シンビオートに寄生されたけど、意外とへいきだった 作:たるたるそーす
女性が連れ去られる事件が起きた数日前。自宅でチョコを咥えながら、首から生えてきているブラストにライターの火を食べさせていると、携帯電話が鳴った。画面を見た後、そっと机の上に置き直した。
『おい、出なくていいのか?』
「これは出なくていい電話だ」
『そうなのか?まぁ、そんなことよりこの火は美味いな!このライターどこのだ?高級品だろ!』
「コンビニ」
また着信音が鳴り響く。
「チッ……もしもし、何だよナナセ。俺は忙しいんだけど?」
『ちょっと!あんた今舌打ちしなかった!?私と話すの嫌ってわけじゃないでしょうね!!』
先程から電話をかけていたのは、腐れ縁の幼馴染の星河七星だった。ナナセは実業家の父をもつ、お金持ちのご令嬢だ。彼女が通っている大学も、その父の会社が建築に携わっているそうだ。清廉潔白、不正や曲がった事が嫌いな性格で、俺とは大違いだ。
『まったく、もう…最近連絡ないから心配してたんだから…』
「はいはい、ありがとさん。んで、どうしたんだよ。何か用事でもあったのか?」
『ああ、そうそう。実はね、アンタにまた仕事を頼みたいのよ。』
「おい、そんなことしていいのか?最近仕事もらいっぱなしだぞ?俺なんかに頼んでいいのか?」
『いいの!パパだって、ワタルは仕事も丁寧で求めていた以上の事をしてくれるって言ってたんだから!それに、私が仕事を斡旋しないとアンタお金なくなって、飢えちゃうんじゃないかって心配で……デザイナーの仕事、私からもらった仕事以外である?』
「あ、あるさ…2件くらい…」
電話口からため息が聞こえた。俺はデザイナーの仕事をしているが、ほぼナナセの父親の会社の仕事を引き受けて生活している。そのため彼女の父親には本当に頭が上がらない。
「分かったよ…。でも、わざわざナナセが説明してくれなくとも、ナナセの親父さんの会社の人に任せちゃえばいいんじゃないか?ナナセだって大学もあるし、歌の練習もするんだろ?」
ナナセは歌手になりたいらしく、普段から歌の練習をしたり、ネットに歌を投稿したりしており、ちょっとした有名人になっている。俺はそんなナナセに気を遣ってそう言ったが、
『なに?私じゃ嫌なの?』
と電話越しでも伝わるくらい凄まじい剣幕で圧をかけてきたので、
「いえ、ナナセさんが良いです」
『よろしい♪』
と言ってしまった。相変わらず怖い女である。
「んで、どんな仕事なんだ?」
『うん。ニューヨークにあるミッドタウン科学技術高校に行ってほしいんだ。ワタルは今サンフランシスコにいるんだよね?もちろん移動費は払うからさ。』
「移動費は助かるが…ニューヨーク?なんでまたそんなとこに?しかも高校?」
『うん、実はそのミッドタウン高校、パパの会社が建設に関わってたみたいでね?そこで今度、色々な職業な人を集めて生徒向けの就職説明会みたいものやるみたいなの。そこにパパの会社の人と一緒に、ワタルにも出てほしいんだって。』
「んん?そんなん俺が出ても何もできないぞ?」
『それがね、年齢が近い人の意見もあった方が学生達にも響きやすいだろうって』
「そうか、そこで俺は?」
『ワタルはただ普通に話したり、質疑応答とかしてくれれば大丈夫だと思う。』
「そうか、まぁそれなら何とかなるかな。んじゃ、いつ行けば良いんだ?」
『2週間後くらいかな』
「了解。じゃあ詳しいことはメールでやり取りしよう。仕事ありがとうな、親父さんにもよろしく言っておいてくれ」
そう言いながら電話を切ろうとすると、
『待って…、本当に日本に戻ってくる気はないの?私と一緒の大学、今からでも一緒に通おう?』
「…悪いな、これ以上迷惑はかけられないし、案外この仕事気に入ってるんだ」
『そっか…、ワタルが決めたことだもんね。』
「ああ。」
『ねぇ、最後に一つだけ聞いていい?』
「なんだ?」
『ワタルの夢は何?』
「夢?俺の?」
『そう。ワタルには目標がないように見えるの。だから、もし何かあったらいつでも相談して?私はワタルの力になるから!』
「ナナセ……」
「お前は本当に優しい奴だな」と言おうと思ったが、それはやめた。彼女はお金持ちのお嬢様だが、性格は曲がっていないし、何より凄く優しくて、いつも人の事ばかり考えている。だからこそ、彼女の負担になりたくない。それに、彼女の優しさに甘えてしまったら、俺は本当にどうしようもなくなってしまう。
「いや、何でもない。とりあえず仕事頑張るわ。色々ありがとな。」
そう言って電話を切る。
ナナセとは小さい頃からよく遊んでいた。昔からお節介焼きで、俺のことを気にかけている。ナナセは本当に優しい女の子だ。だけど、そのせいで彼女まで不幸になってほしくないし、その事で彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。
だから、俺はあの事件の後、進学を断念して日本を離れ、デザイナーとなった。そして今はアメリカで奇妙な相棒と生活している。こんな人生も悪くないだろう、と黄昏ていると、電話の間ずっとライターの火を食べて、静かにしていたブラストが
『また例のオサナナナジミか?』
「幼馴染な…ああ、本当、良い奴だよ」
『そうか、なら早く付き合え』
「はぁ!?」
ブラストがとんでもない事をいいだすので、思わず大声をあげてしまった。
『ナナセはワタルに惚れている。そしてワタルもナナセに惚れている。ラブラブカップルの完成だ』
ブラストは5つの目を細め、ニヤニヤと笑ってくる。
「ちげぇよ!ナナセには俺みたいな奴じゃなくてもっと良い奴がいるだろうし…ってか俺もアイツのことそういう目で見てねぇし!」
『はぁ、そんなんだからまだ童貞なんだぞ』
「うるせぇ!!」
ブラストは時々こういう下世話なことを言い出す。全く困った相棒である。
『まあ、とりあえず、ナナセのためにも仕事をこなすぞ』
「へいへーい、分かったよ。とりあえずメールで詳細聞くか……」
そのまま準備が着々と進み、ついにミッドタウン科学技術高校に行く日となった。現在はもうニューヨークに着いており、ナナセの親父さんの会社の人と合流し、軽い打ち合わせを行っていた。そのままミッドタウン高校へと行くと、様々な人種の生徒が在籍しており、これなら日本人の俺もさほど目立たないだろうと、内心ほっとした。
「それではワタルさん、本日はお願いしますね。」
「はい、若輩者ではありますが誠心誠意努めさせていただきます。」
『お前本当にワタルか?なんだその丁寧な口調は?』
この学校の理事長らしき人に挨拶をしていると、ブラストが茶々を入れてきたので小声でうるせぇ、と言い、舞台袖へと向かう。するとそこには先程まで一緒にいた人達がいて、軽く話した後、それぞれの持ち場につく。いよいよ説明会が始まり俺の番が回ってきたが、段取り良く進める事ができ、質問にもスムーズに答える事ができた。生徒達の反応も悪くなさそうで安心した。
その後は、ぜひうちの生徒の学校生活を見ていってほしい、と先生方に言われ見学する事にした。校舎を歩いていると、自分が通っていたわけでもなく、ましてや外国の学校だというのに、不思議と懐かしい気持ちになった。しばらく佇んでいると、
「あの、大丈夫ですか?もしかして迷子?」
「ああ…いや、少しな、大丈夫。ちょっと考え事してただけさ。」
声をかけてきたのは、ふくよかな体型をした、スターウォーズの服を着ているアジア系の生徒で、隣には顔立ちの整った少し大人しそうな少年が立っていた。
「本当に大丈夫ですか?校門まで送っていきましょうか?」
「君たちはそんなに俺のことを迷子にしたいのか?俺は迷子じゃない、大丈夫だ。それより授業はいいのか?」
と俺が聞くと、2人はきょとんとしており、
「もう授業は終わりましたよ?」
「これから部活なんです」
俺はかなりの時間をここで過ごしていたようだった。心の中で、なんで誰も声かけてくれなかったんだよ、とボヤいていると、
『話しかけたらいけない雰囲気が出てたからな、だから俺も話しかけなかった』
なんだよ、それ、と思うと同時に、ついにブラストと俺が念話できるようになったのか!?と驚いていると、
『ちなみに俺はお前が何を言ってるか分かってないぞ、ただなんとなく表情から察した。』
そう言われ、がっかりしていると
「あの?どうかしたんですか?驚いたり、落ち込んだりしたりしてますけど…」
「い、いや、なんでもない。それより、そんな時間なら早くいかないと部活が始まるんじゃないのか?」
「そうだった!えと、今日はありがとうございました!説明会、すごく分かりやすかったし、すごくタメになった気がします!」
と大人しそうな少年が言い、走っていく。もう1人の少年も
「俺もすごく良かったと思います!ありがとうございました!…おい、待てよピーター!」
と言って走り去っていった。
『元気で良い奴らだ』
「そうだな、良い子達だ。」
2人の少年から心地よい感想を貰い、高校を後にする。お土産などを買い、帰ろうとしていると、どこからか悲鳴が聞こえた。
『いくぞ!』
「ああ!」
悲鳴の聞こえた方に向かうと、男が女性のカバンを無理矢理奪い、逃走しようとしていた。俺はすぐに追いかけようとしたが、その男の背中に糸のようなものがくっ付き、
「よっと…ダメでしょ?人のものを盗るのは犯罪だよ?そこで警察が来るまで待ってて」
そう言いながら、赤と青の全身タイツのような奴が男を近くのポールにくくりつける。
「いっちょ上がり!お姉さん!ほらカバン!」
そう言って女性にカバンを渡し、こちらを向いて
「お兄さん、勇気あるね!今回は僕がいいとこ取りしちゃったけど、きっとその勇気は今後も輝くよ!じゃあね!」
そう言って、どこかブラストと似たようなデザインの顔をしていたタイツ男は糸を使ってどこかへ行ってしまった。
「なんだったんだ…?なんか褒められたが…」
『遊べなかったのは残念だが、面白い奴だったな、あのタイツマン』
「ニューヨークにはあんな奴もいるのか…世界は広いな」
男も拘束され、女性も警察へ連絡しているようだったので、そのままサンフランシスコへ帰った。自宅までの道中、メールでナナセに仕事が完了したこと旨を伝えていると、
『おい、家の前に誰かいるぞ』
ブラストにそう言われ、顔を上げてみてみると、アパートの前にフードをした男が立っており、なにやらブツブツと独り言を言っていた。
「おい、やっぱりやめた方がいいんじゃないか?ここにいる奴はクレタスよりヤバいんだろ?それにここにいると、いつ警察が来るか分かったもんじゃない。」
「いや、確かにお前は良い相棒だよ、ああ、そうさ、でも上手くいくとは限らないだろ?……あん時は完璧だっただろうって?あれはアイツらが共生してなかったから…」
「なんだよ、あれ。怖すぎるだろ、なんで1人で喋ってんだ?」
『あー、そういうのブーメランって言うんじゃないか?』
永遠と独り言を続ける男を見て、少し時間を空けてから帰ろうと思い、近くの喫茶店に行こうとしていると、男がこちらに気づき、
「あぁ!君、ここの住人か?ちょっと話がしたいんだ!………最初は俺のプランで行く、いいな?お前のは最終手段だ」
最後の方はよく聞こえなかったが、無視をして喫茶店に向かおうとすると、
「お?喫茶店に行くのか?よし、俺が奢ってやる。だから少し話をしないか?な?」
「あぁ〜、人の金でする飲食は確かに最高だけど、今はそんな気分じゃないんだ。遠慮しとくよ。」
「そう言うなよ、おっと紹介が遅れたな、エディ・ブロックだ。記者をやってる。よろしくな。」
無理矢理右手を取られ、握手させられる。そのまま喫茶店に連れ込まれた。心底面倒なことになりそうだった。
なんでヴェノムがMCUにいるんだって思うかもしれませんが、作者の趣味です。ご了承下さい。
オリジナル設定として、映画ヴェノムの方とMCUの時系列をズラさせていただきました。ヴェノムの方はカーネイジ終了後、MCUはホームカミング終了後くらいです。
引き続きよろしくお願いします!