シンビオートに寄生されたけど、意外とへいきだった 作:たるたるそーす
「久しぶりだな、ここに帰ってくるのも」
「ああ、そうだな」
ヴィジョンとワンダ、そしてエディとヴェノムを連れ、クインジェットで基地へと辿り着いたスティーブ達。ソコヴィア協定による影響か、基地に滞在している職員はほとんどおらず、何事もなく廊下を進んでいく。エディ達は物珍しそうにあたりを見渡していた。
そしてローディが待っている部屋へと入ると───
『キャプテン!よく戻ってくる事が出来たな……!』
ローディは勿論いたが、空中に浮かぶディスプレイには協定を推し薦め、スティーブ達を嫌って国際指名手配犯に指名したロス長官の顔が映し出されていた。
『ダルそうなヤツだな』
「ああ、それには同感だ」
『黙れっ!なんなんだお前達は!?とにかく!ローズ、早くこいつらを捕らえろ!』
「ええ、任せてください長官」
ローディはそう言うと、即座にディスプレイの電源を切り落とした。これでうるさい奴がいなくなってくれた。
「悪いな、なかなか話が終わらなくて……いや、それよりも久し振りだなみんな!会えて嬉しいよ…知らない顔もいるが」
「ああ、彼は助っ人なんだ。きっと力になる」
ローディとサムが手を握って再会を祝い合う。だが、状況も状況なためスティーブが本題に入ろうと声をかける。
「ローディ、バナーは着いてるか?」
「……こっちだよ、スティーブ。みんな、心配かけてごめん。でもこうしてまた会えて良かったよ」
奥のドアから顔を覗かせ、現れたバナーはスティーブ達との再会を喜んではいるものの、初めはどこか元気がなかった。
自分と因縁のあるロスがいつの間にかアメリカ国務長官なんて立場になっており、ソコヴィア協定の事もあって今後もその立場を利用して何をしてくるのか不安なのだ。
「あっ……ナ、ナターシャも……その、会えて嬉しいよ」
「え、ええ。私も嬉しいわ、ブルース」
「髪、金色に染めたんだ。すごい似合ってる」
「ありがとう。ちょっと色々あってね」
「気まずいな…」
ナターシャとバナーは以前までいい雰囲気ではあったが複雑な別れ方をしたため、ギクシャクしていた。
「バナー、大体は話で聞いたがもう一度話してくれないか?事情を知らないメンバーもいるんだ」
「ああ……勿論だ。じゃあ、まずはウルトロンとの戦いの後、僕がどうしてたかだけど──────」
バナーはこれまでの事を話した。
二年間もハルクのままで、サカールという星の闘技場でチャンピオンとして君臨していたかと思いきや、そこで偶然再会したソーと一緒にアスガルドをソーの姉であるヘラから守る為に戦う……。
結局はスルトと呼ばれる化け物のせいでアスガルドはヘラもろとも崩壊してしまったが、残ったソーやバナー、その他の仲間やアスガルド人は地球を目指して旅立った。そこでサノスが現れて──────
「ソーがやられた……?」
「ソーが死んだかは分からない。でもサノスに手も足も出ずに負けたのは事実だ」
ヘラのせいでムジョルニアを失っていたとはいえ、ソーが敵に完敗した……その事実に他のメンバーはひどくショックを受けていた。しかし、いつまでもそうしている訳にもいかず、地球の戦力なども踏まえて現在の状況を整理していく。画面にはヒーロー達の顔と名前が浮かび上がった。
「サノスの脅威は分かった。ところでストーンの所在が分かってるのはサノスが持つパワー、スペース。ヴィジョンが持つマインド。そして────」
「スタークとパーカーとワタルという日本人、それとストレンジっていう魔術師が持ってるタイム・ストーンか」
「アリ男もいるのに、クモ男までいるのか…」
「待て、今ワタルって言ったか?」
「知り合いか?」
「ああ、似たような境遇なんだ」
『あいつらもこの祭りに参加してるとはな』
話に入れず、静かにしていたエディが聞き覚えのある名前に反応する。
ワタルと顔見知りである事を明かし、軽く説明をした。
バナーはエディから出てきたヴェノムを見て、確かに同じようなものが彼にも憑いていたなぁ、と納得していた。
「残りのリアリティとソウルに関しては誰も知らないか……」
「でもとりあえず、ヴィジョンだけでも守る事が出来れば絶対にストーン全部は集まらない。そうでしょ?」
「そうだな、ヴィジョンを守る事に集中すればいいからな」
「ああ、いいんじゃないか?」
ナターシャの提案にローディやサム、その他のメンバーも賛成する。だが当の本人であるヴィジョンは暗い表情であった。
「どうしたの、ヴィジョン?」
「……それよりも私ごとストーンを破壊する方が確実だと思われます」
「なっ……!?」
ヴィジョンの言葉にみんなが驚く。
スティーブ、ナターシャもその方法は考えてはいた。だが仲間であるヴィジョンを失うわけにはいかないと、口に出さなかったのだ。
「ヴィジョン……お前、犠牲になる気か?」
「私を守ろうとすれば間違いなく多くの犠牲者が出ます。あのブラック・オーダーという敵は決して侮れません。それに……」
ヴィジョンがサノスの手先に刺された腹に手を置く。同じストーンの力を持つワンダに治してもらったみたいだが、完全に元通りになったわけじゃなく少し調子が悪いらしい。
「駄目よ、ヴィジョン!そんな事、絶対に駄目よ!」
「……もしも私ごとストーンを破壊するならワンダが適任でしょう。私と同じストーンの力を持っていますから可能な筈です」
「……ヴィジョン!お願いだからその話をやめて!!」
ワンダの能力が無意識に少し発動したらしく、周囲の植木や棚が浮かび、倒れていった。その事でワンダは一気に冷静になり、わたわたと困惑し始めた。
「ご、ごめんなさい、私……!」
「落ち着いて、ワンダ。大丈夫だから」
『なんだ今のは!?』
「おいおい、今勝手に物が動かなかったか?」
申し訳なさそうに謝るワンダにナターシャが宥め始める。
ワンダの念動力のようなものを初めて見るヴェノムとエディはとても驚いていた。
「とにかく、ヴィジョンを破壊するというのは他に手段がなくなった時の最後の方法だ。バナー、ストーンをヴィジョンから外す事は出来ないのか?」
「……ストーンをヴィジョンから無理やり外せば、ストーンから力を供給してる彼は完全に機能停止する。でも掛かってる鍵を一つずつ外していけば……可能かもしれない」
スティーブがヴィジョンを軽く咎めた後、他の方法がないのか、バナーに聞く。
すると、バナーの返答にヴィジョンとワンダが振り向き、みんながバナーを見る。
全員から視線を向けられてるバナーはあまりの期待の大きさに耐えきれなかったのか、手を振って慌て出した。
「あ、あくまで可能性の話だ!でもヴィジョンはJ.A.R.V.I.S. 、ウルトロン、トニー、僕、色々なものが混ざり合って生み出された。だからストーンが欠けても、他の要素が補い合って、そこにストーンとは別のエネルギーを供給できれば……」
「それはここで出来るの?」
「いや……ここの技術じゃ難しいかもしれない。それに鍵は僕とスタークで掛けたんだ。だから僕ともう一人、スタークと同じ位の科学者がいれば……」
スタークやバナーレベルの科学者はそうそう見つからない。全員で頭を悩ませながら思考しているとエディが口を開いた。
「なぁ、優秀な科学者がいるかは分からないんだが、最近開国したあそこなら最新技術がそろってるんじゃないか?」
「ワカンダのことか?」
「そうだな、ワカンダならいけるかもしれない。それにあそこには彼もいる…」
希望が見えてきた面々はそれに賛同し、ヴィジョンのストーンを外すため、ワカンダへ向かうこととなった。
『良かったなエディ。天下のアベンジャーズ様に意見が通ったぞ』
「まあ、切羽詰まった状況らしいからな。なんとか良い案が出せて良かったよ」
それにワカンダは一度行ってみたかったんだ、とエディは溢した。
場所は変わり、宇宙船内。
俺たちは今スタークさんと共に、ストレンジさんを拉致したヤツの宇宙船の中にいた。
俺は狭い通路を歩けるように一旦身体を元に戻す。しかし、ブラストの顔はしっかり出ており、背後を警戒してくれている。
スタークさんは公園で共にいた綺麗な女性、ペッパーさんと連絡をした時からスーツのマスク部分を外しており、小さな声で喋る。
「ここからじゃあ、まだドクターが見えないな。もう少し近づこう」
俺たちも無言で頷き、ストレンジさんとイカ野郎がいる場所の少し上のエリアに来た。
そこから様子を見ると、ストレンジさんはイカ野郎に拷問されているようだった。
顔に無数の針のようなものを刺されそうになっており、タイムストーンを力づくで奪えないと分かったヤツは彼に苦痛を与えて、自らストーンを渡すまでそれを続けるつもりなのだろう。
すぐに助けようと、ここから飛び降りようとしたその時。
突然スタークさんの肩を何かが叩いた。
咄嗟に振り向き、スタークさんはリパルサーを俺たちは触手を向けたが、そこにいたのはストレンジさんのマントだった。
意思があるようで、両手を上げているようなポーズをとる。
俺たちが構えるのをやめると、マントも両手?を下ろした。
「これはまたご主人に忠実だな」
「すごいなこのマント」
俺とスタークさんが呆れと関心が混じったような声をあげていると、目の前に何かが降りてきた。
再び俺たちが構えようとすると、
「ま、待った。僕だよ!だから撃たないで!」
そこにいたのは新しいスーツに身を包んだスパイダーマンだった。
こちらに気づいた時にマスクを外したようで素顔が見えている。
どこかで見たような気がするが気のせいだろう。
それよりもあまりの若さに驚き、この若さならスタークさんが心配するのも当然だなと思っていると、
「ピーター!?なんでここにいる?F.R.I.D.A.Y.に頼んで家まで帰したはずだが」
「違うんだよ、僕はあの人を追ってただけで……というかあなたのせいでここにいるっていうか…」
「今なんて言った?」
「あ、いや、やっぱ取り消す。とにかく、ここは宇宙なんだよね…」
スタークさんはそう言ったがスパイダーマンは華麗に受け流す。そのまま話を続けようとする彼にスタークさんは咎めるように言う。
「片道切符なんだぞ。訊いてるのか?考えたようなふりをするな」
「考えたよ!でも、“親愛なる隣人”でいたくて。変なこと言ってるの分かってるけど、言いたいこと分かるよね?」
少しキツく言われたがスパイダーマンも彼なりの言葉で自分の考えを紡ぐ。
それを聞いたスタークさんはまだ不満はあるようだったが、とりあえずは納得したようだ。そろそろ本題に戻りたいため口を挟む。
「よし、そろそろストレンジさんを助けたいんだが、いいか?」
「ああ、そうだな。囚われの魔術師を助けるとしよう」
「そうだね…でも、ごめん。また話変えちゃうかもしれないんだけど、気になったからいうね。あなたって僕とどこかで会った事あるよね?」
「え?」
スパイダーマンが突然そんなことを言ってきた。
「いや、やっぱり勘違いかも…その赤い生き物?がついてる知り合いは僕にはいないし」
ブラストを見ながら彼はそう言う。しかし、ブラストは覚えていたようで、
『いや、会ったことがあるぞ。お前、俺たちが行った高校の生徒だろ?ほら、廊下に突っ立ってた時に話しかけてきた』
それを聞いた彼も思い出したようで、
「ああ!あの時の迷子の人!!」
「だから、迷子じゃないって」
そのやり取りで俺もようやく思い出すことができた。まさかあの時の彼がスパイダーマンだったなんて…。
「あらためて、俺は今宮 亘だ。ワタルでいい。よろしくな」
『俺はブラストだ』
「僕はピーター・パーカー。ピーターでいいよ」
自己紹介も踏まえてそんな事をしていると、
「なんだ、知り合いだったのか?だが話は後だ。ストレンジを見てみろ。やばい状況にある。さあ、どうする?」
スタークさんが仕切り直すように声をかけ、作戦を練る。
「そうだね、えっと、よし。すごい昔の映画だけど、“エイリアン”って見たことある?」
ピーターがそう言ってきた。
なるほど中々いい案だ。
しかし、エイリアンはそれほど昔の映画だろうか…?そんな事を思いながらも細かい計画を立てていく。
「うぁぁぁ!?うぅぅ…」
「どうだ?苦しいだろう。ストーンを渡す気になったか?」
ヤツはストレンジさんの顔に針を突き刺し、拷問を続けていた。彼はあまりの苦痛に呻き声を漏らす。
だが、そこにスタークさんが飛び降り、イカ野郎の背後に立った。
「ほぉ、仲間を助けに来たのか?」
『そいつは仲間じゃない。プロとして助けない訳にいかないだけだ』
そう言ったスタークさんはリパルサーを奴に向ける。
それに気を取られたヤツは俺たちの行動に気がつかなかった。
ブラストに身体を預けた俺は宇宙船の壁を爆破し、穴を開ける。
「あああぁぁぁ!?」
船内と宇宙とを隔てる壁がなくなったため、宇宙船の空気が宇宙空間に勢い良く出ていく。その勢いに流されたヤツは突然の事に何も出来ず、そのまま宇宙へと投げ出されていった。恐らくもう助からないだろう。
当然、拘束されていたストレンジさんも身動きが取れず、吸い込まれそうになる。彼のマントが必死に引っ張ろうとするも、あまりの勢いにそのまま飛ばされてしまった。そこでピーターが彼に糸を付け、流されないように目一杯踏ん張る。
それでも徐々に流され始めてしまうが、彼の背中から蜘蛛の足のようなものが伸び、しっかりと身体を支えた。
『いいぞ、そのまま!』
スタークさんが空いた穴をスーツの機能を用いて塞いでいく。
俺たちも引っ張るのを手伝い、なんとかストレンジさんを船内に留める事ができた。
宇宙船の中には他に敵もいないようで少しホッとしていると、スタークさんがストレンジさんに語りかける。
「何か言う事はないのか?礼でも言ったらどうだ?ほら」
「なんの礼だ?私を宇宙に飛ばしかけた事への?」
「誰が助けてやったと思ってる!?」
『おいおい、やっとひと段落ついたのにもう喧嘩か?』
俺は2人と話したのは少しだけだが、それだけでもプライドがとても高い事が分かった。そんな2人がいがみ合うとこんなにうるさいのか…と呆れながら眺めているとピーターが気まずそうに
「あの、僕達もいるんだけど…」
「そっちの腹話術コンビはまだいいが、君は密航者だ。子供は黙っていろ」
そう言ったがスタークさんもストレンジさんとの口論で頭に血が昇っているらしく、ピシャリと彼に言った。
それを見たストレンジさんは困惑したように続ける。
「すまない、私は彼の事がよく分からないんだが?」
「ああ、自己紹介がまだだったよね。僕はピーター・パーカー」
「…ドクター・ストレンジだ」
「あ、そっち?それじゃあ、僕はスパイダーマン」
はぁ…とため息をつきながらストレンジさんは話を変え、地球に戻るように提案してきた。
「このデカいドーナツを操って地球に帰れないか?」
『コイツを運転するんだったら俺がやるぞ。多分なんとかなる』
「まじかブラスト。本当にできんのか?」
ブラストが自信ありげにそう言ったので、早速操縦桿のようなところへ行くと、スタークさんに声をかけられる。
「待て、地球には帰らない」
「どういうことだよスタークさん?地球に帰らないって言ったのか?」
「ああ、このままサノスのいる場所に向かう」
突拍子もない発言に驚き、そう聞き返すも彼は平然と答える。すると、ストレンジさんが呆れたように言う。
「分かっているのか?サノスは強敵だ。タイム・ストーンを奪われる訳にはいかないんだぞ?」
「分かってないのは君の方だ、ドクター。サノスの事はもう6年も考え続けた。バナーの話じゃあいつはまだストーンを二つしか手に入れてないと言ってた。なら、他のストーンを集められる前に倒すのがいいはずだろ」
こっちからサノスを倒しに行こう、ドクター。とスタークさんが言うと、ストレンジさんはしばらく悩んだ後こう言った。
「……いいだろう。だが、タイム・ストーンを守るためだったら、私は君と少年、そして彼らの事も容赦なく見捨てる。仕方ないな?」
「ああ、その代わりストーンはしっかり守ってくれよ」
ストレンジさんはストーンを守るためなら俺たちの命を見捨てると言った。
それで地球が助かるなら俺は別に構わないが、ナナセの事が気がかりだな…と胸ポケットに手を当てながら考えているとスタークさんがピーターの方にやってきた。
「パーカー、これからボク達はサノスと戦う。もしかしたら死ぬかもしれない。君にその覚悟はあるか?」
「……うん、あるよ。そいつを倒さなきゃ地球どころか宇宙が危ないんだもんね。僕がスタークさん達の助けになれるか分からないけど……」
「それなら君もアベンジャーズの一人だ。歓迎するよ、ピーター・パーカー」
「っ……はい!」
スタークさんはピーターを激励するためにも正式にアベンジャーズとして迎え入れたようだった。ピーターの決意に関心しながらそれを眺めていると、こちらの視線に気づいたようで話しかけてきた。
「なんだ?君たちも入りたいのか?」
「いや、俺たちはそんな柄じゃない」
『見せ物になるつもりは毛頭ないからな』
「おい!ブラスト!」
「大丈夫だ、慣れてる。まぁ、入りたいと言われてもこちらから断る気だったが。改めて、君たちもよろしく」
と言って握手を求めてきた。それに快く応じるが、なぜか力を入れてきており結構痛かった。やっぱりブラストの発言に怒っていたのだろうか。
その後は宇宙船の自動操縦でサノスが待つ場所へと向かう事になった。
俺は少し前の出来事を振り返る。
宇宙人で悪人だったとはいえ、イカ野郎を殺してしまったという事実に複雑な気持ちになる。だが今考えるべきは地球の命運だな、と気持ちを切り替えてサノス打倒を心に決めるのであった。
そろそろインフィニティウォーも終盤に向かっていきます。
伝え忘れてましたが感想、評価等していただた方々、
本当にありがとうございます!とても嬉しいです!!励みになります!
引き続き頑張っていきますのでよろしくお願いします!!