パワーも無い!スピードも無い!波紋もそれほど走ってない!そんな幽波紋使いが箱庭に来てしまった件について 作:BサインからCサイン
次回からももっと早く更新できるように努力します(早いとは言ってない)
白夜叉のもとを去り、噴水広場から半刻ほど歩いて"ノーネーム"居住学区の門前へと着いた。が、門を開けた先に待っていたのはかつての魔王との戦いの名残…いや、残骸という名の廃墟だった。
乾ききった潤いのない風が吹き、美しく整備されていたであろう白地の街路は砂に埋もれ、木造の建築物は腐りきって崩壊している。鉄材は錆に蝕まれ折れ曲がり、樹木は石碑のように薄白くなって放置されていた。
いったい何年もの時が経てばこのような無残な光景が作れるのか。少なくとも何十年も放置した中で時が経過しなければ無理だ。僕にでもはっきり理解できる。
だが信じられないのは、この残骸を作りあげた魔王とのギフトゲームが僅か三年前に行われたということだ。こんな風化しきった街並みが三年前には人で賑わっていたなどとは思えない有様だった。
「これが魔王との戦いの名残だって…?これは戦いの後なんかじゃあない。力のぶつけ合いでこんな風に街が壊れるっていうのか!?」
「ああ。木造や鉄筋の壊れ方なんて、自然崩壊したようにしか思えない。少なくとも、何十年はかかるほどのな…」
「ベランダのテーブルに出ているなんて、生活感がそのまま残っているみたいに並んでるわ。まるで急にふっと人が消えてしまったみたい」
「……生き物の気配も全く感じない。整備されなくなった土地なのに獣が全く寄ってこないなんて」
それぞれが様々な反応をし感想を言葉にする中、黒ウサギは廃墟から目を逸らし朽ちた道を進んで行く。
「……魔王とのゲームはそれほど未知のモノだったのでございます。彼らは力を持つ者が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないように力を持つ者の意志を屈服させるのです。この廃墟は力の誇示として見せしめとして残されました。…僅かに残った同士たちも皆心を折られ……コミュニティから、箱庭から、去っていきました」
力のあるコミュニティと魔王が戦えば、その被害は凄まじく傷痕は見るにも堪えないほど醜く残る。この廃墟は、魔王が力を誇示するために残した一種の見せしめなのだろう…恐ろしい。
「ハッ!いいぜいいないいじゃあねーかオイ。魔王――――想像以上に面白そうな相手じゃねーか……!」
ただ一人、期待に眼を爛々と輝かせる十六夜。
姿見ぬ魔王に期待を胸に弾ませる彼と恐怖を胸に抱いた自分との違いに、僕は精神がまだまだ未熟なのだと感じた。
【"ノーネーム"本拠の実態の件について】
屋敷に着く頃には既に夜中になっていた。
途中で一度居住区を過ぎ、水樹という苗を貯水池に設置するのを見に行っていたからだ。十六夜が蛇神を倒して手に入れた水樹の苗は想像以上の水で貯水池を満たしていった…改めてギフトの凄さを知ったと思う。
現在僕は"ノーネーム"の屋敷にある与えられた私室のベッドで横になっていた。部屋はスイートルーム並だが、家具は必要最低限しかなかったので、〈エニグマ〉でファイルしておいた物をカードから取り出してそこそこ見栄えのあるモノとなった。
だが、僕の気分が晴れる訳ではない。
僕は明日のガスパーとの戦いのことについて考えていた。
(いよいよ明日!待ち望んだガスパーとの因縁に決着がつく…"ノーネーム"に出会えたのは運命だ。引力に引かれるように運命が僕とアイツに決着をつけさせようとしているのだ。これは『試練』だ。過去に打ち勝てという『試練』と僕は受け取った。待っていろ、ガルド=ガスパー……ッ!!」
その時、突如正面玄関から隕石が降ってきたかのような轟音が聞こえてきた。
部屋全体が揺れるほどの衝撃を伴う轟音は確か子供たちのいる別館の方だったと思う。
案の定、ガスパーが仕掛けてきたか…つくづく失望させてくれる。
だが僕は慌てるということはしない。
〈エコーズ ACT2〉を音源へ向かわせる。
〈ACT2〉を通して見た光景は……
ローブを着た怪しい男たち、そしてその前に立つ十六夜とジンの姿だった。
男たちは一斉に頭を下げ、
『恥を忍んで頼む!貴方たちの力で、"フォレス・ガロ"を完膚なきまでに叩きのめしてはくれまいか!!』
『嫌だね』
だが十六夜は男たちの申し出を一蹴した。
絶句して固まっている男たちに十六夜はつまらなそうな顔で背を向け、
『どうせお前ら、ガルドって奴に人質を捕られている口だろ?命令されてガキを拉致しにきたってとこか』
『は、はい……その通りです。我々も人質を捕られている身、ガルドに逆らうことができず……』
『その人質もうこの世にいねーから。はいこの話終了』
『十六夜さんっ!?そんな言い方…』
『あ?なんだ御チビ、まさか気をつかえってか?そんなことをする理由がどこにある。その人質を攫ってきたのは他でもない、コイツらだろ?』
十六夜の意見は概ね正しい。この男たちは人質を救うために新たな人質を攫っていたのだ。他の人質たちは男たちが殺したといっても過言じゃあない。実際気をつかう必要はどこにもない。
男たちは十六夜から人質が全員攫ったその日に殺されていたことを知り、悲しさと悔しさで顔を歪ませながら俯いた。
そして十六夜は男たちを焚き付ける。"フォレス・ガロ"が憎いか、完膚なきまでに叩きのめしてほしいのか…そしてこう言った。
『安心しろお前たち!このジン坊ちゃんが、魔王を倒すためのコミュニティを作るッ!!』
『なっ!?』
その言葉に、男たちやジンだけでなく僕も驚愕した。
コミュニティの趣旨とは違う。十六夜は"ノーネーム"のかつての旗印を奪った魔王を倒すだけでなく、すべての魔王を対象にして活動すると言ったのだ。
"押し売り・勧誘・魔王関係御断り。その傘下も含めすべてのコミュニティを魔王の脅威から守ります。まずはジン=ラッセルのもとに問い合わせください"
……CMのコマーシャルに出ているキャッチコピーそのものじゃないか…言わんとしていることは理解できるが、これじゃあふざけている様にしか思えないぞ?
『人質を殺されたのは非常に残念だった。だが安心するといい。明日、ジン=ラッセル率いるメンバーがお前たちの仇を取ってくれる!その後の心配も必要ないぞ!なぜなら俺たちのジン=ラッセルが"魔王"を倒すために立ち上がったのだから!』
『おお……!』
『さあすぐにコミュニティに帰るんだ!そして仲間に伝え、言いふらせ!俺たちのジン=ラッセルが"魔王"を倒してくれるとな!』
『ちょ、待っ……』
ジンの慌てて叫んで止めようとするが、間に合わない。
男たちは感謝と応援の言葉を残しあっという間に去ってしまった。
そして僕も会話を意識から外し部屋から出た。
「いったいどういうつもりですか!?」
"ノーネーム"本拠の最上階・大広間で、ジンは自分が引きずってきた十六夜に溜まりかねて大声で叫んだ。
それに十六夜は薄っぺらい笑いを飛ばす。
「"打倒魔王"が"打倒すべての魔王"になっただけじゃねーか。特に問題はねえと思うが?」
「問題大有りです!魔王の力はこのコミュニティの入口を見て十六夜さんも理解できたでしょう!?」
「おう勿論。"魔王"だなんて面白そうな力を持つ奴らと戦えるなんて最高じゃねえか」
「お、面白そう……十六夜さんはそんな理由でコミュニティを滅亡に追いやるつもりですか…?」
ジンの口調は厳しい。
もしこの十六夜が自分の娯楽を楽しむためだけにコミュニティを利用するような男なら…たとえどんな大戦力だとしてもジンは黒ウサギに相談して彼を追い出さなければならない。
「いいやジン、十六夜は面白半分であんな台詞を言ったんじゃあないと思うぜ?」
だが、それを盗み聞きしていた第三者が否定した。
「輝之助さん……」
「ジン、理由を言う前に一つ聞こう。君はどうやって魔王に勝つつもりでいるんだ?」
「それは……ギフトゲームを堅実にクリアし、コツコツと力をつけて」
「じゃあ聞くが前のコミュニティはギフトゲームに参加しクリアしていなかったのか?力を付けることをせず怠惰な暮らしを送っていたのか?違うだろう」
「そ、それは………いえ」
思わず言葉に詰まるジン。しかし心では輝之助の言っていることが正しいと理解していた。輝之助は言葉を続ける
「以前のコミュニティでは"魔王"には勝てなかった…ならば僕たちは前のコミュニティ以上に大きくならなければならない。しかし今の"ノーネーム"には名も、旗印もない。ゼロからじゃない、マイナスからのスタートというハンディキャップを背負って僕らは先代のコミュニティを超えなくちゃあならない」
「先代を……超える…!?」
ジンは金槌で頭を叩かれたような衝撃を受けたような気がした。
この箱庭で一目置かれるほど強大だった先代のコミュニティ。
"打倒魔王"を掲げるにはまず、ソレを超えるコミュニティにならなくてはならない。
コミュニティを大きくするには強力なギフト・ギフト保持者の人材が必要だ。
しかし人材を集めるには宣伝が必要だ。だが"ノーネーム"には名前、旗印が無いためコミュニティを象徴するようなモノが存在しない。
ならばどうするか?
「だが"ノーネーム"に残っているものがある――――――それがリーダーの名前だ」
「!」
ここでジンはようやく十六夜の意図に気づいた。
彼はジンを担ぎ上げることで、コミュニティの存在をアピールしたのだ。
「つまり十六夜はこの絶望的な状況を手っ取り早く脱するために、ジンの名前を売り込んだということだ」
「へぇ、よく見抜いたじゃねえか。あの場にいなかったのに随分と詳しいんだな」
「こっそり盗み聞きさせてもらっただけさ」
その言葉に十六夜は不満気だったが、今はまぁいいかと追及しないことにした。
「このコミュニティに必要なのは人材だ。俺並、とは贅沢は言わねえ。だが俺の足元並はほしい。それくらいの奴らなら、どっかに消えちまった昔のお仲間より役に立つんじゃねえか?」
十六夜の話は筋は通っていた。賛成するのは簡単だが大きなリスクも伴うことをジンは忘れてはいない。それを踏まえた上でジンは提案を切り出した。
「わかりました。ですが一つだけ条件があります。今度、"サウザンドアイズ"で開かれるゲーム。そのゲームには取り返さなくてはならない大事な物が出品されます」
「ひょっとすると…昔の仲間、か?」
「はい。それもただの仲間ではありません。彼女は元・魔王なんです」
ジンの言葉に十六夜は瞳を光らせ、輝之助は少しの関心を抱いた。
元・魔王がコミュニティにいるということは、そのコミュニティは魔王を倒し隷属させたということ。"ノーネーム"の先代が魔王を倒したということには驚いたが、現在隷属されているコミュニティを倒せばその分名が上がるのだ。
元・魔王という強力な仲間が戻って来る上に、コミュニティの名が一気に上がる。
断る理由はなかった。
「それと、心配をかけたくないので黒ウサギにはまだ内密にお願いします」
「あいよ」
「じゃあ、行動方針が決まったところで僕は部屋に戻るよ」
「明日のゲーム、負けんなよ?」
「当然さ誰も負けるなんて思っちゃいないだろうさ。……ああ、そうだ、一つ言っておかなくちゃあいけないことがあった」
大広間の扉の前で立ち止まった輝之助は、顔だけ二人に向けて声をかけた。
「僕は明日、絶対に勝つ。だが明日の戦いは、コミュニティの名を上げるためだとか、人質が殺されたコミュニティのヤツらが可哀想だとか、そんな理由で挑むわけじゃあないからな。……それだけだ」
輝之助が出ていった大広間には十六夜とジンだけが残った。
ジンは輝之助が出ていった扉を見つめながら、
「どういうことなんでしょう?もしかして、彼もガルドに恨みを…」
「さあな…だがひょっとするとアイツは………あ、そうだ御チビ、俺からも一つあったわ」
十六夜はふと閃いたように、
「もし負けたら俺、コミュニティ抜けるから」
「………え?」
十六夜が出ていった大広間には、十六夜の脱退宣言を受けて頭を悩ませるジンだけが残ったのだった。
←to be continued
〈エコーズ ACT2〉
【第四部 ダイヤモンドは砕けない】に登場
【破壊力 - C/スピード-C/射程距離-B/持続力-B/精密動作性-C/成長性-A】
〈ACT1〉が成長したスタンドで、擬音を張り付けることで物理的効果を生み出す。
だが今回では長い射程距離を使った覗き(盗み聞き)もとい偵察にしか使用されなかった。
ジン「いよいよ明日はガルドとのギフトゲームです!」
輝之助「やっとだ…半年経ってようやくガスパーと戦える…ッ」
耀「…半年って、どっちのいm」
飛鳥「春日部さん、それ以上はいけないわ」
次回【復讐と決着の件について】