最弱の第一席   作:かすてらもちぱん

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玉座の間にて

 ──眠いですね。

 

 丸腰。そんな無防備の状態で、目の前の自身の上位者の筈の者に対し少女がここへ来て抱いた初めての感想は、そんなつまらない物だった。

 

 丸腰は正確ではないかもしれない。現状、色濃い実力主義が残るこの国にて仮にも軍の頂点──《第一席(ファースト)》に座る彼女は、玉座から見下ろす王を守るためここにいる近衛長からしたらその身単体が凶器だ。

 近衛長としては今回は護衛は一人……実際には二人なだけに、更に体を強ばらせざるを得ないようだ。

 

 まあ、その警戒対象たる彼女からすれば本当の意味で()()()()()なのだが。

 

「それで、私を呼んだ理由はなんですか?」

 

 蒼天を思わせる透いた髪。同じ輝きを持ったその瞳はただ玉座に座る一人の女を貫いていた。

 齢15ほどの顔立ちはいっそ恐ろしい程整っている。

その敬意だけすっぽり落としてきたかのような口調を容認出来なかったのは、玉座の隣で控えている鎧姿の女。彼女はその怒りを隠そうともせず、いきり立ち上がる。

 

「貴様……仮にも陛下に仕える身だろう。少しは――」

 

「――いい、リザカルデ。近衛長の君がそう言ってくれることを私は嬉しく思うよ。

 だけど、ここは私に免じて少し抑えてくれないかな?」

 

「……は、申し訳ございません」

 

 ニコニコと微笑みを絶やさず、女はにこやかな表情でリザカルデをいさめる。女の黒い髪がふわりと揺れる。

 そしてそのまま金色の瞳を流れる様に自分へと向けてきた『王』に向かって、一席は淡々と告げた。

 

 ちょっとした皮肉も持って。

 

「その座について一月程でしたか? 赤色の玉座はさぞかし座り心地の良いことでしょう、陛下?」

 

「これはまた、相変わらず手厳しい……まあ、今回はそれはいい。それよりも、だ」

 

 王は隣で歯を食い縛り、今にも一席へと斬りかかりたい衝動に襲われているリザカルデが、どうにか理性を保っている事を確認するとゆっくりと口を開く。

 一時の静寂により、気味が悪い程の緊迫感を誇っていた玉座の間にその声は朗々と響いた。

 

 内容は単純な命令。

 

 そしてそれは、一席には決して容認出来ない類いの命令だった。

 

「『勇者』と名乗る者を殺して貰いたい。

 この国の戦力としてのトップ――『第一席(ファースト)』である君にね。……そんな目をしないでくれ。

 リザカルデには私を守る任がある。『迅速』と呼ばれるほどの実力。更に私の近衛。なるほど、確かにその辺りは十分だ。だが、君には劣るだろう。

 ……勇者とやらは教国にて選抜され加護を授かったと噂されるが、君なら大丈夫だと私は――」

 

「拒否します」

 

 命に関わる事例だ。彼女にとって、これはとても看過できる命令ではなかった。

 王の面目も考えずに直ぐさま拒否したことに少し危機感を覚えるが、そんな物は一瞬でなくなった。やがて沈黙の最中ぼんやりと頭に浮かんだのは、今晩の夕食をどうするか。

 

(……さすがに失礼ですかね?危機感が無さすぎるのが私の悪い癖です)

 

 少女は軽く反省する。が、この体が偽物(・・・・・・)なだけに差し迫った危険を感じ取れない。その証拠にその行動に変化は見られないようだった。

 

「……即答だね。仮にも勅令なんだが……それでは君を動かすには足りないかい?」

 

「私を動かしたいなら、私に()()()()()から言って下さい、陛下」

 

 無理難題だ。不可能だ。

 

 王から見てそれは、少女が《第一席》であるから。少女からしてそれは、『そもそも不可能である』から。

 

 そして、絶対にその命令に従う訳にはいかないからこそ、このような無茶振りを彼女はした。王と彼女で、理由は違えど『無理である』と結論づけられるからこそ、一席はそう言ったのだ。

 

 淡々と放ったその言葉が、玉座の間に酷い雰囲気をもたらしたのを自覚し、一瞬強く後悔するが自身の生き死にには代えられない。

 ジッと目の前を見つめ続け、やがてこれまでとは違う平坦な声で命令が告げられる。

 

「下がれ」

 

「ええ。言われずともそのつもりです。せいぜい王座をお楽しみ下さい。ではお元気で――」

 

 そして、侮られないため、()()()()()()()()()()()()に、煽りを含めたお別れの挨拶をしていた一席の言葉の最中、王の隣に突っ立っていたリザカルデが、突然前傾姿勢になり――爆発した。

 

 一席の目には一筋の光しか見えなかった。次の瞬間、目の前に冷たい光を纏った剣が見え、一拍遅れて業風が撒き散らされる。

 

「――死ね」

 

 そしてまるで恋人にでも話しかける様に優しく耳元で囁かれた氷の様な声に向かい、その一撃を避ける事もせず一席は仄かに笑む。

 そしてゆっくりと口を開いた。既に首もとに命を絶つ刃が迫っているにも関わらず、その行動はやけに鈍重とした物。

 

 

「絶対に、嫌です」

 

 

 リザカルデの顔が怒りに塗り潰される。そして自身を挑発するような言葉に対し、彼女は容赦なく剣を振るった。

 

 『迅速』とまで形容され、その名に恥じぬ輝かしい功績――竜殺しすら成したその一閃が、玉座の間で放たれた。

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