栖ちゃん自身が完全に死ぬことはなくてもクラスでの戦いはずっと不利。前に私が言ったように、このアドバンテージをずっと保ち続けるだけで私が負けることはない。
……ただ今回の試験では協力してもらわないと困るし、この課題に関してはちょっと面白いよね。
『さて、それでは私も課題にエントリーすることにしましょうか。真澄さん、お願いします』
「……いいの?」
『勿論。麗さんと競い合える絶好の機会です。以前は躱されてしまいましたが今度はその手は使えないでしょうし』
そうして有栖ちゃんは真澄ちゃんを通じて課題にエントリーする。有栖ちゃんの得意とするチェスではないけど、将棋で私と戦うために。
だから面白い。ここはちょっと、久し振りに本気出そうかな。
「あっはっは。なるほどなるほど。有栖ちゃんやるねー。私が参加してると知って挑んでくるなんてさ。前に言わなかったっけ? 私、将棋の方が得意だって」
『だからこそ、試してみたくなったんです。確かに私はチェスの方が得意ですがチェスとそのルールも駒の動きも似ています。これならいい勝負になるかと』
「あくまで上からなんてさっすがCクラスの有栖ちゃん。でもそういうところも好きだよ」
『時間は10分切れ負けですか。ではかなりの早指しが要求されますね』
「有栖ちゃんは私についてこられるかなー。楽しみだね」
やがて課題のエントリーが締め切られる。残りは1年生のグループ。もう1つは後から追いついてきた3年生のグループだ。課題に参加させられてしまったが、1位や2位を取らせなければ得点は防げるからね。だからこそ優秀な駒を送り込んできたか。
「桐山先輩。よろしくお願いしますねー!」
「……ああ。よろしく頼む」
やって来たのは私と同じ生徒会の副会長にして雅兄に次ぐ3年生の司令塔の桐山先輩。課題で私を止めるならもう桐山先輩しかいないってことだね。
その判断は潔いというか、中途半端な戦力を送り込んでこなかったのは評価するけど……ごめんねー。桐山先輩。桐山先輩のことは嫌いじゃないけど、全然足りてないなぁ。
「どうぞー。桐山先輩。先手は差し上げますのでお好きに指してください」
「……あまり俺のことを舐めないでもらおうか。これでも将棋には自信がある」
「理解していますよ。ですからどうぞ。本気の桐山先輩を倒したいですからね」
あくまで礼儀正しく。嫌味ったらしくなりすぎない程度に、しかし好戦的に先手を譲る。桐山先輩は優秀なのでしっかり下に見られてることに気づいて目つきを鋭くした。雅兄には従っても、妹である私のことはまだ完全に認めきれていない。
なので課題の最初の相手である桐山先輩との将棋の対局を私は開始する。どうぞよろしくお願いします。有栖ちゃん戦前のウォーミングアップにさせてもらおうかな。
「っ……く……」
──そして対局が始まって3分ほど。それで既に桐山先輩は苦しそうだった。私はさっさと急戦。駒組みを終える前に相手陣地に駒を送り込んでどんどん攻める。受けてあげても良かったんだけど短い時間の将棋だとこの方が圧倒的に有利だ。受けるのはどうしたって難しい。受けまくって悩ませて勝つっていう方法もあるんだけどあんまり時間を使いたくない。この課題すら早く終わらせた方が次の他の課題や指定エリア移動に有利になるからだ。
「……負けました」
「はーい。ありがとうございました。桐山先輩、定石に縛られすぎない方がいいですよ」
「……やはりおまえは……南雲の妹だな」
「その評価は桐山先輩的には賛辞なのは理解ってますけど私的にはあんまりですね」
そして更に3分後。あっさりと詰みが見えてきたところで桐山先輩はサレンダー。最後にアドバイスを送っておく。すると桐山先輩は悔しそうにして席を立った。そしてすぐに他のグループのメンバーと共に離れていく。順位を上げるために次の課題の場所にでも向かうのだろう。頑張ってねー。
『さすがですね』
「有栖ちゃん、見てたんだってか見えてるんだ」
『課題を受けるに当たってタブレットで映像を送受信することを認めてもらいました』
「なるほどね」
どうやら有栖ちゃんは真澄ちゃんのタブレットで将棋盤を映し、指示を出して真澄ちゃんが指すらしい。ふーん……。
『それにしても……麗さんはかなりの攻め将棋ですね。以前の綾小路くんとの対局でも思いましたが』
「あれ、見たの?」
『綾小路くんにお願いして棋譜を再現して確認させてもらいました。昨年に私と対局した時は全然本気を出していなかったことも分かりました』
まあそれはそうなんだよね。私はかなり攻めるし、攻めの方が得意だ。受けもできるし上手だけど、相手の意表を突いて翻弄してあげるのが好み。
それにしても私のデータをしっかり集めてたんだ。それは手強いね。評価できる。
『それではよろしくお願いします』
有栖ちゃんは相手の1年生との対局を開始する。そしてすぐに終わりましたとさ。ちゃんちゃん。まあそこらの生徒じゃ勝てないよね。しょうがない。元気出せー。敵は取ってあげるからね。
「それじゃ決勝戦、始めようか」
『ええ。麗さんには煮え湯を呑まされてしまいましたし、ここはやり返させてもらいますよ』
「出来たらいいねー」
そして決勝戦。私たちは互いに煽り合って対局を開始する。今度はちゃんと振り駒で先手を決める。ありがたいことに私が先手だった。なので早速角道を空けておく。
『さて、また急戦ですか?』
「どうだろうね? 一旦普通に囲い作ろうかな?」
『どちらでも構いませんよ。麗さんに合わせます』
そして1手数秒と経たずに私たちは指し合う。私は可愛い笑みを浮かべながら、頭の中は冷静に1手1手駒を打っていった。やるのはまず綾小路くんにも使った途中までの矢倉。そこから急戦を仕掛けるのがよくやる手の1つだけど、私は敢えてそこで違う手を使う。
『おや、普通に矢倉を組みますか』
「せっかくの対局だしじっくりやろうと思ってね」
『なるほど……』
有栖ちゃんは私が普通に矢倉を組んだのを見て僅かに考えるような声色となる。だけどすぐに真澄ちゃんに指示を出した。あれ、気づいちゃったかな? でもそれですらもう遅いんじゃない?
『──そういうことですか』
「何か理解った?」
『意地が悪いですね、麗さんは』
「可愛いでしょ? さーて、有栖ちゃんの時間は残り7分か。──7分で私を詰ませられるかな?」
私はふっとほんの少しだけ挑戦的に。1手1秒もかからずに手を指す。
互いの持ち時間。そこには既に1分くらいの差がある。有栖ちゃんと私の思考速度は同程度。だけど、有栖ちゃんは真澄ちゃんを介して打つ必要がある。
つまりはリモートだ。私は私が思考して自分の手で直接指して私でチェスクロックを叩く。
でも有栖ちゃんは映像を介して私の手を見てから真澄ちゃんに伝える。真澄ちゃんがそれを聞いてから指してチェスクロックを叩く。その分のラグが存在する。
時間が切れた後に60秒以内に打てば負けないなんて長時間の対局の時に用いるルールはない。学年末試験で使用されたものと同じ。時間はそのまま進む。少し特殊なタイプだ。
つまり、この時間内に私が有栖ちゃんより先に時間切れになることはない。有栖ちゃんの時間が無くなるまで耐えるだけ。それだけであっさりと私が勝つことができる。
「こうして喋ってる時間もなかったんじゃない? ほら、早く打たないと終わっちゃうよ?」
『ええ。なのでここからは集中させて頂きます。真澄さん──』
私の煽りなんて聞かず、有栖ちゃんは狙いに気付いた時点から真剣な声色で真澄ちゃんに自分の手をすぐに伝える。それを真澄ちゃんが聞いて打って時間を止めるまでに短くても3秒くらいかかる。将棋特有の5六歩みたいな指示も若干癖もあるしね。画面に出るタイプじゃないから余計に難しい。
それでも真澄ちゃんはよく頑張ってる方だ。有栖ちゃんよりも真澄ちゃんの方が苦しそうだ。有栖ちゃんの指示を聞いて頑張って出来る限り早く打って早く時間を止めることを意識してる。涙ぐましい努力だ。
ただそれでもどうしたって私の方が速い。私は打って止めるまで1秒。早指しでやっている。
有栖ちゃんが頑張って攻めてくるのを私は受けて捌く。時折こっちから攻めたりもするし、悩ませる手を打ったりもする。基本は受けてもそうやって緩急をつけることが長引かせるコツだ。
しかしまあ……。
「有栖ちゃんもよく頑張るねー。その頭脳だけは確かに天才だと思うよ」
私からの賛辞に有栖ちゃんは応じない。
有栖ちゃんの実力は申し分ない。頭は良いし勉強も当然できる。教室の中の話なら天才。綾小路くんほどじゃないにしてもその実力は認めてる。
だけど私は相手の弱点をあえて突かないなんてそんな優しいことはしない。対等のステージに立っていると認めてあげてるからこそ、弱点があるなら徹底的に突かせてもらう。
先の学年末試験での整ったリモート環境でもない。そもそも私は普通に現地で対局してて有栖ちゃんだけ人に伝えるタイプのリモート。──これで勝負になるわけがない。
この無人島試験じゃ有栖ちゃんじゃ私には勝てない。だって他の能力で劣ってるから。
私と本気で対等の勝負で決着を付けたいならこの山の上まで自分の足で昇ってきて挑んでこないとね。じゃないと勝負にもならない。
まーそれでも普通の学力テストなんかだとさすがに対等だけど。
将棋をリモートで人を介して行うって時点で私に負けはなかった。
綾小路くんとのあれこれもあるし、ここはちゃちゃっと勝っておこう。
「あと3分~」
私は可愛くて綺麗な聞きやすい声で時間を読んであげる。
その間にも有栖ちゃんは懸命に真澄ちゃんに伝えている。真澄ちゃんも早指しを頑張ってる。
「あと2分~」
ほらほら、まだ詰まないよ? さすがに強いとは思うけどこっちは盤面での勝ちなんて見ていない。有栖ちゃんに身体能力以外の欠点があるとすれば盤面以外を疎かにしてることかな。
「あと1分~、59秒~」
さーて1分切った。もうあとがない。1手3秒……まあ2秒で指せるとしても30手も指せない。
そして私が見た限り、30手以内の詰みはない。つまり、時間と手数でいうならもう詰みだ。なので私はまた受ける手を──
「…………」
「南雲?」
私の背後で観戦していた隆二くんが訝しむように名前を呼ぶ。応答はしないが、そう言いたくなる気持ちは理解る。何しろ私の手が止まったからだ。時間には余裕があるが、着実に時間が進む。有栖ちゃんが唐突に指してきた何気ない手は、私が思考を費やすのに十分な1手だった。
そう……読み間違えれば一気にこちらが詰んでしまうほどに。それほどに強力な、こちらの隙を突いて一気に攻め崩す1手。
そして時間的にもギリギリだった。読み間違えれば、32手ほどで詰む。真澄ちゃんが頑張れば勝てなくもない時間。
だからこそ……私は笑った。称賛を込めて。
「あっはっは。有栖ちゃーん」
『……何でしょうか? 時間、進んでいますよ?』
「まだまだ余裕あるから大丈夫だよ。いや、ちょっと有栖ちゃんを褒めてあげたくてね。まさかこんなに読みが深いなんて。それと、最初からこんな罠を張るために待ち構えてたなんてさ」
心から私は有栖ちゃんを評価する。そう、有栖ちゃんは強い。やっぱり、ことボードゲームでは今の私よりも強い。今の私よりもほんの僅かに、だけど。
「普通に勝負してたらどうなるか分からなかったね。それか……私が綾小路くんや有栖ちゃんと出会う前だったなら負けてたかも」
『麗さんも成長しているということでしょうか』
「そりゃあね。ここは学校なんだから成長しないといる意味がないよ」
そう、だけどだ。
ここで気づいてしまった時点で私の負けはない。あとは同じ。粘ってしまえばいい。
私は有栖ちゃんの罠を躱す1手を指す。これでもうどうしようもない。
『気づかれてしまいましたか』
「指さないの?」
『指示を伝えても間に合いませんからね』
30秒を切って更に時間がゆっくりと平等に進む。
有栖ちゃんは真澄ちゃんに指示を伝えることもせず、普段通りに私とやり取りを行う。既にこの課題での敗北を受け入れていた。
『おめでとうございます。麗さん。あなたの作戦勝ちです』
「作戦勝ち、ね。いつになったら有栖ちゃんは私に作戦で勝てるのかな?」
『安心してください。近い内に必ず。あなたを踊らせてあげます』
「残念。私はアイドルだからダンスは得意分野だよ。人に踊らされることはないかな」
有栖ちゃんの時間が切れて有栖ちゃんの敗北が決まる。
これで1位。10点に報酬を得る。有栖ちゃんのグループも2位の5点と報酬を得る。
『行きましょうか、皆さん』
「坂柳、ごめん。私が足を引っ張った」
『気にしないでください、真澄さん。それよりも次の課題に向かいましょう』
「……わかった」
そうして有栖ちゃんの指示を受けて真澄ちゃんたちは去っていった。普段通りの冷たい表情……に見えて何か思うところがありそうな真澄ちゃんの表情が印象的だった。
「私たちも報酬を受け取って行こうか」
「……ええ」
私と有栖ちゃんの勝負を見て鈴音ちゃんや帆波ちゃんたちは何を思ったか。それもまた興味深いよね。
とりあえず報酬はお肉のセットを貰うことにした。今夜は豪勢な食事が取れそうだね。7人の大所帯だから水や食料は幾らでも欲しい。
将棋の課題で有栖ちゃんに作戦勝ちした後、私たちはその後1つも課題を受けずに指定エリアの移動を優先。午後1時にランダム指定のE6は地図で見ると近いように見えるけどもう一度山を越えないといけなかったのでゆっくり移動してスルー。それでも近づいて午後3時の指定エリアE7も皆の体力や状況を優先してスルーして休憩。道中でGPSサーチを3回ほど使ったので3点消費。合計で198点で6日目を終えた。
だけど17時を過ぎてから今日最後のイベントが訪れた。私たちのキャンプ地D7の川辺から少し離れた地点で私は隆二くんを連れてある人物と会っていた。
「よう麗。使えねぇ神崎も一緒か」
「龍園……!」
その相手とは龍園くん。先に他の生徒に指示を出して伝言しておいた。ついでにトランシーバーも渡してね。
そして出会うなり龍園くんは挑発。隆二くんが龍園くんを睨みつける。
だけどそれを見かねたのは龍園くんの隣にいる葛城くんだった。
「無用な挑発はやめておけ、龍園」
「ああ? こんなのは挨拶だ。挑発でも何でもねえ」
「おまえがそうでも神崎の方はそうは思わない。こんな場所でいさかいを起こすつもりか?」
「分かってねぇな。こんな場所だからやりがいがあんだろ。だよな? 麗」
まあ去年はそういうこともあったね。今年もありそうだけど。
そしてだからこそ龍園くんにも協力してもらいたいのだ。だから早速私は用件を伝える。
「良し悪しはともかくそういうフィールドなのは否定できないね。だから龍園くんも組んでくれない?」
「ハッ、AクラスとDクラスの生徒がリタイアした件か」
「そうそう! これはもう2年生全員で協力するっきゃないよね! だから龍園くんにも声かけよっかなって。ほら、1年生とか3年生に負けるのも癪でしょ?」
私は軽くおどけながら理由を説明する。こんな表面的な部分を龍園くんは見ない。これを聞いただけで状況も含めて話の要点を龍園くんは理解してくれる。表情は笑ってはいない。
「2年生の生徒の退学を阻止する。そして続く1年や3年の攻撃に備えるため、俺たちで幾つかのグループをその対策に使うって話か」
「さっすが龍園くん! 話が早くていいね! そうと決まれば色々と決めたいことがあるんだけど……」
「待てよ麗。その話、俺たちにメリットがないことは理解してんだろ?」
「ん? なんで? 退学したら2年のポイントの総量が減っちゃうし、協力できれば対策もできるよ?」
「AクラスやDクラスの生徒が退学する分には知ったことじゃねぇ。むしろ差が縮まるから望むところだ。確かに1年や3年にポイントを奪われ舐められるのは面白くねえ話だがそれだけじゃ俺たちが協力する理由にはならねえな」
ま、それはそうだね。龍園くんの理屈は理解る。だからこそ交渉が必要だなーって思って私が来たんだよね。
メリットが完全にないわけじゃないけど龍園くんとしてはAクラスやDクラスが沈む分には悪くないしその対処にこっちのリソースが減る。Bクラスが上位を目指すには良い展開と言えなくもないのだ。
でも問題ない。私なら協力できる。
「いやいや龍園くんこそ忘れてるんじゃない? 龍園くん、私との約束があるよね?」
私が頬に指を当ててそう言ってみれば龍園くんの目が鋭くなった。それをここで持ち出してくるかよってところかな。ちゃんと説明してあげようか。改めてね。
「クラス内投票で称賛票を与えて退学を阻止して裏工作を手伝ってあげたよね? それで特別試験での協力券を1回発行したでしょ?」
「それをここで使うと?」
「そ。めちゃくちゃお得でしょ? 大したことじゃないし龍園くんにもメリットがある。なんだったら龍園くんも表彰台に上がれるかもよ? 2年生全員での協力ならその道も見えてくるし」
私がかつてクラス内投票で密かに行動する龍園くんに称賛票を与えた話。学年末試験で葛城くんを引き抜いたり、万が一の場合は正義くんを裏切らせる。そんな奇襲を仕掛けるための戦略に協力してあげたこと。その契約を持ち出す。他の特別試験で一度だけ協力してもらう。そんな約束を私と龍園くんは結んだ。
まあ要は貸しだね。龍園くんのクラスが不利益を被るような協力以外での特別試験での共闘。それか200万プライベートポイント。どちらかを私が2学年が終わるまでに指定して得る。そんな契約を結んだ。
だけどこの無人島特別試験の前に私は龍園くんに協力を持ちかけなかったし、龍園くんも今回はガチでやり合うのだと思っていたはずだ。実際、私も龍園くんに声をかける気も最初はなかった。こんなことで龍園くんを使うのは勿体ないと思ってね。
でも状況が変わったし、ちょっと惜しくはあるけどここで使わせてもらう。龍園くんにとっても美味しい話。だから断る理由はないんだけどね。
「せっかくまたおまえとやり合うのを楽しみにしてたんだがなぁ」
「それは別の時でいいじゃん」
「ハ……なら構わねぇが坂柳の奴はこの話に乗るのか? そんな余裕はあいつにはねぇと思うがな」
「そこは綾小路くんが上手くやってくれるっぽいよ」
「綾小路も動くか」
「そもそも綾小路くん発信の作戦だよ」
私がそう言えば葛城くんは少し眉間に皺が寄った。綾小路くんの評価を見定めてるんだろう。ある程度は知ってるし聞いてるはずだけど全てを理解してるわけじゃないからね。
ただ龍園くんは不敵な笑みを浮かべた。
「1年や仕掛けてきた奴らを徹底的に返り討ちにする作戦か。そりゃ刺激的なことになりそうだな」
「賑やかなパーティになると思うよ」
「坂柳の奴と話がついたらまた連絡しろ。こっちはこっちで準備はしておいてやる」
「ありがとー! 龍園くん! よろしくねー!」
私が笑顔でお礼を言うと龍園くんは鼻を鳴らして踵を返す。話は終わったしついたってことだ。葛城くんもこちらに少し手をあげて龍園くんの背を付いていく。
そこで私も手を振っておいた。
「また龍園の奴と手を組むことになるとはな」
「2年全体の協力だから熱い展開でしょ? 隆二くんも動いてもらうから準備と覚悟はしておいてね」
「ああ、理解っている」
龍園くんらの背を見送ってから声をかけてきた隆二くんと共にキャンプへ戻る。夜は物騒だしボディーガードは必須だね。単独になる時は選ばないと。
──そして次の日の試験7日目。私は雨で試験が一時中断し、テントでの待機を求められる中で自らの考えと今後の展開を予想した。さっき壊れた腕時計の交換から戻ってきた帆波ちゃんの様子も含めて……無人島試験の後半は色んな人が試されることになるんじゃないかなと。
今回はこんなところで。7日目終了。次回からは有栖ちゃんや橋本くんや1年生など他の描写も挟みます。お楽しみに。
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