ようこそアイドル至上主義の教室へ   作:黒岩

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名探偵アイドル

 8日間のクルージングの内、私の予定はほぼ埋まりきっている。

 何しろ私は人気者。自分のグループでの行動も当然あるし、私を除いたAクラス40人全員との時間を作る必要があるし、仲のいい他クラスの友人や1年生と遊ぶ予定もある。

 3年生は状況的にさすがに誘い辛いのか誰も来ないけどね。それはそれで都合が良い。

 それと単純に豪華客船内の全ての施設を楽しむにはしっかり予定を決めて行動する必要がある。

 

 たとえば──取り調べ1つ取っても無駄な時間を過ごしたくはない。

 

 だからわざわざ時間を作り、私は1年生の女子の客室までやってきた。

 時間は午後1時。まだお昼時ということもあって殆どの生徒はレストランだったり売店で適当なものを買って景色の良い場所で食べたりしてるだろうね。

 それでも時折生徒とすれ違い、1年生の女子たちは私を見かける度に少し驚きながら挨拶をしてくれる。私って後輩からめちゃくちゃ慕われてるからね。同学年や上級生よりも下級生からの人気の方が高いかもしれない。

 ちなみに今は1人で誰も連れていない。用件が用件だし、誰かを連れて行くと話を聞けない可能性もある。

 話を聞きたいもう1人の方はその限りじゃないけど今回や女子の客室に入る必要があるから隆二くんとか宇都宮くんみたいなボディーガードはいらない。

 それに何かあっても私なら一応対処できるからね。少なくとも時間稼ぎは出来るって理解ったし。

 なので私は目的の客室の前に辿り着くと部屋をコンコンと規則正しくノックし、中にいる人物の名前を呼びかけた。

 

「天沢ちゃーん。天沢ちゃーん」

 

 そう。その相手は1年Aクラスの天沢一夏ちゃん。

 無人島では妙な動きを繰り返し、最終日には鈴音ちゃんを気絶させた上で私をボコボコにしようとして返り討ちにされたあの天沢ちゃんだ。

 あの後一度も顔を合わせてないけど、そろそろ顔を合わせて話でもしておこうと思ってね。医務室を訪れて少し治療を受けたのは知ってるけどその後は医務室どころか朝夜のビュッフェにも顔を出していないし、同室の子達情報だと部屋から一歩も出ていないとのことなので裏は取れてるんだよね。

 

「天沢ちゃーん。いるのは分かってるから中に入れてくれるー?」

 

「──何の用? 南雲先輩」

 

 おっと。お早い反応が扉の内側から返ってきた。しかもかーなり低い声。

 

「あらら、ご機嫌斜め? 普段はもっと可愛い声で私を慕ってくれてたよね。どうしたの? やっぱり気分悪い?」

 

「あたし、怪我人なんで。だから悪いけど帰ってくれます?」

 

「知ってるよ。だからお見舞いに来たんだよお見舞い。ちゃんとお見舞いのお菓子とか果物とか飲み物とか買ってきたよ」

 

「いらないかな。同じ部屋の子が持ってきてくれるし」

 

「先輩からのご厚意も貰っておいた方が得だと思うけどなー」

 

「いらないって言ってるの聞こえない? 先輩って後輩を困らせるのが趣味じゃないよね?」

 

 誰に聞かれてるか分からないからか天沢ちゃんの対応もそっけないながらある程度配慮したものだね。

 とはいえ周囲には今、誰もいない。一応それは伝えてあげようかな。

 

「こっちは私1人だから入れてくれてもよくない? 私、天沢ちゃんと話がしたいなー」

 

「あたしはこれっぽっちも話したくないんですけど。ましてや顔を合わせて話すなんてしたら……」

 

「したら?」

 

「ぶん殴っちゃうかも、ね」

 

 あはは、天沢ちゃんが出てきた。いや、扉からじゃなくて本性がね。ちょっとだけ覗いてきた。

 やっぱりあの負けが相当精神的にきてるんだろう。ただこの感じ、負けたことだけが外に出たくない理由じゃないね。仕方ないからそこを突く。意地悪な手でこの扉を開けてもらおう。

 

「物騒だね。ま、それはともかくとしてどうしてもって言うならアレ使っちゃおうかな」

 

「アレ? あーそういえばしてたね。負けた方が勝った方の言うことを聞くってやつ。それ使う気?」

 

「そうそう使おうかな。──今から私と一緒に綾小路くんに会いに行こうよ」

 

 天沢ちゃんとの勝負。勝ったほうが相手に言うことを聞かせるという話を持ち出し、その内容を伝えると扉の向こうからの声が途絶える。

 大体7秒くらいかな? 黙ってた天沢ちゃんはようやく私の要求を咀嚼したのかまた低い声で確認を取ってきた。

 

「ほんといい性格してるよね南雲先輩って」

 

「なんで? ただ会いに行こうって言ってるだけなのに。大好きな綾小路先輩に会えるんだから嬉しいでしょ?」

 

「分かってるくせに。それ要求するなら南雲先輩も覚悟してよね」

 

「またぶん殴るって?」

 

「ううん。もしそうなったら──先輩のこと殺しちゃうかも」

 

 わーお物騒レベルが上がった。やっぱりそんなに嫌なんだね。綾小路くんに今の姿見られるのが。

 だから外に一歩も出てないわけだ。本当に厄介ファンというか……メンヘラだし子供にも程があるね。嘘を言ってないのは分かるから激重過ぎて引いちゃう。

 ただそれで、はいそうですか、とはならない。

 

「それが嫌なら私と部屋で話をしようか。そんな要求されたくないでしょ?」

 

「賭けの内容を脅しに使う気?」

 

「脅しだなんて人聞きが悪いなぁ。普通に話をしようって言ってるだけなのに」

 

「それが十分鬱陶しいんですけどね」

 

 そりゃ鬱陶しく思えるように振る舞ってるからね。

 それに天沢ちゃんはちょっと勘違いしてるなぁ。自分勝手というかなんというか……自分が何をしたか胸に手を当てて考えてみればいいのに。

 まあでもまだ優しくしてあげよう。私は再度問いかける。

 

「それで、どうする? どっちがいい?」

 

「……分かりました。じゃあ部屋に入ってもいいけど……条件を付けますね」

 

「条件?」

 

「綾小路先輩に私の姿を伝えないこと。それと綾小路先輩に関する要求をしないこと。それを守ってくれるならあたしも話くらいならしてあげますよ」

 

「なるほどね」

 

 天沢ちゃんの要求に私は考える。うーん……ま、いっか。別に要求しなくても。したところで本当に言いたくないことは言わないだろうし、要求しなくても聞きたいことは聞き出せる。

 天沢ちゃんの姿に関してはいいとしよう。乙女の最後の要求だ。それくらいなら許してあげてもいい。

 

「いいよ。守るから部屋開けて」

 

「言質取りましたからね。──はーい。入ってきていいですよー」

 

 私の答えを聞いて最後に念押しした後に部屋の扉が開かれる。

 ドアを押して中に入るけど天沢ちゃんの姿はない。少し進んでベッドの端に天沢ちゃんは座っていたけど……やっぱりねー。そりゃそうなるか。

 

「うわー痛そう。ガーゼしてるし腫れてるし。可愛い顔が台無しだね?」

 

「そうなんですよぉ。誰かさんのせいで。酷い話ですよね、乙女の顔をこんなぐちゃぐちゃにするなんて」

 

 中にいた天沢ちゃんは頭に包帯を巻いてたし、頬にはガーゼが張られていて中々に可哀想な状態だった。言うほど顔が崩れてるわけじゃないけど元が可愛くはあったからね。宝泉くんに結構顔面いかれてたからこうなるのもさもありなん。私はテーブルにお見舞いの品を置いてから近くのソファーに腰掛ける。

 

「酷いは酷いかもだけど自業自得なんじゃない? 勝手に因縁つけて襲ってくる子供みたいなことするからだよ」

 

「まあそれはそうかもね。でも仕方ないじゃないですかぁ。それだけイラッとしちゃったんですもん」

 

「それで返り討ちにされて好きな人に見せられない顔になるなら世話ないね。これに懲りたらもっと大人になった方がいいと思うよ? そんな短絡的な思考じゃ綾小路くんにも愛想つかされちゃうかも」

 

「説教やめてくださーい。ちょーうざいんで」

 

 相変わらずの生意気な口調だけどそれでも若干テンションが低いのは私に負けたことを認めてるのと……幾つか負の感情が隠れてるのかな? 全部は読みきれないけど多分そんな感じだね。

 

「本当に厄介ファンだね。天沢ちゃんは」

 

「せんぱぁい。あんまり挑発しないでくださいよ。あたし、もう無敵の人なんですから何するかわからないよ?」

 

「無敵の人?」

 

「そ、もう怖いものなんて何もないんですから。なんでかは言えませんけどねー」

 

 そう言って私の置いたお見舞い品をごそごそと物色し、その中にあったサンドイッチを取り出すと包みを開けて普通に食べだす天沢ちゃん。少なくとも元気ではあるみたいだね。怪我こそしてるけど体力は有り余ってる感じがするし、なんだったらかなり暇してたのかもしれない。本が10冊も積み重なってるし。

 

「でも綾小路くんのことは怖いんじゃない?」

 

「どうしてそう思うんですかぁ?」

 

「綾小路くんのことが好きすぎるなら綾小路くんに嫌われるのは嫌だろうし。今だってその顔を綾小路くんに見せたくないから引きこもってるじゃん」

 

「それくらいは分かっちゃうかぁ」

 

 別に隠してたことでもないのか私の指摘をあっさり認めてみせる天沢ちゃん。早くもレタスサンドを食べ終えててりやきチキンサンドに取り掛かっていた。お腹空いてたのかな? 

 

「で、あたしと何の話がしたいんです? 恋バナとか?」

 

「恋愛経験全くなさそうな上に他人に興味なさそうな天沢ちゃんと恋バナしてもなー」

 

「先輩こそアイドルならまさか経験なんてないですよねー?」

 

「ご想像にお任せするよ。それで話っていうのは……改めて事情聴取をしようと思ってね」

 

 互いに牽制しあってから本題に入る。私が態々天沢ちゃんの客室を訪ねた目的は無人島でのことを聞きたかったからだ。

 

「事情聴取ぅ? あたしの怪我のですか?」

 

「それ言ってもいいけど天沢ちゃんは言わないじゃん。綾小路くんの不利になるからでしょ?」

 

「そうなんだよねー。はぁーあ、失敗した。せめて綾小路先輩の関係がないところだったら先輩に暴力振るわれたってあることないこと吹き込めたのに」

 

 これだけの怪我を負っても天沢ちゃんが誰にやられたのか一切話していない理由がそれだね。綾小路くんの不利になるから話さない。話したらあそこで何をしてたのかって話になってかなり際どいところまで学校のメスが入れられて面倒になる。

 それに話したところで証拠もなければ水掛け論になるだけ。なんだったらこっちは有利な証言も証拠もあるから問題ない。暴力を先に振るったのは真実天沢ちゃんだし、鈴音ちゃんを気絶させた件もある。天沢ちゃんもそれを理解してるからこそ無駄に騒ぎ立てないんだろうね。

 そして私もその件を聞きたいわけじゃない。天沢ちゃんがあそこで待ち構えていたことはあまり重要じゃないし、もう1つの件に比べればどうだっていいことだ。

 

「私が聞きたいのは4日目の早朝。天沢ちゃんが何をしてたかだよ」

 

「あーもしかして姫野先輩でしたっけ。またその話ですか?」

 

「またその話だよ。4日目の朝5時前、天沢ちゃんは何をしてたのかな?」

 

「黙秘しまーす。って言ったら?」

 

「初日から同じグループの七瀬ちゃんと宝泉くんとは別れて単独で行動してたみたいだけど何をしてたの? 7日目にも綾小路くんと七瀬ちゃんの前に現れてたのはどうしてかな?」

 

「それは先輩に見せつけるためって言ったじゃないですかぁ」

 

「そう? だったら桔梗ちゃんを虐める必要なんてなかったんじゃないかな?」

 

 私がノータイムでそう言ってあげると天沢ちゃんの表情が少しだけ変化した。なんで知ってるのか分からない。そんな表情をしてるよ天沢ちゃん。

 

「桔梗ちゃん? あ~もしかして櫛田桔梗先輩のこと?」

 

「しらばっくれるのが上手いね。隠しても良いことないよ? どうせ最後にはバレちゃうんだし」

 

「最後にはってことはまだ確証までは得てないってことですよね。じゃあ知らないかなぁ」

 

「ユキちゃんの時は現場にいたんでしょ? 計画犯なのか実行犯なのか。それとも共犯なのか教えてほしいなぁ」

 

「だから知りませんってば。先輩ってばしつこいですねぇ」

 

「──ふーん、そっか。じゃあホワイトルームのことは教えてくれる?」

 

「は?」

 

 ああ、やっぱりそこに繋がりがあるんだ。

 掴んでる情報を小出しにして揺さぶってみたけどこの単語が1番反応が大きい。動揺が隠しきれてないし心底驚いてる。──ならこれはどうかな? 

 

「綾小路先生……綾小路くんのお父さんの綾小路篤臣のことも知ってるよね?」

 

「いやいや……南雲先輩その質問は……」

 

「何かおかしかったかな?」

 

「おかしいよ。なんで部外者の南雲先輩がそれを知ってるの?」

 

 部外者。それ。と来たか。

 つまり外部の人間じゃ絶対知ることのないような秘密の場所ってことだね。綾小路篤臣の名前にも反応したし、ホワイトルームと綾小路篤臣には関連性がありそうかな。

 その上で綾小路くんと天沢ちゃんもそれぞれ関係がある。帆波ちゃんから聞いた単語から考えるに……2人がそのホワイトルームで出会った。

 いや、違うね。綾小路くんは天沢ちゃんのことを知らなそうだった。ということは……施設は同じでも別の場所か、別の時期にいたみたいなことかな。

 なるほどね。結構絞り込めてきた。……じゃあ次はこういう意味深な呟きはどうかな? 

 

「……やっぱり綾小路くんを退学させようとしてるのもそれが関係してる、か」

 

「……もしかして……あの月城が話したってこと? 南雲先輩、月城に引き込まれたの?」

 

 ……引き込まれた、ね。なるほど。確かに間違いじゃないけどさ。

 ホワイトルームという単語を出したのが月城理事長代理で綾小路くんを退学させようとしてる。これだけで何となく図式は見えてきたけど天沢ちゃんのちょっとした発言でそれが更に補強された。

 この話の流れで天沢ちゃんが引き込まれたという言葉を使ったのは、天沢ちゃんもまた月城が綾小路くんを退学させるためにこの学校にやってきたことを知っていて、更に天沢ちゃんがそのために送り込まれた人材であることも自らの口から説明している。

 単純にこの学校に入学して綾小路くんを退学させる試験を言い渡されただけであれば引き込まれたなんて単語は使わない。そもそもあの非公式な特別試験が言い渡された場には私もいた。なので私がそれを知ってるのは必然だ。何もおかしなことじゃない。

 ただホワイトルームとの関連を匂わせたことでそれらが繋がった。

 

「オッケー。もういいよ天沢ちゃん。結構理解できたし、後はゆっくり休んでね」

 

「待ってよ先輩。先輩はどこまで知ってるの?」

 

「悪いけど教えられないかな。急に殴りかかったり私の友達に怪我を負わせる危険人物だし。自白してくれるなら考えなくもないけどね」

 

 私は天沢ちゃんとの質問には応えない。材料を与えない。

 私がどれだけの情報を握っているか。これもまた重要な情報だ。こうするだけで天沢ちゃんは勝手に私を警戒するし恐れる。下手に触れてこないし、触れるとしても慎重になる。

 おまけに今後も情報を抜き取りやすくなるかもしれないしね。とりあえずこれでほぼ黒だね。少なくとも無関係じゃないし、これで更に絞り込めた。犯人候補は2人ってところかな。

 

「それじゃあね。綾小路くん厄介ファンの天沢ちゃん。私からの要求はまだ取っておくからさ。期待して待っててねー」

 

「ちょっと……!」

 

「それじゃお大事にー」

 

 私は天沢ちゃんに笑顔で手を振って部屋から出ていく。天沢ちゃんは追いかけてこない。困惑し、思考し、答えが出ないながらも冷静になり、そして警戒する。天沢ちゃんのここからの思考パターンはこんなところかな。

 とりあえず聞きたいことは聞き終えたし、これで天沢ちゃんに用はない。なので次の予定に向かおう。別の人物への尋問はまた明日かな。

 

 

 

 

 

 2周間にも渡る無人島試験を終え、多くの生徒は豪華客船での休暇を満喫しようとしていた。

 オレもまた3年生からの厄介な視線を受けながらも気にしすぎないように努めてバカンスを楽しむことにする。

 完全に南雲兄側についた桐山の話ではオレが関与したことで指揮系統が乱れ、2年生に表彰台を全て奪われたことでオレを狙っているらしい。

 後変わったことと言えば医務室で須藤と共に腕を怪我した池の見舞いに行ったことか。篠原が池を看病していたが、あまり囃し立てる空気でもなかったことや、Aクラスの姫野ユキが多くのクラスメイトからの見舞い品に若干困っていたこと。オレが「随分と慕われてるな」と言ったら「うちのクラスはこうだから。こんなに貰っても困るんだけど」と若干呆れ気味だった。嬉しくないわけではなさそうだったが。

 

 それと1日目の夜には堀北からクラス全員に向けてとあるお知らせと言うべきか、誘いが届いていた。

 オレは同室の三宅明人に本堂遼太郎、宮本蒼士と共にその連絡を見て自然とそれについて話し合う。

 

「なあAクラスとの合同お疲れ様会……どうする?」

 

「どうするって……参加するかってことか?」

 

「いや参加はするだろ! AクラスだぞAクラス! ってことは……麗ちゃんと一緒に過ごせるじゃねえか!」

 

「だよな!」

 

 本堂が興奮したようにそう叫ぶと宮本も同じ様に同意した。

 明人はその反応に若干呆れ気味に応じる。

 

「おまえら……よくそんなお熱になれるな。一応向こうはAクラスのリーダーだぞ?」

 

「いやいや、そうかもだけど麗ちゃんはマジでヤバいから! 普段からめちゃくちゃ親しみやすいしよ」

 

「ゲームとかアニメの話題もすごい食いついてくるもんな。たまに話題の作品のことでチャット送るとすげぇ盛り上がったりして。いやーまた遊びてぇ」

 

「遊んだことあるのか?」

 

「1回だけゲームしに来てくれたことあんだよ。あん時は俺と遼太郎に寛治と博士でな。すごい良い香りがしてよ」

 

「おまけにゲームもかなりうまかったよな」

 

 本堂と宮本は南雲の話で一通り盛り上がるとすぐ様参加希望のメッセージを堀北に向かって送ったようだ。お店は予約する必要があるため、事前に人数を把握しなければならないのだろう。出来れば今日中に参加する人は連絡してほしいとメールには書いてあった。

 

「お疲れ様会か……」

 

「清隆はどうするんだ? 1人5000ポイントって結構だよな」

 

「そうだな。ただ本来は1万ポイントするみたいだ。半分は堀北が払ってくれるんじゃないか?」

 

「え、マジ? 堀北さん太っ腹じゃん」

 

 オレはこの船のパンフレットで見た情報を思い出しながら補足する。南雲と堀北が企画したと思われるAクラスとDクラスの無人島お疲れ様会の会場であるレストランは1人1万ポイントと予約が必要な本格的なグリルレストランだ。国産の和牛や新鮮な海鮮や野菜を焼いて提供してくれるらしい。

 それを半額の5000ポイントで楽しめるなら安いものだろう。堀北の出費も5000ポイントなら仮にクラス全員が参加しても19万5000ポイントで済む。

 無人島で1位を取ってプライベートポイントを得た堀北なら十分に支払える額だ。

 

「俺はあまり気が進まないけどな。ただ……清隆や波瑠加たちが参加するなら参加する」

 

「なら聞いてみるか」

 

 明人がそう言うのでオレは携帯でそのままグループチャットに連絡を入れる。すると啓誠からもちょうど『お疲れ様会どうする?』と連絡が来ていた。

 そしてそれ以外にも愛里が『参加したいかも……』と真っ先に表明する。波瑠加もそれを見て『愛里が参加するなら私も参加しようかな。ゆきむーたちも来なよ』とチャットしていて。

 

「どうやら参加することになりそうだな」

 

「ああ」

 

 明人は息をつきながらもグループの皆が参加するということで参加希望を堀北に送る。

 オレも少し迷ったが参加すると堀北にチャットを送ることにした。

 

 

 

 

 

 そうして3日目。オレは昼食の場所を求めて船内を彷徨っていた。

 6階の船首に近い場所で七瀬と軽くやり取りを交わし、船の中に戻ったところ争うような声が聞こえてきた。

 声を頼りに5階のラウンジに足を向けるとそこには見覚えのある人物がいた。Cクラスの真鍋志保、藪菜々美、山下咲希。昨年の船上試験で恵を虐めていた3人だ。

 そしてその3人を相手に揉めているのはDクラスの男女のグループ。的場信二、森重卓郎、福山しのぶ、六角百恵。その4人は立ったまま席についている真鍋たち3人と言い合いをしている。

 

「だからどいてくれ。そこは俺たちが座ろうとしていた席だ」

 

「はぁ? そんなの知らないし。空いてるから座っただけなんですけど」

 

「荷物が置いてあっただろ!」

 

「荷物~? そんなのあったっけ? 見た?」

 

「見てなーい」

 

「あれじゃない? ほら、壁の方に置かれてるやつ」

 

「あ、ほんとだ。あんたたちの荷物ってあれでしょ? だったらあそこに座ればいいじゃない。地べたとか落ちこぼれのDクラスにはお似合いの場所でしょ?」

 

「あはは、言えてる~」

 

「おまえらな……!」

 

 どうやら席の取り合い。Dクラスの的場たちが真鍋たちが座っている席に荷物を置いていたが、それをどかした上でそこに座り込んだ。そのことに抗議しているといった状況のようだ。どちらが正しいかと言えば間違いなく的場の方だろう。直前にショッピングでもしていたのか。その荷物を壁際に敢えて置くなんてことはしない。すぐそこのカフェテラスでランチを注文し持ってくるために荷物で席を取っていた、というところか。

 多少不用心ではあったが周囲には他の生徒もそれなりにいるため、置いた荷物を盗むなんてことはまずないだろう。もし行ってもすぐにバレる上、重大なペナルティを学校から科せられる可能性がある。

 ただ真鍋たちは的場たちの荷物を壁際に移動させ、そこに座り込んだ。その上でDクラスの面々を挑発している。男子相手にも物怖じしない様子を見せる真鍋たちだが、昨年の船上試験では恵のことを町田や啓誠に注意されると渋々引き下がっていた。

 それを思えばこのやり口はおそらくだがCクラスの仕掛けの可能性が高い。その証拠に、ある程度揉めたタイミングで真鍋たちの下に1人の生徒が現れた。

 

「随分と騒がしいじゃねぇか。俺のクラスメイトに何か用か?」

 

「龍園……やっぱりおまえの嫌がらせか……」

 

「嫌がらせ? 何の話だ。おい、真鍋。何があった?」

 

「聞いてよ龍園くん! このDクラスの人たち、席を取られたとかどうたらどうでもいいことで突っかかってきて……!」

 

「席を取ったのはおまえらの方だろ!」

 

「なるほどな。おいおまえら、それくらい譲ってやれ。どっちが席を取ったのか知らねぇがDクラスの落ちこぼれ共は態々空いてる席に座らず些細なことでこうして因縁つけてくるくらいには余裕がねぇんだからよ」

 

「だから因縁つけてきたのはおまえらの方だろ……!」

 

「悪いが俺にはそうは思えねぇな。俺はクラスメイトとして真鍋たちのことはよく知ってるが真鍋は人の席を横入りするような奴じゃねえ。俺はクラスのリーダーとして真鍋たちを擁護させてもらうぜ」

 

 以前恵へのイジメを楽しんで行っていたことを知っているオレにしてみれば白々しいことこの上ない。龍園も承知の上で真鍋たちを擁護する。

 この一連の流れはDクラスへの挑発を目的としたものだろうな。

 しかし周囲には人の目もあるし、騒ぎ立てたことで人の目も集まってきた。それを見てか、龍園は的場たちが発言する前に真鍋に指示を出す。

 

「ただこうも揉めるとせっかくの楽しいバカンスが台無しだ。おい、真鍋。おまえらも席を譲ってやれ」

 

「言いがかりつけてきた相手に席を譲るの?」

 

「ああ。時間の無駄だ。とはいえおまえらも言いがかりを付けられたまま一方的に席を譲るんじゃ腹の内が収まらないだろう。俺が小遣いをくれてやるからそれで納得しろ」

 

 そう言って龍園は携帯を操作し、真鍋たち3人のプライベートポイントを振り込む。真鍋たちは画面を見て驚きを見せた。

 

「え、嘘? 2万ポイントもくれるの?」

 

「龍園くんありがとう!」

 

「さすが龍園くん。どこかのDクラスの生徒と違って器が広いね」

 

「気にするな。そのポイントはそこのDクラスの連中から貰ったポイントだからな」

 

「く……おまえらだって大してクラスポイントは変わらないだろ」

 

「数字の上ではな。だが元AクラスがDクラスにまで落ちたのとCクラスを維持してる俺たちとじゃどっちが格下なのかは分かりきってるよな?」

 

「それは……!」

 

「ほら、席が空いたぜ。座れよ」

 

 龍園の指示で真鍋たちが席を空ける。そこにお望み通り座れと告げられ、的場たちは歯噛みしながらも席に座ることはせず、黙って荷物を持ってその場を後にした。

 

「言いがかりをつけといて退散とは情けねぇな、Dクラス。無能が頭を張ってるだけあってその下も無能ってわけか」

 

 龍園の最後の言葉の追撃が的場たちの背中に突き刺さる。

 ラウンジを立ち去る的場たちが何を思っているかはその悔しそうな表情が物語っていた。

 どうやら既に龍園の攻撃は始まってるみたいだな。

 龍園もオレには気付いたようだが声を掛けてくることなくこの場を立ち去ったため、オレもまたラウンジを後にした。

 

 そうしてオレはまた当てもなく船内を彷徨い、適当な場所を見つけると手早く昼食を腹の中に収めた。




今回はこんなところで。次回は尋問パートその2と綾小路くんと色んな人のやり取りです。お楽しみに。

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