記憶を失った少女が、ホロライブに関わって変わる話 作:ほがみ(Hogami)⛩
風真「はぁ…はぁ…」
森を抜けて急いで街へ向かう。いつもならこの辺りは賑わっているはずだが…今日はなんだか人の通りが少ない――というより無いに等しい
―カンカンという鐘の音が頭に響く
ものすごく嫌な音。そして心が心底不安定になるような音だ
頭を押さえながら風真は急いで走っていくと火の粉はだんだんと増えていき、やがてその火元が見えるようになった
風真「な―――」
そこにあったのは、自分の家とも言えるようになっていた宿屋だった
今必死に商人が率いるメイドや執事が水を持ってきて消火活動をしているが、炎は衰えることなく繁栄の道を辿っている
すこし離れたところには、例のピンク髪のメイドに看病されている宿屋の従業員たちがいた。その人達はみんな少なからず火傷を負っており、苦しそうな人が多い。だが誰か少ないような……
――少女がいない
風真が森に行く前に先に宿屋に戻っていると言っていた少女がどこにも見つからないのだ
風真は宿屋のオーナーに駆け寄って無事を問う。オーナーは意識朦朧としながらも、燃え盛る宿屋を指さした
もしかしたら少女はあの中に―――
風真「……任せるでござる。必ず助けるでござるよ」
立ち上がって風真は宿の方を向く
その瞬間ピンクのメイドは風真の事を引き留めようとするが、風真は笑顔で答えた。そして近くにあった水が入ったバケツを頭から被って燃えないようにし、そして燃え盛る火の中に飛び込んだ
―熱い。まるで炎天下の太陽に飛び込んだかのように辺りが燃えている。裾を口に当ててなるべく煙を吸わないようにながら少女を探す。宿屋の二階はもう階段が完全に燃えていて行くことができない。もし二階にいるのであれば、どうにかして登らなければならない
風真「どこに……」
すると開けた場所に杖のようなものを刺して座っている影を見つけた
そこはかつてお食事処だった場所。生憎そこは燃えにくい床素材で作られてあるのと天井までが広いため、地面はあまり燃えていないみたいだった
風真は勢いをつけてその場所へ飛び込む
「お、やっときたなぁ…」
その声には多少聞き覚えがあった
いや、もう聞きたくないと思っていた声でもある
丁度この場所で、少女に暴行を加えようとしていた男―――
男は振り返りながら立ち上がる。よく見ればその男の足元には、暴行をされたのか傷ついて倒れる少女がいた
風真「ッ―――」
心の奥から怒りが込み上げてくるのを感じる
滅多に怒りを表すことはないのだが、今だけは怒りを表せる
「来るのがおせぇからコイツくたばっちまったじゃねぇかよ」
そう言って少女を親指で指す
この燃え盛る火の海で堂々とする様…そしてこの発言からみてこの男がすべてやったことだろう
この男を斬る――そう考えている時、男はこう言い放った
「でもお前が俺に手を出さなかったらこうはならなかったんだよ」
風真「…なに?」
「あの日俺はお前から投げ飛ばされた日の屈辱は忘れられねぇ…それと同時に
男は胸を叩き、風真に向かって熱弁する
「灯った炎はいつか俺を焼き尽くし!そしてお前に復讐するッ!それが――今だったってだけの話だ」
風真「なにを適当な話を言っているでござるか。お前のやっていることは極悪非道なことでござる!」
「まだわかんねぇのか?侍の嬢ちゃんよぉ…お前が”はじめからいなきゃこんなことにはなってねぇんだよ”。ここが燃えたもの、コイツがくたばったのも全部お前から始まってんだ」
その言葉に風真はドキッとする
もし自分がこの場所に来なかったら―こうはなっていなかったのだろうか。宿屋は今まで同じように建っていたのだろうか。少女は難なく生きていたのだろうか…
「意味の分からない正義を振り回して俺を悪と見做しここから追放した。なら、俺だって俺の正義がある。お前らを悪と見做して仕返しする権利があるはずだろ!こういうのを…あーなんていったっけ?目には目を歯には歯をだっけ?昔の人は考えるよなぁまったく尊敬しちまうぜ!」
風真「だとしても…」
「あ―?なんかいったか?」
風真「だとしても他の人を傷つけていい理由にはならないっ!わたしにやられたのならわたしにやるべきだ!!」
意気揚々に反論するも、男は一切聞かず高らかと笑い始めた
「あははははッ!!!そりゃ面白い考えだ。―だがな、俺はお前だけから制裁を受けたわわけじゃない。店の中で俺に嫌な目を向けてたやつ、文句を言ってきたやつ。そして俺が去ったあとに沸き立った奴らも同罪だ。それが俺の正義なんだからな」
風真「…許すことはできない…」
「許す?ハハッ!許すも何もないだろ?だってお前はもう俺の復讐の舞台に上がってんだから!」
その時、宿屋の壁がドサッと崩れ、ここから逃げれるような道はなくなってしまった
どうやらこの男はこの機会を待っていたようだ
舞台に上がれば最後。途中で降りることはできない。それが終わるまで演じ続けなければ、物語は完成しない
男は刺していた杖を地面から抜き、刀を構えるようにその杖を構えた
「さぁ始めようぜ!俺たちの最期の復讐劇をな!」
風真「…望むところでござるッ!」
刀を抜き、風真は一歩踏み込んで相手の懐に入る
しかし相手は手慣れているのか、その攻撃をいともたやすくいなし、カウンターする形で攻撃を仕掛けてきた
―ガキンッと鳴り響く鉄の音。杖は木製のようにも見えるが、どうやら鉄かそれ以上のモノのようだ
風真「…手慣れているでござるな。その様…侍でござるか?」
「よくわかったじゃねぇか。目の付け所はいいが、そんな余裕あるのか?」
横からくる一振りを体を反らして避け、そのままバク転に繋げて一度距離を取る
相手は人を殺したことのある手慣れ――一方の風真は武術として身につけた一般人…まともに殺りあえばどちらが勝つかなど一目瞭然だろう。油断=死とも言い換えることもできる
ぶつかり合う鉄の音。力は依然均衡で進んでいない感じがする
「はっ!やるじゃねぇか…だがな、ここで負けるわけには行かねぇんだよッ!」
風真「うっ――!」
勢いを殺せず、風真は転倒する。その時、運悪く手の力が抜けてしまい、刀が遠くに飛んでいってしまった
それをみた男は嘲笑し、一度武器を地面につける
「おいおい、笑わせないでくれよ。俺たちの舞台はまだ終わらねぇよな?」
そう言ってゆっくりと近づいてくる男
風真は急いで刀を取ろうにも、立って移動すると攻撃されてしまうため、後退りしかできない
そうこうしているうちに、背に炎がくっついてしまう距離になってしまった
「はぁ…こんな復讐劇になるとはな。残念だ」
風真「ッ―――」
もうだめだと思ったその時、天井から何者かが落ちてきて風真の目の前に立った
それを避けるために男は距離を取ると、落ちてきた人たちに向かって何者かと問いかけた
―長い銀髪に大きな角…そして黒っぽいコートのような服を纏ったその人物は――
「我ら、エデンの星を統べる者!」
風真「ラプ殿…!」
ラプラス「助けに来たぞさむらい!吾輩達が来たからにはもう安心だ!」
そう言って笑顔で風真を見るラプラス。小さな少女ながらも頼もしい笑顔であった
「吾輩”達”だって?どう見ても一人しかいないようにしかみえないが――――」
―ドズンッ。男の肩にいきなり衝撃が訪れる
何がおこったのかと困惑する男は肩を確認すると、そこからは赤い鮮血が流れていた
ピピッっとラプラスの耳元に装着されたインカムに連絡が入る
『実行完了、次なる命令は?』
その言葉にラプラスは適切に指示を出す
ラプラス「よし…はかせッ!」
「はいよぉぉぉぉぉ!!!!!」
天井の空いた穴からあのピンク髪のメイドが飛び出してきた
「くらえ!雨雲の薬!!!!」ポイッ
地面に謎の薬が入った瓶が投げられる。すると、たちまち空に雲が出来上がって次第に雨が降ってきた
その雨は炎の勢いを格段に減らして行って、今までの勢いはなくなる
ラプラスは風真に対して、今だ!と合図を送る。風真は一気に刀まで走って武器を取り、男の間合いに入り、刀を構えた
風真「終わりでござる」
「ふっ…喜劇とはならんかったか―――」
風真は一振りに一心を込めた
男は力なくして倒れ、そのまま動かなくなった
風真「…………」
完全に鎮火した建物の中で、風真は天井に空いた穴から注がれる雨に打たれながら空を見上げぼーっとする。これが正しいことなのだろうか
ラプラスが近くに行って無事を問うと、風真はラプラスにひとつ訊ねた
風真「もし…風真がここに来なければこんなことには…ならなかったのでござるかな…?」
ラプラス「……」
沈黙が続く
ここにはラプラスと風真以外誰もいない
はかせと呼ばれたピンク髪のメイドが怪我をした少女と男を外に運んだため、今この場には冷たい雨に打たれる2人しか残っていない
風真「風真が正義感であの人を止めなかったら…今日が仕事だったら―――」
ラプラス「”もしもの世界”は考えれば考えるだけ辛くなる。今は生還した自分のことを褒めろ」
風真「でもっ!少女やここの従業員たちは…!」
泣き顔でラプラスの方を向いて話す風真。その気持ちはラプラスもわからなく無い。自分のせいでこうなってしまった。もし自分がいなかったら無事だったのかもしれないと
だが風真が思ってるほど彼らは重症では無い。うちの博士はすごいんだぞと、ラプラスは風真に話す
ラプラス「…だからさむらい。気に病むんじゃない」
風真「わからないのでござる…風真が信じる正義が正しいのかどうかが…」
ラプラス「正義…ねぇ…」
近くに椅子をみつけ、それに深く腰掛けて座るラプラス
そして一息ついてラプラスはこう続けた
ラプラス「…正義ってのは数多の色があってな。それはまるで十人十色みたいなもんだ。人を守る正義、楽しく生きる正義、自分の研究をとことん突き詰める正義と沢山ある。どれが正しいかなんてものはない。当然、正義の衝突が起こらないわけない――でも。他人に迷惑をかける正義なんてものは――正義じゃない」
風真「迷惑をかける…」
ラプラス「吾輩が思うに――安心しろさむらい。誰かのために動けるお前の正義は…――正しい正義だ」
その言葉に風真は涙が溢れ、膝から崩れて目を押さえた。まるで灰色の空が晴れ、美しい虹がかかったかのような――そんな感情に染まる
ラプラスは近くに立ち上がって風真の近くに行き、その頭をぽんぽんと撫でてやった
ラプラス「…サムr―いや、風真。お前名前は?」
風真「姓は風真でござる…名は色々あって言えないでござるが…」
ラプラス「そっか――なら風真、お前に名乗る名を与えてやる」
一呼吸置いてラプラスは風真に名乗るための名前を言葉にした
もう二度と自分の正義の色を失わないように――風真のその名前は――
ラプラス「――”いろは”。今日からお前は”風真いろは”と名乗れ」
風真「いろは…いい名前でござるな―!」
ラプラス「そうだろ?吾輩のねーみんぐせんすはピカイチなんだからな。さっ、外にでよう。みんなが待ってるぞ」
そう行って外に出ていくラプラスに風真いろははついていく
自分の正義は正しかった。あの時、男を斬り殺すことができなかったが、それで良かったのだ
イノシシとの戦いと男との戦いでガタが来ていた自分の愛刀が、風真の熱く燃えていた心の黒い部分を斬ってくれた。その結果刃が潰れた刀となり、斬るというより、叩くという攻撃に変わったのだ
それを教えてくれたラプラスには感謝しかないと、小さな背中を見ながら思った風真いろはだった
あの…これ最後のいろはの名前を得るところは、わたしのオリジナルではないんです
血で汚れハイライトがなくなった風真が振り向いていて、ラプラスが「お前の名前はいろはだ」と言っていた漫画をTwitterで見かけた記憶はあるのですが、探しても見つけられなくて…でもとても良い漫画だったので、勝手ながら引用させていただきました
どなたか件の漫画をご存知の方は感想にて教えていただけると嬉しいです