魔法少女リリカルなのは Scarlet Sniper   作:ZERO式

1 / 1
第01話 純白と深紅

「──な、なんだよこれ……ッ!!」

 

目の前に広がる異様な光景。“何者”かによって破壊され吹き飛んでいる壁や抉られた道路、薙ぎ倒された電柱。まるで今ここで戦いがあった事を物語っているようだった。

 

……なのに、それなのに辺りに人影どころか人の気配すらしない。ここまで破壊されるくらいの事なら普通は野次馬がひしめきあっているはず、なのにそれがないというのは不自然すぎる。

 

《グオォォォォォッ!!》

 

どこからか獣のような鳴き声が耳をつんざく。だがこんな声は喧嘩してる猫でも犬でも出さない、というか聞いた事すらない。鳴き声のした方──空を見上げると、そこにはぐにゃぐにゃと“真っ黒い何か”が蠢き、その体からいくつもの触手を出している。

 

──そして、その触手の攻撃を華麗に回避しながら飛ぶ“もう1人”がいた。

 

「……女の子?」

 

そこには見たこともない真っ白の服を身に纏い、左手に特異な形状の金色の杖を握り、星が煌めく夜空を飛ぶ少女がそこにはいた……。

 

それは小さな出会い……そしてオレの運命の歯車が回り始めた大きな出会いでもあった。

 

 

 

──新暦65年。日本海鳴市市街地。

 

「つまらん」

 

学校帰りに立ち寄った本屋で週刊少年誌に載っていた新連載を見ての第一声。その声に本屋に来ていた他の客や店員がこちらに視線を向けてくる。気まずくなりオレは手に持っていた本を置くと、そそくさと本屋から出て家へと帰路についた。

 

時刻は午後4時30分、普通の中学生なら部活動に励んでいる時間だが、オレは帰宅部なので授業が終わったら帰るだけ。そんな何のへんてつもない平凡な生活をオレ──櫻井桜萪は過ごしていた。

 

「ただいま」

 

帰宅するが返事はない。そう、これがオレの“当たり前”の生活。静かな静寂が支配するこの家でオレは1人で暮らしてる。そんなオレを気遣って面倒を見に来てくれる近所の方がいるが、親戚の方は絶縁状態に近いから誰も来ない。いや、はじめから期待もしてはいない。

 

「……疲れた」

 

自分の部屋へまっすぐ向かい、入るや否や持っていたカバンを放り投げ、そのままベッドへダイブした。ふと視線が机に置かれた写真立てへ向かれる。そこにはバカみたいに満面の笑みで笑っているオレと、オレを抱き抱えて微笑を浮かべている両親の姿を写した写真が飾られていた。

 

……オレの両親はオレが小学5年生の時に列車事故に巻き込まれて死んだ。結構な数の死傷者が出たその事故は過去にも類をみない大事故と大々的にメディアに取り上げられていたのをまだ鮮明に覚えている。

 

小学5年生と幼いながら親を失い、残されたのはこの家とお金と自分の命。金に集まってきた卑しい奴等から自分と財産を守るために、色々と努力してきた。

 

それはこれからも変わらない……。そう、変わらないのだ……。

 

 

◇◆◇◆

 

 

午後10時46分。夕食を終えてオレは自室のベッドに寝転がり、携帯ゲーム機で1人遊んでいた。宿題は帰宅してすぐにしたからもう終わっている。

 

完全にリラックスしているまさにその時、それは起きた……。

 

『──けて。誰か助けて……!』

 

「ん?」

 

ふと誰かの助けを呼ぶ声がしてベッドから起き上がる。窓を開けて周りを見渡すがそれらしき人影は見えないし、声も聞こえてこない。……気のせいだったのだろうか?

 

声の質からしてオレより年下の少年って感じだったけど……。もう一度耳をすませてみるが今聞こえた声はしない。

 

「疲れてんのかな──ん?」

 

キイィィンッと頭に何かが響く。頭痛とは違う。そう、表すなら頭に何か直接言葉が投げ掛けられるような、そんな感じだ。

しかもその気配はこの家から感じる。

 

疑問と少し恐怖を抱きながらもオレの足は自然とその声がする場所へと向かう。向かった先はかつて両親が使っていた1階の寝室。今物置として、使わない物をしまっとく部屋として使っている。

 

さすがに怖くなったので一旦部屋へ引き返し、木刀とハンドガン型のガスガンを握りしめ、改めて問題の部屋へと入った。

 

「だ、誰かいるのか?」

 

返事はない。それが余計怖くなり急いで部屋の電気をつけた。明かりに照らされた室内は両親が使っていたベッドを真ん中に様々なものが積み上げられている。くまなく室内を探るが人影はおろかネズミ1匹いない。

 

だが確かに何かの気配は感じる。しかもその場所がベッドからだから余計驚きだ。

 

「え、何?ホラーだったらマジ勘弁なんだけど……」

 

ビクビクしながらもオレはそこそこ重たいベッドを動かす。積もりに積もった埃舞い上がり、カビ独特の匂いが鼻を刺激する。そして、ベッドの下にそれはあった。

 

「……蓋?」

 

そう蓋だ。よくゲームやマンガに出てくるような秘密の部屋に通じるような蓋。その蓋がなぜか我が家の両親の寝室に存在しておりしかも鍵が開いている。

覚悟を決めてオレはゆっくりと手を伸ばし蓋の取っ手を握る。力一杯引き上げると、ギギギと重たい音を響かせながら蓋が少しずつ開かれていく。

 

「……ッ!こ……のッ!」

 

ガタンッと音を立てながら蓋が開かれた。中には下へと続く階段があり、蓋を開けた途端、階段とさらに奥を明かりが照らす。

 

ドキドキと鼓動が早打ちしてるのが分かる。興味と恐怖を胸に抱きつつゆっくりと階段を下りる。そして一番下まで来たオレの目の前に広がるのは信じられない光景だった。

 

「な、なんだよ……これ……」

 

見たこともない機械、文字、道具の数々。どれもこれも分厚い埃が被っており、ここに何年も人が入っていないのを物語っている。一見するとここはまるで研究室か実験室のような場所だった。

 

ホワイトボードやノートには今まで見たこともない文字で何か書いてある。英語でもハングルでもない、地球のものとは違うように感じる。

 

「ここは一体、何なんだよ……」

 

まさか自分の家の地下にこんな空間があるなんて誰が想像できるだろうか。そもそも誰が何のためにこれを作った?そして隠されていた?

 

そして、尽きぬ疑問を抱くオレの視界にそれは映った。

 

「ネックレス?」

 

部屋の奥に設置されていたカプセルのようなものにそれは入っていた。X字状に象られた紅い宝石のネックレス、しかもそのカプセルの中にフワフワと浮いているではないか。

 

『(──登録者を確認。これより起動します)』

 

「!?」

 

刹那、ネックレスの宝石部分が強く輝きだし、表面に先程見たあの文字がいくつも浮かび上がる。

 

『(起動完了。続いて初期設定を行います。──設定完了。最後に登録者との契約を行います)』

 

「え?え?」

 

カプセルが開かれフワフワとネックレスがオレの目の前に浮かび上がる。

 

『(名前、性別、年齢をお願いします)』

 

「さ、櫻井桜萪……男、14歳」

 

『(了解──登録完了。続いてバリアジャケットを構成します。こちらで設定しますがよろしいですか?)』

 

「あ、あぁ」

 

言われるがままに答えていくオレ。一体何なんだよコイツは。

 

『(設定完了。では呼んでください、私の名前を)』

「お前の名前?」

 

『(そう。私の名前は──)』

 

 

◇◆◇◆

 

 

「うおわっ!?……あれ?」

 

びっくりして起き上がり、キョロキョロと見渡すと見慣れた部屋にいた。間違いない、オレの部屋だ。しかもベッドイン、服装もパジャマ。

 

「……夢?」

 

だとすれば悪夢だ。まさか自分の家に秘密の部屋があって未知との遭遇まで体験なんて、馬鹿げてるしあってたまるか。

 

嫌な寝汗をかいていたためか下着は湿っており、髪や肌もベタベタして気持ち悪い。一息ついてベッドから下りてオレはまっすぐ風呂へと向かった。

 

──昨日履いていたズボンのポケットにあのネックレスが入っている事にも気付かずに。

 

 

 

「──は?それ何てマンガの展開?」

 

「ですよねー」

 

学校に登校後、クラスメイトであり友人の藍葉優衣に昨夜の夢の話をしてみた。結果は予想通り呆れ顔。まぁオレ自身も夢と思ってるんだけど。

 

「むしろその話がホントだなんて誰が信じられるの?あんたラノベ読みすぎでしょ」

 

「そこまでズバズバ言わんでいい。けど妙にリアルだったんだよな……」

 

「ふーん。ま、別にいいけど」

 

そう言って優衣は机の中から教科書やノートを取り出す。次の授業は数学だからそれなりに得意ではある。故に睡眠授業は他の授業なのである。

 

「けどもし……」

 

そう言葉を切って優衣はこちらに向き直り改めて口を開く。

 

「けどもし、それがホントならあんたどうなる訳?」

 

「んー……どうなるんでしょ?」

 

はっきり言って、そんな事知るくぁッ!!

むしろオレが教えてほしいものだ。どこか知らない異世界へ飛ばされるのか、はたまた何かと戦うアニメや特撮みたいになるのか。

 

どのみち現実となるのであればオレのこの平凡な日常が崩壊する事は確実であろう。

 

キーンコーンカーンコーン。

 

授業開始の鐘が鳴る。それと同時に数学担当の先生も教室へ入ってきた。

 

「ほらー、チャイム鳴ったぞ。席に着いて授業始めるぞー」

 

「起立、礼」

 

『お願いしまーすっ』

 

学級委員の声に続き全員席を立ち頭を下げる。そして再び席に着いて教科書とノートを開く。

 

「まずは昨日やったとこの確認だ。えっと……教科書の40ページを開いて」

 

「……さて、とやりますかね」

 

先生に言われた通りのページを開いて授業に取り組むオレであった。

 

 

「──あれが例の魔導師?」

 

『みたいね。昨夜検出された魔力と彼の秘めてる魔力が一致してるわ。間違いなくあの男の子よ』

 

「私より歳上みたいだね」

 

『あなたは10歳、あっちは14歳。年齢的にはお兄ちゃんと妹ね』

 

「お兄ちゃんかぁ。けど“魔法”に関しては私が先輩だねっ」

 

『そうねアキラ。……さて、これからどう動くかしらね』

 

 

◇◆◇◆

 

 

全ての授業が終わり生徒達が部活動に励む時間、帰宅部のオレはいつも通り家に帰ろうと1人道を歩いていた。優衣は女子バレー部に所属しているため今頃体育館だろう。

 

「今日は趣向を変えて別な道から帰ろう」

 

不思議と今日は寄り道をゆっくりして帰りたい気分だ。ちょうど今歩いているとこの近くに公園がある事を思いだし、オレは迷わずそこへと足を運ぶ。

 

そこそこ大きい公園で池や林があってカップルや小学生がよくここに来ているらしい。そんな事を考えながら池へ向かうと、何やら人だかりができている。

 

奥の方には公園を管理している会社の職員と思われる人と、警察官が3人ほど規制線を貼っていた。

 

「何かあったんスか?」

 

ちょうどよくこっちに歩いてきた職員に話をかけてみる。すると職員は頭をかきながら苦笑いを浮かべ言った。

 

「ちょっと艀とボートとかが壊れてしまっていてね。壊れ方が壊れ方だから警察の方に来てもらったんだ」

 

確かによく見ると桟橋の一部が割れて池に沈んでいたり、手漕ぎボートやあひるボートも無惨にもバラバラになっていた。他にも壁や木々にも何かで引っ掻いたようにごっそり抉られている。

 

「これを説明するのは2度目だな。君も危ないから近付いちゃダメだよ?」

 

「あれ、オレが最初じゃないのか」

 

「あぁ。小学生の女の子3人組がついさっきね。制服からすると聖祥大付属の子かな」

 

とすると、オレの中学と同じ経営者の学校か。とりあえず教えてくれた職員にお礼を言ってオレは再び公園内を歩き始めた。所々にさっき池で見た傷が見受けられる。

 

『……助けて…………』

 

「!!」

 

オレは走った。ただひたすらに声の聞こえてきた方へと走った。なぜ走ったかは知らない、けどオレの足はまるでその声に引かれるように駆けたのだ。

 

そして、ようやく足を止めた場所には1匹の小動物を抱える1人の女の子と、それを心配そうに見ている2人の女の子がいた。

 

オレに気付いたのか3人はこちらを振り向き、訝しげに訊ねる。

 

「あの、あなた誰ですか?もしかして私達の後をつけてた……?」

 

金髪の子がまず話し掛けてくる。明らかにオレを不審者と思っている目だ。

 

「違う違う!えっと、オレが来たのは……そう!その子が抱えてる小動物に呼ばれた気がしてだな」

 

「…………」

 

「……それ本気で言ってるんですか?というかこの子はあなたのペット?」

 

まずい。余計疑われてしまった。あぁ、オレ警察に補導されるなんて嫌だよ?

 

「えっと……この子、怪我してるみたいなんです。だから動物病院に運ばなきゃいけないんです」

 

そう言ったのは今まで黙ってこちらの様子を見ていた小動物──フェレットを抱いていた、白いリボンで髪をツインテールでまとめている女の子だった。

 

「ならオレが案内する。良い先生がいる動物病院を知ってるんだ」

 

そう、これが運命の歯車がゆっくりと動き始めた瞬間だった。

 

 

 

「──うん、傷もそれほど深くないし命に別状もないわね」

 

「「「よかったぁ」」」

 

「ありがとな先生。突然押し掛けても診てくれて」

 

「本来なら料金取るんだけどね。桜萪くんは特別だから無料よ」

 

顔馴染みである先生が開いている動物病院へ駆け込んできたオレ達。今話があったようにフェレットの命に別状はなく、傷が癒えれば元気になるそうだ。

 

「というかなんでなのははあそこにフェレットが倒れてるのが分かったの?それにあなたも」

 

「そうそう。いきなり走り出したからびっくりしちゃった」

 

「うん、何かこの子が私を呼んだ気がして」

 

そう言いながら“なのは”と呼ばれた女の子は包帯が巻かれたフェレットへと手を差し出す。するとフェレットはその手にちょっとだけ頭を乗せ、すぐに丸くなってしまった。

 

……先程から気になっているんだが、このフェレットが首から下げているのって宝石か?ビー玉みたいだけど、赤く綺麗だしルビーとかかな?

 

「さて、と。悪いけどうちでもずっとこの子を置いておく事はできないのよね」

 

そう言いながら先生はオレ達を順番に見ていく。

 

「うちは犬飼ってるから無理」

 

と、金髪少女。

 

「うちも猫沢山飼ってるし……」

 

と、紫髪少女。

 

「うちは食べ物屋だからペットは……あ、お兄さんは?」

 

首を傾げながらなのははこちらを見上げる。

 

「オレ?オレん家も無理っぽいかな。何しろ暮らしてるのオレだけだから、ペットまで面倒を見るのはな」

 

「えっ?お兄さん1人暮らしなの?」

 

「その制服、うちの系列の中学よね?」

 

「中学生が1人暮らしってきつくないですか?」

 

一気に3人から言い寄られる。それに対し後ろへ少々仰け反りながらオレは答えた。

 

「ま、まぁとりあえず質問は一気にするな。ざっくり言うと親がお星さまになって1人だけど、それなりにお金が残っていたし、近所の人がたまに家に様子を見にきてくれるし」

 

「すみません、余計な事を訊いちゃって」

 

なのははペコリと頭を下げ謝る。それに続いて2人も気まずそうに頭を下げてきた。

 

「気にしなくていいさ。ま、話を戻すが結局どうするよ?」

 

とにかくオレは飼えない。3人も飼うのは難しい、けどこのままだとこのフェレットはいずれ保健所行きだろう。それだけは避けたいのだが……。

 

「あのぅ……。ちょっと両親に相談してみます」

 

そう言いながら名乗りを上げたのはなのはだった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

あの後とりあえず解散となり、フェレットはなのはが飼う予定にはなった。まだ両親の許可を得ていないから、現時点でどういう進展があったかは分からない。

 

幸いにもオレもなのはも携帯を持っていたので一応連絡先を交換しておいた。多分だけどそのうちメールが来るだろう。

 

(そういえばあの声、あれはフェレットのだったのかな?いや、さすがにそれはないよな……)

 

けどあの声のする方へ走ったらあのフェレットが倒れていた。幻聴だったとはどうも信じられない、確かにはっきりと聞こえたのだから。

 

チラッと時計を見る。時刻は午後9時過ぎ、すっかり夜になり外を歩いている人は見えない。──なのに、またあの声がはっきりと聞こえてきた。

 

『聞こえますか?僕の声が聞こえる方……お願い、力を貸してください……ッ!どうか……お願い……』

 

「!!」

 

ベッドから飛び起き、ハンガーにかかっていた上着を乱暴に手に取りオレは家から飛び出した。運動はあまり得意ではない、だがその時は不思議と全力疾走しても全く疲れなかった。

 

そしてSOSの声の主へと向かっている最中、空や空間が突如紫色へと変わり、人や動物の気配が無くなった。

 

「ど、どうなってんだよこりゃ……」

 

立ち止まりキョロキョロと辺りを見渡す。すると前方の方で爆発音に似たでかい音と煙が上がる。明らかに普通ではない事が今まさに起きていた。

 

迫り来る恐怖感に足が震える。だがオレの足は震えながらもまっすぐ、確実にその現場へと向かった。

 

「な、なんだよこれ……ッ!!」

 

目の前に広がる異様な光景。“何者”かによって破壊され吹き飛んでいる壁や抉られた道路、薙ぎ倒された電柱。まるで今ここで戦いがあった事を物語っているようだった。

 

……なのに、それなのにやはり人影はおろか人の気配すらしない。ここまで破壊されるくらいの事なら普通は野次馬がひしめきあっているはず、なのにそれがないというのは不自然すぎる。

 

《グオォォォォォッ!!》

 

どこからか獣のような鳴き声が耳をつんざく。だがこんな声は喧嘩してる猫でも犬でも出さない、というか聞いた事すらない。鳴き声のした方──空を見上げると、そこにはぐにゃぐにゃと“真っ黒い何か”が蠢き、その体からいくつもの触手を出している。

 

──そして、その触手の攻撃を華麗に回避しながら飛ぶ“もう1人”がいた。

 

「……女の子?」

 

そこには見たこともない真っ白の服を身に纏い、左手に特異な形状の金色の杖を握り、星が煌めく夜空を飛ぶ少女がそこにはいた……。

 

よく目を凝らして見てみると、その空飛ぶ少女にオレは見覚えがあった。

 

「……高町、なのは……?」

 

間違いない、あのツインテールに顔、今日会ったばかりの高町なのはだ。そのなのはが変な服を着て空を飛んでいるのだ。

 

呆然と立ち尽くしているのも束の間、先程の化け物がこちらに気付きその体から触手を出してこちらに突撃してきた。

 

「まずっ──」

 

死を覚悟して目をかたく閉ざしたその時──それは起きた。

 

『(──マスターへの敵意及び攻撃を確認。プロテクション展開)』

 

化け物の触手があと数センチという所で突如深紅の光がオレを包み込む。しかもその光は不思議な文字で構成された魔方陣のようなもので、オレを化け物の触手から守っていた。

 

「な、ななななっ!?」

 

「お兄さん!?」

 

状況が分からず1人パニックになっていると上空から女の子──なのはが降りてきた。どうやらここにオレがいた事に驚いているらしい。

 

「な、なんでお兄さんがここにいるの!?」

 

「それはこっちのセリフだ!一体この状況とこの光なんなんだ!?」

 

「そんな……あなたも魔力を持っていたなんて」

 

どこからか声が聞こえてきたが辺りにオレとなのは以外の人間はいない。

 

「ここです!ここ!」

 

キョロキョロと見渡してみると、足元にあのフェレットがいた。……って!?

 

「フェレットが喋った!?」

 

「そんな事より!あなたも魔力持ってたんですか!?しかもデバイスまで」

 

「で、デバイス?何のこと──ん?」

 

不意にポケットに手を入れた時、何かが入っていた。恐る恐る取り出してみると、それは例のネックレスだった。しかもネックレスの宝石には、今目の前に展開されている魔方陣と同じ文字が光ったり消えたりを繰り返している。

 

『(交戦不可避。登録されたデバイス及びバリアジャケットを展開しますがよろしいですか?)』

 

「え、えぇいっ!こうなったらやってやる!!」

 

『(了解。では呼んでください、私の名は)』

 

「イクスアーベント!セット・アップ!!」

 

叫んだ刹那、体が宙に浮かび上がりオレの体を先程の深紅の光が包み込む。そして再び目を開くとそこには、紅と白の防護服を身に纏い、左腕にガントレットを装着し、右手に巨大な白い大型ライフル砲を構え空を飛んでいるオレがいた。

 

「な、なんじゃこりゃーっ!?」

 

《グオォォォォォッ!!》

 

「ッ!!こっち来たー!」

 

『(エナジーウイング展開)』

 

その音声と共に背中から2枚の光翼が展開し、上空へと飛行し化け物の突進を回避する。

 

「やるしかないってか……。なのは!連携してあの化け物斃すぞ!」

 

「はいっ!」

 

「イクス、オレはまだ何にも知らない素人だ。全力サポート頼む!」

 

『(分かりましたマスター。まずあれはロストロギアの異相体です。あれを封印するためには接近による封印魔法の発動か、大威力魔法が必要です。マスターは射撃型なので射撃魔法での封印が最良でしょう)』

 

イクスがスラスラと教えてくれる。その一方で化け物はオレやなのはに触手や突進での攻撃を仕掛けてきており、それをオレ達は華麗に回避する。

 

「レイジングハートの言うには、自分の思い描く“強力な一撃”をイメージするんだって!」

 

「OKなのは、やってみる!」

 

オレはなのはに言われた通りに強力な一撃をイメージし、ライフルを構える。するとバレル前方に輪状の魔方陣が展開され、魔力エネルギーが球状に収束される。

 

『(Dモード展開。ストレイトシューター)』

 

「いっけぇッ!」

 

その瞬間、収束された深紅の魔力が直射状に発射され向かっていた化け物を撃ち貫く。化け物は低いうめき声を上げながらバラバラになるが、すぐに合体し今度は地上にいたフェレットへ襲いかかる。

 

だがそれより先になのはが駆けつけプロテクションを展開し、化け物からフェレットを守った。

 

『(利き手を前に出して)』

 

「は……はいッ!」

 

レイジングハートに促されるままになのは利き手である左手を前に突き出す。するとなのはの左腕に輪状の魔方陣が展開される。

 

『(シュートバレット。撃って)』

 

刹那、左腕から直射状の魔力砲が放たれ、化け物の体を穿つ。

 

衝撃で化け物の体は3つに別れるが、それぞれが意思を持つ体になり、逃走を始めた。

 

「逃げる気かよ、追うぞなのは!」

 

「は、はい!」

 

2人で空を飛び追いかけるが追い付けない。今の空間でなら人がいないから大丈夫だが、もし人がいるところに出ていったら……まずい!

 

「レイジングハート、さっきの光……遠くまで飛ばせない!?」

 

『(あなたがそれを望むなら)』

 

「イクス!さっきのよりも強力なやつを撃てるか!?」

 

『(もちろんですマスター)』

 

高層ビルの屋上に2人で降りる。そして同時に目を瞑りそれぞれの魔力光に輝く魔方陣が足下に展開された。

 

『(モードチェンジ。キャノンモード)』

 

なのはのもっていたレイジングハートの杖が変形し、バレルとトリガーが展開される。

 

『(Sモードへシフト。スコープ展開)』

 

イクスを構えると上段の銃口部分が前方へとせり出し、右目に照準用フォロスクリーンが展開される。

 

「まさか封印砲……!?あの2人……砲撃型ッ!?」

 

『(直射砲形態で発射します!)』

 

『(ロックオンの瞬間にトリガーを引いて下さい)』

 

ブワッとレイジングハートから桜色の羽が展開され、イクスからはバレル上部から深紅のブレードアンテナ状のセンサーが展開される。そして、その眩い閃光が逃げる化け物へと放たれた。

 

「ディバイィィィィン!バスタァァァァァッ!!」

 

「ストレイトォォォォ!バスタァァァァァッ!!」

 

桜色と深紅の魔力砲がそれぞれのデバイスから放たれ、必死に逃げる化け物3体を撃ち貫く。化け物は大きなうめき声を上げながら魔力光に包まれ、蒸発し消滅した。

 

バシュッとデバイスの基部が展開され排熱される。そして展開されていたフォロスクリーンと銃口が収納された。

 

「ふ、ふう……」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「──これがジュエルシードです。レイジングハートとイクスアーベントで触れてみてください」

 

フェレットに促されながらオレとなのは互いのデバイスを宙に浮かぶ3つの宝石──ジュエルシードに近づける。

 

するとなのはのとこに2つ、オレのとこに1つのジュエルシードが取り込まれた。

 

『(ジュエルシードNo.18、No.20)』

 

『(ジュエルシードNo.21封印)』

 

取り込んだ直後、互いのバリアジャケットが輝きだし、先程まで着ていた私服へと変わる。デバイスも待機形態である宝石とネックレスへと姿を変えた。

 

「「はぁ……」」

 

へなへなと2人してその場に座り込む。

 

「だ、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫……大丈夫だと思う」

 

「大丈夫だけど……めちゃくちゃ疲れた」

 

スゥーっと今まで張られていた結界が消えて行く。同時に消えていた人や動物の気配も戻った。

 

「……さて、と。まずは説明してもらうぞフェレットくん?君の正体、さっきの化け物、ロストロギア、その他もろもろについてな」

 

「……はい。全てお話します」

 

こうしてオレの過ごしてきていた日常は、この出会いによって非日常へと変わり始めたのであった。

 

「──ふぅん。櫻井桜萪さん、ね。まさかホントに覚醒させちゃうなんて、しかもこんな早く」

 

『けど彼はまだ自分の力についてまだ知らないわ。そう、例えるならまだ原石の状態の宝石ね』

 

「けどまだ私達が動くまでの状況じゃないよ。もう少し監視してよ?」

 

『そうね。これ以上は危険と判断したら私達の出番ね』

 

「うん。……第97管理外世界地球、海鳴市藤見町ね。ちょっと気に入ったかも♪」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。