パワーも無い!スピードも無い!波紋もそれほど走ってない!そんな幽波紋使いが箱庭に来てしまった件について 作:BサインからCサイン
"アシャンティ"に加入してから早三ヶ月、前の世界の人々はどう過ごしているのだろうか。あっちでは冬は終わり、もう春の桜が散ってしまってるんだろう。箱庭ではもうすぐ桜が満開になる頃だ。
これには立体交差平行世界論というのが関わっているんだが、説明すると一日や二日でしきれないから割合しよう。
商業コミュニティ、なんて言うからあまり楽しめないんじゃあないか?と当初こそ不安にはなっていたが、そんなことはなかった。やることこそ店の雑用しかなかったが、子供でも簡単なギフトゲームには参加できたし、祭りの期間になれば手伝いで連れて行ってもらえた。
コミュニティの子供たちも、ギフトは所持していると知ったときは驚いたがな。獣人であることがギフトなんて信じられないが…。まあ僕が参加したのはギャンブルみたいなゲームだったけど、それなりには楽しめたかな。
そんな箱庭生活ももうじき四か月目を迎えようとしている。あと数日もすれば一年の三分の一を箱庭で過ごしたということになる今日この頃、僕は牢屋に監禁されています.
【箱庭での生活の件について】
「うぅ…グスッ、……」
「ヒック、ママぁ…」
「ウワーン!」
「だ、大丈夫だよ、きっとみんなが助けてくれるから、泣かないで…グスっ」
…さて、どうしたものだろうか。一緒に監禁された子供たちを年上組でなんとか泣き止むように宥めてはいるが、たぶん無理だろう。一番年上と言っても、まだ中学生にもなっていない年齢だ。自分の感情を抑えるにはまだ無理、というところだろう。
昨日、夜中に"アシャンティ"は襲撃された。就寝時間に子供だけになるのを狙って顔をフードで隠した集団に誘拐された。コミュニティの子供全員と言うわけじゃあないが、その数は十人、ほとんどが監禁されてしまっている。ここはあるコミュニティの本拠である屋敷の地下牢、鉄格子の窓からは小さい川と夜の景色が見えた。だが、恐らく外からはこの牢屋には気づけないだろう。
目的は、人身売買もしくは人質か?コミュニティの子供を誘拐する理由なんてそれぐらいしか見つからない。逆にその程度ならいいんだがなぁ、誘拐なら身代金渡すだけで解放されるんだろうし。
牢屋の中の乾いた血を見れば、ここで何があったのかは想像できる。恐らく、以前にもどこかの子供がここに監禁されていたのだろう。そして、その子供は
「うっせェぞガキ共ォッ!静かにしろってんだよッ、ぶっ殺されてェかア!!」
「ひっ!…ウワぁぁぁああん!」
「お母ぁさあああああん!」
こいつに殺された。
牢の外で、タキシード姿のゲロ以下の臭いがプンプンする男が、苛立たしげな表情でこちらを睨みつけている。まったく、てめぇのせいで子供がさらに泣き出したじゃあないか、ガルド=ガスパー。
こいつが、僕達を監禁した張本人だ、大人たちが言っていた、"フォレス・ガロ"が急激にコミュニティを拡大し始めているってのはこういうことだったのだ。
"フォレス・ガロ"は各コミュニティの子供攫って人質とし、それにかこつけて他のコミュニティを自分の傘下としていたのだ。そのコミュニティたちは人質がもう死んでいるとは知らずに。
「ったく!イライラするぜ…オイ!さっさと他のガキを泣き止ませろ、さもねえとキサマから喰い殺すぞッ!」
「はっ、ハイッ!わかりました!」
「…………」
自分の側近の男に怒鳴り散らすガスパーに向かって、僕は手元にあった小さな、ほんの二センチもないだろう小さな小石を、口に向かって投げつけた。石は見事に大口を開けていたガスパーの口の中に入って行った。
「!?ペッ、…おいガキ、いまキサマ、俺になにをした?」
「さあな、なんだろうなぁ、わかるか?」
「質問に質問で返すなァーっ!俺が"なにをしたのか"と聞いているんだッ!」
「やれやれだ。自分がたった今吐き出したじゃあないか…『石』だ、石をお前の口の中に投げたんだ
」
「な、なんだと!小便にシミがついたクソガキのくせして…死にたいのか、小僧ッ!!」
「…やってみろよ」
「…なに?」
「て、輝之助……?」
心配そうに子供たちが僕を見つめる。僕のちょうど後ろにいたマリは、ガスパーの視線から隠れるようにして僕の背中で震えている。正面から僕は睨み付けるガスパーも、青筋を浮かべていた。
「やってみろよ、と言ったんだぜ。あんたなんかちっとも怖くないぜ。殺す殺すっていうんなら、さっさと殺して見たらどうだ?」
「ハッタリぬかすなよーッ!ちっぽけな小僧がァーッ!」
「ヒィッ………」
ガシャァン!とガスパーが牢の柵を蹴りつけた。ガスパーの怒りを象徴するかのような音に、子供達は震え声をあげた。肩を震わせながらガスパーは、
「今のキサマの立場がわかっているのかッ、俺は上!キサマは下だ!!牢屋の中だからって安全だと思うなよガキィ、あと一週間もすればキサマらは牢屋から解放してやる!特にそこのガキっ、キサマは最後に解放してやるからなッ!!」
「!ほ、本当なんですかっ!?」
「私たち、コミュニティに帰れるの!?」
「そうだ!だからせいぜい騒がしく泣いているんだなッ!!」
牢屋をもう一度蹴りつけ、ガスパーとその側近は地下から出ていった。苛立たしく地下を出ていくガスパーの後ろを歩く側近の男に向かって、僕はギフトカードを翳した。奴が出ていくと、牢屋の中はさきほどとは打って変わって、歓喜の声で溢れかえっている。僕は子供たちに向かって、
「喜んでいるところ悪いが、みんなちゅうもぉーく!」
「?なに、輝之助」
「僕たち帰れるんだよ、嬉しくないの!?」
「…本当に帰れるんなら、嬉しかっただろうけどな」
「え……」
「よぉーく聞け、さっきのガスパーの言っていたことは『嘘』だ」
部屋が静まった。
「ガルド=ガスパーは僕たちを解放するつもりはない、それもあと一週間もしないうちに僕たちは奴に殺されるだろう。そしてこのままでは、僕が最初に殺される」
「そんな……」
「う、うそでしょ…?」
「じょ、冗談言わないでよ輝之助!さっきガスパーのやつも言っていたじゃないか、一週間もすれば僕たちを解放するって!」
ありえない。嘘だと言ってくれと言うような目でハリーが僕に訴えかけてくる。だが、現実だ。
「それについては、最初から説明しよう。まず、僕は複数の"恩恵"を持っている」
「え!?」
僕は子供たちに一部始終の真理を説明した。
僕はガスパーに『スタンド』を使っていた、能力名は〈トーキング・ヘッド〉【第五部 黄金の風】のスタンド、能力は相手の舌の憑りついて嘘を吐かせる。さっき石をガスパーの口に投げたのは、石から〈トーキング・ヘッド〉を憑りつかせるため。
僕はこの『嘘を吐かせる』能力を使って、ガスパーの目的を探ろうと試みた。嘘しか喋れないということは、その反対が本当ということだ。「殺す」は「解放する」に、「最後」は「最初」に言い変えられる。そしてガスパーは、「一週間以内に僕たちを殺すつもりでいる」のだ。
「そ、そんな……!」
「泣くなッ!まだなにも死ぬと決まったわけじゃあない、助かる方法はある」
「!ほ、ホント!?」
「ああ―――――――脱獄するぞ」
「だ、脱獄……?」
「できるわけないっ!俺らは閉じ込められてるんだぞ、どうやってこの牢屋から出るんだッ、いや、仮に出られたとしても、獣人であるあいつらは鼻がきく、すぐにバレる!逃げられないッ!」
「出る方法なら、ある」
「――――――なんだって?」
ギフトカードからスタンドの像が飛び出し、ソレは牢屋の中にいる僕含めた全員の背中に張り付いた。名前は〈タトゥーユー!〉【第七部 SBR】に登場した『十一人で使うタイプのスタンド』だ。子供たちの背中に張り付いいた、目を閉じた男のような模様から模様へ瞬間移動できるのが能力。さっき、側近の男の背中にも同じように貼り付けておいたのだ。
「なっ、なにこれ!?」
「うわぁっ、せ、背中に張り付いた!頭も変、腕もっ!?」
「みんなに付いてる!これがギフトなのか?」
「…輝之助はいったい、いくつのギフトを持ってるというの?」
「それについては後だ、時間が惜しい―――――――だがそのまえに一つ、言っておかなきゃあいけないことがある」
「これから脱獄するということは、危険が増すということだ。失敗するかもしれない、見つかったら殺されるかもしれない、逃げきれずに死ぬかもしれないという危険だ。だが牢屋に残っていれば安全だ、死ぬような危険もないだろうし、脱獄する誰かがコミュニティの大人にこのことを伝えれば助けに来てもらえる。だが、このままだと誰も助からない…だから僕は脱獄する!だが一人では無理だ…助けがほしい、ともに来てくれる『覚悟』ある者がいるのなら…一歩踏み出して前に出てくれ。ただ、ついてこいと『命令』はしない。なによりも優先すべきなのは自分の命だからだ。……それを踏まえて、考えてくれ」
しょうじきなところ、スタンド能力を持っているからと言って脱獄が楽だなんてことはない。複数人に囲まれたら抵抗なんてできないし、あの夜の時もそうだった。〈エニグマ〉は恐怖のサインを見つけることさえできれば絶対無敵となる、だがこの状況でそんな時間はないだろう。
実質、僕が脱獄に成功する確率なんて半分にも満たない。だが、やるしかないのだ。覚悟はできてる。
少しばかり時間が経ったころ、子供たちが震えた声で口を開いた。
「む、無理だよ……」
「…………」
「言ってることは、よくわかったよ、輝之助にぃ。でも誰も、前に出ようとはしないよ……脱獄すれば確かに助かると思う。けど、それで死んだら意味がないんだ。それに、もしかしたら脱獄しなくてもみんなが助けにくてくれるかもしれない…僕は牢屋でその機会を待つよ……」
一人が一歩下がると、それに便乗するように一人、また一人と一歩後ろに下がる。まだ下がっていないのは、四人。同じ部屋の、マリ、ロロ、ハリー、リータだった。後ろを向いていたロロは、
「……うん、その通りだよ。確かに、みんなが助けにくるのを待った方が安全だし、危険もない…でも…」
「私は、ついていくよ」
「!ロロ……」
「どうせこのまま居ても、助からない可能性だってあるんだ。それなら私は、自分の力で道を切り開きたい…やらなかった後悔なんてイヤっ、やってから後悔する方がいい!」
「ロロちゃんっ!?正気なの?」
一人が声を荒げる。当然の反応だろう、女の子を戦場に向かわせるようなものなのだ。行く方が異常だろう、だが、それでも僕は嬉しかった。
ロロが一歩前へ出ると、今度はハリーとリータが互いに頷いて立ち上がり、前へ出た。
「俺たちも行くぜ!あの虎野郎の思い通りにさせてたまるかッ」
「す、少しでも人数は多いほうがいいだろ?なら僕たちも行くよ、"恩恵"があるから、足を引っ張ることはないと思う」
「リータ…ハリー……ありがとう」
「そ、そんなっ!さっきの聞いてたの?死んじゃうかもしれないんだよッ!?」
「…マリ、君はどうするんだい?」
「…………」
名前を呼ばれて、膝を抱えて座っていたマリの肩がビクッ、と震えた。
「ど、ど…どうすれば…やっぱり、私も行ったほうがいいかな…?」
「…やっぱり、怖いか?」
「う、うん…怖いよ。でも、私はお姉さんだから、みんなを引っ張っていかなくちゃ…ロロたちも行くんでしょ?だ、だったらやっぱり私も……」
「マリ…僕は言ったはずだ、必要なのは『覚悟』、守るのは『自分の命』だ。みんなが行くから自分も行くなんてちっぽけな覚悟じゃあダメだ。忠告しよう、「来ちゃダメだ」…キミはここに残るべきだ」
「う…ううううぅ~~…」
頭を抱えて震え上がるマリの足元に、以前〈エニグマ〉でファイルしたナイフを置く。
「もし、なにかあったら心許ないだろうが…そのナイフで身を守るんだ。他の子供たちは、キミに任せた」
「うぅううう……!」
「――――――行くぞッ!この地下を出たのなら、僕たちは脱獄者となるッ!」
一分経ったら出てくるように三人に伝え、ハリーの背中に張り付いた〈タトゥーユー!〉から瞬間移動した。そうして後から三人も瞬間移動し、地下牢屋には子供のすすり泣く声だけが残った。
←to be Continued
〈トーキング・ヘッド〉
【第五部 黄金の風】で登場。
【破壊力-E/スピード-E/射程距離-B/持続力-A/精密動作性-E/成長性-E】
このスタンドに舌に憑りつかれた宿主は自分の意志に関係なく、喋ろうとすると勝手に嘘をついてしまう。 尚、発言だけでなくジェスチャーや筆記等、情報伝達行為全てに作用する
このスタンドには聴覚が存在するので憑りついた相手の状況がおおまかに知ることができる。
また、一時的な解除もできる。
〈タトゥーユー!〉
【第七部 SBR】で登場。
【破壊力-なし/スピード-E/射程距離-B/持続力-B/精密動作性-E/成長性-E】
亜人型の模様状のスタンド。スタンド像の各部はそれぞれ本体の背中、腕の外側、後頭部(着衣や頭髪の更に上)に浮き出る。このスタンドの11人の本体は互いの背面の「模様」を出入口にして空間を越えて移動することができる。死体になったとしても能力は解除されない。
ロロ「あれ?私たちと輝之助の箱庭ライフは?」
輝之助「都合上無くなったらしい。ランキング一位になってから評価が少し悪くなったからな。それ で焦って、投稿するはずだった話を書き直した結果がこれだ。キング・クリムゾンのDISC でも持ってたのか作者め…」
ハリー「なんにせよ、読者のみなさんには感謝感激だね!ありがとうございます!」
リータ「次回はいよいよ、あの虎野郎のコミュニティから脱出だ!」
マリ「みんな…無理しないでね」
次回【スタンド使いが生きるために脱獄する件について】