時空管理局への協力を決めた翌日、週末になったので久遠は早速たくさん残機のある端末を責任の押し付け先にするべく、なのはちゃんとフェイトちゃんを連れて神浜市外へと向かいました。
そして到着した駅の建物を出ると、待ち構えていた見滝原の魔法少女達に迎えられました。中央区のマンションに移り住んでいる杏子ちゃんまで駆り出されてしっかり五人で戦隊を組んでいます。
そして元ネタと違い中央にはマミさんではなく、腕を組んで仁王立ちしているまどかちゃん。威風堂々とした態度に魔法少女改め嘱託魔導師の二名はすっかり気圧されていました。普通に考えて中学生に睨まれたら小学生は怯えますよ、そりゃ。
ちなみに真実はまどかちゃんの頭上に乗っているめんたいこの存在と、その取っている姿勢とに警戒しているだけでした。ガチャ回す石やデビチルのような鉄火場を潜って来たのは伊達ではないのです。というか見えちゃうんですね、ふーん。
で、宇宙規模のSDGsに熱心な意識高い系の集合精神から切り捨てられためんたいこではありますが、それ以前のデータは各端末の記憶媒体に個別に保管されているため、普段から知恵袋として大活躍しています。
そのため、久遠は時空管理局の観測した宇宙の漂着に対する見解と共に、次元世界の存在に関する記録の有無と、新規情報であった場合に知った後どう動くのかの行動予測とを知りたくて頼ることにしたのです。久遠は一般キュゥべえが見えないままですし。
とはいえ、順番を間違えてはなりません。まずは絶対上位者に挨拶を済ませるのが礼節というやつです。
弟としての甘えを前面に押し出しながらも第二次性徴期を迎えた男性らしさをそっと匂わす感じのハグを受けたまどかちゃんは、キリッとした表情を崩しました。周囲の視線など気にしない王者の風格……と呼ぶには少々威厳が霧散してしまっています。おぉ、王よ、尻を揉むのは止めて差し上げろ。
何はともあれ、機嫌が回復したまどかちゃんに見滝原フレンズも安堵のため息。
そうして調査のための話し合いへと移ることにしましたが、内容的に魔導師サイドが叫ぶ可能性を考慮して、場所は雑音で溢れ返る広めの個室になりました。万が一にもハーレム扱いされないようにと、久遠はユニセックスな服装でコーディネート済。普段の生活から考えて男性ホルモンがドバドバなはずなのに、紛れ込めてしまう小学六年生がこちらになります。
肝心の調査ですが、まず漂着した宇宙に関しては並行宇宙から切り離されて投棄されたのではないかとのことでした。
その実行犯についても、宇宙の意思と呼ばれる存在であることまでは分かりました。ですが、それがどういった存在なのか――その正体に関しては、知っていたはずなのに全く思い出せなくなっていたため不明でした。おそらく感情が生まれて混乱している僅かな隙に集合精神から漏洩防止のために消去されたのでしょう。
宇宙の意思を上位に置く生命体の認識している宇宙は、基本的に幹となる宇宙を持ち、そこから枝葉のように可能性が広がっているツリー構造だとされているようです。そして基準から外れ過ぎると枯れ葉のように散る宿命を持たされているのだとか。
ただし、感情を持たない悲しき使い走りは正史の存在を知らされてはいますが、肝心の内容に関しては未接触どころか接触禁止。
そして時空管理局の提唱する次元世界に関しては認知の外側なため、仮に知ってしまった場合、宇宙の寿命延ばし隊であれば間違いなく魔法少女システムを引っ提げて各世界へと進出していくだろうとめんたいこは語りました。
これには時空管理局に協力している二人も顔色を悪くします。魔法少女になることは、願いを叶える代わりに以後ずっと命ある限り魔女と戦い続ける宿命を背負うことだと知らされていました。しかも願いが思った風に叶えられなかったり、取り返しのつかない事態を起こしたり、長続きしなかったり、悲劇も起きている様子。更には魔法少女の真実。どこかジュエルシードに似ていると当事者二人は思いました。
なお、次元世界とはおそらく規格が違うので無駄足になる可能性も高く、その場合はここ以外には無害な存在となるだろうとの話が続いたので胸を撫で下ろしていました。それを可能性がある時点で警戒が必要だとレイハさんに注意されていたのが印象的です。
ちなみに、科学技術は人類より進んでる獣的にはインテリジェントデバイスに対する興味は薄く、技術的に作れるけど感情エネルギーの回収に使えないので不要という認識だそうです。本人の前で不要とか言っちゃう感情に目覚めたはずの個体は危うく赤色でトッピングされるところでしたが、すぐさま一方的に使われるだけではない道具との関係性について浪漫を熱く語ったので無事にその場を切り抜けました。
以上の話の中で、無感情だったせいで好奇心も持たず命令遵守していた過去を悔いるめんたいこの姿は、感情の生まれるきっかけとなり育んだ世界である人間に近いものでした。擬人化したわけではありません。ケモナー原理主義過激派への配慮により、めんたいこはモキュ似に改造されてはいますが、ちゃんと魔法少女もののマスコット姿です。白ワンピースを着た白髪赤目のツインテ美少女ケモ耳尻尾付きなんて居なかったんや。
めんたいこが言うには、宇宙の意思に切り離されたこの宇宙は管理者不在な状態であり、脱皮したてのカニもびっくりなよわよわディフェンスで、サポートの終了した古いOS並にガバガバなはずだとのこと。おそらくは不自然なまでに魔法少女の存在が広まっていない不思議を実現していた意識誘導の類も消えているので、地球上の世界各国が大混乱する可能性が伝えられました。
実のところ、この宇宙が切り離される前段階で意識誘導業務は最後まで延命し続ける獣に引き継がれています。この辺りは宇宙の意思が擁護不可能な無能ではなかった証明なのでしょう。たった一度、契約書を読まなかったばっかりに痛い目に遭ってしまいましたが。
そのため、キュゥべえが活動している地域ではほぼ問題なく日常が続いていました……そう、ここでキュゥべえ絶対停止宣言都市が響いて来るのです。
神浜市という例外が存在しており、魔法少女がキュゥべえを狩るゲームの配信であれやこれやと暴露しまくりなので、いつ魔法少女や魔法少女生産&精算機が世間に認知されて大々的に利用される事態になっても――管理世界に認定される可能性が高まっても――おかしくない状況なのです。しかもこの場では全国的に意識誘導が働いていない事になっているため大混乱。なお湯国市や時女一族。
とりあえず、容疑者である宇宙の意思は時空管理局の縄張りである次元世界とは本来無関係であり、今後も意図的に干渉して来る事はないことと、今回の件は偶発的かつ再現不可能な事態であることとが有識者から語られたので、次元移動に関する情報だけでも十分なものが得られました。魔導師二人は一歩前進だと喜びます。しかも、後の詳しい話は野生の現職営業に聞いて貰うしかないと次のヒントまで得られました。まるでお使いクエストです。
久遠は把握した現状を帆奈ちゃんに伝えるためにメッセージを送ると、ドリンクバーに向かいました。当然の様にまどかちゃんも一緒で、まどかちゃんがいる以上はほむらちゃんも一緒です。
そしてドリンクバーのフローズンドリンク容器内にゲーセンの景品に紛れた事もある獣が入っているのを発見、魔法少女二人が詳細を確認して教えてくれました。地球外生命体が相手だから通訳を挟むのはむしろ当然です(開き直り)。
ここでようやく体を張りすぎて凍える獣から、この宇宙が並行宇宙から切り捨てられたことと、宇宙の意思のアレコレを受け取った久遠が実質神のような位置にいる事実とを知らされました。
これを聞いたまどかちゃんは久遠が遠い所に行ってしまったようなさびしさを覚え、ならば自分から動いて近づけば良いのだと更なる鍛練を己に課すことを決めたのでした……女神化フラグでしょうか。まどかちゃんの覚悟を敏感に感じ取ったほむらちゃんも置いて行かれないよう後を追う決意を固めたのです……悪魔化フラグでしょうか。
さて、どうやら久遠には遠く離れて認識も出来ない並行宇宙とやらの管理業務を引き継いだ責任がある様です。契約書に久遠側は受け取るか自分で決められるという文言を載せなかったが故の強制パワーアップ。策士策に溺れるとは正にこのこと。実に迂闊でした。
それなのに実質部下のような営業の姿は見えませんし、声もノイズのままです。久遠の魂に変質が見られないせいなのでしょう。
能力の使い方が分からないので関係者に尋ねましたが、現実は非情でした。逆に言えば、使えないので諦めろと説得する材料になります。が、無感情に定評のある営業は素質の高い少女に願わせれば解決だと事も無げに打開策を出して来ます。
まどかちゃんが冷静さを失わずに止めていなければ、相手の反応を学習しない営業はプッツンして眼鏡を握り潰したほむらちゃんに銃殺されていたことでしょう。まどかちゃんもまどかちゃんで冷静にキレているため地雷探索機能を持たない営業は物理的な圧を持った殺気に押し潰されて動けません。ここだけジャンルや絵柄が違って見えるので、久遠は思わず何度か目を擦りました。幻覚でした。
これはあかんと久遠が引き継いでいたらしい能力に関して自分の中に検索をかけてみたところ、思い切り引っかかってしまいました。というか検索自体が無意識な能力の使用でした。しかもリストアップされた項目を認識した瞬間に能力の使い方を理解してしまったというか、次元を飛び越える移動が出来そうな感じです。それもイメージ出来る範囲を丸ごと。パウチュウさんを元の並行宇宙に復帰させることさえ可能だと確信できました。
この能力を認識した久遠は途轍もない万能感に酔いしれました。今ならまどかちゃんにも遅れは取りませ……取りま……取りまぁす!
なんということでしょう。チート能力を得て最初に考えたのがエロです。魔法少女相手の治療ではない、一人の女の子を相手にする愛情を確かめ合うためのコミュニケーションを主体としつつも積極的に既成事実を狙っていく行為です。しかも想像の上ですら結局は勝てませんでした。こうしてまどかちゃんの無敗記録は守られたのです。
真面目な話、久遠だけとはいっても、次元間移動を出来ると知られてしまえば、久遠が利用されて次元移動が行われて平和が乱される危険性から、時空管理局は何としてでも管理下に置こうとするでしょう。要は非常に面倒なことになります。
さすがにそれは遠慮したいので、事実を伝えずに済ませたい久遠は好感度0な自称部下に一芝居打たせて魔導師二名には速やかな帰還をしていただくのが良いと考えました。控え目に言ってクズです。宇宙の意思から成分を受け継いでしまったのでしょうか。まぁ単に管理とか正義とか軽々しく自称する連中とは絶対にソリが合わないと確信しているだけなのですが。
久遠は空気を変えるために魔法少女二人にセクハラを働いて正気に戻し、瀕死の獣には数年単位で習熟するから我慢するようにと告げました。前向きな回答が得られて嬉しいと作られた笑顔で語る神経逆撫流免許皆伝が三人から死なない程度にボコられたのはここだけの話です。
ついでに、フローズンドリンクの衛生状態を悪化させた罰としてこの個体をなのはちゃんに引き渡し、時空管理局の相手をさせることにしました。
おそらく価値観の違う獣は無自覚に時空管理局へ喧嘩を売ります。それにより平和を乱すと危険視される可能性は低くないでしょう。
次元世界なんて大風呂敷を広げるなら、漂着してきた一つの宇宙でしかないパウチュウさんのスキャンなんて朝飯前でしょうから、本拠地……おそらくそこにある生産工場を破壊してもらえれば完璧なのではないでしょうか。
地球に危険が及ぶ可能性はありますが、宇宙の寿命を延ばすための感情エネルギーを生産、回収する牧場でしかない惑星を消滅させたところで副業収入で暮らせる畜産家の増産と拡散は止まりません。そんな無意味な行為を、小学生の手も借りているギリギリな組織に行う余裕が果たしてあるでしょうか。なくても普通にやりそうなのが困ります。
そんなこんなで確保した瀕死の獣を差し出したところ、なのはちゃんは微妙そうな表情を浮かべながらもNext Nanoha's HINTを受け取りました。
どうやら通信ではなくアースラに持ち帰って直接話をするらしく、カラオケボックスを後にした嘱託魔導師二人はお礼を述べて空へと旅立ちました。
あっちの魔法少女は飛べるんだ、と感心しながら見送った見滝原の魔法少女たちは、そのまま流れで鹿目家に向かいます。そしてそこではソウルジェムの浄化とか強化とか色々あったわけですが、魔女の気配もなく平和な午後を過ごしました。自分以外の少女が久遠の力になることを願うかも知れないという可能性を人心勘定出来ない営業から気付かされて、まどかちゃんが普段以上にハッスルしたのは全力で見なかったことにしましょう。何が危険日だ好機日だろうがオラァ!
そして次の日……爛れた午前を過ごしてから帰宅した久遠。マンション組に報告して、神浜市の破壊計画への影響や社畜精神溢れる獣の扱い――命令の上書きか可能かどうかの確認についての話し合いをしました。
久遠の考えた白だぬき撲滅プランは帆奈ちゃんに疑問視されました。その理由として、魔導師の力量を知らないという前書きがつくものの、小動物サイズの持つエネルギーは恐らく小さく分布は広いであろうことから、反応を捉えるのが難しいであろうこと。特別な理由がないのなら時空管理局に探させるよりも自称嘘を吐かない獣に直接聞き出した座標なり目印なりを時空管理局に流した方が遥かに早いことなどが上げられました。久遠は恥ずか死を迎えました。
そして業務は引き継ぎ済らしい魔法少女関連の認識阻害や意識誘導などによる隠蔽効果についても、キュゥべえがいなくて神浜市内が危ないなら宇宙の意思とやらから引き継いだ能力を使って久遠が隠蔽すればいいと当たり前な意見を出されました。
面倒だという久遠の反論は、犠牲者候補によって封殺されました。まさかの泣き落としです。タイプ相性で4倍弱点……と言いたいところですが、久遠はタイプの組み合わせだけでなくタイプ相性が倍化するという特性まで狂った厨ポケなので4×4=16倍弱点です。駄目じゃん。
チョロチョロのチョロだった、と帆奈ちゃんは後に語り、みことちゃんがそういうことは言っちゃだめだよ本当のことだけど、とトドメをさしました。演技だとバラして愉悦した日の夜に反撃を受けた事はすっかり忘れての回想でありましたとさ。
そうして迎えた月曜日。学校から帰って来た久遠がタイムセールへ向かおうと準備していたら、大きな音と衝撃とが伝わって来ました。
天丼はギャグの基本だと学んでいた久遠に死角はありません。余裕を持って堂々と畑に向かい、予想通りに地面から生えた生足を発見しました。問題は、今回のお野菜はスカート丈が短かったせいでパンモロしていたことです。
これは助けてからも気まずいと悩んでいると、空から聞いた声がかかりました。そう、なのはちゃん(とフェイトちゃん)です。パンツの前ですぐに助けず考え込む久遠の姿は、傍目には変態でした。
少し頭冷やそうか。それが、久遠の意識を失った最後の記憶でした。