コツ、コツ、コツ。
広く静かな図書館に足音が反響する。
「さて、次はどれを読もうか」
カタン。
先程まで読んでいた本を棚に戻し、本棚に仕舞ってある本の背表紙を一冊ずつゆっくりと流れるようになぞる。
「ふむ。······少なくとも今はこの本を読む気にはならない。これも、これも······本当にどれを読もうか」
いくつかの棚をぱっと見て回ったが、これといってピンとくるものが見つからない。
この図書館に住んでからここまで気が乗らないのは中々に久しいことだと思う。
「······ふむ。仕方ないが、今は適当なものを読むとしようかな」
適当な本に手を伸ばしたその時、ガチャリ。と扉の開く音がした。
続いて、ガラガラという車輪の音と、パタパタと歩く······正確には小走りだろう足音。
どちらにしても、たいていの場合で無音と言えるほど静かなこの図書館では相当に響く。
とりあえず、小走りでこちらに駆け寄ってくるメイド服の少女に声をかけた。
「どうかしたのか? スミレ」
本棚に手を伸ばしたままの体勢を維持しながら問うと、彼女は少し驚きながらも答えを返してくれる。
「はい〜、そろそろ喉が渇いた頃かなぁと思って、紅茶とクッキーを作って来ました〜」
「ん······確かに丁度いいタイミングだな。ありがとう、スミレ」
彼女の名は『夢宮菫』。この図書館に住んでいる四兄妹の末っ子であり、小さいながらも努力家で、兄たちだけでなく僕も慕ってくれている。一言で言えば、理想の妹を体現したような少女だ。
本棚から適当な本を抜き取り、テーブルの端に置いて、スミレに手招きする。
「折角だ、休憩も兼ねて君も一緒にティータイムをしたいんだが······どうだい?」
椅子に腰を下ろす。そして指を弾くことで、テーブルを挟んで向かい合うように椅子を出現させる。
すると、スミレはへにゃりとした表情になり、そのままの表情で早々にティータイムの準備を済ませた。
「それでは、おにーさんのお言葉に甘えてご一緒します〜。
······あ、それと、キッチンの本棚でこんな本を見つけたので念の為持ってきました〜」
ふと、スミレは思い出したように一冊の本を取り出し、僕に手渡す。
「ふむ? これは······丁度いいな。
······助かったよスミレ。丁度読みたいものがなくて困っていたところなんだ」
年相応の笑顔を浮かべてクッキーを頬張るスミレに、ありきたりな一言で感謝を述べてから、彼女に渡された本を開いた。
ゴウゴウと重低音が部屋に響く。
肌寒く薄暗い部屋の中、コンテナに背を預け、相手からの射線を切るように隠れながら弾倉に弾を込める。
「······ハァ、ハァっ、ふぅぅ」
寒さを肌で感じながら、手早く呼吸を整える。少し吐息が白いが、駆け引きに影響しない程度で済んでいる。
最後まで弾を込めた弾倉を銃に差し込み、スライドを引いて薬室に弾を送り込む。
ふぅ······。と再び息を吐き、壁の向こうにいるであろう敵の位置を感じるために耳を澄ませる。
換気扇のゴウゴウという音に混じって聞こえる微かな呼吸音をもとに、大体の位置を割り出し、行動を再開しようと動く。
「なあ、コソコソやんのは止めねぇか?」
瞬間、向こう側から声が響く。
何かの作戦か? そう思ったが、コツコツと通路側から足音が聞こえるため、本当にバカ正直な勝負を望んでいるようだ。
······そうだとしても普通に考えて出て行く馬鹿はいないだろう。
『普通に考えれば』だが
「······分かった。その勝負を受けよう。互いに早く済ませたいことだろうしな」
生憎と今回は既に長期戦。こちらとしても、手早く終わらせて少しだけでも休憩したい。
コンテナの影から出て、正面から相手と向き合う。
「ははッ、やっぱお前のそういうところ、嫌いじゃないぜ」
「御託はいい。······さっさと終わりにしよう」
静かに相手を睨みつけながら、懐からコインを取り出し、弾く。
「同感だ」
互いに深く息を吸う。
コインは高速で回転しながら一瞬だけ空中で止まり、ゆっくりと重力に従って落ちてくる。
俺たちは、いつもこうだった。
勝負が長引くと、どちらかがこのようにコイントスによる決闘形式を提案し、それで勝負をつける。
コインが床を叩き、甲高い音をたてて床を跳ねる。
瞬間、互いに地を蹴り、二つの銃声が響く。
双方の銃弾が擦れる音がした。
······向かってくる弾丸を首をずらすことで回避し、相手の方に向かっていく。同じく、相手もこちらに走って来ている。
考えてることは同じらしい。
互いに殴り合えるほどの距離に接近し、銃口を向ける。
そして引き金を引くが、撃ち出される寸前に下から腕で押し上げられ、銃口を逸らされる。そして代わりに相手の銃口が向けられるが、体を反らして回避し、銃床で相手の腕を殴り、銃を叩き落としにかかる。
直後に腕を捕まれ、背負い投げの要領で投げられる。
相手の銃を叩き落とすことはできなかったものの、幸運なことにこちらも銃を取り落とすことはなく、受け身を取って振り返りざまに再び相手に銃を向け直す。
相手の銃口もこちらに向いており、どちらも撃てば当たるような、そんな距離。無意識に、不思議と口角が上がる。相手も抑えきれないといった感じの笑顔を浮かべている。
「「チェックメイトだッ!!」」
引き金を引く。瞬間、パァンと乾いた音が響いた。