ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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夏休み2年生編
女の子は恋バナが好き


 無人島試験が終わった翌日の昼。俺は船内のバーラウンジに足を踏み入れていた。

 この豪華客船内にある殆どのバーは生徒は原則立入禁止だが、このバーラウンジは普段未成年でも入場できるクラブのような場所で立入禁止時間は夜のみ。昼間は生徒も普通に入場してビリヤードやダーツなんかの軽いゲームをやりながらドリンクや軽食を楽しめる。

 とはいえ普通の生徒はこんな場所にやってこない。そもそも昨日の今日で体力を消耗してる連中も多い。石崎みたいなバカならともかく今日一日は大半の生徒が体力の回復に費やすだろうな。

 だがだからこそちょっとした話をするには持って来いだ。俺は足を踏み入れるとそこで待っていた奴を発見する。

 

「やっほー。龍園くん」

 

 俺を見つけて友好的な笑みを向けてきやがるのはAクラスの南雲麗。

 俺が潰すべき標的の1人は呑気にダーツをやっていた。周りに一之瀬やら神崎の姿はない。

 どうやら向こうも1人のようだな。

 

「来てくれてありがとー! 何か頼んだら一緒にダーツしようよ」

 

「こんな場所で俺と2人きりになるとは良い度胸だな、麗」

 

「龍園くんなら変な噂が立つこともないから別にいいかなって。それよりも無人島試験はお疲れ様ー。有栖ちゃんと組んで3位とかやるじゃん。おめでとー」

 

「そっちは鈴音を上手く利用したな」

 

 ダーツをやろうとかいうふざけた提案を無視して俺は近くのカウンターに腰を下ろすと炭酸水を注文する。店内には2人しかいないが俺とこいつが2人きりでいるところを目撃されても精々何かの交渉や裏工作の相談をしてると思われるだけ。それを見切った上でここに誘ってやがる。

 もっとも一応見られないように配慮しちゃいるがな。

 

「カード運に助けられたな。おまえと組むような選択をするクラスはDクラスくらいだった」

 

「計算外だったって? それを認めるなんて意外だね」

 

「普通に考えりゃDクラスもAクラスと組むなんざありえない。だがそれが成ったのはおまえお得意の弱みを使ったんだろ? 裏切り者のな」

 

 クラスポイントの差を考えれば他のクラスにとってこいつと組むのは論外だ。

 それを成し得るとすればそれを覆すほどの条件を出されたか、あるいは脅しか。組まなかった時のデメリットが大きいと判断した時だ。

 

「桔梗だろ。鈴音と綾小路を同時に説得できる交渉材料はそれくらいだ」

 

「おーすごいすごい! よく分かったねー!」

 

「ハッ……舐めるなよ? 試練のカードが綾小路からおまえに譲渡された時点ですぐに予想はついた」

 

 俺がその条件を言い当ててやると麗は手を叩いて言葉では俺を褒め称えるが、その言動が飾りでしかないことは分かってる。

 櫛田桔梗の裏の顔のことを知ってれば。そしてその対処に鈴音が手を焼き、綾小路もまだ対処してねぇってなるとそれを暴露されりゃ大損するのは向こうだ。

 本来なら試練のカードは俺が綾小路と交渉して手に入れるつもりだったが、先を越されたらもうどうしようもない。トレードは1回が限度。高円寺のことは計算外だったが、まんまとAクラスとDクラスにポイントを掻っ攫われた。

 

「でもCクラスだって3位だしプライベートポイントも結構稼いだんでしょ? 夏休みは豪遊できるね」

 

「1年を籠絡してる分際でよく言えたもんだ。今回の試験で幾ら貢がせたのか言ってみろよ」

 

「ファンは沢山いるけど貢いでくれる人はいないねー。龍園くんはどう? 慕ってくれる後輩とか舎弟は出来たかな?」

 

「そういうおまえはゴリラの飼育に嵌ってるみたいだな。飼育代は馬鹿にならねぇと思うがどれくらいかかってるのか参考までに俺に聞かせてくれよ」

 

「餌代は教えられないけどね。どんな生き物もペットにしてみると意外と愛着が湧くものだよ。飼い主のことを慕ってくれてる生き物なら特にね」

 

 俺と麗の間で冗談みたいな単語が幾つか飛び交うが、その全ては真実だ。

 俺は1年と交渉して便乗カードの効果で麗のグループを指定させて多額のプライベートポイントを稼いだ上、その過程で麗が1年にも網を張っていることも掴んでる。

 その1年の中でも特に1年Cクラス。それとDクラスの宝泉。あのゴリラは特に麗に使われてる。

 最終日にも麗がいた方角からやって来やがったからな。何があったかは知らねぇが荒っぽいことが出来る手駒として使ってるのは間違いない。

 面倒ではあるが誰が麗に籠絡されてるか分かってれば問題ない。こっちもそれに合わせて動くだけだ。

 

「2年相手じゃ通用しなくなったから1年に狙いを変えたのか? おまえの本性を知ってる奴は入学当初と比べて格段に増えた。おまえの人気にも陰りが差したってことだ」

 

「本性? いや、全然隠してるつもりもないけどね。友達に優しいのも意外と好戦的でドライな部分があるのも全部私だからさ」

 

 そう言ってダーツを真ん中のブルに。これで10連続で当てた麗はこちらに振り返ってすました笑みを向けてくる。

 その表情。いや、精神面は入学して初めて対面した時と何ら変わってない。

 Cクラスの俺の前に一之瀬や神崎を引き連れて現れたこいつは、俺が指示した嫌がらせに抗議しながらもやり合うならこっちも容赦しないと笑顔で宣戦布告してきやがった。

 俺はその表情から感情を読み取ろうとした。本当か嘘か。仲間を傷つけられて怒っているのか。敵を屠ることを楽しみにしているのか。

 だがこいつは真意を決して読み取らせない。

 表面上は喜怒哀楽をしっかりと発露しているように見えるが、それが本当なのか嘘なのかも分からない。本当に楽しんでいるようにも見えれば、実は裏に激情を隠していてもおかしくない。

 

「は──つまりは全部が嘘ってことか?」

 

「全部が本当ってことだよ。少なくとも感情に関してはね」

 

 綾小路も感情を読み取らせない鉄壁の精神面をしてやがるが、麗は表情豊かにそれを操ってやがる。

 だからこそ最初、申し出を受け入れて俺は引いた。麗のやり方と能力の程を確かめるために。

 

 そうして1年以上見てきて理解したのは、真実の中に嘘を混ぜ込むこと。

 麗は感情には素直だが、その感情のままに相手を陥れることができる。つまりは全部真実だが信用ならない。

 こいつは相手のことを正真正銘の友達だと本気で思いながらその友達を刺すこともできるし、逆も然り。憎い敵だと思っていても本気で仲良く遊ぶことができる。

 以前、麗は桔梗のことを自分の下位互換だと言っていたがそれは間違っちゃいない。桔梗は黒い本性を隠して表で綺麗な顔を見せつけて人を騙す。

 だが麗は本性を隠してはいない。表に見せかけた裏。そしてその裏の裏。どちらも曝け出した本当の顔で人を魅了していやがるし、そもそも麗と桔梗じゃ能力に圧倒的に差がある。

 秘密を聞き出さなきゃ掴めない桔梗と違って麗の場合、感情も何もかも聞き出す必要すらなく見抜いてくるからな。そこいらの雑魚じゃ隠し事をするのも難しい。

 裏がある、と思わせる部分もこいつの術中。自然体でどちらにも振り切れる。

 桔梗のようにドス黒い本性を隠して綺麗な顔を見せてるだけの奴には到底出来ない心理戦だ。

 

「ま、龍園くんなら理解してくれてると思うけどね」

 

「おまえの言動に振り回される馬鹿共と俺は違う」

 

 簡単に言えば──本当のことを嘘に思わせることも嘘を本当のことに思わせることも自由自在ってわけだ。決めつける奴は馬鹿を見る。

 そしてそれが分かっていれば一々振り回されることはなくなる。コインの裏表を見る必要はない。

 重要なのはコインの中身だ。表からも裏からも見えねえが、その動きを見て何を狙ってるかを読み切る。

 だからこそこうやってたまに顔を合わせて向き合うこともこいつを倒すためには重要な要素だ。こいつは本性は善良だが敵を陥れる非情さを持つ。

 そしてそれは矛盾しない。クラスメイトを駒としか見ていないが故に切り捨てることができる坂柳とは違い、こいつはクラスメイトをしっかりと仲間をして見ている。あるいはファンか。どう定義しているかはどうでもいいが、大事に扱ってるのは間違いない。

 

「今回の試験でおまえはまたプロテクトポイントを得たが、だからといって安全圏だと高を括ってると痛い目を見るぜ?」

 

「私を退学させるって? できるとは思えないけどなー。時間の無駄だからやめといた方がいいんじゃない?」

 

「それを決めるのはおまえじゃない。二学期からは徹底的に、執拗に狙ってやる」

 

「ストーカーはやめてほしいんだけどなぁ」

 

「有名税ってやつだ。諦めるんだな」

 

「有名税はんたーい! アイドルにも人権をー!」

 

 大げさにふざけた言動をする麗を無視してグラスに入った炭酸水を飲み干す。

 実際のところ麗も標的だがプロテクトポイントを2つ持つこいつを一気に退学させるのは現実的じゃない。

 だから狙うのは麗の周りの連中だ。クラスポイントで独走し、圧倒的な資金力を持つAクラスは一見盤石に見えるがその中身は麗がいなきゃ結束力が高いだけの木偶の坊の集まり。

 多少学力が高かろうが平均的な能力値が高くとも個人で見れば麗に使役されるしか脳がない連中だ。

 一之瀬や神崎にしても高が知れてる。俺の敵じゃない。まずはおまえの大事にしてる周囲からじわじわと切り崩してやる。

 ただそれと並行してやるべきこともある。

 

「だが同時に──俺は坂柳にトドメを刺す」

 

「へぇ……?」

 

 俺がそう言えば麗も興味を持ったのだろう。ダーツをやめてカウンターの俺の隣の席に座ると足を組み、頬杖を突きながら意味深かつ楽しそうに俺に視線を向けてきた。

 

「有栖ちゃんかぁ。しかも片手間に相手するなんて大丈夫? 手が足りないんじゃない?」

 

「あのクラスはもう虫の息だ。少し仕掛けてやれば後は勝手に崩壊するのは目に見えてる」

 

「まあそれはそうなんだけどね。でもちょっとクラスの人たちが可哀想だね?」

 

「しらばっくれるなよ麗。Dクラスに狙いをつけてるのはおまえも同じだろ」

 

 おそらく今日俺を呼び出した用件の1つはそれだろう。

 坂柳のクラスは今回の試験でDクラスに落ちた。

 入学当初はAクラスだった坂柳のクラスが完全に落ちぶれた今こそがトドメを刺す好機。それを見逃すほど俺は甘くはない。

 麗も同じだ。こいつはこいつで他のクラスに網を張っている。その中でも坂柳のクラスはどのクラスよりも付け入りやすいところだろうからな。

 

「Dクラスの生徒を引き抜くなら俺が仕掛けた後にするんだな」

 

「んー? それはそれはどういう風の吹き回し? 執拗に狙うならそんな敵に塩を送る真似しない方がいいんじゃない?」

 

「おまえがポイントを無駄遣いしてくれる分には有り難いってだけだ。なんなら真鍋の奴も引き抜いてくれていいんだぜ?」

 

「あっはっは。真鍋ちゃんはちょっと足りてないかなぁ。面白い子ではあるけどね」

 

 真鍋の名前を出してやると麗は面白い冗談でも聞いたように大笑いする。当然だな。真鍋に2000万の価値はない。

 そしてそれは大体の生徒に同じことが言える。麗は崩壊が近いDクラスから生徒の引き抜きを考えているようだがそれ自体は俺にとって歓迎すべきことだ。

 確かにクラスの人数が増えることやそれなりに能力の高い生徒を引き上げることで戦力が増えることは面倒だがそれよりもこいつのポイントを削る方が俺にとっては重要だ。

 プライベートポイントを何千万と持たれた状態じゃどうしてもアドバンテージは向こうにあるからな。それを自分から削ってくれるならあえて止める必要はない。

 重要なのは自クラスからの裏切りを防ぐこと。それと引き抜きによる影響を注視し、勢いに乗らせないことだ。

 そこさえ気をつけていれば打てる手は幾らでもある。

 

「でもいいの? 有栖ちゃん潰して。みんなで協力しないと私は倒せないんじゃないかな?」

 

「使える手はなんだって使うがな。邪魔者を先に消さない理由はねえ」

 

 まるで単独じゃ勝てないような言い草に苛立ちを感じ、俺は麗を睨みつける。

 確かに状況によっては鈴音のBクラスやDクラスと手を組む。利用するのは当然考えられる。今のAクラスとのクラスポイントの差を考えれば特に鈴音のBクラスとは利用し合う関係でいる必要があるかもな。

 だが坂柳は今のうちに消しておく必要があると俺は考えた。

 あの女ならクラスの状況に関わらず横槍を入れてきてもおかしくねえからな。綾小路との再戦のためには邪魔者は1人でも少ない方がいい。

 それと、麗を単独で倒せないようじゃ綾小路との再戦はどの道実現しない。

 他のクラスを利用はしても最終的には全員俺の実力で屈服させる。そのための坂柳潰しだ。

 

「……ま、いっか。一応そういう話があったことは覚えておくよ。聞き入れるかどうかは分からないけどね」

 

「そうしろ」

 

 その答えも想定内だ。

 麗やAクラスを狙うのは二学期からだと口にはしたが、その前哨戦は既にこの瞬間から始まってる。

 この駆け引きも少しでも裏を読み合い、迷いが生じればそれでいい。

 

「それじゃ私からももう1つ。覚えておいて欲しいことがあるんだけどいいかな?」

 

 話が終わり、立ち去ろうとした時、麗は最後に覚えてほしいことと言った上であることを俺に伝えてくる。

 それを聞き終え……俺は思考する。

 

「……なるほどな。一応、覚えておいてやるよ」

 

「聞いてくれてありがとね。それじゃあ私は友達と約束があるからまたねー」

 

 話が終わり、麗は俺よりも先に会計を済ませると店から出ていく。

 俺もまた少し遅れて店を出るが頭の中では幾つかの考えが浮かんでいた。

 ただ優先順位は変わらねえ。坂柳を潰して麗も潰す。そして最後は……綾小路だ。

 

 

 

 

 

 豪華客船でのバケーションってのは私みたいなトップアイドルにお似合いの場所の1つだ。

 芸能人なら正月にハワイとかグアムとかに南の島に行くのは普通のこと。中には豪華客船で何日もかけて向かいながら遊ぶとかもある。

 ただ当たり前だけどそれなりに高価だし、高校生で豪華客船に何度も乗ったことあるって人は少ないだろう。それこそお金持ちの家の子ならあるかもしれないけど、何度か乗ったことがある私としても結構お気に入り。普通の生徒にしても夢のような時間だろう。

 無人島試験が終わって翌日からの8日間はこの豪華客船で思い思いに楽しむことができるし、私も思う存分楽しむつもりだ。

 

 とはいえ1日目はみんな疲れてるから結構大人しめに過ごす人が多かったみたいだけどね。

 私も朝食のすっごい豪華なビュッフェ(学校の厚意で朝と夜は無料)を楽しんだ後はバーラウンジでダーツしながら龍園くんと秘密の会合。お昼は帆波ちゃん、麻子ちゃん、千尋ちゃん、夢ちゃんのいつものグループ5人でイタリアンレストラン(1人5000ポイント)に舌鼓を打って軽く買い出ししてからユキちゃんのお見舞いに(ついでに寛治くんも)また行ってご飯とか色々届けてから話を聞いた。ユキちゃんは左足の打撲。幸いにも骨は折れてないみたいで二週間くらいで完治するそうで明日から松葉杖で行動する予定だ。寛治くんが右腕を同じように怪我してて側でさつきちゃんが恭しく介護しているのが印象的だった。なんかもう付き合いそうというか、下手したらもう付き合ってるまである雰囲気だったね。

 

 その後は軽く試験結果を確認してカフェでお茶をしながら談笑。途中、船内の絵画とかを見て優雅に楽しみつつ夕食前にはサロンでゆっくり。夕食はもう一度ビュッフェを楽しみ、その後は展望大浴場で海を見ながらゆっくりと入浴。

 夜は軽くストレッチをしつつ今日1日くらいはゆっくりしようと同室の麻子ちゃん、ユキちゃん、二宮唯ちゃんとお喋りしながら睡眠。4人部屋だったから帆波ちゃんと千尋ちゃん、夢ちゃんとは別れたんだよね。3人と2人で。それでグーパーしたら麻子ちゃんと一緒になったって感じだ。それでユキちゃんに唯ちゃんを誘った。そんな経緯。

 

 そして2日目──その日から多くの生徒が体力を回復させて本格的なバケーションは始まる。

 

「──みんなー! 夏休みを楽しみたいかー!?」

 

「楽しみたーい!」

 

「うおー! 当然だぜ!」

 

 2日目の昼。私は大勢の生徒の前で声を張り上げる。

 その場所はプライベートプール。一般に解放されている大型プールと違って60分2万で貸し切ることのできるプールで一度に40人まで使用可能なこの場所で、私たちAクラスはクラス主催のイベントの1つとしてプールで軽く第一次お疲れ様会を開くことにした。

 もちろん貸し切るポイントは私が出した。まあクラスのお金でもあるけど異論が出るはずもないよね。怪我で参加できないユキちゃん以外の40人が全員出席してるし、そのユキちゃんも携帯のテレビ通話で常に映像と音声を繋いでるから実質出席してるようなもの。

 

「それじゃドリンクは全部奢りだから好きなもの頼んでねー! そしてそしてー! 並行してビーチバレー大会も始めるよー! 5人1チームのトーナメント戦ねー! 優勝チームには10万ポイント! つまり1人2万ポイント贈呈しちゃいまーす!」

 

「おいおいまだくれるのかよ!」

 

「麗ちゃん太っ腹ー!」

 

「おいこらー! 誰が太っ腹だー!」

 

 リーダーとして皆にビーチバレー大会を行うことを通達し、ノリ良くやり取りしてやれば笑い声が響く。

 私が気を取り直して号令を出せば全員チームを組んだ。それ以外の面々はプールで遊んだり、ドリンク片手にお喋りしたりする。

 私も伝えることを伝えたら適当にチームを組んでドリンク片手にビーチチェアーに腰掛けた。みんな空気を呼んでるから運動神経良い人で固まったりはしない。颯くんとか隆二くんとか安藤紗代ちゃんとか南方こずえちゃんとか私もあえて今回は運動神経の悪い二宮唯ちゃん、墨田誠くん、時任克己くん、渡辺紀仁くんらとチームを組んだ。OAA的には渡辺くんがC+で平均よりちょっと上なくらいで他はみんなC-からDくらいの身体能力低い組しかいない。

 

 ──まあそれでもある程度は勝つんだけどね。7点先取の短い試合をやりつつ観戦しつつ、私は優雅にプールサイドでみんなを応援する。

 

「千尋ちゃん頑張れー! おお、良太くん上手い! あー惜しい! 真峰ちゃんナイスプレー!」

 

『……相変わらず盛り上げ上手だよね』

 

「そりゃあ普通に楽しいからね。ユキちゃんも良い感じの距離感でしょ?」

 

 側にあるテーブルに携帯をスタンドで立てて医務室にいるユキちゃんとテレビ通話を行う。ユキちゃんも気分だけは盛り上がってもらうために事前にトロピカルドリンクを差し入れといた。なのでストローでちゅーちゅー吸ってる。そうしながらみんなの試合を観戦中。やっぱり優勝候補はAクラスで私の次に身体能力OAAの高い颯くんか女子のNo.2紗代ちゃんか隆二くんのところかな。そして私。

 

『まあそれはいいけどね。ただポイント大盤振る舞い過ぎじゃない?』

 

「かなり儲かったからいいんだよ。みんな頑張ってくれたし、たまにはこうやって還元しないとねー。夏のボーナスってことで」

 

「ボーナスいいですね。よーし、パパ車買っちゃうぞー」

 

『……数十万程度じゃ車買えないし、そもそもパパじゃないし未成年だし車買えないでしょ』

 

「ナーイスツッコミです姫野ユキ。二週間振りのツッコミは効きますね。そろそろ漫才コンテストの予選が始まりますがエントリーしても構いませんか?」

 

『絶対出ないし出れないし……』

 

 ……と、反対側には同じく水着を着た森下藍ちゃんがユキちゃんのツッコミを欲して相変わらずボケ倒してる。良いコンビだと思うよ。ネタはもうちょい練る必要があると思うけどね。

 それとポイントの件もユキちゃんにツッコまれたけどこれは本当にただのサービスだ。何をしたかというとクラス全員に夏のボーナスとしてプライベートポイントを支給した。

 その内訳はクラスメイト34人。1人に付き20万プライベートポイント。そして無人島試験で重要な働きをした人たち。帆波ちゃん、隆二くん、颯くん、藍ちゃん、哲也くんにはそれぞれ50万プライベートポイントを振り込んだ。

 そしてユキちゃんにも怪我しちゃったのを加味して同じく50万プライベートポイントを振り込んであげた。労災みたいなもんだね。

 普段は毎月70%のプライベートポイントを徴収してるし、それでもまあまあポイントはあるとはいえこれでみんな夏休みを思う存分楽しんでほしい。

 

「せっかくの豪華客船だからね。船内で良いレストランとか良いサービス受けようとするとそれなりにポイント使っちゃうし、それを気にして楽しめないってなると良くないからさ」

 

『それにしても使いすぎなんじゃない?』

 

「1000万くらい使いましたよね。優勝賞金くらいは」

 

「還元だよ還元。儲けたら儲けた分だけみんなにも還元する。組織として当然のことだよ」

 

 心配しなくてもまだまだポイントには余裕はある。大体4800万くらいかな。大金であることには違いないけど私たちAクラスはクラスポイントを更に得たことで月に600万くらいは入ってくるし、その中の70%の419万は毎月私に集まってくる。

 正直いって全く問題ないんだよね。だから夏休みは皆で豪遊だ。特にこの豪華客船は一生の思い出になるかもしれないし、ポイントのことは気にせず楽しんでほしいよね。

 

「実際上手いやり方ですよね。普段徴収してるポイントから振り込んでいるのだから実質返しているようなものなのに皆南雲麗に感謝しています。南雲麗は政治家に向いているのでは?」

 

「なんか褒められてる気がしないからやめてねー?」

 

 こらこら藍ちゃんの言う通りなんだけどイメージ悪くなるからやめてほしい。

 まあでも士気をあげるには最適なんだよねー。貰えると思ってなかったポイントが急に臨時収入的に入ってきたら嬉しいに決まってる。しかも20万ポイントは結構な額だ。10万くらいでも喜ぶだろうけどこういうのはケチケチせずに太っ腹なところを見せた方がいい。こういう細かい部分が人をまとめるのには大事だね。

 

『でも元々不満なんてないように思えるけど』

 

「不満が出てきてから対処するよりも普段の積み重ねが効くんだよ」

 

 BクラスをAクラスに上げてからずっと維持し、今回の無人島試験でも1位で更にクラスポイントを増やしてる。ユキちゃんの言うようにクラス内の不満なんて全然ない。支持率は99%ってところかな。

 まあ不満があるとすれば──

 

「おっと。次私の番だ」

 

「負けないよ麗ちゃん!」

 

「こっちもね! 紗代ちゃん! 麻子ちゃんも負けないよー!」

 

「うん。よろしくね!」

 

 ──そして試合が進んで決勝戦。相手はAクラス女子随一の身体能力を誇る女子バレー部のエース紗代ちゃんに麻子ちゃんたちのチームだ。

 私はネット越しにみんなとやり取りを行うが、その中でも麻子ちゃんに注目する。仲良しグループの1人である麻子ちゃんは今回の豪華客船でも私と同室だしよく話す。そこに不自然な様子は一切ない。不満を持ってるようにも見えない。

 

 ただ燻ってる部分はあるんだよね。普段は見えないけどたまーにそういう部分が見え隠れする。

 

「よ、よーし。俺の必殺サーブを受けてみろ!」

 

「渡辺くん張り切りすぎないようにねー」

 

 ま、そういうところも可愛いし良いところなんだけどね、と。私はみんなの視線を受けながら絶対強者としてチームをカバーしながら試合を行った。

 そして互いにマッチポイント。1点取れば勝利の状況で相手チームの千尋ちゃんがアタックしようとぎこちなくボールにアタックし、予想外の方向に飛んだのを見て私は慌ててみせる。取れなくはないけど私はギリギリで取らない。

 

「うわっ!? あー……あー、マジかー……!」

 

「え、勝った?」

 

「うおー!? 南雲チームが負けたー!?」

 

「千尋ちゃんすごい!」

 

「た、たまたまだよ……!」

 

「あー悔しい! みんなごめんねー? ……でも優勝は千尋ちゃんチーム! おめでとー!」

 

 ってことで私はギリギリの負けを演出し、悔しがりながらも相手チームを讃える。クラスもすっごい盛り上がった。うんうん、これでいいね。私みたいな誰が見ても最強で優勝候補みたいな人物がこういうミラクルでギリギリで負けるとすっごい盛り上がる。ジャイアントキリングってやつだ。最後のポイントを決めた千尋ちゃんはヒーローとしてみんなからの称賛を受ける。

 私としても最初から準優勝を狙ってたのでこれでいい。勝つ必要のない負けていいところで負ける。クラスを盛り上げるためなら安いものだ。

 

 これからは個人の力も大切になるし、今の内に英気を養ってもらわないとね。

 

「はぁー負けた負けたー。ざーんねん」

 

「麗ちゃんお疲れー。あはは、惜しかったね」

 

「帆波ちゃんもお疲れー。いやー後1点だったんだけどなぁ」

 

 私は優勝チームの5人にそれぞれ2万ポイントを振り込んでからビーチウェアに戻る。帆波ちゃんから労いの言葉を貰いながら悔しさを滲ませた笑顔で応対。

 ただそこで私は尋ねる。昨日聞いた件に繋がる話を。

 

「それで、帆波ちゃんも別にいいよね? Bクラスとの合同お疲れ会の話」

 

「う、うん。もちろんいいけど……えっと、大丈夫かな……?」

 

「大丈夫って何が?」

 

「参加者とか……ほら、疲れてたりしたらあんまり無理に呼んじゃうのも良くないかなと思って」

 

「参加は任意だから大丈夫だよ。それに、綾小路くんはきっと参加するんじゃない?」

 

「い、いや、今は綾小路くんとは……顔を合わせにくい……かな。はは……」

 

 私は明日予定してあるBクラス──鈴音ちゃんのクラスとのお疲れ様会の話を帆波ちゃんに振る。

 今回の無人島試験でAクラスは鈴音ちゃんのクラスと組んで挑み、その結果私たちは1位。DクラスはBクラスに上がるほどポイントを得て大躍進した。

 なのでお疲れ様会を豪華客船内にあるお高めのグリルレストランでやらないかって鈴音ちゃんに提案したところ、普通に承諾してくれた。全員参加するかと言われると微妙だけどクラスに通達して参加者を知らせてくれるらしい。予約しなきゃいけないからね。1人1万ポイントで2時間ほど。明日の夕食で楽しむ予定だ。

 ちなみにAクラスの分のポイントは私持ちだね。Dクラスは多分個人か鈴音ちゃんが出すかのどっちかだろう。さすがに私は出さない。

 

「えーなになに? 何の話ー?」

 

「あ、えっと……」

 

「例の話だよ。帆波ちゃんの」

 

 そうして帆波ちゃんと会話しながら頭の中で考えてると夢ちゃんとか女子が集まってきたので私は笑顔でそれを口にする。ぶっちゃけもう女子のみんなは知ってるんだよね──帆波ちゃんが綾小路くんが好きなこと。

 まあ無人島で帆波ちゃんが綾小路くんに告白しちゃったことはさすがにみんなは知らないけどね。綾小路くんと軽井沢恵ちゃんが付き合ってることも知らない。帆波ちゃんが恵ちゃんのことを知りながら告白してしまったことも知らない。なので結構複雑というか帆波ちゃんにしてみればかなり衝撃的かつ葛藤する出来事ではあったんだけど女子は恋バナが大好きだから21人全員が集まってひそひそと盛り上がる。

 

「えーどうするー? もし明日綾小路くんが来たら……」

 

「席とか調整しよっか。隣と向かい合わせならどっちがいいかな?」

 

「向かい合わせって恥ずかしくない?」

 

「いやいや、それが良いんだって」

 

『……あんまり露骨だと相手にもバレちゃうんじゃない?』

 

「それはそうかも。バレないようにしないとね」

 

「男子にも内緒にしないと。特にほら……知ったらめちゃくちゃショック受けそうな人もいるし」

 

「うぅ……わ、私は認めません……!」

 

「ラブな気配を感じたところでパイを投げつけるとか風船爆破とかの往年のドッキリみたいなことは予定していますか?」

 

『しないから……』

 

 あーあーみんなできゃいきゃいし始めちゃったねー。夢ちゃん。こずえちゃん。紗代ちゃん。仁美ちゃん。ユキちゃん。唯ちゃん。麻子ちゃん。千尋ちゃん。藍ちゃん……と、他の女子も含めて明日どうするかを話し合い始める。うーん、これが女子ゾーン。恋バナはやっぱ盛り上がるねー。最後1人ちょっとおかしいけど。ユキちゃんツッコミ上手だね。

 

「あ、あの、みんな。気持ちは嬉しいけど……その……」

 

 ただ帆波ちゃんは……うーん、なるほど。困ってるようで微妙なところかな。私が見る限り、めちゃくちゃ嫌ってわけでもないようだ。困るし恥ずかしいし顔も合わせにくいが、一方であの時のことを釈明したいとか会話したい欲求はあると見た。なら止める必要はないね。まとめる必要はあるけども。

 

「はいはい。皆落ち着いてねー。とりあえず席とかも含めて良い感じに私がまとめておくから」

 

「う、麗ちゃん?」

 

「おー! さすが麗ちゃん!」

 

「あ、あの、せめて私は帆波ちゃんの近くの席に……」

 

「私も綾小路清隆には興味があります」

 

 なるほどなるほど。帆波ちゃんだけじゃなくて綾小路くんに興味のある人がこんなにいるとは。まあ試験結果もそれなりに良かったしこれは調整しがいがあるなぁ。せっかくのクルージングだし、帆波ちゃんや私のためにも明日は全員で綾小路くんを囲いつつ楽しむぞー! おー!




今回からは2年生の夏休み編。とりあえず伏線張りながら色々。予定としては龍園にDクラスの話や天沢に七瀬などの一年生。綾小路くんから見たAクラスパーティとか色々です。多分4、5話くらいかな。お楽しみに。

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