鉄の礫は命を穿つ:リテイク   作:ただのおーとりかぶと

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 「べちゃり」と液体が床に落ち、同時に綺麗な紅色が俺の服に染み込んでいく。

 それとは反対に、相手の服に紅色はない。なぜだ? と自分の銃に視線を移し、その理由を理解する。

 

弾詰まり(ジャムった)か。······ここ最近、本当にツイてないな」

 

 俺自身、愛銃のこまめな手入れは欠かせていない。だというのにこの様な重要な場面で発生するとは······本当に不幸としか言いようが無い。

 背中から倒れ込み、目を閉じる。

 全身から力を抜き、肺の中に残った息を吐いて意識を深く落としていく······

 

「いや、寝るな。起きろ!」

 

 声が掛けられ、意識が引き戻されたので、目を開く。そこにはさっきまで撃ち合っていた相手である、コードネーム『デュアル・スター』ことディアスが片手でリボルバーを回しながら、もう片方の手をこちらに差し伸べていた。

 

「······ああ。悪い」

 

 ディアスの手を取り立ち上がる。

 演習用ペイント弾で湿ったところの感触が中々に気持ち悪いため、着替えたいと心から思った。

 同時に『演習終了。使用者は基地責任者に報告を行ってください』と放送が流れ、部屋の明かりが灯される。

 

「さ、とりあえず司令のとこ行こうぜ」

 

 立ち上がった俺に倒れ込むように肩を組んだディアスに連れられ、俺たちは演習場を後にした。

 そうして着替えた後、俺たちはこの基地のトップのいる司令室に来ていた。

 

「······うん。報告書はちゃんと受け取ったよ。······それで? 勝率はどんな感じだい?」

 

 司令には今までの勝負の結果も報告してある筈だが、弟妹に意地悪する兄姉のような、そんな表情で質問をしてくる。

 

「······今回で87戦、34勝、33敗、20分け······ッスね」

 

 ディアスが答えを返し、司令がくすりと笑みを零す。

 

「いや、記録ではその勝敗数が逆だよ。大体は交互に勝ってるけど一時シェフィが二連勝しているからディアス基準で33勝34敗20分けだ」

 

 司令の言葉に「二連敗······そういやあったな」とつぶやくディアス。

 

「さて、それじゃあシェフィ。君は念の為、医療班のところに行きなさい」

「······? なぜ医療班に? 怪我とかはしていないですが」

「頬から血が出てるけど? それは傷だろう?」

 

 司令に言われて頬を触れる。指に水分が付着し、指を見るとヌメッとした血が付いていた。

 おおかた先程の演習のときに銃弾が掠ったんだろう。

 

「な? とりあえず医療班のところに行ってきなさい」

 

 司令に促されるまま退室し、俺は医療班のある人の所に向かった。

 ちなみに、俺はコードネーム『シャドウ・ファントム』。大体の場合、シェフィと呼ばれている。

 そしてこの基地は、民間軍事会社『サイレントイーグル』の第三基地。所属している殆どが元孤児などの経歴を持っている。

 司令は、元々俺がいた孤児院の先輩であり、この基地の同郷の中では最古参だ。故に上官としての会話以外は敬語を外せと言われているため、できるだけ外して話している。

 ついでにこれから向かう医療班にも同郷の同期が所属している。のだが······

 

「はい。捕ま〜えた〜」

 

 説明と共に考え事をしていると、後ろから抱きつかれた。

 

「······アラトか。丁度お前のところに行こうと思っていたところだ」

 

 上腹部で交差されている腕を解き、抱き着いてきた少女に目を向ける。

 彼女は『ピュア・ラビット』ことアラト。薄桃色の髪をした二つ下の少女で、件の同郷の同期だ。······まあ、身長と性格的に同期というよりは妹のように思っているのだが、過去にこのことを言ったら喜んでいるような悲しいような顔をされたので言わないようにしている。

 

「······シェフィ!? 撫でないでよ〜」

「すまん、つい······な。で、要件なんだが······」

「頬のかすり傷でしょ〜。それくらいなら今やっちゃうよ〜」

 

 アラトは腰に巻いてあるポーチからピンセットと絆創膏、綿を取り出し、即座に処置を済ませた。

 

「常備してる物で済んでよかったよ〜」

「相変わらず中々の技術だな」

 

 頬に貼られた肉球柄の絆創膏を撫でる。

 貼られた瞬間は剥がそうと思ったが、剥がしたらもう診てあげないと言われてしまったため、剥がすに剥がせなかった。

 

「シェフィも応急処置セットくらい持ってたら〜?」

「······ほとんど使わないだろうからいらん」

 

 なんでさ〜。とアラトが頬を膨らませているが、正直なところ些細な傷もアラトのところに行けば笑顔で治療してくれるため、笑顔を見たいのもあるんだと思う。

 

「ま、シェフィの傷は私がちゃんと診るから良いけどさ」

「ああ、毎度助かる。ありがとう」

 

 毎回欠かさずに感謝は伝えているので、その習慣は続けていきたい。

 どういたしまして〜。とアラトが答えた瞬間、基地内に放送が掛かる。

 

『シャドウ・ファントム、司令室に来てくれ。任務を伝える。······繰り返す。シェフィ、司令室にて任務を与える』

 

 なるべく早く来てくれ。と付け加えて、放送はプツリと切れた。

 

「······じゃあ、呼ばれたんで行ってくる」

「行ってらっしゃい。無事に早く帰ってきてね〜」

 

 アラトの声を背に、俺は司令室へと向かった············

 

 ············任務が終わり、帰り道。

 司令から大事な任務だと言われていたため、気を張って向かったのだが思った以上に早く良い結果を得ることができた。

 任務の内容というのが、本部である第一基地に向かい、演習を行ってくるという物であり、司令曰く演習の結果によってはこちらの基地への支援を増やすなどしてくれるそうだが、演習に負けたというのに支援の増量はしてくれるらしい。

 

「······それにしても総司令は全然お変わりなくて驚いたな」

 

 初めて会ったときの強靭な肉体をそのままに威厳と優しさが増していたように思う。

 その上、演習後に昼食を頂いたのだが、なんと総司令自ら調理場に立ち、料理していた。しかもデザートとしてお手性の大福まで頂いてしまった。更に、実家だと思っていつでも遊びに来いとまで言ってもらえた。

 

「······『遊びに来い』か」

 

 どうやら結構気に入られたらしいな。とそんなことを思いながら、俺は基地への帰路を歩いていた。

 

「······そういえば、通信は回復したんだろうか?」

 

 本部での演習を終え、支援を増やしてもらえるということを伝えようと通信を入れたのだが、途中で切れてしまったのだ。

 

「用件は伝えられたからいいが、少し心配だな」

 

 とりあえず、もう一度連絡を入れてみるもの

の、繋がらない。

 流石に不安になった俺は、地を蹴って走りだした········

 

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