シンビオートに寄生されたけど、意外とへいきだった 作:たるたるそーす
頭の中で声が響く。
『……ろ……い!…………きろ…!』
誰かの怒鳴り声のようだ。
『…やく……お…ろ!……』
何を言っているんだ?
『おい、早く起きろ!』
今度ははっきりと聞こえた。
目を覚ますと、目の前には拳が迫ってきていた。
「!?」
反射的に顔を横に逸らして避ける。すると僕の頬を掠めて拳が床に突き刺さった。そして、すぐに起き上がり距離を取る。
俺が起き上がると同時に、その男は後ろへ飛び退いた。そうだ、俺は親父に襲われていたんだ。いや、親父に寄生したシンビオートに、か。
眠っていた脳をフル稼働し、どうするか考えていると、俺の頭の中の声が、俺を急かすように話しかけてきた。
『早くこいつを倒せ!』
何を言っているんだ、そもそもこの声はなんなんだ。そんなことを考えていると、
『俺はお前だ。そして、お前は俺でもある。理解したか?ワタル?』
分かるわけないだろう、そんな抽象的な言葉では。…いや、こいつはなんと言った?今俺の名前を呼んだのか?
『俺はお前なんだ。そのくらいの事は知ってる。脳を少し覗かせてもらったからな』
脳を覗く…?そもそもこの声はどこから聞こえているんだ?
『質問が多いな。っと、来るぞ!』
頭の中の声がそう言うと、再びシンビオートに寄生された親父が殴りかかってきていた。
「ちっ!」
俺は素早く拳を避ける。
すると、さっきまで俺がいた場所が粉々になっていた。
「くそ!なんなんだよ!!」
避けながら叫ぶ。
そして、親父の蹴りを避けた。
今度は壁に大きな穴が空いていた。
『おい!反撃しろ!』
そんな事ができたらとっくにしている。避けるので精一杯だ。
…おかしい、俺は親父の攻撃を避けられなかったはずだ。そんな事を思っていると、蹴りが飛んでくる。
『もういい!俺がやる!』
頭に声が響くと体が勝手に動き、親父の蹴りを避け、足から赤いアメーバのようなものが出たかと思えば、そのまま親父の腹部を蹴り返した。
「ぐっ……!」
親父が苦痛の表情を浮かべながら、吹き飛んでいく。
「な、なんだよ、これ…」
突然のことに驚いていると、
『お前に説明するためにも一旦ここから離れるぞ!』
そう言って、俺の身体を無理矢理動かして逃げていく。俺はそれに抗おうと必死になるが……
「くっそ! なんなんだよ!」
抵抗虚しく、俺はそのままどこかに連れていかれる。
そして、人気のない場所まで来ると急に立ち止まった。
すると、頭痛が襲ってきた。頭が割れそうなくらい痛みが走る。
「ゔゔっ!」
思わず頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。脳に莫大な情報が流れ込んでくる。すると、またあの声が聞こえてきた。
『大丈夫か?少しだけお前に俺の情報を流し込んだんだが』
「ああ…大丈夫だ…正直吐きそうだが…」
どうやら頭の中の声は俺に寄生したシンビオートのものだったらしい、名をブラストと言うらしい。俺の身体から赤くうごめくものが伸び、顔のようなものを形成する。
「お前が喋っているのか?」
『そうだ』
俺は声の主が目の前のシンビオートだと理解し、質問をする。
「なんのために俺に寄生した」
するとシンビオートは答えた。
『お前の脳にあるアドレナリンを喰らう為だ。それにお前もだいぶ弱っていた。傷も治してやったんだぞ』
言われてみれば俺の身体はどこにも傷もなく、不調はなかった。
『俺とお前は相性が良い。俺たちは凶暴な怪物のように扱われているが本来は違う。俺らは魂の闘士だ。徳のある肉体と精神の宿主と共生すれば、究極で崇高な戦士になることができる』
と、シンビオートが続けて
『お前は少し鍛えているようだが肉体は正直微妙だ。だが精神は素晴らしい素質がある。俺のパートナーになるに相応しい。』
「ふざけんな!俺は絶対に認めねぇ!」
『お前はシンビオートの力をどう思う?』
「人の命を奪う最悪な存在だ。俺の親父に寄生した奴みたいにな」
俺は目の前のコイツを見据えて言った。
『それは違う。アイツは不完全なだけだ。お前の父親と同じようにな』
「何だと?俺の親父のどこが……」
『お前の父親はシンビオートに寄生された時、同時にヤバい薬物を投与されていたみたいでな。暴力的になっているようだった。おそらくシンビオートもそれに呼応しているんだ』
「それじゃあ、俺の親父は……」
『ああ、そうだ。お前の父親はもう助からないだろう。シンビオートをどうにかしたところで、劇薬に体が耐えられないはずだ。今はシンビオートが薬物の反動を抑えているからな、シンビオートのおかげで生きているといってもいい。……お前に声をかけたとしても、それは最後の力を振り絞った結果だ』
寄生されてからも父に声をかけられた事を伝えようとするも、先にそう言われた。信じたくなかったが、シンビオートから流れ込んできた情報がその発言に裏付けしていく。
「じゃあ、どうすれば…」
『一つだけ方法がある』
「どんな方法だ?」
俺が期待しながらシンビオートに問いかけると、
『シンビオートを取り除いた後、俺がお前の親父の体に寄生する、そして薬物を抜く。簡単だろ?』
「お前を信用しろってのか?」
『おいおい、俺はお前の身体を治してやったんだぞ?それに俺はお前の事を気に入った。これからも寄生させてくれるなら父親を助けてやる』
どうだ?と問いかけてくる。親父を助けるため俺は渋々了承した。
「分かったよ……その代わり、ちゃんと助けろよ?」
『ああ、任せろ。これからよろしくな、ワタル』
「ああ、よろしく、ブラスト」
その後俺は、いや、俺たちは研究所に戻り、親父を探した。すると、すぐに見つかった。まだ暴れていたようで、こちらを見るとすぐに襲ってきた。
『よし、やるぞ!』
そう言って、俺の身体から脈々と赤いものが流れ出ていき、どんどん包まれていく。そして、怪物のような姿となり、こちらも攻撃を仕掛ける。
こちらの攻撃は当たり、あちらの攻撃は当たらない。そんな状況で、いける、と思っていると、親父の体を黒に近い緑の、液体のようなものが包み込んでいき、俺たちと似たような姿となる。
『ほお、俺たちの真似事か!かかってきやがれ!』
そして俺達に向かってくる。それを避けようとするが、避けきれずに吹っ飛ばされてしまう。壁に激突し、そのまま壁を突き抜けて研究所の外まで吹き飛んでしまう。
(大丈夫か!?)
ブラストにそう声をかけるが、
『くそ、少しまずい事になった。アイツ、想像以上のパワーだ』
(あんな威勢のいいこと言ったのにどうするんだ?一旦引くか?)
『バカ言うな!逃げて勝てるのか?』
(じゃあ、どうするんだ!)
『いいから黙って見てろ!』
そう言って、シンビオートに飛び込んで行く。
するとブラストは、シンビオートを殴りつけると同時に拳部分を爆破させた。
「ウゥッ!」
シンビオートは堪らず、その場から大きく離れる。
(今のがお前の能力なのか)
先程流し込まれた情報を見てそういうと、
『ああ、熱を吸収してないから威力は落ちてるがな』
と答えた。
そのまま親父に寄生したシンビオートを爆破も交えながら殴り続ける。段々とシンビオートが剥がれていく。
(よし、いけるぞ!)
『ああ!もう少しだ!』
そして、親父の身体からシンビオートを引きずり出そうとした瞬間、シンビオートが小さな触手を伸ばし、近くの瓦礫を投げ、所内の警報装置を鳴らす。
ジリリリリリリリリリリ‼︎
『ぐあぁぁぁぁっ!!!』
「ウゥッ…………!!」
耳をつんざくような警報音にシンビオート達は堪らず呻き声をもらす。ブラストはすぐさま体細胞を飛ばし、スピーカーを爆破して壊すも、その隙にシンビオートは逃げていく。
『こざかしい真似をしやがる!!』
(後を追うぞ!)
『分かってる!』
シンビオートの逃げる先には、武装した特殊部隊が待ち構えていた。彼らはこの研究所で問題が起きた際に対処する為、所長に雇われた傭兵達だった。
「動くな!」
シンビオートが警告を無視して突撃する。傭兵達は必死に弾丸の雨を浴びせるも、効果はない。傭兵達はシンビオートに次々と殺され、蹂躙されていく。
『お前の相手は俺たちだ!!』
そう言って再びシンビオートに殴りかかる。だが、今度は簡単に避けられてしまう。そして、強烈な蹴りが腹に入る。
『ぐっ……!』
あまりの強さに、思わず呻き声をあげる。吹き飛んだ俺たちにシンビオートは追撃してくる。咄嵯の判断で、両手から爆発を起こす。
「グギャァ!!」
『よし!反撃開始だ!』
シンビオートが怯み、一気に畳み掛けるように攻撃する。拳はシンビオートにクリーンヒットし、さらに回し蹴りを入れる。
シンビオートは吹っ飛び、壁に叩きつけられる。
『どうだ!?』
シンビオートは壁から剥がれ落ちると、俺たちに向かって再び突進してきた。
「グァア!」
俺はその攻撃を間一髪で避けて、カウンターで腹パンを食らわせる。するとシンビオートは口から粘液を吐き出しながら吹き飛ぶ。
「ギャァ!?」
『きったねぇなぁ!!』
吹き飛んだシンビオートを蹴りあげ、爆破しながらそう言うと、突然、研究所内に金属音のようなものが鳴り響く。
『くそ!またかよっ…!』
「グギャァッ…!」
シンビオート達は再び呻き声を漏らし、互いの宿主の中へは入っていく。不快な音が鳴り続けており、頭を抑え苦しんでいると、親父が、
「ワ…タル…逃げろ…」
親父、意識がまだあったのか。父がまだ正気を保っていた事に喜び、そう言おうとするも、父の言葉に遮られ、
「この音が鳴っているという事は…所長か…傭兵が…自爆スイッチを押したみたいだ…シンビオートもろとも研究所を消すつもりだろう……」
父の言う通り、傭兵の連中はもう既にいない。そして、所内が揺れ始め、天井が徐々に崩れ始めていることに気付く。
クソ、なんてこった! あの傭兵ども、俺たちごと始末するつもりだったんだな!? 急いでここから脱出しないと、生き埋めになってしまう。それに、親父を置いていくわけにはいかない。
「早く逃げるぞ!」
未だに音が鳴っているため、ブラストを出すことができず、父に肩を貸して自分たちの足で逃げようとすると、
「お前は先に行け」
「何言っているんだよ、一緒に逃げるぞ…?」
「僕はもう助からない。逃げたとしても、危険な薬を打たれたから、シンビオートなしじゃ生きられない…それに僕は人を殺してしまった…僕が死んだところでその人達が帰ってくるわけじゃないが、ここでコイツと共に死んだ方が世のためになる…」
「で、でも…」
「いいか、ワタル…お前は僕みたいになるなよ…そのシンビオートに寄生されたようだが、お前なら上手く共生できる。そして、その力はワタルの助けとなり、人の助けにもなるはずだ。」
上手に使えよ。そう言いながら俺の目を見て、苦痛に耐えながらも真剣な表情で語り続ける。
「後、お前は意外とめんどくさがり屋なところがあるからな、しっかりな!ナナセちゃんとも仲良くするんだぞ!」
「な、なんだよ…それ…」
思わず笑みが溢れる。
「よし、いい顔になったな…じゃあ、そろそろ、先に母さんのところへ行ってくるよ……元気でな、ワタル…見守ってるぞ……!」
親父はそう言って最後の力を振り絞り、俺を窓の方に投げ飛ばした。俺は咄嵯のことで反応できず、そのまま窓から飛び出してしまった。
「お、親父っ!待ってくれっ!」
飛ばされながら親父の方を見ると、笑顔でこちらに手を振っていた。そして次の瞬間、研究所の爆発とともに親父の姿が見えなくなった。
「ああぁぁぁー!!」
気づいた時にはもう遅かった。地面に叩きつけられて意識が遠のいていく中、最後に見えた光景は、燃え盛る炎だった。
「ここは……」
目が覚めると、見慣れた天井があった。
どうやらベッドの上にいるようだ。
体を起こすと、父の家だと言う事に気がついた。すぐさま飛び起き、家の中を確認するも、父の姿はなかった。すると、
『お前が気絶した後、俺が無理矢理お前の身体を動かして、ここまで運んだんだ』
「そうか…やっぱり夢じゃないんだな、あれ」
『お前の父親は…残念だった…すまない…』
「いや、別にお前のせいじゃないよ。それに、親父も笑って逝ったんだ…だから、悲しくはないさ……」
俺はいつの間にか出ていた涙を拭きながら言った。
「それで、これからどうするか…」
『そうだな……。とりあえず、ここから出て、日本に行こう。ワタルの故郷なんだろ?そのあとはゆっくり考えよう。日本に行ったら、まずは腹一杯飯を食え!そうすりゃ元気も出る!』
「ははは、そうだな。ありがとう、ブラスト」
それから、俺は荷物をまとめて家を後にした。研究所の跡地で天国の親父に挨拶した後、日本に帰国した。その後は進学を諦め、親父の住んでたロサンゼルスではなく、家賃が安くて不便もなさそうなサンフランシスコへと引っ越して、デザイナーとなった。そして、親父の言う通り、この力を人のために使おうと、たまにヒーローまがいな活動をこの街ですることとなった。
これが俺の
今回で回想終了です!
ですが、しばらくオリジナルストーリーが続いちゃいます…ご了承下さい。
タイトルも変更させていただきました!
引き続きよろしくお願いします!