記憶を失った少女が、ホロライブに関わって変わる話 作:ほがみ(Hogami)⛩
―過去なんて思い出したくない。そう考えるのは何回目になるだろうか
部屋の中央で沙花叉は赤く塗られたナイフを持って考える
これがあるから考えるのに。このナイフそのものが過去なのに―けじめを付けて捨てることは出来ない
誰かに見られることも危険だ。勘違いされると面倒なことになる。だけど、捨てる決意は出来ない
―なぜならこれは…彼女の最後の形見だから
数年前
「やだぁぁぁ!!!!!!」
「行くのよ。この経験は必ずあなたのためになるから」
必死に何かを拒否する銀髪の少女をなだめる彼女の親と見られる女性は、半ば強制的に飛行機へ搭乗させ、少女を遠い地へ送り出す
少女は墜落するのではないかという不安と、死ぬのかもしれないという恐怖が襲う。できるなら死ぬ前に家にあるゲームをクリアさせてからにしてくれと心のなかで叫んでも届くことはない
――数時間経って、無事飛行機は目的地へと到着した
近代化が進んだ街の雰囲気、工場の高い煙突から出る灰色の煙。目に映るものはどれも新鮮で、今まで過ごしてきて見たことのないものだった
今までに感じてきた不安など吹き飛ぶように好奇心が、少女の心を支配する
「――もっと探索したい…!!!」
だが好奇心は抑えなければならない
その前に行かなければならない場所がある
見送ってもらった母の知人の家だ。母からもらった住所の書かれた紙を頼りにその知人に会いに行く
――どんな人なんだろうか。期待で胸が膨らむ
しかし、実際についたのは想像とは違う場所であった
少し薄くらいような路地の横。表通りから離れた裏通りと言っても過言ではない荒れている場所
扉は木で出来ているが、華やかとは言えず、少し汚れが目立つくらいだ
本当にここで合っているのだろうか。期待は一瞬にして不安に変わる
意を決して扉を開こうとしたその時――ガチャリと扉が音を立てて開いた
「…
扉の向こうに現れたのは乱れた金髪で背が高い女性であった
服もよれていて、キレイとは言い難い状態。首にかけられた赤いネックレスが揺れ、気だるそうな雰囲気を醸し出す女性は頭を掻いてふぅとため息を出す
「
「あ、あの…」
「
女性が言い終わると同時になにかに気づいたかのように少女を見つめる
そして興味深そうに少女を見つめてぶつぶつとつぶやき始めた
「
「え…?え…?」
困惑する少女に女性はにこやかな笑顔で流暢な日本語を発した
「すまないな。お前はサカマタの子か?」
沙花叉「は、はい。私は沙花叉クロヱ…です」
オリビア「やっぱりそうだったか!私の名はオリビア・ローレンスだ」
沙花叉「よろしくお願いします…えっと…ローレンスさん?」
沙花叉がそのように言うと、オリビアは微笑んで「そっちは姓だ。オリビアと呼んでくれればいいさ」と。とにかく玄関先で話しているのもなんだからということで、沙花叉はオリビアの家へと入っていった
―オリビアの部屋は、裏通りの雰囲気とは真反対で、とても綺麗。精巧に作られたと思われる家具や机。暖炉ですら華やかな明かりで部屋を温めている
沙花叉「すごい…」
オリビア「気に入ったか?お前の住んでいたところとは違うだろう?」
沙花叉「こんなに綺麗なら玄関も直したらいいのに」
沙花叉がそのように言うと、オリビアは何か事情があるように笑う。だがそれからその話が続くことはなく、話題は次へとシフトしていった
沙花叉はオリビアに誘われるがまま机に座り、入れてくれたミルクで一服する
そのままいろんな話をしていくうちに、オリビアと沙花叉の母との関係性が見えてきた
オリビア「まぁつまりはだな。お前の母とは仕事仲間であり旧友関係にあるわけだ」
沙花叉「オリビアさんとお母さんが…どんな仕事してるんですか?」
オリビア「…知りたいか?」
オリビアの少し恐怖を煽るようなその言い方に沙花叉は若干恐怖するも、興味が勝ち、恐る恐る仕事を聞く
オリビア「はぁ…本当にあいつの子供なのか…?」
沙花叉「???」
オリビア「まぁいい。私たちの仕事は――簡単に言えば探偵だな」
沙花叉「探偵―!」
オリビア「簡単に言えばってことを忘れるなよ。私はエージェントで、お前の母は司令部さ」
そう言ってオリビアは飲み物を飲む
その表情はどこか寂しそうで、過去を思い出しているようであった
―さて…とオリビアは話をまた変えて会話を続ける。今度はなぜ沙花叉の母がオリビアに実の娘を送り出したのか。そういう話になった
オリビア「あいつはなんか言ってたか?」
沙花叉「いや…?この経験はあなたのためになる…とかなんとかしか聞いてないです」
オリビア「あいつらしいな。だが恐らくは…そうだな…しばらく異郷の地に送り込んで鍛えてこいってことか?」
そう言ってオリビアはまた頭を搔く。子供の相手をするのは苦手なんだと
だが任された(不本意)からにはその任務を全うするまで。それが彼女の本意であった。それを知ってか沙花叉の母は彼女に依頼したのだろう
―さて。これからどうしようか。沙花叉クロヱという少女をどのようにして鍛えるか…
沙花叉「あ、あの…」
オリビア「なんだ?」
沙花叉「探偵の仕事って…!」
綺麗な目を輝かせる沙花叉
しかしそれは教えることが出来ない、子供に悲しい現実を背負わせないための自分にかせた契約だから
だが話の途中に運悪く、部屋中に携帯の着信音が鳴り響いた。オリビアは腰を探って携帯を手に取って耳に当てる
―どうやら仕事が入ってしまったようだ。めんどくさそうな表情をしながら、電話を切る
オリビア「すまない、仕事が入ってしまった。仕事が終わるまでお前の世話をすることはできないが…」
沙花叉「大丈夫です…頑張ってください」
オリビア「ふっ…悪いな」
そう言ってオリビアは仕事に出かける
オリビアの仕事は探偵なんて生易しいものではない。依頼主からの依頼を受けて、目標を排除する
―路地の裏でオリビアは簡単に着替える。黒くボロボロのコートを身に着け、黒い羽があしらわれた仮面を顔につけて目標に近づく
O「…
背後から標的の口を塞いで自慢のナイフで喉元を切る
そしてその後、腹部を切り裂いて内蔵を取り出す。その内臓を袋に入れた後は颯爽と現場を離れる
これが彼女の掃除の仕方だ。隠密に素早く目標を暗殺し、依頼主からの報酬金を受け取る。取った内蔵は自分が属する組織へと提供するのだ
時には標的の愛人となって様々な情報を得た後殺害したり、自警団になりすまして殺害することも多々ある。だがそれも全て依頼主からの報酬のためだ
仕事が思ったよりも早く終わったオリビアはコートや仮面を片付けた後、家に戻ることにした。だが、あの家はいつも殺風景だ。特に面白いことはない
今日もそう思って扉を開けると―
沙花叉「おかえりなさい!」
オリビア「…そうだった。今日からこいつがいるんだった…」
唖然としたのもつかの間。沙花叉がいた事をオリビアは思い出す
しかし更に驚いたのは、ロビーについてからだった。机の上には多く作られた暖かな料理たち。どれも幼い沙花叉が作ったとは思えないほどキレイで食欲を唆るもの
オリビア「これは…お前が作ったのか―?」
沙花叉「そうです、あ!勝手に食材使ってしまってごめんなさい…」
オリビア「いや、それは良いんだが…よく出来ているな」
沙花叉「えへへ…お母さんからよく教わりましたから」
―そういえばあいつも私に料理を作ってくれていたんだったか―と懐かしい気持ちになったオリビアは、料理を一口食べる。すると昔日の思い出が瞬時に頭をよぎる
瞳に溜まった雫がオリビアの頬を一筋の線を描いて机へと吸い込まれた
沙花叉「あれぇ?!お口に合わなかったですか?!」
オリビア「いや…そうじゃないんだ…ただな…懐かしくなってしまってな」
―掃除屋が泣くなどありえない。人の殺生がかかっている仕事なのに感情を出しては生きていけないから
だがオリビアが感じたこの味はかつて沙花叉の母が作ってくれた味と非常に似ている。それ故、無意識に涙が出てしまったのだろう。ここ最近の食事は良いものとは言えないものばかりだった
毎日この食事が食べられればいいな―そう思ったオリビアはすこし交渉を考える
オリビア「仕事も終わったからお前の世話ができる。私がお前に教えるのは、ここらへんの言語と人との付き合い方、そしていつかのための体術だ。その代わりに今日みたいな料理を作ってくれ」
沙花叉「私にできるかな…」
オリビア「大丈夫さ、なにせお前はサカマタなんだからな」
その言動の意味は沙花叉にはわからなかったが、今日から長く厳しい訓練が始まった
だがオリビアの教え方は格別でわかりやすく、悪いところといいところ、そしてアドバイスも的確なものだった
たまにオリビアは何を言っているのかわからないときもあるが…とにかくいい先生なのは間違いじゃない
沙花叉の過去編書いてみよーって思ったら予想外に長くなってしまったので三部構成にします
この回は沙花叉の師匠となる人との出会いです
本編で触れてませんが、オリビアさんは沙花叉のおかげでぼさぼさだった神が綺麗な金髪になったそうですよ?
まぁ沙花叉は掃除ができないので、オリビアが定期的に片づけてますが…