鉄の礫は命を穿つ:リテイク   作:ただのおーとりかぶと

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 栞を挟み、一度本を閉じる。

 

「ふふっ、彼は相変わらず菓子作りが上手いようだ。久々に会いに行こうかな······それにしても饅頭とはなかなか······」

 

 読みながら、言葉を零す。

 

「お作りしましょうか〜?」

「いや、大丈夫だ。このクッキーで十分だよ。相当美味しいからね」

 

 スミレの方に笑顔を向けると、スミレはウトウトと眠そうにしている。そのため、ソファを召喚し、一緒に移動する。

 

「後片付けは僕がやっておくから、スミレは少し休むといい」

 

 そう言うと、スミレは先程よりもウトウトしながら、「兄さま······おねがいしましゅ」とだけ残して眠りに落ちた。

 

「······ふむ。これでは動こうにも動くことができないな」

 

 スミレの頭が膝に乗っているため動くに動けなくなってしまった。

 

「······さて、こんなものかな」

 

 とりあえず。と使える能力で後片付けを済ませ、着ている上着を脱いでスミレに掛ける。

 

「それじゃ、続きを読もうかな」

 

 ソファの隣に付けるようにミニテーブルを召喚し、本と紅茶。クッキーを手元に移動させた。

 ふと、膝に乗るスミレを見ると、そこには凄く落ち着いた表情で眠るスミレの姿があった。

 

「ふふっ······可愛い寝顔だな」

 

 無意識に言葉が零れ、つい頭を撫でてしまう。歳の離れた妹を持つ兄とはこんな感じなのだろうか? そんなことを思いながら、僕は再び本を開いた············

 

 

 

「なんだよ······これ」

 

 急いで基地に帰ると、そこはピンポイントで異常気象に襲われたのかと思うほどボロボロになった第三基地と、その手前に設営された簡易拠点があった。

 

「······やあ、おかえりシェフィ。」

「司令!? 一体何があったんですか」

 

 俺を見つけて声をかけてくれた司令も、骨折したように左腕を吊っており、他の面々も大小様々な傷を負っていた。

 大体の仲間がいることを確認し、安心したのも束の間。いくら探してもある人の姿が見つけられない。

 

「司令! あいつは······アラトは何処にいるんですか!!」

「アラト······か。······彼女はッ」

 

 顔を伏せて言いづらそうにしている司令の肩に一つの手が置かれる。

 

「司令、説明は任せてくれ。······取り敢えずはテントに行こう」

 

 ディアスの後を追い、簡易拠点で最も大きいテントに入る。

 テントに入って早々にひとつ問いを投げる。

 

「······ディアス、お前はなにか知ってるのか?」

 

 司令を近くの椅子に座らせてから、ゆっくりとディアスは口を開く。

 

「ああ、シェフィ。落ち着いて聞いてくれ······端的に言うとアラトはあいつらに連れ去られた」

 

 淡々と表情を変えずにディアスは告げる。

 

「連れ去られた!? ならなんでお前はそんなに落ち着いて······」

「基地内で実際にあいつが連れ去られるのを見たからだよ」

 

 変わらず冷静に告げるディアスの胸倉を掴み、拳を振りかぶる。

 

「もちろん助けようとはしたが······駄目だったんだ。済まない」

 

 こちらを見るディアスの目は到底嘘を言っているようには思えない。

 

「······わかった。それならしょうがない······よな」

 

 一度落ち着くために呼吸してから、掴んでいた手を離す。

 

「······本当に済まない。······だがその分、軽傷の俺は救出作戦には尽力させて貰うつもりだ」

 

 胸を叩くディアス。普段のソレよりも強く叩いているように思えるため、コイツも相当に悔しいのだと理解できた。

 

「うん。そうと決まれば早急に作戦を立てようか」

 

 司令が立ち上がり、早足でテントから出ていった。

 司令は全体に声を掛けたらしく、半日もせずに通信設備を復旧し、本部協力の下で何パターンかの救出作戦が完成していた。

 

 

『それでは、これよりアラト救出作戦を開始する』

 

 無線の先から声が響く。

 

「向こうも始まったか」

 

 作戦が完成した翌日の、夜も深くなってきた頃。俺は、襲撃してきた奴らの基地内部に潜入していた。

 作戦の内容として、第三基地の戦闘可能な兵力で正面から殴り込み、そこに敵戦力が集まっている内に俺が敵基地内部に潜入。アラトを救出し、そのまま隠密部隊をシンガリに脱出。

 俺たちが脱出し次第、本部からの援軍含めて敵を包囲。できる限り建物に傷を付けずに制圧。奪取する。といった作戦になっている。

 一応相手は同業者なのだが、司令曰く総司令は戦力を貸してくれるだけでなく、相手側の本部にそれなりの対価を提示して『この件に干渉しない及び、基地の情報をいくらか提供する』という契約を取り付けてくれたらしい。

 ······本来の平和な社会と比べて一人の命が軽いこの業界で一人ために対価を出してまでの交渉が出来るのは業界全体でこの人くらいだろう。

 本当に総司令には感謝してもしきれないくらいだ。

 

「······よし。ここがこの基地の司令室だな」

 

 目標地点に到着し、邪魔が入らないように、周囲を簡単にではあるがクリアリングする。

 周囲に敵がいないことを確認した俺は、愛銃を片手に、司令室の扉に近づいて聞き耳を立てる。

 部屋の中には二つの声と、暴れているような音がしており、声の片方はアラトの声。もう片方はネットリと気持ち悪いとさえ感じる男の声だった。さらに言えばアラトの声は相当に嫌がっていると分かる程のもので、今すぐに扉を蹴破ってアラトを救出しに動こうとする。

 瞬間、脳に突き刺すような痛みが走り、同時に何かの映像が流れ込んで来た。

 それは、この後に起こる未来の記憶なのだろうなと、なぜだかそう感じられた。

 

「······こんな結末にはしない!」

 

 記憶を見て心中で叫んだ思いはつぶやきとなって。決意として俺の口から出てきた。

 

「すぅ······ふぅ······」

 

 深呼吸と共に、愛銃をホルスターに差し込み、作戦開始前にディアスからお守りとして押し付けられたリボルバーを取り出して、撃鉄を起こす。

 ······扉を開けたら、間違いなく人を殺すことになる。だというのに、俺は非常に落ち着いていた。それも、今までで最も冷静だと思えるほどに落ち着いている。

 扉に手をかけて押し開ける。

 そしてその先に存在していた男の頭に銃弾を叩き込む。

 俺が部屋に入ったことで、男は銃を取りに行こうと動いたのだが、その途中で俺が放った弾丸により、男の頭部に風穴が開いた。

 男の死体の逆側にいるアラトに視線を向けると、そこには何故か寝台に乗せられ、腕を頭の上で縛られている彼女がいた。

 

「············待たせたな、アラト。助けに来た!」

 

 彼女を縛っているロープを切り、もう安心していいと優しく声をかけ抱きしめる。

 

「シェ······フィ?」

 

 彼女は混乱しているようで、ぽかーんと呆けた顔をしているが、その呆けた表情を愛らしく感じた俺は、彼女から少し離れ、普段より雑に撫で回す。

 

「······シェフィ、撫でないでってば!」

 

 そういって俺の腕を押し返した彼女は、先程までの呆けた表情ではなく、いつものように可愛らしく頬を膨らすアラトだった。

 

「······やはりお前はその顔でいてくれないと困る」

 

 自然と漏れた笑みを手で隠しながら、彼女にも作戦を説明する。

 

「······わかった。とりあえず脱出すれば勝ちなんだね」

 

 アラトは軽く体を動かしてから、机に置いてある銃を拾う。

 

「理解が早くて助かる。······帰るぞ! みんなの元へ!!」

 

 

 ······その後、俺たちは一切の会敵もなく脱出し、仲間たちと合流。死傷者も殆どなく、作戦は無事に終了した。

 それから、作戦に協力してもらった総司令達のところへ感謝を伝えに行ったり、本部での休養やアラトの精密検査など色々あったが、一週間後には奪取した基地が新たな第三基地へと生まれ変わり、いつもの日常に戻っていた。

 

 

 

「······その翌年、第三基地のメンバーは再編され、シャウト、ディアス、アラトを主要メンバーとした社内二つ目の特殊部隊が出来たのだとか············」

 

 パタン。と本を閉じ、残っていた紅茶を飲み切る。

 

「ふむ。近々彼らにも会いに行ってみるとしようかな」

 

 本をミニテーブルに置き、膝で眠るスミレに目を移す。

 変わらずスヤスヤと眠る少女を優しく撫で、息を吐く。

 

「これでは動けないな。ふぁ······眠くなってきた」

 

 少女の寝顔につられて、僕にも眠気が来たらしい。

 簡単に片付けを済ませ、スミレを起こさないように少しだけズレて、背もたれに寄りかかり、僕も眠りに落ちて行った··················

 

 

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