現金の力によりかなえちゃんの養育権を獲得したものの、主題である捨て段ボールの処遇を巡る議論が残っていました。
とはいえ、そう思っているのは久遠だけなので、魔法少女二人は茶番に乗ってあげて熱意に負ける形で段ボールを飼うことを認めてあげました。
勝利をもぎ取りガッツポーズを決める久遠を無視して二人が二倍になったお小遣いで何をするか話し合いを始めたのを見計らい、久遠は改めてかなえちゃんの事情を尋ねました。
その時まで無言を貫いていたかなえちゃんですが、久遠の質問に対してぽつぽつと語り出します。
端的に纏めると、家出でした。ロックな事をしてみたくなったかなえちゃんの我が儘で思春期の勢いに任せた喧嘩からの家出コースを体験してみるはずが、何故か犬猫が捨てられるシーンを再現されたそうです。
イろはちゃんがちょっとだけかなえちゃんにスポットを当てて時間を遡って見ると、実行犯のやちよさんが良い人に拾われるのよと道端で段ボールにインしたかなえちゃんへと声を掛けて去って行く様を見せられました。
もちろん、演技は大根です。台詞は棒読みに近い淡々と。振り返ったり走り出したりもしません。表情は終始真顔のままでした。
悠々と歩き去っていくやちよさんの姿に、イろはちゃんは嘆きました。そしてみふゆさんはどこで何をしてるのでしょうかね。あとおばあさんはご存命でしょうか。
語り終えたかなえちゃんは疲れたように深い溜め息を吐きました。恐らく思い出してダメージを受けているのでしょう。
ですが、久遠の前で濁ったソウルジェムを見せるのは迂闊としかいえません。今だってホラ、外道の如き早さで餌に目掛けて一直線とばかりにソウルジェムに凸しました。
かなえちゃんは一瞬だけ可愛らしい悲鳴を上げましたが、即座に歯を食い縛ってその後は耐えました。食いしばりは神スキル。
とはいえ、ご存知のように体力を1だけ残して耐えるのが一般的な食いしばり効果です。久遠の攻撃が持続効果を持つ以上、かなえちゃんの目の前が真っ白になったのは避けられない運命でした。
余韻に浸り夢心地なかなえちゃんは、流れるように小旅行の計画を立てていたはずの魔法少女二人から休ませる必要があるとベッドに運ばれ、二人掛かりで暗示の魔法によるロックな体験だと説得され、必要なことを必要な分だけされたのでした。
途中までは必至に耐えて普段の無口なキャラを貫いていたかなえちゃんでしたが、自分の気持ちを素直に表現するのがロックなのではとの説得を境にとても豊かな表現で感情を伝えるようになっていました。アルまど様もイろはちゃんも直球で具体的な要求の言い方はとても勉強になりました。ポエット!
ある意味で原点回帰ともいえるロックな体験をしたかなえちゃんは、疲れから寝入ってしまいました。
ソウルジェムが強化されようと、肉体的にも精神的にも負担が大きいので休息を欲する訳ですね。人間でいるための本能的な防衛反応なのかもしれませんが。
そしてお風呂で体を洗われてからシーツ等を替えた清潔なベッドに運ばれゆっくりと休むことになったのでした。
次の日……になるまで待たずに、ショートスリーパーかなえちゃんは約三時間で目を覚ましました。これには一同びっくり。しかしながら、疲れは完全に抜けたわけではないようで、だるそうにしています。
疲れているなら好都合とばかりに帆奈ちゃん主導で説明が始まりました。久遠の目的は東西の軋轢――言ってしまえば重ねてきた歴史を、神浜市を破壊するものです。協力者は随時募集中ただし先走る馬鹿は不要。
魔法少女の縄張り問題で痛い目を見たかなえちゃんとしても他人事ではありません。
どうしても解決したいというほどではなかったので引け目に思ったようですが、帆奈ちゃんは対立を煽りたい人間の味方さえしなければ問題ないと気楽な様子でした。
実際問題、明確な反対派以外であれば暗示の魔法を使うまでもなく、反対派だって幾つか前提となる条件を工夫すれば暗示の魔法で解決できます。そしてその条件は久遠の立ち上げた会社と稼いだ資金で達成できるものなのです。
話し合いを終えて、マンション組はかなえちゃんの行動予定を尋ねました。
魔法少女二人はすっかり当てられたのでハンデ戦に持ち込むつもりでしたが、かなえちゃんに帰る場所の当てがないから管理人室放置安定なので、その場合は大人しく二人どちらかの部屋に移り二人だけの即興劇となる予定です。親友である二人は以心伝心でした。念話? はて、なんのことやら。
かなえちゃんの回答は、カラオケで一晩を明かすつもりとのことでした。次の瞬間にはアへ顔ダブルピースしていましたが。恐ろしく速い暗示の魔法。女神でなきゃ見逃してるね。
と、いうわけで一夜の甘い夢……のような体験にご招待されたかなえちゃんと案内スタッフの久遠を置いて魔法少女二人はクールに去りました。
状況的に久遠の秘密が明かされることにはならないと思われるため、女神二柱は残された二人と去った二人、どちらを眺めるかチャンネル争いを始めました。
男に興味津々なアルまど様、直接の知り合いが性癖なイろはちゃん。熾烈な争いの果てに、多少の時間は無視して両方見れば良いという折衷案で決着です。争いがなければもっと早く済んだはずなのに。いつだって争いは空しいものです。
次の日の朝、なんだかんだでソウルジェムの強化以外にも回せるとかで体力の回復に使ったらしく、元気いっぱいな目覚めを迎えたかなえちゃんは、シャワーを浴びてからそのまま学校へと向かいました。白いハンカチを振って見送ると、久遠や帆奈ちゃんとみことちゃんもそれぞれの学校に行きました。
話は変わりますが、ナレ死なる概念があるのならばナレ姦だってあるのでしょう。有名どころはこのあと滅茶苦茶……です。
本編開始二年前の現在、神浜市は魔法少女の間でも東西対立の真っ最中です。マギウスも結成されていないので魔女は佃煮にできそうなほど多くはいませんし、サバンナのごとく厳しい野生の掟が敷かれていると言っても過言ではないでしょう。
久遠のマンションがある中央区は中立地帯でもあり、当初からの縄張りは保証されていました。
そこに東から引っ越して来た二人の魔法少女、当然、何も起きないはずはなく……と言いたいところですが、日夜特訓している帆奈ちゃんとみことちゃんの強さは圧倒的なので結界突入から解決までの時間は短く、他の魔法少女が後から来る機会はほとんどありません。
更には久遠の存在があるのでグリーフシードを情報料やショバ代として融通するため、一目置かれる存在として頭角を表していました。尾行しても撒かれるので一時は縄張りを侵害して来た東の魔法少女という認識をされていましたが、朝の登校時間で見かけるのでその線は消えました。
まぁ、そんな目立ち方をすると当然のように悪い虫も寄って来るわけで。
変な勘違いの類いは片っ端から暗示の魔法を掛けては久遠送りした上で解放しました。
他の偶然遭遇した魔法少女も暗示、行為、暗示、放流しておきました。魔法少女のみなさん――中でも、魔法少女ではなく一人の少女としてプライベートで来たのに遭遇した魔女と戦っていたら乱入されて戦利品扱いされた、別地区に縄張りを持つ面々は泣いていいと思います。女神調べでは大半がマギレコ開始時には死亡または魔女化している魔法少女でしたが。
地味に現時点でも魔法少女歴三年目なベテラン都ひなのも被害に遭った模様。イベントの詳細も語られずナレ姦で済まされた先輩も泣いていいと思います。
ただ、どうやら萌え袖と白衣が久遠の性癖に刺さったようです。本人のコンプレックスである幼児体型もまどかちゃんを思い出させたのか、普段とは熱の入り方が違ったとアルまど様は語りました。イろはちゃんは扱いの変わらない唯一人の年長者にほっこりです。
なお、面倒見のいい性格なので仲間に誘いたくはありましたが、面倒見のいい性格だからこそ面倒に巻き込んできそうだと判断され仲間には誘わなかったみたいです。
ほとんどの魔法少女は暗示の魔法で一部の流れを普通の会話に差し替えられ、好意的だからこそ巻き込みたくない相手として認識させられました。
ですが原因不明の好調に首を傾げる魔法少女も少なくはなかったようで、特にタイミングの問題で魔法少女が同席していなかったひなのちゃんは原因の予想がついていました。とはいえ、流石に方法が方法なので確認を取ることはできなかったみたいです。
乙女心の都合で聞くに聞けず悶える様子は女神二柱をもってしてごっつぁんですと言ってしまうほど愛くるしかったそうな。
こうしてマンション組は東西だけでなく中立地帯の魔法少女に対しても中立のスタイルを保つことになります……まぁ、起きるはずのない事件でめっちゃ目立つ未来が確定していますけど。
ある日、管理人室に置かれた家具の所有率が三割を突破した私物化の女王、帆奈ちゃんが人をダメにするクッションに沈みながらふと思い出したように言いました。
内容としては久遠に出逢ったよりも以前、大東団地の屋上で共闘した魔法少女がいた、というものです。どうやらかなえちゃん情報の東で出会って襲って来た魔法少女の外見的特徴と合致するそうでした。同時に、堅苦しい喋り方で面倒そうな性格ではありましたが共闘できる人だったので、性格が変わったように感じたようです。そして、それは魔法少女の真実を知ったからではないかとも思ったようです。
同じクッションに沈むみことちゃんも屋上で出会った魔法少女のことは覚えていたらしく、強くて面倒見も良さそうだったと付け足しました。
ここで話が終わりそうな流れでしたが、最後に帆奈ちゃんが暗示の魔法を使って和泉十七夜から自分たちの記憶を消したことを付け足しました。みことちゃんから驚きと非難の声が上がりましたが、かなえちゃんの被害を例に挙げて自己弁護を成功させていました。そうした理由は口にしませんでした。
話を聞いた久遠は考えます。神浜市内では一括りにされますが、東の内部は社会的なはみ出し者にあるまじき纏まりのない無軌道状態です。
そんな中でお節介を焼ける人材は貴重であり、上手くやれば親世代への反発を合わせて利用して若者世代による独立勢力の立ち上げも夢ではありません。何なら会社も電子の世界だけでなく現実世界にも進出する必要があるので、新事業に合わせてアルバイトを数十名単位で確保したい久遠です。
魔法少女の真実を知ったことが原因であれば、仲間に引き込めば元の性格に戻る可能性は十分あります。
とりあえず、久遠はその軍人みたいな白服の魔法少女とやらの人となりを確認してみようと思いました。
そんなわけでやって来ました大東団地の屋上。
久遠としては一人で来るつもりだったのですが、身体能力で勝る魔法少女二名を撒くことはできませんでした。それ以前に目的地バレしている点からは目を背けます。
なお、先客がいたのでサクッとグリーフシードになって貰うべくマンション組一同揃ってお宅にお邪魔しました。が、帆奈ちゃんが魔法少女を誘き寄せるのに使ったらどうかと提案したので採用、そそくさと撤退しました。すると
目の前で人が屋上から飛び降りました。
これには三者共に絶句します。今までで一番やっべー瞬間の到来でした。
現実逃避気味に責任の所在や今後の活動方針について三者が円陣を組んで話し合っている内に、なんか別の少女が願いを叶えて魔法少女になっていました。俗に言う団地組の始まりですね。
別の宇宙とは時期がずれている気もしますが、女神はもはやそんな細かいことを気にしません。何しろ本来の犯人は画面の向こうで無事な相棒と仲良く元気にやっています。暗躍がないことでタイミングがずれて早まる可能性は零ではないのです。この理論で行くと散花愁章に関係する孤児院や指定暴力団常盤組構成員の契約に至る事件もタイミングがズレたり起こらなかったりしそうです。飛蝗は理性も知性もキレッキレな者の暗示があって初めてネコソギにしておくでしょうし。
そんな考察は後回しにして、女神は新たな生け贄の到来かと揃って正座待機します。無口キャラが連続しても、二柱の心には文句など一つも浮かびませんでした。ただ、イろはちゃんの呼吸がカラテを回復しそうなものに変わっていたので、珍しくアルまど様が止める側になりました。決まり手はフレームアウトする長い髪によるチョークスリーパーです。
さて、話し合いを終えた三者は作戦のために一時撤退した風を装うために結界へ突入し魔女を倒しましたが、魔法少女with契約成立ホクホク営業が現れてしまいました。
野生の宇宙生物は久遠周りの調査をしていましたし、その周りにいる魔法少女二人についても当然調べていました。異常と呼べるほどの不自然な戦闘力についても知っています。
そんなストーカーから魔女を倒さずに結界から出て来た不自然さを教えられたであろう熱血系少女は、幼なじみの救助が間に合ったかもしれないのに、と静かに怒りを燃やします。
そんな一触即発の空気の中、久遠は新人魔法少女にしっかり契約の内容を確認したのかと問い掛け同行者二名に精神ダメージを与えつつ、そのまま流れるように魔法少女の真実を叩きつけました。同行者二名はドン引きです。
信じられない契約済少女は恐る恐る契約相手に確認しましたが、そこは利便性に欠けた骨董品です。安定の聞かれなかったからさという回答。
せいかちゃんは自分の未来に絶望しつつも願いは叶ったことから、心の中を一番多く占めるものは諦観を伴う受容となっていました。そして次点の混乱から久遠たちに向けていた怒りの矛先を説明義務違反に向けました。
愛らしい悲鳴と共に専用業者待ちの生ゴミへと変貌を遂げた元キュゥべえに、そういう機械のように何度も鞭を振り下ろし続けるせいかちゃん。その姿に、先輩魔法少女が動きました。
軽快なトークで魔法少女の真実を知った魔法少女限定と前置きした上で、キュゥべえすら知らないグリーフシード以外の延命法の存在をほのめかし、神浜市の破壊への協力を仰ぎました。打算なき善意などないのです。
せいかちゃんは垂らされた蜘蛛の糸に縋りました。既にソウルジェムは契約して十数分しか経過していないとは思えないほど濁っています。
帆奈ちゃんの合図を受けた名犬久遠号は熊やらライオンやらと戦ったらしい勇敢な犬のように笑顔で飛び掛かりました。女神から歓声が上がったかどうかは、もはや言うまでもないでしょう。
後は若い男女に任せてとばかりに去って行った帆奈ちゃんとみことちゃんの二人は、屋上の出入り口となる扉を閉めると、どこからともなく取り出した紙コップを扉に付けて耳を澄ませました。
目ざといアルまど様は二人がその場を去ろうとした時点でこの後の展開を予想し、イろはちゃんに別チャンネルの予約を頼みました。が、イろはちゃんはむしろ先に見慣れた方から見る方が良いのではないかと提案します。好物を最初に食べる派と最後まで取っておく派、両者は譲れない思いを胸にリモコンの奪い合いを始めました。空しい争い再びです。
フルオープンな団地の屋上から聞こえてくる密やかなせいで一層艶めかしい声を己の力としてそれぞれ励む二人でしたが、周囲の警戒は怠りませんでした。
開始から約一時間。とっくに賢者モードだった帆奈ちゃんとみことちゃんの魔力探知にいつか会った魔法少女の魔力が引っ掛かりました。二人は念のため服装を整え直してから扉を開けて屋上におどり出ます。
久遠とせいかちゃんはすっかり打ち解けたようで、レジャーシートに置かれた座布団に座ってのんびりお茶していました。どっから出したのかは不明です。それと、終わってたなら呼びに来いよと思った帆奈ちゃんは悪くないと思います。
色々とツッコミを入れたいのを堪える帆奈ちゃんの代わりにみことちゃんの警告が響く中、お前がアレの言っていた小僧か、と威厳たっぷりな声と共に彼女は現れました。白い軍服姿で、片目はガラスの代わりにソウルジェムがはまったモノクルをしています。手に握った短い乗馬鞭で空いた方の手をぺしぺししていますが、その様子が妙に似合っています。
目的の魔法少女でした。